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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 9:港町ステージ

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226:夢物語の力

この異世界に輪廻転生(リーンカーネーション)した俺・ロックは、肉体的にも魔力的にも恵まれなかった。



剣技にしても、魔法にしても、力任(ちからまか)せとはいかない。

だから、繊細に、緻密(ちみつ)に、より効率的に。

そういう創意工夫(そういくふう)が常に必要だった。


それが俺の持ち味となり、強みにもなった。



―― では、さっき敵の進路を妨害した、『超巨大な氷の障壁』は何なのか?


『特級の氷結魔法』の数十倍というデタラメな障害物を、どうやって作り出したのか。

魔力が人並み以下である俺・ロックが、『特級魔法の数十回分』なんて大量の魔力をどこから用意したのか。


その答えは、簡単で単純。


自分の(・・・)肉体を(・・・)分解して(・・・・)魔力を(・・・)精製(・・)した(・・)のだ。



今までも何度か、こういった話をしたと思う。

―― 『この世界の特性として、全ての生命は大なり小なり、魔力を秘めている』

―― 『だから、魔力感知能力は対生物用として万能のセンサーになる』


つまり、この異世界に生きる生命(いのち)は、必ず魔力を持っている。

おそらく、魔力の存在する異世界(このセカイ)では生命活動に必須の成分か、または不可欠な生命エネルギーとしての役割もあるのだろう。


もしそうであれば、人間や魔物が使う『魔法』というのは、肉体に取り込まれた魔力のうちで生命活動に不要な『余剰(よじょう)エネルギー』を活用した物ではないか ――……。


そういった仮説を、<帝都>魔導三院の研究書籍で読んだ覚えがある。



(つまり、肉体という魔力の貯蓄容器(タンク)を丸ごと分解できれば(・・・・)、『生命維持(・・・・)()ため(・・)(たくわ)えている、本来は使用できない魔力(エネルギー)』まで取り出せるんじゃないかな~?、って仮説があったワケだっ!)



命が燃え尽きる時でもないと実行できない、肉体(カラダ)欠損(けっそん)させる禁忌(きんき)の手段。

自分の生命(いのち)を使い(つぶ)す前提での、緊急的で一時的な『魔力の増強方法(パワーアップ)』。


文字通り『命と引き換えの魔力(チカラ)』だ。



―― では、その『肉体(カラダ)を分解する方法』とは、何か?


術式のヒントになったのは、触れた物を()()微塵(みじん)粉砕(ふんさい)する、破滅の魔法剣『黒剣(こくけん)』。

そう、『人食いの魔物(マン・イーター)』が『#1(リーダー)』の切り札だ。


黒剣(アレ)』は、『#1(アイツ)』の身体を(むしば)(のろ)いであり、同時に人間離れした異能(チカラ)の根幹でもある、『紫色の魔力』を利用した攻撃だ。


そして『#1(アイツ)』の『(のろ)い/異能(チカラ)』である『紫色の魔力』は、異常個体<羊頭狗(ガク)>の(つの)が原因だった。

心臓付近に刺さったままの魔物の(つの)が、一種の魔導具素材のような魔力の変換の働きをして『人間の(・・・)魔力(・・)を異質な魔力(モノ)』に変質(・・)させていたワケだ。


その魔力の変質の作業工程(プロセス)と、『紫色の魔力』の特殊波長(パターン)完全に模倣(まるパクリ)

そうして(つく)()げたのが、物質破壊に特化した超必殺技『三日月の極限(ツクヨミ)』だ。



―― つまり、『手段』は全て俺の手元にそろっていた。


あとは実行するための、俺の『意志』と『覚悟』だけの問題だった。





▲ ▽ ▲ ▽



―― 少し話が前後するが、奇襲を受けた直後から、改めて状況を話そう。


さっきの異国の男(くそヤロー)に、この(・・)クソ間抜(まぬ)けな兄弟子(アニキ)が一撃K.O.(ノックアウト)された後。

そして異国の男(くそヤロー)に、不甲斐(ふがい)なくも妹弟子(妹ちゃん)(さら)われた。


その後の話だ。

その直後の俺は、重傷で死にかけて失神していた。


前世ニッポンのマンガじゃ、手足なくなっても平気で殴り合いしているが、そもそも『肉体の欠損』というのは、失神する程の大ケガだ。

そもそも人間の身体は、手足を一本無くしたり、大量に失血しただけでショック死する程に脆弱(ぜいじゃく)なんだ。


そして、刹那(せつな)の悪夢に飛び起きた。



(アイツを……殺す! 何をしても……っ!!)



とびっきりの悪夢を見た、お陰(・・)さま(・・)だ。


俺のかわいいかわいい妹ちゃん(アゼリア)が、尊厳を踏みにじられて非業(ひごう)の死を()げる ――

 ―― そんな理不尽な悪夢をみて、火を噴いたのは『殺意』。


その激情は頭をハンマーでぶん殴られたような衝撃で、全てをマヒさせた。

激痛と恐怖を遠くに押しやり、重傷の身で行動するための意気地(いくじ)(ふる)()たせる。



まずは、動かない四肢(しし)の代わりだ。

今や利き手と同じ精度で自在に動く、『鋼糸(イト)使い』技能(スキル)だ。

少し身体を動かすだけで激痛が走り、呼吸困難になりながらも、根性の魔力操作で鉄弦(ワイヤー)を操った。


鉄弦(ワイヤー)が触手のように動き、腰のポーチから<回復薬(ポーション)>と<治癒薬>(キュアポーション)薬瓶(ビン)を取り出し、ありっ(・・・)たけ(・・)を片っ端から口に流しこむ。


異国の男(くそヤロー)が、わざわざ(・・・・)ひっくり返して仰向(あおむ)けにして腹部の傷を踏みつけ、ののしり(・・・・)ツバを()きかけ嘲笑(あざわら)ってくれた、お陰(・・)さま(・・)だ。



なんてこった! お陰で(・・・)体勢を直す手間が(はぶ)けたぞ!?



(本当にお陰(・・)さま(・・)だ、アリガトウな、異国の男(くそヤロー)っ。

 だから、この『()り』(ふた)つは殺意で返してやるぞ!

 ―― テメーこの、クソ外道なブラック企業並みにガン詰め好きのぉ、ドSド畜生パワハラDQN(ドキュン)カスでぇ、毎晩彼女(オンナ)殴ってそうなクレイジー・サイコなイ()ポ野郎がぁぁぁ!!)



(いきどお)りが脈を高め、血流を早め、脳にドクドク送り込んでくれる。


すぐさま逆転の手段を考える。

今世と前世と、2度の人生で得た知識と知見を、全て出し尽くす。

まるで、本棚を全てひっくり返して、蔵書(ホン)もメモも全て床にバラまき広げる様に。



―― そうやって(ひらめ)いたのが、さっき説明した『肉体を(・・・)分解する(・・・・)魔力精製(・・・・)』という非人道な術式だ。



(そもそも、自分の(・・・)肉体を(・・・)分解(・・)する(・・)なんて!

 さっきの異国の男(くそヤロー)が、俺の足を『ついで』で()(つぶ)してなければ、こんな(・・・)イカれた博打(ばくち)なんか、絶対にヤらなかったけどなっ!)



そう、最初の遭遇戦(そうぐうせん)で、異国の男(あのヤロー)は『俺の左足』を()(つぶ)しやがった。

その直後に例の絶技(ぜつぎ)、『<小剣>(ラセツ丸)の防御を貫通し、そのまま脇腹に大穴を開けた、手刀(てがたな)刺突(ツキ)』が来た。


練り上げた技で確実に倒すため、身体の動きを封じた上での一撃とは、武術の定石(セオリー)だ。


しかし、あいにく『今の俺』にとっては、あまりに効果的すぎた。

―― バケモノ怪力で踏み潰された足は、治療が不可能な程にグチャグチャ。

―― 腹部には握り拳ほどの大穴が()いている。

―― どちらも大重傷だ、すぐに生死に関わる程の。

―― さらに最悪な事に、妹弟子を(さら)われる。

―― そこに、『悪夢の未来』という刹那(せつな)の夢が、ダメ押し。


あまりの絶望とピンチに、迷うヒマすらない。


窮鼠(きゅうそ)(ネコ)()む。

弱者(ネズミ)()()()ぎれば、格上(トラ)を相手にすら()ってかかる。


そう、異国の男(あのヤロー)は、弱者(オレ)追い(・・)詰め(・・)過ぎた(・・・)のだ。




いますぐ、笑顔で自爆テロを敢行(かんこう)できる程に…… ―― っっ!!!




すぐに(はら)()わった。

『覚悟』が決まった。



(もはや、俺自身(ロック)の死は確定事項として受け入れたっ。

 あとは、この人生の『わずかに残った時間』で、何を()すか……っ!?)



『意志』が最適解を選択し始める。


だからこそ、ためらい(・・・・)なく(・・)実行できた。

もう役に(・・)立た(・・)ない(・・)左足(コレ)』を、(みずか)ら斬り捨てた。

(もちろん、左膝(ひだりひざ)の下で鉄弦を巻き付け、止血処理はしている)


今までテストすらした事がない術式を即興で組み上げて、いきなり実戦使用。

そんな、一か八かの博打(ばくち)でも、迷う事がない。



(―― 自切(じせつ)した『肉体(左足)』を分解して魔力の精製(せいせい)、まさかの超・大成功!!)



結果、手に入ったのは『莫大(ばくだい)な魔力』。


もくろみ通りどころか、その数百倍 ――

 ―― いや、数万倍は上手くいった。


それ程の、絶大な量の魔力を精製(・・)(いや、還元(・・)か?)する事に成功したワケだ。





▲ ▽ ▲ ▽



―― これは、まるで前世世界のSF物語(フィクション)で言うところの『反物質』だ。


物質をエネルギーに転換したら、桁外れの力を生み出すという夢物語。

その夢物語の『力』(エネルギー)を、俺は今、手にしている。


本当に、とんでもない魔力の量だ。

さっきから湯水の様に使っても、1割どころか1%すらも、使いつくせない。


それどころか、『俺』(ロック)という矮小(わいしょう)容器(ウツワ)では、受け止める事すらできない程だ。


例えば、前世ニッポンの学校の25mプールに、満タンの水があるとする。

そのプールの底が抜けて、大水量が滝の様に流れ落ちてきても、手元にバケツ2~3個しかないなら、はたして何%を受け止められるか。


つまり、そういう次元(レベル)の話だ。



―― 時には、大型魔物にさえ比べられる程に強大な魔力を持つ、天才児・アゼリア=ミラー。



(この、今の俺は ――

  ―― 今だけは俺は、妹弟子(カノジョ)の数十倍はある量の魔力を、まるで湯水のように使う事ができるのだ!)



そんな全能感(ぜんのうかん)に、思わず身震(みぶる)い……っ!!





▲ ▽ ▲ ▽



「―― おっと、いかんいかん……っ」



あわてて、精神を制御する。

()き上がってきた『昂揚(こうよう)』と、それに付随(ふずい)する『油断』を腹の底に沈める。

つとめて(・・・・)冷静な頭脳をもって状況を俯瞰(ふかん)する。



(―― いくら心が激昂(げっこう)しようと、頭だけはどこまでも冷静に。

 『感情は、道具だ』

 『主体は、人間にこそある』

 『主体である人間が、従属である感情に使われて、なんとする』)



激情なんて、爆発させて最後の一押しをする時まで、取っておけばいい。

必ず、思いの丈を叩きつける機会は訪れるのだから。


今さらだが、そんな師匠・ルドルフの教えに、感謝だ。



そうして、敵の反応を予想して、いつものように手順を組み立てる。

そう、いつもどおりに、両手の十指に指輪に偽装した必殺技を装填。



―― ィィィィイイイ……ィン! と、ようやく魔力5倍の超過負荷(オーバークロック)が完了する。



そして、斬り捨てた『生身の左足』の代替(かわり)である『氷の義足』で一歩踏み出してみる。

不慣れな『左の義足(アシ)』でなんとかバランスを取りながら、大穴が開いて氷で塞いだ模造剣(ナマクラ)を構える。



「さあ、人でなし(・・・・)の誘拐犯よ!

 お前が、どこまで化け物じみてるか、試してやろうっ」



『ギャリィン!!』と、金属かガラスが強く(こす)られたような、異音。



「【秘剣・三日月(みかづき)参ノ太刀(さんのたち)水面月(みなもづき)】!」



穴あき模造剣を(よこ)()ぎにして放ったのは、青い魔力光の【裂き(ノコ刃)】の周辺攻撃。


ズザザザン!と、強化された範囲攻撃(ミナモヅキ)が、半径50mの一切を斬り払う。

森林の木々はもちろん、盛り上がった小丘も、岩石も、すべて俺の腰の高さを基準に、斬り倒す。



―― 『青い魔力ダ!?』

―― 『あ、ありえん!! なんだ貴様ぁ!』



崩れゆく景色の中で、ピョン!ピョン!とノミのように飛び跳ねる、誘拐魔(くそヤロー)


その姿を、直接目視(もくし)

しかし、すぐに今の攻撃の50m半径から()退()き、森林の中へと逃げ隠れしようとする。


どうやら、不確定要素となった俺と戦う気はないらしい


やはり、ヤツが最初に言っていた通り『アゼリア=ミラーの身柄』が目的か。

目的を(たっ)した以上、このまま神王国へと逃げ帰るつもりか!?



(させるかよ!!)



俺は、すぐさま手札の内で、とっておきの1枚を切った。



「驚くのはこれからだ!

 これが、俺の奥義・試作の(ひと)つぅ ―― !!」



これは生涯一度きりの奥義だ。


今だから ―― 魔力が(・・・)無限に(・・・)使える(・・・)、この特殊な条件下だから ―― 使用が可能になった本来(・・)なら(・・)夢想(ユメ)で終わったはずの『奥の手(オウギ)』を放つ。


『チ・チ・チ・チ・チ・チ・チ・チ・チリン!』


やかましい程に、魔法の自力詠唱(キャスト)の音が重なる。

その数、実に9重。



「―― 【秘剣・陰牢(かげろう)極ノ太刀(きわみのたち)陽射神(アマテラス)】」



俺の必殺技の中でも最も特異な術式で、多数の敵へ対応するために広範囲・多段攻撃に特化した破壊(・・)の奥義 ――

 ―― すなわち、魔法攻撃の『極限(きわみ)』だった。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 瀕死から急に復活の猛攻なので「遂にロックもサイ○人みたく瀕死パワーアップが…!?」と安易に考えてましたが……合ってはいたけど内容がヤバ過ぎィ!? これシチュ的に「此処は俺に任せて…
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