表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 2:山岳ステージ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/236

34:なんだコイツ

我らは、神王国の影であり、名誉なき騎士団である。



密偵、侵入、工作、略奪、誘拐、暗殺 ──

── それら非道を任務とする秘密部隊。


故に、何事にも動じない。

動じるのも、怖れるのも、敵の方。


我らこそは無敵の影、闇の精鋭部隊。



しかし、今夜。



「── なんだコイツは?」



そんな言葉が、2度、発せられた。





▲ ▽ ▲ ▽



我らは、ラピス山地にほど近い谷間に居た。

連邦からは『影の谷』とか『死屍(しかばね)の庭』とも呼ばれる、枯れ木の森。


ちょうど、北に連邦、南に帝国と、2大国の国境にありながらも、魔物の脅威から放棄されているも同然の土地。


好条件だった。

気候や地形からしても、『実験』に適してる。


最悪、何か不測の事態が起こったとしても、連邦と帝国の戦争の火種になるだけ。

第三者である神王国にとっては、それすら好都合。



しかし、こんな事態は、誰も予想もしていなかった。



「まさか『翡翠の子(ジェダイト)』が殺されるとは……」

「しかも、『番』(つがい)2体ともに」



ひどい腐敗臭に、皆が鼻と口に布を当てる。

死骸の腐敗が進んでいて、片方については、ほとんど原型がないくらい。


数日前どころか、数週間経っているのかもしれない。



「メスはひどく負傷していた、それが足手まといになったのでは?」

「バカな、いよいよ凶暴化するだけだろ」

「事実、メスの首を噛み千切った<外骨河馬(ロックイーター)>は、追い出されている」

「あの時は、卵を腹に抱えていて、重鈍になっていたからな」



研究者4~5人が、少し離れた場所で意見を交わしている。



「おお、産卵には間に合ったか……っ」

「……5、6、7、8個か、すばらしい!」

「これだけでも、大きな収穫だなっ」

「異常個体の形質が固定できていれば、ついに量産に入れるぞ!」

「個体で脅威力5の『翡翠の子(ジェダイト)』が、さらに群勢になるんだ!

 それはもはや、古代魔導王国の『飛龍の群勢』にも匹敵するっ」

「ハッハッハッ、他の<四彩(しさい)>どもに吠え面をかかせられるぞ!」

「そうなると、<羊頭狗(ガク)>の群れなど比べ物にならん!お払い箱だなっ」

「せっかくなら廃棄処分の前に、戦わせてみようっ」

「おお、是非、見てみたいっ」



イカレた連中だ。

魔物を ──『人食いの怪物』を、オモチャか何かと思っている。


だが、こんな狂人どもでも、その協力なしには事が進まないのも事実。


だから、闇の部隊の人間は、誰も彼らに言及しない。



「何にせよ、『翡翠の子(ジェダイト)』を討伐するとは、並の冒険者の仕業ではない」

「Aランクの冒険者チームか?」

「確か<翡翠領(グリンストン)>には、3か4は所属していたはず」

「しかし、脅威力5を2体討伐となれば、100人以上の兵力が必要なはずだ」

「それほどの人の動きがあれば、<翡翠領(グリンストン)>の間者が気づかないはずがない、か……」

「この討伐、まるで不可解だな……」



そんな不吉な空気の中、バシャン……ッ、と大河で何かが跳ねた。



「なんだ!?」

「慌てるな、大河の魚だろ?」

「こんなに月が明るいんだ、夜も活発でもおかしくない」



バシャン……ッ、バシャン……ッ、バシャン……ッ、と何度か河魚の巨影が飛び跳ねる。



「ほらな?」

「おどかすなよ……」



そんな、緊張からの油断。

それを見透かしていたかのように、『何者か』が大河から飛び出してきた



「── なんだコイツは?」



誰かが、警戒を呼びかけるように、そう叫んだ。





▲ ▽ ▲ ▽




「── %&この#$リア¥●/≧よく#*もおぉぉ!?」



飛び出てきた『何者か』は、何を言っているかも解らなかった。


何故か口にくわえていた巨大な河魚をはきだし、ひとしきり何かを叫ぶ。

と、すぐに四つん這いになって、ゲー……ゲー……と嘔吐を繰り返す。


溺れかけて、河の水を飲んでいたようだ。



「……なんだ、コイツは?」



緊迫が緩み、白けたような空気が広がる。



「……コイツの服装、式服(しきふく)か?」

「魔導師……冒険者パーティか?」

「仲間とはぐれ、夜の森で遭難でもしたのか?」



見るからに、華奢な少女(・・)

荒事など、まるで得意そうでもない。

典型的な、後方支援を専門とする、魔法使いだ。


少女(・・)は、嘔吐(おうと)で肺の水を出し終わって、ようやく立ち上がろうとする。

だが、その足取りも、フラフラしていておぼつかない。



── どうする?


という、仲間同士の目配り。

秘密部隊の暗号(サイン)である、小さなジェスチャーがいくつか交わされた。



── 魔物のエサ。

── ただし、その前に『遊ぶ』。



我々は、別に不真面目なワケではない。

任務は遂行しているし、作戦は順調だ。


ただ、兵士としての福利厚生なんて何もない部隊だ。

こんな貴重な機会は見逃せない。


それにどうせ、泣いても叫んでも、山奥すぎて誰も来やしない。

いや、はぐれた仲間を探す冒険者パーティがやってくるなら、むしろ好都合。

口封じのために探す手間が省けるくらいだ。



目配りで、『お楽しみ(レクリエーション)』の順番が決まった。

最初は、クククッ ── いかん、思わず笑みがこぼれる ── わたしだ。



「お嬢ちゃん、大丈夫かい?

 <回復薬(ポーション)>か何か持っているかい?」



勤めて紳士的に、近づき、その華奢な肩に手を置く。

氷のように冷え切った肌は、しかし、撫で回したいほどに(なめ)らか。


水を(したた)らせる長い黒髪が、黒曜石のようで、美しい。



「ケホ……ッ ケホ……ッ」



相手が、嘔吐の口を拭い、少し顔を上げる。


瞳も黒。

唇は青ざめて、しかし、それが扇情的だ。


肌は、健康的な小麦色で、くすみ一つない磨かれたような麗しさ。



「ホゥ……ッ」



思わず、感嘆の吐息が漏れた。

おやおや、随分と上玉じゃないか。


それに、この、知性と品位を感じさせる顔立ち。

どこかのご令嬢と名乗られてもおかしくない。


── 滅多とない獲物(えもの)

── それも、とびっきりだ。


思わず、内心、舌なめずり。


── ああ、この顔が!?

── 絶望と恐怖に染まり、泣き叫び!

── 最後にはプライドも何もかもかなぐり(・・・・)捨てて、命冥加(いのちみょうが)に何度も許しを()うのだ!


そんな事を想像すれば、もうたまらない!!


ああ、だがダメだ。

じっくりと楽しまなければ。

いきなり、『壊して』はいけない。


手荒にせず丁重に、『最後まで()たせないと』、後で待つ仲間たちに申し訳ない。

背後でそっと捕縛縄を用意して、彼女の肩を抱く。


そして、両手を縛り、くつわを()ませて、驚く顔を見ながら、さてお楽しみと ──



── ……え?


何故、急に月と夜空が……?


どこかで、ガスン……ッと、何か鈍い音が…… ──





▲ ▽ ▲ ▽



「なんだコイツはぁ……!?」



同じ言葉が3度(・・)、発せられた。


その時には既に、半数近い部隊員が地に伏せていた。



── 1人目を、河原の石に叩き付けるように、投げ倒し。


── 2人目に、怪鳥のようなスピードで、宙を舞って襲いかかり。


── ナイフを持って駆け寄った3人目は、腕を折られた上に、自分のナイフで傷を負う。


秘密部隊特性の、即効性の毒が仕込まれたナイフだ。

苦悶の声を上げ、口の端から血の混じった泡を吹き、背骨が折れそうなくらい悶絶しながら、昏倒(こんとう)した。



── その間に、5人ほどが周囲を包囲して、一斉に掛かった。


圧倒的多数による、必倒の陣形のはずだった。


1分ほど、バシバシバシ……ッと、殴打の音が絶え間なく響く。

だが、囲んだ5人の顔に余裕はない。

むしろ、焦りが浮かび、次に驚き、最後に恐怖が浮かび、異様な形相が深まっていく。



── まさか、周囲5人を相手に、攻撃を(さば)いているのか……?


── 暗殺を生業とする神王国の秘密部隊の隊員を、5人も相手に、たった1人で?


── あんな、小柄な少女(・・)が?



見る者の心に、そんな不安がよぎり始める。



突如として、円陣攻撃から転がり出る、小さな人影。

白い服の、濡れた式服(しきふく)の、黒髪の魔導師の ──



── それが、人差し指に<法輪(リング)>を宿して、ひと言。



「【遠隔発動(ブレイク)】」



5人の隊員が、雷に打たれたように身を震わせ、地に伏せた。



「うん。

 通電が怖い【放電(スパーク)】も、これなら使い道が出てくるな」



少女(・・)の姿をした『何者か』は、まるで緊張感のない声で、独りつぶやく。


そして、突然と空気を吸い込み、急に大怒号を発した。



「── キィ・サァ・マァ・ラァアアア~!!

 アゼリアミラーニィィテェダシタンダァッ!

 モオォイノチハイランヨナァアァ!!!」



意味がわからない。

理解ができない。

魔物の叫声(きょうせい)と違いがわからない。


現場に混乱が広がる。



「なんなんだ、なんなんだ、コイツ!?」

「噂に聞く『帝室(ていしつ)密偵(みってい)』か!?」

「知らん、異常だ、まともにやり合うな!」

「そうだ、『アレ』を! <羊頭狗(ガク)>どもを出せ!」



バタバタと、残りの隊員達が茂みの中に駆け込んでいく。



「アハハ……ッ」



白い式服の『それ(・・)』は童女のように笑う。


逃げている、こちらの無様を嘲笑っているのか。

数の不利を(くつがえ)す、自分の武力に()っているのか。



── 見ていろ、バケモノ気取りのガキめ!

── キサマに、ホンモノのバケモノを、見せてやる!

── 神王国の秘密部隊の、本当の恐ろしさ、思い知らせてやる!



そんな隊員達の苛立(いらだ)ちが、恐怖の空気を払拭(ふっしょく)し始める。



しかし、白い式服の『それ(・・)』は、全てを見抜くような黒く澄んだ目で、茂みを一瞥(いちべつ)



「……魔物を、飼っているのか。

 魔物なら、斬っても構わんよなぁ……?」



腰から抜いたのは、<小剣>(ショート)

たかだか40cmしかない小ぶりな武器など、魔物相手には素手と大差ない。


しかも、()ぎの形跡(けいせき)がまるでない。

鈍い輪郭のそれは、どう見ても刃があるようには見えない。



傷だらけの、模造剣(ナマクラ) ──


── それが、何故か。




『青ざめた凶神(きょうしん)』が(たずさ)えると言われる、魂を()る神器 ──


── 『死神の大鎌』のようにも思えた。


!作者注釈!


2022/11/29 聖王国 → 神王国に変更。(聖都と紛らわしいため)




以下、恐怖の実話 ──




そう!!!


誰も!!!


まだ誰も!!!


リアちゃんには!!!


ちょっかい出してないのである!!!!(アフ■田中風)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ