30:怒り頂点
!作者注釈!
今朝の予約更新が未完了のまま掲載してしまったので、一度消去してから、再度掲載しなおしています。
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
さて、話が込みいってきたので、ちょっと経緯をおさらい。
・ リアちゃんの幼なじみ野郎の、厄介な依頼に同行
↓
・ ヤベえ魔物が出てきたので、男子・女子でチーム分けして1匹ずつ担当
↓
・ ヒョロい金髪貴公子を囮にして、後ろから必殺のぉ ──
↓
・ ── その最高のタイミングで、横殴りの『吐息攻撃』でぶっ飛ぶ俺
↓
・ 紙装甲を悔いながら<治癒薬>で回復中 ←[今ここ]
という状況だ。
回想おわり。
なにはともあれ、今は体調回復が最優先。
呼吸を深く、痛みを鎮め、乱れた魔力を整える。
(狂戦士状態のリアちゃんが倒しきる前に、必ず一太刀は入れてやる!
俺のカタキは、俺自身で取る!
妹弟子に頼るのは、俺が殺された後だけだ!)
だが、あの魔物の隙をつくには、新しい手が必要だ。
新しい必殺技 ── つまり、新しい魔法の術理。
痛みが大分ひいてきて、余裕が出てきたので、周囲をよく見渡す。
(お、これは……?)
メガネ女子な魔法技工士のそばに、2本の<中導杖>。
見た目、前世ニッポンの修験者やら山伏がもってる杖の、輪っかをデカくしたような感じ。
1mちょいのシャフトの先に、『地球儀の枠』くらいの術式の輪が付いている。
そこには、さっき<六脚轢亀>の激硬の甲羅をカチ割った、水の攻撃魔法【滑翔・破響蛙・改】の術式が刻まれている。
(あの青カエルを空中移動させた魔法……使えるかもしれんっ)
俺は、小指の指輪に擬態した待機状態の<法輪>を解放。
腕輪の大きさに広がった<法輪>と、<中導杖>に刻まれた魔法文字を見比べ、再編集していく。
すると、俺の両脇の魔法使い従姉妹2人が、何か騒ぎ出す。
「すごいです……こんな精緻な……
複雑で緻密で美しい……こんなオリジナル魔法、見るの初めてです……っ」
「── へ? サリー姉、まさかコイツ、自力詠唱でこんな複雑な魔法を!
え、あ、ウソぉ、<法輪>の術式がどんどん変わっていってる……っ!?」
「あ、ありえません! こんなのありえない……っ
すでに一度構築した術式を、書き換えるなんて、聞いた事もありませんっ」
「っていうか、コイツの指にはまっているの全部、魔法の<法輪>!?
ウソでしょっ、両手の指、全部そうなの!?」
君ら、人の真横で、グチャグチャうるさいな(半ギレ)?
(今、割と真剣に術式構成を考え直しているんだって。
だから、ちょっと静かにしてくれねえかな?)
そんな俺の思いが伝わったのだろう。
女子2人は、ちょっと離れて話をしだしたので、作業に集中できて大変ありがたい。
「10個の魔法を、同時に……
『三重』や『四重』どころか……『十重』?」
「── デ、『十重詠唱者』って……!?
サリー姉、そんな事、本当に人間に可能なの……?」
「わ、わかりません……
だけど半分の『五重詠唱者』ですら、世界中で5人しかいないはずです……」
「もしかしてコイツも、<四彩の姓>の直系だったりするワケ……?」
そんな感じの周囲の雑音と、魔法ダメージか溺れかけたのかの後遺症的な頭痛と、苛立ちに精神を乱されながらも、なんとか必殺技シリーズ1種の改良を終える。
(── あとは、だ……)
腰の<小剣>、を抜き、近くに落ちていた木の枝に向ける。
魔力を、ギザギザに、ささくれ立った精神の形そのままに。
鋭く尖らせ、棘の群を並べていく。
有刺鉄線か、あるいは、イバラの鞭か。
そんな風に、魔力の形状を変化させ、変質させ、愛剣ラセツ丸の剣身を『俺の腕の延長』と錯覚させて魔力を巡らせていく。
そして、それを『走らせる』。
── ギャリギャリギャリ……ッ、と木の枝が切断。
より正確には、『削り切れ』た。
(よし、新作のチェーンソー風の魔法付与完了!)
さて、名前はどうするかな?
元が【序の一段目:断ち】で、その変化系なんで……──
──……まあ、【序の一段目:裂き】くらいでいいかな?
変に凝っても、覚えにくいし。
「ふぅぅ……」
そして、俺は息を深く吸い込みながら、立ち上がる。
まだまだ腹の内側は痛むが、痛み止め薬の効能でガマンできるレベルになってきた。
今こそアレを叫ぶ、絶好の機会!
「── 『怒り頂点なりぃ』!」
俺は、烈火と闘志を滾らせながら、天を仰ぐ。
── なお、魔法使い従姉妹2人は、俺の背後で、
「サリー姉、今の一体、何……? アイツ、一体なんなの!?」
「わかりません、もう、何がなんだか、わたしにも全くわかりません……っ」
とかなんとか、まだ何か騒いでいた。
ホンット、おしゃべり好きの従姉妹2人だな。
▲ ▽ ▲ ▽
「リアちゃん、俺が行く!」
俺の叫び声は、同士討ちを避けるための注意喚起。
すぐに『チ・チリン!』と魔法の起動音を2重に鳴らしながら、魔法の加速で飛び出す。
文字通り、水面すれすれを飛翔して。
強化魔法の魔法陣を背負い、疾風の如く。
一直線に異常個体<六脚轢亀>へ!
── バクゥン!!
巨大カメの長首が、蛇のように待ち構え、一撃必殺!!
まさに、飛んで火に入るナマクラ剣士!
そんな感じで、俺が、一撃で必殺される!
「── なにやってんのよ、アンタぁ!?」
「ろ、ロック君……っ!? 今、助けるっ」
あにでしは しんでしまった!(デデレ~ン♪)
「── 違いますわ! そっちは魔法で作った幻影ですの!
お兄様の背に強化魔法の魔法陣は、ありえませんのよ!」
さすがは5年の付き合いの、妹弟子。
一発で幻像(魔法で作った幻影)の違和感を見抜いてくる。
幻像を覚えた時、お互いにドッキリ仕掛け合ったり、いろいろ遊んだ仲だしね?
「── ふ……っ
そっちは幻像だ……っ」
巨大カメの鎌首に噛み付かれた『幻像の俺』が、桜の花びらに成って散っていく。
これぞ第4の必殺技、【秘剣・散華】。
(※ 格闘ゲームなら ↓↓+ [K] )
その隙に『実体の俺』は魔物の甲羅の上に着地している。
こっちの移動は【秘剣・速翼:四ノ太刀・夜鳥】だ。
(※ 格闘ゲームなら ↙→ + [K] )
── 道場破りで使った移動のみの【速翼】を、大幅特化。
スピード特化の、隠密機動に作り直した新技だ。
いきなり噛み付いた獲物が消えて戸惑う巨大カメ。
その長首へ向かって、離れた位置で<小剣>を振り下ろした。
「くらえ、【秘剣・三日月】!」
不意をついた飛び道具系必殺技も、ガス……ッ、と鈍い音で魔物の硬い表皮を傷つけるのが精々。
大したダメージにもならない。
むしろ、幻像魔法だと気づいた魔物を、おびき寄せるだけ。
挑発行為。
── グオオオォ~~ッ!
鎌首が振り返り、巨大カメの大口が迫る。
作 戦 ど お り !
「── あぶないっ」
遠くで叫んだのは、誰だったのだろう。
「ふん……っ」
俺は、心配するなと不敵に笑って親指を下に向ける。
左親指の指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法輪>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
── ガッ!? グガァ~~ッ!
魔物の大口が、俺の2m先で見えない『何か』にぶつかり、唇や歯肉を傷つけて血をしぶかせる。
「【秘剣・陰牢】っ」
これが最新の、第五の必殺技。
さっきの【三日月】が飛ぶ斬撃なら、この【陰牢】は見えない据え置きの斬撃。
(※ 格闘ゲームなら ↓タメ後↑+ [P]
跳び込み・突進対策の設置攻撃。ノックバック長め)
見えない『刃』である【陰牢】で、縦3×横3の6本組みの『刃の防御柵』を作り、盾代わりにしたワケだ。
── グオッ? グオッ!? グオォォ!
魔物は思いがけない痛みに驚きながらも、再度、見えない『刃の防御柵』の方へ首を伸ばす。
だが、困惑やためらいのせいで、先ほどのような強烈な勢いがない。
俺は、中途半端な噛み付き攻撃をしてくる魔物へ、一歩踏み出す。
次の必殺技のため、右手の中指の<法輪>を起動。
「【秘剣・木枯】!」
ザクザクザク……ッ、と、秒間20連の超速突き。
【陰牢】の見えない『刃の防御柵』越しに、目の周り・鼻先・腔内と、比較的やわらかい肉を、メッタ刺しだ。
── ガ! ガァ!? グオォォォ~~ッ!!
魔物は痛みにのたうち、すぐさま激怒して、鎌首を叩き付けてくる。
魔物の捨て身の攻撃が2回ぶつかると、『刃の防御柵』はガラスのように砕け散った。
「── おっと……っ」
軽自動車の突撃じみた、巨大頭の噛み付き攻撃を、ギリギリで左回転して躱す。
技の出が早く、終わりの隙が短いのも、【木枯】の特徴だ。
俺は、再度、中指の<法輪>を起動。
今度は、左手。
「【秘剣・木枯:参ノ太刀・星風】!」
ギリギリで回避した魔物の大木のような鎌首に、連続斬りを3発。
さっきの開発したばかりの【序の一段目:裂き】でチェーンソー刃にして振り回し、ズギャンッズギャンッズギュゥゥン!、と『*字』にブッた斬る。
── 【木枯】の突きは、デカい魔物には効果が薄い。
人間で例えれば、毛針くらいでチクチクされているような物なんだから、そりゃそうだろう。
その欠点を補うための新バリエーションがこれ、【参ノ太刀・星風】だ。
(※ 格闘ゲームなら →↘↓↙←+ [P]
コマンド投げ。技終了後、自分がバックジャンプ)
斜めに切り上げつつ回転し、さらに斜めに切り下げ、締めの1撃はジャンプアッパーの要領の斬り上げ。
さらに細かく言うなら、最後の一撃は体勢低く敵の下に潜り込んで、大きく斬り裂きながら飛び上がり、後方ジャンプの回転宙返りで離脱。
連撃と後退が1セットの動きだ。
── ギャワァァ! グギョウオオォォォ!
巨大カメ<六脚轢亀>は、激しく首を震わせて、流血をブシャブシャと噴水みたいに飛び散らせる。
どうやら、頸動脈でもブチ斬ったぽい。
(しかし、この【序の一段目:裂き】すごいぜ、さすがはチェーンソー!
イヒヒヒィ~~ッ、コイツの斬れ味はァ、最高だァ~~~!)
……でも、魔力の制御が、クソ面倒で発狂しそう。
ほら、裁縫用の針の穴に糸を通すみたいな細かい事をしていると、指がツリそうになるじゃん?
魔力を操作する感覚が、そんな感じで、脳ミソがコムラ返り(?)な気分。
出来れば、あんまり使いたくない。
(うん、いざという時限定の奥の手だな、これ……)
「── なんかスゴい事したわよ、アイツっ!!」
うるさい子の叫び声が聞こえる。
俺は、河岸に着地するとすぐに撤退しながら、叫びを上げる。
「── リアちゃん、貴公子、止めだ! 首落とせ!」
「はい、ですのっ!」「任せてっ」
一応は突破口を開いたので、俺はもうベンチ入りでいいだろう。
怪我人は大人しく観戦にまわり、後始末は<御三家>天才児2人に任せることにした。
!作者注釈!
2022/05/07 新技のコマンド抜け落ちに気付いたので修正(陰牢と星風)




