224:沢水困
///////!作者注釈!///////
この話から、しばらくストレス展開が続きます。
ストレス展開が苦手な読者は、
・次章の『Round 10』まで飛ばす
・『Round 9』完結予定の第230話の更新後に一気読み
どちらかをおすすめします。
///////!作者注釈!///////
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
さて、この<金鉱島>はいまいち治安がアレらしい。
ついに、安宿の男部屋にまでも黒ずくめが出た。
(ちなみに、その鉄弦グルグル巻き連中は、昨夜の内に領主騎士の詰め所の前に置いてきた)
その黒ずくめ退治の、翌日の朝。
それも、夜明けもまだ早い内。
寝ぼけている新参2人をたたき起こして、宿から引っ張り出す。
「―― というワケで、お前ら2人は我が『剣帝流』の門弟となったワケだが」
そう!
修行初日からビシバシいく事で
『オメーら、魔剣士の修行はそんなに甘くねーゾ?』
と、気合いを入れるワケだ。
「はぁ……、『という訳』? 門弟って?」
「え、どういう事ですか……?」
肝心の当事者2人が、まるで自覚がない件について。
というか、そもそも前提条件すら理解してないっぽい。
仕方なく、この一番弟子たる兄弟子が噛み砕いた状況説明をしてやる。
「チッ……、鈍い連中だな。
昨日の夜に、リアちゃんから『妹弟子』『弟弟子』としての入門の認可を受けただろうが。
それによってお前らは、『使い回し画像のモブ』から『個別画像アリの準レギュラー』に大昇格したワケだが?」
「え、何、それ……?」
「使い回し……グラ……?
ごめんなさい、全然意味分かんない……」
なんという、気概の無さ。
嘆かわしい事この上ない。
―― 我が名誉ある『剣帝流』の門弟3号・4号に選ばれたというのに!?
(フゥ……、まあ確かに知名度はイマイチだろうが……)
所詮は当流派とか、ド田舎のド少数派だし。
開祖のルドルフも、昔ちょっと有名になって『剣帝』という称号をもらったとはいえ、いわば『過去の人』。
流行廃りの激しい大都会<帝都>では既に忘却の彼方だろう。
知名度は仕方ない。
だが、実力は魔剣士<御三家>にも負けない、折り紙付きのサイキョー流派だぞ。(当流派に実績アリ! 一番弟子の俺が倒しました! 得意顔)
「まあ何にせよ、100年後には伝説になってる流派なんだよ、我が『剣帝流』は。
なんと言っても、超天才児の美少女魔剣士さんリアちゃんが!
世界を救う的な大活躍をする予定なので!!」
―― そんな指導者の『ありがたい訓示』的な話も、そこそこ。
軽くストレッチやランニングやら、準備運動をさせる事、5分少々。
「―― はい、というワケで。
まずは俺が兄弟子的な威厳として、お前ら2人をボコボコにします!」
▲ ▽ ▲ ▽
「は?」「え?」
2人は、ワケが分からないという顔で、木剣を構える。
だが、もちろん秒殺だった。
―― 最初は獣人女子。
木剣の構えがぎこちない少女へと、ゆっくりとだが圧をかけて近づく。
「や、やぁっ」
少女が反射的に振ってきた木剣を、パシン……!と俺の持つ木剣で弾く。
さらに、その勢いのまま、即座に反撃の面打ち。
「あま~い!」「キャ……ッ」
ベシン!と、軽く鉄兜を揺らして、一本。
新・妹弟子は、驚いた声で尻餅をついた。
まだ実戦や訓練の経験が少なく、『叩かれ慣れ』が低い証拠だ。
―― 次に獣人男子。
シゥイに比べれば、ちゃんとした構えになっている。
まあ、男の子なので、『剣振り遊び』くらいした事あるのだろう。
「フッ……フッ……ゥッ!」
まずは2回、木剣を空振り。
それをフェイントととして、本命の3回目で低姿勢のダッシュ。
相手の意表をついた、肩から突進だ。
しかし、運動神経と身体能力が常人以上の獣人少年は、横に飛んで回避。
「クッ……」「逃がすかっ」
俺は、相手の回避先を追いかけるように側転。
横に回転する瞬間に、膝と肘を地面につき、体勢を高く保って回転に勢いをつければ、膝立座りの姿で起き上がる事になる。
その回転後の起き上がりの勢いで剣先を当てるのが、<封剣流>の反撃術『寝技』だ。
「ゲッ、痛ぇ……」
ファブックは、横跳びで構えが崩れていたので、腰にビシッと木剣を当てておく。
とはいっても、習い始めのお弟子さん2人にケガをさせるつもりはない。
だから、威力は『強めのデコピン』程度に手加減している。
「―― さて、これで実力差が分かっただろう。
俺は魔剣士になれなかった落ちこぼれだが、だてに一番弟子じゃないワケだ。
ナメてかかると痛い目に ――……」
「いや、アンタみたいな理不尽の塊、ナメてかかるヤツいないだろう……?
だって、昨日の夜だって訳の分かんない技で、黒ずくめボコボコにしてたし……」
「うんうん、そうだよ。
アゼリアちゃんもスゴいけど、それ以上にロックさん、何か色々おかしいもん!」
「………………」
アレー……?
いや、ここはあれじゃない?
つまり、こんな感じで、
―― 『へ! 魔剣士じゃないヤツがコーチ!? こんなチビに教わるなんて、冗談じゃないっ』
―― 『そうよ、そうよ! そんなに強いっていうんならさぁ、証拠みせてよ、ショーコ!』
とか魔剣士になれなかった無能兄弟子をディスってた新入りさん2人が、あっけなくボコボコにされて、実力差にビビって態度180度反転させる所じゃ無いの……?
「俺、最初にアンタに空高くにふっとばされて、もうコリたよ……。
正直、あの時、絶対に死んだと思ったし……」
「わたしも。あの時、殺されると思った。
それに、あの<羊頭狗>の子? ブチちゃん?
『怖い人2人、逆らったらダメ!』って言ってるし……」
「……えぇ~……」
(いや、それっておかしくない?
兄弟子って、ほら! アレじゃん?
人助けが好きで、世話焼きさんで、ちょっと融通がきかない事と優しすぎるのが欠点な、ギャルゲー主人公みたいな性格してます、よね……?)
あまりにも、俺の周囲からの印象や人物評価が、誤解されすぎている。
―― 解せぬ。
▲ ▽ ▲ ▽
そんなこんなで、剣術修行が約1週間。
すでに<金鉱島>滞在10日は裕にすぎて、2週間目くらいになってた。
「最近、ブチのお散歩がなくてヒマですわ~~!」
そんな感じでジタバタしている運動不足で不満満載な、当流派の暴れん坊を街の外まで連れ出す。
久しぶりに、兄弟子・妹弟子の2人、水入らずのお散歩だ。
in <金鉱島>の魔物の森。
つまりは、いくらでも魔物に全力剣術。
今日は『トリャー!』し放題な、お楽しみ日!
『銃乱射犯』ならぬ『暴走剣術娘』が野に解き放たれたのである!!
「―― フゥ……ッ。
いい汗かきましたわ~」
それから30分間ほど、キャン!キャイ~ン!と魔物らしからぬ情けない悲鳴が森の中に響き続けた。
思う存分ブンブンしまくった妹弟子が、額の汗をぬぐう。
「素材を回収しないからって、ブッタ斬りまくったなー……」
なんなら魔物が隠れた木まで一緒に真っ二つにしている。
まるで、巨大な火山岩でも飛んできて森林をベキベキにへし折りながら転がった、みたいな災害の風景だ。
最初は魔物の死体や血の匂いに惹かれた、他の魔物も近寄ってきた。
だが、それすら妹弟子がブッタ斬りまくったので、ついに倒木と死骸だらけの無生物地帯になってしまってる。
「というか、やたら静かだな……」
気のせいか、鳥の声や虫の声すら聞こえない。
まだ、なかなか日の高い、昼間だってのに。
これ、どんな『殺戮の荒野』だ?
「お兄様、リア楽しかったですわ! キャピィッ」
「お、おぅ……っ」
ドスン!と、胸当てつけたまま体当たり気味に抱きついてくる妹弟子。
あと、奇声というか、変な鳥の鳴き真似みたいな声が、妙に気になった。
「ところでリアちゃん、なんだその『キャピィ』って?」
「リア、妹弟子から『キャピキャピ感』が足りない、と言われましたの。
ですので、年頃の乙女らしく『キャピキャピ感』の補充ですわ! キャピィッ」
「そ、そうか……」
「どうですかお兄様!
今日のアゼリアはキャピキャピのカワイイ娘さんですか? キャピィ」
「う、うん……? ま、まぁ……」
兄弟子、処理しきれない乙女な話題に、とりあえず頷くだけ。
前世ニッポン時代からの筋金入り恋愛弱者に、そういう事を言われても……。
その、なんだ……、困ります。
「そろそろ小1時間、ブチを止めに戻るか……?」
「ブチが追いかけて、妹弟子と弟弟子が逃げる ――
―― 我ながら抜群の訓練を思いつきましたわね。
2人と1匹も運動不足が解消されて、幸せそうですわぁ~~~!
ね、キャピィ?」
「お、おぅ……?」
なんか無理矢理に語尾付け過ぎで、兄弟子の新しいあだ名が『キャピィ』みたいになっとるぞ、妹弟子よ。
(……それに、2人のあの顔が『幸せそう』に見えるかなぁ?
どう見ても『必死すぎて涙目』だろ……?)
ちょっと、妹弟子が言うところの『訓練風景』を思い返してみる。
なんか朝一で、新入り弟子2人を、市街城壁の外に連れ出したと思えば ――
―― 「という訳で、ブチが鬼さんですわ」
―― 「妹弟子、弟弟子、2人とも追いつかれたらお仕置きですわよ?」
―― 『メ? メ、メェ……』
―― 「だめですわよ、ブチ! 全力で走りなさい! 早くっ」
―― 『メ、メェ~……っ』
―― 「ぎゃぁ~~、本当にきたぁああ!!」
―― 「うそでしょ!? うそでしょ!? うそでしょ!!?」
―― 『メェ~~!』
―― 「いやぁぁ! 来ないで、潰されちゃう! 死んじゃうぅ!」
―― 「こんなの! ぜったい! 剣術修行じゃないよぉ~~~!?」
―― 『メェ! メェ~~!』
―― 「シゥイ! 義姉さん! お願い、”狗笛”でコイツ止めて!!」
―― 「む、ム~リ~! 『なんか追いかけるの、楽しくなってきた!』じゃないわよ、ブチちゃぁ~ん」
―― 『メェ~! メェ~~!』
うん……。
涙目どころか、鼻水まで出てたな、2人とも。
「もう3、40分か……。
そろそろブチを止めてやらないと……」
いくら何でも、ハードすぎる内容だ。
バテバテになって、明日の訓練に響くかもしれん。
そう思っての発言に、妹弟子が珍しく反対する声。
「ブゥ~……、お兄様ったら、新人2人を甘やかし過ぎではありませんの?」
「え、そう……?」
「ええ、そうですわ! 新・妹弟子と弟弟子は魔物の森をサバイバルできてた子達ですのよ。
野生児なのですわ、頑丈なのですわ、過保護すぎですわ。
……あ、キャピィ!」
たしかに言われるとおり、新入り2人は魔物に慣れている。
普通の人間なら、大きな魔物に迫られると『ヘビに睨まれたカエル』みたいに、ビックリ立ち竦んでしまうところ。
『ピンチと感じたらすぐに逃げ出す』というのは、言うほど簡単ではない。
あの2人、なかなか『生存本能』が強い。
厳しい状況を生き抜いた事で、鍛えられたのか。
あるいは、『獣人』種族としての特性なのか。
「―― さすが野生児の生態にくわしいな、リアちゃんは。
元が野生児だけあって」
「こんな可愛らしいお嬢さんを捕まえて、なんて失礼な事を!?
そういう意地悪なお兄様は、嫌いですわよキャピィ!
んもう! んもう! んもう!」
妹弟子は叫びながら、ドッスンドッスン体当たり。
「お、おうっ、あ痛た……。
ごめんごめん、リアちゃん」
子どもっぽくじゃれつく妹弟子に、何だか剣帝流の修行場である<ラピス山地>に帰ったような気分。
少し懐かしい気持ちになる。
「そろそろ街に戻ろうか、リアちゃん」
「ええ、お兄様」
俺が一歩踏み出し、振り返れば、微笑む妹弟子。
その笑顔に ――
―― 血が飛沫いた。
▲ ▽ ▲ ▽
―― 何故、そうしたのかは分からない。
いつの間にか、妹弟子をかばうように、一歩前に出ていた。
―― 何故、そうしたのかは解らない。
いつの間にか、素振り用<小剣>の模造剣・愛剣ラセツ丸を、胴体を守る様に抜いていた。
―― 何故、そうなったかもワカら、な、い……
俺の右脇腹に穴があき ―― クゥっ……痛ぇ ―― 、抱きつく様な至近距離で見知らぬヒゲ面が笑っていた!?
ドン……ッ!と、身体を貫いた衝撃が、半瞬遅れて来たとさえ感じた。
(なんだ、何が起きた!?
魔力センサーのオリジナル魔法【風鈴眼】にも、何の反応もなかったぞ……!?)
そんな、意識外からの、完全な不意打ちだった。
「―― カッ、ヒ・ヒィ……!
まさか、まさかダ!
この俺サマの、『300mの飛突攻撃』に反応したカ!?」
耳元で響く、不快な笑い声。
「盾にさえ、なれなかったナ?
低・能・兄・貴っ」
その嗜虐の声は、いまだにハッキリ聞こえている。
だが、その反面、俺の視界はボヤけて暗くなる。
急な出血もあるだろう。
それに加えて、転倒したのだろう。
倒れて、地に伏せて、何も視界に写らない。
「……ぅ、……ぁ」
声もでない。
息もできない。
身体も、首も、ほとんど動かない。
地面を押すように顎を開いて、顔を上方に持ち上げ、眼球を限界まで引き上げて上に向ける。
ポタリ……、ポタリ……、と血の垂れる竜鱗式の手甲。
鉤爪とは違い、装甲自体が刃物となった、装着武器か!?
「―― ぉ……、ぉっ、お兄様ぁっ!?」
聞こえてくる、妹弟子の乱れた呼吸と、悲痛な叫び声。
どこか遠くて、鈍い。
まるで、水の中で聞いている声の様に、隔たりを感じる。
(アゼリア!
俺を抱えて、今すぐ逃げろっ
まずいんだ、このままじゃ、俺死ぬぞ……っ)
自分の指1本すらピクリとも動かなくて、内心ゾッとする。
多分、交通事故の衝撃みたいなもので、全身がマヒしているんだろう。
場合によっては、筋肉や内臓どころか神経系まで、重傷を負っているかもしれない。
(おい、アゼリア! はやく俺を ―― )
―― 瞬間、『カン!』という機巧起動音。
即座に、重なる様に『チリン!』という自力発動音。
機巧詠唱と自力詠唱で、魔法の2重使用。
それは、アゼリアの奥義。
究極にして雷速の『必殺技』。
「よくも、お兄様をっ!
―― 死ねええええええ!!!」
パァン!と破裂音は、音速超過の証。
『剣帝流』秘伝の身体強化魔法【五行剣:雷】と、俺のオリジナル魔法を掛け合わせる事で始めて成立する、瞬殺の四連刺突。
それが、対人戦では無敵であろう、アゼリアの『魔剣士の力と技の極みの奥義』 ――
―― すなわち、【秘剣・木枯:四ノ太刀・四電】!
「ガハァ……!?」
と、男の革靴が一歩下がり、鮮血の赤が、雑草を踏み固めた緑色の地面に散らばる。
「何ダ、このチクショー女ァ!?
2回も!? 今の一瞬で『死んだ』!! この俺サマがァ!!?」
意味不明な、発言。
理解不能に、一歩踏み出し、ドガン!と殴打音。
「―― キャァ!」
という悲鳴。
1拍遅れて、ブン……ッと風斬り音。
「グワァ……ッ!
チクショー、また1回ぃ……っ、ああぁ!!?」
そして、男の悲鳴と、鮮血。
(何が起きた……?
何が起こってる……?)
起き上がろうと両手に力を込めても、やはりピクリとも動かない。
(どうして、アゼリアのあの『四電』を受けて、まだ動いている……?
さらに、殴り倒して反撃 ―― つまり<封剣流>の『寝技』……?
それも食らった上で、まだ意識があるのか、この襲撃者は……!?)
重傷の衝撃か、指一本もまともに動かない身体が、恨めしい。
(何とか体勢を変えて、状況の把握だけでも……!)
そんな俺の内心に応える様に、ゴロリと身体が転がされた。
体勢が、うつ伏せから仰向けに変わる。
森林の緑の向こうに、空の青と白が見える。
「ぁ、ゼリ……ア、ぉあ ―― !?」
なんとか肺から絞り上げた声。
それを止める様に、ドン!と腹を踏みつけにされる。
穴が開いた脇腹に激痛が走り、呼吸が詰まった。
「―― ゥ……ハッ!」
「カッ!! 最悪ダ!」
俺を踏みつけにしたヤツは、血の混じったツバを吐き捨てた。
▲ ▽ ▲ ▽
俺は、急に横隔膜を踏みつけられ、生理反応でゲホゲホとむせる。
襲撃者は、こっちの様子にはお構いなしで、憤然と吐き捨てる。
「化け物メぇ……!
一瞬で2回……、いや3回『殺された』ゾ……っ。
どう考えても、兄弟子より妹弟子の方が危険だロ!」
白磁色の肌の、異国の青年だった。
ワシ鼻に、青い目、薄い茶色の短髪、190超の上背。
それが、俺を踏みつけにして、銀髪の少女を肩に担いでいる。
(―― アゼリア!?)
異国風貌の男は竜鱗の手甲の右手で、肩に担ぐ銀髪少女の垂れ下がった頭をつかんだ。
無理矢理に、気絶したアゼリアの顔をあげさせる。
「この大型魔物並みの強大な魔力。
まるで、<四彩の姓>直系ダ。
それに、<御三家>黄金世代の卓抜の才気と肉体。
―― なるほど、この小娘は『第三世代の実験体』に最適カ?」
彼女はこめかみを殴打されて出血したのか、長い銀髪の一部が赤く染まっている。
砂色の肌は土に汚れ、殴打痕に鼻血が流れ、白い目を剥いている。
失神してピクリとも動かない、人形のじみて整った顔のアゼリア。
「フン……ッ、帝国の女は、やはりいまいちダ。
ガキすぎて、全くそそられない……」
異国の長身男は、つまらそうにため息。
「だが、もしも。
もしも、脅威力5を越え、『竜の骨』まで耐えきったら、種付けしてやろう。
この神王国最強『心臓の11番』の血を残すは、名誉ゾ?
だがまあ、他と同じく『失敗して廃棄処分』、その確率の方が高いカ?」
そして倒れた俺に目を向け、カタコトの帝国語で、ニヤニヤと笑いながら続ける。
脇腹をブチ抜かれ、致命傷でピクリとも動けない、俺を見下ろしながら。
「―― おい、どうした低能メ?
貴様、大口を叩いていたらしい、ナ?」
「―― ……ぅっ」
腹を、横隔膜を鉛の塊のような片足で踏みつけられて、呼吸もまともにできず、声一つあげれない。
「ホゥ、『どんな敵からも守ってやる』?
『例え世界最強が相手でも負けない』って、ハハッ!
―― なら立ち上がって、この俺サマと闘ってみロ!!」
「―― ……~~っ」
奥歯が砕けんばかりに食いしばっても、俺の手足はピクリとも動かない。
まるで、全身麻酔でもかけられたように、五体がマヒしている。
「フン……ッ。
『剣帝流』が、護国の最強流派『第5の防諜』が、竜牙兵団の生みの母になり、自国を滅ぼす要因になる。
失笑ダ!」
「…………」
(待て、テメー、このぉ ――……!!)
アゼリアを担ぎ、自分を踏みつける男の足を、せめて掴もうと。
奥歯を砕けんばかりにギリギリと噛みしめ、鼻血の出んばかりに気合いを総動員。
なんとか根性で、両手を地面から引き上げる、と ――
「―― 『火竜心臓』の試用運行は充分ダ。
やっと、このジメッとした帝国から帰れるナ」
ズン……!と、床板を踏み抜くような、強烈な踏みつけ。
「……カ、ハッ」
俺の腹部の傷口に響く衝撃が、意識を刈り取ってしまう。
腕一本で行動不能にされた。
足一本で意識も意地も踏み潰された。
(―― 俺は、俺は……!
この肝心な時に、何も出来ない……っ)
―― 自分の無力さと、ザコっぷりに、嫌気がさす。
そして、暗い闇の中に、意識を没した。
///////!作者注釈!///////
2025/9/1 抜け落ちてたセリフを追加しました




