35:古代の生物兵器
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
既に、8人ほどぶちのめしたか。
夜に魔物の森に集結とか、アタマおかしい事している連中。
ヒョロい金髪貴公子いわく、『他の国から禁断実験しにきた後ろ暗い連中』。
(……今のはなかなか良かったな、中二病的に。
【放電】を頭上に設置 → 離れて【遠隔起動】の組合せっ!
また、何かの機会でつかおう!)
昨日、貴公子が使ってた、<天剣流>の奥義とかなんとかいうヤツは、いくらなんでも複雑すぎて覚えるのはムリだった。
だが、最後の起動術式・【遠隔起動】だけは模倣できたので、ちょっと試してみた。
── 想像以上に、イイ感じである。
俺も今まで、色々な術式を組み合わせた『ピタゴラ装置』な迂遠な方法で、『時間差式の魔法起動』とか、『遠隔式の魔法起動』とか、色々作ってはいる。
昨日、デカいカメに使った【秘剣・陰牢:弐ノ太刀・影鋒刺】なんて、俺的に渾身の一作だ。
だが、貴公子ん家の起動術式・【遠隔起動】は、それ以上。
<四彩の赤>だか何だかの、魔術の名門が作っただけある。
洗練されていて、簡潔で、また使いやすい。
魔力消費が極小なのも、俺みたいな魔力がザコな一般人さんには、ヒジョーにありがたい。
── とか何とか考えていると、バシャバシャと河を渡ってくる足音。
「ロック君、大丈夫かいっ!?
しかし、色々と予想外というか……予定外というか…… ──」
件の、<天剣流>の金髪貴公子だ。
何か色々言いたそうだが、俺は機先して簡潔に指示。
「── 貴公子、構えろ。
魔物が来るぞっ」
「え……っ!?」
茂みの奥に逃げ込んだ男達が戻ってくる。
巨大な影の群を、引き連れて ──
「キサマらもこれで終わりだよ、薄汚い帝国の密偵どもめっ
見るがいい! そして、絶望するがいい!
── これが『古代の魔導師』が造り上げた『最悪の生物兵器』だっ!」
▲ ▽ ▲ ▽
俺の横で貴公子が顔を引きつらせた。
「まさか、アレ……<羊頭狗>の群れかっ!?」
「ガク?」
「能力よりも、知能の高さが厄介な魔物だ。
単体では『脅威力3』、群れとなれば戦闘力が跳ね上がり『脅威力5』!」
「『脅威力5』のバケモノねえ……」
『脅威力5』 ── 冒険者ギルドの最難関の討伐依頼だ。
つまり、冒険者にとっては最上位の魔物だ。
昨日の、異常個体<六脚轢亀>と同じか、ひとつ下くらい。
パッと見た目は、大熊なみの体格の、長い尻尾付きゴリラ。
しかし、体格の割に頭部は小さく、外骨格に覆われた頭は山羊か羊のような感じだ。
「ふ~ん……コイツら『外骨獣』か」
となると、弱点が限られる。
『外骨獣』と呼ばれる種類の魔物は、頭部・首・心臓といった急所を、外骨格で守っている。
外骨格は鋼鉄の武器でも弾くので、なかなか致命傷が与えづらい。
「フッハッハッハッ、恐怖におののけ!
泣きわめき、哀れったらしく許しを請うがよい!」
── その偉そうな姿が、ちょっとだけ『悪夢の中のトゲ鎧の悪党』に重なる。
(そうか、コイツがリアちゃんを夢の中であんな目に!?
── 死ぬほどブチのめすっ!!)
悪夢を引きずる、俺の怒りが爆発!
激情のまま【序の三段目・跳ね】で突っ込んだ。
「ひゅぅっ」
気合いの一撃!
しかし、カァンッ!、と甲高い音をたて、羊のような角で防がれた。
魔物が ── 『人食いの怪物』が身を挺して、人間を守ったのだ。
(マジで、魔物を飼い慣らしてるのか……
ヤバすぎるだろ、コイツら……っ)
俺は、内心舌打ち ──
── 途端、ボッフュン!と、空気をうならせた反撃がくる!
丸太みたいなゴリラ腕が、空気が爆ぜるようなアッパーカット。
「あぶねぇ……っ」
まだ空中に居た俺は、なんとか魔物の角を蹴って、後方宙返り。
間一髪の回避が間に合った。
うっかり、ポテチの袋みたいに爆発四散させられるところだった。
その間に、俺が狙ったボス格らしい黒服の男は、急いで後退しながら苦笑い。
「ふ、はは。
まるで、風のような身のこなし!
キサマ、ただの密偵ではないな、名の知れた暗殺者か!?」
違いますぅー!
剣帝の一番弟子ですぅー!
暗殺者とか汚れ仕事じゃありませーん!
「暗殺者だと!? そんな話、聞いてないぞ!」
「忌々しい、皇帝の密偵どもめ!」
「おいバケモノ! この暗殺者を焦がしてやれっ」
取り巻きのメガネのおっさんとかが、ザワザワし始める。
なんかコイツら研究者っぽいな。
インテリくさいというか、体力なさそうというか。
それはともかく、指示を受けた魔物が反応。
── メェ~ッ!
魔物が、その巨体からすると、妙に可愛らしい声を上げる。
同時に、外骨頭の2本角の間で<法輪>が回転。
発動音が『ゴーン!』と鳴って、雷光がスパーク。
── ズパァァ……~~ァンッ!!
耳をつんざくような、爆音。いや、爆雷か。
俺は【序の三段目・跳ね】を逆方向に起動し、超バックジャンプで巨石の上に退避していた。
「バカかッ!? 水辺で雷撃を使わせるな!」
「そうだ、火の方だ! 火魔法で戦わせろ!」
「も、申し訳ありませんっ」
ボスや取り巻きの怒声に、茂みの中で誰かが答えて、ぼんやりと魔力の光が立ち上る。
魔物たちは、一斉にちょっとだけ虚空を見上げて、指示に返事するように「メェ~ッ」と鳴く。
(なるほど、あそこか……)
俺は魔力センサー魔法【序の四段目・風鈴眼】で大まかな位置を察知。
ついでに周囲を見渡した。
(うん、貴公子が剣でガンバってるなぁ)
昨日の<短導杖>は【雷光鞭】(初級魔法【放電】の上位版、人間は焼け焦げる)で、水辺では通電が危ないので、<正剣>一本勝負みたいだ。
しかし、2匹に絡まれ、上手く攻められていない。
(まずは、そっちから行きますかね。
── 忍法ウツセミの術! ニンニン!)
俺は、『チ・チリン』と必殺技を2連続発動する。
▲ ▽ ▲ ▽
「あ、ロック君!
僕が突っ込むから、援護を ──」
貴公子は、背中に身体強化の魔法陣をつけた『俺』が、駆け寄ったのをチラ見して、構えを変える。
── 剣を前に突き出した防御メインの構えから、剣を後方に引いた攻撃メインの構えに。
次の瞬間、特級・身体魔法の脚力が爆発。
下段からの、疾風のような斬り上げ ──
即時反転して落ちてくる、雷光のような斬り落とし ──
── 大木でも真っ二つにしそうな2連撃!
しかし、<羊頭狗>とかいうクマ並体格のゴリラ魔物は、頭部の巻き角でそれを受け止めた。
── メェ~ッ!
魔物の角の間で<法輪>が回転。
黄色く四角い目が細まり、至近距離で、必殺の火炎魔法が ──
「── させるか、クソヤギめ!」
突如、魔物の背後に出現した俺。
さっき使った必殺技は、幻影を生む【秘剣・散華】と、隠密移動の【秘剣・速翼:四ノ太刀・夜鳥】だ。
魔物にも察知されない不意打ちで、外骨格装甲のない首の付け根をなで斬りにする。
── メ、メェェ!?
その一撃で、均衡が崩れた。
「はぁっ!」
貴公子の<正剣>が、魔物の腹を突き、そのまま斜めに引き裂いた。
── メェ~ッ!!
横合いから突撃してくる、もう一匹の魔物。
俺はそちらに飛び出し、迎え撃つ。
── メェ!!
魔物は、アゴを引いて巻き角を突き出して突進。
俺はその隣を、ギリギリですり抜ける ──
── その瞬間、斜めに軸を傾けて360度の横回転。
「── 【秘剣・三日月:参ノ太刀・水面月】っ!」
── ゴ、ヒャ……ァ!
斜めに水面の波紋のように広がった、360度の広域斬撃攻撃。
魔物は、上半身と下半身がなき分かれ、突進の勢いのままゴロゴロ転がっていく。
「ふ~ん……。
外骨格のない腹を斬ればいいだけなら、そんなに難しい相手でもない、か?」
「いや、ロック君、油断しないで。
相手は、かなり危険な魔物<羊頭狗> ── アレは『古代の魔導師』が造り上げた『最悪の生物兵器』!
簡単な相手では、決して ──」
「おらぁ、【秘剣・三日月】! 【秘剣・三日月】! 【秘剣・三日月】! 【秘剣・三日月】! 【秘剣・三日月】!
ハッハッハぁ~ッ!
昨日のクソカメより柔らかいし、山小屋の周りの陸サメより遅いし!
コイツら【秘剣・三日月】で斬り放題じゃねえか!?
なんだよ、『古代のナントカ』とか大げさな!
『生物兵器』とか、いちいちビビらせんなよ!
── ん、貴公子、いま何か言った?」
「……いや、ゴメン。 やっぱり、なんでもない……」
あ、俺、気張りすぎて、貴公子の分まで斬っちゃった?
残り魔物2~3匹かぁ……。
(あー、なんかスマンな。
お前も、せっかく気合い入れてから参戦してきたのに……)
でも、まあ。
魔物と一緒に周りの木も斬り倒したので、見晴らしが良くなったぞ!
さてさて、逃げた敵兵どもを探しますかね。
(夢の中のリアちゃんのカタキだ! 絶対に許さん!!)
── 俺を怒らせた事、後悔させてやる!!
そう!!!
誰も!!!
まだ誰も!!!
リアちゃんには!!!
ちょっかい出してないのである!!!!(アフ■田中風、2回目)