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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 8.5:特設ステージ(ボス戦)

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202/236

202:極ノ太刀

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




<帝都>の目玉施設(ランドマーク)闘技場(コロシアム)のメイン会場に砂煙が立ちこめる。

その上空で『赤い閃光』が爆発したら、キャーキャー、ワーワーと観客席は大騒ぎ。



―― 『お、落ち着いてください! 皆さんっ』


―― 『大丈夫です! 慌てないでください!』

―― 『ここは<帝都>の中心地で、皇帝陛下のお膝元(ひざもと)です!』


―― 『帝室親衛隊の精鋭騎士が!』

―― 『<帝国八流派>から選び抜かれた、特級魔剣士が警備しています!』


―― 『まずは席を立たずに、落ち着いて!』

―― 『危険があれば、すぐに係員が誘導しますので!』


―― 『まずは、落ち着いて! 自分の席に戻って!!』



まるで砂嵐のような視界になった、メイン会場。

パニックになって席を立ち、出入口へ()めかける観客。

拡声器(マイク)<魔導具>(マジック・アイテム)の大音量が、何度も制止を呼びかける。



―― 『大丈夫です! たった今! 大会運営側からの報告が入りました!』

―― 『イベント演出の最中にトラブルがあった模様(もよう)です ――』


―― 『―― ですが! 既に! 会場に居合わせた<御三家(ごさんけ)>の親衛隊騎士が!』

―― 『<精剣(せいけん)流>本家が! この非常事態(・・・・)収拾(しゅうしゅう)していますっ!!』



砂煙のど真ん中で、そんな大音量アナウンスを聞きながら、女性騎士(アイリーン)はため息。



「終わったか……。

 まさか『未強化(なまみ)』の敵相手に、竜種(ドラゴン)を殺す絶技『(さか)()雷霆(らいてい)』まで、使わされるとは……」



そして、ようやく(・・・・)立ち上がる。

しかし、その足取りは、まだフラフラしている。



「……しかし、『翡翠領(グリンストン)魔物の大侵攻(モンスター・パレード)』で活躍した『未強化(なまみ)の剣士』 ――

 ―― あの(・・)剣帝(・・)が育て上げた、練武千年の結晶(アゼリア=ミラー)に匹敵する異才(・・)竜殺(りゅうさつ)の剣士』。

 あのバカげた流言飛語(りゅうげんひご)、あながち嘘でもなかったのか……?」



15mという高所からの落下は、超級の【身体強化】魔法で強化した『剛力型(パワー)』の魔剣士でもこた(・・)えた(・・)らしい。

高級そうな金色剣身の<正剣>(フォーマル)を地面に突き立て、杖代わりにして『なんとか立っている』というお疲れ(・・・)の様子だ。



「じゃあ、そろそろ(・・・・)続きを始めて、良いか? ――」


「―― 何ィ~~~ッ!?」



俺が声をかけると、やたらとビックリされちゃう。

砂嵐みたいな悪視界の中、センサー魔法【序の四段目:風鈴眼(ふうりんがん)】で様子をうかがって、相手が体勢を整えるまで待ってたんだが……。



(……もしかして、この女性騎士(アラサーおんな)、俺を見失ってたの?

 こんな(・・・)砂煙(・・)くらい(・・・)()

 どんだけ『魔力式の気配察知(サード・アイ)』ショボイの?)



お前らそんなんじゃ、<ラピス山地>より山奥の<アルビオン山脈>原産『性悪イタチ魔物』とかに、()られちゃうよ?


水と風の複合魔法で姿を消して襲いかかる、とか。

『仲間の人間の幻像(フェイク)』で気を引いてダマし討ち、とか。

アイツらイタチ魔物って、クソみたいに性質(タチ)が悪いからな?


(※ なお、ウチのカワイイお姫様(リアちゃん)のお姿を(けが)したゲス魔物(黒イタチ)どもは、兄弟子の怒りで群れ15匹(ファミリー)まるごと滅殺(メッサツ)されました。南無三(ナームー)



―― まあ、そんなムダ話はともかく。



コレ(・・)はさすがに、ちょっと論外(ナイ)……)



相手の女(アイリーン)がザコすぎて、呆れ果てた(クソワロタ)



「クッ……う、嘘だ!

 『(さか)()雷霆(らいてい)』だぞ!

 正真正銘(しょうしんしょうめい)の、『竜種殺しの撃剣(ドラゴン・キラー)』だぞ!?

 先祖が200年前の南方大陸で飛竜の首を落とした、我が<精剣(せいけん)流>の絶技中の絶技がぁ!! ――」



本気で予想外だったらしい。

相手は、軽くパニック状態。



「―― ハッ!? そうか!

 つまり、さっきの幻像魔法みたいな、幻惑(ハッタリ)で逃れたのか!?」



さらには、マジで俺の位置が解らんらしく、キョロキョロ探し始める。



(……というか、この砂煙ってさぁ。

 さっき、貴女(アナタ)自身が『赤い閃光』付き斬撃で巻き上げた、目隠しの煙幕(カモフラージュ)ですよねぇ……?(呆れ笑い))



ため息と、呆れ声が出ちゃう。



「……おいおい」



なんだよ~、こっちはヒマつぶしに模造剣(ナマクラ)小剣(ショート)>をクルクル回しながら、立ち上がるのを待っ(・・)てた(・・)のに。


しかも、そろそろ例の『特殊な身体(<精剣流>)強化魔法(の奥義)』の効果時間が切れそうだから、気を(・・)つか(・・)って(・・)、早めに決闘(バトル)再開の声かけしたのに。



(……もしかして、さっきの空中攻撃で、決着したつもりだった?)



つまり『いえぇ~い!あのオマカ野郎ブッ殺してやったわ~!』とか勘違い(・・・)して、マジで気を抜いてワケ?



(え、マジで?

 この女、そんな低レベルなアホなの?)



魔物とかアレだぞ、『魔法を使う人食いの怪物』なんだぞ。

アイツら、知能(アタマ)いいから、死んだふりして油断したら背中からガブリ!とか普通にだまし討ちしてくるんだぞ。


なんかもう、『魔力式の気配察知(サード・アイ)』がどうとか言う以前の問題じゃね?

いわゆる『残心(ざんしん)』の心構えとか知らんのか、アイリーンさんお前よぉ。



(―― 剣術Lvや『腕輪(段位)』は立派でも、肝心の心構えや実戦経験はボロボロ……)



それ(・・)が、あの『細目ニヤケ男(神童ルカ)』が言ってた、『帝都の魔剣士は貴族気取りの道場剣術でクサっとる』ってワケね。

うはは、はぁ~……(呆れて笑う気にならん件について)



「もう、いいや……。

 とりあえず、死なないように全力で(・・・)防御(・・)しろよ?」


「―― ゥ……ッ、くぅ……ッ!!?」



女性騎士(アイリーンさん)が構えるのを待って、さっきから色々調整してた()試作技(・・・)雑発動(ブッパ)

相手の構えた『金色の高価(たか)そうな剣』に向かって、ダッシュ刺突(ツキ)の形で保留玉(ストック)解放(・・)してみる。


そう!

さっき空中でくらった、『飛竜の首がどうとか~』という技の威力を吸収(・・)して、そのままお返しだ。



―― 『無事、大会会場にもぐり(・・・)こんだ(・・・)不審者は排除されています!』


―― 『繰り返します、係員を(・・・)よそおい(・・・・)破壊工作(・・・)()くわだ(・・・)てた(・・)不審者(・・・)() ――』



そんな、会場アナウンスをさえぎり ――

―― ズドオオォォォォ~~~……ォン!!と響く爆音と、『赤い(・・)閃光(・・)』!





▲ ▽ ▲ ▽



重装甲の女性騎士(アラサー)は、砂煙をブチ破る!!

さらに、一直線に真横へ()()んでいき、客席下の石壁に激突!?

それでも勢いは(おとろ)えず、バァ~ン!とハデに3~4mは()ね返った!?!?



(やべぇ! このアラサー死んじゃった!?

 予想以上に威力調整が難しいぞ、この(・・)精剣流(・・・)奥義(・・)!?)



「……ぃッ、ぃひ……ッ、ひぃ……いぃッ」



―― 【朗報!】女性騎士さん切れ切れの呼吸でなんとか身を起こす【祝☆生還】



(よかったぁぁ~~!!

 アブないところだった!

 あやうく殺人前科1犯になっちゃう所だったぜぇ~)



兄弟子、ホッとする。


すると、相手(アラサー)にキッと(にら)まれちゃう。



「な・ん・な・ん・だァ、キサマはァ~ッ、ホントにィッッッ!!?

 なぁ! さっきからやる事なす事! 全部おかしいよなぁ!?」


「―― …………」



いや、だからスマンって。

いい歳(アラサー)で半泣きになるなよ。


初めて、<精剣流(オタク)>の流派の奥義使ったから火力(チカラ)加減が解んなかっただけ。



(―― いや~、しかし、いい術式構文(スペル)を見せてもらったなぁ。

 何回見ても仕組みが全く解らん『解読不能技術(ブラックボックス)』だけど、取りあえず『作動する(うごく)』からいいやっ)



猫背で右足を上げる『例のポーズ』で指さし『確認(ヨシ!)』しておく。


そして念の(・・)ため(・・)、もう一度、動作確認(テストプレイ)

ちょうど良く、そろそろ砂煙が晴れてきて、見晴らしがよくなった頃だし。



「こうやって、攻撃魔法を自分(・・)()撃って ――」



俺は、そうひとり言を言いながら『チ・チリン!』と2重(ダブル)自力詠唱(キャスト)

右手から【滑翔(シュート)】で2mくらい強制移動させた<法輪(リング)>が、遅延発動(ディレイ)


ズドン!と衝撃波の下級魔法【撃衝角(アタックラム)】が発動して、俺を(・・)攻撃(・・)



「―― こうやって『吸収(・・)』と!」



即座に、魔法陣(・・・)のある(・・・)背後から灯火色(オレンジ)の数十個の『()()』を、左手の手の平に集める。

すると、攻撃魔法(アタックラム)の衝撃波を吸収して、『()()』が真っ赤に色が変わる。



「そして、こう(・・)かッ!?」



オレンジから赤へと変色した『()()』を、俺自身の全身に付着させて解放(リリース)


ボン……ッ!と砂が舞い上がる程の、爆発加速で駆け出し、勢いのままにジグザクに壁面(・・)()登って(・・・)行く(・・)

周りから見れば、まるで『赤い雷光(イナズマ)』みたいにジグザグに、縦横無尽(じゅうおうむじん)に駆け抜けた感じだろう。



(ウッハ~~~!

 『印』(チャージ)1個でこの速度かよ!

 『印3個』(フルチャージ)で使えば【五行剣(ごぎょうけん)()】以上の加速力じゃない!? コレ!!)



なんかテンションの上がった俺は、ついでとばかりに闘技場(コロシアム)の壁際にある、『変な男の巨大石像』まで駆け上る。


そのまま石像の頭頂から超・ジャンプ。

クルッと回って、高度(・・)30(・・)()から華麗(かれい)に着地!


着地から一拍おいて、シュゥ~……ゥ、カキン☆と愛剣・模造剣(ラセツ丸)納剣(・・)



「フン……。 また、つまらぬ物を斬ってしまったっ」



前世ニッポンのアニメキャラ、男の子みんな大好き『斬●剣の人』のモノマネだ!


その瞬間、ドドドドドォ~……ン!と俺の背後で、『変な男の巨大石像』がコマ切れになって崩れ落ちる。



(―― 決まったぁぁぁぁ!!

 今年のモノマネ大賞! ナマクラ剣士ロック君の優勝です!!)



……あ、思いがけず砂ぼこりが舞い上がったから、ちょっと掃除(カタ)しとこ。

高度(・・)30(・・)()からの着地の衝撃(ダメージ)を『吸収』した分で、フン!と一発。


―― よし、OK。

ボン!と『赤い閃光』の破裂で、またメイン会場に舞い上がった砂ぼこりが、キレイに吹っ飛んだ。





▲ ▽ ▲ ▽



高級(タカ)そうな金色<正剣>(フォーマル)を、砂地の地面に突き刺して、(つえ)()わり。

プルプルした足腰で、なんとか立っている。


そんな、クソザコ女性騎士が、口だけ元気よく()え始めた。



「だぁ・かぁ・らぁ!!

 他流派の秘術的魔法(オリジナル。スペル)をぉ!!

 なんで即・模倣(コピー)できるんだよ、お前はぁぁぁ!!!」


「……それは、まあ。

 あれだけ何回も目の前で見せられていれば、それは、誰でも……ねえ?」


「しかも何だ、今のあの動きはぁ!

 魔剣士でもないガキが! 初めて使う【超級・身体強化】を、難なく使いこなすぅ!?

 ハァ~~~!? ふざけるな!

 その一つ下の【特級・身体強化】を使いこなすのに、十何年の訓練が必要と思っているんだぁ!」



(何言ってんのコイツ……)



超・天才児の妹弟子(アゼリア)なんて、4~5歳から修行始めて、10歳くらいに免許皆伝(特級魔剣士)になってますよ? キラッ☆(超銀河級のアイドル仕草)



(単に、オメーらの努力と真剣度が足りないだけじゃね?)



この赤髪の女性騎士(アラサー)、なんかさっきからこんな感じ。

手の平返すみたいに、急に『特許侵害ですよ、訴えます!』みたいな事を言い出した。


キミも、親父さんも、手下の黒ずくめ連中も、今日何回も散々見せつけてきたでしょ?

どうしたアイリーンちゃん(笑)、神童ルカみたいな(なん)くせ(・・)(呆)を言い始めるの()めてちょうだい。


そして、お前らいっぺん『特許』の意味を調べてこい。



(あのなぁ、『特許』ってのはなぁ。

 『独占技術で他人がマネしたらダメ』って事じゃねーんだよ)



むしろ、みんなに積極的にマネしてもらって、開発者がガバガバ特許料(おカネ)もらう制度なんだよ。

つまり、新技術を広めると同時に、ガンバった本人に報いるのが、『特許』の趣旨(しゅし)


もっとかみ砕くと、こんな感じ。

―― 新しい良い物作ったら、コッソリ隠さず、みんなに教えてね、って事。

―― それが本当に役立つ物なら、ドンドンみんなマネしていこう、って事。



だから(・・・)、前世ニッポンの1990年代後半から2000年代前半までの約10年間、新時代を()(ひら)いた『格闘ゲーム』は隆盛(りゅうせい)したんだ……)



格ゲー以前(それまで)の2人プレイとは、『協力プレイ』の事だった。


それを、『プレイヤー同士で勝負する』という形に変えた、斬新なゲーム設計(デザイン)

これにより、『ゲームを難しくしてゲームオーバーを連発、コンテニューをうながして収益を上げる』というゲームセンター衰退の要素を大きく減ずる事ができた。


60秒×3ラウンド=3分間という、短期間で決着するシステムのため、客の回転率が高い。

また、負けた相手がリベンジしてくる事で、稼働率が上がる。

だから、ゲームセンター運営側も大きな収益を見込める。


ヒマつぶしに、ダラダラ遊ぶだけじゃない。

不良や落第生や、サボりの社会人(サラリーマン)たむろ(・・・)するだけのうら(・・)びれた(・・・)場所(ゲーセン)に、一気に人口が流入して(さか)()になった。


友達、常連、上級者、そういった相手に勝つため、自分の技術を研鑽(けんさん)する。

すばらしい熱狂と挑戦、汗と涙の日々だった。


対戦と、勝利と、敗北と、栄光と、屈辱(くつじょく)と、傲慢(ごうまん)と、卑屈(ひくつ)と、練習と、対策と、研究と、戦略があった。




―― まさに『e-(・・)スポーツ(・・・・)』!!!



(と言っても、現代ニッポンのスマホばかりな若者(ヤング)この(・・)用語(・・)も知らんだろうなぁ……。

 スマン、時代に取り残された老害(オッサン)がする、つまらない懐古(カタリ)だった(苦笑))



ああ、我が趣味(トモ)よ。


闘争の時代をかけぬけた、我が生涯(しょうがい)趣味(シンユウ)よ。

一時は世界を席巻する炎と燃え上がり、すでに燃え尽き、やがて消えゆく、残り火よ。


俺は『格闘ゲーム(オマエ)』を、せめて看取(みと)ってやりたかった。

その最後の火が消え去るその時まで、一緒に居てやりたかった。

それだけが、この孤独で哀れな男ができうる、唯一の恩返しだった。


俺は、『格闘ゲーム(オマエ)』という無二の存在(トモ)がいてくれたお陰で、人生に絶望せずにすんだ。

その感謝を、何か形にして返してやりたかった。


しかし、そんな(おも)いも(かな)わぬままに死去(さる)

ならば、是非(ぜひ)もない。



(ならば、せめて、この新たに生を受けた異世界で!

 『格闘ゲーム(オマエ)』の面影(おもかげ)と共に生きよう!)



すでに前世ニッポンでは、忘れ去られた存在だろう。

過去の遺物として、一部のマニアしか知らぬ骨董品と成り果てているのだろう。


わずかに残った我が同志(ライバル)たちが細々とプレイを続けるだけの、やがては歴史の波間に消え去る残滓(ざんし)なのだろう。



(この異世界に、『格闘ゲーム(オマエ)』の存在を刻みつけてやろう!!)



いつかの日の、妹弟子の言葉が思い出される。

―― 10年先には『最強の剣士』と呼ばれ

―― 後世に『魔剣士の中興(ちゅうこう)()』として(あが)められる


やがては、前世ニッポンの歴史から消え去るハズの『格闘ゲーム(オマエ)』を残せるのであれば。

俺は、『そう(・・)いう(・・)()』になりたい。



(―― いや、違う……っ)



そんな弱気を、首を振って否定。



(俺は、今この時より『そう(・・)いう(・・)()』に成る(・・)のだっ!!)



自己(おのれ)(カツ)を入れ、胸の奥に火を付ける。

肉体も魂も烈火と燃やせ、俺自身(ロック)よ!


今より、闘争の修羅になり、殺戮(さつりく)羅刹(ラセツ)となり、道なき道を()(ひら)け!



そんな胸に去来する感傷と、燃え上がり始めた熱意の合間にも、脳は冷静に、そして的確に、最新鋭にして最高難易度の術式構文(スペル)を準備。



―― 莫大な術式を、あまりにも多大で冗長(じょうちょう)で複雑な術式を、構築開始。


何度も、非現実的で実用に()えない、と諦めた。

そして、何度も何度も思い直し、『それでも』と再度試作(トライ)した。



(そう、まるで『格闘ゲーム(オマエ)』と出会ったばかりの、初めてのあの頃(・・・)のように……っ!)



そして、つい先日、仮完成までこぎ着けた。

秘術的魔法(オリジナル・スペル)の極限にして、俺の奥義!



「―― ……なん……だ?

 な、な、何なんだ、それは!

 貴様は、お前は、いったい何者なんだ!

 何故、我ら<御三家(ごさんけ)>が<精剣(せいけん)流>の前に立ち(ふさ)がるぅ!?」



―― ィィィィイイイ……ィン!と異音が鳴り始めれば、さすがにこの鈍感なアホ魔剣士も異常に気付いたらしい。



俺は、フッと笑って答える。



「さっきも言ったハズだが、聞いてなかったのか?

 剣帝ルドルフ=ノヴモートの2人いる弟子の内で ――

 ―― 出来の(・・・)悪い方(・・・)だよ!」



当流派(ウチ)妹弟子(リアちゃん)が、きっと1万年に1人の超絶天才児なんで、比べて(おと)るのは仕方ないね!



「そして、『黒ずくめ(おまえら)』が!

 俺の大事な妹ちゃん(アゼリア)の周りを、ウロチョロウロチョロ、目障(めざわ)りに出てくるから!

 ―― お仕置きだぁ!」



さあ、当代最強の2番手(・・・)として、伝説を始めよう ――





▲ ▽ ▲ ▽



俺の右横には、10の<法輪(リング)>がある。

10の魔力文字の円形が、全部で1個の『大きな円形』を(えが)くように、配置されている。


『大きな円形』の一番外側の(そう)外円部(がいえんぶ)には、6の<法輪(リング)>。

2個で1対が3セットの、合計6個の<法輪(リング)>だ。


これは、今から(はな)つ『奥義』の下準備。

そんな補助術式が、ひとつ内側の(そう)にある、3個の<法輪(リング)>を順番に青く染めていく。



―― そう、青い魔力光の『死神(ししん)加護(かご)』だ。

その青い<法輪(リング)>3個が、2層目(そうめ)中円部(ちゅうえんぶ)



ィィィィイイイ……ィン! ――

  ィィィィイイイ……ィン! ――

    ィィィィイイイ……ィン! ――



3重の魔力過剰充填(オーバークロック)重奏音(じゅそうおん)は、もはや爆音の域。


そして、この青い(・・)3個(・・)()法輪(・・)()、最後1個の<法輪(リング)>を ――

 ―― つまり、 『大きな円形』の中央部に座する中核(・・)術式(・・)を、『戦略級魔法』の強大な性能(チカラ)をもって加工(・・)するのだ。



「―― ×××××××××!!?

 ―― ×××! ××××××××××××!!」



いつの間にか白い鉄兜(ヘルム)を脱いだ女性騎士(アイリーン)が、何か必死に叫んでいるが、まるで声が聞こえない。


まあ、今さら謝ろうが、改心して自首しようが、聞いてやる気もないが。


あと、真っ青な顔と震える唇、そして逃げずに(とど)まっているのは、さっきの石壁に叩きつけられたダメージが、まだ抜けてないだけ。

多分、まだ、まともに歩けもしないハズ。



だから(・・・)、こんな時間のかかりすぎる『奥義』を用意できるワケで。

 ―― やっぱり、術式をもう一度見直して、簡略化・高速化・効率化をもうちょっとヤらないと、実戦使用できないな、奥義(コレ)



そんな内心の反省も、そこそこ。



―― ヴゥオンッ!と魔法の術式が(かな)でる騒音が、さらに低く重くやか(・・)ましく(・・・)変化した。



チラリと右横を見ると、10の<法輪(リング)>の内9個は、既に役目を終えて消え去っている。


残るは、ただ1個の<法輪(リング)>。

まるで(・・・)闇夜(・・)()様な(・・)深い紫色。


とても人間(・・)()魔力光(・・・)とは(・・)思え(・・)ない(・・)『異常な魔力』 ――

 ―― そう、<副都>郊外(こうがい)の村で共闘したAA級(ダブル・エー)冒険者『人食いの怪物(マン・イーター)』の#1(リーダー)が使ってた、『破滅(・・)()魔力(・・)』!



―― ヴォヴォヴォヴォヴォ……!と大型バイクの排気音100倍にした様な、クソやかましい騒音。



「ついに完成! これが俺のぉ ――」



あまりの大騒音に、俺自身が叫び上げる声さえも、自分の耳に届かない程だ。


しかし、それでも構わず、口上を()べる。

これが、俺の所信表明 ―― つまり、魂からの『決意の言葉』だから!



―― これが!


―― 一撃で、逆境を覆す!

―― 一撃で、強敵を沈める!


―― 必殺技を超えた、必殺技!



深い紫色の<法輪(リング)>を宿す、右手。

左腰の愛剣・模造剣(ラセツ丸)に、()える。



「すなわち、超・必殺技だぁぁ!!!!」



叫びと共に、(さや)から一気に引き抜き、振り上げる。

つまり、前世ニッポンの最速剣技・抜刀術のような挙動。


小剣(ショート)>の居合(いあい)()きで、『暗黒色の三日月(飛ぶ斬撃)』を放つ。



「―― ××!? ××××××!!」



標的は ―― 女性騎士(アイリーン)は引きつった顔で、何か叫んだ。


しかし、0.5(コンマご)秒以下で迫る闇色の遠距離攻撃に、なんとか防御を間に合わせる。

さっきまで杖代わりだった金色剣身の高級<正剣>(フォーマル)で、正面の斬撃を受け止める構え。



―― だが、全くのムダ。

これは『最速にして最強』()する(・・)べく(・・)、俺が苦心を重ねた奥義(ワザ)



破滅(・・)()魔力(・・)』が上げる大爆音が支配して、ある意味で全く音のない静寂(せいじゃく)と同義になった無音世界で、赤が鮮烈に()いた。



そして爆音が消えると、水道管の破れたような、バシュゥ~~~……!という音。



<精剣流>本家の女性騎士・アイリーン=カンマジェムは、蒼白を超えて(ろう)のような顔色。


盾代わりにした金色<正剣>(フォーマル)は、『暗黒色の三日月(みかづき)』が両断。

さらに、そのまま鎧を貫通。

左の鎖骨と左胸が、スッパリ斬り裂かれている。


その、左肩首(かたくび)あたりの傷から、大量に血を吹き上げて、やがて止まる。



「ぁ……、ぁぁ……、ぁっ!」



糸の切れた操り人形のように、グシャリとへたり(・・・)込む。

そして、全く動かなくなる。



「―― これが、俺の奥義の試作(・・)

 【秘剣・三日月(みかづき)極ノ太刀(きわみのたち)闇月神(ツクヨミ)】!」



俺の宣告と、パチン……!と模造剣(ナマクラ)を納剣する音だけが、闘技場(コロシアム)メイン会場に響いた。


!作者注釈!


2025/02/05 敵の技名変更「逆巻き赤霆」→「逆巻き雷霆」

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― 新着の感想 ―
明けましておめでとうございます。 今年も宜しくお願いしますm(_ _)m ハイペースな投稿ありがとうございます。 これは私達のお年玉でしょうか?ありがたや~ありがたや~(‐人‐) アラサーさんが侍…
更新お疲れ様です。 ……あ、あれ?大丈夫?オバサンこれタヒんでねーか? ロック、超必を編み出してテンションがマキシマムレベルシューッ!になるのは理解できるんだけど、ちゃんと手加減した? 途中でロック…
かっけぇぇえええええええ!
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