220:ケモ男子ツノ女子
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
さて、ただいま<金鉱島>観光の3日目。
ヒマを持て余した妹弟子・アゼリアが、なんか地元の女子?(全身隠すようにフード付きコートを被ってる)とトラブル起こしているみたいなんだが……。
「―― だぁ・かぁ・らぁ! その子、わたしの友達ぃ!
勝手に食べないでぇ~~!」
「……何を言ってますの、貴方。
コレ、魔物ですわよ?
人間でもムシャムシャ食べる、危ないヤツですわよ?」
変な事言うな、という口ぶりの銀髪美少女な超天才魔剣士さん。
珍しく美爪料なんかのオシャレして指さす先には、大人でもパックンチョと一口で呑み込みそうな、巨大な猛禽類。
気絶してロープぐるぐる巻きの現状でも、どこからどう見ても魔物。
なので、言ってる事自体は『魔物から人を守る魔剣士』として、至極真っ当なのだが ――
―― 当のアゼリア本人なんか、飼い慣らした魔物に騎乗しているワケで……。
(『お前がソレを言うのか?』という説得力ゼロな状況!
まさに、『自爆的な発言』! ――)
―― プラス実戦空手道イコール風●拳! うおおおおおおおおお!!
(注意:1年ぶりのログイン、おかえりなさい! カムバック・キャンペーン実施中!! 7日ログイン継続で、SSRアイテムがGET!?)
「―― ひぃ! うわ、なに!? 今の、山の魔物の声ぇ!?」
兄弟子が、雄叫びを山に反響させていると、なんか珍しく驚かれた。
地元民の女子(?)よ、気にすんな。
ただの狂気ゲージ発散だ。
異世界転生したせいで格闘ゲームできないイライラを、定期的に吐き出しているだけだ。
ほら、慣れてる妹弟子と愛玩魔物・ブチなんて、振り返りもしない。
いつもの事すぎて目もくれない。
「そんな魔物が人と友達だなんて、ねえ? ウフフッ」
『メェ? フンスッ、メェ……、メェ、フゥ……』
アゼリアが手癖で、ブチの首回りをナデナデしてやると、気持ちよさそうに目を細める。
自分では上手くかけない、首元や耳元みたいな外骨格の付け根あたりを、人間の手でかいてもらうのが嬉しいらしい。
「じ、自分は<羊頭狗>とか乗ってるくせにぃ~~!!」
「あら、何言ってますの?
ブチは人間とか襲いませんし、大人しい子ですし。
実際には、大きなヤギさんみたいなモノですわよ?」
話題のブチは、運搬の使役が中止になって、さらに飼い主にナデナデされて、完全に休憩モード。
ゴロゴロ岩だらけの山道で『伏せ』をして、あくびまでし始める。
「だったら! うちのルゥキだって人間とか襲わないし!
寝ている間だって、わたしと弟を守ってくれるし!」
フード少女のキンキン声の叫び。
ブチは、うるさいな~、という半開きの目で見ながら、またあくび。
放っておいたら昼寝を始めそうな様子だ。
多分、妹弟子といっしょに運動(狩り?)をしてお腹すいたけど、昼ご飯がまだのようなので、居眠りで時間を潰そうという感じなんだろう。
(何この、ニート引きこもりばりの、スローライフ生物……?
お前、食っちゃ寝ばかりのペット生活で、完全に野性味なくなってきたな、最近)
元々、ブチは気性が大人しいようだ。
ヤギのユキ(こっちは本物のヤギ!)と一緒に家畜小屋に入れていても、危害を加えない。
それどころか、寝ている時にユキに頭突きされても、ヨイショヨイショと背中に登られても、子ヤギの蹄で蹴られても、大して気にしていないみたい。
そもそも、子猫に悪戯される大型犬くらいの体格差なんで、痛くもかゆくもないんだろうが。
「あらまあ、魔物に守ってもらってますの?
随分と情けない方ですわね。
そもそも守ってもらうだけの関係を『友達』なんていいますの?」
「きぃいい! 自分はぁ! <羊頭狗>なんて! 凶悪な魔物に! 守ってもらってるくせにぃいい!!」
多分、気にしていた事をズバッと言い当てられたんだろう。
フードを深くかぶり顔半分を隠した地元女子(?)が、地団駄を踏んで叫びまくる。
すると、アゼリアはブチの上からヒラリと飛び降りた。
そして、眠そうな白黒毛魔物の太い首に抱きつく。
「何を言ってますの、貴方?
むしろリアが、この子を守ってあげてますのよ?
エサもお散歩も、毛繕いだってして上げてましてよ。
ええ、飼う時にした、お兄様との約束ですもの!」
約束守ってます、エッヘン!と胸を張る妹弟子。
▲ ▽ ▲ ▽
―― つまり、最初にブチという野良魔物の存在に気付いたのは、アゼリアだった。
1年半前くらいの『山岳ガイド』の仕事の後に、何かチョロチョロついてきていた白いチビ魔物(人間の成人男性くらいの体格)を、いつの間にか家(山小屋!)の近くで餌付けしていたワケだ。
(兄ちゃん、あれだけ『追っ払いなさい』と言ったのに……っ)
野良ネコにエサやるノリで、魔物の幼体を飼い慣らすなや!
オメー、ジ■リ姫気取りか、このポンコツ妹め!?
(おかげで、このボケ魔物に『人間を襲ったらどうなるか!?』を骨の髄まで叩き込む、超ハードな肉体言語をするハメになったワケで……
月1回くらい家(山小屋!)の近くまでくる配達業者さんとか、ウッカリ襲ったら大問題だからね!)
そんなワケで、飼い始めの頃 ―― つまり、まだブチが幼体だった時分(といっても成人男性並みの体格!) ―― に素手で取っ組み合いして何度も土をつけ、群れの『序列』という物を叩き込んだのは、この兄弟子である。
奥ゆかしい日本男児として『キンタローさん』方式、アイエー!
クマとスモーを取るくらいヤマト魂には造作もないことでゴッツァン=デス。
古事記にもそう書いてあるのでドスコイ!
つまり、ハッケヨイノコター・フロムアニメイシヨン!!
(不明なリキシ=ソウルが接続されました、しめやかに爆裂四散してください、サヨナラ!)
「―― 誰だよ!? シャルロッテ団長の事を本田って最初に呼んだヤツゥ!!」
これも、ただの狂気ゲージ発散だ。
意味のない叫びなので、内容には気にすんな。
―― さらには、使役動物の仕事として、『サメ狩り後の素材運搬』も覚えさせた。
陸鮫魔物の素材の残り(解体の残さ)をエサとしてたらふく食わせていたら、体格が当初の倍くらいになってきた。
その頃には、<駒>の代用(あ、アレね、魔法で動く機巧みたいなヤツね。荷物引っ張る役)の使役動物としては、そこそこ使える様になった。
そうすると今度は、別に困った事が発生。
肉付き良くなったので美味そうに見えるのか、他の魔物に積極的に襲われる様になった、貧弱・労働馬代わりの愛玩魔物さん。
仕方ないので、当流派で唯一『魔法得意勢』な兄弟子が、『カンタン!脳筋魔物でも出来る3重魔法』とか作って覚えさせたワケである。
あ、あくまでコレ、自衛手段ね?
(まあ、『魔物に強魔法』という、案の定な結果になったけど ――)
今までガジガジされて涙目で逃げてた相手を ―― 主にサメ魔物やトカゲ魔物を ―― 見かける度に、氷散弾の3重魔法をブッパして即ミンチ!
キャッキャッ! キャッキャッ! ワタシTUEEEE!
そんな感じに調子に乗って、逆に弱い者イジメするようになりやがったワケだが……
魔物とか、根本的に野蛮生物だから、仕方ないね!(開き直り)
▲ ▽ ▲ ▽
そんな回想というか、現実逃避というか。
しばらく青空を見ながら、思い出に浸っていたら、まだケンカしている女子2人。
「いいから離して! 返してぇ~~!」
「わたくしのですわ! エモノの横取り許しませんわよ!」
うわぁ……、仲裁するのメンド臭ぇ~。
「だから友達って言ってるでしょ! なんで食べようとするの!」
「リア、小さい頃から『オレのナワバリ!』とか『ワケマエよこせ!』とか言ってくる子、容赦してませんのよぉ!
みんなボコボコですわ、お~ほっほっほ!」
あかん……。
当流派のお嬢様のトラウマ(幼少期お腹ペコペコで他の孤児と残飯の奪い合い)が刺激されて、無闇にムキになっとる。
これは最悪、手が出るパターン!?
やべえ! 超人戦士である魔剣士の中でも格別エリートな超天才児のリアちゃんなんだ。
本気で暴れたら、『未強化』の素手でも血の海になっちゃう!
「よし、リアちゃん! ちょっと落ち着こうか?」
「何ですのお兄様ぁっ」
フンス!フンス!鼻息荒い子を、ガッチリ羽交い締め。
その間に、地元民らしきフードの少女はぐるぐる巻きのロープをほどき、巨大な猛禽類を解放する。
そして、何か不思議な行動をする。
鳥型魔物の人間の倍はある頭部に、自分の額を押しつける。
なんか知らんが、俺の右手の手首に巻いていた鉄弦がちょっと震えた。
「うぅ~、ルゥキ、大丈夫ぅ?」
『―― ホ……、ホ?』
気絶していた鳥型魔物は、ピョンと飛び起き、自分の両方の羽根をチェック。
なんか、マントを広げているような、妙に人間くさい動作だ。
さらにお腹にすがりついた少女を、ひな鳥を庇う様に片翼で包む。
人間の親が、子どもを片手でヨシヨシしているみたいな感じだ。
「……なんか、本当にこの子のペットっぽいな」
「ブゥ~……! リアが仕留めた獲物でしたのにぃ~……っ
鳥の串焼きぃ~~、今晩のブチのご飯~~!」
『……ゥ? メ、メ?』
居眠り一歩手前だった白黒毛魔物が、なんか呼んだ?という顔で、アゼリアの手に鼻先をすりつける。
「―― シゥイ、ルゥキ! ここか!?」
ガサガサ!と木の梢から飛び出してくる、新手の人影。
地元民の少女より、さらに頭半分くらい背が低いが(多分140cmくらい、小中学生か?)、声の感じは男子っぽい。
『彼』(仮?)もまた、先に来た『彼女』(仮?)と同じく、全身も顔も隠す様なフード付きコートを身につけている。
「お兄様、この子達……」
「うん、何か『変』だな……」
そう、この新手の少年も、さっきから居る少女の方も、『木の梢』から飛び出してきた ――
―― つまり、3~4mの高さにある木の枝の上を飛び回って移動しているようなのだ。
背中に魔法陣がついていないのに。
つまり、超人能力の魔剣士ではないのに。
あきらかに『未強化』のハズなのに。
「―― な!? <羊頭狗>を連れてる!
コイツらも『アイツら』の仲間で、シゥイを攫うつもりか!?」
アゼリアに顎の下をサスサスしてもらって、目を細めている、ウチのボケ魔物。
それを見た男子(?)は、緊迫の表情で後退り。
「いやいや、違う違う」
何か変な勘違いで、鋭い目を向けられるので、俺は慌てて手を振って否定。
すると、余計な口出ししてくる子が隣に一人。
「失礼ですわね、別にリア、人攫いではないですわ!
そっちの鳥さんが丸々してて美味しそうだったので、狩りしただけですもの!」
「……ルゥキを捕まえて、シゥイをどこかに連れて行くつもりだった?
やっぱり、アイツらの仲間じゃないか!?」
「だから違うと言ってますよね!?
悪い魔物やっつける! お兄様にホメられる! お肉もいっぱい! ブチ喜ぶ! そういう事ですのよ!!」
やめろ妹弟子。
ややこしい状況で、余計な事しゃべるな!
色々と勘違いされて、コミュ症な兄弟子の手に負えなくなるだろうが!!
▲ ▽ ▲ ▽
「ふざけるな、バカにしやがって!」
完全に勘違いしたらしい男子(?)は、バサァ!と長丈コートを脱ぎ捨てる。
しかも、目の前に広げて、煙幕代わり。
「大人ならともかく、こんな子ども2人くらい!」
こちらの視界をふさぎつつ、超人戦士・魔剣士に匹敵する超スピードで、一瞬で間合いを詰めてくる。
「フッ、甘いっ」
しかし、すまんな。
俺の方が何枚も上手なんだ。
『チリン!』と自力詠唱音を鳴らして、特殊効果の魔法【序の三段目:流し】を発動。
相手の、目隠し&突進からの低空ジャンプで強襲し、逆手のナイフで一撃! ――
―― その高速攻撃の運動エネルギーの方向性を、『真上』へと強制変更。
ポン!と胴体を片手ですくうようにタッチしただけで、天高く跳ね上がる。
「ファ、ファブック!?」
フード付きコートの地元女子(?)が、悲鳴をあげた。
それを聞いてようやく自分の状況を理解したらしい、男子も悲鳴をあげる。
「うわぁぁああ~~~!」
という声が、ドップラー効果で遠ざかり、
「ぁぁあああ~~~~~!?」
と、また近づいてくる。
つまり、10mくらい高く跳ね上げた相手が、落下してきた。
「ほい!」
さすがにそのまま落下したら、地元男子(?)は致命傷。
なので、『鋼糸使い』技能でキャッチ。
鉄弦でクモの巣みたいな形状の網目を用意して、無傷で捕縛。
「くそぉ! 離せよ! なんだよコイツ! むちゃくちゃだろ!!」
地元男子(?)さんは、ネット罠にかかったイノシシみたいに、ジタバタジタバタ。
むち打ち症状もなさそう、無傷で元気いっぱい。
「―― ん? なんでコイツ、犬耳なんて生えてんだ? アクセサリーか何か?」
「うわ! やめろ! さわるな! 気持ち悪い!!」
紫髪からコンニチワした獣耳を無造作につまむと、ビクンと動いて、指から逃げれる。
耳を伏せて、ピクピクしている辺り、どうやら飾り物ではなさそうだ。
「………………」
「―― お兄様、この子! なんか角とか生えてますわ!」
「や、やめてぇ! さわらないでぇ!」
妹弟子の声と、地元女子(?)の悲鳴に振り返る。
アゼリアが、長丈コートの子を何故か踏みつけて、頭部の左右に生えた角を両手で引っ張ってる。
ヒツジみたいな、立派な曲角だ。
「こらこら……。
痛がっているみたいだから、止めてあげなさい」
俺も驚きはしたが、それ以上に妹弟子の無体っぷりの方が目に付き、注意する。
「リア、角が生えた女の子、初めて見ましたわ!
ビックリですわ!」
「そだね。
兄ちゃんも、イヌミミ付いた男の子、初めて見たよ」
いつものように『ワーイ!』の両手挙げポーズで駆け寄るアゼリアを、頭ポンポンして落ち着かせる。
▲ ▽ ▲ ▽
その間に、角の生えた地元女子(?)さんが、犬耳の生えた地元男子(?)さんの元へと駆け寄る。
「ファ、ファブック! 今助けるからぁ」
なんとか鉄弦捕縛網を外そうと、四苦八苦している。
「俺の事はもういいから!
シゥイは、ルゥキと一緒に逃げて!」
女の子だけでも逃がそうとする、犬耳の生えた地元男子(?)さん。
悲壮な決意という顔をして、女の子の前で『男気』をアピール中。
「そんな! 貴男だけ置いていけないっ」
「行け、行ってくれ! 俺はシゥイ ―― いや、義姉さんさえ無事なら、どんな目にあってもっ」
「そんな! そんな、ファブックぅ~~」
「ルゥキ頼む!』
『ホ、ホゥ……?』
「義姉さんを、シゥイだけでも連れて行ってくれ!」
「あぁ、いや! いやよ、ファブックぅ~~、ひとりはイヤァ」
「一人じゃない……」
「え?」
「離れていても、心はずっと一緒さ……」
「ファ、ブックぅ~~」
「………………」
なんか、熱愛恋人のラブラブ盛り上げに利用されている感じがして、ちょっとイラッ☆とした。
なので、音速で鉄弦を操作。
『鋼糸使い』技能で作った捕縛網を解除して、バカップルの片割れを放り出す。
「―― うわっ、痛ぇ……!」
「ファブック、大丈夫ぅ!?」
頭打ったよアピール(笑)の男子に、そそくさ手当とか始める気遣い出来る系(呆)女子。
イチャイチャイチャイチャする、辺り構わずな(呆)バカップルども(失笑)。
(なんかね、もう人前で膝枕とか、さ。
『いた~いケガした~』『大丈夫ぅ?』とか、いちいち仰々しいんだよ、オメーら……っ)
『ホ……、ホゥ?』
ほら、ペットの鳥型魔物さんも、バカップルのイチャイチャに呆れてんだろうが、よぉ!
―― そんなワケで、もう関わりたくない気持ちでいっぱい。
思いっきり空気を吸い、肺いっぱいのそれを、一息で吐き出す。
「すまん!」
兄弟子、強制決着を開始する!
「どうやら当流派の(銀河お嬢様伝説な超天才魔剣士さんな)妹弟子が、キミ達のペットに無体な事をしたようだ!」
右手の握力全開で、銀髪頭を掌握。
「痛い! 痛いですの、お兄様! 何ですの!?」とか文句言ってる子は、完全に無視。
「このとおり! 本人も反省している事だから、許して欲しい!!」
俺の右側で、ジタバタジタバタしながら、
「なんでリアが頭下げさせられますの! 納得いきませんわ! ブチコロ! ブチ転がしますわよぉ~~! ブチコロですのよぉ!!」
なんかやたら不満爆発させてる子がいるが、今は完全に無視。
あと、何か自分を呼ばれたと勘違いした、白黒毛の愛玩魔物が『メ? メェ? メェ~?』とか、下向いたままジタバタしているアゼリアに鼻先をすりつけてる。
「は、はぁ……?」
「え、何? どういう事……?」
俺と妹弟子の、腰折り90度直角の、低頭謝罪が通じたのだろう。
「え、義姉さ ―― じゃなかった、シゥイ。
これ、結局どういう事?」
「ねえファブック……?
なんで今、言い直したのぉ?
というか、最近なんで『義姉さん』って呼ばなくなったのぉ~?」
「いや、それは……その……
―― っていうか、今はそういう場合じゃ……」
「ねえ、なんで?
ねえ、な・ん・でぇ~~?」
地元男子と地元女子の2人からは、和解の雰囲気。(一方的に断定)
(―― というかクソ!
この色ガキどもめ! 人前で盛ってんじゃねーよ!!)
はい、和解しました!
和解したって言ったら、和解したの!
無事にトラブル解決!
「―― そんじゃあ! きちんと謝罪はしたんで!
俺たちはこれで!」
もう関わりたくないので、全力ダッシュで立ち去る。
「お兄様! わたくし、何も納得してなくってよぉ、お兄様ぁ~~~!!」
ワイヤーぐるぐる巻きで、俺に担がれた妹弟子の不服の声が、ドップラー効果で山に響き渡る。
「クソがぁ~~! バカップルは死ねぇ~~~!
あと真の仲間のフェリちゃんを、ダルシムって呼んでるヤツも死ねぇ~~~~!!」
俺の声も、ドップラー効果で響き渡る。
あ、これも、狂気ゲージ発散だ。
異世界で格ゲーできないイライラを叫んでるだけ、内容は気にすんな。
『メ! メェ!!』
お散歩のつもりらしいブチだけは、最後まで楽しそうだった。




