38:夜の終わりに
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
結局、魔物の森から宿に戻ったのは、深夜ごろ。
宿に帰ったら、プンプンな妹弟子が仁王立ちして待ってた。
それから寝るまでの間、コンコンと説教をされてしまったワケです。
ええ、もちろん反省してます。
可愛い妹ちゃんを心配させて、申し訳なさで一杯です。
だから兄ちゃん、もう正座を崩していいかな?
……うん、まだダメか。
▲ ▽ ▲ ▽
── さて、撤収に時間がかかったのも、仕方ない事情がある。
とっ捕まえた捕虜の数が多すぎたワケだ。
貴公子の<空飛ぶ駒>に、ロープでぶら下げて運ぶとしても、捕虜1~2人が精々。
しかし、俺が鳥魔物から墜落させた研究員と、金髪貴公子がブチのめした黒服ボス、その重要人物だけですでに4人になる。
ザコの皆さんを足すと、軽く20人を超えてくる。
仕方なく、貴公子だけ<翡翠領>に戻って、増援を連れてくる事になった。
── さて、待機場所は、魔物の森。
しかも、時刻は魔物が元気な夜半。
さらに、魔物の死骸がたくさんで、血の匂いがプンプンする。
当然の帰結として、魔物の『大収穫祭』!
バーゲン叩き売りみたいな殺到っぷりで、『お客様おさないでください』状態!
俺は仕方なく、アホみたいに集まってくる魔物を、斬って斬って斬りまくった。
しかし、足手まといの捕虜共が、マジ足手まとい。
つか、邪魔すぎる。
何度、放置して魔物のエサにしてやろうかと思った事か。
あと、ピーピー泣くくらいならともかく、この隙に逃げようとするし。
終いには、魔物の相手をしている俺の背中を、投げナイフや魔法で狙ってくるし。
── それ以外にも、だ。
「お、俺は高貴な<四彩>の直系だぞ!
貴様ら無価値な連中とは、命の価値が違うのだぁ!」
とか、
「戦うしか能がないカスのくせに!
エリートの私の役に立てる事をありがたく思いなさい、この愚民!」
とか、
「なにをトロトロしてんだよ、このグズ! 俺を命がけで守れよぉっ」
とか。
なんか、やたら舐めた口きくバカが数人。
イラッ☆としたので、死にかけ魔物の口にダイブさせてやった。
1分間耐久の魔物の体内見学ツアーである。
── ドキッ!
── 胃液まみれのエリート丸呑み大会! (手足が)ポロリもあるよ!?
昭和な吐・憐・血イベント開幕!
キャーキャー、ワーワー、イヤー、ダメー、モウヤメテー!
そんな出演者のHI☆ME☆Iに、オーディエンス(魔物)は大盛り上がり!
野獣のようなギラギラした目つきで、思わずよだれがゴックン!
── グォオオオ!
── ワァオオオオン!
── ギャァギャァギャァ!
イベント会場の熱気は、破裂寸前で怖いほどだ!!
YEAhhh!
人間たちも、もりあがってる?
それじゃあ一緒に逝こうか、チェケラ!!
── イベント参加は、強制! (ラップ調)
── ノドが枯れるまで、叫声! (合いの手:きょーせい!)
── みごとに人格、矯正! (チェケラ!)
魔物に押し倒されたり、咥えて奪い合いされたり、本場仕込みの押合いもあるよ!
「あひゃ、あひゃひゃひゃぁ!」
「夢、これは夢、僕わかっちゃった、この世界は全部夢なんだね!」
「俺たちが悪かった、反省している、反省しているから!」
「だから、こんなムゴい事、もうやめてくれっ」
「どうして、どうして、どうして笑っているんだ!? ひぃやぁーーーーー!!」
「わたしは今ベッドの中、明日もきっと良い天気、キレイなお花を買いに行くの」
「わかった、わかった、アンタの言う事をきく! なんでもしゃべるから!」
「そうだ、全て話す! だから、人間を魔物に食わすのはやめてくれぇっ」
「良い子になります! 良い子になりますから、もう足をかじらないでぇ!」
── みんな良い子になりましたぁ!
「ロ、ロック君……
流石にやりすぎでは?」
うっせーな!
幼稚園児以下のチンパンジーなバカの群れを、一人で任された俺の身にもなれ!!
大体が、だ。
── ちょっと魔物に攫われて
── ちょっと魔物の巣に運ばれて
── ちょっとアットホーム魔物一家に『いただきます』されたくらいだろ!
その程度、いちいちギャーギャーぬかす事か!?
俺だって、『俺サイキョー!』って調子のってたクソガキの頃とか、何度か死にかけたぞ。
魔物を深追いしすぎて、小型陸サメの大群に全身カジカジされて『ああ、死ぬんだな、俺』みたいな危機が3~4回あったけど。
でも、ガンバって自力脱出して、逆に全部フカヒレに変えてやったからな!
気合いが足りんのじゃ、貴様らぁ!
そもそも、だ。
ほとんどのケガは、俺の秘蔵の超高価<回復薬>で治してやったんだぞ!
まあ、完治した後、
「さあ、次はどの魔物に食われたい?」
と笑顔で聞いたのが、多分、一番メンタルに効いたんだろうけどな。
▲ ▽ ▲ ▽
「これをひとりで……」
「バケモノか……」
「人間業ではない……」
なんか金髪貴公子が連れてきた兵士どもに、コソコソ貶められている。
(うるせー、お前ら、今からコイツら尋問するんだろ!?
ヤバい情報を吐かせるために、拷問とかもするんだろ!?
そのくせ、ちょっと俺が捕虜を痛めつけたくらいの事を、いちいちオーバーに言うな!)
そんなイライラしていると、気を利かせた貴公子が、先に帰る手配をしてくれる。
正直、助かった。
俺的に、リアちゃんの仇敵(※悪夢の中での)を守るというのは、なかなかストレスだったらしい。
貴公子の<空飛ぶ駒>で現場から離れると、少しイライラが収まってくる。
「あとは、リアちゃんの無事な顔を見て、安心して寝よう」
そんな事を言うと、<空飛ぶ駒>2人乗りの、前に座った貴公子が顔だけ振り返る。
「相変わらず仲がいいね。
ロック君は、アゼリア君と血のつながりはないんだろ?」
「血のつながりは関係ねーよ。
俺は、兄貴として、あの子を守る。
そう、俺が勝手に誓っただけだ。
……まあ、本人は迷惑しているかもしれないけどな」
「そんな事はないさ」
「そうか?」
「そうだよ、僕にも兄さんが居るからわかる」
「へー」
「まあ、ロック君ほど優しいタイプじゃないけどね。
でも、僕にとっては、良い兄さんさ」
「まあ、兄弟はそれぞれだな。
で、お前みたいにイケメンでモテモテなのか?」
ちょっと皮肉を言ってみる。
「いや、兄さんはタイプが違う。
ああ、この兄さんは下の兄で、僕より五つ年上なんだけど、どっちかというと、男臭いっていうか、厳ついタイプかな。
だから、いつも僕に叱咤激励をくれる『この天剣流の面汚しが!』ってね」
「…………ん?」
なんか、不思議な事を言われた。
空飛んでる風の音がうるさいから、言葉を聞き間違えたのかと思った。
しんみりとした口調に似つかわしくない、過激な言葉が聞こえた、気がする。
「叱咤、激励……?
── え、何て言われるって?」
「だから『この天剣流の面汚しが!』とか。
『スケこましの優男が!』『また、天剣流は帝都の種馬、なんて汚名をひろげるつもりか!?』とか、さ。
── ほら、僕って、兄2人を飛び越えて次期当主候補になったから、未熟な僕が務まるか心配なんだよ」
「……ん? ……んん?」
俺は、いよいよ首をひねる。
『面汚し』とか『スケこまし』とか『種馬』とか。
なんか『異世界なんで、違う意味があるのか?』とか考え込んでしまう
「下の兄さんとか、一族の会議で弟の僕が次期当主候補って決まったら、すごい庇ってくれたから。
『弟は気が弱いから当主に向かない』とか色々、長老にも抗議してくれたらしい。
だから兄さん『弟よりも俺が当主にふさわしい』って、随分と言ってくれたみたいなんだ」
あれ、それって。
「それからは、月に1回くらい、特別訓練してくれるんだ。
── うちの兄さん、厳しいんだよ?
素振りで手の平が血まみれなったり。
もう立てなくなるくらい、走り込みやらされたり。
あとは、組み手で倒れても、木剣で容赦なく叩かれたり」
いや、お前、それって。
「兄さん寡黙だから、あんまりしゃべったりしないんだけど。
まあ、住んでる家も違うから、めったに会わないんだけど……。
毎月初めの、一族の食事会くらいかな?
── でもさ、いちいち言葉にしなくても、気持ちって伝わるもんだよね?」
うん、お前って、つまり、その、あの。
俺は、色々思って。
そして、思いきって、一つ訊いてみる。
「……なんか、一緒に住んでないとか言ってたけど。
もしかしてお前って、兄さん達と片親が違ったりしない?」
「あ、うん、そうだよ。
あ、ごめん、そっか、まだ言ってなかったね。
僕の母は、父さんの後妻で、前の奥さんは亡くなっているんだ」
「で、その兄さん達は前妻の子で、半分しか血がつながっていない?」
「そうだね。
でも家族って、血のつながりだけの関係じゃないでしょ?
ほら、ロック君がさっき言った通り、僕もそう思う」
「お、おう……そ、そうだな……」
俺がさっき言った意味とは、天と地ほどの差がありそうな気もするが。
なんか否定もしづらいので、とりあえず肯いておく。
「僕も兄さん達の事を尊敬しているし、兄さん達も僕の事を常に心配してくれている。
『お前は色情狂の大爺様の生き写しだから、いつか女関係の騒動を起こさないか心配だ』って、いつも言ってくれるんだ!」
「う、うん……そうか……」
これ、アカンやつだろ!?
幼い頃から罵声あびせられ続けて、感覚マヒしてんじゃねえのか!?
「その……お前の家族について、周りの人は、なんて言ってるんだ?
たとえば、同じ道場の友だちとか……」
「ええと……友だち?」
「おう、友だち。
もしや、お前…………友だち、いないのか?」
「え、あ、いや、いるよ、いるって。
ほら、ロック君とか、アゼリア君とか」
「……リアちゃん、お前の事、覚えてなかったじゃん?」
あと、俺をナチュラルに『友だち枠』に入れんなよ。
非リア充と金髪貴公子は、不倶戴天の敵同士って“““鉄の掟”””なんでな。
「……ええ、あれー……」
「男友だちいるのか、そもそも。
昨日言ってた、精剣流のナントカ君とかは?」
「ケーン君だね。
ケーン君とは、いつもちゃんと挨拶するよ!」
「あいさつ、って……それだけ?」
「他には、ほら、手合わせとか?
交流試合とか結構、年に3回くらい?
同じ年代だから、いつも対戦するし」
「あのさ……そのケーンだっけ?
そいつと、いっしょに遊びに行ったりとか、買い物とか?」
「いや、ないけど」
あっさり否定すんな!
おいぃ、マジ挨拶だけの関係かよぉぉ!?
「ほら、ウチ、武門の本家だからさ。
買い物とか行くと、だいたい門下生の女の子が付き添うよね?」
「おい、お前……」
何がどうなったら、『武門の本家だと、門下生女子がいつもお供』とか、そんな意味不明な認識にたどり着く?
ってか、周りの女連中も、色々問題あるのか。
世間知らずな御曹司なのを良い事に、変な事を常識って教え込まれてそう。
── うわ、怖っ
「あ、それに、ほら。
僕ら<御三家>の後継者同士なんで、あんまり遊ぶ時間もないというか。
基本的に、帝都に居る間はほとんど、訓練漬けだったし」
最初に言ってた<御三家>の同世代ライバル関係、どうなった!
お前の妄想か、あれ、全部!?
あいさつしたら、みんな友だちぃ!
──とか、コミュ障こじらせ過ぎアカンでしょ?
「……おい、まさか、お前。
日頃、女子としか口きかないのか?」
「いやいや、ちがうよ?
さっきも言ったけど、うちの男兄弟が仲いいし。
上の兄さんとか、魔導学院に通ってるから、最近は滅多に顔をあわせないけど。
それでも実家に帰ってくる度に、『まだ諦めず続けているのか』とか『お前よりジョルジュの方が当主にふさわしいと思うが』とか、色々心配して相談に乗ってくれるし」
── 上の兄すらダメか。
下の兄は、次期当主を狙うライバル。
道場の中にも外にも、男友達はなし。
周りの女子は玉の輿ねらいで、変な事を吹き込むばかり。
「……四面楚歌、だったか……」
「え、何か言った?」
「いや……なんでもないんだ……気にせんでくれ。
── ただ、お前の二番目の兄さん、実は『弟さえ居なければ、俺が当主になるはずだったのに』とか思ってたりするんじゃないかなぁって……」
「いやいやぁ。
よく勘違いされるんだけど、そういうのじゃないよ?
兄さんは寡黙だから誤解されやすいけど、ほら、厳しい言動も『愛の鞭』ってヤツ?
年下で未熟な僕が、当主にふさわしく成長するよう、心を鬼にして鍛えてくれているんだよ」
「お、おう……そうか……?」
やめろ、やめろ、もうやめろ。
なんか俺、心の中の何かがゴリゴリ削れてんですけど?
アレぇ……、コイツ、リアちゃん並かそれ以上にコミュ障なんじゃね?
友だちの作り方とか、他人との人付き合い的な事とか、まるで解ってないんじゃね?
ってか、アレか?
DV被害者みたいな変な依存思考になってね?
こいつメンタル大丈夫か?
「まあ、他流派の事情に口出すのもアレだけどさ
ロック君も、もうちょっとアゼリア君に厳しくして上げた方が良いんじゃない?
やっぱり、身内だと、訓練で甘えとか出ちゃうしさ」
「う、うぅん……そ、ソウデスネ……」
(── アレ、これって、もしかして……)
俺は、ひとつの悲しい真実に気づいてしまった。
(リアちゃんが貴公子の事を覚えてないのも、仕方ないんじゃね?
リアちゃん的に『他流派でよく対戦するだけの人』だった可能性が、爆上がりしてね?
そもそも、自己紹介とか、試合の前後に会話とか、そういうコミュニケーションも皆無だったんじゃね?)
何故か、イヤな汗が、じんわりと背中を伝った。
▲ ▽ ▲ ▽
── そんな事を思い返していると、急に現実に引き戻される。
「── お兄様、聞いていますか!?」
「も、もちろん、もちろん聞いているよ。
ただ、美容院行った後のリアちゃんは格別カワイイなあ、って」
「そ、そうですの?
美容院の人に勧められた、初めての髪型ですけど……似合ってまして?」
「うんうん、前の長いストレートも似合ってけど。
でも、今のクルクルな髪もお嬢様っぽくてカワイイ、カワイイ」
「イヤですわお兄様……あまり褒められると、リア恥ずかしい……──
イメチェンすれば身近な男性もドキッとするという話は、本当でしたのねっ
── って、そんな話をしている時ではありませんわ!
わたくし今、とっても怒ってますの!!
お兄様、いつも、そうやって誤魔化すんですから!
んもうっ! んもうっ! んもうっ! んもうっ!」
枕でべしべし叩かれる。
「ハハハ、リアちゃんごめんごめん」
俺は、二重の意味で、リアちゃんにごめんした。
── この翌日。
なんか公衆の面前で、膝の上に美麗な妹のっけて、アーンし合っている恥ずかしい男子が居た事だけ、申し添えておく。
現場からは以上です。
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2021/12/12 一部修正、追加




