24:説得は肉体言語
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
魔物の生息する、薄暗い森の中。
小動物は声を潜めて周りを伺っているのか、鳥の声すらほとんど聞こえない。
というのに、だ。
やたらキンキンした女児の声が、これでもかって大ボリュームで響く。
「だから、何でそうなるのよ!?」
依頼主のお連れさん、年下少女メグ。
鼻息荒くして、ウチの妹弟子につかかっていた。
リアちゃんは、ちょっと面倒そうな表情。
「さっきから何度も言っていますわ。
『必殺技』は、決まった動きを繰り返す魔法ですの」
「だから、そんな事はきいてないって言ってるでしょ!
さっき使った、あの魔法が知りたいのっ
そりゃあ確かに『剣帝』の秘伝なんでしょうけど、術理の概要くらい、ちょっとくらい教えてくれてもいいでしょ!?」
「ですから、お師匠様は関係ありませんわ。
あれは、お兄様が作り出した『必殺技』ですもの」
「また、そうやってウソばっかり……っ
さっき言ってた『決まった動き』とかゼンゼン関係ないじゃない!
『秘伝だから教えられない』って言うなら仕方ないけど、見え見えのウソついたり、いい加減な言い逃れやめなさいよっ
人間として不誠実よ、そういうの!」
小6か中1くらいの女子が、顔を真っ赤にしてキーキー言う。
「あの、その、メグちゃん?
ちょっと落ち着いて……」
メグの保護者的な従姉サリーさんが、オロオロしながら仲裁に入っている。
だが、まるで収まりそうにない。
(……魔物だらけの森の中で口ゲンカとか、止めてくれない?
いや、マジで)
俺は、ウンザリのため息をついて、横をチラ見しながら、こうぼやく。
「なんか、モメてるなぁ……」
意訳すると『おたくのパーティメンバー、どうにかなりません?』という俺の不機嫌な視線。
すると貴公子が、金髪ボブをかきながら、恐縮しきりとペコペコする。
「すみません、ウチのパーティの子が。
メグ君も悪い子じゃないんですけど、ちょっとムキになりやすい所があって……」
「いや、まあ、ウチの妹弟子も、正直、そういう感じですからねぇ。
似た者同士の、同族嫌悪ってヤツですかね?」
聞いてる感じ、ジジイの『五行剣』と俺の『必殺技』を取り違えてるみたいだが。
どっちにしても、そんなにモメる要素があるとは思えない。
先行する男二人で、
『どうしようか?』『どっちが止めに行く?』
みたいな目配せしていると、さらに女子の口ケンカがエキサイト。
「だいたい、アンタの兄貴って、アレでしょ!?
さっきからウロウロ逃げ回ってる、臆病な貧弱男!
何かしゃべったと思ったら、おカネの話ばっかり。
そんなヤツが、あんなスゴい魔法作れるワケないでしょ?」
「……ブチ殺しますよ、貴女?」
銀髪の美少女剣士が、極寒の声を出す。
魔法技工士のお姉さんが、慌てて口を挟む。
「だ、ダメですよぉ。
アゼリアさん、『殺す』なんて簡単に言っちゃ!」
「では、ブチ転がします!」
「こ、転がす?」
リアちゃんが、急に不思議な事を言う。
サリーお姉さん、メガネのお目々パチパチして、ハテナ顔。
「どっちも略すると『ブチコロ』で、良い感じですの!
ナマイキ赤髪娘を『ブチコロ』ですわ!
── ドォーン!」
「── いぃっ、痛ぁっ!?
いきなりぶつかってくる事ないでしょ!」
年下少女メグが、リアちゃんの体当たりで転倒。
木の葉に埋まりながらも、ギャンギャンと叫ぶ。
「天誅ですの!
天が誅しないなら、人が誅する、人誅でもありますの!
ナマイキ赤髪娘は、尻餅ついた無様がお似合いですわ!」
リアちゃん、キャッキャッと嘲笑う。
(……この子、こんなに腹黒だったっけ?
あーれー、兄ちゃん育て方間違えた?)
俺は、内心で頭を抱える。
すると、貴公子が申し訳なさそうに、ポツポツ言ってくる。
「あの……ロック君?
ウチのパーティの子が、本当にすみません。
彼女って、こう、まだ幼いから世間知らずというか。
その、子どもの言う事なんで、気分を害さないでくださいね?」
「あー、うん。
ウチの妹弟子も、売り言葉に買い言葉で暴力振るってるから……。
ここはお互いに五分五分って事で……?」
「ええ、そう言ってもらえると、こっちもありがたいです」
「すまんなぁ」
「いえいえ、こちらこそ」
俺と貴公子が、お互い頭を下げ合う。
前世ニッポンのサラリーマン時代を思い返すような、ペコペコ合戦。
(依頼内容とまったく関係ない所で、なぜ、こんな気苦労をしないといかんのだろう……)
「ぶざま、ぶざま、ぶざぶざまぁ~♪
イエイエイ~、ぶざまぁ~♪
ドジっ子メグは、ドジっ子メグは、魔物のすみかで、すわりこむ、すわりこむ♪」
「キィ~ッ、このおんなぁ~~!!」
何やってんだ、このポンコツ妹め!
スキップしながら変な歌うたうな!
依頼人と仕事中にモメ事起こすなぁ!
兄ちゃん気まずくて、胃がキリキリしてきたぞ!
男子2人は、そんな感じで非常に居たたまれない気分が一杯なのに。
女子2人のケンカは、いまだに収まるところを知らない。
「覚えてなさいよ、バカヤローっ
ぜったい、ぜったい、ぜぇええったい、許さないんだからぁ!」
「オ~ホッホッホッホ!
ブチコロな負け犬は、遠吠えまで無様ですわぁ!
とても小気味いいですわぁ~!」
そんな高飛車お嬢様みたいな高笑いで、煽るな!
どこで覚えた、そんなのぉ ──
── あ、アレ教えたの、俺だったわ……
やっぱ、兄ちゃんの育て方に問題あったようです。
うむ、大変すまん。
反省、至極。
そんな間に、魔法技工士のお姉さんが、なんとか収拾をつけようとしていた。
「メグちゃんもそのくらいにして、ね?」
「だってだって、サリー姉、コイツがぁ~!!
── だいたい、いきなり手ぇ出す、フツー!?」
「あらあら赤髪娘は、オツムも残念ですのねっ
わたくし、手なんて出してませんわ!
思わずお尻が出てしまいましたの!
── あらあら、またお尻で、ドォーン!」
「── 痛ぁっ!
コンチクショー、2回もやったわねぇ!」
「あの、ちょっと、2人ともやめてくださいっ
メグちゃん、アゼリアさん、ケンカしないでぇっ」
結局どうにもならず、メガネ女子はまた半泣き。
オロオロしながら行ったり来たり。
「アレ、どうしよう……?」
「どうしましょうか……?」
俺と貴公子は、再三、顔を見合わせる。
ダメだな、このパーティ。
ダメダメだ、相性最悪だ。
こんなんで魔物退治とかムリ!
今日はもう終了!
はい解散!
▲ ▽ ▲ ▽
── さて、結局。
解散は、できませんでした。
仕事をほっぽり出す事はできなかった、異世界転生しても社畜なロックです。
依頼を解消となると、現金前渡しを返さないといけないワケで。
仕方ないね。
── さて、問題解決。
件の女子同士の大ゲンカが、いつまでも収まらない。
妹弟子リアちゃんは、兄弟子権限で俺がゴッツン。
年下女子メグは、リーダー権限で貴公子がゴッツン。
双方、頭にゲンコツ落として、肉体言語の説得です。
魔物の森のど真ん中で、いつどこから襲われるかも解らないワケで。
仕方ないね。
── さて、本題に入る。
静かになったら周辺探査の行程も、大変スムーズ。
ドドドドォォ……と滝の音を頼りに向かうと、薄暗い森を出て水辺に出た。
「結構、デカい河だな……」
デカい滝のある河の流れる方向は、東北から南へ。
まだこの辺りは、この森の西側に広がる<ラピス山地>とは関係なさそうだ。
貴公子が周囲を見渡して、確信するように肯いた。
「あの滝の周辺に、いくつか洞窟があるみたい。
この辺りなら<岩蝙蝠>も多いはず、<外骨河馬>が縄張りにしていても、おかしくないですね」
「へー。
それじゃあ、この辺りから逃げてきた可能性が高いのか……── じゃなかった、高いんですか?」
ちょっと気が緩んで、ビジネス口調が素に戻ってしまった。
「ロック君、敬語はもういいですよ?
なんだか無理している感じがありますから。
自然体でお願いします」
「まあ、それじゃあ、これからはフツーで」
男同士で、ちょっと笑い合って和む。
すると不機嫌そうなリアちゃんが、口を挟んできた。
「またお兄様が、男の友情してますの……っ
身近な女性を大事にしない男性は、嫌われますわ……っ」
「このブラコン女め……
束縛が強い女とか、嫌われるんだから……っ」
さらに、小声で嫌味を言う、年下少女メグ。
「ははは……」
貴公子、困り果てて、苦笑い。
(君ら、まるで懲りないなぁ……)
俺がため息をつく。
── すると、ザバンッと水面が盛り上がる。
正直、横長い丸太小屋でも浮いてきたのか、と思った。
それほどの、巨体だった。
先ほどの<外骨河馬>に負けず劣らずの、巨大な魔物が姿を現す。
小ぶりなマグロくらいの川魚を、丸呑みしている巨大なカメ。
ソイツは、フンフンフン……ッ、と鼻を鳴らして周囲を見渡す。
もう片方の頭で、巨大魚を丸呑みしながら。
── グオォォォ……!
双頭の巨大カメが、猛り狂うような雄叫びを上げた。
ソイツは、ビックリ仰天で黙り込んでいた俺たちを見付けて、全力で突進してきた。
!作者注釈!
ちょっと嬉しい事があったので
予定を繰り上げて更新しています
次回、また週末に




