21:初フライト
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
冒険者パーティとの自己紹介が終わると、金髪貴公子が説明を渋り始めた。
「色々込み入った話ですので……。
向かいながら話しましょう」
もう、その時点で帰ろうかと思った。
いや、依頼の内容くらい話してから出発しろよ。
いつもの冒険者パーティの『魔物素材集め』の同行に比べても、かなり報酬が良いあたりも、何かウサン臭い。
(そもそもコイツ、本当にリアちゃんの知り合いなのか?
一応、冒険者ギルドにも確認しとくか……)
── で、結局。
ウチの妹弟子がポンコツ、という事が確定しただけでした。
以上、業務連絡でした。
それはともかくとして、今回の依頼は何かウサン臭い。
なんか、俺の中の危険センサーみたいな物が、ピーッピーッ!と反応している。
妹弟子アゼリアの『旧知』でなければ。
また、御三家関係という『身元保証』がなければ。
すぐに依頼を放棄しているレベルのウサン臭さだ。
(しかし、逆に、だ。
逆に考えろ、俺。
リアちゃんの昔の知り合いが頼ってきたのを、見捨てるのはどうだ……?
未来の女勇者で聖女様なアゼリア=ミラーの名誉に傷が付く、的な感じはないか?)
そう自分を納得させる。
── 決して、現金前渡しの魅力に屈した訳ではない。
結局、目的地に向かい、パカパカと<駒>に引かれる荷車に揺られる、俺ら5人。
荷車が揺れる度に、チャリンチャリンと、懐で金貨が跳ねる。
(うへへ、金貨が1枚・2枚・3枚……
かぁー、たまんねーな!
これだから山岳ガイドはやめられねーっ)
▲ ▽ ▲ ▽
5人で向かった先は、北の国境付近。
断崖絶壁の山に沿って作られた街道を、グニャグニャ進む。
小川の近くで<駒>が止まったので、休憩かな、と荷車から降りた。
あ、<駒>ってのは、魔法で動くウマ代わりの魔導人形みたいな物ね。
一角馬みたいに頭に角があって、その角に刺さった魔法陣がレコード盤みたにグルグル回っているのが特徴。
「冒険者ギルドの報告だと、この辺りですね」
ヒョロい金髪貴公子が、手持ちの地図と周囲の地形を確認している。
荷車に乗ったまま、足をプラプラしている年下少女メグが、退屈そうに周りを見渡す。
「こんな所に、魔物が出るの?」
「いいえ。
出るのは、この断崖絶壁の向こう側です」
「は? まさか、この崖を登ったりするワケ?」
「まさか。
ちゃんと手段は用意しています」
ヒョロい金髪貴公子が、2台目の荷車から覆布を外す。
それを見て、彼のお連れの年上女性が目を丸くした。
「まあっ <ドールウイング>ですか?」
「うわ、ホントだっ
ワタシ、本物見るの初めてっ」
簡単に言えば、木製のイルカ像で、3体あった。
大型バイクくらいの大きさで、横ビレが鳥の翼みたいになっている。
ヒョロい金髪貴公子が、角を付けると、フラループくらい大きな<法輪>が浮かび上がって、ゆっくりと回転。
1分ほどして、『カン!』と拍子木のような起動音。
「……結局これで、どうすんの?」
「これ、空を飛ぶ<駒>ですわ、お兄様。
わたくし、帝都で何回か乗った事ありますの」
俺がぼやくと、隣のリアちゃんが説明してくれる。
「へー……
道理で、風魔法とかの記述が多い訳か……」
その間に、ヒョロが空中に浮く木製イルカ像を3体、荷車から引っ張り出す。
「さて。
サリーさんとメグ君、アゼリア君とロック君で2人ずつ乗って下さい。
飛行制御は、僕の『親機』でやりますので、落ちないように捕まってくれれば、大丈夫です」
そんなこんなで、異世界初のフライト旅、テイクオフ!
「おお、意外となめらかに……っ
結構、馬力あるな、コイツっ」
「キャー、スゴーイ!
もう、こんなに高ぁ~い!」
初体験の俺と年下少女メグが、歓声を上げる。
<空飛ぶ駒>は、まさに空中を泳ぐイルカのように、スイスイ進む。
▲ ▽ ▲ ▽
100m級の断崖絶壁を飛び越え、向こう谷に着くと、景色が一気に薄暗くなった。
その景色の変化を待っていたかのように、ヒョロい金髪貴公子が<空飛ぶ駒>を横につけ、俺たちに依頼説明を始めた。
「実は今回は、冒険者ギルドからの『極秘調査』なんですよね。
ちょうど1ヶ月くらい前から、この辺りで見慣れない魔物の出没が報告されているそうです」
「極秘の依頼って。
見慣れない魔物が居たくらいで、そんなに大事なの?」
年下少女メグが聞き返すと、ヒョロはワケありげの笑顔で肯く。
「ええ。
一番の問題は、場所なんですよ。
この谷から西に登っていくと<ラピス山地>に出るんです」
その言葉に、ビクリと身を震わせたのは、魔法技工士のお姉さん。
「── <ラピス山地>って、あの<ラピス山地>ですか……?
じょ、冗談ですよね、マァリオさん?」
「え、サリー姉、どうしたの?
<ラピス山地>って、なんなの?」
「お、お、おおお、落ち着いて聞いてくださいね、メグちゃん」
「いや、まずはサリー姉が、落ち着いて?」
「メグちゃんに渡した<中導杖>ありますよね?」
「これ?」
「そう、それです。
それに使われているのが、<濃霧潜顎>という巨大サメの骨なんですっ」
「うん? それで?」
「あ、あああ、ど、ど、どうしようっ
お母様、お父様、サリーは親不孝娘です、先立つ不孝をお許しくださいっ」
「よく解んないけど……スッゴイ魔物が、いっぱいいるワケね。
── ねえマァリオ、そんな所に行って大丈夫なの?」
「ハハハッ、サリーさんは、おっちょこちょいだね。
うっかり<ラピス山地>に迷い込まないように、詳しいガイドさん達に来て貰ってるからね。
そこは大丈夫だよ?」
ヒョロが視線を向けてくる。
俺は「解った」と肯く。
「あー、なるほど。
それでスカイソード氏は、『昔なじみ』という事もあって、リアちゃんに頼みたかった訳か」
「ええ。
剣帝様が近年、<ラピス山地>を修行場として住み着いているのは、有名な話ですから」
「うわー、アンタたち、そんな所に住んでるんだ……?」
年下少女メグに、ドン引きとばかりの白い目を向けられた。
失敬な、人の住まいを人外魔境みたいに。
「あのなぁ……ウチの周りは、まだそんなに危なくないぞ。
ヤバイのは、もっと山奥の方。
というか、北の方だな」
「へ~……
その<ラピス山地>って所より、まだアブない所あるんだ?」
俺に後ろから抱きつくように、<空飛ぶ駒>に乗っているリアちゃんが、ようやく会話に参加してきた。
「お兄様。
わたくし、山小屋の周りで<濃霧潜顎>を見たことありませんわ」
「アレが出てくるのは、それこそ北の山の奥の方。
リアちゃんの大好きな『巨人の箱庭』辺りだな」
魔法技工士サリーさんが、またもビクリと身を震わせる。
「── じゃ、じゃ、『巨人の箱庭』!!?
い、イヤァー、頭からバリバリ食べられちゃいますぅっ」
「ちょ、ちょっと、サリー姉、落ち着いてっ」
メグが血相を変えて、<空飛ぶ駒>から落ちそうになりそうな従姉サリーさんを、なんとか宥めようとする。
「リアも、あのトカゲ天国なんて好きじゃありませんわっ
あの、六本足の外骨トカゲ、斬りにくいんですものっ
お師匠様からも、修行不足と叱られますしっ
── お兄様のイジワルっ んもうっ んもうっ んもうっ」
「あー、リアちゃん、止めてヤメテっ
マジで落ちる、今はそれ、シャレにならないからっ」
こっちはこっちで、リアちゃんがドスンドスンと不機嫌の体当たり。
幸い、落下事故も無く。
なんとか全員、目的地にたどり着くことができた。
▲ ▽ ▲ ▽
断崖絶壁の向こう側は、山に囲まれた深い谷になっていた。
日当たりが悪いお陰で、森の生育が悪く、そのくせジメジメと湿度も高い。
グネグネと細い木がくねる薄暗い様子は、魔女の森といわんばかりの不気味な雰囲気。
「いやですぅ~、もう帰りましょうよぉ~」
魔法技工士のお姉さん、半泣き。
俺は、さっきから彼女に、格別の注意を払っている。
もちろん、大変紳士的な理由であって、下心とかはない。
スタイルのいい年上メガネ女子の、半泣き姿に萌えている訳では、決してない!
違うって言ったら、違うのだ!!
おっぱい星人、ウソつかない!
「もう、そろそろ泣き止んでよ、サリー姉。
いっしょにいるワタシまで恥ずかしいんだけど?」
「確かにおかしい……
こんな所に、これ程<岩蝙蝠>が集まっているなんて」
ほら、見てみ?
彼女のパーティの人ら、薄情じゃん?
こわくて泣いてる女の人に、こんな対応なワケよ?
ここは俺が、男らしく、紳士的に、守ってあげんといかんわけでゴワス!
おいどん、前世は大和魂じゃけん!
ガッハッハッハ!
(── はっ! 殺気!?)
指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法輪>が、腕輪の大きさに広がって高速回てn ──
「── お兄様……っ!」
リアちゃんが、ピシリッと手刀で俺の魔法起動を邪魔する。
(今、最高の、ベストの、ナイスな必殺技タイミングだったのにぃ!?)
ああっ、その間にヒョロ貴公子が!
チクショー、ヒョロ貴公子に、見せ場を奪われた!
軟弱っぽい金髪男子が、飛んでくる<岩蝙蝠>を、3匹くらいまとめて斬り裂いてた!
(あー、すごいすごい、イケメンかっこいーですね?(棒読み))
「── ひゃあっ
マァリオさん、今の何ですかぁ?」
メガネ女子、パタパタと急ぎ足でパーティメンバー男の元へと走り去る。
それに構わず、ヒョロ貴公子は先の方を、鋭く睨み付ける。
「── ちぇ……っ
最悪の予想が、当たっちゃったかなぁ……っ」
(あー、そーですかー、きんぱくかんスゴいですね?(棒読み))
── ……けぇっ!
やっぱり、イケメンという社会の敵は、この異世界とて滅ぼさねばならない。
それが我ら、非リア充に課せられた“““鉄の掟”””か……っ




