04:空飛ぶゴミ箱
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
そんなワケで、山を散策しながら狩りの開始だ。
まずは、ウサギさんとの追いかけっこ、である。
このウサギさんは、中型犬くらいの、びっくりサイズ。
だが、この転生先の異世界で『魔物』と呼ばれるのは、『魔法を使う人食いの怪物』。
なので、魔法を使わないこのウサギさん(超ビッグ!)は、ただの野生動物という分類だ。
ピョンピョン跳ぶのを、ピョンピョン追いかける。
しばらくすると、俺が追いかけるスピードを学習してくる。
ある程度間合いをあけると、無闇に逃げなくなる。
── 作 戦 ど お り!
「くらえ、オラー!!」
『チリン!』という魔法の発動音と共に、超スピードのジャンプで一気に距離を詰め、たたき斬る。
── 【序の三段目:跳ね】
俺が魔法をいじくり回し、開発の課程で出来た、必殺技の土台。
必殺技未満の攻撃、いわゆる特殊技だ。
格闘ゲーム的には、ダッシュ攻撃の特殊モーションとでも思ってもらえればいい。
ちなみに、庭先で木の葉を切っていたのは、【序の一段目:断ち】。
愛用のナマクラ剣に魔力でアレコレする事で、カミソリ並に鋭い刃を魔法付与。
その【序の一段目:断ち】で、ウサギさんの腹をズッパリ。
適当な枝に宙づりして臓物を抜いて、血抜き完了まで、しばらく待ち時間。
なお、ウサギさんは結構うまい。
味は、ちょっと濃いめの鳥肉みたい。
ウサギも1頭2頭ではなく、1羽2羽と数えるだけある。
「幸先いいな、今日はいい事ありそう」
そう思うと、思わず鼻歌が出る。
♪うさぎ美味しい、この山~
♪コブナ釣りし、この川~
釣れたのは、コブナじゃないけどな。
背中にゾワッとくる程、デッカい気配。
(── はい、ウサギの血の匂いに惹かれて、アホが引っかかりましたぁ!)
ジジイの魔剣士育成の基礎トレーニングで、俺も魔力感知を磨いている。
だから、周囲で魔法を使われると、すぐに解る訳だ。
斜め後ろからの強めの風に、かすかに魔力の香り。
魔法で風を操り、木と木の間を縫うように飛んでくる、巨大な影。
── つまり『魔法を使う人食いの怪物』の登場だ。
タイミングを読んで、3・2・1!
はい、ジャンプして宙返り!
── 途端、ヌッと一瞬前まで俺が立っていた所に、デッカい口!
ジャンプした俺を追うように、船の舳先みたいな上顎を持ち上げた、空飛ぶ人食いザメ!!
その鼻っ面めがけて、素振り用の模造剣を構える。
同時に『チリン!』と魔法の起動音がして、開発中の必殺技『連撃突き』を空中発動!
(※ 格闘ゲームだと、空中で[P]連打)
「── 【秘剣・こがらし】(仮)!」
ズパパパパンと、5連撃中の3撃くらい入った。
どうよ、慣れたもんだろ?
この山は結構、住んでる魔物が多い。
何でも食っちゃう、『泳ぐゴミ箱』の相手も、しょっちゅうだからな。
そんな余裕をカマしつつ、地面でバタバタやってる空飛ぶサメの元へ。
多分、前世ニッポンでいうところの、ホオジロザメくらいのサイズはある。
そして、鼻が利いて、目以上の最大のセンサーなのも、同じらしい。
違いは、下ビレの代わりに生えた、アホみたいにデカい後ろ脚くらいか。
さて、両目と鼻をつぶしたとはいえ、近づいたら噛まれるからな。
前に一度、片足を噛み千切られかけたし。
その時は、ジジイの回復ポーションのお陰で完全回復、傷一つ残らなかったが。
(あの日の恨みだ、くらえ!!(八つ当たり))
全力で剣を振り下ろす。
「── 【秘剣・みかづき】(仮)改良版!」
技名どおり、三日月っぽい物が飛び出す。
これぞ、中二病の結晶!
ニッポン男児の夢と希望の具現化!
俺のオリジナル魔法で繰り出すスペシャルな必殺技『飛ぶ斬撃』だ!
(※ 格闘ゲームだと ↓ ↘ → + [P])
空飛ぶサメの、丸太みたいな胴体の半分くらいまで、ザックリいった。
ドッタンバッタン暴れて、ドバドバ血が噴き出す合間に、背骨とかが見えてる。
「よしよし、改良版はなかなかだな……」
しかし、コイツまたデカいな。
客人あわせて4人で食うにしても、半身もいらん。
3枚おろしの、さらに4分の1くらいに刻むかね。
でも、コイツあんまり美味くないんだよな。
脂っ気なくて、身がバスバスだし。
皮とか歯とかは、良い値段で売れるんだけどなあ。
ウサギさんのお肉(犬サイズ)も持って帰らないといけないので、今回はパスで。
(あ、そうそう、尾ビレは取っておかないと。
天日干しの乾燥フカヒレにして、2ヶ月後くらいに美味しくいただきますんでっ)
とか何とか、解体作業しながら考えていると、遠くの声が聞こえてくる。
『── バ、バカな……っ』
── ちょ、誰だよ!?
(俺、バカじゃねええし!
いくつになっても夢追い人!
心はいつまでも純粋な少年!
歳をとっても素敵なニッポン男児だし!)
イラッとして見渡すと、ちょっとした崖の上に人影三つ。
最近のジジイの観察ポジションに、ジジイとオッサンと女児が立って、こっち見てる。
俺は、解体の血を拭いて、両手をブンブン振る。
「おーい、今日はサメ鍋だぞー!」
『……あんな小さな……ナマクラ……バカ……子どもが……』
なんか遠くてあまり聞こえん。
だが、またオッサンにディスられてる気がする。
「…………」
お、この匂いは、山椒か。
しかも、結構大量だな……。
前世の世界の『四川風マーボー豆腐』って、確か山椒でシビれ辛くするんだったか。
(……よし、オッサンの分だけ、超激辛にしたろ。
存分にシビれるといい、天罰じゃ! ケ・ケ・ケ・ケェ~ッ)
── お、ヨモギもドクダミもはえてる。
ラッキー、これなら、しばらくお茶葉にも困らないな。
2021/09/23 「基本技」→「特殊技」に修正