26:カメVSカエル
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
俺ら絶賛、魔物からターゲット中。
後ろから、ベキベキ、ボキボキ、ズシャンズシャンと、豪快な音が響いてくる。
推定50トンの巨大カメが、猛ダッシュで追ってくるんだらか仕方ない。
ほぼ、ブルドーザーで森林開発、という状況だ。
枯れ木だらけの陰気な森は『ただいま整地工事中、ご迷惑をかけます』みたいな状況だ。
前世ニッポンの幼児向けアニメなら、山の主とかが怒って、工事のおっさんに呪いとかかけちゃいそう。
まあ、その『山の主っぽいヤツ』が、俺を追っかけながらグオ!グオ!とか言ってる訳だが。
(しかし、意外と足が速い……
カメって陸じゃ、もうちょっとノロマな印象だったけど……)
異世界だけあって、魔法の不思議パワー満載なワケで。
そこで生存戦略してる理不尽生物に、前世の常識を求めても仕方ない。
(でもまあ、俺の大好物の空飛ぶサメに比べたら、まだ常識的な方か…)
足下に猛毒の草を見付けて、あわてて飛び越える。
あぶねー、アレ、触っただけで火傷みたいなヒドい事なるヤツだ。
周囲をよく確認しつつ、併走する銀髪美少女に声をかける。
「リアちゃん!
せーので、やるぞ!」
「はい、合わせますわっ」
さすがは5年の付き合い。
妹弟子は、以心伝心で『必殺技』を準備。
リアちゃんと呼吸を合わせて、振り向きざまに剣を振る。
「せ~のっ!」「いきますのっ」
ほぼ同時に魔法発動し『チリン!』と起動音が一つに重なった。
俺ら2人がそれぞれ繰り出した、【秘剣・三日月】が×字に重なる。
いわば『×字三日月・兄妹弟子バージョン』。
飛び道具系必殺技が、枯れ木の合間を抜けて飛ぶ。
しつこく追いかけてくる魔物へ、意表を突いた反撃だ。
── グオォッ!?
しかし、丸太小屋くらいの巨大魔物は、重鈍そうに見えて、素早く反応。
滑りながらも急停止して、双頭を甲羅に引っ込めた。
── ギギィン……ッ!、と金属盾を斬りつけたような音が響く。
渾身の『×字三日月』は、すこしだけ甲羅を傷つけただけに終わる。
しかし、今はそれで十分だ。
だって、動きを止める事が目的だったワケだ。
ついでに、甲羅の強度も確認できたし、戦果としては上々。
そんな俺の考えや動きを、長い付き合いの妹弟子も読んでいる。
甲羅に双頭を隠したままの魔物の横を、左右に分かれて駆け抜ける。
「じゃあ、また後でなぁっ」「バイバイですの、とりゃー!」
ついでに、動きを止めた魔物の、大木の切り株みたいな脚を攻撃。
左右の脚6本とも、通りすがりに斬り裂く。
とは言っても、硬くて厚い表皮を裂いて、血をにじませる程度がせいぜいだ。
── ギャッ! グギャア!
背後から、怒りの雄叫びが響いてきた。
後ろをチラ見すると、<六脚轢亀>の異常個体が、怒ってブンブン双頭を振り回している。
だけど、調子に乗って、森の奥まで俺らを追い回したのが仇になった。
魔物自身が倒した枯れ木がメチャクチャに積み重なり、巨大な甲羅に引っかかって、方向転換の邪魔になっている。
「頭脳が二つあるのに、おバカですわっ」
「まずは、あの硬い甲羅をどうにかしないとなっ」
とりあえずの時間稼ぎは出来た。
あとは、冒険者パーティと合流して、作戦を考えないと。
▲ ▽ ▲ ▽
俺たち2人が、元の水辺のあたりに戻ると、少し離れた所から呼び声。
「おーい、アゼリア君とロック君!」
「ガイドさん達、ここで~す!」
「こっちこっち!」
声の主を探すと、河上流の大滝の方に、冒険者パーティの姿があった。
「この崖の上に陣取り、魔法攻撃で魔物を迎え撃ちます」
「2人とも急いで登ってくださいっ」
「はやくはやくっ もう、こっち来てるっ」
投げ下ろされたロープをよじ登り、岩だらけの崖の上へ。
滝の高さは14~15mくらいあるだろうか。
ちょうど登り終わった頃に、双頭の巨大魔物が戻ってくる。
── グオッ! グオォォォ!
絡みついた枯れ木を、何本もズルズルと引きずっている。
それを、ブルブルと身を震わせてはねのけた。
次に ── どういうワケか ── 急に、双頭を甲羅の中に引っ込めた。
「── え?」
「な、何?」
「あきらめたのかしら?」
もちろん、凶暴な異常個体が、そんなに大人しいワケがなかった。
頭を引っ込めたまま、ドスドスドス……!と地響きの猛ダッシュで迫ってきて、ドガンッ!と岩だらけ崖に激突。
推定50トンの巨体の体当たり。
すさまじい衝撃で、崖の上までグラグラと揺れ、近くの岩がゴロゴロと崩落する。
「キャァ~! 落ちる、落ちちゃうっ」
「わわわっ、ウソでしょ、コイツぅ!」
「いくらなんでも力押しすぎる!」
魔物の予想外すぎる攻撃に、冒険者パーティも軽くパニック状態。
俺もリアちゃんも、いきなりな局地地震に、バランスを取るのが精一杯だ。
<六脚轢亀>はさらに、ドガンッ! ドカンッ! ドカンッ! と3回ほど崖を揺らしにくる。
それでも甲羅が壊れた様子もない。
コイツ、とんでもない頑丈さだ。
「おいおい、こんなヤツに本当に魔法攻撃が効くのか!?」
「── そ、そうです、魔法! 魔法、いきます!」
俺の言葉に、メガネ女子の魔法技工士が、反応した。
サリーさんは、座り込んだままの体勢で、両手にそれぞれ<中導杖>を構える。
近くでよく見れば、2本とも同じ物で、かなり複雑な機巧の杖だ。
ヒョロ貴公子が持つ<短導杖>は、術式の刻まれた木彫り<法環>が1個しかついてない。
それに対して、サリーさんの2本の<中導杖>は、どちらも木彫り<法環>が2個ずつ、しかも十字型に組み合わされている。
「カエルさん、お願いします!」
サリーさんが、まず右手の<中導杖>のボタンを押す。
木彫り<法環>が歯車で2個同時に回転し、『カ・カン!』とわずかにズレた起動音。
そして生み出された魔法の効果は ──
「── か、カエル?」
カエル型の青い風船?、としか見えないような物が出来上がる。
俺の疑問は放置され、そのままサリーさんが<中導杖>を振る。
「えーい!」
杖の上に浮いていた、ヘルメットくらいのデカい青ガエルが、スー……ッ、と空中を滑空して、魔物の甲羅の上にペタンと張り付く。
「え、何これ?
魔導の教本にのってた、『精霊召喚』ってヤツ?」
「お兄様、違います。
これ、水の攻撃魔法ですわっ」
横からリアちゃんの訂正が入る。
その間に、サリーさんは左手の<中導杖>で魔法を起動し『カカン!』と鳴らす。
「もう一つ、お願いします!」
2匹目の青ガエルも、1匹目のすぐそばに張り付いた。
ゲコゲコ……ゲコゲコ……
ゲコゲコ……ゲコゲコ……
2匹のデカい青ガエルが、謎の輪唱を始める。
「いったい、何これ……?」
「お兄様! しゃがんでないと危ないですわっ」
興味津々と崖の下を覗き込むと、リアちゃんに注意される。
その直後だった。
── ズバァァ……ン!、と紙袋の破裂を100倍にした轟音。
そして、バラバラ……ッ、と破片の落ちる音。
「な、なんだ、今の……?」
崖の下を覗き込めば、<六脚轢亀>の甲羅の一部が、大きく欠損していた。
ちょうど、ヘルメット大の青カエルが張りついていた辺り。
「下級魔法を改良して中級並の威力にした ──
── 【滑翔・破水蛙・改】です!」
メガネ女子サリーさんが、自慢げに2本の<中導杖>を高く掲げた。




