222:口止め料(2人と1匹分)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
さて、なんか茂みから『グゥ~~……』とか『キュルルゥ~~……』とか、あからさまに腹ペコな音響効果が聞こえてきたワケだが。
「……おい、そこの2人?」
俺が声をかけると、ガサァ!と茂みが揺れる。
さらに、子どもダマしな鳴きマネが返ってきた。
―― 『みゃ、ミャァ~~……』
―― 『ほ、ホゥ! ホホゥ! ホゥ、ホホゥ!』
「な~んだ、ネコとフクロウか……?」
とか、誤魔化されるワケねーだろ!
ワザとらしいにも程があるぞ!
「じゃあ、野生のネコさんとフクロウさんに、料理の毒味でもしてもらいますかねぇ~~~(完全に棒読み)」
さっき料理の片手間で作ってた、笹の葉を4~5枚折って作った丸皿を2枚用意。
それにナマズ・フライを一切れずつ乗せて、軽く塩だけパッパッとふって、ガサゴソいってた茂みの近くに置いてくる。
すると、茂みの奥から、まるでナゾなくぐもった声がする。
『……お、おいし、そう……っ』(ジュルリっ)
『……こ、こんなので、だ、だまされない、ぞ……!』(ゴクリっ)
『ホ……、ホゥ?』(ヒョイ、パクッ)
どこかで見た覚えのある、巨大な猛禽類がバサバサァ~……ッと木の枝から降りてきて、笹の葉の皿の片方をつまみ食い。
『あ! ダメ! ルゥキ、食べちゃ……っ』
『あっ、俺の分……っ』
思わず茂みから身体半分出てくる、全身コートの少年少女2人。
特に、地元民少女(曲ツノ付き)の方が声を荒げて飼育魔物へ注意する。
「『コレ熱い』じゃないのよ、もう……っ。
アヤシイ奴の作った物なんだから、ちょっとは気をつけて!」
『ホゥ……? ホ・ホホゥ』
「だから『コッチも食べていい?』じゃないの!
ダメ、コレわたしのっ』
巨大な猛禽類が、もう一つの皿の白身フライもつつこうとする。
慌てた地元民女子は、目の前の笹の葉皿を持ち上げ、手づかみの一口でパクリ。
「―― ふっ!?
美味しい~~~!」
「し、シゥイ……っ!?」
地元民男子(ケモ耳付き)は、あっさり食べちゃった姉だか幼なじみ少女だかに、絶句。
その間に俺は、そそくさと笹の葉皿2枚を持って行き、ナマズフライを2人前追加で設置。
すると、『女の子座り』してた茶色くてボロボロな全身コートの子が、ピョンピョン!ウサギ跳びで近づき、2皿目に手を出す。
「あ! また落ちてるぅ~っ。
―― ハフゥ……、熱々ぅっ」
落ちてねーよ、俺が置いたんだよ。
できたて料理が落ちてる世界とか、どんな童話ファンタジーだ。
『なんとかの青い鳥』かよ。
(そう言えば、前世ニッポンには『青い鳥マーク』のネットサービスがあったな……
なんだっけ、『SNS対戦ファイティング・ツイッター』だったけ?)
『異世界なう』、あとハッシュタグ『#元の世界に戻る方法』、『#拡散希望』……。
届け、前世ニッポンへ!
「ちょっと、シゥイって……!」
「あ、ファブックはいらない?
だったら、わたしがもらってあげるぅ~」
地元民男子は、注意するが相手は気にしない。
彼女さん(?)は汚れまくってる素手でつかみ、ハフハフしながら食べてしまう 。
胃袋が完堕ち、『食欲には勝てなかったよ』状態。
「シゥイ! 毒が入ってたら……!」
「こんなに美味しいなら、わたし毒入りでもいい~~っ」
「そ、そんなに美味しいの……っ?」
「サクサクなのにフワフワぁ~~」
「サクサク!? フワフワ!?(……ゴクリッ)」
どうやら地元民男子もガマンの限界らしい。
お腹がグ~グ~鳴ってるしね。
「おい、焼き魚ができたぞ。
こっちにこい」
俺は、たき火から少し離れた位置に、グサ!グサ!と串を刺す。
ガサガサ!ガサガサ!と葉っぱまみれ全身コートの、デッカいドブネズミみたいな姿の2人が、四つん這いで近づいてくる。
『ホ……ホ……ホ?』
2人の後ろに、身長2~3mの巨大鳥類魔物もヒョコヒョコ歩いて付いてくる。
『メェ~……』
『ホ……ホゥ』
『メ、メ』
『ホゥ、ホ』
そして、当流派の愛玩魔物とペコペコと頭を下げ合う。
そんな謎のアイサツを交わしてから、食事の輪に加わった。
▲ ▽ ▲ ▽
「あ~……食ったぁ……」
「久しぶりに、お腹いっぱい……幸せぇ」
―― 【圧勝】俺の調理スキルにポコパンにされた雑魚ガキ2匹が転がってる件について!【胃袋KO】
「香辛料いっぱいピリピリの餡かけ、美味しかったねぇ~」
「川カニの素揚げも、足がパリパリで最高だった~」
「もぅ、ファブックったら! ルゥキと奪い合いとかするしぃ~」
満腹でお腹ポンポコリンな地元民カップルが、雑魚寝でイチャイチャしとる。
(おい、クソガキども、当たり前みたいに腕枕とかすんな!
無意味に寄り添って、ナデナデとか、スリスリとかすんな!
さてはテメーら、本当に正真正銘の『バカップル』だな!?)
つまり、公害である。
つまり、公共の場の悪である。
どこでもイチャイチャ・イチャイチャと公共の風俗を害する、倫理観ゼロの害悪存在だ。
―― いや、違うって! 嫉妬じゃないって!! むしろ『クソが』だって!
(あ、嫉妬でシットね、(ひとり笑)
「フ・ゥア~……、もう今日は、いいかなぁ……」
「ファブックったら……、こんな所で寝たら、風邪ひくぅ……フワ~」
揃ってあくびし始めた。
放っておいたら、そろそろ昼寝し始めそう。
「―― お前ら二人。
そろそろ自己紹介くらい、しろや」
俺は調理の後片付けしながら、年上として『礼節』の話をする。
鉄鍋にタワシかけて、汚れた水を捨てて、最後に植物油でさび止めコーティング。
油用タオルでキュッキュ・キュッキュ……ッと鳴らしていると、ようやく地元民カップルが身を起こした。
「アンタ達……、何者だ?」
「わたしたちを、どうするつもり……?」
「―― ……おいっ」
(何で今さら、シリアスを演出してんだよっ!?)
さっきまで、当流派の食いしん坊と、
―― 「おいアンタ、それ塩焼き3匹目!」
―― 「そうよ、ひとりで取り過ぎぃ!」
―― 「だってリアのお魚ですもの! リアのためのお兄様の料理ですわよぉ!」
―― 「でも、わたしも食べていいって言われたもん!」
―― 「そうだ、そうだ! ひとり占めすんなっ」
とか串焼きを取り合いしてたくせに。
『ネコ缶ですぐに腹出してゴロニャンしてきたノラ猫が、食い終わったら急に不機嫌になった』くらいの理不尽さだ。
―― とは思うが、生意気ガキンチョにいちいち怒っても仕方ない。
年上として、いや大人としての度量を示す。
そんな精神年齢が成熟しまくった、転生者の俺(得意顔)。
「剣帝流の一番弟子、ロック!
名字なし学歴なしの16歳、最近は帝都でアルバイト中、以上。
―― 次、リアちゃんっ」
俺が指名すると、妹弟子が手を上げ、元気にお返事。
「はぁ~い、剣帝流の後継者・アゼリア=ミラーですわ!
士官学校1年D学級の16歳、好きなお菓子はクッキー!
しばらく<帝都>から離れていて流行に疎いので、美味しいお店があれば教えてください!
仲良くしていただければ嬉しいですのっ」
「―― ……なっ……んだ、と……!?」
俺の背中に衝撃が走る。
お前それ、ちょうど1年前に練習してた『新入生のクラスでの自己紹介』の文言そのままじゃねーか?
(まさか、この1年間ずっと使い回し!?
お前ちょっとお前もうちょっとあのさぁもっと場所とか相手とか、TPOにあわせてアレンジとか ――
―― うん! ぜったいに出来ませんね!!)
キミ、ホントそういうの不器用だもんね!
コミュ症No.1女子は!
「な、仲良く……、ですか?」
「ええ、新しいお友達、ですの!」
「お、お、おともだちぃ~~!?」
―― んっ、なんか相手の女子にクリティカルヒットしとるぞ?
「おっともだち~」
「おっともだち~」
「おっともだち~」
「おっともだち~」
「おと、おと、おと、おと、おともだち~」
「おと、おと、おと、おと、おともだちっち~~」
なんか『♪せっせっせ~のよいよいよい』みたいな手遊びで、仲良くじゃれ合い始めた女子2人。
「ね、義姉さん……?」
ポカンとしてる地元民男子。
俺は、それに鋭い声をかける。
「―― おい、そっちは!? 自己紹介っ」
すると、ハッとした顔で口元を引き締め、ゆっくりとフードを後ろにやる。
バサバサッと振るった濃紫髪から、ヒョコリと一対のケモノ耳。
「―― ファブック……。
『咎の民』の末裔、ファブック=リシャ=カフ、だ」
続いて、地元民女子も彼氏に倣って、フードを下ろす。
「シゥイ……。
『咎の民』の末裔、シゥイ=ライ=テンケ、……です」
まるでヒツジのような、頭部から横に生えた曲角をさらした。
▲ ▽ ▲ ▽
「ふ~ん。
―― で、そっちの鳥型魔物のペットが『ルゥキ』だったか。
あ、ウチの魔物は『ブチ』ね?
見ての通り、白黒ブチ柄だから」
以上。
と俺が自己紹介タイムを切り上げようとすると、『待った』がかかる。
なんか切羽詰まった感じの、地元民男子の声。
「―― いや、ちょっと! あのさ!」
「うん……?
―― ああ、そうか、さっきなんか『ペットじゃなくて友達』とか言ってたか、その魔物。
ああすまんすまん、ウチがペットだから、つい、うっかり」
「いや! そうじゃなくて、ですね!」
と今度は、地元民女子の声。
俺は、何か言いたげな2人に向き直る。
「え、何?」
「なんか言う事あるだろ?」
「ほら、これっ、これ!」
「いや、さっき見たし……」
俺としては、料理と片付けの疲れもあって、そんなの後にしてくれという気分。
「いや、ちゃんと見てないだろ、さっき!」
「そうそう! よく見たら、色々言う事ありますよね!?」
2人して、自分たちの頭に生えたケモ耳と曲ツノを指さし、強めの主張。
兄弟子、フッと鼻で笑っちゃう。
「―― 残念だったな、少年少女!
俺とか、獣人みたいなファンタジー人種に初めて会うから!
耳やツノの形とか『咎の民』とか何か色々言われても、まるで解らんぞ!!」
そう! モノを知らない奴はサイキョーなのだ!!
(―― うっせぇーよ!
『これだからコミュ症は常識なくて……ハァ』、とか言うな!!)
だいたいなぁ、俺の前世ニッポンのサラリーマン経験からしてだなぁ、
―― 『え! 何とかさんって、●●なんですか、あの▲▲の!?』
とかオウム返しでテキトーに驚き演技しておけば、相手はだいだい満足すんだよ!
コーシエンの常連とか、ラグビーの花園とか、水泳の名門とか、陸上の強豪とか、知るかそんなモン!(笑)
旧華族の何々家とか、どこどこ会社の創業家とか、マイナー過ぎんだよ!(呆)
せめて地下闘技場(東京ドームの隠し施設!)を運営しているトクガー家くらいの知名度になって出直してこいよ!
「リアも! ぜんぜん分かりませんわ!!」
妹弟子も、俺のマネしてエヘン!と胸を張る。
すると、さっきまでリアちゃんと仲良く『おっともだち~♪手踊り』してた地元民女子も、眉を吊り上げて文句を言い始める。
「えええ~~、そんな雑な対応あるぅ~!?」
「だって、わかりませんものっ」
今度は、地元民男子の文句。
「いやいやいや、フツー見せたらみんな驚くし……。
今までもずっと、気味悪がられて……」
「あ、そうなん?」
「いや、『あ、そうなん』って……
いや、でも……」
なんか、ブツブツ言ってる。
しかし、わたくし、天然っぽい紫色ヘアーの時点で、
『おおファンタジー…っ(感動)』
という感想なくらい、この異世界に詳しくないのですよ。
この異世界ではクソ田舎出身で、しかも帝国東北部の人外魔境<ラピス山地>で、第二の人生の大半を過ごしてきたワケだ。
(俺って世間知らずっぷりでは、あまり妹弟子の事を言えんしなぁ~……)
そんな俺のアッサリ反応が気に入らないかったらしい。
なんか、地元民女子がプンプンと吊り目で立ち上がり、大声を上げる。
「そうよ! そう!
この耳や角のせいで、わたしたち化け物あつかい!
そのお陰で、フツーに街なんか入れなくてぇ、近づけなくてぇ ――」
「―― あ、うん?
でも、鉄兜を被れば行けんじゃね?」
俺が声をかぶせると、妹弟子が何かゴソゴソと探し始める。
「お兄様、ちょうど『ブチのエサ入れ』にしようと拾ってた鉄兜がありましてよ?」
『フニャ……、メェ……?』
これは、ブチの寝ぼけ声。
こいつら2人、迷惑なバカップルではあるが、当流派のアンポンタンが電気ショック漁法とかいう『超級の禁忌』をやった後始末を手伝ってくれたんだ。
あとちょっとくらいなら、面倒見てやってもいい。
「おおナイス、妹ちゃん!」
「ちゃんと洗って、死体の臭い匂いは落としてますのっ」
「えらいえらい」
「ウフフ~、誉められましたのぉ」
「よし後は超速で加工して、ケモ耳とツノ出す穴を開けたら充分っ」
俺が、ガンガン!カンカン!ギリギリ!と金属加工を始める。
『メェ……フワ~……』『ホゥ……クルル……』
満腹顔で昼寝している魔物2匹が、迷惑そうにチラ見してくる。
「―― よし! ケモ耳対応と曲ツノ対応の鉄兜完成!」
「は、早いって! なんか色々おかしいぞ、この連中!」
「そもそも、なんでその剣、鉄が斬れるの!?」
「いいから早く着けてみろ、細部調整するぞ?」
俺が、金属加工断面のバリ取りみたいな細かな作業をしていると、またケモ耳な彼氏さんが気弱な発言。
「でも、さ……。
俺が、せっかく鉄兜を被っても、耳とかツノとか飛び出てたら意味ないんじゃない?」
「バカお前っ、これ被っておけば『冒険者だ』って言い張れるだろ?」
「えぇ~……っ」
何故か、信じられないという顔の地元民男子。
続いて、曲ツノな彼女さんの方も気弱な発言。
「いや、あの。
せっかくで、ありがたいんですけど……。
そもそも、わたしたち、冒険者ギルドとか、カードとか持ってなくてぇ……」
「ああ、大丈夫。
無くしたって言い張れば、ちょっとの罰金で済むから」
「いや、そんなので良いの……?」
こちらも何故か、信じられないという顔の地元民女子。
―― ま、あくまで『身元引受人が居る』という事が前提条件だがな。
でも、だいたいどこの都市でも、身分証明書の代わりに金貨1枚くらいの罰金で出入りできるハズ。
(あ、皇帝陛下が居るので特別厳重な<帝都>は、例外ね。
兄弟子、一度それでヒドイ目にあいました)
細かな加工作業を邪魔するように、地元民男子がまた何か言ってくる。
「でも、さ。
シゥイの頭角は誤魔化せても、俺の獣耳は?
これピコピコ動いて、自分でも止められないんだけど……」
さっきから『でもでも』うるせえな、コイツ。
「だから『冒険者だっ』て言えば、誰も気にしないって!
殺した魔物の角とか爪とか、ケモ耳とか、動く尻尾とか、ナゾに吠える虎の顔とか、変な装飾を付けるヤツいっぱい居るから」
「え、えぇ~……っ」
「冒険者って、なんなの……?」
地元民男子は呆れ顔、地元民女子は苦笑い。
(つまり、MMORPG上級者かコアなバンドマンみたいな、超奇抜な格好の連中ばっかりだ!)
あ、前世ニッポンで例えるなら、って事ね。
もちろん。
▲ ▽ ▲ ▽
そんな感じで、バカップル2人にそれなりな格好をさせて、身元チェックの場所『関所』へ連行。
(あ、ほら都市城壁の入口すぐの中庭、人間をチェックする所ね)
「ぼ、冒険者で~す。ギルドカード落としました」
「わ、わたしも冒険者ぁ~、ギルドカードなくしました~」
と、棒読みセリフの、ケモ耳と曲ツノの獣人カップル。
落ちてた防具を着させているので、ブカブカ感は否めない。
「……フン」
しかし、衛兵の中年係員は、その2人をチラ見して、鼻息鳴らしただけ。
無表情で帳簿へ提出書類を挟み込み、赤ペンでチェック項目を書き込みながら、俺へ手を出す。
「はい罰金2人、と。
ひとり金貨4枚、合計8枚だ」
「おい、それはさすがにボッタクリだろ!」
「ここ金鉱山もあるし、養殖魔物の売買も盛んだから。
景気がいい都市だから人頭税がな、つまり入場料がそもそも高いんだよ。
罰金がつくと、さらに倍」
うっせぇ、『倍率ドン!さらに倍!』じゃねーよ!
昔のクイズ番組かよ!?
「くっそぉ~、8枚!?
マジで、2人で金貨8枚!?
他の都市の4倍以上とか、予想外の出費すぎる!
前世ニッポンなら、およそ100万!?
そんだけあれば何ヶ月ゲーセンに通えるんだと ――」
「―― いいから早く。罰金払って入れ。
次の人も待ってるんだから、早く」
衛兵の中年係員は、ズイッと手を差し出してくる。
今の俺は建前上『護衛の冒険者2人の雇用主』である冒険者ギルドの出入り業者。
つまり、臨時とはいえ『従業員』の違反行為に責任を負う立場。
しぶしぶ、金貨8枚を支払う。
なお、説明が面倒なお友達な鳥型魔物ちゃん(たしかルゥキ)については、捕獲用の木製檻を適当に作って、『荷物』扱いで入ってもらった。
―― 何か、予想の数倍な『口止め料』の支払いになってしまった。




