202:極ノ太刀
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
<帝都>の目玉施設・闘技場のメイン会場に砂煙が立ちこめる。
その上空で『赤い閃光』が爆発したら、キャーキャー、ワーワーと観客席は大騒ぎ。
―― 『お、落ち着いてください! 皆さんっ』
―― 『大丈夫です! 慌てないでください!』
―― 『ここは<帝都>の中心地で、皇帝陛下のお膝元です!』
―― 『帝室親衛隊の精鋭騎士が!』
―― 『<帝国八流派>から選び抜かれた、特級魔剣士が警備しています!』
―― 『まずは席を立たずに、落ち着いて!』
―― 『危険があれば、すぐに係員が誘導しますので!』
―― 『まずは、落ち着いて! 自分の席に戻って!!』
まるで砂嵐のような視界になった、メイン会場。
パニックになって席を立ち、出入口へ詰めかける観客。
拡声器の<魔導具>の大音量が、何度も制止を呼びかける。
―― 『大丈夫です! たった今! 大会運営側からの報告が入りました!』
―― 『イベント演出の最中にトラブルがあった模様です ――』
―― 『―― ですが! 既に! 会場に居合わせた<御三家>の親衛隊騎士が!』
―― 『<精剣流>本家が! この非常事態の収拾していますっ!!』
砂煙のど真ん中で、そんな大音量アナウンスを聞きながら、女性騎士はため息。
「終わったか……。
まさか『未強化』の敵相手に、竜種を殺す絶技『逆巻き雷霆』まで、使わされるとは……」
そして、ようやく立ち上がる。
しかし、その足取りは、まだフラフラしている。
「……しかし、『翡翠領の魔物の大侵攻』で活躍した『未強化の剣士』 ――
―― あの剣帝が育て上げた、練武千年の結晶に匹敵する異才『竜殺の剣士』。
あのバカげた流言飛語、あながち嘘でもなかったのか……?」
15mという高所からの落下は、超級の【身体強化】魔法で強化した『剛力型』の魔剣士でもこたえたらしい。
高級そうな金色剣身の<正剣>を地面に突き立て、杖代わりにして『なんとか立っている』というお疲れの様子だ。
「じゃあ、そろそろ続きを始めて、良いか? ――」
「―― 何ィ~~~ッ!?」
俺が声をかけると、やたらとビックリされちゃう。
砂嵐みたいな悪視界の中、センサー魔法【序の四段目:風鈴眼】で様子をうかがって、相手が体勢を整えるまで待ってたんだが……。
(……もしかして、この女性騎士、俺を見失ってたの?
こんな砂煙くらいで?
どんだけ『魔力式の気配察知』ショボイの?)
お前らそんなんじゃ、<ラピス山地>より山奥の<アルビオン山脈>原産『性悪イタチ魔物』とかに、狩られちゃうよ?
水と風の複合魔法で姿を消して襲いかかる、とか。
『仲間の人間の幻像』で気を引いてダマし討ち、とか。
アイツらイタチ魔物って、クソみたいに性質が悪いからな?
(※ なお、ウチのカワイイお姫様のお姿を穢したゲス魔物どもは、兄弟子の怒りで群れ15匹まるごと滅殺されました。南無三)
―― まあ、そんなムダ話はともかく。
(コレはさすがに、ちょっと論外……)
相手の女がザコすぎて、呆れ果てた
「クッ……う、嘘だ!
『逆巻き雷霆』だぞ!
正真正銘の、『竜種殺しの撃剣』だぞ!?
先祖が200年前の南方大陸で飛竜の首を落とした、我が<精剣流>の絶技中の絶技がぁ!! ――」
本気で予想外だったらしい。
相手は、軽くパニック状態。
「―― ハッ!? そうか!
つまり、さっきの幻像魔法みたいな、幻惑で逃れたのか!?」
さらには、マジで俺の位置が解らんらしく、キョロキョロ探し始める。
(……というか、この砂煙ってさぁ。
さっき、貴女自身が『赤い閃光』付き斬撃で巻き上げた、目隠しの煙幕ですよねぇ……?(呆れ笑い))
ため息と、呆れ声が出ちゃう。
「……おいおい」
なんだよ~、こっちはヒマつぶしに模造剣<小剣>をクルクル回しながら、立ち上がるのを待ってたのに。
しかも、そろそろ例の『特殊な身体強化魔法』の効果時間が切れそうだから、気をつかって、早めに決闘再開の声かけしたのに。
(……もしかして、さっきの空中攻撃で、決着したつもりだった?)
つまり『いえぇ~い!あのオマカ野郎ブッ殺してやったわ~!』とか勘違いして、マジで気を抜いてワケ?
(え、マジで?
この女、そんな低レベルなアホなの?)
魔物とかアレだぞ、『魔法を使う人食いの怪物』なんだぞ。
アイツら、知能いいから、死んだふりして油断したら背中からガブリ!とか普通にだまし討ちしてくるんだぞ。
なんかもう、『魔力式の気配察知』がどうとか言う以前の問題じゃね?
いわゆる『残心』の心構えとか知らんのか、アイリーンさんお前よぉ。
(―― 剣術Lvや『腕輪』は立派でも、肝心の心構えや実戦経験はボロボロ……)
それが、あの『細目ニヤケ男』が言ってた、『帝都の魔剣士は貴族気取りの道場剣術でクサっとる』ってワケね。
うはは、はぁ~……(呆れて笑う気にならん件について)
「もう、いいや……。
とりあえず、死なないように全力で防御しろよ?」
「―― ゥ……ッ、くぅ……ッ!!?」
女性騎士が構えるのを待って、さっきから色々調整してた新・試作技を雑発動!
相手の構えた『金色の高価そうな剣』に向かって、ダッシュ刺突の形で保留玉を解放してみる。
そう!
さっき空中でくらった、『飛竜の首がどうとか~』という技の威力を吸収して、そのままお返しだ。
―― 『無事、大会会場にもぐりこんだ不審者は排除されています!』
―― 『繰り返します、係員をよそおい破壊工作をくわだてた不審者は ――』
そんな、会場アナウンスをさえぎり ――
―― ズドオオォォォォ~~~……ォン!!と響く爆音と、『赤い閃光』!
▲ ▽ ▲ ▽
重装甲の女性騎士は、砂煙をブチ破る!!
さらに、一直線に真横へ吹っ飛んでいき、客席下の石壁に激突!?
それでも勢いは衰えず、バァ~ン!とハデに3~4mは跳ね返った!?!?
(やべぇ! このアラサー死んじゃった!?
予想以上に威力調整が難しいぞ、この<精剣流>奥義!?)
「……ぃッ、ぃひ……ッ、ひぃ……いぃッ」
―― 【朗報!】女性騎士さん切れ切れの呼吸でなんとか身を起こす【祝☆生還】
(よかったぁぁ~~!!
アブないところだった!
あやうく殺人前科1犯になっちゃう所だったぜぇ~)
兄弟子、ホッとする。
すると、相手にキッと睨まれちゃう。
「な・ん・な・ん・だァ、キサマはァ~ッ、ホントにィッッッ!!?
なぁ! さっきからやる事なす事! 全部おかしいよなぁ!?」
「―― …………」
いや、だからスマンって。
いい歳で半泣きになるなよ。
初めて、<精剣流>の流派の奥義使ったから火力加減が解んなかっただけ。
(―― いや~、しかし、いい術式構文を見せてもらったなぁ。
何回見ても仕組みが全く解らん『解読不能技術』だけど、取りあえず『作動する』からいいやっ)
猫背で右足を上げる『例のポーズ』で指さし『確認』しておく。
そして念のため、もう一度、動作確認。
ちょうど良く、そろそろ砂煙が晴れてきて、見晴らしがよくなった頃だし。
「こうやって、攻撃魔法を自分に撃って ――」
俺は、そうひとり言を言いながら『チ・チリン!』と2重自力詠唱。
右手から【滑翔】で2mくらい強制移動させた<法輪>が、遅延発動。
ズドン!と衝撃波の下級魔法【撃衝角】が発動して、俺を攻撃。
「―― こうやって『吸収』と!」
即座に、魔法陣のある背後から灯火色の数十個の『火の粉』を、左手の手の平に集める。
すると、攻撃魔法の衝撃波を吸収して、『火の粉』が真っ赤に色が変わる。
「そして、こうかッ!?」
オレンジから赤へと変色した『火の粉』を、俺自身の全身に付着させて解放。
ボン……ッ!と砂が舞い上がる程の、爆発加速で駆け出し、勢いのままにジグザクに壁面を登って行く。
周りから見れば、まるで『赤い雷光』みたいにジグザグに、縦横無尽に駆け抜けた感じだろう。
(ウッハ~~~!
『印』1個でこの速度かよ!
『印3個』で使えば【五行剣:火】以上の加速力じゃない!? コレ!!)
なんかテンションの上がった俺は、ついでとばかりに闘技場の壁際にある、『変な男の巨大石像』まで駆け上る。
そのまま石像の頭頂から超・ジャンプ。
クルッと回って、高度30mから華麗に着地!
着地から一拍おいて、シュゥ~……ゥ、カキン☆と愛剣・模造剣を納剣。
「フン……。 また、つまらぬ物を斬ってしまったっ」
前世ニッポンのアニメキャラ、男の子みんな大好き『斬●剣の人』のモノマネだ!
その瞬間、ドドドドドォ~……ン!と俺の背後で、『変な男の巨大石像』がコマ切れになって崩れ落ちる。
(―― 決まったぁぁぁぁ!!
今年のモノマネ大賞! ナマクラ剣士ロック君の優勝です!!)
……あ、思いがけず砂ぼこりが舞い上がったから、ちょっと掃除しとこ。
高度30mからの着地の衝撃を『吸収』した分で、フン!と一発。
―― よし、OK。
ボン!と『赤い閃光』の破裂で、またメイン会場に舞い上がった砂ぼこりが、キレイに吹っ飛んだ。
▲ ▽ ▲ ▽
高級そうな金色<正剣>を、砂地の地面に突き刺して、杖代わり。
プルプルした足腰で、なんとか立っている。
そんな、クソザコ女性騎士が、口だけ元気よく吠え始めた。
「だぁ・かぁ・らぁ!!
他流派の秘術的魔法をぉ!!
なんで即・模倣できるんだよ、お前はぁぁぁ!!!」
「……それは、まあ。
あれだけ何回も目の前で見せられていれば、それは、誰でも……ねえ?」
「しかも何だ、今のあの動きはぁ!
魔剣士でもないガキが! 初めて使う【超級・身体強化】を、難なく使いこなすぅ!?
ハァ~~~!? ふざけるな!
その一つ下の【特級・身体強化】を使いこなすのに、十何年の訓練が必要と思っているんだぁ!」
(何言ってんのコイツ……)
超・天才児の妹弟子なんて、4~5歳から修行始めて、10歳くらいに免許皆伝になってますよ? キラッ☆(超銀河級のアイドル仕草)
(単に、オメーらの努力と真剣度が足りないだけじゃね?)
この赤髪の女性騎士、なんかさっきからこんな感じ。
手の平返すみたいに、急に『特許侵害ですよ、訴えます!』みたいな事を言い出した。
キミも、親父さんも、手下の黒ずくめ連中も、今日何回も散々見せつけてきたでしょ?
どうしたアイリーンちゃん(笑)、神童ルカみたいな難くせ(呆)を言い始めるの止めてちょうだい。
そして、お前らいっぺん『特許』の意味を調べてこい。
(あのなぁ、『特許』ってのはなぁ。
『独占技術で他人がマネしたらダメ』って事じゃねーんだよ)
むしろ、みんなに積極的にマネしてもらって、開発者がガバガバ特許料もらう制度なんだよ。
つまり、新技術を広めると同時に、ガンバった本人に報いるのが、『特許』の趣旨。
もっとかみ砕くと、こんな感じ。
―― 新しい良い物作ったら、コッソリ隠さず、みんなに教えてね、って事。
―― それが本当に役立つ物なら、ドンドンみんなマネしていこう、って事。
(だから、前世ニッポンの1990年代後半から2000年代前半までの約10年間、新時代を切り拓いた『格闘ゲーム』は隆盛したんだ……)
格ゲー以前の2人プレイとは、『協力プレイ』の事だった。
それを、『プレイヤー同士で勝負する』という形に変えた、斬新なゲーム設計。
これにより、『ゲームを難しくしてゲームオーバーを連発、コンテニューをうながして収益を上げる』というゲームセンター衰退の要素を大きく減ずる事ができた。
60秒×3ラウンド=3分間という、短期間で決着するシステムのため、客の回転率が高い。
また、負けた相手がリベンジしてくる事で、稼働率が上がる。
だから、ゲームセンター運営側も大きな収益を見込める。
ヒマつぶしに、ダラダラ遊ぶだけじゃない。
不良や落第生や、サボりの社会人がたむろするだけのうらびれた場所に、一気に人口が流入して盛り場になった。
友達、常連、上級者、そういった相手に勝つため、自分の技術を研鑽する。
すばらしい熱狂と挑戦、汗と涙の日々だった。
対戦と、勝利と、敗北と、栄光と、屈辱と、傲慢と、卑屈と、練習と、対策と、研究と、戦略があった。
―― まさに『e-スポーツ』!!!
(と言っても、現代ニッポンのスマホばかりな若者はこの用語も知らんだろうなぁ……。
スマン、時代に取り残された老害がする、つまらない懐古だった(苦笑))
ああ、我が趣味よ。
闘争の時代をかけぬけた、我が生涯の趣味よ。
一時は世界を席巻する炎と燃え上がり、すでに燃え尽き、やがて消えゆく、残り火よ。
俺は『格闘ゲーム』を、せめて看取ってやりたかった。
その最後の火が消え去るその時まで、一緒に居てやりたかった。
それだけが、この孤独で哀れな男ができうる、唯一の恩返しだった。
俺は、『格闘ゲーム』という無二の存在がいてくれたお陰で、人生に絶望せずにすんだ。
その感謝を、何か形にして返してやりたかった。
しかし、そんな想いも叶わぬままに死去。
ならば、是非もない。
(ならば、せめて、この新たに生を受けた異世界で!
『格闘ゲーム』の面影と共に生きよう!)
すでに前世ニッポンでは、忘れ去られた存在だろう。
過去の遺物として、一部のマニアしか知らぬ骨董品と成り果てているのだろう。
わずかに残った我が同志たちが細々とプレイを続けるだけの、やがては歴史の波間に消え去る残滓なのだろう。
(この異世界に、『格闘ゲーム』の存在を刻みつけてやろう!!)
いつかの日の、妹弟子の言葉が思い出される。
―― 10年先には『最強の剣士』と呼ばれ
―― 後世に『魔剣士の中興の祖』として崇められる
やがては、前世ニッポンの歴史から消え去るハズの『格闘ゲーム』を残せるのであれば。
俺は、『そういう者』になりたい。
(―― いや、違う……っ)
そんな弱気を、首を振って否定。
(俺は、今この時より『そういう者』に成るのだっ!!)
自己に渇を入れ、胸の奥に火を付ける。
肉体も魂も烈火と燃やせ、俺自身よ!
今より、闘争の修羅になり、殺戮の羅刹となり、道なき道を斬り拓け!
そんな胸に去来する感傷と、燃え上がり始めた熱意の合間にも、脳は冷静に、そして的確に、最新鋭にして最高難易度の術式構文を準備。
―― 莫大な術式を、あまりにも多大で冗長で複雑な術式を、構築開始。
何度も、非現実的で実用に耐えない、と諦めた。
そして、何度も何度も思い直し、『それでも』と再度試作した。
(そう、まるで『格闘ゲーム』と出会ったばかりの、初めてのあの頃のように……っ!)
そして、つい先日、仮完成までこぎ着けた。
秘術的魔法の極限にして、俺の奥義!
「―― ……なん……だ?
な、な、何なんだ、それは!
貴様は、お前は、いったい何者なんだ!
何故、我ら<御三家>が<精剣流>の前に立ち塞がるぅ!?」
―― ィィィィイイイ……ィン!と異音が鳴り始めれば、さすがにこの鈍感なアホ魔剣士も異常に気付いたらしい。
俺は、フッと笑って答える。
「さっきも言ったハズだが、聞いてなかったのか?
剣帝ルドルフ=ノヴモートの2人いる弟子の内で ――
―― 出来の悪い方だよ!」
当流派の妹弟子が、きっと1万年に1人の超絶天才児なんで、比べて劣るのは仕方ないね!
「そして、『黒ずくめ』が!
俺の大事な妹ちゃんの周りを、ウロチョロウロチョロ、目障りに出てくるから!
―― お仕置きだぁ!」
さあ、当代最強の2番手として、伝説を始めよう ――
▲ ▽ ▲ ▽
俺の右横には、10の<法輪>がある。
10の魔力文字の円形が、全部で1個の『大きな円形』を描くように、配置されている。
『大きな円形』の一番外側の層・外円部には、6の<法輪>。
2個で1対が3セットの、合計6個の<法輪>だ。
これは、今から放つ『奥義』の下準備。
そんな補助術式が、ひとつ内側の層にある、3個の<法輪>を順番に青く染めていく。
―― そう、青い魔力光の『死神の加護』だ。
その青い<法輪>3個が、2層目の中円部。
ィィィィイイイ……ィン! ――
ィィィィイイイ……ィン! ――
ィィィィイイイ……ィン! ――
3重の魔力過剰充填の重奏音は、もはや爆音の域。
そして、この青い3個の<法輪>で、最後1個の<法輪>を ――
―― つまり、 『大きな円形』の中央部に座する中核術式を、『戦略級魔法』の強大な性能をもって加工するのだ。
「―― ×××××××××!!?
―― ×××! ××××××××××××!!」
いつの間にか白い鉄兜を脱いだ女性騎士が、何か必死に叫んでいるが、まるで声が聞こえない。
まあ、今さら謝ろうが、改心して自首しようが、聞いてやる気もないが。
あと、真っ青な顔と震える唇、そして逃げずに留まっているのは、さっきの石壁に叩きつけられたダメージが、まだ抜けてないだけ。
多分、まだ、まともに歩けもしないハズ。
(だから、こんな時間のかかりすぎる『奥義』を用意できるワケで。
―― やっぱり、術式をもう一度見直して、簡略化・高速化・効率化をもうちょっとヤらないと、実戦使用できないな、奥義)
そんな内心の反省も、そこそこ。
―― ヴゥオンッ!と魔法の術式が奏でる騒音が、さらに低く重くやかましく変化した。
チラリと右横を見ると、10の<法輪>の内9個は、既に役目を終えて消え去っている。
残るは、ただ1個の<法輪>。
まるで闇夜の様な深い紫色。
とても人間の魔力光とは思えない『異常な魔力』 ――
―― そう、<副都>郊外の村で共闘したAA級冒険者『人食いの怪物』の#1が使ってた、『破滅の魔力』!
―― ヴォヴォヴォヴォヴォ……!と大型バイクの排気音100倍にした様な、クソやかましい騒音。
「ついに完成! これが俺のぉ ――」
あまりの大騒音に、俺自身が叫び上げる声さえも、自分の耳に届かない程だ。
しかし、それでも構わず、口上を述べる。
これが、俺の所信表明 ―― つまり、魂からの『決意の言葉』だから!
―― これが!
―― 一撃で、逆境を覆す!
―― 一撃で、強敵を沈める!
―― 必殺技を超えた、必殺技!
深い紫色の<法輪>を宿す、右手。
左腰の愛剣・模造剣に、添える。
「すなわち、超・必殺技だぁぁ!!!!」
叫びと共に、鞘から一気に引き抜き、振り上げる。
つまり、前世ニッポンの最速剣技・抜刀術のような挙動。
<小剣>の居合抜きで、『暗黒色の三日月』を放つ。
「―― ××!? ××××××!!」
標的は ―― 女性騎士は引きつった顔で、何か叫んだ。
しかし、0.5秒以下で迫る闇色の遠距離攻撃に、なんとか防御を間に合わせる。
さっきまで杖代わりだった金色剣身の高級<正剣>で、正面の斬撃を受け止める構え。
―― だが、全くのムダ。
これは『最速にして最強』とするべく、俺が苦心を重ねた奥義。
『破滅の魔力』が上げる大爆音が支配して、ある意味で全く音のない静寂と同義になった無音世界で、赤が鮮烈に裂いた。
そして爆音が消えると、水道管の破れたような、バシュゥ~~~……!という音。
<精剣流>本家の女性騎士・アイリーン=カンマジェムは、蒼白を超えて蝋のような顔色。
盾代わりにした金色<正剣>は、『暗黒色の三日月』が両断。
さらに、そのまま鎧を貫通。
左の鎖骨と左胸が、スッパリ斬り裂かれている。
その、左肩首あたりの傷から、大量に血を吹き上げて、やがて止まる。
「ぁ……、ぁぁ……、ぁっ!」
糸の切れた操り人形のように、グシャリとへたり込む。
そして、全く動かなくなる。
「―― これが、俺の奥義の試作。
【秘剣・三日月:極ノ太刀・闇月神】!」
俺の宣告と、パチン……!と模造剣を納剣する音だけが、闘技場メイン会場に響いた。
!作者注釈!
2025/02/05 敵の技名変更「逆巻き赤霆」→「逆巻き雷霆」




