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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 3:遺跡ステージ

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41:サメ皮奇譚

翡翠領(グリンストン)>の冒険者ギルドは、今日も盛況だった。


素材の売り買い窓口で、受付嬢がお金の精算をしていた。



「はい、確かに。

 ── では、こちらが商品になります」


「ええ、毎度。

 しかし、<翡翠領(グリンストン)>の冒険者は素晴らしいですね。

 わたしも行商であちこち回っていますが、感心しますよ」



取引先の商会の人間に言われて、受付嬢は顔を上げた。



「そうですか、普通でしょ?

 別にお世辞(せじ)なんて……」


「いえいえ、お世辞(せじ)()きに格別ですよ!

 特にサメ皮の品質なんて、最高級と言っていいでしょう。

 見て下さい、さっき買い取ったこのサメ皮なんて、ほとんど傷が付いていないんですよ?

 一撃で仕留めないと、こんなキレイな状態になりません。

 他所(よそ)じゃ滅多(めった)と出回らない上物が、ここでは(そろ)っている。

 冒険者の(しつ) ── 特に狩りの腕がいい証拠ですね」



商会の人間は、やや興奮気味に語る。

だが、受付嬢は冷淡で事務的な対応。



「そうですか?

 ── はい、こちらが領収書です」


「ああ、すみません。

 それではまた、ご贔屓(ひいき)に」


「ええ、ありがとうございました」



受付嬢は商会の人間を見送り、姿が見えなくなってポツリと漏らす。



「……冒険者なんて、ただの荒くれ者。

 どこの街でも、そう変わらないでしょうに……」



すると、別の窓口から声がかかる。

常連の冒険者だ。

ヒゲ面の中年男が、手招きしていた。



「ようカーサちゃん、ちょっといいかい。

 依頼の手続きをしたいんだが」


「ハァ……

 マルコムさん、またですか」



()()れしい中年男に、受付嬢は辟易(へきえき)として応える。



「そんな顔するなよ、カーサちゃ~ん。

 依頼の受け付けもギルドの重要な仕事だぜぇ?」



嫌がれば嫌がるほど喜ぶのだ、この手の(やから)は。

受付嬢は、ともかく用件を済ませてしまおうと、男の元へと向かう。



「でも、またアレなんでしょ?

 <ラピス山地>の周りで素材集め」


「お、解ってるじゃん?」



受付嬢の不評に構わず、中年男は申請書類を書き始まる。

その図太い態度に、潔癖そうな受付嬢は白い目を向ける。



「もぅ、山岳ガイドの依頼の手紙を出すだけでも、大変なんですからね?

 配達業者も<ラピス山地>の近くってだけで、グチグチ言ってくるんですよ」


「じゃあ、この際<ラピス山地>にギルド出張所でも作れば?」


「── 冗談じゃありません!

 なんでわたし達ギルド職員が、あんな危ない場所に!

 貴方たち冒険者みたいな、無謀が服着て歩いている人種と一緒にしないでくださいっ」



中年冒険者のからかうような言葉に、受付嬢は血相をかえて噛み付く。

しかし、中年冒険者は軽く受けながし、話しながら書類を書き続ける。



「ハハハ、相変わらずキツいな、カーサちゃん。

 まあ、そこが魅力なんだけど。

 でも、<ラピス山地>だったら大丈夫、剣帝さまの所の子たちが助けてくれるよ」


「冗談もいい加減にしてください。

 いくら剣帝様のお弟子さんとはいえ、まだ子供でしょ?

 頼りになる訳ないじゃないですか」



受付嬢はグチグチと文句を言いながら、差し出された申請書類を確認する。



「いやいや、それがあながち冗談でもないんだぜ?」


「ハァ……?」



眉をひそめる受付嬢に、中年男はニヤニヤと悪戯でもするような顔で語り始めた。





▲ ▽ ▲ ▽



あれは、春先だったかな。


剣帝様が腰を痛めたらしくて、ガイドができなくなったんだ。

その代わりに、お弟子さん2人がやってきてよ。


まあ、正直、不満だった。

いくら弟子が2人って言っても、まだ若い。

いや、ハッキリ言えば、まだまだガキだ。

背もこんなんだしな。


お弟子さんが何人きても、剣帝様の代わりが務まるわけがない。


だが、わざわざ<ラピス山地>までやってきたのに、手ぶらで帰る訳にもいかない。

<駒>や荷車を借り上げるのも、無料(ただ)じゃないしな。


ウチのパーティの連中もしぶしぶ、やむをえなく、って感じだ。

気にくわねえ所があれば、それを理由に依頼料を踏み倒してやろうかと思ってたくらいだ。



しかし、悪い事ってのは重なるもんでな。


いわゆる『(かたよ)り』ってヤツだろうな。

博打(ギャンブル)と一緒だ。

大勝ちする時もあれば、身ぐるみ()がされる時もある。


幸運も不幸も、大体、まとめてやってきやがる。



その日も『(かたよ)り』の日だったんだろうな。

つまり、『身ぐるみ()がされる』ような最悪の日だ。


ウチの斥候が、とんでもないヤツを見付けやがった。



「── フォ、<濃霧潜顎(フォグ・ダイバー)>だと!?」


「う、ウソでしょ! 脅威力5のバケモノ陸鮫(サメ)じゃない!?」


「十中八九、間違いない……っ

 この先に広がる濃霧、魔力が濃すぎる。

 とても自然現象ではない」



その報告を聞いて、パーティはハチの群れに襲われたみたいな、大騒ぎさ。



「どうするんじゃ、リーダー?

 今回の探索は、素材を持って帰るため、備品は最小限で来ておる。

 大型魔物対策の武装なんて、なんも持ってきとらん」


「そうだな……魔法使い組はどうだ?」


「一応こっちは、上級魔法の<長導杖(スタッフ)>が2本あるよ。

 でもね、セットしてる<刻印廻環(ループ・リング)>は雷撃と凍結だ」


「雷撃と凍結か」


「どちらも、霧を操る魔物には相性が悪いさね」


「土属性か風属性 ── せめて火属性なら、まだ勝ち目があったんだけどね……。

 ごめん、みんな」



── ()まるところ、打つ手なし。


空気が死んだ。

全員、顔を引きつらせて、コソコソ話。

まるで、葬式だ。



そりゃあ確かに、<ラピス山地>は<アルビオン山脈>に繋がっている。

その先じゃあ、地獄の門が口をあけて(よだれ)をたらし、マヌケが迷い込むのを待ってやがる。


そう、現世の地獄<ヴィオーラ巨大樹林>。

別名『巨人の箱庭』ジャイアント・ガーデン


知識としては、知っていた。

だが、その本当の意味を分かっていなかった。


地獄に住む巨大なバケモノが()い出てくるなんて、予想さえしていなかった。

近くの村の連中が、絶対に立ち入るなって口酸っぱくするはずだぜ。


危険地帯に慣れて、甘く見て、心のどっかで()めてた。

まったく、冒険者失格だぜ。



「どうする、リーダー」


「どうするもこうするも、お前……」


「なんとか、剣帝様の山小屋まで逃げ込めれば……あるいは」


「バカ、どれだけ離れてるって思ってんだよ」


「荷物を捨てて、全力で走れば」


「ハデに動くと、魔物を刺激するぞ」


「だけど、隠れていても時間の問題よ。あの霧は魔物の鼻の代わりなんだから」


「つまり、あの霧の中に入ったら最後、バケモノ鮫が襲いかかってくるのか」


「クソ…… どうにもなんないのかよっ」



俺らは棺桶に入れられるのを待つだけ。

いや、むしろ棺桶に入れる部分が残れば御の字か?



そんな気まずい沈黙に気づいたのか、お弟子さん2人が近寄ってきた。



「え、お客さん達、もう魔物は狩らないんですか?」



まだガキだから、訳が解ってないんだろう。

仲間もみんな、そう思っただろうよ。


お弟子さんは2人とも、見た目こそ華奢な子供だしな。



「ああ、それどころじゃ無くなってな」


「大変申し訳ないが、狩りは一旦切り上げる事にした」


「ごめんね、ガイドさん達。 せっかく来てくれたのに」


「もうちょっと、君らと話しておけばよかったな」


「そうだな、剣帝様の意外な素顔とか、面白い話が聞けたかもな」


「達者でな、子供達」



剣帝様には、恩がある。

せめて、お弟子さん2人だけは、逃がさないといけねえ。


それに俺らは、くさってもA級の冒険者パーティだ。

みっともない死に様だけは、晒せない。


みんな、腹をくくった。

遺言のつもりだったんだろう。

そういう顔をしていた。


俺らがそんなツラしてたのに、お弟子さん2人は呑気なもんさ。


近所を散歩しているようなノホホンとした感じ。


いや、考えてみれば、あの子たちにしたら、本当にそうなんだよな。

ただ近所を散歩しているだけなんで、何も間違ってはいないんだが。



「どうしましたの、お兄様?」


「ん~……

 なんか、お客さん達、別に用事ができたみたい。

 素材集めは、切り上げるって」


「で、では、お兄様っ

 いいのですか!?」


「ああ、リアちゃん。

 アレ、もらっていいみたい」


「じゃあ競争ですのよ、お兄様!

 ── 3、2、1、ゼロ!」


「おっし、負けねーぞ!」



急に、2人とも剣を抜いて、スゲー勢いで突っ走って行った。


先に広がる、濃霧の方へ。

つまり、バケモノ陸鮫(サメ)の方にだ!


止める間もなかったよ。



── え、一目散に逃げたんじゃないか、って?


わざわざヤベー魔物の方に向かってか?

そんな斬新な撤退の仕方、今まで聞いた事もねえぜ。



ともかく、だ。

剣帝様のところのお弟子さん2人は、濃霧の立ちこめる森へと突っ込んでいった。



「は?」「え?」「何?」「あの子ら、何で突っ込んで行ったの?」「お、おい、止めなくていいのかよ」「止めるってお前」「うそでしょ……」「もう、追いつけねえぞ」「なんじゃ、あの子らは!」「ど、どうしたらいいの、この状況」



俺らは大人は、もうどうして良いのかわかんねー。

ボーと見てるしかなかった、恥ずかしながら。


その内、ズバズバとか、グギャァとか、スゲー音がしてくるの。


2~3分すると、霧の中から何か飛び出てきた。

カーサちゃん、何だと思う?



── いや、血まみれの子供は無いわ。

そんな状況だったら、今頃、俺、笑いながら話せねーよ。



血まみれの魔物だよ。

例のバケモノ陸鮫(サメ)、<濃霧潜顎(フォグ・ダイバー)>。


その図体といえば、もう山小屋どころの騒ぎじゃねえぜ。

この冒険者ギルドの大広間が全部埋まっちまうくらいの、超大物だ。


ウソじゃねえって。

本当にそのくらいデカかったんだって。


それを追っかけて、お弟子さん2人も霧の中から飛び出てくるし。



「ああ、逃げましたの!

 リアがとどめを狙ってましたのにぃ!」


「思った以上に大物だ!

 アイツ、フカヒレにしたら何人分あるかなっ」


「でもお兄様。

 あんなに大きいと、きっと大味で美味しくないですわ」


「いや、食ってみないとわかんねーぜ?

 おい、デカいサメ!

 逃げるな、ヒレよこせ!

 フカヒレだけでも置いてけ!」


「そもそも、アレ本当にサメですの?」


「いや、アレ、デカいけどサメだろ?

 なあ、陸鮫(サメ)だろ、お前!

 ヒレ置いてけ、なあ!

 (フカ)ヒレだっ

 (フカ)ヒレだろうっ?

 なあ(フカ)ヒレだよな、お前!?」



そんな訳のわからん話をしながら、疾風のように走り去って行った。


俺らなんてもう、完全に蚊帳(かや)(そと)

雁首(がんくび)(そろ)えてポカンとしてるしかなかった。



「おいおいおい」「今、追いかけてったぞ……」「だな」「え? 陸鮫(サメ)の方が、逃げていったのか?」「まさか、子供から逃げてる……」「うそでしょ?」「俺、昨日、ちょっと呑みすぎた?」「なんじゃ、あの子らは!」「ど、どうしたらいいの、この状況」



そういうしている内に、木が震えるようなドデカい断末魔が響いてきた訳だ。





▲ ▽ ▲ ▽



「よくよく考えてみれば、当たり前なんだよな。

 あの剣帝様が、『自分の代わりに行ってこい』って言った訳だ。

 つまり、そういう事。

 お弟子さん2人がいれば、剣帝様の代わり(・・・)が務まるって事なんだよな」



中年冒険者は訳知り顔で語るが、受付嬢は胡散臭(うさんくさ)いと目を細める。



「何をいい加減な事を……

 その子達なら私も会った事があります。

 まだ十代前半くらいの、こんな背丈の子供ですよ?」


「ああ、それが俺たちが束になったより強いんだからな。

 全く、『剣帝流』はおっかねえぜ」


「……なんだか、怪談でも聞かされたような気分です」


「ハッハッハッ うちのパーティでも、しばらく流行ったからな。

 『ヒレ置いてけ』『なあ、サメだろ、お前』『フカヒレ置いてけー』ってな」


「……私の事、バカにしてます?」


「まあ、実際見ないと信じられないのは解るさ。

 だからこそ、是非ギルドの派出所を<ラピス山地>に ── 」


「── 絶対に、イヤです!」



ピシャリと言い放ち、ヒマを持て余して受付嬢をからかう中年男を追い払う。



「子供をネタに人をからかうなんて……

 そんなにヒマなら、魔物の一匹でも狩ってくればいいのに……」



受付嬢はウンザリと、ため息。


そして、出された依頼の申請書を再度確認し、またため息。



「また、処理の面倒な依頼が……

 もう、最近、山岳ガイドの依頼が多過ぎでしょ……

 月に何回、<ラピス山地>行きの手紙を送らなきゃいけないのよ。

 『あんな危険地帯に頻繁(ひんぱん)に行かされるのなら、ウチも特別料金でもいただかないと』とか配達業者には言われるし……」



受付嬢は、グチグチと言いながら処理を始める。


そして、ふと、先ほどのやり取りを思い出した。

中年冒険者ではない、その前の客の方だ。





── 特にサメ皮の品質は最高級と言っていいでしょう


── 一撃で仕留めないと、こんなキレイな状態になりません


── 冒険者の質、特に狩りの腕がいい証拠ですね





なんだか、そんな事を言っていた気がする。



「まさか、ね……」



剣帝様の弟子が、よくサメの皮を売りに来てたな ──

── そんな事を思い出すと、何故か受付嬢の額に、冷たい汗が流れた。



!作者注!


この作品にはオマージュ要素が含まれます。


あと、今回の冒険者は7~8話の人達とは別パーティです。


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[良い点] 妖怪フカ置いてけと化したロックくんww
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