218:ガクガクぱにっく(上)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
なんか今日は、やたら騒がしい。
というのも、真横で遠吠えしている連中がいる。
ワァオーン!
アオォーン!
ワゥゥ~~ウ~~!
「ワオーーン、ですわぁ~!」
『メェ! メメェ~~!!』
猟犬十数匹、妹弟子、白黒魔物が順番に空に吠えてる。
昨日今日と2日連続で、<金鉱島>の専門冒険者PTについて行って魔物牧場での魔物捕獲を見学していたワケだが。
なんか、『群れ』に馴染んだらしい。
当流派の妹弟子と飼育魔物。
より正確にいうと、魔物捕獲の冒険者さん達が『猟犬たち行け!』と指示すると、何故か一緒に走り出す、我が『剣帝流』のノーテンキ妹弟子とボケ魔物。
そして、魔物の群れのボスらしきヤツを真っ先に狙い、トリャー!と木剣で殴り倒して引きずってくる、超天才美少女魔剣士さん・アゼリア。
その後についてくる、大木みたいな豪腕で首を絞め上げて気絶させ、メェ~!と両手で『デカイの獲ったヨ! 2匹も!』と見せてくる、白黒毛の巨体魔物・ブチ。
そんな、ほのぼの観光アクティビティ『磯でお魚さん手掴み』みたいな光景が繰り返され、気がついたら群れの一員になってるワケだ。
(……うん、うん! 意 味 が わ か ら ん!)
―― 【悲報】剣帝流の超天才美少女さん、何歳になっても野生児の頃のクセが抜けない件について【大暴れ】
最初は<羊頭狗>の巨体にビビってた、黒柴くらいの武装猟犬たち。
しかし、昨日・今日と一緒に狩りを続けていると徐々に
『あ、コイツら新しい仲間なんだ……?』
と認識してきたらしい。
何か、今日のお昼ご飯の後には一緒にお昼寝とかしている。
―― 見よ! この一見『乙女チックに白馬とお昼寝』という絵画のような幻想風景!!
実際は、ペットの白黒斑点柄の外骨獣(魔物!)と、魔物追い専門の狩猟中型犬の群れに囲まれ、モフモフいっぱい大満足!
群れのボスみたいな顔してグースカお昼寝している、当流派の野生児お嬢様なのである。
「て、<帝都>の士官学校のお嬢さんって、変わってるんだね……アハ、アハハハッ」
「………………」
魔物捕獲専門PTの冒険者が、引きつった顔で困惑の声。
俺は、『そうですね』とも『いや違います』とも言えず、黙り込む。
大体そんな感じで、<金鉱島>観光の2日目が終わった。
▲ ▽ ▲ ▽
<金鉱島>観光の3日目の朝。
「―― さて、そろそろダンジョン見学に行かせてくれ!
いや、行かせてください! お願いします!」
兄弟子、渾身のお願いである。
―― 犬さん達と駆けっこ楽しいですわ~!
―― メェ! メェ!
という、体育会系な旅のお連れさん達への、ガチ懇願なのである。
ほら、兄弟子ってばインドア派で理知的な魔導男子だからぁ~?
キミ達みたいに、走って殴ってりゃ満足ってワケじゃないからぁ~?
「お兄様、そもそも今回の旅は、ブチの運動不足解消だったのではなくて?」
『メェ? メ? ンゴッ』
白黒魔物・ブチが、朝ご飯を奥歯でコリコリ噛みながら、『何の話?』って顔してくる。
ちなみにコイツ、夜は馬小屋の一角を借りて枯れ草ベッドでゴロ寝。
なので、早朝の今もまた馬小屋でお座りして、アゼリアからエサをもらっている。
その朝ご飯のバケツを見ると、雑穀とか魚の頭とか鳥の骨とか。
多分、宿屋のキッチンから料理の切り落としなんかを、妹弟子がもらってきたんだろう。
「兄ちゃん、この機会を逃すとダンジョンとか入れなさそうなんだよ!
冒険者ギルドの窓口で、色々聞いた感じによるとっ」
例えるなら、前世ニッポンで登山する時の『入山届け』みたいに、冒険者ギルドで手続きしないとダンジョンとか入れない物らしい。
考えてみれば当然だ。
お宝ザックザック&危険なトラップだらけ、という古代遺跡。
一攫千金を狙う冒険者が他国からも殺到するからこそ、冒険者ギルドが厳格なルールで管理してる。
ダンジョン攻略を目指す冒険者たちの安全確保、という事もあるし。
逆に、見境ないバカが爆薬とか強力な魔法で『貴重で重要な』古代遺跡の壁や床をブッ壊したら困るから規制をかける、って意味でもある。
それにダンジョン攻略の時は、古代文明の研究している学者センセイや、冒険者ギルドの監視だって同行する物らしい。
(そういうワケで、今まだ攻略中のダンジョンとか、ギルドから信頼されている高ランクの冒険者しか入らせてもらえないらしい。
当然、冒険者ギルドの『出入り業者』(俺!)とか、登録証を持っててもダンジョンに入れないワケで……)
兄弟子、魔剣士になれなかった不遇が大爆発!
なんだ、この転生後のチビカスゴミ身体、使えねーな!
「というワケで、雰囲気だけでも味わいたいんだ!
もう攻略済みで、お宝も敵もトラップも、何もなくても構わない!
―― 兄弟子のダンジョン未経験、卒業させてくれ!」
―― 異世界転生したのクセにダンジョンも行った事ないの?
―― えぇ~、キモーイ!
―― 即死ダンジョン童貞が許されるのはツ●サ文庫までだよね~~!?
そんな風に、異世界転生者専用のBBSで『ダンジョン潜った事ないザコおるwww?』とか煽られて恥をかきたくないワケである。
「なあ頼むよリアちゃん!
先っちょ! 先っちょだけでいいんだよ! 1回だけ! ちょっと入るだけ、ね? いいだろ、入り口だけだから! ちょっと1回洞穴に入ったら満足するから!」
(※作者注釈:このネット小説は全年齢対応の健全作品です)
「だ、ダメですわ、お兄様っ」
「ダメか、アゼリア!
兄ちゃんは本気なんだ!
本当にダメか?、本当の本当に!?」
「だって、そんなぁ……朝からこんな所で……
……それに、ヤギさんが見てますわ」
『メェ~……?』
「そだな、こんな所でワーワー言ってても仕方ないな!
じゃあ、朝一で冒険者ギルドに予約入れてくる!!」
「―― ちょ、ちょっと、お兄様ぁ!?」
善は急げ、だ。
ダンジョン体験コース(観光客向け・ガイド付き)の手続きするため、冒険者ギルドの金鉱島支部へと全力ダッシュ。
―― 『お兄様のバカァ~~~!!』
何か背後から妹弟子の怒鳴り声が聞こえたような気もしたが……。
(兄弟子、今はそれどころじゃないんで!)
▲ ▽ ▲ ▽
そんなワケで始業前から、ひとりで待機列。
冒険者ギルド・金鉱島支店の前で、営業開始を待ち構えている、俺ロック。
開店(?)と同時にダッシュで窓口に詰めかける。
「ダンジョンの練習施設って、冒険者じゃなくても入れるんですよね!?」
「え? ダンジョンの見学コースの申し込み、ですかぁー……。
―― ん、もしかして、今日とか……?」
冒険者ギルド窓口の係員は、微妙な返事。
おととい、この島の歴史を説明してくれた男性職員だ。
あ、ほら、あのバターンした人。ウチのペット見て。
「あぁ……、その……」
男性係員さんは、何故か事務所の方をチラ見。
そして、困ったなぁ、とほおをかきながら俺の方に向き直り再確認。
「あ~……、今日、ダンジョンに入りたいって事ですか?」
「午前の一番のコースでお願いします!」
「あのぉ、例の、練習施設で隠し部屋が見つけた、って話ぃ……。
聞いてます?」
「……はい?」
イエスともノーとも違う返答が返ってきて、俺は首を傾げる。
すると男性係員さん、フウッと小さくため息をついて詳細を説明してくれる。
「2日前に、ダンジョン攻略の練習使用をしていた冒険者戦団が、隠し部屋を見付けたって話なんですが?」
「ん……? んん……?」
え、何ソレ。
攻略済みダンジョンから、未発見の何か新しい物を見付けたって事?
(ちょっと、何その、主人公ムーブ)
(―― え、待って。)
(どっかの誰かさんに、既に兄弟子の出番取られちゃったワケ?)
(―― え、しんどい!)
(―― え、マジしんどいよ、それ!)
(俺一応、異世界転生者で、何か主人公ポジション的なアレなハズなんだけどぉ?)
(なんでそんな重要そうなイベント、どっかの現地民に取られちゃってんの!?)
理解が、おいつかない。
思考がグルグル、グルグル回る。
ようやく口から出たのは、小声のつぶやき。
「え……、ナニソレ……?」
「―― え、知らない? 初耳なの?
本当に、ぜんぜん聞いてない?」
男性係員さんに確認されるたび、コクコクうなづく俺。
いや、ショックすぎて、コクコクうなづく事しかできなくなってるワケだが。
「え、本当に、聞いてないの?
昨日おとといと、あんなに大騒ぎだったのに?
冒険者だけじゃなく、街中その噂でもちきりだったのに?」
「…………はい……」
俺は、ちっさい声で、かろうじて返事する。
前世ニッポンの会社勤めの入社1年目で、
『なんでお前そんなに周囲と会話しないの? 社会人はみんなチームで仕事してるんだよ!? 報告・連絡・相談くらいちゃんとしようよ!!?』
とか、新人教育の担当からメチャクチャ怒られた心の傷が思い出されるくらい。
「う~ん……、……まあ、そういう訳で。
しばらくの間は、ダンジョンの練習施設は閉鎖になってますので。
多分、再開はぁ……ハハッ、まあ一ヶ月以上は先になるんじゃないかなぁ~」
なんかもう『コイツに言っても仕方ないかなぁ……』という呆れた顔で、会話を打ち切られる。
つまり、100%門前払い。
―― 一言でいえば、『とほほ』である。
(我々『剣帝流』一門って、みんなコミュ症なのでぇ~。
そういう、世間の噂話とか流行事にメッキリ疎いんですよぉ~……(大反省中))
元師匠・ルドルフ、弱腰のお人好し。
一番弟子の俺・ロック、前世から陰キャ。ブッダ印の筋金入り陰キャ。
妹弟子・アゼリア、人見知りのお嬢様。ただし、言葉より先に手が出るタイプ。
(はい、ご覧の通り『剣帝流』は、もうダメです。
世渡り的な事とか、完全にダメダメな流派なんです)
求む、コミュ強の嫁!
俺の婚約者候補(予定は未定!?)のハリエッタ=ローズガーデンさんの活躍が待たれるワケである。
▲ ▽ ▲ ▽
「―― ブッダァァ!
どうなってんだよ転生仏ァァ!」
俺ロックの魂の叫びが、青空に木霊する。
「異世界! 冒険! ダンジョン! 成り上がり! 前世の知識で大もうけ! お金もちになって奴隷ハーレムでウハウハまいったな!
―― とか、何もねーじゃねーか!?」
血の涙で青空に吠えている。アオォ~~ン!
実質的に、キャィ~ンッ!キャンキャンッ!と負け犬の遠吠えである。
「そもそもぉ! 『良い子にしてたらあの世で72人の処女とウハウハな毎日よ!?』ってのが仏教の最大の目玉だったよなぁ!! たしかぁ!!」
それなのに『俺たちの巨乳聖戦はこれからだ! 第一部完!!(男坂エンド!)』みたいな感じである。
再開の見込みは絶望的なのである。
こんな毎日、念仏してる敬虔な信者に対して、この扱い……!?
「現世利益! 仏尊のやくめでしょ! はやくして!!」
―― しかし、いくら叫んだところで、現在、ダンジョンは封鎖中。
それでも、諦めがつかない俺。
昼前になっても、まだダンジョンの入り口(封鎖中!)の周りをウロウロ。
あんまりダンジョンの入り口近くに行くと、冒険者ギルドの人に追い払われるので、近くの高台からず~~~っと未練タラタラ、見ているだけ。
そうやって俺がいつまでも、ダンジョン入口周辺をウロウロして離れないから、
―― 「ブゥ~……、お兄様、今日はどこも遊びに行きませんの?」
―― 「リア、ちょっとブチを運動させてきます」
と、妹弟子も呆れてどっか行ってしまった。
ペット(魔物)連れて、お散歩みたいだ。
(しかし、なんというニアミス……っ!
<金鉱島>に到着したその日に、ダンジョン見学していたら!
もしかしたら、俺が隠し部屋発見してたかもしれないのに……っ!?)
なんというか、『宝くじが20番ちがいで1等前後賞を逃した』みたいな気分だ。(あ、前世ニッポンで例えれば、って事ね?)
宝くじ売り場の並ぶ順番が少し違えば……っ!、と思えば思うほど、悔しさがこみ上げる。
―― そんなこんなで、もう1~2時間。
ダンジョン入口の仮設テントには、ひっきりなしに多数の人が出入りしている。
冒険者ギルドの人たちが資材運び込んだり、冒険者PTや学者センセイと打ち合わせしたり。
まるでお祭りの準備みたいに、みんな笑顔で活気づいている。
(クソぉ……っ。
何かが違えば、俺があの大発見の中心人物だったかもしれないのに……!)
未練というか、歯がゆさというか、悔しさみたいな感情に、いつまでも踏ん切りがつかない。
だから、いまだに入り口の見える小山の上から離れられない。
遠目でボンヤリ見ていると、ガサガサ……ッと向こうの茂みが揺れる。
ここは『M字』の地形で、谷底がダンジョン入口、それを挟んで左右に山がある形だ。
そして今、ガサガサ鳴ったのは、1~2km離れた向かいの山の上の方だ。
雑に『魔力感知』で調べると、何人か大人が2列になって山登りしてるっぽい。
「う~ん、冒険者じゃなさそう。
じゃあ、林業の人かな……?」
そんな事をつぶやきながら、ヒマ潰しで『鋼糸使い』技能の練習をしていると、変な風に『ビィン!』と鉄弦が震える。
それも、二度三度、連続で。
「いったい何……?
コレ、もしかして音叉的な共鳴か……?」
イヤな予感がして、サボってた魔力センサー【序の四段目:風鈴眼】を自力詠唱。
「―― ヤバッ!」
叫ぶと同時に、俺は飛び出した。
薬指の指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法輪>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
―― 【秘剣・速翼:四ノ太刀・夜鳥】
俺のオリジナル魔法『必殺技』で最速の飛翔で上昇。
山の木々を抜けて、さらに上空へ。
▲ ▽ ▲ ▽
―― さっきの『林業の人たち』(5~6人)の周りを遠巻きに囲む、中型魔物の気配!?
つまり、マジメに働く島民の皆さんの周囲には、オオカミよりデカい魔物が忍び寄り、ヨダレを垂らして待ち構えているワケだ。
これは、『人類守護の剣』剣帝流として見過ごせない事態。
しかし、現場が1.8km先とか、遠すぎる。
普通の【飛翔】魔法だと、5~6分はかかるだろう。
俺の必殺技【速翼】の最速『四』でも、2分はかかる。(それも、20~30回は連続使用しないと届かない遠距離だ)
―― なので、仕方なく禁じ手を解放!
空中に浮く俺の左手の薬指に、青い光が宿る。
ィィィィイイイ……ィン!と、過充填の異様な響く。
「【秘剣・速翼・強化】!」
文字通り『青い魔力』による『強化必殺技』だ。
途端、『ギャリィン!!』と、金属かガラスが強く擦られたような、異音。
ドオォ……ォン!!と弾丸のように、俺自身が射出される!
一瞬で亜音速に達する、まさに弾丸 ―― 銃弾なみの超加速だ。
その代わりに、空気の層をぶち抜くような激しい衝撃と揺れで全身モミクチャ、呼吸もできない。
そう、これは一年前の『魔物の大侵攻』で、アゼリアのピンチに駆けつけた亜音速飛行だ!
―― そんな眼球が潰れかねない程の超・空気圧を、両腕を交差にして防ぎつつ、魔力センサー【風鈴眼】で位置を確認。
そして200m程手前で、『鋼糸使い』技能と【序の三段目:流し】の合わせ技 ――
―― ボフォ……ンッッ!と、空気の破裂したような音が青空に響く。
あるいは、『どこか山の中で青竹でも燃やして爆ぜた』とも思っただろう。
俺が使ったのは『空力抵抗減速』。
つまり、パラシュートだ。
広げた鉄弦で編み目をつくり、特殊効果魔法『流し』で大気をからめ取る。
元師匠が使えば『空中を蹴って方向転換』とか仙人みたいなマネができる【五行剣:水】の術式コア部分を流用しただけあって、使い方を工夫すれば何でも出来ちゃう万能手札だ。
さらにパラシュート(鉄弦による輪郭だけ)で、20秒くらいかけてゆっくり地上へ落下。
およそ30秒くらいで、向かいの山頂付近に到達!
「魔物退治の専門流派、『剣帝流』推参!
―― みんな、もう大丈夫だぜ!!」
ヒーロー登場!という感じの、握り拳ついての着地。
ちょっとテンションが上がって、そんな名乗りまでしちゃう。
「け、剣帝流だとぉ!?」「なぜここに!?」「なぜ分かった!?」「クソ、『白紙』だ!」「もはや、ダンジョンどころではないっ」「総員、戦闘準備ぃ!」
……なんか、感謝や歓迎の言葉どころか、敵対心MAXな件について。
『<羊頭狗>どもを全て出せ!』『華奢な女とあなどるなよ!』『第五の防諜・剣帝流だ!』『どこまでも嗅ぎつけてくる!?』『もはや、我らにとっての死神か!』『全員でかからねば、我々が殺られるぞ!』
……なんか、見覚えのある覆面かぶって、急に襲ってきた件について。
『メェ! メェ~~!』
『フッ、シャァ……! メ゛ェ゛!』
『メ、メェェエエ!!』
……なんか、見覚えのあるタイプの魔物が、茂みから飛び出してきた件について。
(―― もうね! 異世界ってマジでクソ!!)
【不殺の掟】兄弟子、殺意の■動に目覚めそうな件について!!!【破りてぇ!】
!作者注釈!
2025/07/01 ギルド会話シーンを追加しました




