223:姉な後継者になりたくて!
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
ここしばらく<帝都>を離れて<金鉱島>とかいう島へ。
半分観光な感じの俺と、妹弟子・アゼリアと、あと飼育魔物のブチ。
―― で、なんか色々あって、島で出会ったガキんちょ獣人な熱愛十代(プラス魔物1匹)の面倒をみてやっているワケだ。
例えば、身分証を作るために冒険者ギルドで登録してやったり。
寝床として、冒険者ギルドや行商人ギルドの御用達・長期滞在の格安宿屋やら、巨鳥魔物のデカイ身体でも寝れる場所として馬小屋の貸しスペース(ブチの隣!)を紹介してやったり。
後は、当面の生活費を援助する的に、この金貨1枚も持ち合わせがない『カネ無し十代獣人2人』にちょっと仕事させて報酬あげようかな、とか思ったんだが。
例えば、地元を案内させて『ガイド料金』くらいは払ってやろう、とか思ってたんだが……。
(でも、なんかコイツら、地元民じゃないっぽい……)
そんなワケで、『地元案内』の依頼の話をしても、
―― 「いや、そう言われても、俺たち……」
―― 「街の中とか、初めて入ったもんね……?」
―― 「地名とか、色々言われても、解んねーし……」
とか、ゴニョゴニョ言いにくそうに目線をそらす感じ。
つまり、この熱愛十代2人は、ここ<金鉱島>の事なんて、まるで知らないらしい。
昼飯とか食いながら当たりさわりの無い雑談をしてると、その会話の端々で、誤魔化しきれないワケあり話がポロポロ聞こえてくる。
(どうやら色々あって故郷から飛び出した、というか。
熱愛十代だけに『駆け落ち』か何かで、逃亡生活みたいな感じ?)
この獣人2人そろって、家出中という非行未成年の疑惑が持ち上がる。
(まあまあ国際色豊かな<帝都>でも、獣人種族なんてまるで見なかったから、遠方の特殊な人種なのかもなぁ~……。
―― そう言えば、『なんとかの末裔』とか言ってたし……)
そんなホームレス十代前半みたいな連中を、飯食わせて宿に泊まらせて風呂入らせて、と面倒みる事、二日・三日。
―― 徐々に、俺と妹弟子に心を開いてきたらしい。
まあ公衆浴場の入浴マナーも知らなかったんで、身体洗ってやったり、髪洗ってやったり、色々と世話を焼いてやってるからな。
初日というか、初対面の時の、ビクビクした警戒した感じが抜けてきた。
(あの2人、当流派の飼育魔物よりは、なつくの早いな……。
<羊頭狗>が『腹見せゴロン』し始めたのは、肉体言語を始めて2週間目くらいじゃなかったけ……?)
当流派の飼育魔物の野性味を誉めるべきか。
この獣人2人の、柔軟性というかコミュ力を誉めるべきか。
でも、いまだに2人で何かと、コソコソ話はしているが。
だが、警戒が解けた分だけ距離が近くて、なんか色々と内輪話が聞こえてくる。
「毎日ご飯がおいしい! 大陸の反対に居た時には考えられないねっ」とか。
「あの真っ黒な砂漠じゃあ、虫とかトカゲとか泣きながら食べたよな……っ」とか
「鳥型魔物が頑張って<金鉱島>まで飛んでくれたお陰ね」とか。
「帝国領とか初めてだったから、どうなるか不安だったけど……」とか。
「帝国語も藩王国の港町で教えてもらった通りで、そんなに難しくないね」とか。
「助けてくれた密航ブローカーのオバさん、元気してるかな……」とか。
不法入国か?
密入国者か?
そんなヤバそうな情報が、色々ポロポロ聞こえるワケなんだが……。
「…………」
(俺って、国立研究所のバイト君という半分お役人みたいなモンなんだけど……。
これ、大丈夫なのかな……。
あとで魔導三院に、犯罪幇助とかで怒られない……?)
兄弟子、ちょっと後悔中。
―― 『うぉぉ! 獣人だ! イヌ耳男子だ! 羊ツノ女子だ! ファンタジー種族だ! すげえええ! これこれ、コレよ! ニッポン男児はこういうのを求めているワケですよ! この世界に六道輪廻転生して初めて “良かった” と思えたぜ! 南無三・釈尊、愛してる! チュッ(前世ニッポンの方角へ投げキッス)』
見るからに異世界っぽい要素にウキウキしすぎて、事情も知らん赤の他人に深入りし過ぎた。
兄弟子、今さら後悔中。
▲ ▽ ▲ ▽
夕食&お風呂を終えて、そんな微妙な気持ちで宿屋に引き上げる。
おやすみ前に明日の予定を話そうと、4人で男子部屋に集まったワケだが。
「―― リアがお姉さんなんですわよ!
貴女と貴男は、妹と弟ポジションですので!
そこんとこヨロシクですわ、お~ほっほっほっ!」
なんか、妹弟子が覚えのあるセリフを口走ってた。
「……どしたリアちゃん、いきなり?」
兄弟子、大困惑。
ちょっと声がドモっちゃう。
そして、ちょっと喉を絞め上げる手にも、ムダに力がこもっちゃう。
『ぐ……ぁっ、クソ゛ォ゛、ひともおもいに、殺゛せ゛ぇ……』
「うっせえ! 今取り込み中なんだ、ちょっと黙ってろ!」
バコン!と愛剣の模造剣で黒覆面の頭をブン殴ったら、勢い余って床から2mくらい跳ね上がった。
(うん? ……え、『2mは流石に死ぬ』って?)
あ、ごめん……。
今、俺ウソついたかも。
だから本当は、違うから。
多分、床から約1.8mだと思う。
だから四捨五入したら1m半くらい、黒覆面が跳ねたのは。
(だから、ほら、大丈夫ぅ!
安全・安心・セーフティ!
あぶねーあぶねー、うっかり『人助けの剣帝流』が殺人流派になっちゃうところだったZE☆)
床でヤモリみたいな体勢している黒いヤツが、何かビクビクしているのも、きっと気のせい。
ヨシッ、と無事を確認したら、すぐに目を背ける。
あくまで、オッサンがビクンビクンと見苦しい姿なので。
―― そんなワケで、仕切り直し。
「どうした、リアちゃん。
いきなり?」
兄弟子としては、そろそろ『手切れ』でもいいかな、と思ってたんだが。
なんでこんな『旅先で出会ったばかりの駆け落ちバカップル(笑)』な獣人少年少女2人に、急に入れ込んでんの、キミは。
「お兄様、わたくし<帝都>で過ごしたこの1年で大きく成長しましてよ!
このアゼリア、お胸も靴も、サイズがひとつ大きくなりました!
もはやお子様ではないのですわ、立派なレディとして度量をみせましてよっ」
「………………はい……?」
ヤバイ、マジで言ってる意味がわからん。
「つまりですね ―― トォ!」
ちなみに、最後の『トォ!』ってのは、妹弟子が鞘入り<正剣>を片手に、宿の部屋の小テーブルから飛び降りた時のかけ声。
ついさっき、天井に張り付くというゴキブリみたいなマネした黒覆面の1人を叩き落とした時に、そのまま小テーブルの上に乗ってたワケだ。
ちょうど、ベッドの上で固まってた熱愛十代な獣人2人を、黒覆面たちの攻撃から庇うのに丁度いい位置だった事もあったワケで。
「どうやら今しがた退治した悪党集団は、シゥイとファブックを狙っている様ですの!」
「―― え……?
あ、そうなの?」
「ええ、夜の寝る前にシゥイから色々お話を聞きましたら、そういう事らしいですわ!」
どうやら、女子部屋の2~3日の生活で、色々とガールズトークがあったらしい。
「き、きっと……わたしが、魔物と話せるから……
そういう、この人達が『狗笛』とか呼んでる、そういう能力を持ってるから……」
獣人少女は、アゼリアと目を合わせて肯き合ってから、自身の秘密を口にする。
お互いに、結構踏み込んだプライベートの話もしたみたい。
なんか、順調に乙女同士の友情を育んでる。
―― こっちの男子部屋とか、修学旅行の男子中学生みたいな話しかしてないのに!
武器の話とか。
必殺技の話とか。
空飛ぶ魔導兵器の話とか。
超合金合体ヤマト魂DXの心得とか。
明日は何食いたいとか。
つまり『木刀の土産』やら『ドラゴンの金属アクセサリー』やらに、キャッキャッ言う知能程度の話題。
そう! 我ら男子2人はバカである!
―― 閉話休題、話を続ける。
「あ~……、そういえば。
いつも巨鳥のお友達に言う事聞かせてたの、それだったのか……」
俺は、獣人少女の隠し能力に感心。
(あぁ~……、たまに頭を押しつけてたのは、そういう特殊能力発動だったのか。
んじゃ時々、俺の鉄弦が『ビィィン』って鳴ったのも、その『狗笛』ってヤツか?)
獣人少年の方が呆れた声で口を挟む。
「……いや、あのさ。
ロックさん達は、シゥイが<雷鷹交梟>を ―― 魔物を操ってたの、何だと思ってたんだよ?」
「ん~……。
別に、普通に、リアちゃんみたいな感じ?」
「ええ、リアもブチになら、言う事聞かせられますわよ!」
妹弟子が、エヘン!と胸を張る。
口笛吹いたら走ってくるレベルには飼い慣らしているからな、当流派の魔物使い。
(それに最近は、巨鳥魔物に餌付けしながら、やりとり始めたし)
―― あ、巨鳥魔物とやりとりか!?(ひとり笑い
俺はダジャレに内心爆笑。
そのニヤニヤ顔を見て、獣人男女は何か疲れたような、ため息のような声。
「改めて思うけど、この人達おかしいよ……?」
「うん、帝国の魔剣士って、みんなこんな感じ……?」
▲ ▽ ▲ ▽
さて、部屋中に転がっている不法侵入者どもを、壁際に並べ直す。
こんな狭い安宿の2人部屋に、5人も隠れてやがった。
「―― で、コイツらが? この2人を狙って?
獣人少女の特殊能力が目当て、ねぇ~。
へぇ~~、そうなんだ?」
俺は、独り言で情報をまとめながら、黒ずくめ連中を1人ずつ鉄弦で縛り上げていく。
もちろん、魔力操作技術で鉄弦を操る『鋼糸使い』技能の練習ついで、だ
すると、ツノの生えた獣人少女から呆れ顔を向けられた。
「……あの、ロックさん。
逆に訊きますけど、さっき襲ってきた時、この人達を何と思ったんですか?」
「え、時々暗い所に出てくる、ゴキブリかフナムシみたいな連中?
いつも建物の陰とか、天井裏とか、地下とかで、何かゴソゴソしているし……」
「……ど、どういう感性してるの、この人……?」
羊獣人っぽい少女は、目眩みたいにツノ生えた頭を手でおさえる。
「そう、言われてもなぁ……」
兄弟子、ため息ついちゃう。
何せ俺、この手の連中を、<帝都>滞在の1年だけで2~300人はブチのめしたワケで。
最近なんて、こういう黒覆面で黒ずくめな連中を見慣れすぎて、今さら珍しいとも思ってないワケで。
「まあ、骨格からして、どうせいつもの連中 ――
―― 『神王国』の暗部なんだろうし……」
そんな独り言で、倒れている奴の顔とか首とかをゴシゴシすると、案の定。
浅黒い肌に浮かび上がる、『炎のマーク』。
「………………っ」
「………………っ」
すると視界の端に、うつむいて身体を硬くしているネコ耳少年と羊ツノ少女。
「なんだっけ……?
ドッヂ■ンペイか……、じゃなかった、『炎罪の紋章』だったっけ?」
「―― ……っ」
「―― ……っ」
俺がぼやくと、獣人の少年少女は、そろってビクッと身体を震わせる。
「という事は、何、お前ら2人って、本当に大陸の反対側から逃げてきたワケ?」
「―― ……っ」
「―― ……っ」
俺が話す度に、熱愛十代2人はビクビクと身体を震わせる。
―― まるで捨て犬だ。
この、駆け落ちカップルだか義理姉弟だかの、紫色髪の2人。
『人間は怖いが、エサは欲しい』と、怯えながらこっちを伺っている雰囲気。
(―― なるほど。
つまり『あの頃の妹弟子』に似ているワケか)
帝国の魔剣士名門<封剣流>総本山・ミラー家の直系として生まれながらも、捨て子同然で育った妹弟子・アゼリア。
彼女にとって『過去の自分』を見るかの様な、孤独と空腹に震える少女と少年の様子は、とても見過ごせなかったのだろう。
「だから、『妹と弟ポジション』ね……。
つまり、本格的に2人の面倒みてやる気って事ね?」
兄弟子、今日の昼とか冒険者ギルドに連れて行きながら、
『だいぶん自活の準備を手伝ってやったし、コイツらそろそろ放り出してもいいかな?』
とか思ってた頃なんだけど。
まあ、『神王国の暗部』どもに生命を狙われている、少年少女を放り出すのも寝覚めが悪い。
まさに『人類守護の剣・剣帝流』としての、面子にもかかわる。
(しかし、不幸な少年少女を自らすすんで助けようとするなんて……!
やっぱり妹ちゃんは、心が天使さんだな……っ)
―― 【超報】妹弟子がハイパー清い心な聖乙女さま過ぎる件について!!!!!
このスーパー妹弟子は、この俺が育てた!!!
(後方兄貴面で得意顔)




