表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 9:港町ステージ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

225/236

225:ゆめ、うつつ

―― (これは、いったい誰の(・・)視点(・・)だ?)



戦場の風景が広がる。

戦闘の轟音や悲鳴が、あちこちから響く。

血の匂いか、鉄のぶつかり合う火花か、キナ臭い匂いが鼻につく。



おそらく、明晰(めいせき)()だ。

意識が明瞭(めいりょう)なままで見る夢。


だから、『まず』こう思った。



―― (コレは一体、『誰の夢』だ?)



とても自分自身の夢とは思えない。

そういう強烈な違和感。


違和感の元は、『視点(してん)の高さ』だ。

少なくとも、俺・ロックが日頃見るような視界(・・)ではない。

さらに言えば、前世ニッポンの頃を思い返しても、覚えがない。

前世の俺は、こんなに視点が高く ―― つまり、上背(うわぜい)ではなかった。


視界が明らかに高いのは、背丈が抜群に高い証拠。

おそらく身長は180後半、いや190cmに近い。



だから、日頃みる夢とは違って、違和感がひどい。



―― (なんなんだ、これは……)

―― (今の俺は、『誰かの夢』を(のぞ)()している、のか……?)



どうしても、そう(・・)としか思えない。

例えば、他人の家で、よその家庭のホームビデオを見させられるような。

そういう、どこか居心地が悪く、物事を脇から眺めているような、他人事な感覚がつきまとう。




―― さて、視界が動き始める。


視界の主は、何か『おぞましい肉の(かたまり)』に近づいていく。


その異形のシルエットを大雑把(おおざっぱ)(たと)えれば、海辺の生物『イソギンチャク』だろうか。

10本近く生えた触手の1本1本が、しかし5両編成の電車くらいある、『巨大イソギンチャク』だ。


しかし、その巨大生物らしき物は、あちこちが穴だらけで、ボロボロ。

時々、ビクン……!と動くのも、発作(ほっさ)の様な力の無い様子。

もう既に、()()えているようだ。


さらにその『巨大な死骸』に近づけば、その表面の様子が明らかになり、さらなる異様さが解った。

トカゲ、カメ、オオカミ、クマ、ゾウ、カバ、トラ、その他諸々の生物を粘土細工のようにこねくり(・・・・)回してつぎはぎ(・・・・)に造形した、『異形のイソギンチャク』だ。


それが見張り塔みたいな、石積み建物から『生えて』いるのは、『海辺の生物を植木鉢で飼育している』様にも見える。

どこかひょう(・・・)きん(・・)というか、可笑(おか)しささえも感じる。



―― 『うわああああ!?』


―― 『こんな、こんな事って ―― !?』



不意に、くぐもった悲鳴が聞こえてきた。

その『巨大・異形のイソギンチャク』の根元(・・)にある石積み建物の、(てつ)(とびら)の向こうからだ。


悲鳴は、男性の声だ。

どこかの男が錯乱していて、部屋の中でバタバタと暴れている様な、そんな騒動の声と音だ。



すると視界の主は、(てつ)(とびら)の前でピタリと止まる。

まるで、中から開かれるのを待っているかのように、じっと待ち続ける。



―― 『ボクだよ、ボク! 解らないかい!?』


―― 『ああ、クソォ! クソォッ、クソォ、……くそぉ、ぉぉ……っ!』


―― 『こんなの ―― あんまりだぁ!』


―― 『フ、ハ……ハハッ、ちくしょう……ちくしょう、魔族めぇっ!』


―― 『許さない……お前達は、絶対に許さない……』



荒い吐息と、()(ばち)のような震える声。


ズルズルと力なく足を引きずる様な音が近づき、ようやく鉄扉が開かれる。



出てきたのは、20代後半か30代の男。

返り血に濡れた白銀の(よろい)姿(すがた)の、金髪の美丈夫(ハンサム)だ。



「 ―― ■■■様っ!? いつ、こちらにお戻りに!」


「すまない、遅くなった。

 南方大陸から戻る途中に嵐が……、<飛び石諸島>ステッピング・ストーンズで足止めを。

 おかげで、完全に合戦(かっせん)に出遅れてしまったようだな」


「お気になさらず。

 いくら貴方(あなた)(さま)が『人類最強』と呼ばれても、全て頼り切りでは……。

 我々『一等星』も、立場がありませんよ」


「そうか……。

 なら、謝罪より祝勝(しゅくしょう)の言葉を。

 さすがは『一等星』が筆頭・天剣(・・)マァリオ(・・・・)だ。

 『百魔塞』(ヘカトン・デモニウム)の攻略、御目出度(おめでと)う!」



夢の中で見る青年は『マァリオ』と、俺の知人少年と同じ名で呼ばれる。


言われてみれば、整った顔立ちや明るい金髪が、よく()ていた。


しかし、まとう雰囲気はまるで別人。

表情は疲れ切って悲壮感に満ちていて、同年代の女子にキャーキャー言われそうな王子様的キラキラ感などどこにもなく、くすみ(・・・)切ってしまっている。



「あり、……がとう、ございま、す……っ」



そのマァリオ青年は、泣きそうな顔と声で、なんとか返礼を告げる。



「あまり、嬉しそうではないな?」


「ごめんなさい……っ

 友達が、犠牲になってしまい……っ」


「そうか、(つら)い、勝利だったな」



高い視線の主は、マァリオ青年の兜甲(ヘルム)を脱がせて、金髪の頭をポンポンと軽く(たた)く。

まるで弟にでもする様に、()でる様に。





▲ ▽ ▲ ▽



「―― ところで、『それ』は?」



高い視線の主は、マァリオ青年の頭に兜甲(ヘルム)を戻してから、そう(たず)ねた。



「『友達』、です。

 ずっと、行方(ゆくえ)が解らず、ずっと探していた……

 大切な、『友達』です……っ」



そして、視線が下へ向けられる。

視線の主が相対する青年の魔剣士が、白銀の手甲で大事そうに抱える『生首』。


マァリオ青年は、(つら)そうに言葉を(しぼ)り出す。



「せめて、人間(・・)()部分(・・)が残っていた、キレイな部位(ところ)だけでも……」


「そうか、それは ――」


「―― ■■■様。

 今が大変な時期とは、解っています。

 だけど、どうか、<帝都>への帰還を認めて下さい」


「……葬儀、か」


「ええ、最後(さいご)は、せめて最期(さいご)だけは人間(・・)らしく(・・・)……っ

 散々に踏みにじられた『彼女』に、せめて尊厳(そんげん)ある死を……!

 だから、どうか!!」



そう、その『生首』は、女性の長い髪をしていた。



「わかった。

 司令部は、こちらで説得する」


「ありがとうございます!

 ―― さあ、<帝都>へ帰ろう? キミの故郷へ……」



マァリオ青年はひざまずき、腰の革鞄(ポーチ)からタオルを1枚取り出して、女性の生首を包み始める。


老いた母か、あるいは祖母か、をいたわる様な手つきで。


生首の女性の眉間(みけん)には、シワが深く刻まれている。

髪は、老いて白く、バサバサで(つや)もない。

まるで、身も心も疲れ果てた人物が、ようやく眠りについたような、苦悶が残る死に顔だ。



「そして、久しぶりに昔の話をしよう。

 最期(さいご)に、夜通し語り合おう」



女性の生首を、いたわる様に、ねぎらう様に、タオルで(つつ)んで(かか)(なお)す。


そしてマァリオ青年は、両手で抱き上げた『彼女』へ優しく語りかける。



「ボクとケーン君と『アゼリア(・・・・)()』と、幼なじみ3人で。

 懐かしい、子どもの頃の思い出を ――」



(―― アゼ、リ……ア?)



俺が(・・)、『生首が誰なのか(―― ソレ ――)』を認識した瞬間。




ヒドい頭痛 ──




(これは、未来、なのか……?)




 ―― 何かが壊れたような衝撃 ──





これ(・・)が、アゼリアの未来……!?)




  ―― 全てを焼き尽くさねば収まらない程の怒り ――




こんなの(・・・・)が、あの娘(アゼリア)の運命とでも、いうのか……よぉ!!)




    ―― ブッッ、チィ……ンッッ!!! と、タガが弾け飛ぶ。




(── ふざけた不条理どもめ! 一切合切(―― コぉ )踏み潰し(・ ロぉ ・)てくれる( スぅ ――)!!)




コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス! コロス!





▲ ▽ ▲ ▽



―― 『何が剣帝流ダ! 何が“死神(しにがみ)”ダっ』



異国の男は、高速で駆け抜けながら、そう吐き捨てていた。

その左の小脇には、グッタリと昏倒した銀髪の少女を抱えている。



―― 『超級の魔剣士ぃ~? 闇に精通する魔法戦士ぃ~?』

―― 『全部が、下らん(うわさ)ダっ!! 根も葉もない!』



異国の男は、不満と憤りの声を上げる。

魔物の森だというのに、気にした様子も無い無造作な態度だ。


その怒りのせいか、超人の脚力でする疾駆(ダッシュ)の、その()(あし)()()げる土砂が、一層ハデになった。



―― 『フン! アレが “レイ(・・)仕留(しと)めた帝都の刺客” ダ!?』

―― 『妹も守れない、あの低能兄貴がぁ!? ふざけるなよっ』



まるで火を吹く様な、激情の鼻息。

八つ当たりとばかりに、障害物へ自らぶつかりに行く。


しかし、その竜鱗手甲(ガントレット)の右手を振り回せば、細い木の枝や幹くらいは、簡単に砕けて散った。

人間離れした、恐るべき剛力だ。



―― 『あんな腑抜(ふぬけ)けたガキが、あの(・・)レイ(・・)を!?』

―― 『この俺サマが打ち倒すはずだった、あの(・・)レイ(・・)を!!』



異国の男の駆ける速さは、早馬以上。

しかも、森林という足場の悪い場所を、難なく駆ける抜ける。

時に、人間の背丈の3倍はある岩崖(がんぺき)すら一呼吸で駆け上がり、飛び越えていく。



―― 『あの低能どもメ! いい加減な報告ばかりダ!』

―― 『どうせレイ(・・)(やつ)の事ダ!』

―― 『今頃は “金貨の11番(コインズ・ナイト)” の職務(シゴト)を放置して、<帝都>の道場で “拳術ごっこ” してるんダ!』



人間離れした速力と、野獣の身のこなし。

剛力(パワー)にしても速力(スピード)にしても、常人では無い。

しかし、男の背中には『魔法陣がない』 ―― つまり『魔剣士ではない』。


つまり、常識を越えた、何かしら『異常な存在』だった。





(―― では、その攻撃力は?  その戦闘力の『底』はどこだ?)





力量を()う。

腕を(たず)ねる。


そのために、魔導の術式を組み、行使する ――

 ―― 莫大(ばくだい)に、絶大(ぜつだい)に、超大(ちょうだい)に、無辺(むへん)(ごと)く。





▲ ▽ ▲ ▽



―― 異国の男は、途端にブレーキ。

ザザザザァ~……と、落ち葉の上を滑りながら、なんとか寸前で立ち止まる。



―― 『何、ダァ……?』



遠目から見れば、白いモヤ。

しかし、近づいて見れば、正体が明らか。



―― 『氷壁……、急に? これは魔法カ?』

―― 『先回りして妨害カ? 仲間が(ひそ)んでいたカ?』



そう、垂直に立つ氷の壁が、異国の男の進路を(はば)んでいた。

それも、石壁の様に分厚く、巨大で、周辺ぐるりと囲い込む障壁だ。



―― 『カァッ!』



異国の男は、竜鱗の手甲を構えて、右手を手刀(てがたな)にした刺突(ツキ)

鉄製の模造剣(ナマクラ)を貫通し、人間の胴体に大穴をあける、必殺の刺突(ツキ)だ。


しかし、ガツン……!と、氷壁の表面を削っただけ。



―― 『この感触、特級の防御魔法ダナ?』

―― 『たしか【氷壁(フォート・)要塞】(オブ・アイス)……、だが範囲と規模が異常ダ』

―― 『端が見えない、一体どこまで続いているカ……?』



異国の男は、顎に手を当てて、しばらく黙考。

急にしゃがみ込むと、一瞬で上空10mまで飛び上がる。


『人間離れ』どころか、魔剣士をも越えた脚力(バネ)だ。


ジャンプ12mの頂点で、また手刀(てがたな)刺突(ツキ)がガツン……!と、氷壁の表面を削る。



―― 『高さも、4倍以上……、デタラメに巨大ダ』

―― 『<四彩(しさい)>、それも青魔(アオ)戦略級(・・・)魔法使いが、隠れて居るカ……?』



12mの高さから難なく着地した男は、進路を妨害する巨大な氷の絶壁を観察し、歩き回る。

しばらく氷壁を調べる様に触れていたが、何か感づいて手を離した。



―― 『チ……ッ、もう爪に霜が浮いた』

―― 『恐ろしい程の冷気ダ……』



男は、ため息とともに肩をすくめる。

打つ手が無いと困惑する、隙だらけの背中。


その背中へ目がけて、上級の土と炎の複合魔法【赤熔擲槍(ガラスジャベリン)】が迫る。



―― 『フン……ッ、こんな(さそ)いにかかるとは、低能な魔法使いメ!』



魔法が着弾した瞬間、男の姿がかき消える。

高熱で溶解したガラスが、超低温の氷壁にぶつかり、水蒸気の白い煙が広がった。


その白い煙幕を、ボッ……!と突き破る、高速の人影!!





▲ ▽ ▲ ▽



金髪でワシ鼻の男が、放たれた矢のように飛んでくる。

0.3km(コンマ3キロ)彼方(かなた)から。


助走距離も含めれば、約0.5km(コンマ5キロ)を一瞬で侵略する。

人類の最高水準である『特級魔剣士』をはるかに越えた、デタラメな身体能力だ。



「―― ジャァ……ッ!」



あの技だった。

身体ごと飛んでくる()()だった。

さっきと同じ、あの竜鱗(スケイル・)の手甲(ガントレット)でする突手(ツキ)だった。



ズ・パ・パ・パ・パ・パ・パ……ッと、破壊音が連続して、紙一重で止まる。



「バリア13枚抜かれた、か……っ。

 一応、念のため15枚、2mm(ミリ)鉄板なみの【張り(バリア)】重ねたんだがな」


「このガキ!

 ありえん、何故(なぜ)生きているカ!?」



異国の男は、残り2枚の【張り(バリア)】越しに『この俺(ロック)』の顔を見て、唖然とする。



「勝手に死んだ事にしてんじゃねーぞ!!」



俺・ロックは、『チ・チ・チ・チ・チ・チリン!』と6重の自力詠唱(キャスト)

中級の防御魔法【圧水盾(アクアシルド)】で生み出す1個2mの水の盾6枚で、グルリと敵を囲み込む。


高水圧の盾を利用した、敵の拘束だ。


張り(バリア)】と【圧水盾(アクアシルド)】で(はさ)んだ敵に向けて、鞘入りの<小剣(ショート)>を向ける。



「死ね、クソ野郎が! ――」「―― ()めるナぁっ」



俺の気合いと、『チリン!』という必殺技発動、そして敵の絶叫が重なる。


残り2枚の【張り(バリア)】ごと敵をブチ抜く【秘剣・三日月:弐ノ太刀(にのたち)禍ツ月(まがつつき)】。

しかし俺の『ドリル三日月』が炸裂する前に、敵の異国男は【張り(バリア)】を蹴って反転した。



「カァァッ!」



そしてヤツは、自分を囲んで抑え込む防御魔法を、ガムシャラに殴りつけたのだろう。

ボォンッ!と【圧水盾(アクアシルド)】6枚が破裂して、水魔法の大盾が飛沫(しぶき)と散る。



(脅威力5の魔法攻撃(ブレス)すら防ぐ『中級の防御魔法(アクアシルド)』を、6枚同時かよ……っ)



「チッ、デタラメな剛力(パワー)だなっ」



俺が悪態をつくと、周囲にバラバラ……ッと小雨のように散水が落ちた。


敵は、水の爆発を目くらましに、森の木々に隠れた。

だが、魔力センサー魔法【序の四段目:風鈴眼(ふうりんがん)】は、その位置を把握している。



「即席の魔法でどうにかするのは、無理か……。

 やっぱり、接近戦で意表を突くしかない」



俺は、木製の(さや)から<小剣(ショート)>の模造剣(ナマクラ)を引き抜く。

その両手を広げたくらいの事で、今は(・・)まだ(・・)不慣れ(・・・)()『氷の義足』な左足が、少しバランスを崩して足下がフラついた。



「―― おっと……。

 愛剣(ラセツ丸)、もうちょっとだけ()ってくれよ……」



その剣身の途中が半円形にえぐれて欠損し、(なか)ば『(かぎ)(がた)』みたいな形になった模造剣(ナマクラ)だ。


即席改造の氷結魔法を、自力詠唱(『チリン!』)

その欠損(アナ)を、魔法の氷でふさぎ、補強する。



なんとか(・・・・)模造剣(コイツ)で防御できて、ど真ん中(・・・・)直撃(・・)()避け(・・)られた(・・・)から、即死せずに済んだんだろうな……っ)



少なくとも、腹のど真ん中を()られて背骨までへし(・・)折られていたら、既に死んでいたハズだ。

こんな(わる)あがき(・・・)をする余地(よち)も、なかったハズだ。


そう思い至ると、異世界転生して16年間のこの人生で、半分以上の年月を()()った愛剣(ラセツ丸)に、ひとしおの愛着がわく。



愛剣(アイボウ)、お互いボロボロだな……。

 ま、アゼリアのためだ、気合いでガンバるしかねーかっ」



そして、俺の脇腹の欠損(アナ)も、同じ状況だ。

即席改造の氷結魔法で、傷口を丸ごと凍らせて(ふさ)ぎ、緊急的な止血処理と固定具(ギブス)代わりにしている。


当然、立っているのがやっと、というボロボロの状態。



(まあ、不幸(ふこう)(ちゅう)(さいわ)い。

 『魔力』だけは、()(あま)っているからな……っ)



しかし、この無能で無力で矮小(わいしょう)で死にかけた身体には、魔力(・・)だけは(・・・)莫大(ばくだい)に満ちていた。



―― そう、命の燃え尽きる前の、()この時(・・・)だけは(・・・)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ