02:秒でさじ投げられた10の頃
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
今回『道場やぶり』した経緯の前に、ちょっと過去の話をしようと思う。
俺が転生ホヤホヤだった、幼少期あたりからだ。
── 今世の故郷は、帝国の東北部の端にある田舎の寒村。
俺の異世界転生のスタート地点だ。
(ちなみに、前世ニッポンの頃は……
……まあ、なんか、シティボーイだった気がする)
歩行者天国とかねり歩いたり、帰宅中のゲーセン通いが日課だったり、休日は秋葉原で中古ゲームやPCパーツ買いあさったり。
前世ニッポンではビルとアスファルトに囲まれた生活で、こんな緑いっぱいな環境ではなかった。
そして、さらに言うと、前世の死因がよくわからん。
まあ、独身貴族(古ぅッ、もう死語かこれ?)なサラリーマンだったから、不摂生がたたって、泥酔したまま永眠しちゃったんだろう。
あるいは、寝ている間に大地震か火事でアパートごと☆お終い☆か、どっちかだろう。
── ともかく今世は、ファンタジーな異世界。
「となれば、冒険するっきゃない!」
「冒険者とかになって、魔法を使ったりドラゴンとか退治してやんよっ」
「あと、エルフ嫁がぜひ欲しい!!」
まあ、そういう将来を夢想するくらいしか娯楽がない、田舎の村だったんだ。
だから毎日、全力で剣術の訓練だ。
(格闘ゲームも、マンガも、PCも、携帯電話も、ネット回線も……
当然のように何もないしな、この異世界……)
だから正直、やる事がないし、楽しみもない。
それが、前世インドア派だった俺が、体育会系みたいな事をしている主な理由。
いわば『ヒマをもてあました中年が筋肉トレーニングにハマる』という例のアレ。
いわゆる『大人の中二病』だ。
(しかし、俺がそんな健康志向に目覚めたら、それはそれで邪魔が入るという……
もうね、出だしからクソだな、この異世界って……っ)
近所の子どもたちにバカにされ、大人たちにはゲンコツくらう、そんな毎日。
村の子どもの役目である川魚養殖(養殖池のエサやりと、大口ガエルの駆除)なんて、いつもサボってたし。
父親とかに「何の役にも立たない物なんかやめろ」と素振り用の木の枝を取り上げられるのも、しょっちゅうだった。
「そのくらいじゃへこたれんけどなっ、俺!」
朝から晩まで、ヘトヘトになるまで特訓だ。
だが、そもそも生まれ故郷(もちろん異世界の方)は、魔物に襲われない安全地帯。
バカみたいにデカい、村の守り神がいる。
四つん這いで歩いていて、フツーに森の木々から『頭が出る』くらいだ。
そんな超巨大なイモリ?サンショウウオ?の縄張りに、共存状態で人間が住んでいる村なのだ。
巨大サンショウウオ?は縄張りを見回りして、魔物から村人を守る。
村人は、守り神さまに感謝のあかしとして、養殖川魚を冬でも奉納。
そういうWin-Winな関係が、長らく続いている。
人食い魔物がウヨウヨいるファンタジー世界というのに、安全地帯すぎて村人みんな平和ボケしているくらいだ。
『あんなチビが剣術とか、ププッ』
『村を出て魔物を退治って……おいおい、正気か?』
『そういうの、守り神さまに勝てるようになってからなっ』
『あの子ったら、ホントおかしいんだからっ』
そんな小バカにする目を、ずっと向けられてきた。
「── ちくしょー、負けるかっ
せっかくファンタジー転生なんだ!
カッコイイ超必殺技を身につけてやる! 絶対に!!」
さらに意地になって、剣術のひとり訓練に没頭。
そして、親父に頭にゲンコツされて、木の枝を取り上げられる毎日。
▲ ▽ ▲ ▽
そんな俺のガンバりを認めてくれたのが、ある日村にやってきたジジイ ── 俺の剣術の元・師匠だ。
まあ、『元・師匠』の理由は、もうちょっと待ってくれ。後で話す。
ともあれ、この高身長の総白髪ジイさんは、死んだ祖父さんの弟。
帝都で有名になった、スゴ腕の魔剣士らしい。
「── 魔剣士!?」
「ああ、魔法と剣を使いこなし、魔物と戦う最前線の戦士じゃよ」
そのステキな響きに惹かれて、ジジイに弟子入り!
ジジイも死ぬ前に後継者育成と、ガッツのある子どもを探していたらしい。
── なんという、運命的な出会い!?
── アタイ、ガラスの靴はいて舞踏会!
── なんてステキな、一発逆転の勝ち組人生!?
そんな『のぼせ』方をした俺は、
── イヂワル継母はん、お姉はん!
── 男オイドンのジャマせんで欲しいでごわす、チェストぉーッ!
と、なかば強引に故郷と家族にバイバイ。
故郷から遠く離れた大自然の山小屋で、ジジイと山ごもり生活を始めた。
それが確か、転生人生の6歳の頃。
―― そして、元プロの指導者の下で、厳しい基礎トレーニングを続ける事、3年と数ヶ月。
ちょうど、雪解け前の頃。
俺の10歳の誕生日。
「お主には、ワシが教えてやれる事はなにもない……」
ジジイから、くそ遠回しな『戦力外通告』を受けることになった。
▲ ▽ ▲ ▽
「おい、ちょっと待てよ、師匠ぉ!?」
普通ならお師匠様から『教える事はなにもない』って言われるとか、免許皆伝のお知らせ。
つまり『奥義や極意も伝授しましたよ』って事だ。
しかし、残念。
ボクちん、まだ10しゃい。
まだ全然、魔剣士の『マ』の字も教えてもらってない、見習いのお子ちゃまなんだが。
―― これはアレか?
―― 『このガキ、ここまで育ててみたけど、今ひとつ芽がでねえな』って事か!?
―― 『これ以上コイツ鍛えても時間のムダかな?』って諦めかぁ!?
異世界転生者なため成人並みに察しのいい俺には、こうピンときたワケだ。
秒で、サジ投げんなよ!
なに途中で諦めてんだよ!
一度始めた事を投げんなって、最後までガンバレって!
「師匠なら、出来る出来る!
絶対に、やれるやれる!
もっと師匠自身を信じろよ!
すべては師匠の気持ちの問題だって!
師匠、もっと熱くなれよ!?」
だから、最後まで責任もって弟子を育てろって!!
―― 大丈夫だって、師匠のコーチング、抜群に上手いからっ
―― 自分でも、これ以上なく成長とか上達とか実感してるから!
―― 俺自身も『10歳でこれとか、ひょっとして剣術の達人になっちゃうんじゃね?』とか
―― 自惚れすら有るから!
そんな熱意のこもった、俺の説得。
しかし、ジジイは首を振る。
もちろん、ノーの方だ。
「お主には、ワシが教えてやれる事はなにもない……
お主は、お主の思うままに、剣の道を征くがよい」
いや、『征くがよい(キリッ)』じゃねえがな!
そういう、『大事な事なので2回言いました』みたいなのは要らんのだよ!?
しばらくジジイと押し問答するが、話は平行線。
しかも、ジジイ、なんか修行場を引き払って下山するような準備まで始めやがる。
▲ ▽ ▲ ▽
(―― これは、やっぱりアレだよな?
この半年前くらいに元師匠が『魔剣士の技を見せる』とか言った時の、俺の反応が悪かったせいだよな?)
心当たりがあるとすれば、それくらい。
今また、こうやって『過去を回想』しつつ考えてみるが……。
やはり、それらしい理由は、他に思い浮かばない。
(でも、仕方ないよな。
だって『魔剣士』なんだぜ?
『魔法』と『剣』の融合とか絶対、超ハデな必殺技に決まってるだろ?)
剣から炎が出る、とか
光の剣が無数に現れる、とか
分身して同時攻撃、とか
斬撃が剣から飛ぶ、とか
そんな、スタイぃリッシュぅッ!で、エクセレぇントぉッ!な『必殺技』を期待してたのに。
単なる 『強化をかけて魔物が死ぬまで攻撃』 とか。
(そんなクソ地味な光景を見せられても……なあ。
ひと昔前のオンラインRPGのオートプレイ・モードかよ……?)
まあ、強化かけた身体能力はスゴかったけど。
今こうやって、改めて思い出しても、やっぱ地味だな。
――「し、師匠、剣から炎とか出ないの?」
――「金属は高熱を帯びると痛む」
――「光の剣がズパパパパ、とか」
――「攻撃魔法でもなかなか聞かん」
――「ぶ、分身して攻撃、とか……」
――「幻影をつくる魔法はあるが、攻撃は無理じゃ」
――「斬撃を、ハアッ、って感じで飛ばして、遠くの物を斬ったり」
――「……言っている意味がよく分からん。
――「剣無く物が斬れるなら、剣など要らぬだろ?」
――「…………し、師匠……」
ロ マ ン が な い !
絶望した!
そんな現実に絶望した!
そう、元師匠が見せた『魔剣士の技』があまりに地味過ぎて、幼心ながらに愕然としたワケだ。
かくしてクソ異世界に絶望した俺は、夜な夜な、こっそり魔術の式をいじり始めた。
『格闘ゲームの必殺技とか奥義とか、カッコイイ技をなんとか再現できないか?』
それはもはや、この異世界に転生してしまった『少年の心を持つ男子の至上命題』と言っても良い!
▲ ▽ ▲ ▽
いまさらな話だが、俺の前世は事務系サラリーマン。
デジタル音痴世代の上司の代わりに、エクセルやらアクセスやらいじくり回すのが仕事だった。
前任者が気まぐれに作った、データ参照を張りまくりの計算表!
制作者本人も覚えてない、意図不明な謎関数やら謎マクロ!!
『あー、それ? なんでしたっけー……まあ、適当にこなして!』
── 『フレキシブルに!』じゃねえよ!?
── 具体的に指示をくれ、前任者!!
相手のいい加減な『引き継ぎ』を思い出すたびに、そんな怒りの突っ込みが湧き上がる。
果たしてゴミなのか、あるいは資源なのか。
細かな分別作業が必要なデータの山に頭を抱え、ひとり徹夜した(他の連中は戦力外)のは一度や二度ではない。
── やめろ、変なオート実行処理とか入れるな!
── 逆クリック禁止とか解除が面倒な設定するな!
── 同じようなデータを10個も20個もつくるな!
── 社内ネットワークに個人名のフォルダを残すな!
そんな記憶が思い出されると、途端にブワッと変な汗がいっぱい出る。
▲ ▽ ▲ ▽
── と、ともかく。
毎晩セッセといじくり回して気づいたが、魔法には『術式』とでもいうべき法則性がある。
なんか解らん文字の群をいじくり回して、改良する手管には、それなりの自信があった。
(そもそも、前世いい歳のオッサンだった俺とか、パソコンとか授業で習わない世代だったし。
当時の英語の辞典にも和訳が書いてないパソコン用のヘンテコ英語とか、独学が基本だったし……)
例えばぁ、
―― 『ウイザードを開始します、って……。 え、何が魔法使い?』
―― 『マスター&スレイブって……。 ご主人と奴隷って……新宿2丁目か? SM嬢とお客なのか?』
みたいな言葉が一杯だからなぁ……。
毎月、分厚いパソ通(古っ!?)雑誌買って必死に覚えた世代なワケだ。
そういう前世ニッポンの若かりし頃を思い出し、懐かしい気分にさえなった。
ありがたい事に、魔法を独学する資料は揃っていた。
ジジイの蔵書に、高価そうな表装の『魔導の手引き書』っぽいのがあったし。
生活用品としての<魔導具>も、まあまあ参考になった。
山小屋(我が家)にあった<魔導具>や『魔導の手引き書』を参考にして、色々と試作。
実際に魔法を使ってみて効果を確かめたり。
色んな魔法を組み合わせてみたり。
理想の必殺技に近づけるため、魔法の術式を改造してみたり。
そんな試行錯誤の日々が3~4ヶ月くらい、だったかな?
(……そういえば、なんか色々トラブルもあったな)
――「ぎゃあああああ! 手が、手が! 燃えちゃう!」
――「ど、どうしたロック! 右手が火だるまっ!?」
――「さては、料理の最中に調理油でもこぼしたか!」
――「ししょー、助けてぇ、ししょーぉ……っ!」
――「火炎魔法を手で握りしめたらカッコイイかな、とか思ったら……っ こ、こんな……っ」
――「………………」(元師匠、偏頭痛のポーズ)
――「俺はただ『へへ、燃えたろ?』ってやりたかっただけなのにぃ……うぅっ」
――「……ハァ……」(元師匠、ため息ついて天井を見上げる)
――「は、はやくぅ……、はやくたしゅけてぇ……っ」(右手が大ヤケドの俺、めっちゃ涙目)
……なんか、とんでもない大失敗も脳裏によみがえったが。
(熟練したヨガ達人なら口から火炎でも平気なのに。
マジでこの異世界ってクソだな、魔法あるくせに。
これじゃあ『ファイアー波■拳』とか夢のまた夢じゃん?)
── それはともかく。(2回目)
結局3~4ヶ月くらい、魔導の術式をいじり回したかな。
剣からバシュンと斬撃らしき物を飛ばして、庭の枯れ草くらいは斬れる、遠距離攻撃のオリジナル魔法。
そんなのを何とか作り上げて、ジジイに自慢げに披露したワケである。
「…………これを、お主が……?」
「どうよ、スゲーだろ?」
「……………………」
「いや、師匠。なんか言って……」
「……………………………………」
── ジジイ、以下無言。
なんとも言えないような、しかめっ面をされた。
それまでの『魔法改造☆大失敗』でもここまでない、スゴイしかめっ面だった。
例えば、前世ニッポンの人間国宝くらいの厳格な伝統工芸職人に、
『この萌え絵で作品作って!』
ってアニメキャラのイラストみせたら、こういう顔になるかもしれない。
今思えば、あの時点で失望されたのだろう。
つまり『あー、このバカガキに伝統と匠の技を継ぐとか無理だわ』みたいな感じ?
ジジイ、それから毎日考え事してたし。
剣術の組み手の後とか、いつも手も足もでないジジイの背中が、なんか小さく見えた。
── それから約3ヶ月後の10歳誕生日に、前述のくそ遠回しな『戦力外通告』を受けたワケだ。
やっぱり思い返すと、この辺りが原因だな、うん。
▲ ▽ ▲ ▽
そして新たな転機は、俺の10歳の誕生日(さっきの『戦力外通告』)から2週間くらいか。
ジジイが、下山のために身辺整理を終える頃。
── 思いがけず、妹弟子が出来た。
!作者注釈!
2022/04/26 訂正。ちょっと説明とか、回想とか、時間経過とか解りやすく変更
2022/09/05 ちょっと説明の追加。
2023/06/18 ちょっと説明の追加。
2025/05/26 過去の失敗エピソード追加