31:大っ嫌いなアイツ
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
河辺で、岩の上に腰を下ろす。
(さっきちょっと、<六脚轢亀>相手に大立ち回りしたので、しばらく休憩に入りますね? )
ふぅいぃ~……っと、ため息がもれた。
腹部の状態を手で触診しながら、<回復薬>をチビチビ飲む。
痛み止め成分が強い<治癒薬>と一緒に飲むと、あまり良くないらしいので、少量だけにしておく。
あとは、魔剣士<御三家>の天才児2人の健闘を見守るだけ。
「臭いので、さっさと止めを差しますのよっ!
とりゃー!」
リアちゃんが、相変わらず水面を駆け回っている。
シュバババ……ッ、キンキンザシュ!、シュバババ……ッ、NINJAゲームみたいなキレッキレッな動きだ。
ログハウスくらいの巨大カメ、<六脚轢亀>は、首の傷からの出血多量で弱ってきたのか、動きに勢いがない。
(大量出血とか、最高の弱体化だな……っ
うん、改めて見ても、良い仕事したぜ、俺っ)
野球でいうなら、9回裏のピンチから満塁ホームランみたいな大活躍。
かぁー、指名打者なんて出番少なくて、つれーわー。
かぁー、ホームラン打ったらすぐにベンチにもどるなんて、マジつれわー。
かぁー、こんな楽してM.V.P.表彰されたら、チームメイトに申し訳ないわー。
そんな事を考えてニヤニヤしていると、リアちゃんがどんどん魔物の首の肉を削っていく。
「もう一息ですのっ」
── ガァ! グガアァァ!
魔物はピンチを感じたのか、さらに激しくドッタンバッタン。
仕舞いには後ろ脚で直立して、その場でボディプレスして津波を起こし、押し流そうとする。
そして、首を引っ込め、防御態勢に ──
「── させるか! 【秘剣・陰牢:弐ノ太刀・影鋒刺】」
俺は、仕掛けていた必殺技を、遠隔発動。
魔物の首の傷口に魔法陣が現れると、2m程の黒い三角刃を召喚!
そのまま、魔法陣を貫くように、傷口に突き刺さる。
(※格闘ゲームだと ←タメ後→+ [P] ボタン弱中強で落ちてくる位置変化)
── グギャァ! グァ! ガァァ!
魔物は、甲羅に首を引っ込めようとしても、【影鋒刺】が邪魔で出来ない。
無理に引っ張れば、刺さっている魔法の刃がさらに首の傷口をえぐり、苦しむだけ。
(見たか陰キャの理想女子、俺の大金星を!)
俺は、思わず立ち上がり、中腰でガッツポーズ。
そして、おっぱい力のステキ…… ── ミス、包容力のステキなメガネ女子に振り返る。
(今なら、キャーって言って抱きついても、ウェルカム!
オー、イエスイエス、カミーン!!)
大分痛み止め薬が効いてきたのか、妄想に歯止めが利かなくなってる。
なんか、全身マッサージされて寝ぼけて喋っているような、ぼんやり夢心地。
そんな事を思っていると、ヒョロい金髪貴公子が、何かガチャガチャし始める。
「時間稼ぎは、ありがたい!
これ、起動に時間がかかるせいで、使いどころが難しいからね!」
貴公子の<正剣>の鍔が、まるっと様変わりしていた。
▲ ▽ ▲ ▽
あえて言うなら『十字鍔』。
貴公子の<正剣>は、鍔に車輪型の魔導装置が付いてない、金属の十字だけ。
天剣流は、<短導杖>も使う『剣と魔法攻撃の二刀流』みたい。
だから、<魔導具>内蔵型の剣を使わないんだろう、とか思っていた。
── だが。
今は、その『十字鍔』に拡張部品が装着。
4本の金属枝の先にそれぞれ2個ずつ計8個、腕輪大の車輪型の魔導装置。
見た事のない、用途不明な<魔導具>。
(何だ、あれ……?)
右目を閉じて【序の四段目:風鈴眼】で、魔法の術式を読んでみる。
かなり複雑で、回りくどく、今ひとつ全体像が見えてこない。
俺が首をひねっていると、魔法使い従姉妹2人の話し声が聞こえてきた。
「8個の<刻印廻環>……
あれは分割詠唱器、しかも『八連環』……?
── メグちゃん、これからの事、よく見ておいてください」
「え、サリー姉、どうしたの?」
「あれは、<天剣流>の奥義の、起動装置です。
それを作成したのは、数百年前の<四彩>の赤 ──
── つまり、わたし達のご先祖様です」
「<四彩>の赤が……赤魔一族が、天剣流の奥義を作った?」
「ええ、当時の<天剣流>当主の要請に応え、あの<魔導具>を作り上ました。
求められたのは、あらゆる魔物を打ち倒せる切り札。
絶大な威力を秘めた、最強の魔法剣。
奥義が、<天剣流>スカイソード家を<帝国八流派>や<御三家>の筆頭とする理由のひとつ。
つまり、最強の魔剣士としての証なんです」
(── 何ぃ、<天剣流>の奥義だって!?
しかも、魔法剣!?)
何ソレ!
俺、聞いてないんですけどぉ!?
『ある』なら『ある』って言ってよぉ!
ソレ知ってたら俺、ジジイの所じゃなくて、<天剣流>に弟子入りしてたわぁ!
本当にそういうの、あるならあるって言ってよぉ!
異世界ハンパねーってぇ!
── そんな内心のグチを零しているウチに、状況は進行している。
貴公子の<正剣>に付けられた8個の車輪型の魔導装置(どうも<刻印廻環>というらしい、初めて知った)が、順に回転していき、『カン!』と鳴っては、次の車輪が回転する。
「最終起動シーケンス、開始。
Ni-haSU-Fu4-Hes-Bay-IyKam-E2-LuYa-To5 ……」
お経か発声練習じみた意味不明な音の羅列の後に、まさに呪文らしき言葉を続ける。
「空を灼く妖かし星を祖とする天剣よ!
夜を明かした四片の煌を地に示せ!」
おそらく、強力な攻撃魔法だからこその安全装置みたいな物なんだろう。
呪文か暗証文字列みたいな言葉が終わりると、魔法が起動した。
<刻印廻環>8個で作りだしたのは、緻密すぎる魔法陣。
空白を一切許さないように、全て魔導文字で埋め尽くされている。
まるで、前世ニッポンで見た懐中時計の中身みたいな、精密の極限への挑戦だ。
それが、剣身の真ん中に刺さったような形で回転する。
「何よ、あの魔力量……っ」「これが、<天剣流>の奥義……っ」
魔法使い従姉妹2人も、思わず息を呑んでいる。
直径90cmほどの円形魔法陣は、見るからに滾る魔力が半端じゃない。
特級の強化魔法の、数倍の魔力が込められている。
普通、強化魔法は、同級の攻撃魔法の5~7倍の魔力消費だ。
(── と言う事は、あの攻撃魔法一つに、特級の攻撃魔法の数十倍!?
特級の攻撃魔法だけでも、効果範囲が数十mくらいあるっていうのに!?
アホか、辺り一帯焼け野原にする気か!?)
俺が止めようかと迷っている間に、貴公子は奥義を完成させていた。
「── 解式、【魔法剣:天星四煌】」
その言葉が引き金だったのか、円形魔法陣が3層に分離し、それぞれ違う速度と方向で回転を始めた。
「アゼリア君、離れてっ
── ハアアァァ……ッ!」
貴公子が金髪たなびかせて、飛び出す。
特級強化魔法らしき魔法陣を背に、スゴいスピードの長距離ジャンプ。
「── もう、なんですの……っ」
魔物とタイマン状態だったリアちゃんが、水面を跳びはねて回避。
入れ替わるように、貴公子がショルダータックルみたいな体勢で、魔物へ切迫。
空中で急回転して斜め回転の薙ぎ払いを、魔物の長首に叩き付けた。
── ギャオォッ!?
死角から強襲をくらった魔物は、血走った目で振り返る。
鼻息荒く暴れ出し、周囲を薙ぎ払うように、グルングルン……ッと大回転。
貴公子はすでに、攻撃後即退避で素早く離脱している。
河川敷を転がり、立ち上がると、右手の人差し指を突き出した。
「── 【遠隔起動】!」
貴公子の指先で自力発動の<法輪>が回転し、『チリン!』と起動音。
すると、魔物の首の傷に移動していた3層魔法陣が、ふたたび一つに融合 ──
── 途端に、紫色の閃光と、大地を揺るがす衝撃波!
巨大な魔物も、紫の爆炎に呑まれた。
さらに、まるで天へと伸びる太い柱のように、紫色の爆発光が立ち上る。
「キャァァッ」「ヒャァァッ」「うわぁっ」
── グオォォ……ッ
そんな悲鳴や断末魔すら、ドォ……オオオォォ……ンッ!という爆音にかき消される。
薙ぎ倒されそうな、強圧の爆風。
それが収まったと思った瞬間、逆方向の突風が吹き始め、吸い寄せられそうになる。
「またぁ……ッ」「ウワァッ」「くそぁっ」
1分近く、爆圧と爆縮の風にもてあそばれる。
風が収まって、ようやく目を開ける。
と、そこには唖然とするような光景が広がっていた。
「── マジ、かよ……」
爆発の衝撃でまきあげられた大河の水が、ザーザー…ッと、にわか雨みたいに降る中。
あれだけ硬かった甲羅は、その一部が残るだけ。
<六脚轢亀>は、体積の8割近くが吹っ飛び、原型もとどめてなかった。
▲ ▽ ▲ ▽
「マジで、『魔法剣』だった……っ」
ショックだった。
ショックすぎた。
思わず、河川敷の石ころまみれに、四つん這いになるくらいショックだった。
理想「言ったよね!?
『魔剣士の技は地味、スゴい必殺技は自作するしかない』って!
なのに、この結果は何!?」
現実「ジジイが達人とはいえ、全ての流派の奥義を把握してる訳がない……
当然の結果です……」
理想「もういいよ!
ワテクシ、異世界転生やめる!」
── そんな、俺の脳内会議。
(本当に。
やめれたら、どんなによかった事か……)
必殺技の再現!
異世界で唯一の理想の『魔法剣』!
それだけが、俺の自己肯定。
格闘ゲームも何もない、大好きだった娯楽のない、クソみたいな異世界の生活での、唯一の心の支えだった。
(ああ、格闘ゲームやりてぇ……)
『スト』『鉄拳』『DoA』『SC』『GG』の新作が気になるし。
名作の『侍魂』『月華』『餓狼』とか定期的にやりたくなるし。
久しぶりに『100メガショックなゲーム機の起動音(テレレンテレレン♪)』とか『初期の残●拳』とか聞きたいんだよ!
(もう、15年!
異世界転生して、15年だぞ!?
15年間ずっと、格闘ゲームできてないんだぞ、解るか!?)
あー、ちくしょー、挑発伝説してーな。
おっしゃ、どうしたどうした、らっちゅっ、ひゃっほーい、おらおらおらおらおら、なめんじゃねえぞ、よゆう!
(── 『よゆう』じゃねえよ!
なんも、余裕じゃねえ!
魔物と命がけの殺し合いさせられてんだぞ、こっちは!
しかも、魔剣士の才能ゼロという、チート全滅な身の上だし!)
ああ、このストレス解消に、アーケード用コントローラーを、ガチャガチャしたいっ
時々、息抜きにクレーゲームで、使いもしない便利グッズとかもGETしたい!
── ねえ現在のニッポンの人、S■K復活した!?
── VR機が流行ったけど、覇権取りそうな格闘ゲームとかもう出た!?
── 俺らのウメ▲ラいまどうなってんの、まだ現役でやってる!?
(誰か教えてプリーズ!)
そんな、俺の乱れまくった内心。
そこに、イラッとくるほど得意げで、脳天気な声が聞こえてくる。
「── 仲間と協力して敵を倒すって、いいもんだよね、へへへっ
いやー、ロック君とアゼリア君がいなかったら、僕ここで死んでたかも」
「あ、マァリオさんっ
さっきのスゴかったですっ
パーティ組んで2年経つけど、わたし天剣流の奥義って、初めてみましたよ」
「まあ、門外不出の奥義だからね?」
「ふ、ふん……
まあ、赤魔一族のご先祖が作っただけあって、結構スゴいじゃない?」
「ああ、流石は<四彩の姓>の傑作だよ。
でも威力が高いから、なかなか出番がないのも事実だけどね」
相変わらず、女の子にチヤホヤされやがって!
だいたい、男1に女の子2というハーレムパーティなのが気に入らねえ!
── 痛み止めの副作用で、感情が暴走して止まらない。
グツグツと、怒りが煮えくりかえる。
そんな苛立ちMAXな時に、空気読めない人間性カスな金髪貴公子が、にこやかに近寄ってくる。
「── ロック君!
さっきのさ、あの『ヒョロ』っていうの、僕の事だよね?
やっぱり、あれかな?
あだ名で呼び合うっていうか、そういう、男同士の親愛っていうか?」
「うんうん」
笑顔の言葉に、笑顔で肯きはする。
ただ、怒り心頭すぎて、何を言われているのか、まるでわからん。
「ああ、やっぱり……っ
ちょっと、照れるなぁ……
あんまり僕、あだ名とか付けられた事ない、って言うかさ……
── まあ、何にせよ、助かったよ、ありがとうっ」
金髪貴公子が、ス……ッと、右手を出してくる。
利き手を預ける、握手。
無上の信頼の証 ── そういう異世界魔剣士の習性らしい。
俺はそれに応える ── と見せかけて、思いっ切りはね飛ばす。
「── え……っ」
「お前、大っ嫌い」
おwもwいwっwきwりw
笑顔のまま、握手の手を引っぱたいたったぁwwwwww(完全八つ当たり)
「……え?………………ええ?」
金髪貴公子、ドン引き。(1勝目)
すると、カッカッするうるさい子が、代わりにしゃしゃり出る。
「ちょっとアンタ、それヒドくない?
何が気に入らないかしらないけど、急にそんなに怒んなくてもよくない?」
「うるせー瞬間湯わかし器みたいなキーキーヒス女がえらそうに説教こいてんじゃねぞっ
ダストで浮かせてエリアル入れるぞコラーっ」
「ちょ、ちょっと、コイツ、なんかおかしくない!」
「さわぐなわめくなコッチはケガ人なんだ静かにできんのかヒスおんなぁ?
お前そもそも魔物の森の中入ってる自覚あんのか危機感ゼロのバカ女が!
ダウンからの起き攻めで延々と転ばせ続けてサメのエサにすんぞ!」
「……やっぱ、目つきおかしいわよ、コイツっ」
赤髪少女も、ドン引き。(2勝目)
「あああ……ついに、ガイドさんまで……
どうして、みんな、そんなにケンカばかりするんですか……?
うう、わたし、お腹がキリキリします……」
メガネ年上女子に至っては、不戦勝!(3勝目)
イエーイ、3連勝、完全試合だぁ!
ユー・ウィンッ、パーフェクトぉ!
そんな騒ぎを聞きつけ、銀髪お嬢様な妹弟子が近寄ってくる。
「一体、なんですの……?
どうしましたの、お兄様?」
「もうこんな連中に付き合ってらんねー!
リアちゃん、今すぐ山小屋に帰ってス▼ブラだ! MU●ENでもいいよ!
── 何で異世界転生してまで女好きの引き立て役やらないかんのじゃ、ボケー、『あっかんべー』だ!」
ダブルでF*CKな中指して、舌だして逃げていく、俺。
「よ、よく解りませんが……リアも『あっかんべー』しておきますっ
『べー』っ!
── ああ、お兄様まってくださいまし、速いですのぉ」
ダッシュで、魔物の森を突き抜ける俺ら、兄妹弟子2人。
そして、しばらく走った後に、途方に暮れる。
(……よくよく考えれば、ヒョロい金髪貴公子の『空飛ぶ駒』でここまで来たんだったっけ?)
つまり、自力で帰る手段がなかった訳だ。
── 結局。
何か色々、メガネ年上女子に取りなしてもらい。
どうにか<翡翠領>まで、行きと同じように5人で戻るハメになった。
睡眠薬が入っていて何か意識がボヤボヤだとはいえ、なんだか随分やらかした。
帰路は、沈黙がヒドい。
時々誰かが何か喋っては、から滑りする。
なんという、くそ気まずい空気……
(ワテクシって、ほんとバカ……!)
俺、反省。超反省。
!作者注釈!
2022/05/07 新技のコマンド抜け落ちに気付いたので修正(影鋒刺)