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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 8.5:特設ステージ(ボス戦)

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199:ディ・スペル

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




この異世界の剣術には、『練剣(れんけん)修法(しゅうほう)』ってのがある。



まずは、剣の柄を両手で握り、切っ先を天に向けて構える。

よく見る、騎士の立礼のポーズだ。


その状態で、訓練相手と向きあい、1.5m以下に距離を詰める。

お互いが手を伸ばせば届く、至近距離(・・・・)だ。


そこで(・・・)、両(ひじ)を脇で固定し、前腕(ぜんわん)と手首だけで剣を振る。

まるで拳で殴り合うかのように、至近距離で剣と剣をぶつけ合う。



肩の働きが、力強さを生む ――

(ひじ)の働きが、素早さを生む ――

手首の働きが、鋭さを生む ――

 ―― 特に対人戦でも求められる『素早さ』『鋭さ』を鍛える訓練。



衝突時(インパクト)の握りが甘かったら、刃が跳ね返って自分を斬る。

あるいは腕が疲れて剣速が鈍ったら、相手に斬られる。


速さ、力加減、粘り、気力、胆力、正確さ、相手の呼吸を読んで合わせる感覚 ――

 ―― シンプルな修行法ながら、対人(・・)剣術(・・)に必要なほとんどが詰まっている。



だから、初心者から上級者まで毎日やる、日課的な訓練だ。

少なくとも帝国内では、<帝国八流派>のどこにでも有るような、基礎的な訓練らしい。



(―― だから、だ)



この『練剣(れんけん)修法(しゅうほう)』をやってみれば、相手の剣術Lv(ぎりょう)が解る。

こうやって剣を合わせれば、体格によらない『剣の腕』が明らかになる。



―― つまり、俺の構えは『(さそ)い』であり、『剣の腕でも比べてみようか?』という種類の挑発だったワケだ。


当然(・・)、<御三家>が<精剣流>副当主ともあろう者が、公衆の面前で格下(・・)から(・・)(いど)まれて、尻尾を巻いて逃げるワケにはいかない。



(剣術Lv70手前……?

 まあまあ(・・・・)、かな?)



ギンギンギンギンギン……ッ!と、金属の衝突音が響く中、生ぬるく目を細める。



1年前の俺なら、

―― 「剣術Lv70、だとぉ!?」

―― 「腰痛時(弱体化)剣帝(ジジイ)並みかよ!!」

とか、ビビリ散らかしてたかもしれない。


剣術Lv60をようやく超えてきたくらいで、得意になってた頃の俺だ。

+Lv10くらい上手(うわて)の相手に、「予想外アワワワ……ッ」してたかもしれない。



(しかし、俺もここ半年くらいで、色々と経験したからなっ(得意顔(ドヤァッ)))



『金ぴか爪のナントカ騎士(ナイト)』(実質的に弱体ジジイ(Lv70)並み)やら。

『変な仮面の女仙人(バイトリーダー)』(拳術Lv70~80)やら。

封剣流本家(リアちゃんち)の妖怪ジジイ』(剣術Lv80超)やら。


さすがは<帝都(トカイ)>、人外(バケモノ)だらけでイヤになる。



(しかし、この相手(オッサン)

 怒りっぽいというか、感情の制御がヘタというか……

 技量以外のところが問題だなぁ~)



結構な技量があるハズのに、力任(ちからまか)せで(あら)っぽい。


なんというか、当流派(ウチ)剣帝(ジジイ)なら

―― 「精神の乱れが剣筋にでているぞっ」

とか、お説教しそうな感じ。



見るからに鼻息が荒く、いかにも、

―― 『カッコ良く撃ち負かそう』

―― 『誰が見ても解るように圧倒してやろう』

そういう邪念がムダな(りき)みになり、剣の衝突圧(インパクト)を過剰にしている。

すると、その分だけ、剣を引き(・・)戻す(・・)動きが遅れる。


小さな過剰(オーバー)と、小さな修正(フォロー)が、積もり積もって中年男(ポーリック)自身の足を引っ張っている。

剣を制御するだけで精一杯(せいいっぱい)になり、余力(よりょく)がなくなっていく。


まったく、(すき)だらけだ。



この中年男の状況を、簡単に一言でまとめると、

格下(ザコ)()めプしたらピンチ!』

みたいな醜態(しゅうたい)だ。



(んじゃ、そろそろ終わらせるかァ~……)



ギンギンギンギンギン……ッ!と、単調な衝突音の途中に、急に変則行動(トリック) ――

 ―― シャァ……ン!と俺の模造剣(ラセツ丸)の上を滑らせ、相手の<正剣>(フォーマル)受け(・・)流し(・・)


跳ね返されるハズが、いきなりスッポ抜けて、相手の体勢が崩れる。

その瞬間、回転させた模造(ナマクラ)小剣(ショート)>の柄頭(つかがしら)を、下から跳ね上げる。


ゴツン!と骨を叩く感触。



「―― クゥ……!?」



相手の手から<正剣>(フォーマル)が飛んでいく ――


 ―― しかし、その瞬間、俺の視界が回転した。





▲ ▽ ▲ ▽



(―― ハハッ、さすがは達人の魔剣士、か……)



さすがは剛剣(パワー)の<精剣流>。


俺が、相手の片手首を打って<正剣(エモノ)>を奪う ――

 ―― それに対して、即座に無手での反撃が来た。



さっき、中年男(ポーリック)は打撃を受けていない片手で、俺の奥襟(おくえり)をつかみ、投げ技をかけてきたワケだ。



「―― カァ~~ッ!!」



前世ニッポンのジュードーで言えば、『一本(いっぽん)背負(ぜお)い』のような体勢。

しかも『投げ飛ばす』のではなく、『地面に叩きつける』投げ技。


高く吊り上げて、高所から落とす ――

大きく()(えが)いた軌道(きどう)で、遠心力を強める ――

 ―― 石の地面に叩きつけられれば『骨折か、脱臼(だっきゅう)か』という、一撃で制圧する投げ技だ。



「……フッ」



だが、俺もまだまだ終わらない。

こんな時のための、必殺技。

こんな時のための、指輪に偽装した待機状態(スタンバイ)の魔法。


薬指(ハヤブサ)の<法輪(リング)>を解放(リリース)で、即座に自力詠唱(『チリン!』)

投げ技で石段に叩きつけられす寸前に、相手の腕を両手で(つか)む。

抱き込むようにガッチリと固定(ロック)



「ブッ飛べっ」「な、何ぃッ」



雑改造した必殺技(マホウ)を使って、相手ごと空中スピン。

グルグルグルと竜巻みたいに回転して、遠心力で相手を逆に投げ飛ばす。



「―― ガッ……ハッ

 この! バケモノめ!!」



屈強な中年男が石段に落下すれば、ドスン!ドサン!と砂袋のような重い音が響いた。



「うるせー!

 『未強化(なまみ)』で石段転がりまくって無事な野郎(ヤロー)に、バケモノ言われる筋合いねーぞ!」


「グォ……!」



追い打ちのプロレス式両足蹴り(ドロップキック)をたたき込む。



(ってか、全然こたえてねーな、コイツ。

 うわー、『剛力型(パワー)』魔剣士の達人クラス(Lv70)って高耐久(タフネス)過ぎて、かなり面倒(メンド)クセーのか?)



俺のドロップキック直撃でふらつき、石段をさらに2段・3段と降りた中年男(ポーリック)

だけど何か、今ひとつ有効打になった感触がない。



(『未強化(なまみ)』でコレなら、【特級・身体強化】魔法とか使われると、かなり厄介に ――)



俺が考え込んで動きが止まった瞬間、後ろから『カン!』と機巧発動(ギミック)の音。

男同士の熱い肉体言語(パッション)(?)を邪魔するように、女性の声が割り込んだ。



「―― 父上、助太刀します!」



女性魔剣士が、【身体強化】魔法を発動させて突撃してくる。

重鈍な『剛力型(パワー)』でも、特級となればそこそこ(・・・・)速力(スピード)が出るらしい。


まあ、でも上級か中級の『疾駆型(スピード)』くらいか?



「伝統ある武闘大会を(けが)す、(ぞく)がぁぁぁ!」


「…………っ」

(―― しかし!)



俺は、慌てずオリジナル魔法を自力詠唱(『チリン!』)



超級(・・)の身体強化魔法『五行剣』を使う妹弟子(アゼリア)剣帝(ジジイ)と手合わせしてる俺に、その程度(・・・・)攻撃(モン)()くワケない(得意顔(ドヤァッ)))



(あめ)ェよ! ――」「―― な、何ぃ!?」



背後からの突進斬りを、ギリギリまで引きつけて、横に()ける。

そして同時に、剣を振り下ろす腕と突進する背中に触れて、投げ技補助【序の三段目:(なが)れ】の効果を発動。

攻撃の勢いを縦回転に変換・暴走させてやる。



「ぅ、ぅわわああぁぁ~~!」



ゴロゴロゴロォ~~……!と石階段を転げ落ちる、女性騎士。

全身鎧の人間車輪が、助けようとしていた親父殿(ポーリック)へ直撃した。


重装甲の騎士で、女性とはいえ180cm超の上背となれば、総重量120kgくらい。

ほぼ『人間大の丸太が落下して直撃』みたいな感じなんだが ――



「―― ガァ……!?」


「いや、『ガァ』の一言で済ますなよっ。

 頑丈(タフ)過ぎだろだろ、お前ぇ!」



そのまま娘と一緒に吹っ飛んでおかしくないのに。

何でこのクソ中年は、全身鎧の体当たり食らっておいて、フラついたくらいで済んでるんですかね?



(<封剣(ふうけん)流>から派生した『剣帝流(ウチ)』は、どっちかというと『疾駆型(スピード)()り。

 屈強さが取り柄の『剛力型(パワー)』が相手だと、どうも相性がわるいな……っ)



たしか『魔剣士の三すくみ』だったけ?

ほら、『剛力型(パワー)疾駆型(スピード)(まさ)る』とかいうアレ。



(【身体強化】魔法を使われたら厄介だ。

 このまま、速攻でたたみかける……ッ)



さっき、超・偉い人の前で調子に乗って、

―― 『OKッス! あのヤロー、俺が首に縄つけて捕まえま~す!』

とか安請(やすう)()いしておいて、無様に大失敗とかシャレにならん!!



「おらぁっ!」


「クゥ、このガキが……っ」



まずは、スラディング式足払いで転倒させる。

次に、うつ伏せダウン状態の背中を、片足で踏みつけて動きを封じる。

それから、腕輪型<魔導具>(マジックアイテム)のついた左腕をもう片足で踏みつけて、【特級・身体強化】魔法の発動も封じる。


(とど)めに、相手(ヤロー)の首に鉄弦(ワイヤー)をグルグルにして、両手で引っ張り()め上げる。



「グァ……ァッ、……アッ!」



中年男(ポーリック)は、自由の利く片手だけで鉄弦(ワイヤー)を外そうとするが、ムダ。

首にめり込んで締まる鋼鉄の細線(イト)は、どうにもならない。


次に、右手を後ろに回して俺の足を(つか)もうとジタバタするが、肩甲骨(けんこうこつ)の間までには手が回るハズもない。



「―― ふぅ……ッ!」


(早く落ちろ、このクソ中年!)



やがて窒息寸前で、真っ赤な顔が徐々に紫色になっていく、<精剣流>副当主。


だが、そんな中年男(ポーリック)の、気絶寸前で震える右手が、複雑に動く。

そして、なにか呪文を唱えるように、あるいは数え歌を歌うように、唇が言葉を刻む。




―― 『チリン!(・・・・)』と、自力詠唱(キャスト)の音が鳴った。





▲ ▽ ▲ ▽



―― 次に鳴った、ビィイン!という耳慣れない音は、鉄弦(ワイヤー)断末魔(だんまつま)


中年男(ポーリック)は、特級魔剣士の超人腕力で鋼鉄の細線(イト)引き(・・)ちぎり(・・・)、一気に跳ね起きた。



小童(こわっぱ)がぁぁ!!」



振り向きざまに<精剣流>副当主が振り上げたのは、なんの皮肉か『木製の(さや)』。


昨日の妹弟子(アゼリア)の試合を見ては、

『あんな小細工(こざいく)、黄金世代の面汚(ツラよご)し』

と小馬鹿にした男が、全く(・・)同じ(・・)様な(・・)手段(・・)をする。


つまり、『木製の(さや)』を特殊な(・・・)魔法効果(・・・・)で強化(・・・)しての、攻撃!


さらに言えば、さっきの黒ずくめ(・・・・)達と(・・)まるで(・・・)同じ(・・)攻撃だ。



―― ズドォォン!と、赤い閃光と破裂音。


俺はギリギリで避けたが、問題はその後。


空振りした『(さや)』は、そのまま闘技場(コロシアム)の通路を強撃。

『木製の(さや)』は木っ端微塵だが、床材(ゆかざい)の白い石も粉々に砕ける ――

 ―― そして、木と石(ソレら)の破片が散弾と飛ぶ。



「―― チィ……ッ、おいおいっ!?」


(コイツ、最悪だっ

 関係ない観客の人たちを、()()えにしやがった!!)



舌打ちして、回避の途中でムリヤリ体勢を変更。

一応は俺も、『人命優先(カツジンケン)な魔剣士流派・剣帝流』なワケで。


自分の背後や周辺の人に被害がいかないように、簡易バリアのオリジナル魔法【序の二段目:()り】と模造剣(ナマクラ)の防御で、カカカカン!と石片を弾いて守った。


だが、通路の反対側の観客までは、さすがに手が回らない。

流血して倒れている人がチラホラ居る。



「クソ……!

 見境なしかよ、コイツっ」


「―― ハッ!

 所詮(しょせん)は、辺境の魔物退治なんぞ(・・・)に、うつつ(・・・)を抜かした『剣帝』の流派か!?

 平民の命なんぞが()しいかよ!」



中年男(ポーリック)は、さっきの俺の行動(背後の観客をかばった事)を見て、ニタリッと意地悪く笑う。

そして、落ちていた拳骨(こぶし)(だい)の石片を、片手で拾いあげて、ゴリッ!と鳴らす。


―― 直後、バッ!と投げ放ったのは、砂と小石の()くら(・・)まし(・・)



(片手の握力だけで、石が粉々になるのかよ……!?

 特級 ―― いや、超級(・・)の『剛力型(パワー)』ってトンでもないなっ)



握力が1トン(・・)くらいあるのかもしれない。

トン(・・)でもない握力だけに!(独笑い(ププッ!)



<精剣流>副当主が、舞い上がった砂の煙幕(ベール)を引き裂き、素手で襲いかかってくる。



「愚かなり『剣帝流』!

 有象無象(うぞうむぞう)草民(くさたみ)(かば)って、無為(むい)に死ねぇぇぇえ!」


「クソッ ―― ハァ!」



一瞬で至近距離に入られ、剣の間合いを(つぶ)される。

まるで、トラかオオカミが押し倒してくるような、肉食獣の強襲だ。


俺は即座に、至近距離のカウンターに切り替える。

右拳を回転(スクリュー)拳打(パンチ)するように、模造剣の逆端・柄頭で殴りつける。



「フンッ ――」「―― ……!?」



しかし、硬い!

ガツ……!と鳴った音も、手応えも異常。

(あご)を金属で打ち抜いたのに、微動だにしない。



(―― おいっ、コイツの身体(カラダ)って金属で出てきんのかよ!?

 いくら<御三家>の『剛力型(パワー)』って言っても、限度(・・)があるだろ!)



もしかして『無敵チート』ですか!?

そういうの()めてください、卑怯ですよ!

正々堂々、みんな楽しくゲーセン対決(アーケード)を!



「フハハッ、無駄だぁ!

 これが! <精剣(せいけん)流>直系だけに伝えられる、奥義『廻精(かいせい)撃剣(けん)』!」



そんな弱気な内心を読まれたのか、相手は俺の両肩をつかみながら、勝ち誇る。



「特級を()えた超級(・・)の『剛力型(パワー)』の恐ろしさ!

 五体を素手で解体されながら、思い知るがいい!」


「……グ、ァ……アッ!」



中年男(ポーリック)は、超人の握力で、俺の両肩を圧迫。

ピキ……ピキ……ッ!と、左右の骨がイヤな音を立てる。



「これで貴様も ――」「―― 間に合った!」



相手が、殺戮(さつりく)愉悦(ゆえつ)瞳孔(どうこう)を広げ、歓喜(かんき)(よだれ)()らした瞬間。


俺は、用意していた特殊(・・)()魔法(・・)を『チリン!』と自力詠唱(キャスト)する ――

 ―― 対象を(・・・)相手に(・・・)指定(・・)して(・・)



「ディスペル・エンチャント!」



俺の言葉に合わせて、パリン……!と、薄いガラスが割れる音。

精剣(せいけん)流>副当主・ポーリックの背後に浮いていた、赤い魔法陣が砕け散る。


―― そして代わりに、ドス黒いモヤのような不吉な紋様(もんよう)が浮かび上がった。





▲ ▽ ▲ ▽



「―― なっ……、なぁ……ッ、なんだとぉ!?」



一瞬前まで勝ち誇っていた中年男(ポーリック)の、血相が変わる。



「フン……ッ」



俺が(・・)簡単に(・・・)相手の(・・・)両手を(・・・)引き(・・)剥が(・・)した(・・)から(・・)


魔剣士<御三家>の『剛力型(パワー)』、<精剣(せいけん)流>の特殊な【身体強化】魔法。

素手で人体を解体できるような超・剛力(ごうりき)を、まさか『未強化(なまみ)』で破られるとは思ってなかったのだろう。



「ハッ ――」「バ、バカ、なぁ ―― ガァ……ッ」



驚きすぎて(すき)だらけな<封剣流>副当主の顔面に、俺の裏拳が炸裂。



「セリャ! ――」「クッ……、このガキぃ ―― ゴ、ォ……オッ」



顔面を押さえて悶絶(もんぜつ)している中年男(ポーリック)に、膝蹴(ひざげ)りの追撃。


キレイに胴の急所(ミゾオチ)に入り、息を()まらせて崩れ落ちる。



「ォフッ……ェフ……ゲフゥ!

 バ、バカなァ……、何故こんな、ゲホッ、簡単にぃ……!?」


「魔剣士だろうが、【身体強化】魔法が使えなければ普通(タダ)人間(ヒト) ――

 ―― つまり、そういう事だ」


「な、なにをぉ……。

 フゥ、ハァ……、何を言っている、貴様ぁっ」



<封剣流>副当主は、片膝(かたひざ)ついたまま見上げてくる。



「そのご自慢の秘術的魔法(オリジナル・スペル)は、だいぶんお蔵入(くらい)りしてたんだろうな……。

 ちゃんと一度は専門家 ―― 宮廷魔導師だか、魔法技工士(マジック・クラフター)だか ―― に、見てもらった方がいいぜ?

 『妨害対策(セキュリティ)』がガバガバ過ぎて、『悪い事(ハッキング)』し放題だ」


『警備』(セキュリティ)……? 『切断』(ハッキング)……?

 いったい、何の話だぁ!」



察しの悪い中年男(ポーリック)に、わかりやすく『手品』の種明(たねあ)かし。



「つまり、<精剣流(オマエ)>の奥義とかいう【身体強化】魔法を、上書き(・・・)したんだよ」


「―― はぁ~~ッ!?

 何を、そんな、……あり得ん!」



そう、【身体強化】魔法には、『後で使った方で上書きされる』という特性がある。

多分、何回か話したと思うけど。


この特性を悪用(・・)すると、敵対者(アイテ)の【身体強化】魔法を弱める(・・・)事ができるワケだ。

もちろん、この異世界では、そんな事は『周知の事実』で『常識問題』。

だから当然、普通の【身体強化】魔法は、『個人適合(パラメーター)』という個人に合わせた調整の際に『妨害対策(セキュリティ)』が組み込まれている。



(まあ、前世ニッポンで例えるなら『PC(パソコン)のパスワード』みたいなモンかな)



悪意のある第三者(アイテ)にイジくられないために、重要かつ当然の『備え』(セキュリティ)だ。

―― そう、あくまで普通の(・・・)身体強化(・・・・)魔法(・・)は。



(門外不出、一族直系限定、部外秘情報、閲覧厳禁 ――

 ―― そんな規則(キマリ)のせいで、『妨害対策(セキュリティ)』がガバガバのまま放置されてきたんだろうなぁ……)



言うなれば、『パスワード:00000000(ゼロを8かい)』の初期状態みたいな感じ。

慣れた(・・・)人間(・・)なら、すぐに突破できてしまうガバガバっぷり。



―― そもそも、『身体強化魔法を上書き(ハッキング)』なんて古典的すぎる。


元々は【身体強化】魔法は、軍人の魔法使いが兵士相手にダース単位でまとめて掛けていた『効果ビミョーな補助魔法(バッファ)』。

つまり、本来は外部(・・)から(・・)干渉(・・)できる(・・・)魔法。

そういう魔法の歴史を知ってれば、誰でも思いつくイタズラ(・・・・)だ。


だから現代では(あ、もちろんこの異世界の現代、ね)、当然のように対策されまくって、今さら『誰もやらないムダ作戦』。


だから ―― そんな現状だからこそ ―― 逆に(・・)、今までこんな『致命的な欠陥(セキュリティ・ホール)』が放置されてきたんだろう。



(なんか、『家宝の名剣を大事に大事にしまってたら、(くら)の中でサビてました』って感じだなぁ……)



兄弟子(にいちゃん)、残念な気持ちになっちゃう。





▲ ▽ ▲ ▽



いかん、ちょっと考え事でボーッとしてしまった。


なにせ、相手の動きがクソ(トロ)い。

必死に逃げようとしているけど、歩いて追いつけそう。

ノタ……ノタ……ノタ……ッ、と腰の悪い老人みたいな速度だ。


ポーリックは、さすがは魔剣士の名門<精剣(せいけん)流>副当主だけあって、半分白髪(しらが)になるような年齢(トシ)でも、鍛えまくった筋肉質巨漢(ガッチリ・マッチョ)


そんなダンディ中年が、キビキビ動いていたさっきとは、エラい違いだ。



(なんか、『初めてのホッカイドー旅行で雪滑り(スキー)やった次の日の俺』みたいだなぁ……)



あ、もちろん前世ニッポンの頃の思い出ね?


ヨロヨロな中年男(ポーリック)は、カツカツカツ……と俺が近づく足音に気付き、慌てて駆け出そうとして ――

 ―― そのまま足を絡ませて、ドサン……ッと無様に転んで()つん()い。



「カラダがぁ……いう事を……きかんっ

 呼吸すら、ままなら、ん……ゼェ……ゼェッ」



中年男(ポーリック)は、戦闘で消耗したとしても、ヘロヘロすぎる疲労具合(ヘバりかた)

さすがに『おかしい』と気付いたらしく、首だけ振り返ってニラみ付けてくる。



「この、手足に(かせ)()けられたような、強烈な負荷…… ――

 ―― ……まさか!?

 これが<封剣(ふうけん)流>の奥義、『封魔(ふうま)撃剣(けん)』かァッ!?」


「その伝聞(はなし)をヒントに、俺が(・・)テキトー(・・・・)()でっち(・・・)上げた(・・・)、【身体弱化(・・)】魔法だよ」



さっきも説明したが、『身体強化魔法には、後から発動した身体強化魔法で上書きできる』という特性がある。

この『上書き特性』を悪用して、『弱体化』という動きを制限する負荷(ハンデ)の魔法を、強制付与してやったワケだ。



「あ、ありえん……っ

 最新鋭の研究をする宮廷魔導師すら、そんな真似ができるハズもないっ」


「悪いが、俺も一応は【五行剣(ごぎょうけん)】の『剣帝流』でね。

 【身体強化】魔法のアレコレじゃ、他に負けねー自信があるんだよっ」



―― 兄弟子(にいちゃん)自流派(ウチ)秘術的魔法(オリジナル・スペル)を改良する係の人だから!



俺はそんな話をしながら、自力詠唱(『チリン!』)

身体強化(パワーアップ)のオリジナル魔法【序の二段目:()し】だ。


そして、猫の子をぶら下げるように、中年男(ポーリック)襟首(えりくび)をつかみズルズルと引きずる。



(あ、『ズルズル(・・・・)と引きずる(・・)』 ――

 ―― いかん、こんな! 不意打ちでぇっ(内心爆笑い(プ、ププゥ~ッ)))



「なんだァ……っ

 何を、何を笑っている、貴様ぁ~~!?」


「―― ……フッ、~~~~ァッ、ク……ゥっ」



俺が、不意に笑いのツボに入り、笑いをこらえていると、何か勘違いされたらしい。

半分白髪の中年が、涙目で必死に暴れる。


俺は、肩を振るわせながら(※注意:必死にダジャレを耐えてるだけ)、黙って進む。

観客席の中段最前列は、バルコニーのように飛び出した形状になっている。


そして、下段最前列と違って電流の流れる鉄網(フェンス)がない、見晴らしの良い先端(そこ)に立って、片手を突き出す。



「このぉ、は、離せぇ……っ クソぉ!」



ジタバタと暴れる身長190cmの巨漢(ポーリック)を、空中に突き出すように。

身長140cmの男児(オレ)が、片手で吊り下げたままの状態で。



「―― ……『人を守る事が使命』の魔剣士が。

 関係ない観客(ニンゲン)を、ワザワザぁ、巻き込みやがってぇ……っ!」



ようやく笑いの発作が収まる。

そして、怒りが、にじみ出す。


―― 『ママ! ママァ! しっかりしてっ』

―― 『ぃ、痛い……、痛いよぉ~、お父さんっ』

―― 『大丈夫だ、すぐに治療室に! だから意識をしっかりもてっ』

―― 『あ~ん! あんぁん! うわぁあ~~~ん』

そんな(・・・)、さっきクソ外道(コイツ)が情け容赦なく()()えにした、罪のない人々の声。


格下(オレ)格上(コイツ)を相手に『冷静に戦闘を進める』ため、あえて(・・・)意識から遮断(シャットアウト)していた悲鳴(モノ)が、いまだに遠い客席で響いているから。



「……なんか。

 さっき、随分とエラそうな事を言ってたな、オマエぇ?」



―― 『この国を800年支えてきた武門の重鎮』?

―― 『(もと)・王都の三剣(さんけん)』?



「ハッ、笑わせるな。

 弱い人間を平気で踏みにじるような、クソ野郎がぁぁ!」


「な……、に……、をぉ……!?」



片手で(つる)した相手に、もう片手を()える。

再度、自力詠唱(『チリン!』)身体強化(パワーアップ)を時間延長しながら。



「テメーはきっと、生まれた時から恵まれた図体と家柄で、弱い者や恵まれない者の痛みを知らんのだな?

 せっかくの機会だ。

 全力で(あらが)っても手も足もでなくて、泣き寝入りするしかない ――」


「ン~~! ゥンン!!」



小男(オレ)が、首を絞める。

巨漢(アイテ)が、必死に爪を立てる。


しかし、【身体強化】魔法と【身体弱化(・・)】魔法で、能力差が逆転した状況では、わずかにも揺るがない。



「―― そんな弱い立場の、無力な悔しさって心痛(モノ)を、味わってみやがれ!」


「~~~~ッ!? ~~~~~~~~……ッ!!」



御三家(ごさんけ)>が<精剣(せいけん)流>副当主・ポーリック=カンマジェム。


魔剣士という選ばれた戦士の中で、エリートの中のエリート ――

名門の中の名門、精鋭の中の精鋭 ――

 ―― それが、紫の顔色で呼吸困難の気泡(アワ)まで()いた。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 なるほど…今回のロックのカウンターデバフまでの流れ、『北斗の○』で言うなれば<精剣流>の奥義はカ○オウが最後に使った北斗宗家の拳みたいなオチですね。 あれも余りに内容が極まってた…
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