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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 8.5:特設ステージ(ボス戦)

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203/236

203:昼間に妖精

<帝都>の象徴的施設(ランドマーク)・『闘技場(コロシアム)』。

しかし、その門扉(ゲート)は、固く閉ざされていた。


開催中の『武闘大会』は多くの観客や来賓が詰めかけ、人の出入りが激しい祭典(イベント)だというのに。

―― まるで、不都合な事を覆い隠すように。

―― あるいは、中の人間を誰も逃がさないように。



衛兵の小隊長が慌てて駆け寄り、守衛らしき人物に声をかける。



「おい、開けてくれ!」


「―― なんだ、コイツら」

「衛兵どもが、そろって何の用だ?」



閉ざされた門扉(ゲート)の前で、白い装甲の騎士達はあからさまに顔を歪めた。

不愉快極まりない、という表情と声だ。



「……チッ」



衛兵の小隊長は、相手に聞こえないように小さく舌打ち。

そしてすぐに、身分証と命令書を掲げて進み出る。



「―― 我々は、総隊長のご命令で動いている!

 『闘技場(コロシアム)に異常アリ』と。

 中の様子を確認させていただきたい!」


「ハッ、だ・か・らぁ~?」

「知るかよ! 帰れ帰れっ」

「命令? 『衛兵の総隊長』ごとき(・・・)のぉ?」

「まさか貴様、我ら『帝室親衛隊』に指示できる立場だと思っているのかぁ?」

「平民あがりのくせに、生意気だっ」



騎士達のドスを利かせた声は、まるで下町のチンピラの様だ。


まだ若い衛兵の小隊長は、まるで取り付く島もない態度の相手に、粘り強く訴え続ける。



「事件があったと聞いて、飛んできたんだっ。

 中に入らせてくれ!」



しかし、白い装甲の騎士達は取り合う気配もない。

それどころか、突き出された捜査命令書を取り上げ、破り捨ててしまう。



「な、なにぃ! 何のつもりだ、お前達」


「『何のつもりだ』は、こっちのセリフだよ!」

「お前ら、この帝都最大の祭典『武闘大会』を邪魔する気かぁ~?」

「おお、そりゃマズいっスねー」

「ああ、帝国の威信を汚す行為ですよ?」

「それは大変だぁ~、帝室への反逆行為じゃないかぁ~」



白い装甲の騎士達は、ヘラヘラと軽薄に笑う。

最奥で腕組みしていた上官らしき2人組も、薄笑いで極端な判断をする。



「斬りますか、タイチョー?」

「……やむを()んな。行け」

「よぉーし、反逆者集団の討伐開始ぃ~」

「ヒヒッ、人を斬るのは久しぶりだぁ!」

「丁度ヒマしてた所だ、ありがてぇ!」



1人・2人・3人……と佩剣(はいけん)を抜いては、警備用の長槍を手放し始める。

さらに片手が、腕輪型<魔導具>(マジック・アイテム)に伸び、【身体強化】魔法の準備さえ始める。


まさに、一触即発(いっしょくそくはつ)

人死にが出かねない、危険な状況だ。



「クソッ、コイツら ――」


「―― ハァ……、どいて下さい」



そう言って、『私』は軽装甲の衛兵の間をすり抜けていく。



「ヘヘッ、何人斬れるか競争しようぜ?」

「勝ったら今夜おごりか?」

衛兵(おマワリ)のバカどもがぁ、調子にのりやがって!」

「<巴環許し(サンカン)>の三流(・・)魔剣士どもがっ」

「衛兵ごとき落ち(・・)こぼれ(・・・)が、身の程(・・・)を知れ!」



『私』が最前に出たのは、まさに魔剣士集団が斬りかかってくる、その瞬間だった。

先頭をきった金髪青年が、一気に青ざめる。



「―― なぁ……っ!?」



一番最初の金髪騎士が急停止したせいで、後続が次々とぶつかる。

白い装甲の騎士達は、まるで団子状態。



「おい、バカ!」「このっ」「何だよぉ」「急に止まるな ――……ひぃっ」



そして後続の連中も、『私』(こちら)を見て石像のように動きを止める。



―― それはそうだろう。

闇の住人である私が ―― しかも『月下凄麗』ルナティック・ティアーとしての装備(よそおい)で、昼の<帝都>を出歩く。

言語を絶する程の『異常』だ。


同じ所属先である『帝室親衛隊』の準騎士(・・・)であっても、その意味が解らないはずもない。



私は、徒手(としゅ)武術<東拳流>で鍛え上げられた肺活量で、一喝(いっかつ)



「―― 気をつけ!!」


―― 『ぃ、ひゃぃ!』



甘ったれたお坊(・・)ちゃん(・・・)()は、そんな号令一つで震え上がる。

すぐに<正剣>(フォーマル)を手放して、直立不動の体勢で並ぶ。



(じゅん)騎士ども邪魔だ、どけ」


―― 『は、はいぃっ!』



私が、不機嫌の声で進み出れば、連中は真っ青な顔で左右に散る。

そして、少し離れた場所で尊大に腕組みしていた上官だか隊長だかに、声をかける。



「そこの準騎士たちの上官。

 案内をなさい」


「わ、わたしが、ですか!?

 し、しかし、こ・こ・このも、も、持ち場の管理を任されて ――」


「『帝室親衛隊』の準騎士ごとき(・・・)が、『私』に逆らいますか?」



私が魔力操作で『圧』(プレッシャー)をかける。

すると、白い装甲の赤髪騎士は、急な胃痛のような真っ青な顔色で、何度も(うなづ)く。



「ぃ……、いえぇ!

 ご、ご案内します! させていただきま、すっ」


「……。」



あとは、いちいち口に出す程もない。

私が片手を上げれば、意を理解した赤髪の責任者が、部下達に門扉(ゲート)の開門を指示する。


すると、隣で大きなため息が一つ。



「―― ッ、ハァ~~……。

 『妖精(ようせい)』どの、助かった。

 やはり一緒に来てもらって、正解だったな」


「貴方には借りがありますので……」



裏の者が、表の者に感謝されるなんて。

なんとも奇異で、居心地が悪い。


私は、場違い感と気まずさで、思わず自分の顔を覆う白い仮面をなでていた、





▲ ▽ ▲ ▽



闘技場(コロシアム)』の施設内はいよいよ異様な様子だった。



「観客が誰も出歩いていない……

 施設が、まるで休館の有り様だ。

 ―― おい、いったい何が起っているんだ!?」


「……………………」



顔見知りの衛兵の小隊長の呼びかけ、私に向けたものではない。

無言で少し先を走る、白い装甲の赤髪騎士への問いだ。



(準騎士たちの独断だけでは、ここまでの手を回せない。

 ならば『何者か』が……関わっている?)



おそらくは陰謀。

それも、かなり高位の権力者が絡んでいる種類のものだろう。


最終的には、おそろしく血なまぐさい事件になるだろう。

私は、それ以上は考える事も嫌になり、思わず軽口を叩く。



「……もしや、集団失踪でも起きましたか?

 呼び出された当初は、あるいは『皇帝陛下(・・・・)でも暗殺されて下手人を見失った』くらいの、大事件が発生したのかと思いましたが」


「おい! 滅多な事を口にしないでくれっ」


「…………」



場が(なご)むどころか、血相を変えて怒鳴られる。

やはり、私の冗談は、酷く不評のようだ。


そんな気まずい無言で走っていると、目当ての場所に着いたらしい。



「開けろ」

「しかし、タイチョー ――」

「―― いいからっ」



警備責任者らしき赤髪騎士は、胸ぐらを掴まんばかりの勢いで、部下に詰め寄る。

すぐに、メイン会場へと続く出場選手用の専用通路が開かれた。


私が、顔見知りの小隊長ら約20人衛兵と、通路に駆け込む。

その瞬間、通路扉をおさえる赤髪の準騎士上官が、小声を漏らした。



「―― どうなっても……、知らんぞ?」


「誰に向かって口を利いている?

 この帝都の闇に君臨する『月下凄麗』ルナティック・ティアーの目から逃れる間者(かんじゃ)など居ない」


「フン……ッ、貴様は知らんのだ。

 あの(おそ)ろしい修羅どもを……!

 そして、それすら(・・・・)子ども(・・・)扱い(・・)にする、あの飼い主どもをっ!」


「…………」



私は、その一言で感づく。

アレどもが動いたのか、と。

準騎士とはいえど、帝室親衛隊の特級魔剣士の精鋭さえ(おそ)れさせる『闇の使い手』。


私は、焦る気持ちで、弾かれるように駆け出した。

先行する一団に追いつくと、顔見知りの衛兵小隊長の横に行って、ささやく。



「……まずい相手、かもしれません。

 おそらく『(ふる)い闇』。

 すでに忘れ去られた火の粉(・・・)残滓(ざんし)が、灰より燃え上がった」


「……それは、我々のような司法の者では手に余る相手か?

 捕らえる事ができない、『夜霧のような相手』なのか」


「かなりの確率で」


「チッ、またそんな話かよ……っ」


「場合によっては、『密偵(こちら)』で始末をつけます。

 幸い、『後輩』が会場に居るはずなので」


「例の、『もう一人の特級戦力(エース)』か……」


「ええ……」


「クソ……ッ」



私の横を走る衛兵の小隊長は、悪態をついて下唇をかみしめた。





▲ ▽ ▲ ▽



「……フッ」



私は、相手に気付かれないように、白い仮面の中でこっそりとため息。



「………………」


「………………」



無言の通路に、ガチャガチャと衛兵たちの軽装で走る音だけが響く。



(……そもそも、『私』のような裏と関わっている事が、既に異常事態(イレギュラー)

 真っ当(・・・)()衛兵の仕事から逸脱していますからね)



私は、内心で同情する。


彼ら彼女らは、ここ<帝都>の治安を預かる衛兵なのに、ここ数回の大事件では軽んじられている。

誰もが、とても耐えがたい苛立(いらだ)ちや葛藤(かっとう)が、胸中に渦巻いているのだろう。



「―― すまん。お前たちばかりに、負担をかける」


「え……? え、えぇ……っ」



顔見知りの小隊長の口から出た、思いがけない言葉。

私は、少し困惑しながら、率直に(たず)ねる。



「……えっと。

 任務の横やりに怒っていたのでは、ないのですか?」



すると衛兵の小隊長は、鼻で小さく笑う。



「フンッ、悪党どもをブチのめし善良な市民を守る ――

 ―― そんな簡単な事すらままならん、弱い自分が情けないだけだっ」


「そう、ですか……」


「ああ、そうさ!

 ―― クソぉッ、この身にもっと才覚があれば!

 キミのように、特級魔剣士に対抗できるような、何か特別な能力(チカラ)でもあればっ」


「………………」



衛兵という、あり(・・)ふれた(・・・)中級魔剣士がする、無力の嘆き。



常理(じょうり)(くつがえ)し、強者に勝る弱者か……)



そんな酔っ払いの愚痴(ぐち)じみた『夢物語(ゆめものがたり)』を聞き流していると、私の脳裏に浮かび上がる人影があった。



―― 何せ『彼』とは、つい1~2ヶ月前に再会したばかりだ。



この『妖精の目(グラムサイト)』に匹敵する『第三の目(サードアイ)』の持ち主。

そして、『未強化(なまみ)』の剣士にして、模造剣(ナマクラ)を使う達人。


魔剣士ならざる身でありながら、特級魔剣士の精鋭すらも圧倒する ――

あるいは、あんな(・・・)魔物(・・)同然(・・)怪物(バケモノ)すら難なく()つ ――

 ―― あまりに異常な戦力(チカラ)(ぬし)



まさに『夢物語(ゆめものがたり)』だ。

『有るはずの無い者』であり、『現実離れした荒唐無稽(こうとうむけい)』である。


しかし、そんな者が現実に存在しているという『異常』。



(―― つまり、『今の私』のような存在(モノ)ですね……)



自嘲気味にそう思う。

在るはずのない、いわば『亡霊』のような存在(モノ)



夜霧に(まぎ)れて<帝都>を闊歩(かっぽ)するはずの『妖精』が、何の因果か太陽の下を出歩いている。

その姿を目撃した者は、まさに『亡霊』に出会ったかのように震え上がるだろう。



(そう、さっきのあの帝室親衛隊の予備人員・準騎士たちのように……)



私が物思いにふけっている内に、選手用通路の末端についたらしい。



「―― 扉が開かん」

「内側から鍵か!?」

「構わん、蹴破れ!」



衛兵の力自慢たちが集まり、【身体強化】魔法を使った3人がかりで大扉を蹴破る。



―― ドン!という音で開け放った大扉の向こうは、静寂の世界。



場所を間違えたのか。

あるいは、観客は全員退去した後なのか。

私の脳裏にそんな憶測が浮かび、すぐに泡のように消えた。



観客席には、見渡す限り満員の客入り。

それなのに、誰も彼もが、黙りこくって、身動き一つしない。

まるで物音を立てる事さえ恐れているような、張り詰めた緊迫感。



「……なんだ、これは?」


「何が、起こっている……?」



衛兵の小隊長も、私も、異常な空気に声を殺してささやきあう。



「―― あれ、『先輩』……?」



声は、選手用通路の大扉から出たすぐ(そば)から聞こえた。


整った顔を青くして、座り込んだ金髪の士官学生男子。

<天剣流>第5席次・マァリオ=スカイソードが、こちらを見上げていた。


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