40:最短距離直行
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
そういう訳で、そのまま人探しの依頼を実行。
すぐに<ラピス山地>麓の村を出発した。
今は、<駒> ── 魔法で動く馬の代わりの機巧っぽいヤツ ── が引く荷車に揺られて、古代の遺跡へ向かっているワケだ。
なお、人探しのメンバーは4人。
俺、リアちゃん、行商のオッサン、カタコト少女だ。
行商のオッサンは、商会の資金を回収のため ──
カタコト少女は、お姉ちゃんを連れ戻すため ──
── 2人とも、どうしても同行すると言って、ゆずらない。
「マジで魔物とか多くて危ないから、来ない方がいいと思いますよ?」
という、俺の再三再四の忠告をはねのけて、2人とも着いてきてしまった。
俺は、こっそり舌打ち。
(── チィッ 足手まといが2人とか、もう……っ
もし遺跡で『隠しダンジョン』とか見付けても、これじゃあ探索なんてできねーじゃん)
そう言えば、前世のサラリーマン時代にも、こんな事あった。
『やったー、1泊2日の出張だ!
ソッコーで仕事の用事終わらせて、観光地とか地元グルメとかマンキツするぞ!』
とか旅行サイト調べて気合い入れてたら、
『当日、年配の上司が着いてきて、なんも楽しい事なかった……』
(しかも宿泊先は、経費節減で相部屋! 最悪だ!!)
みたいな感じになって、失意の底に沈んだ事があった。
── 油っこい物ダメとか、ラーメンはちょっととか、ワガママばっかり言うな!
── なんで出張先まで来て、バーさん運営のさびれたスナックでカラオケ!?
── おなじカネ出して酒を呑むなら、せめて若いネーちゃんが居る店にしようぜ!
大変苦い経験でした。
お偉いオッサンさんの同行、ダメ、絶対!
▲ ▽ ▲ ▽
「── というワケで、吹っ飛べオラァ!!」
そんな苛立ちを模造剣に乗せて、全力スイング。
── ギャイィィィ~~……ン!!
ドップラー効果を効かせた悲鳴が、彼方に飛んでいく。
久しぶりに出番な、オリジナル魔法【序の三段目:払い】だ。
(※ 格闘ゲームなら →+[K]、特殊技:壁際まで吹っ飛ばし)
魔物をうっかり斬っちゃうと、血の匂いでドンドン魔物が集まってしまう。
非・戦闘員2人連れた状態でそれはマズい。
やむを得ず、ラセツ丸を非・斬撃モードで振りかぶり、小型魔物ホームラン大会をやっているワケだ。
「ホームラン……葬らん、魔物だけに……ププッ」
「ど、どうかしましたか……?」
行商のオッサンがおっかなビックリ、こっちの様子を伺ってくる。
魔物の襲撃の最中だったので、念のため荷車の陰に隠れてもらってたワケだ。
「いや、何でも無いですよ?」
自分のダジャレでウケただけ。
それなのに、行商のオッサンは、ヤケに心配する。
「── ほ、本当に……?
本当に、このまま行って、大丈夫なんですか?
今からでも、街道に戻った方がよくないですかね!」
「え、なんで?
ここまで来て、今さら……?
ってか、こうやって最短距離直行して急がないと、逃げてる2人が捕まらないんじゃね?」
「……あ、え……いや、でも……その……」
行商のオッサン、結局は口ごもるだけ。
いや、反対意見があるなら、ちゃんと言って欲しいんだけど。
依頼だし、仕事だし、カネもらうんだし。
俺だって無理強いしたりするつもりないし。
(う~ん、これはひょっとして。
行商のオッサンは、魔物の群れに囲まれてビビったのかな……?)
無理に着いてきたクセに、迷惑な。
だいたい、陸サメの中型大型が群れで出てくるなら、まだしも。
オオカミもどきみたいな小型魔物の群れとか、ただのザコなのに。
(いくら魔物の森の中を突っ切っているからって、そんなに過剰反応しなくても、いいんじゃね?)
そんな風に、俺がオッサンの話し相手をしている間に、リアちゃんがひとりで大活躍。
「ドーン!ですのっ ドーン!ですのっ ドドーン!ですのっ」
── ギャイィィィ~~……ン!!
── ギャイィィィ~~……ン!!
── ギャイ、ギャイィィィ~~……ン!!
嬉々として、体当たりでオオカミ型の小型魔物(大型犬サイズ)を吹っ飛ばしていく。
10匹近い群れを壊滅させると、銀髪美少女が笑顔で駆け寄ってきた。
「終わりましたの!
たまにはドーン!するのも楽しいですわっ」
『斬撃禁止』って言ったので、最初はムクれていたリアちゃんだったが、暴れている内に機嫌が直ったようだ。
「そうかそうか」
俺が頭をナデナデしてやると、完全にご機嫌になった。
うむ、ウチの妹弟子、相変わらずチョロいな。
「う、噂には聞いていましたが、まさかこれ程とは……」
行商のオッサンが、ちょっと強ばった顔でブツブツ言ってる。
(……まあ、本当に魔物多いしな、この辺り。
この地方で一番都会の<翡翠領>と比べたら3倍? 5倍?
そのくらい魔物がゾロゾロ居るし、慣れない人間は、ビビるよなぁ……)
とか思いながら、何気なく<ラピス山地>の方を見上げる。
── と、枝の上からジッとみている、鶴くらいデカい鳥型魔物と目が合った。
「あ」
人差し指の指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法輪>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
「【秘剣・三日月】非・殺傷バージョン!」
── ビ、ビィィ……ッ!
取りあえず、斬れない『三日月』で吹っ飛ばしておく。
体格の割に、すばしっこくて厄介なヤツなんで、アレ。
すると、今度はメガネのカタコト少女が声を上げた。
「な、なんデースかぁ、今のはぁっ!?」
「ん、アレだアレ。
ほら、毒もってる鳥、赤いの ──」
あの魔物の名前、ド忘れした。
すると、リアちゃんがフォローしてくれた。
「<毒赤鴫>ですわ、お兄様」
「そうそう、それそれ。
あと、毒抜きして焼いて食ったら、柔らかくて美味いんだ、あの鳥」
「……し、信じられないデース。
トンでもない人達デース……」
カタコト少女が『何だコイツら』みたいな目で見てくる。
(いやいや、そう言うなって。
毒のある生き物って、意外と美味いヤツ多いんだぜ?)
前世ニッポンでも、毒フグとか、高級料理だったし。
たしか、ウナギとかも毒があって、火を通さないと危ないって話だったし。
(依頼で忙しいんじゃないなら、あの鳥肉だって回収したいくらいだしな……)
忙しいといえば、アレだ。
最近なぜか、山岳ガイドの依頼が多くて、妙に忙しい。
ジジイが腰痛になる前とか『月に1回あるかどうか』くらいの頻度だったのに。
今じゃ、月に2~3回くらい依頼が入ってくる。
あんまりに忙しくて、剣術の修行がおろそかになるので、3回に1回は依頼を断ってくるくらいだ。
「── 一体、なんだろうね、これって……?」
「お兄様、どうかなさいましたの?」
「いや、なんでもない」
この忙しいのが、何か厄介事の前兆じゃなければ良いけど ──
── そういう、不吉な言葉は呑み込んで。
俺はリアちゃんと一緒に、<駒>の引く荷車まで戻るのだった。




