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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 8/勝利演出:常理の外

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207/236

207:最後の赤魔(上)

2年前の別れの日。

赤髪の少女は、出発の直前にこう告げられた。



「―― いいかい、ルーン。

 過去世界(むこう)に行ったら『剣神(けんしん)』様を頼りなさい」



赤髪の少女は、パチクリと目をまば(・・)()かせ(・・)て振り返る。



「え、センセイ?

 どうしたの、急に」



相手は、白髪まじりの年配の女性研究者。



「……いや、よく昔の記憶を整理してみたんだ。

 当時(・・)、<帝都>に居て、最も影響力のあった人物は、ってね」


「でも、『極星(きょくせい)剣神(けんしん)』 ――

 ―― 帝国どころか世界(・・)最強(・・)の魔剣士なんでしょ。

 そんな有名(・・)すぎる(・・・)大英雄だと、接触するの難しくないの?」


「彼はまだ(・・)その(・・)頃は(・・)士官学校か、その上の上級士官学校か、どちらかに居たはずだ。

 ―― 『まだ学生の魔剣士が<黒炉領>(ブラックフォージ)魔物の大侵攻(モンスターパレード)で活躍した』とか。

 そんな噂話を聞いたのを、昨日の夜に思い出したんだ」


「んん~……

 同じ<帝都>の大英雄なら、天剣マァリオとか封剣リノ(・・)カミロ(・・・)とか。

 まだそっちの方が、接触しやすいんじゃない?」



赤髪の少女・ルーンは、疑問の声。

彼女がセンセイと呼ぶ年配の女性研究者は、新しい提案を力説する。



「いや、むしろ『剣神(けんしん)』様に接近する機会は、この時にしかないだろう。

 この時の()は、まだただの学生。

 魔剣士の名門流派だとしても、一般人とそう(あつか)いが違わないはずなんだ」


「なるほどね……。

 だから、過去(むこう)ならまだ接触のチャンスがあるって事ね?

 有名になる前に会って、味方に引き込めって事ね。

 ―― OK、任せて!

 歴史(・・)の知識をフル活用して、ミステリアスな予言者になってやるんだから!」



赤髪の少女・ルーンは、了解したとグッと親指を立てる。

そして、何か思いついたように、質問をする。



「あ、それじゃあ!

 カイラ様にも、お近づきになれたりしちゃうかなぁ!?」


「『二等星』の『平穏のカイラ』か……。

 なるほど、君は彼女のファンだったなぁ」





▲ ▽ ▲ ▽



―― 公女カイラは対魔族(・・・)国家(・・)連合(・・)の英雄『二等星』の中でも、特に人気のある女傑だ。


彼女は、都市が魔族軍に包囲された時、(みずか)ら人質を申し出た事がある。

魔族たちは降伏を受け入れて、城門から出てきたか弱い(・・・)令嬢(・・)と女中たち数人を()らえた。


しかし、その降伏も人質も、全ては女傑カイラの策略にすぎなかった。

敵将の目の前に連れて行かれると、特級魔剣士という才色兼備の公爵家の姫カイラは、数人のお付き女中(メイド)と共にスカートの中に隠してた短剣で襲いかかったのだ。


結果、見事に敵将の首級をあげて、敵陣営のテントを飛び出た。

その勇姿に市民は、城壁の上で飛び跳ね、喝采(かっさい)を上げる。


逆に恐慌(きょうこう)(おちい)ったのが、魔族に従っていた敵兵達。

―― (だま)()ちにあった。

―― 敵軍は無数の兵を隠して、反撃の機会をうかがっていたのだ。

―― 逆に自分たちが皆殺しにされるのだ。

戦況の混乱で、そんな勘違いをして、蜘蛛(くも)の子のように散り散りに撤退した。


その間に、市民と生き残りの兵士達は、滅びかけた都市からの脱出を成功させる。


文武共に優れた公女殿下は、そのために市民へ『自分の行動を城壁の上から見守ってほしい』と伝えていたのだ。

人質として城門を出る前に行った演説、『公爵家の一員として必ず、帝国の民に平穏(・・)の未来を約束します』という一節が、そのまま彼女の渾名(あだな)となった。


つまり、『平穏の守護者カイラ』。

やがて、『平穏のカイラ』と呼ばれる様になった。





▲ ▽ ▲ ▽



黒髪に白髪がまじる女性研究者は、少し考えた後、首を振って否定する。



「でも彼女は、公爵家の令嬢だからね。

 立場と肩書きが大きすぎる。

 まだ学生の身分だろうけど、身辺警護は厳しいだろうし、近づく事も難しいだろう」


「はぁ……。

 そうなんだぁ、あ~ぁ……」



赤髪の少女ルーンは、ため息。

そして中空を(にら)んだ。


彼女の視線の先には、『偽りの空』と『偽りの太陽』。

視線を下げて左右を見れば、白く頑丈な素材不明の壁が大きな円を描く、ここは建物の中のホールだ。

屋内の円形広場の壁には、所々に開放的な窓があり、その向こうには『偽りの景色』すら映っている。


草原をゆったりと歩く、動物たちの大群。

海面からしぶきを上げて飛び上がる、強大な生物。

(あかね)色の雲の合間を自在に飛び回って遊ぶ、空の王者達。

そして緑豊かな庭園で談笑する、不思議な格好の人々。


それらは幻像魔法で記録された、遙か古代の光景だという。



幻像(それ)名残(なごり)()しそうに、いつまでも見ていそうなルーンの注意を、白衣の年配女性がゴホン!という咳払(せきばら)いで引き戻す。



「―― ああ、『剣神』様の話の続きだが。

 その名声が世界中に(とどろ)いたのは、<帝国4剣号(けんごう)>統一トーナメントである『剣神(けんしん)(はい)』で優勝した時だ。

 もちろん、優れた魔剣士だから武門や士官学校では有名だったかもしれない。

 だが、私のような専門外の人間や一般人には、まだ名前は知れ渡ってなかった」


「へぇ~。

 そう言われてみれば、『剣神』様って魔族討伐以前の話って、ほとんど無いわよね。

 ―― ところでセンセイ、今の<帝国4剣号(けんごう)>って何?」


「昔、あったのさ、そういう魔剣士の称号が。

 剣王、剣聖、剣……、けん……ん~、あと二つは何だったかな?」


「まあともかく、その<帝国4剣号(けんごう)>って物が無くなって、代わりに『剣神(けんしん)(はい)』が出来たワケね?」


「ああ、その通りだ。

 帝国最強に(とど)まらず、世界最強の魔剣士を決めよう ―― そんな(うた)い文句だった。

 武門の関係者は結構反対していたらしいね。

 なんでも、称号の名称に問題があるとか、そんな話だったかな?」


「あ、ワタシ、それ記録書で読んだ。

 なんでも『剣神(けんしん)』が古代12神に関係する名前だから『不敬だ』とかそんな話で反対された、ってヤツだ。

 でも、それも『神王国が不穏な動きをしていたから、剣神(けんしん)が挑発するためにあえて(・・・)その異名を名乗った』って書いてあったわ」



少女の説明を聞いて、大分と白い髪が混じってきた壮年女性は、柔らかく微笑む。



「『極星(きょくせい)』に『一等星』、『二等星』。

 ちゃんと大英雄たちの名前や経歴は覚えているみたいだね」


「そりゃもう、小さい頃からずっと聞かされて育ったしねー。

 最近はワタシが、小さい子に話してあげる番になったし」



赤髪少女ルーンは、少し照れくさそうに答える。

すると、第三の声が混じる。

洞窟の中から響く様な、不思議な反響のある声。



『おや、偉いね。

 勉強の合間に、ちゃんとおチビちゃん達の面倒も見てたのかい』



少女が目線を向けると、異様な声の主は、巨大な首をもたげて黄金色の目をむけてくる。



「当たり前じゃない、飛竜の太母(グレートマザー)

 おジイちゃん達も畑仕事で忙しいんだから、若者がガンバらなきゃ!」


『おやおや、そうかい。

 ではガンバリ屋の良い子に、この飛竜の始祖が祝福をしてあげよう。

 こっちにおいで』


「うん、お願い!」



少女は長い赤髪を尻尾の様に揺らし、飛びつく様に巨大な顔に抱きつく。

それは、老いた白い巨竜。

人間などひと()みでバラバラにできる巨体が、優しく頬ずりをしてから、長鼻(ノーズ)の先をゆっくりと近づける。

大きな牙の合間からチロリと出た赤い舌先が、少女の額をなでた。



「ありがとう、飛竜の太母(グレートマザー)!」


『こちらこそ、小さな勇士。

 世界を救う英雄の助力(チカラ)になれて嬉しいよ。

 貴女の誇りである赤い髪が、遠く過去の世界で、(たくま)しく羽ばたく事を祈っておくわ』


「ワタシも! 飛竜の太母(グレートマザー)とセンセイの幸運を祈ってる!!」



老齢で巨大な白い雌竜(めりゅう)と、それに比べたら格段に小さな人間の少女が、お辞儀を交わし合う。


別れの儀式だった。





▲ ▽ ▲ ▽



老いた白竜は、それだけで疲れてしまったのか、持ち上げていた長い首を床に下ろす。

そして、彼女にとっては小さな、しかし周りの人間にとっては突風のような、鼻息をひとつ。



『何をむくれているのさ、宮廷魔導師。

 この子の教師なら、困難に向かう生徒に祝福のひとつでもしてあげなさい』


「あ……、え……っ

 その……、いいのか、な……。

 そんな、わたしが……?」


「センセイも、お願い」



困惑する壮年女性に、ルーンは両手を広げて近づく。

すると壮年の女教師は、目を潤ませて目蓋(まぶた)を閉じ、少女を強く抱きしめた。



「行ってらっしゃい。

 私の初めてにして、唯一の生徒っ」


「行ってくるね、ワタシの恩師。

 そして、2番目(・・・)()育て(・・)の親(・・)

 ワガママで意固地できかん坊で生意気な娘でゴメンね! 愛してる!」



女教師は、腕の中の少女の言葉に、ついに涙を決壊させる。

小さな嗚咽(おえつ)をあげながら、心情を吐露(とろ)する。



「君を……君を!

 あんな苦しくて絶望しかない、終末戦争なんか味わわせたくはない!

 人類が容赦なく滅ぼされ!

 竜の助力(チカラ)を借りても、どうにもならなかった!

 あの『砂嵐』の様な滅亡に立ち会わせたくない!

 出来たら、この私が代わってやりたい!」


「ダメだよ、これだけはワタシの役目だもん。

 あの(・・)時代(・・)()生まれ(・・・)()ない(・・)ワタシだから、時間を(さかのぼ)っても、きっと支障がでない。

 ―― そうでしょ、センセイ?」



少女がそう言って身を離す。

壮年の女性は、もう一度、赤髪少女ルーンを優しく抱きしめて、ほおにキスをする。

『時を超える』という前代未聞の試練に立ち向かう生徒への、精一杯の祝福だった。



「ああ、解ってる。

 行っておいで、私たちの、人類最後の希望の娘」


「センセイ、飛竜の太母(グレートマザー)

 ララとベルの双子の相手、お願いね。

 『イヤだ、お姉ちゃん行かないで』って泣き疲れて寝ちゃったから、きっと起きたらまた大騒ぎすると思うし」



そして少女は、『偽りの空』と『偽りの景色』が映る円形広場の端に置かれた、鳥かごのような装置に入っていく。


残された大人の女性2人 ―― 人間の宮廷魔術師と、飛竜の太母は明るい声をかける。



「ああ、任せなさい。

 私だって、泣くダダっ子の相手は慣れたもんだよ。

 君という悪い生徒のお陰でね?」


『気分屋のおチビ達の事だ。

 また、この私(ドラゴン)の身体を上り下りして遊んでいれば、その内ご機嫌になるさね』



―― ついに、3者の別れの時。



「<四彩(しさい)(かばね)>の『赤魔(ルベル)』一族、最後の娘。

 ルーン=ルベル、14歳、行って参ります!」



少女は、気取った敬礼をして。

一瞬で姿を消した。





▲ ▽ ▲ ▽



少女がいなくなってしばらく。

広大な屋内の円形広場は、一気に暗くなる。


雰囲気だけの話ではない。

明るく広場を照らしていた照明や、映像が全て消されてしまったのだ。

彼女たちに残された時間は短いとはいえ、エネルギーは大切に使わないといけない。


そんな薄暗くなったドーム状の室内。

残ったのは、2者だけ。


年老いた竜の母と、壮年女性研究者の、しんみりとした声だけが響く。



『なんとか、期日までに送り出せたね』


「ああ、飛竜の太母(グレートマザー)

 貴女のお陰です。

 ところで…… ――」


『―― なんだい、宮廷魔導師。

 言いにくそうに、口ごもって』


「どうして貴女たち、神秘の森の飛竜は、我々人間を助けてくれたんだ?

 確か、記録上では、南方大陸・三等領地の開拓の際に、我々帝国が ――」


『今さら、過ぎた事を!

 いちいち掘り返すんじゃないよ、宮廷魔導師っ』


「ご、ごめんなさい……っ」



まるで、教師に叱られた生徒のように、白衣の女性研究者はうつむく。

そんな、老いたとはいえ、自分より遙かに年下の生命に、雌竜(めりゅう)は小さく謝罪する。



『フゥ……、すまない。

 怒鳴る事じゃなかったね。

 たしかに同胞が殺された事に、遺恨(いこん)はある。

 残された血族の子達に、なんで人間なんかを、と恨み言を言われた事もある』


「では、どうして……?」


『似てたのさ、あの娘の養母が』


「養母? ルーンの?

 メグ(・・)ルベル(・・・)の事ですか?」


『ああ、そんな名前だったか。

 私のかつての飼い主に、よく似ていた』


「か、飼い主!?」



薄暗い室内に、驚きの声とガタンと椅子を蹴る音が響いた。



『何を驚く事がある、宮廷魔導師。

 古代文明の研究は専門分野だろ?

 なら知ってるはずだ、古代魔導文明は飛竜すら飼い慣らした事を』


「それは……、でも……、本当に?」


『ここに生きた証がいるだろ?

 もっとも、もう耄碌(もうろく)して空を羽ばたくどころか、地を()う事すら精一杯だがね』


「そんな、事が……本当に……?

 古代魔導文明……いったい、どれほどの……」


『話を続けるよ、宮廷魔導師?』



竜の老母は、考え込む話し相手に、呆れ混じりの声。

そして、昔を懐かしむ様に金色の目を細めた。



『<四彩(しさい)(かばね)>は古代魔導の血を、最も濃く継いでいる。

 きっと本当の事なんだろうね。

 あの子の養母、メグといったかい、その人間には彼女(・・)の面影があった。

 あるいは、匂い、魂の質、そういう物が似ている気がした』


「な、なるほど……」


彼女(・・)はキャラキャラと明るく笑う女の子だったよ。

 私がまだ幼くて、病やケガで苦しんだ時は、いっしょに寝てなぐさめてくれた。

 とても優しくて、いい匂いのする子だった』


「…………」


『あいにく私が大きく育ちすぎたから、彼女(・・)が大人になる頃には一緒に住めなくなった。

 それでも、月に何度かは会いに来てくれた。

 そして彼女(・・)を背に乗せて、一緒に出かけたもんさ。海の向こうの離れ小島を巡って変わった果物を探したり、山の頂の雪を見に行ったり、人の居ない荒野にまで飛んで夜空の星を数えたり。

 どれも大切な思い出だ。

 今でもキラキラと輝いている』


「幸せ、だったんだな……」


『ああ、そうだね。

 そして、幸せは長くは続かないもんさ、本当にね。

 あれは、彼女(・・)が子どもを何人か産んだ頃か。

 やがてはその子達も背に乗せて遊びに行こう。

 そんな話をしている内に、いつの間にか古代魔導文明は滅んでしまったんだから』


「どうして?」


『さあ、どうしてなんだろうね。何が原因だったのか。

 あまりに急で、あまりに静かな滅びだった。

 常に小春日和(こはるびより)の巨大な(おり)の中で、のんびり暮らしていて、食事や身の回りの一切を任せっぱなしだった。

 そんな、私たち飼われ飛竜には、なんとも知り得ない話さ』


「…………」



巨大な飛竜の声には、親しい人々の死を(いた)む、悲しい響きがあった。



―― そして、壮年の女性研究者は、黙って話の続きを待つ。


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