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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 8/勝利演出:常理の外

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209/236

209:運命のライバル

少し時間を(さかのぼ)る。

武闘大会本戦の前夜。


封剣(ふうけん)流>本家道場の応接間で、ソファに腰掛けて向き合う2人。



「―― 剣帝流と『道場間決闘』だと?

 ハァ……ッ、下らない事を言うな」



ため息を吐いたのは、老いた父・当主ベニート。



「下らない、はないでしょう父上!

 この本家道場の中で、他流派の人間に好き放題に暴れられてっ。

 いったい何人、怪我人(けがにん)が出た話ですか!

 <帝都>の安全をあずかる武門の一角として、このまま黙っていられますか!?」



向かい合って唾を飛ばす勢いの中年男性は、長男パトリック。


彼は、つい先程、南方大陸から帰郷したばかり。

第1皇太子が帝国三等領地<新都>総督府(そうとくふ)長官の赴任(ふにん)を終えた事で、一行(いっこう)の『先触(さきぶ)れ』として帰路(きろ)の安全確認を行いながら、ひと足先に<帝都>まで戻ってきたばかりだった。



―― 数年ぶりに顔をあわせたばかりの<封剣流>直系ミラー家の親子2人が、言い争う内容は『先日の騒動』について。

つまり、ロックが本家道場内で暴れ回り、何人も叩きのめした事について、事後対応の方針で()めていた。



「ではリック。

 仮に『剣帝流と試合(しあ)う』として、『剣帝』ルドルフやアゼリアを相手に勝算があるのか。

 お前が口火を切るのならば、せめてどちらかの相手をしてもらうぞ?」


「……なぜアゼリアまで、俺が相手をしなければならないのですか。

 それに一応、(アレ)は我が<封剣流>の人間でしょう?」



40代の息子パトリックは、流派の第二席次(ナンバー2)の腕前にして、次期当主候補の最有力。

そんな彼であっても、<御三家>黄金世代の紅一点・アゼリアと闘うのかと問われれば、少し鼻白(はなじろ)んだ。



「ほう、意外だ。

 お前はアゼリアをいまだ(・・・)<封剣流>だと認識していたのか?

 どうせ『愚妹(ギルダ)の子を自流派から追い出せて清々した』と考えているだろう ――

  ―― そんな風に、お前の内心を予想していたが。

 お前(パトリック)の子2人が後継者に選ばれる頃なら、本来(・・)なら(・・)アゼリアが対抗馬だったはずだからな」


「……チッ」



息子は老父に、姪っ子との良好と言いがたい間柄を指摘され、舌打ち。


アゼリアが『剣帝流』後継者に収まって最も喜んだのは、この(・・)不仲(・・)()叔父(・・)・パトリックだ。

目障りな姪っ子が他流派の当主になるなら、息子達の後継者レースで最大の障害は消え去ったも同然だからだ。


例え『剣帝』が、時の皇帝に寵愛を受けた魔剣士の頂点としても、それは長い歴史の一時の栄華だろう。

そもそも、この帝国の約300年の歴史で、魔剣士の最強<帝国4剣号>の称号保持者(タイトル・ホルダー)が新規の流派を立ち上げて盛況した事は数多(あまた)あるが、長く続いている流派はほとんど無い。

(あぶく)の様に(ふく)れあがり、(あぶく)の様に消えるだけ。


帝国最古参<封剣流>直系のパトリックは、そんな武門の歴史に詳しいだけに、『新進気鋭の剣帝流も今だけの事で、やがては時の流れに消え去る小流派』と見なしていた。


彼からすれば、例えば『政敵が僻地(へきち)へ左遷されて二度と戻ってこない』ような、ほくそ笑みたくなる様な状況だった。



―― だからこそ、そんなポッと出の、すぐに消え去るような『剣帝流』などという小流派(マイナー)に、千年の歴史を持つ偉大なる(メジャーな)自流派の看板が傷つけられた事が許せないでいる。



「………………っ」


「そうふて(・・)腐れるな、息子よ」



そんなカッカッと火を吹かんばかりの長男の怒気に、老いた父は微苦笑。



「……本当にお前は、(オレ)に似たなあ。

 しかも良くない所ばかり、そっくりだ」


「はあ……っ」


「お前を見ていると、(オレ)謀略(ぼうりゃく)剣帝(ルドルフ)のヤツを、この道場から追い出した頃を思い出す」


「……は?」



パトリックは、いきなり衝撃的な言葉が飛んできて、目を白黒させる。



「―― ん?

 なんだ、今さら驚く事か。

 お前が生まれる前の事とはいえ、薄々は察していたのだろう?」


「いや、それは……、そのっ」



当主ベニートは悪戯の成功した顔でニンマリと笑うが、息子は平静ではいられない。


何せ、当代の皇帝陛下に最も寵愛を受けた人物を、あろう事か『(おとしい)れた』という告白だ。

これが余人(ひと)の耳に入ろう物なら醜聞(スキャンダル)、という心配が先に立つ。


長男は、冷や汗を流しながら、キョロキョロと落ち着き無い。

老父は、クックックッと(のど)を震わせる。



「まあ気にするな、大した事ではない」


「いや、大した事でしょう! 父上!

 こんな大事(だいじ)を言われて、気にするなと言われましても……っ」


「だから、気にする必要などない。

 少なくとも相手は、ルドルフの奴めは、すでに気にも()めてはおらん。

 やり返そうと思えば、あやつが『剣帝』などと大仰(おおぎょう)剣号(けんごう)(たまわ)った10年前のあの式典で、皇帝陛下(へいか)に泣きつき、(オレ)を当主の座から引きずり下ろしているさ」


「……そ、それは……、そうでしょうが……っ」


「―― で、お前は言うのか?

 この父が謀略(ぼうりゃく)で追放した、あの『剣帝』に対して。

 『お前の弟子の不始末をつけろ』と?

 声高らかに『我ら封剣流に一切の()は無い』と?

 宮廷の役人に『決闘の認可(ゆるし)』をもらいに、どの(ツラ)()げてノコノコと?

 (オレ)(ヤツ)との因縁(いんねん)など、軍部の古株なら文官でも噂に聞いているのに?

 恥知らずにも、その(オレ)の長男であるパトリック、お前がか?」


「………………」



意地の悪い顔で、言葉()めにする老父。

顔を赤くして火を吹かんばかりの勢いだった長男が、一気に(しお)れてしまう。





▲ ▽ ▲ ▽



「しかし、それでも……っ

 このまま部外者にいいようにされ、そのままでよろしいのですか……!」



長男は、まだ不満が残る様子。

座った太ももの上で、握り拳をグッと握りしめている。


老父は、そんな息子に『落ち着け』と言うように、お茶を注いでカップを差し出す。



「……ロックという小僧、アレはもはや部外者ではない。

 アゼリアの婿(むこ)だ」


「―― はぁ~~っ!?

 アゼリアに婿(むこ)ぉッ!

 あの猛獣(ケダモノ)(おんな)に、婿(むこ)ぉ~~!?」



よほど思いがけない事だったのだろう。

息子リックは、対面の席に座る父ベニートの方へ、思わず身を乗り出してくる。



「ケダモノ女はひどいな、お前の妹が産んだ子だぞ?」


「いや、しかし……っ

 その男、果たして正気なのですかっ?

 あの『ヨダレを垂らして(うな)りを上げながら()みついてくる』ような(アレ)婿(むこ)()りとはっ」


「……そういえば、お前は『今のアゼリア』の様子を知らんかぁ」



老父は、腕組みして半笑い。

そして、気を取り直して話を続ける。



「あと5年10年すれば、あの2人の間に子も出来るだろう。

 ならばもはや、孫娘の相手も(オレ)の孫の1人よ。

 遠縁(とおえん)親族(しんぞく)の跳ねっ返りが、ちょいとじゃれ(・・・)ついて(・・・)きた(・・)だけだ。

 この(オレ)を負かした事とて…… ――」


「―― ちょ、ちょっと待ってください!

 今なんと!?

 はぁ、『父上を負かした』!?」



長男パトリックは、驚きの連続についに立ち上がる。



「なんだ、まだその話を聞いてなかったのか?

 (オレ)も久しぶりにひりつく(・・・・)闘いで良い鍛錬になった。

 ルドルフの所の小倅(こせがれ)は、噂以上になかなか(・・・・)の腕前だったぞ?」


なかなか(・・・・)、ではないでしょう!

 父上が、負けた!?

 <封剣流>当主ベニートが!!?」


「うるさい、話をさえぎるな。

 いいから座れ」


「そんな……『帝都の宝剣』ベニートが……?」



父の言われたとおり椅子に腰を下ろした長男だが、呆然と口を開けたままで、目はどこか(うつ)ろ。



「いいから話を聞かんか、バカ息子が。

 ともあれ、小倅(アレ)はアゼリアの婿(むこ)で、やがて生まれる我がひ孫(・・)の父だ。

 そんな身内の若手が、(オレ)のような年配から、ついに一本を取る。

 賞賛する事はあっても、非難する筋合いもあるまい」


「……負けた……本当に……元『剣聖』が……3期12年君臨した……あの父上が……っ」



パトリックの視線は、いまだに虚空をさまよっている。

よほどその話が信じられないらしい。



「ハァ……、こやつはまったく」



当主ベニートは、息子の顔の前で、パン!と両手を打ち合わせる。

そんな『気付(きつ)け』で、息子の意識を引き戻して、話を続ける。



(オレ)はな、()をみてルドルフの奴に『()びてやらねばならない』と思っていたくらいよ。

 やり返す様な気持ちなど、起きようもない」


「それは……さっきの、謀略(ぼうりゃく)の話ですか?」


「違う。

 『謀略』(はかりごと)も『(だま)()ち』も、引っかかる方が悪い。

 武門だからといって、イノシシの様に突進して良い訳がない。

 主君を狙う暗殺者どもに、『卑怯(ひきょう)は止めろ』とか『正々堂々と闘え』とか、頼み込むか?

 魔剣士の本業が魔物退治だからと、人間が相手なら主君を守れずとも良いか?

 そんな道理は、ひとつたりともない。

 正道、邪道、外道に詭道(きどう)、全てに(つう)じ対応できてこそ『()』というものだ」



老いた父は小さく笑い、こう付け加えた。



「そういう意味では、真っ直ぐにしか進めぬアゼリアにとって、あの婿(むこ)は良い補佐よ」





▲ ▽ ▲ ▽



<封剣流>当主ベニートの独白が続く。

本家道場の応接間で対面に座る、長男パトリックは黙って聞き続ける。



「ルドルフに()びるといのは、そうではない。

 その横に(オレ)が並び立たなかった事への、()びだ」


「今こそ正直に告白するが、(オレ)はあの日 ――

 ―― あやつが『剣帝』という特別な剣号(けんごう)(じょ)される日、(おび)えていた。

 きっと、報復をされるのだろう、と。

 (オレ)なら報復するから、きっと報復されるに違いないと。

 そう思い込んでいた」


「しかし、あやつは式典の直前に(オレ)の元へと(たず)ねてきて、わざわざ頭を下げた。

 邪推するなよ、『式典を邪魔してくれるな』とか『妨害は止めろ』とか、そういう(たぐ)いの頼みではない。

 単に、自身の不出来(ふでき)()びたのだ。

 『流派の直系である貴殿(きでん)に、(れい)(しっ)する態度ばかりだった』と。

 『自分は新参門下生でありながら、あまりに横柄(おうへい)。嫌われ追い出されて当然と、今では反省している』と。

 『正論を振り(・・)かざ(・・)せば(・・)他人(ひと)(したが)うはずだ、と思い上がっていた』と。

 ―― つまりルドルフは、苦境の中で腕前だけでなく、精神も磨いていた」


「対して(オレ)は、いつまでも我の強い若造のままの性根で、いっさい成長してなかった。

 あやつにも非があった、(オレ)にも非があった。

 お互いに歩み寄ろうとしなかった。

 そして、その事を、(オレ)だけがいつまでも認める事ができず、『あやつが悪い、あやつが悪い』と(わめ)()らしていた。

 周囲も良い迷惑というものだ」


(オレ)はな、『剣帝』の式典が終わってずっと考えていた。

 昔の事、噂に聞いた奴の闘いの事、(オレ)今日(こんにち)までの事、様々な事を。

 そして、(オレ)が居る道場に、わざわざ歳も近く才能も()するルドルフが来た事の意味について。

 当時の様に『次期当主候補の(オレ)の存在を(かす)ませる、目障りで厄介な新参者』ではなく、もっと深い意味を」


「そんなある日に、おかしな夢を見た。

 若い頃の、まだ青年だったルドルフが『行こう行こう』と(オレ)の手を引っ張り、

 ―― 『いまだ辺境では魔物に苦しむ人々がいる』

 ―― 『だから魔剣士名門として助けに行こう』

 そう言い張る夢だ」


「それに(オレ)は『そう簡単な話ではないぞ』と呆れながら言い聞かせる。

 貴族や領主や地方騎士の体面(たいめん)の問題。

 また、魔物退治は冒険者の()扶持(ぶち)、仕事を奪えば恨まれもする。

 中央と地方の軋轢(あつれき)もある。

 何より人を動かすには、相応(そうおう)に理由と金銭がいる。

 だいたい、帝都と皇帝陛下を守る<封剣流>が余所事(よそごと)にかまけている内に大事が起こったら笑い話にもならん。

 そういう<御三家>なら誰でも承知している事を、きかん坊(・・・・)の子どもに言い聞かせる様になだめ(・・・)続ける。

 ―― そんな夢だった」


(オレ)は夢から覚めた翌日、あるいは、と思った。

 あの夢の中の(オレ)と奴こそが、あるべき姿だったのではないか。

 神々はそういう意図で2人を(はい)されたのではないか、と思い至ったのだ」


「我ら2人は、歳の近い好敵手として日々競い合う。

 正義心と辺境生まれの同情から、魔物の被害と聞けば飛び出して行くあの直情バカを、名門直系に生まれ育ち(わきま)えのある(オレ)が手綱を握る。

 そして、あるいは魔物の大侵攻のような到底看過できない大災害があれば、次期当主として陣頭指揮(じんとうしき)()り、奴と共に前線を駆けて魔剣士としての本懐(ほんかい)を果たす。

 『封剣流には2本の剣がある』と(ひょう)されただろう。

 それこそが、神々が望まれた未来の形だったのではないか」


「見てみよ、あの『当代一の英雄』と呼ばれた剣帝(あやつ)の『無残(むざん)有様(ありさま)』を。

 あやつの隣に並び立つべき(オレ)が、くだらん保身に走って道場を追い出してしまったせいだ。

 あのバカ者は腕も才も足らん連中ばかりを集めて、みんな揃ってイノシシのように突っ込んだ挙げ句、ものの見事に死に絶えたではないか。

 そのせいで、あやつはいよいよ自身を追い込み、仲間もなく、ただひとりで魔物退治をして回る羽目になった」


「―― それら全て、言ってしまえば『(オレ)の不徳の致すところ』だ」


「あやつが<封剣流>本家の門を叩いた時に、(オレ)はあの剣才を恐れて、排除する事しか考えなかった。

 後継者候補としての自分の立場を(あや)うくするとまで、思い込んだ。

 愚かだ、あまりにも」


「そう、(オレ)が愚かだったが(ゆえ)に、本来あるべきだった運命を(ゆが)めてしまった。

 その結果、不要な不幸を生み、余計な遠回りを強いた。

 ルドルフに詫びねばならん、というのはそういう事だ」


「しかし神々は、万が一に備えて、次善の道も配されていた。

 それがアゼリアと、ロックという小僧だ。

 もしもルドルフが今も我が<封剣流>の門弟だったなら、『(オレ)とお前の孫同士、歳が近ければ許嫁にでもするか?』という話くらい持ち上がっていた頃だろう。

 あの2人は『その代替え』という事さ」





▲ ▽ ▲ ▽



<封剣流>当主ベニートは、こう言って話をしめくくる。



「<封剣流>当主ベニートと、『剣帝流』当主ルドルフが闘う。

 それは単に、同じ時代で肩を並べる達人同士が『どちらが上位(うえ)か?』と剣に問うだけで良い。

 せっかく剣帝(アレ)と真っ向勝負するため10年かけて整えている最中というのに、『弟子の不始末(ふしまつ)』だの『流派の確執(かくしつ)』だの、下らん雑味(ざつみ)を混ぜられてたまるかよっ」



運命が用意した我が好敵手(ライバル)と、今さら下らない体面(たいめん)争いなど、武人のプライドが許さない ――

 ―― 要するに、そう言った話だった。



そして、こうも付け加えた。



「リック。

 お前も後学のために、明日からの武闘大会の『学生枠トーナメント』を見ておけ。

 『今のアゼリア』こそ、まさに我が<封剣流>千年の結晶よ」


「はあ……?」



―― もはや野生児を越えて、ノラ犬か何かとしか思えない、(アレ)が……?



長男パトリックは、そう思いはしたが、当主の命令であるので大人しく従った。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ドニートさん…ただの剣キ○お爺さんって訳ではなく、色々悩んでたんですなぁ…。まあルドルフさんが自分と違い竹を割ったような性格だから、諸々含め様々な重圧もあったんでしょうね。 さて…
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