198:vs精剣流
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
今ちょっと<帝都>の目玉施設・闘技場のメイン会場へ乱入中。
しかも、『武闘大会』の本番中なのに。
なんか込み入った状況なので、経緯を簡単におさらいすると、こんな感じ。
● <帝都>春の名物行事『武闘大会本戦トーナメント』で雑用係
↓
● 大会2日目に金髪貴公子が黒ずくめに囲まれてて、大困惑
↓
● 乱入&場外乱闘して黒ずくめ4人ともボッコボコ
↓
● 知り合いが乱入された後に仇討ち! と対戦台な感じがしてテンション上げ上げ
↓
● VIPな席で騒いでるヤツ、妹弟子の試合にケチつけてたクソ中年男じゃね!?
↓
● 乱入ついでに、アイツもボコボコにしたろ! ←←← 今ココ
(―― アレ……?
……どうしてこうなった?)
思い出すと予定外&予想外すぎる状況で、自分で不思議になる。
そもそも、明らかな殺人未遂が発生してるのに、俺以外は誰も止めに来ないのがおかしい。
不測事態にビシッ!と対応するハズの頼もしい親衛隊の人たちすら、完全放置な状況。
自分で乱入しておいてアレだが
『ん? 本当にコレって演出じゃないよね……?』
とか、何回か首をひねってしまった。
(まあ、黒ずくめ4人の装備はどれも『毒塗り真剣』だったし……。
殺意はガチで間違いないハズだよなぁ……)
少なくとも『安全安心なドッキリ☆で観客盛り上げまショー!』ではないっぽい。
となると何で親衛隊騎士、他人事の顔でボーッと見てるだけなの?
日頃クソ偉そうに、雑用係をコキ使うくせによぉ!
肝心な非常事態にお前ら役立たずじゃねーか!!
(今度、この前みたいに、
―― 「おい平民アレ取ってこい。 ほら早く! チッ、走れよ!」
とかナメた事を言ってきたら、全力でシバき倒すかんな!)
兄弟子、思い出しただけでイラッ☆ときちゃう。
―― そもそも俺なんて、元々は『武闘大会』の裏方。
しかも臨時の補欠で、魔導三院からの出向組。
責任のないお気楽バイトで、ウハウハ臨時収入だったハズなのに。
(なんか気がつけば、『プロレス試合かな?』というカオスな場外乱闘。
……どうしてこうなった?)
そんな事を思い返してながら、客席の間や背もたれを足場に、ピョンピョン移動中。
身体強化のオリジナル魔法【推し】の効果時間10秒以内に、偉い人いっぱいの『VIPボックス席』までたどり着いた。
―― んで、近づきながら騒ぎに聞き耳たてると、<精剣流>副当主とかいう、あの失礼男、何かコソコソ色々言われてる。
要約すると、
『黒ずくめ乱入騒ぎの主犯じゃね?』
『絶対、アイツが黒幕だろ?』
『追求されたからって、キレ散らかして逃げんなよ……』
みたいな感じらしい。
なんかホントに、今からボコっても全然良さそう。
(―― と、なると、だ。
まずは先に道理だけは通しておきますかねー)
見よ、異世界の士官学校の生徒諸君!
君ら『若手』も是非参考にすると良い!
コレが!
俺の!
異世界転生の『恩恵』ォッ ――
―― 『初手、超・エラい人へのご挨拶&根回し』である!
※効果:できない社会人は死ぬ!!(仕事的に)
▲ ▽ ▲ ▽
長円形の闘技場だが、実況席から45度くらい横に円移動した位置に、超偉い人がいっぱいな『VIPボックス席』がある。
まあ前世ニッポンのアナログ時計に例えると、こんな位置関係だ。
時計盤の『12時』のところが実況席。
『3時』のところが、外国の大使っぽい人も居る『VIPボックス席』。
『6時』のところに士官学校の先生とか学園関係の人が居る。
『9時』のところは、豪華な衣装からして貴族とか金持ち連中なんだろう。
さて、そんな『VIPボックス席』に到着して。
敷いてある高級そうな赤絨毯にビビりながら、忍び足して様子を伺う。
宝石とかのアクセサリーじゃらじゃら付けた、超偉そうなオッサンが、『っっっ、ハァー』とクソ重たい溜息。
「―― 我が帝国ゆえの、シュクアだな……」
頭痛が痛いという顔で、なんかムズカしい事を言ってた。
(……なんだよ、その『シュクア』って。)
つまり、コンセサスのクライアントがリスケでコミットなの?
いわゆる、ゴイスーでデーハーなザギンがシースーな感じなの?
経営者とか頭脳労働の人ってさ、『グローバルにアジャスト!』みたいなカタカナ語使いたがるけど、そういうの止めようぜ……。
あ、それとも愛・創作者のホラー小説っぽく、シュク=アとかいう感じなの?
うん、たしかにア=リトル=リトルやら、マザー=トゥースみたいで、実に宇宙恐怖っぽいな。
(いあ、いあ、シュク=ア! いあ、シュク=ア!)
……え、ウソ八百ばらまくなって?
いや、大丈夫だって。
兄弟子、そういうの詳しいんだって。
前世ニッポンでちゃんと、匿名掲示板の創作板とかに投稿されてた『萌え萌え邪神パロディ小説』とか読んでた事あるからっ!
俺、邪神にはちょっと詳しいんだって!!
(そうそう、シュク=アちゃんって娘も、たしか居たって……!!
たしか、あ、ほら! 目隠れ読書少女っぽい触手塊だろぉ、多分んん!?)
そんなうろ覚えな、超・銀河系な『外なる神』談義は、脇に置いて。
―― ともあれ、ぱっと見る感じ、内心で、
『あンのクソオヤジ、マジねーワッ! あ~~ッ腹立つワ~ッ』
な感じらしい、青筋ピキピキしている超・偉い人(多分・帝国皇帝)に声をかけてみる。
「―― よろしい、のですか?」
『…………ッ!?』
予想以上に、ガバッと注目された。
声をかけた皇帝陛下だけじゃなく、周囲の貴族とか他国の大使みたいな偉そうな人たちも、一気にこっちを向いた。
『あ、ヤベ!』とギリギリでしゃがみ込み、片膝立てて頭を下げる『敬礼状態』が間に合った。
ちょっと緊張して裏返りそうになる喉に『んん!』と気合いを入れ、何とか普通の声を出す。
「皇帝陛下の前で、あの様な態度 ――」
そう、あの罪のない下っ端に怒鳴り散らかして帰るような、サイテー態度。
たまに営業マンとかで、掃除のオバチャン・警備のオッサン・受付のネーチャンとかに態度悪いヤツ居るけど、マジで論外だからな?
例え下っ端だろうが『相手先の所属の人』を小バカにするってのは、『相手の会社自体』に失礼するってのと同じ事だからな?
さっき『<精剣流>副当主が警備の兄ちゃんを怒鳴りつけてた』事も、本人に失礼を通り越して、『指示出した』or『雇い主』の皇帝陛下に対する失礼って事になる。
「―― あの下手人に、手痛い罰でもくれてやるべきでは、ございませんでしょうか?(キリッ)」
―― 決 ま っ た !!
いえ~い、勝確!
兄弟子の勝利!!
相手の皇帝陛下も、ニッコリ。
まさに『OK!』とばかりに口元が緩み ――
「―― フッ……何を言い出すと思えば。
わたしは皇帝ではない。
皇太子、つまり、その息子だ」
「!?」
(ファ、ファァァァァ~~~ァッ!!?)
ロック死亡、享年16歳(今世のみカウント)。
死因:恥ずか死。
▲ ▽ ▲ ▽
(―― お……お、OK、大丈夫ダイジョーブ。
まだだまイけるって……っ
ち、小さい! 小さいミスだよ、気にせず挽回して行こう!!)
そう自分に言い聞かせる。
内心、汗ダラダラだが。
(そうニアミスだよニアミス、ギリギリかすっただけ。
というか、もう、社長さんと次期社長とか、ほぼほぼ同じようなモン!)
そんな自己弁論で、精神を落ち着ける。
焦りすぎて、なんか意味不明になってるが。
(ふぅい~、OK!
兄弟子、再起動イきます!)
こちとら『Wind●ws Meかな?』ってくらい惰弱な今世身体で、ヒイコラ言いながら魔物の相手して生きてきたんだよ!
俺の軌道修正力をナメんなよ!
「……失礼。
あまりにも皇帝の座に相応しいご様子でしたので」
「…………ほう?」
そんなお世辞を言うと、さらにご機嫌ナナメに。
え、何故……?
そんな、前世ニッポンから必殺の、
『いや~貫禄がスゴかったから、社長さんかと思いましたよぉ~、アッハッハ~』
で乗り切れないなんて!
(―― 皇太子ちゃん!?
皇太子ちゃんってアレなの?
有能な皇帝にコンプレックスある系な子なの?)
ともかく、この話題は悪手らしい。
早々に話題転換を試みる。
「―― あ、あの!
あの下手人に、手痛い罰でもくれてやるべきでは、ございませんでしょうか?(キリリッ)」
「………………」
2回目。
「あの下手人に、手痛い罰でもくれてやるべきでは、ございませんでしょうか?(キリリリッ)」
「………………………………」
3回目、ゴリ押し戦法だ。
ようやく俺の誠意(?)は伝わったらしい。
「……大貴族にも比肩する武門の重鎮だ。
いったい、なんの罪状で罰する気だ?」
「では、疑惑の者をわざわざ逃がしてやり、証拠隠滅の時間をくれてやると?
あの様に現場から逃げ去るなど、まさに『火付け強盗』そのものではありませんか」
なお、帝国法では『放火魔は問答無用で死罪』である。
マジで倫理観が江戸時代かな?、この異世界。
「……だから捕らえる、と?
フンッ、近衛の騎士ですら、さっきの有り様だぞ。
例えば、今から詰め所に行き、衛兵をかき集めている間にも相手は ――」
「―― それに及びません」
急に変な事言い出したので、慌てて止める。
(おいおい何言ってんだよ、このアホ皇太子ッ。
すぐに衛兵さんに突き出したりしたら、俺がボコる余地がなくなっちゃうでしょがッ!)
マジでお前そういう空気読めん所やぞ。
ヤり手な皇帝にコンプレックス満載の、ポンコツ次期皇帝クン?
「あの程度の輩。
わたくし一人でも充分でしょう」
「……貴様。
魔剣士<御三家>が一つ、<精剣流>副当主・ポーリック=カンマジェムに勝てると申すか?」
「皇太子陛下の『お許し』が、いただけるのであればッ」
兄弟子、いつでもイけますぜ!
つーか、『ポーリック』って言う名前なのか、あのクソ中年。
「――……ハッ。
なら、やってみるが、良い。
もし、本当にできるのならなッ!」
―― 超 偉 い 人 か ら 許 可 Get !!
「じゃ! 首に縄かけて引きずって来ま~す!」
兄弟子、出撃しま~す!
まずは、薬指の指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法輪>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
「【秘剣・速翼:四ノ太刀・夜鳥】ッ」
最速移動のオリジナル魔法で、闘技場の外壁上端40mより上空へ飛び上がる。
『き、消えた!?』『いや、飛翔魔法だ』『あそこに!』『もうあんな場所まで』『なんという速力!』『アルバート様の切り札』『恐ろしい』『猟犬を飼っていらっしゃる』
なんか、偉い人たちがザワザワしてるっぽいが、既に『VIPボックス席』が遠すぎてよく聞こえん。
―― そんな事より、あのクソ中年男だ。
「あ、居た……っ」
ズンズン歩いているオッサンが、まさに出入口のドアへ向かっている。
即座に、また薬指の指輪を高速起動。
今度は、【参ノ太刀・水深】。
つまり、上空からの高速落下、強襲攻撃だ!
▲ ▽ ▲ ▽
その無礼系中年男の近くに居た観客は、ビックリしただろう。
「―― ぬッ!?」
急に、背中から<短剣>を片手で抜いて、ガバッと振り返り、ズンッと斜め上へ突き出したから。
中年男のすぐ後ろに着い来ていた、女騎士さんも『何事!?』とビックリ表情。
―― そこへ、見事にズブッ!と俺が串刺し。
あにでし は しんでしまった!(デデレ~ン♪)
「愚かな、痴れ者めが!」
<精剣流>副当主・ポーリック=カンマジェムは、<正剣>を鞘走らせて跳ね上げる。
俺の首へと留めの一撃が決まった瞬間 ――
―― ッドォン!と破裂音。
「何! ―― ぁ、ガァッ!!」「フッ……!」
『幻像の俺』に仕込んだ衝撃波魔法【撃衝角・劣】が炸裂して、目くらましに。
その瞬間、同時に中年男の背後から『本物の俺』(音もなく着地して潜伏)が急接近。
ズガン!と膝を側面から踏みつけ攻撃。
「ハァッ!」
さらに追撃。
中年男のバランスが崩れた瞬間、猫背で身をひねりながら体当たり ―― 八極拳の防御破壊技『鉄山靠』だ。
上背な剣の達人も、奇襲からの3連撃には体勢を崩す。
「クッ ――」
「―― ち、父上!?」
その転がり落ちそうな中年男を、女騎士さんが慌てて支えに来た。
「まだまだァ! 【撃衝角・劣】」
ズドン!と初級魔法を一発、追撃4連ラスト。
威力と範囲を半減した代わりに、初級魔法並みに簡易化した衝撃波魔法だ。
『俺の怒りが火を噴くぜ!』ならぬ、『衝撃波を吐くぜ!』である。
団子状態で直撃を食らった<精剣流>父娘は、ゴロゴロと石階段を転がり落ちる。
いや、クソ親父の方は途中で体勢を整え、10段か15段くらい下の辺りで、なんとか踏みとどまった。
意外とバランス感覚が半端ないな。
「……クッ
口から魔法、だと。 魔物か貴様ぁッ」
「…………?」
何言ってんの、このオッサン。
そのくらい、ちょっと練習したら誰でも出来るでしょ?
兄弟子、なんなら足の指からでも衝撃波だせるよ?
あんまり意味ないから使わんけど。
あの歴史ある転載画像『ただし魔法は尻から出る』すら再現可能!
まったく意味ないから絶対ヤらないけど。
―― そんな事を頭の片隅で考えながら、模造<小剣>を構えて、石段を降り始める。
まるで、騎士が立礼するようなポーズ。
胸の前で両手で柄を握り、剣の切っ先を天に向ける立ち姿。
「…………」
「―― 小童がぁぁッ! 調子に乗るな!!」
<精剣流>副当主・ポーリックは、ツバを飛ばすような怒りを吐く。
しかし、俺とまったく同じ構えで<正剣>を両手持ちして、石段を上がってくる。
(……なるほど。
魔剣士<御三家>の副当主ってだけあるな……っ!)
格上な達人の立ち姿に、感心の吐息。
すぐに俺と中年男の間合いが、階段9段分・7段分・5段分と2段ずつ狭まる ――
―― そして石段3段の間合いで、ガキンッ!と火花が散る。
彼我距離で1.2m。
高低差では0.6m。
同じ高さで視線がぶつかる。
小柄な俺が、剣身0.4mの<小剣>。
長身の敵が、剣身1.5mの<正剣>。
男2人の間で、模造剣と真剣刃とが激しく打ち合う。
―― 剣士の意地が衝突した。
///////!作者注釈!///////
2024/12/23 最初の方に修正・加筆しました




