27:期待(いとしさ)と重責(せつなさ)と同情(こころづよさ)と
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
巨大カメの無敵装甲に、メガネ女子サリーさんの魔法カエルが炸裂。
あれだけ頑丈な甲羅に欠損が出来た。
<御三家>直系のヒョロ貴公子が、パーティメンバーに選ぶだけある。
彼女、魔法に関しては、かなりのやり手だ。
(メガネ、性格、能力、スタイル……パーフェクトだ!
根暗男子の理想と言っても過言ではないな!)
おっぱい星人のいち押し女子です。
あ~……彼女と術式談義しながら、魔導書やら魔法材料をウインドー・ショッピングしてーわ。
前世ニッポン流に言い直せば、『秋葉原で女子とキャッキャウフフなPCパーツあさり』って感じか。
そういうの、前世からの夢でした。
そんなバカな事を考えていると、背後から声がかかる。
「いくよ、アゼリア君、ロック君!」
ヒョロ貴公子が<正剣>と<短導杖>を持って、先陣をきった。
金髪ボブを風に揺らして、冒険者パーティのリーダーらしく崖から颯爽と飛びだしていく。
「わたくし、貴男に指図されたくなくってよっ」
ブスッとしながらも、リアちゃんも背中から<正剣>を抜いて、崖から飛び降りる。
俺も<小剣>の模造剣・ラセツ丸を抜いて、その後に続く。
「じゃ、片付けるか ──」
と、崖から飛び降りる寸前で、急に腕を捕まれた。
というか、腕を掴んで引き倒された。
不意打ちだったんで、抵抗できず、尻餅までついた。
すると、もつれて倒れた年下女子メグが、顔を真っ赤にして叫んでくる。
「── バカバカ! アンタまで行ってどうすんのよ!」
「いや、どうするも何も、手伝い。
魔物が半端なくデカいから、止めをさすのに、人手が多い方がいいだろう?」
「バ、バッカじゃないの、アンタ!
落ちこぼれのクセに、変にカッコつけないでよ!
だいたい、身体強化の腕輪ひとつも持ってないじゃない!
普通の人間が行っても、魔剣士の人の足引っ張るだけでしょ!?」
「いやぁ、うん、まあ……
そりゃ俺、落ちこぼれの無才だけど……」
「じゃあ、ここで大人しくしてなさい!」
「………………」
ええ~……。
まあ、ヒョロ貴公子とリアちゃん、どちも<御三家>直系で天才レベルの魔剣士なんで、このまま任せてても大丈夫だろうけど。
(せっかく『お目付役』から、必殺技の使用について限定解除を頂いたのに……
このまま指くわえて見てるだけなのか、俺……?)
いや、別に暴れたい訳じゃないけど。
せっかく3週間ぶりに、好きなだけ『必殺技』使える機会なんだし……
しばらく魔物を斬ってないから腕が鈍りそうだし。
道場破りの後、色々改良したから、『必殺技』の試し撃ちしたいし。
(── ああ、ごめん、ウソつきました。
俺、 超・暴れたいです!
せっかくのチャンスなんで、憂さ晴らしにハデに暴れてやりたいです!)
そんな事を考えていると、崖の下から、随分と長く『グォ! グオオォ!』とか魔物の叫び声が続いていて、中々終わりそうにない。
「ああ! お兄様がいませんのっ」
「ええ、ロック君、どこ行ったの!?」
そんな声すら聞こえてくる。
すると、怒りっぽい年下女子メグが、また謎の沸騰スイッチ入ったらしい。
ドシンドシン、と大股歩きで崖の下を覗き込み、真っ赤な顔で叫び始めた。
「マァリオも、妹弟子のアンタも、バカじゃないの!
自分が魔剣士の才能があるからって、他人にまで押しつけないでよ!
コイツとか、身体強化の腕輪も持ってないのに、魔物と戦えるワケないじゃないの!!」
すると、崖の下からシュパーンッ!、と跳び上がってくる人影。
銀髪美少女が、目と口を吊り上げた、すさまじい形相で戻ってきた。
▲ ▽ ▲ ▽
── あ。
ア、アカン……リアちゃん、目が据わってる。
ヤバいくらい怒ってる……。
いつもの可愛らしいプンプン怒りではない。
ニッコリ笑顔で内心ガチ切れしてるパターン。
「……何を言ってるんですの、貴女?」
「だ、だからっ
才能ないヤツに、無理して戦えなんて、ヒドいじゃない!?」
「『才能ない』、とは誰の事ですの?」
「だから、コイツ!
アンタの大事な、オニイサマよ!
人には出来ない事があるんだから、無理にさせないでよ!
アンタだって、大事なオニイサマがケガしても平気なの!?」
年下少女メグは、怒りを越えて半泣き状態。
赤の他人の事でエキサイトしすぎだろ、この子。
(あるいは、俺の境遇に『誰か』の事を重ねて見ているのか……?)
他人様を不遇をダシに、自分のストレス発散をしないで欲しいもんだ。
いわゆる八つ当たり案件ですね、迷惑な。
ウチのリアちゃんも、そう判断したらしい。
ピリピリした感じが減り、ちょっと声に失笑が混じってきた。
「違いますわ。
それは、貴女の事ですわよね?
『才能がない』『出来ない事がある』『無理にさせないで』 ──
── これ、全て、貴女自身の事ですわよね?」
「う、うるさい、アンタに何がわかるのよ!
アンタなんて、天才で、『剣帝』の弟子で、後継者で、<御三家>のお姫様で!
そんなに恵まれてたら、才能のないヤツの事なんて……!
ワタシのツラさなんて、何もわかんないでしょ!?」
「知りませんわ。
貴女の事など、一つも知る気もおきませんの。
勝手に兄弟子を無能同士扱いしないで欲しいですわ。
確かに、わたくしのお兄様には『魔剣士として才能』がありませんが……、だからといって、無能ではありませんのよ?
── 貴女とは違って」
「はあぁ……ぁっ!?
なんっ、ですっ ──」
「── 聞きなさい! 怠惰な無能女!
お兄様は、魔剣士として恵まれない身で、新たな地平を切り開きましたの!
このアゼリア=ミラーが兄と呼ぶ方は、10年先には『最強の剣士』と呼ばれ、後世の歴史で『魔剣士の中興の祖』として崇められる。
そのような、スゴい方なのですわ!」
「何言ってんのよぉ!
コイツ、剣帝から破門された一番弟子なんでしょ!?
だからアンタが、剣帝の後継者になったんじゃない!」
いや、メグって。
他人を、指差すな。
このガキ、まったく礼儀がなってねえな。
あとお前、俺を『コイツ・コイツ』と呼んでるけど、そんなに仲良くなった覚えねえぞ?
「仮に、『破門』が真実だとすれば、おかしいですわね。
なぜ、わたくしやお師匠様 ── 剣帝一門が、なぜお兄様と一緒に生活してるのです?
この依頼に、連れ立ってきた理由は?」
「し、知らないわよ、アンタたちの理由なんて……
── でも、コイツがそんなにスゴいなら、なんで身体強化の腕輪も持ってないのよ!?
『無強化』で魔物と戦うなんて、そんなの大昔の戦士じゃあるまいしっ」
また、俺を指差しやがった。
しかも、他人様の顔に指を向けるとか、最悪だぞ、それ。
メグ、ガチで失礼なガキだな。
他所様の子でも、本当にケツ蹴っ飛ばすぞ?
「さっきも何度も何度も、説明しましたわ。
お兄様が編み出した、オリジナル魔法の『必殺技』 ── 」
「── さっき何回も聞いたわよ!
『決まった動きを繰り返す魔法』なんでしょっ
そんなの、何の役に立つのよ!?」
「……どんな未熟者でも、熟練の剣技を繰り出せる。
複雑で習得の難しい秘技も、簡単に再現できるっ
まさに、魔剣士のために生み出された、究極の魔法!
お兄様の『必殺技』を知れば、<御三家>どころか<帝国八流派>も、魔剣士流派の全てが、喉から手が出るほど欲しがりますわっ」
リアちゃんは自信満々に言い放つ。
そして、イタズラするような笑顔で、メグの顔を覗き込むように続けた。
「『必殺技』が、どれほど凄まじい発想と技術の結晶なのか、その程度も解らないのですの?
── 古代魔導の復興を目指す<四彩の姓>直系のくせに?」
「アンタ、それを知ってて……っ!?」
「魔法技工士の名門ハートフィールド家。
いえ、それに限らず魔導の名門は大抵、<四彩>どれかの血縁。
『名字を名乗らない従姉妹』なんて紹介されれば、誰だってそう思いますわよ?」
「うぅ……っ」
何か、ウチの妹弟子が、年下少女メグの秘密を言い当てたっぽい。
(ふ~ん、<四彩の姓>、ねえ……。
聞いた事ねえな、帝都の魔導関係の何かか?
帰ったらジジイに聞いてみよう)
あと、リアちゃん、なんか推理的中してドヤってるけど、さぁ ──
── お前、『昔なじみの顔や名前どころか、存在すらド忘れしているポンコツ』だからな?
「── 将来すべての魔剣士が『奥義』と重用する、剣技と魔法の融合!
そんな『必殺技』を編み出したお兄様が、弱いですって……?
貴女、他人を見る目が、まるでありませんのね!」
「……知らないわよ、ワタシ。
そんな……そんな、みんな勝手な期待ばかり、勝手に押しつけて……
アンタだって、コイツ出来ないのにムリして、それで死んじゃったら……っ
そんな事になっても、ワタシ、知らないから……っ」
▲ ▽ ▲ ▽
── 再発した女子の口ケンカが、微妙な空気で終了!
しかも結局、いつまでも噛み合ってないというか。
お互い、空気とケンカしてる感じだよな。
(これって、ウチのリアちゃんが、コミュ障なせい?
それとも、怒りん坊メグが、他人の言う事をきかないせい?)
どっちもどっち、というか。
微妙なラインだな、これ。
(あと、リアちゃん。
君が兄ちゃん大好きなのは知ってるけど、あんまり変に持ち上げられると、無才の身で居たたまれないので、ちょっと加減して下さい……)
正直、顔から火を噴きそうだわ……
身長も体格も魔力も、何もかもが足りない俺が、『最強の剣士』とか……
(── ヤメろヤメろ!
マジ恥ずい!
恥ずかしすぎて悶死するレベル!)
あとは、まあ、俺の作った『必殺技』はぁ……。
うん、将来、流行るといいね……?
正直、前世ニッポンの格闘ゲームみたいに『終わったコンテンツ』にならなきゃ良いよ、もう。
そんな事を考えていると、崖の下から、やたら必死な声が聞こえてくる。
「── アゼリア君!?
アゼリア君までどこ行ったの!?
もしかして、僕ひとりで、この<六脚轢亀>の相手しないといけないの!?
ウソだよね!
これ、異常個体だよ!
すごい危険な魔物なんだよ!
さっきの<外骨河馬>より危険なんだよ!?
ちょっと、サリーさん、メグ君、誰かぁー!
誰でもいいから、ちょっとだけでも、加勢か支援してくれないのぉ!?」
怒った魔物の、グォ! グオオォ!、という雄叫び。
ガキン、キンキン! カァン!という切迫した剣撃音。
その二つが、混じり合って響いてくる。
ものの見事に、仲間全員撤退、という状況だ。
いや、そんなつもりは欠片もなかったんだが。
すまん、マジですまん。
(ヒョロ、お前ぇ……
なんか、さっきからすごい不憫な感じが……)
幼なじみに、『お前誰?』とか言われる。
なんか変な極秘任務とか押しつけられる。
連れてきたお仲間は、足引っ張るばかり。
ひとりっきりで、激ヤバ魔物と2連戦中。
── 実は、このヒョロ貴公子って。
結構、不幸の星の下で、必死に生きているヤツなのか……?
『この金髪さわやか貴公子さまがぁ! 非モテのツラさを教えてやろうか!? モテる男子はいねがー!? 女遊び激しい悪い大学生さぁいねがー!? ヤリサー合コンお持ち帰り常連エンジョイ勢チーッス! 俺もそんな青春したかったわー! 』
とか、お前のこと勝手に、一方的に嫌ってた。
なんかゴメンな……。




