217:魔物牧場の島
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
「あぁ~……、まだ足下が揺れてる気がする……っ」
目的の港についたのは、2日目の夕方前。
<帝都>東区の港から早朝に出発して船上で一泊し、翌日の夕方前に目的地へ到着。
その1日半くらいの船旅で、身体に船の揺れが染みついたらしく、地面を歩いてもまだ平衡感覚がおかしい。
「お兄様、フラフラですわね。
仕方ありません、リアがお支えしますね?」
「あ、うん、すまん……」
アゼリアが寄り添い、肩を貸してくれる。
俺も、不承不承と応じる。
俺も男だ。
胸の奥には、熱く燃える『ヤマト魂』が初期搭載済み。
いわゆる『イン■ル入ってる?』なワケだ。
体調不良とはいえ、妹弟子に支えられるなんて兄弟子の名折れ。
だが、こんなガヤガヤで混雑な港の中で、体調不良さん(俺!)にフラフラされたら周囲が迷惑だろう。
繰り返す、現状『不承不承』な兄弟子なのだ。
決して、変な下心的な物とかない。
―― あ る わ け が な い !!
だって相手は妹弟子だぞ?
血のつながりはなくとも、実質的に身内同然で、ほぼほぼ肉親みたいなもんですよ?
―― い や い や 下 心 と か っ(失笑)
(―― おい妹弟子!おいアゼリア!何かフニンフニンした物体が!物体が!脇に当たってる!?何か!?何かしらの名状しがたき物が当たってませんかね!歩くたびにプリン(意味深)プリン(意味深)と!お前なんかわざとオッパイ押しつけてきてね?えっこれ兄弟子の勘違いこれ?ねえお兄ちゃんは心配性的な勘違いかなコレ!?あとちょっ今日の外出着なんか胸元があまりに無警戒じゃありませんかね?なんかチラチラと胸元大胆Vカット襟から白い膨らみが見える様な気が!気が!イァ!イァ!クトゥルフ!いやぁほぉ~~う!!
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なんとか紙一重で、SAN値直葬をギリギリ回避。
今日ばかりは、匿名掲示板のスレッド仕様に大感謝である。
(まさに、俺の『ヤマト魂』に重大なシステム障害が発生してしまう寸前の、ギリギリ回避……!)
なんとか紳士の面目を保った。
あやうく『童貞少年にとっての観測不能物質』に発狂して『妹ちゃんにグヘヘヘする最低兄貴』になっちゃうところだった。
▲ ▽ ▲ ▽
『メェ~~! メェ~~!』
1日半ぶりに船底の貨物室から解放された我が家の魔物は、檻を開けてやると嬉々として走り出す。
『おいっ』『うわぁっ』『ぎゃぁっ』『ひぃい』
ちょっと周囲の人を驚かせてしまったっぽいが、そこはご安心いただきたい。
一応、人間を噛まない様に躾けているので。
(ええ、皆さんには危害をくわえませんよ?)
俺がそんな事を説明しようか迷っていると、ブチが港の埠頭から海へとダイブ。
ドボーンと水柱を上げて潜水すると、しばらくして水面に顔を出してジャポジャポと犬かき泳ぎ。
そうやって海に潜ったり泳いだりする事、2~3分。
ノソノソと階段状の石垣から上がってくる。
「暗くて狭くて臭くて、イヤだったんですのね。
ウフフ、水浴びして気が済みました?」
妹弟子が声をかけると、クマみたいなデカさのゴリラみたいな体格の魔物は、バサバササァ~……と濡れた犬みたいに白い毛を振り回す。
その後にアゼリアが首輪を掛けて、リードを引っ張れば、大人しく着いてくる。
『あ、あんな魔物が……っ』『うそ、だろ?』『デ、デカい……っ』『初めて見る種類だ……』
移動中も、やたら注目を集めてザワザワされてしまった。
「……魔物を飼育している島の割には、皆さん慣れてませんのね?」
「そだね……、あんまり街中を連れ回すとマズいかな……?」
アゼリアにコソコソ耳打ちされ、小声で返す。
まあ、<羊頭狗>がこの島には居ない種類の魔物だから、みんなきっと珍しかっただけなんだろうけど。
「まずは冒険者ギルドに登録かな?」
そう言って市街地へ向う。
目当ての建物には、『冒険者ギルド・金鉱島支部』と書かれていた。
▲ ▽ ▲ ▽
ここ<金鉱島>が、この白毛<羊頭狗>・ブチを連れたプチ旅行の目的地だ。
この島の大半は、数百年前から金を採掘し続けている帝国内でも有名な鉱山地帯らしい。
そんな歴史を、冒険者ギルドの係員がかいつまんで説明してくれた。
「金や銀の坑道を掘り続けていると、やがて非常に硬い岩盤のような物に到達して、採掘が行き詰まりました。
それは非常に硬い、まるで人工の物のような石壁で、当時の技術では破壊して貫通が終わるまで1年以上かかったそうです」
「なるほど、それが例の『古代文明のダンジョン』だったワケだ?」
「ええ、現在ではここ<金鉱島>の重要な資源の一つですね」
この金鉱脈で栄えた島で見つかったのは、古代魔導文明の頃の遺跡。
冒険者からは『ダンジョン』とも呼ばれる、宝の山だ。
冒険者ギルドの係員は、こう続ける。
「現在の最新鋭<魔導具>が『子どものオモチャ』に思えるほど、技術水準の違う古代魔導文明の秘宝の数々。
古来より金と銀の採掘地だったこの島は、あっという間に冒険者の島へと変貌しました」
「ふ~ん」
つまり、こういう事だ。
普通は『ダンジョン』が見つかると、一攫千金を狙う冒険者が世界中から集まる。
すると冒険者を支援するギルドの支部や、商店や工房が建ち並び、市街地が形成される。
今まで何もなかった場所に急に街が出来て、どんどん人と金が集まる。大繁栄だ。
そして ―― 『ダンジョン』が完全攻略されると全てが去って行き、廃墟だけが残る。
まさに前世世界のゴールドラッシュと、その後に残るゴーストタウンの関係と同じだ。
―― しかし、この島はゴーストタウンにならなかった。
それは、元々が金鉱山の採掘場であり、今も金や銀などの希少金属が採掘されているからだ。
『古代魔導文明の遺跡』発見の以前から、多くの鉱山労働者や金属加工職人が住み着いていて、また彼らを相手にする商会がいくつも存在するからだ。
しかし、『ダンジョンの完全攻略』でお役ご免となった組織がひとつだけある。
そう、冒険者を支援する、この冒険者ギルド・金鉱島支部だ。
「ダンジョンが攻略されて役目を失った冒険者ギルドは、存続のため方法を模索しました。
その一つが、『攻略済みダンジョン』を『ダンジョン攻略の練習施設』に改造する事。
もう一つが、岩盤むき出しの採掘跡地や、地下採掘で地盤がゆるくなり建物が建てられない場所など、そういう利用価値のない『死に地』を魔物牧場にする事です」
「なるほど……、そうやって養殖した魔物は『ダンジョン攻略』の敵役にも使える。
一石二鳥って事か」
「ええ、その通りです。
あとは、<帝都>の闘技場でも、トーナメント出場者の『魔物ソロ討伐の試練』にも使いますから。
魔物の捕獲は、実はかなり儲かります」
「ああ~~、なるほど。
ところで、その『魔物牧場』って今日行って見学とかできます?」
そんな感じで俺が『魔物牧場』の説明を聞いていると、冒険者ギルドの窓口の人は、困ったような半笑い。
「あぁ、はい、それは別に……。
―― ……あのぉ~、ところで、その……」
この男性係員さん、さっきから何か、話している最中もずっと、俺の背後の方にチラチラと視線を向けていた。
その視線が気になって、後ろを振り向く。
妹弟子が魔物相手に、何かゴソゴソしていた。
「ブチったら、お魚さんばかりじゃなく植物も食べないと、また便秘になっちゃいますわよ。
リアが、このグレープフルーツっぽい物をむいてあげますからね~」
『メェ~』
「……いや、ここでエサやるなよ」
ヒマを持て余してた妹弟子が、ブチに干し魚を千切って食わせてた。
冒険者ギルドの室内だというのに、無遠慮に。
あと、さっき市場で買ったばかりの、スイカみたいにデカい柑橘類も調理ナイフで切り始める。
「船の貨物室では、あまりゴハン食べてなかったみたいですわ。
この子、お腹すいてたみたいですの」
『メ~……』
白毛黒斑点の魔物は、アゼリアの手の平に乗せたデカい果肉を、小口でモゴモゴ。
コレ酸っぱいなー、といまいち気乗りしない食べっぷり。
どうも果肉を見た感じ、グレープフルーツ系というよりザボンの仲間っぽいな、あのデカい果物。
「―― あ、あの……?
な、なんだか、あの白い魔物ぉ……外骨獣、ですよねぇ……?
ガ、ガ、<羊頭狗>ぅ……? み、みたいに、見えるんですけどぉ……?」
冒険者ギルドの若い男性係員さんは、首をカクカク、指をプルプル、俺の後ろの1人と1匹を指さす。
他人様の事務所の中でエサやりを始めるという、妹弟子の無遠慮っぷりに呆れたのだろうか。
「大丈夫ですわ!
この子、大人しい良い子ですの!
芸もお上手ですのよ!!」
何故か自慢げに胸を張る、妹弟子。
「お手!」『メ~』
いつものように、飼い犬みたいに『お手』からの芸をさせられるブチ。
「おかわり!」『メ~』
「チンチン」『メ~』
「くるっと回って ――」『メ・メ~』
白毛黒斑点の魔物が素早く、その場で360度回転すると、アゼリアが指鉄砲で待ち構える。
「―― パーン!」『メェ!』
体長3m以上の魔物が直立態勢からバターンと後ろに倒れて、フローリングの床をギシリと鳴らす。
「ぅ……っ、うぅ~~ん……っ」
すると何故か、男性係員さんもバターンと倒れてしまった。
▲ ▽ ▲ ▽
さて、今さらおさらいみたいな話だが、この異世界の街は基本的に城壁で囲まれている。
もちろん、魔物対策だ。
高さ20~30mという、前世ニッポンで言うなら雑居ビル10階建てくらいの城壁がないと、か弱い一般市民のみなさんが魔物のエサになっちゃうという、危険すぎる異世界なワケだ。
その魔物対策の城壁には、当然だが、人間が出入りするための門がある。
そして、城壁外から入ってくる人間をチェックするため、外門と内門の間に中庭みたいな身元チェックの場所『関所』もある。
「やあ、『牧場』見学を希望って、アンタたちかい?」
当流派の白黒ヤギ・ブチがいくら躾け完璧な愛玩魔物でも、見慣れない街の人たちからしたら、人食いクマが散歩しているようなもんで、安心できないだろう。
そんな気遣いで、『関所』の中で待つ事、20分。
ようやく、冒険者ギルドに呼び出された『魔物捕獲専門』の冒険者PTがやってきた。
「急なお願いですみません、今日はよろしくお願いします」
「魔物牧場の見学希望ですの! よろしくお願いしますわぁ~!」
俺と妹弟子は、日課の模擬訓練を中断して、頭を下げる。
すると、さっきまで地面に背中をこすりつけてたブチも、ノサッと起きて『メェ~』と鳴く。
「あ、あぁ……、うん、任せな?」
ちょっと目が泳いでいる、中年女性のリーダーの後ろで、コソコソ話する冒険者達。
「おい、今の鳴き声、聞いたか……?」
「やべぇ、本物の<羊頭狗>じゃねーかっ」
「きょ、教本で見たより、デカくないか、コイツ……っ」
「ぎ、犠牲者は、生きたまま少しずつ解体されるって、本当かな……?」
「どうやったら、こんなの屈服させられるんだよ……っ」
どうやら、『魔物捕獲専門』という熟練の冒険者PTでも、<羊頭狗>はおっかないらしい。
(うわぁ~……、ミスったなぁ……。
魔物を養殖・捕獲している特殊な島って聞いたから、魔物に慣れてると思ったのに。
ブチ連れて、あまり街中を歩かない方がいいのかな……)
<帝都>じゃ、ほとんど檻の中の生活で、運動不足気味なブチを思いっきり走らせる的な、つもりだったのに。
つまり、前世ニッポンの『ワンちゃん遊び場』みたいな気分で連れてきたのだが、大分あてが外れたらしい。
この熟練っぽい冒険者PTすら、まだ引きつった顔でコソコソ話しているし。
「ガ、<羊頭狗>の単体って、脅威力3だっけ……?」
「おい、それ、<電尾跳狐>の群れが逃げ出すヤツだろ……っ」
「こ、これが、噂の『帝都の魔物使い』?」
「『ガク使いの美少女コンビ』って、本当だったんだ……っ」
「………………っ」
なんか、やたら失礼な言葉が聞こえた気がした。
(―― ハァッ!?
誰がビショウジョ(注意:性別・男!)だとぉ!?)
男の中の男を目指す兄弟子、大変不服。
しかし、楽しい楽しい旅行気分を、怒声クレームで台無しにする事もない。
「スゥ~……ハァ~~……っ
いやぁ、自分あの、背が低いから勘違いされやすいですけど、男児なんで?」
「おい、今の発言、聞いたか……?」
「やべぇ、本物の『男の娘』じゃねーかっ」
「こ、これが、噂の『帝都の最新性癖』?」
「『女装男子が大流行』って、本当だったんだ……っ」
「―― オイちょっと待てコラ!」
誰が、『男の娘』だ!
誰が、中華訳だと『偽娘』だ!
誰が、英語訳だと『トラップ』だ!
「この髪伸ばしてるのは、魔力増幅のため!
この女性用式服着てるのは、チビすぎて男物じゃサイズが合わないため!!」
自分の一番気になってる事を、初対面の相手に説明させられるなんて、なんという拷問。
それなのに、相手はまるでこちらの話を聞いておらず、またコソコソ、コソコソ何か言ってやがる。
君たちプロでしょ!
お客さんの話、ちゃんと聞こうね!!
「『夜の帝都をマンキツ! 色街deナイト』の幻像写真より、艶っぽくないか、コイツ……っ」
「こ、これが、噂の『天然の男の娘』?」
「おい、これ、『メスガキ喫茶ヲトコノ娘』のNo.1が逃げ出すヤツだろ……っ」
「ハ、ハマったら、生き血を吸う様に貢がされるって、本当かな……?」
「………………っ」
(絶対コイツら、あとでブチのめす……っ!!)
―― 【速報】出発前から信頼関係が0になった件について。
▲ ▽ ▲ ▽
夕暮れ前の、やや薄暗い森。
夜行型の魔物が、そろそろ目覚め始める頃だ。
つまり、寝起き頃を狙った『狩猟』という事らしい。
「―― それじゃあ行くよ! 全員マスク!」
リーダーらしい女性冒険者の合図の声が、森に響く。
俺とアゼリアが、厚手布の覆面と潜水メガネみたいな装備をつけるのを待って、10個くらいの香炉に火が入れられる。
立ち上るのは、スパイスや薬剤を混ぜた、ピンク色の刺激臭の煙。
その横に立つ人が、『カン!』と<魔導具>を起動させる。
ブォン……バサバサァ~ッ!と風がうねり、背後から強風が吹いてくる。
そんな強風の魔法で、ピンク色の刺激臭の煙10本が、森林の中に吹き込まれる。
なんとなく、スギ花粉が舞い散ってるような、薄モヤの森林風景。
ガゥ!? ゲフ、ゲフッ、フゥッ! ギャゥ!? ヒィン、ギャッ!
キャン! ボフ、ヒャァ!!? ギャン、ギャィン! ガフッ、ゲフフッ!
魔物達の咳というか、悲鳴というか、滅多に聞かない情けない声が聞こえてきた。
流石に知性ある野生生物・魔物。
異変に気付いて、すぐに森林から飛び出してくる。
「ピィィ~~~!!
さあ『坊や』達、出番だ! 行ってこいっ」
指笛を吹いたのは、白髪ヒゲの副リーダー。
その合図で、十数匹の黒い影が一斉に動いた。
―― ワゥワゥッ! ワァオ~ン! ゥオン! ゥオン!
猟犬だ。
巨大なオオカミ型魔物を、中型犬くらいの猟犬集団が追いかける。
本来なら、こんな小型の動物くらい魔法で一蹴するのが『魔法を使う人食いの怪物』だ。
その状況を見て、『ピーン』とくる。
「―― なるほど、さっきの煙で『魔法封じ』か……」
「お、良くわかったね」
正解、とばかりに声をかけてきたのは、中年女性のリーダー。
「目と鼻にしみる煙を吸い込んで、涙と鼻水でグチャグチャな時に、魔法の集中なんて出来やしないさ。
人間だってそうだろ?」
「まあ、そうですね……」
その説明に実感が湧くだけに、ため息がでる。
前世ニッポンで言えば、それこそ『重度の花粉症で頭がボーッとする』という感じだろう。
そう考えると、走るのもフラフラで切り株や岩なんかに時々ブツかってる<樹上爪狼>どもの様子が、前世の自分に重なる。
ちょっと同情しちゃう。
(異世界転生して唯一のメリットが、花粉症と無縁の健康体になった事だからなぁ……。
まだ時々、花粉がムワァ~!と舞ってるのを見るだけでゾッとするけど……)
仏様へ感謝の南無三、である。
魔物退治の最中に花粉症で涙と鼻水と咳のラッシュなんて、行動不能と同じだ。
(そんなの『ご~つい■イガーバズーカーじゃ!』を直撃で食らっちゃうくらいのピンチじゃないか……)
ついつい、そんな昔の事が思い返される。
苦い思い出さえも、今は口元が緩むほどに懐かしい。
郷愁とでも言うべき感傷が高ぶり、ここで一句。
―― ミゾグチや 地球は遠く なりにけり
▲ ▽ ▲ ▽
そんな事を考えている内に、森林から追い出された魔物の群れは、3個の小集団に分かれていた。
その1個、5~6匹の頭数の集団を、ウォンウォン!ウォンウォン!吠えながら走る猟犬たちが囲い込む。
―― ガァァ~~!!
と、イラついた魔物の反撃が炸裂。
<樹上爪狼>の代名詞、テナガエビみたいな構造に折りたたんだ腕を伸ばして、半径2mくらいを薙ぎ払う。
右脇から『幅寄せ煽り』みたいな事をしていた猟犬3匹が、まとめて吹っ飛んだ。
ギャィン! キャン! キャン!
「ああ! ワンちゃんがっ」
「うわっ、大丈夫かアレ」
妹弟子と俺は、思わず悲鳴を上げる。
猟犬と聞いていたが意外と人なつっこくて、さっきまで黒柴をナデナデしていただけに、ちょっと情が移ってしまった。
「ハハッ、大丈夫さ、うちの『坊や』達は。
兜も前掛けも胴巻きも全て、<魔導鋼>の板金だ」
白髪ヒゲの副リーダーが言うとおり、吹き飛ばされた猟犬3匹はすぐに立ち上がり、ウォンウォン!と吠えながら走って群れに合流する。
「ワンちゃん、大事にされてますのね?」
「猟犬は金がかかるからな。
1匹育てるだけでも、冒険者ギルド事務員の年収くらいの費用が必要だ。
簡単に死なれちゃ困るのさ」
動物愛護に感動したアゼリアに、現実主義な返事をする年配の副リーダー。
そんな話をしている内に、残っていた冒険者達が<駒>にまたがり駆け出した。
(ほら、<駒>ってアレ、魔法で動く機巧っぽい馬の代わり)
運送業者が使う『早馬』と同じような特殊仕様なのか、かなりのスピードであっという間に、猟犬たちに追いつく。
魔物達が森の中で木の枝から枝へと飛び移るための『折り畳み式前脚』は、平地を走り回るのには不向きな事もあるのだろう。
4機の<駒>は、吠えながら追い立てる猟犬たちと位置交代して囲み込む。
すぐさま、バシャン!と金属が跳ねる音。
冒険者たちが広げて持ち上げた、投げ網のような物が落下して、魔物の群れに覆い被される。
同時に、ギャィン!と短い悲鳴があがった。
<樹上爪狼>が、横転して網の中で団子状に固まる。
「おぉ~、なるほど、電撃魔法か……」
「皆さん、大変慣れてらっしゃいますねー」
初見学の俺も妹弟子も、感心しきり。
(つまり、3分割した魔物の群れの小集団を、猟犬たちが追い回して、疲れさせたところで鉄網をかぶせて一網打尽。
前世ニッポンで言うなら、催涙弾とスタンガンの二段構え。
エグいくらいの用意周到さだな……)
冒険者ギルド<金鉱島>支部で、腕利きの『狩人』と紹介されただけある。
―― ウォ~~ン!
―― ウォ~~ン!
―― ウォ~~ン!
と、猟犬たちが、狩猟成功の遠吠え。
「ワォ~~ン、ですわぁ~~!」
『メェ~~! メメェ~~~!!』
何故か、アゼリアとブチも遠吠えに参加していた。
「―― と、思ったら……」
妹弟子の足下には、木剣代わりになりそうな木の枝と、気絶している<樹上爪狼>が1匹。
白黒斑点の<羊頭狗>の両脇には、気絶している<樹上爪狼>が2匹。
「お前ら、いつの間に狩りに参加してたんだ……?」
ちょっと目を離すと、コレだ。
引率者の兄弟子、この先が心配。




