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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 9/敗北演出:CONTINUE ? ...

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234:土竜の坎為水

その話(・・・)が終わると、商人の格好した『11番(ペイジー)』は困惑の声をあげた。



「―― 何を、言ってるんですか……?」



その商人姿(すがた)暗部構成員(スパイ)は、目の前に居る金髪ワシ鼻の男 ―― 『心臓の12番(ハーツ・ナイト)』の目印がついた伝令鳥の誘導されて、警戒しながら魔物の森までやって来た。

そして『昨日(・・)()異変(・・)』について詳細を求めたら、そんな荒唐無稽(こうとうむけい)な『バカ(ばなし)』を聞かされたのだ。


彼、神王国の『金貨の11番(ペイジー)』が困惑するのも当然だろう。



「何を、とは?」



声は、木の上から返ってきた。


商人姿(すがた)の男は、樹上の相手を見上げて会話を続ける。



「つまり、こうだ(・・・)と言う訳ですか?

 疾駆型(スピード)の特級魔剣士を超える、第1形態『竜拳手』(ドラゴンフィスト)による奇襲でも殺し(・・)損ねる(・・・)程の強敵が居た、と?」


「ああ、そうだ」



返答は、あっさりとした声色。

商人姿(すがた)の男は、一度肩をすくめて、次の質問をする。



「しかも、剛力型(パワー)の特級魔剣士を片手で(・・・)殴り(・・)殺せる(・・・)、第2形態『竜騎士』(ドラゴンナイト)でも決着がつかなかった、と?」


「ああ、そうだ」



またも、あっさりとした返答。

商人姿(すがた)の男は、目眩(めまい)をこらえる様に一度目を閉じて、質問を続ける。



「だから、禁じ手である第3形態『竜騎兵(ドラグーン)』を起動(・・)させる ―― つまり、休眠状態の『地竜心臓(ドラゴンハート)』を賦活(ふかつ)せざるを得なかった、と?」


「ああ、そうだ ――

 ―― プッ……」



樹上の相手は、また(うなづ)く。

そして、新しい瓶詰(びんづ)水薬(ポーション)のガラス(せん)を口で抜き、雑に吐き捨てた。


商人姿(すがた)の男は、会話の相手が3本目(・・・)の特製<回復薬(ポーション)>を飲み終わるのを待ってから、次の問いを告げる。



「その第3形態『竜騎兵(ドラグーン)』ですら、殺され(・・・)かけた(・・・)?」


「だから、そうだ、と言っている」


「………………」



商人姿(すがた)の男は、質問相手の鋭い返答の声に気圧(けお)されて、一度口を閉ざす。

しかし、内心では呆れ果てていたし、苛立ってもいた。



―― (この『心臓の12番(バケモノ)』と真っ向から殺し合い、死の間際まで追い詰める?)

―― (さらに、あの巨大魔物に変化する禁じ手『竜騎兵(ドラグーン)』まで使って、戦った(・・・)?)

―― (魔剣士の精鋭部隊100人でも『一方的に皆殺し(サツリク)』出来そうなあの(・・)竜騎兵(ドラグーン)と『戦闘になり得た(タタカッタ)』、だと……?)

―― (しかも、見た事も聞いた事も無い、異常な破壊力の魔法まで使う?)



そんな疑問を頭の中で反復(はんぷく)すれば、商人姿の現場指揮(ペイジー)も、うっすらと感づく。



―― (さすがに真面(まとも)に取り合う気にならんぞ、この報告内容は)

―― (つまり、そう(・・)いう(・・)事か(・・)……?)



そもそも、今回の任務は例外的(イレギュラー)

この商人姿(すがた)の男は、神王国の暗部において外国潜入部門である『金貨』の所属だ。

そして、数ヶ月前に戦闘任務の切札(きりふだ)金貨の12番(コインズ・ナイト)』が帝国の防諜(カウンター)暗殺(・・)された、という経緯がある。


それにより、神王国内部に入り込む他国スパイへの対策部門(つまり防諜(ぼうちょう)部門の『心臓』)から戦闘任務の切札(きりふだ)心臓の12番(ハートズ・ナイト)』が、臨時的に()()される事になった。


つまり、今回の『未完成(エラー品)神癒薬(エリクサー)を確保する任務』とは、落札競争(オークション)という正規手段に失敗した場合は、切札(きりふだ)12番(ナイト)』というの超戦力で強奪しても達成しなければならない最優先の重要任務という事になる。



これら全ては、国家の上層部が決定した方針だ。

現場指揮の『11番(ペイジー)』ごときが口を挟める事ではない。

荒事(あらごと)切札(きりふだ)として様々な特権が認められる『12番(ナイト)』であっても、逆らう事はできない。


だからと言って、不満がない訳ではない、という事なのだろう。



―― (それで、こんな『作り話』か……?)



つまり、『未確認の敵と交戦で負傷』と(うそ)の理由で任務を放棄(ボイコット) ――

 ―― 商人姿(すがた)の男は、他部門『心臓』からの応援人員『心臓の12番(ハートズ・ナイト)』が語った『昨日の出来事』とやらを、そうだ(・・・)と判断した。



―― (『自身が敗北しかけた』なんて、改造(・・)性能(・・)に疑問を持たれる程の偽報告(デッチあげ)をしてまで?)

―― (この身勝手(みがって)(おとこ)めっ、どれほど帝国に居たくないんだっ!?)



かつて、この男が訓練生であった頃に同期の成績優秀者 ―― 昨年に暗殺された『金貨の12番(コインズ・ナイト)』 ―― と因縁があったというのは、有名な話だ。

そのライバルへの対抗意識(コンプレックス)から、帝国関係の任務を忌避(きひ)している事も、何度も噂に聞いていた。


『かつて自分が惨敗した相手に今さら比べられたくない、というせせ(・・)こま(・・)しい(・・)自尊心(プライド)だ』

そう、影で笑う者も少なくはなかった。





▲ ▽ ▲ ▽



そういう商人姿(すがた)の男の微妙な表情を、見て取ったのだろう。

金髪ワシ鼻の男は、口元を(ゆが)める。



「まるで、信じていない顔だな……?」



帝国民からすれば目立つ異国風貌の『心臓の12番(ハートズ・ナイト)』は、両脚をプラプラと揺らしてから、木の枝から飛び降りてくる。


現場指揮(ペイジー)が持ってきた特殊な<回復薬(ポーション)>を4本飲み終えて、ようやく(・・・・)両脚(・・)()生え(・・)そろった(・・・・)のだ。



「ハァ、そんな話、信じれる訳がないでしょう……。

 任務をボイコットするにしても、もっとマシな作り話をしてください」


「……なに?」


(にら)んでもムダですよ」



商人姿(すがた)の少し肥満(ひまん)気味な男は、(まさ)に歴戦の商人の様に、相手の暴力を(にお)わせる態度を、鼻で笑う。



「魔剣士を極めれば、単身で竜種(ドラゴン)の幼体と渡り合える ――

  ―― そんなおとぎ話(・・・・)が現実になるなら、神王国は古代魔導文明の資料を(もと)にして、人体(・・)改造(・・)なんかに手を出していませんよっ」


「では、この俺様の両脚の欠損(けっそん)は、何だ……?」



いまだに全裸の金髪ワシ鼻の男は、先ほど(・・・)生えた(・・・)ばかり(・・・)の自分の両脚を軽く(たた)きながら、静かな声で、しかし鋭い目つきで、問いかけてくる。


商人姿(すがた)の男は、切札(きりふだ)12番(ナイト)』の中でも最も恐ろしい人外(バケモノ)の威圧に、冷や汗を流しながらも、反骨心で言い(・・)当て(・・)にいく。



「な、何か……、そ、そう!

 何かの、戦闘の試行(テスト)でしょう!

 森の魔物相手に戦闘訓練でもして、思わぬ大物か大群に苦戦したのでしょう!?

 だから、例の切り札の『竜息吹』(ドラゴンブレス)

 昨日の昼にあった爆発音(・・・)騒動(・・)は、それでしょ ――」


「―― ふ、ふざけるなぁ~~!!」



商人姿(すがた)の男が、思いついた推測をまくし立てると、金髪ワシ鼻の男は激昂(げっこう)

自分の体重より重いであろう現場指揮(ペイジー)を、片手一本で(つる)し上げて、怒声を上げる。



「だったら!

 アレはなんだ!!」


「カ……ァ、ぁ……、アレ(・・)?」



訳が解らないという顔の商人姿の男。



「見ろ! アレだ!!」



異国風貌の男『心臓の12番(ハートズ・ナイト)』は、片手で持ち上げる商人の首を、『その方向』へと向ける。



「見ろ、アレを!!

 この俺様を殺し(・・)かけた(・・・)彼奴(アイツ)攻撃(アレ)を!!」


「ハァ……ッ!? ハぁッ!! ひぃあァ~!!?」



商人姿(すがた)の男は、(のど)を絞め上げられながらも、苦しそうに悲鳴をあげる。


(ちゅう)(つる)し上げられているのバタバタと足を前後するのは、暗部構成員(スパイ)の訓練の賜物(たまもの)だろう。

地形が大きく変わるという、明らかに巨大魔物(・・・・)()仕業(・・)であろう破壊の痕跡(こんせき)を見て、『今すぐ避難しなければ危険だ』と咄嗟(とっさ)に身体が動いたのだ。



「ギリギリだった、ギリギリ地下に逃げ込めた!

 この(・・)俺様(・・)が! まるで土竜(モグラ)の様に!」



金髪ワシ鼻の男は、商人姿の同胞(ナカマ)を吊し上げたのとは反対の手で、すぐそばの大木を殴りつける。

ドォン!と(こずえ)が震えて木の葉が散り、殴打された木の幹は深くえぐれ(・・・)る。

まさに超人を超えた、超・怪力。



「この俺が! 『地竜(ドラゴン)』であるこの俺様が! まるで土竜(モグラ)みたいに土の中に隠れて!?

 ふざけるなよ! なんて無様(ぶざま)さだ!!」



しかし、その赤茶色の竜鱗(スケイル)に覆われた人外の手は、思い返す恐怖で細かく震えていた。



「しかし! でなければァ~~~!

 ―― 見ろォッ! アレをォ~~~~ッ!

 彼奴(アイツ)は森を斬り裂き、山を()ったぞ!!」



異国風貌の男が喚く通りの景色が、商人姿(すがた)の男の視線の先に()った。





▲ ▽ ▲ ▽



森がえぐれ、山が()れていた。

大木を切り倒して通した街道の様に真っ直ぐに森林の緑色が欠け、その向こうでは小高い山が一つ縦に()けていて、その間から青空が見えている。


自然現象ではないだろう。

しかし、人為(じんい)では決してない。


商人姿(すがた)暗部構成員(スパイ)はパニック状態から回復して、ようやく意味のある声を出す。



「ハァァ! う、雲龍(うんりゅう)か!?」



巨大魔物を超えた超・巨大魔物 ―― つまり、襲いかかってくれば大都市でも滅ぶ『脅威力8』とか『脅威力9』の魔物 ―― であれば、こういった『天災級』(カタストロフィー)の魔法攻撃をしてくるかもしれない。



雲龍(うんりゅう)でも()ちてきたのかっ!?」



金髪ワシ鼻の男に吊り上げられて顔面を酸欠の赤にしていた商人姿(すがた)の男は、完全に青ざめた。


小山とはいえ、高さ100m以上ある地形(・・)であり、土石の塊だ。

それが、まるで巨大な(・・・)何者か(・・・)()真っ(・・)二つ(・・)()され(・・)かけた(・・・)


そういう、景色がある。

そしてそれ(・・)が『つい先日の事』である(あかし)として、小山に(たくわ)えられた地下水が(あふ)れかえり、縦に(・・)50m(・・・)()有る(・・)斬り口(・・・)』から今も滝として流れ落ちているのが遠目(とおめ)にも解る。



「ヒィ~~!! 冗談じゃない! ウアワアァ~~~!!」



商人姿(すがた)の男は、いっそう激しく暴れ始める。

今にも『破壊(ソレ)()した存在(モノ)』が襲いかかってくるのではないか ――

 ―― そういう恐怖が沸いてきたのだろう。

またも半狂乱になって、吊されて浮いた両足をバタ(くる)わせる。



―― それ以上の半狂乱になっているのは、『破壊(ソレ)()した存在(モノ)』と対峙(たいじ)した異国風貌の男『心臓の12番(ハートズ・ナイト)』だ。


竜種(ドラゴン)能力(チカラ)を移植された絶対強者は、商人姿(すがた)同胞(ナカマ)を片手で(つる)し上げていながらも、その目は(うつ)ろ。

彼は、過去の情景にとらわれたままで、周囲を何も見てもいなかった。



「―― 何故だ!

 いったい何故この俺様が、アレ(・・)をただの人間などと見誤った!?

 アレ(・・)同類(・・)に違いない!

 この俺様と同じ、巨大魔物(バケモノ)の臓器を移植され、人外の能力を得たに違いない!」



彼は、敵を誤認した。



「きっと帝国は、あの(・・)逃げ(・・)だした(・・・)『実験体』どもを捕らえて腑分(ふわ)けにして、神王国(ワレら)の人体改造の術理を解き明かしたのだ!

 それの『成功例』が、あの<封剣流>銀髪忌み子(アゼリア=ミラー)にくっついて回るバケ(・・)モノ(・・)兄貴(・・)だ!

 きっと、『魔物の大侵攻(モンスターパレード)首魁(ボス)』の心臓か何か、埋め込まれているに違いない!!

 で、なければァ! あんな死体同然の状態で(くち)をきく訳がないだろォ!!?」



彼は、畏怖(いふ)により脅威を誇張した。



「道理で平然と、(ハラ)に穴を開けても向かってくる!

 道理で平然と、自分の足を切り捨てる!!

 あのバケモノめ! 魔剣士だと! 剣帝流だと!

 全て(うそ)八百(はっぴゃく)だ! だましやがったなチクショーめぇ!」



彼は、自己正当化のための理屈づけをした。



「やはり、昨日は(・・・)1日中(・・・)土の(・・)中に(・・)隠れて(・・・)おいて(・・・)正解だった!

 やはり、地下(・・)30m(・・・)まで(・・)潜り(・・)地下水(・・・)()すすり(・・・)ながら(・・・)夜まで(・・・)隠れて(・・・)おいて(・・・)正解だったんだ!!

 彼奴(アイツ)は、俺が地下に潜った事を気付かず、殺したと思い込んで油断した!

 俺を消し(・・)飛ば(・・)した(・・)と思い込み、捜索(そうさく)()めたに違いない!」



彼は、妄執に取り付かれた。



「俺は、この俺様は、臆病ではない!

 豪胆(ごうたん)を気取っていたら、殺されていた!

 すぐに地上に出ようものなら、彼奴(アイツ)が待ち構えて居たに違いない!

 ―― そう賢明な判断だ、賢明な判断だったんだっ!!」



彼は、恐怖を植え付けられた。



―― そして、その恐怖は伝播する。

神王国最強の一角が殺され、残る3人の内のもう1人も窮地に追い込まれた。

その事実が、存在しない妄想の影を生み出し、怪談の様に根も葉もなく広がっていく。



「―― そ、そんな! 聞いてない! 聞いてないぞ、わたしも!!

 そんな帝国(・・)にも(・・)獣化兵(ゾアノイド)()居る(・・)なんて!

 それも『竜騎兵(ドラグーン)』級のバケモノだなんてっ!?」



異国風貌の男は、バタバタとあまりに暴れ続ける商人姿(すがた)を、面倒そうに投げ捨てる。



鬱陶(うっとう)しい低能の虫め、いつまで暴れてやがるっ」


「―― (いた)ァ……!

 だ、だって、そんなバケモノが居るなんて……っ!

 わたしは、この現場指揮(ワタシ)が何も聞かされていないなんて……っ」



投げ落とされて腰を打った商人姿(すがた)の男は、(いき)()()えのまま(なげ)き始めた。

出世して楽を覚えて、さらに贅沢(ぜいたく)に慣れて肥満気味になった、その暗部(スパイ)現場指揮(ペイジー)は、たるんだ(・・・・)身体を恐怖に震わせる。



「そんな命の危険がある任務だなんて!

 ただ<神癒薬(エリクサー)>を奪えば良い、簡単な任務(シゴト)と聞いたのに!?

 安全な場所で指示だけすれば良いはずだろぉ、わたしは『11番(ペイジー)』なんだぞ!

 そのために、せっかく現場指揮官まで(のぼ)りつめたのにぃ!?」


「知るか、バカどもが!!

 大事なのは、この俺様の命だ!

 神王国の切札である、『心臓の12番(ハートズ・ナイト)』様の命だ!

 貴様ら『11番(ペイジー)』だの『10番以下(ローカード)』だの、虫けらの低能な畜生どもが何匹死のうが、知った事か!」



異国風貌の男は、八つ当たり気味に肥満気味の商人姿(すがた)を蹴飛ばす。



「ギャァ ――……ッ」



脂肪で丸くなった男は、遊戯球(ボール)の様に(はね)ばされて大木の幹にぶつかった。

そして意識を失って倒れ、白目と鼻血の顔面を(さら)す。



「クソッ、<封剣流>の銀髪の忌み子(アゼリア=ミラー)だぁ?

 竜牙兵(りゅうがへい)の実験体候補だぁ?

 ―― そんなの知るか! ……ペッ」



異国風貌の男は、倒れた商人姿(すがた)同胞(ナカマ)(つば)まで吐き捨てた。



「この俺様が知った事か!

 貴様ら、虫けらが勝手に行ってこい!

 どぉ~せ、あのバケモノ兄貴に皆殺しにされるだけだ!」



そして、気絶した同胞(ナカマ)の荷物から着替えを取り出して乱暴に着替えながらも、いまだに怒りが収まらないとばかりに(わめ)き散らす。



「俺は知らん!

 何故そんなバカげた、何の得にもならん事に、首を突っ込まねばならない!」



神王国の最強戦力のひとつ『心臓の12番(ハートズ・ナイト)』は、背を向けて足早に歩き始める。

あるいは、小山を()いた巨大な『剣創』(ツルギのキズアト)から目をそらし、逃げ去る様に。



「……冗談じゃ無い! ……冗談じゃないぞ!」



ブツブツ、ブツブツと、(ひと)(ごと)を繰り返しながら。

もはや、こんな帝国(クニ)には居られない、とばかりに。





▲ ▽ ▲ ▽



この日を境に神王国の切札(きりふだ)心臓の12番(ハートズ・ナイト)』は、二度と神王国の外へ出る事がなくなる。


例え、番札(アルカナ)の上役である『13番(ミストレス)』や『14番(ロード)』の命令であっても、平然と無視する様になる。

あるいは、神王国の王室の勅令(ちょくれい)が下され、厳罰が言い渡されても動かない。


しかし、実際に処刑する事は難しい。


なにしろ、並みの魔剣士では10人がかりでも手に負えない、最強戦力なのだ。

そして、人体改造で強大な能力を得た『数少ない成功例』という貴重な存在である。


そういった事情から、神王国の上層部は苦々しく思いながらも、その『身勝手』を黙認するしかない。



「冗談じゃない……! 冗談じゃないぞ……!

 地獄の苦しみの『人体改造』を耐えきったのに、せっかく『不死身の肉体』を手に入れたのに、何故この俺様が死ななければならない……!

 ふざけるな、ふざけるなよ……!」



時折、狂った様に独り言を言う姿も見受けられた。

彼の心には、深い深い心理的外傷(トラウマ)が刻み込まれたのだ。





▲ ▽ ▲ ▽



これを(もっ)て、理外(りがい)の強者は完全に排除された。


もはや剣帝流後継者・アゼリア=ミラーを害し()る者は、存在しない。

彼女を悪夢の未来へと導く要因は、完全に()たれた。


敵の生命を()てなくても、その戦意は根こそぎ()ち斬った。




岩石(ロック)の名を持つ、無才(ナマクラ)の剣士が ――


自己の基本である斬撃の魔導【(じょ)の一段目:()ち】を磨き上げて、ひたすら積み重ねて、やがて天地を裂く程の極意(オウギ)に至った、史上最強の『未強化(なまみ)』の剣士が ――


―― 美事(みごと)木花(アゼリア)の名を持つ少女を、非道の運命から救い上げた。




勝利とは、敵を(くだ)す事ではない。

勝利とは、自分の目的を達する事である。


すなわち、落ちこぼれの一番弟子ロックは、最強の敵から勝利をもぎ取った。

生死をかけた激闘の果てに。


最愛の妹弟子(アゼリア=ミラー)の安全という、目的を達したのだ。

その命にかえて。



―― 古書(こしょ)葉隠(はがくれ)』には、こうある。


武士道と()ふは死ぬ事と見付けたり、と。


///////!作者注釈!///////


タイトルの読みは、「土竜もぐら坎為水かんいすい」。

この『坎為水』は、224話のタイトル「沢水困たくすいこん」と共に、易占術でいう大凶にあたる『四大難卦』のひとつだそうです。

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