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193:武神の申し子

///////!作者注釈!///////


※ 感想欄に関するお詫び:

 わたくし作者自身が、「ラルフ(KOF)」と信じて記載していたキャラクターは、実は「クラーク(KOF)」の勘違いのようでした。

 関係者各位に(特にご迷惑をかけるほどの影響力もありませんが)謹んでお詫び申し上げます。

5分ほど、時間を戻す。



武闘大会2日目の午前中。

そろそろ昼前という事もあり、士官学校3年生のトーナメントは、男女ともにA・B両ブロックの勝者が決定した。


その後に続くのが、魔剣士としての資格(・・)を問う『試練』。

決勝戦へ挑む生徒が、魔物から(・・・・)人々を(・・・)守れるか(・・・・)という実技試験、『魔物退治』だ。



―― 『3年生の優勝候補にして、<御三家(ごさんけ)>黄金世代の一角(いっかく)!』

―― 『<天剣(てんけん)流>が誇る天才児、マァリオ=スカイソード選手、入場!!』



司会進行の黒服が、競技舞台(ステージ)の横で、拡声器(マイク)の音声を響かせる。


先ほどまで生徒同士が闘っていた競技舞台(ステージ)だが、今は四方をぐるりと魔物対策の電流フェンスで囲まれている。

そんな電流の(おり)の中へと、金髪の美男子が颯爽(さっそう)と入っていく。


マァリオ=スカイソードが、観客の声援を一身に受ける姿は、この大会の主役(ヒーロー)といった風格だ。


爽やかな雰囲気と、スラリとした長身、甘い美貌(マスク)

そのため、女性の『キャ~!』とか『がんばって~!』とかの、甲高い声援が特に目立つ。


誰もが、彼の『試練』の突破(クリア)と、決勝戦での活躍を疑ってはいない。



―― そんな華やかな栄光に、影が差した。



ガシャ~~アァ……ァァン!と、ひときわ大きな金属音。

地下からせり上がってきたのは、今までより、一回りも二回りも大きな鉄の(おり)


ズシン……ッと一歩、踏み出す偉容。

不吉な程に、黒々とした巨影。


競技舞台(ステージ)石畳(いしだたみ)の上に、昨日の<羊頭狗(ガク)>よりさらに一回り大きな魔物が姿を現す。



―― 『これはぁ! なんという巨体!』

―― 『さすがは3年生トーナメント大本命と言われる、スカイソード選手!』

―― 『天才児の腕前を見せてみろ!』

―― 『まるで、そう言わんばかりに、魔物退治の試練で特別な相手が用意されているぅ!』



「じょ、冗談でしょ……?

 『河の主』<外骨河馬(ロックイーター)>並みの巨体じゃないかっ」



金髪男子(マァリオ)の声が震える。

甘い美貌(マスク)を引き締めつつ、慌てて構えた剣先も、動揺により定まらない。

言うなれば、『平和な城壁の中で魔物と遭遇した』というような恐慌(パニック)状態。


そのため、ザリッ・ザリッと魔物が前脚の(ひづめ)で石畳をかき、頭突きでぶつかってくる突進攻撃に、わずかに対応が遅れてしまう。



「クゥ……っ」



身を投げ出す回避は、ギリギリだった。

だが確実に、魔物の突進を寸前で回避したはずだった。


しかし、マァリオは石畳を転がった後の体勢から、立ち上がろうとして、立ち上がれず、膝をつく。



まるで、めまいにでも襲われたような様子。



―― 『おおぉ~っと、不意打ちに思わず膝をついた~ァッ!』

―― 『<天剣(てんけん)流>が誇る天才児も、想定外の事態には弱いのかっ!?』



司会進行の黒服が、観客を煽るような声を上げる。



それと同時に、魔物の(・・・)獣毛と(・・・)同色の(・・・)()()がれ落ちる。

暗色(あんしょく)の獣毛の魔物の、(ほろ)()き荷車ほどの巨体の背から、ザザ……ッと降りてくる人影。

それも、2人、3人、4人……と、どれも黒づくめ姿。



魔剣士としての資格を問う、魔物退治の試練。

そこに、暗殺者のような風体が4人、突如として紛れ込んだ。





▲ ▽ ▲ ▽



司会進行の拡声器(マイク)越しの声が、会場に大きく響いた。



―― 『魔物の背中に隠れていた、黒づくめ(・・・・)が、何人も降りてきたッ』

―― 『3人! いや、4人か!? まるで暗殺者のような姿の男たち!』



観客たちは『乱入(それ)』を余興(よきょう)の一種と勘違い(・・・)した。


なにせ、『武闘大会の本戦』だ。

帝国の首都のど真ん中、象徴的施設(ランドマーク)闘技場(コロシアム)で行われる、<帝国(よん)剣号(けんごう)>の選出。

来賓は、国内の領主や有力貴族、隣国・友好国・同盟国より大使レベル、さらには帝室関係者まで。

今日までは、前座である『学生枠トーナメント』だが、すでに多くの観客も()めかけている。


そんな、この大陸東部を代表する『東の覇王』帝国の、国威発揚の一大催し物(イベント)だ。


警備も非常に厳重で、不審者や反対勢力など入り込む隙間もない。



―― 『これは一体、どういう事でしょう!』

―― 『競技舞台(ステージ)では、いったい何が起きているのでしょうか!?』



だから大半の観客は、金髪の美男子をジリジリと包囲する黒装束4人の事を『余興(よきょう)仕掛け人(スタッフ)だろう』と思い込む。


心配そうな目線など、ごくわずか。

それも観客席のご婦人の何割かが、まるで演劇の緊迫シーンを見入るように、口元に手を当てているぐらいだ。

本気で心配している者など、ほとんど居ない。



―― 『<天剣(てんけん)流>当主候補にして、学生枠トーナメント3年生の優勝候補!』

―― 『そんな特別な(・・・)マァリオ=スカイソード選手には、特別な(・・・)試練(・・)でも用意されていたのでしょうか!?』



司会進行の黒服が、競技舞台(ステージ)の横で、場を盛り上げるように拡声器(マイク)がなり(・・・)立てる(・・・)

そんな平常運転な姿が、『現実味を()ぐ』事にひと役かっている。


本当に(・・・)不測の事態(トラブル)であれば、こんなに(・・・・)ノンキに(・・・・)実況・解説をしていないだろう』という、一種の正常化バイアスのような心理も働いてる。



―― 『出てきた魔物もおそろしい大きさ! 巨大なロバのような、未知の魔物です』

―― 『昨年の魔物の大侵攻(モンスターパレード)で、初めてその姿が確認されたとも言われる新種が相手のようですッ』



司会進行の黒服は、何かせわしなく叫びつつけるが、周囲は一向に動かない。

大会運営の役員も、万が一の不測(ふそく)の事態に(そな)えてメインステージの端々(はしばし)に立っている『帝室親衛隊の精鋭』さえも、だ。



そんな周囲の状況に、観客達はいよいよ緊張がほぐれていき、

『となれば、やはりこれは余興の一種に違いない!』

『昨年の2年生も優勝した大本命のマァリオだ、試練も特別なのだろう』

そんな期待の目で、メインステージで行われる出し物に見入る。



さらには、

『それでは、あの片膝ついて苦しそうにするのも、場を盛り上げる演技のひとつか?』

『ハンサムな顔立ちといい、見事な演技といい、魔剣士なんて荒事をさせておくのは惜しいぞ』

『ああ、演劇舞台に立てば、あっという間に人気役者になりそうだ』

そんな呑気(のんき)な談笑さえ聞こえ始める。



あるいは、

『<天剣(てんけん)流>の天才児は多勢に無勢でも簡単に切り抜ける、と見せつけたいのだろう』

『昨日の<封剣(ふうけん)流>の天才児は、恐ろしい魔物を従えてしまったからな』

『なるほど、そういう魔剣士<御三家(ごさんけ)>の流派同士の意地の張り合いか?』

『しかし、未知の魔物だけでも大変なのに、さらに魔剣士4人も相手にするのか』

『まあ、暗殺者役(・・・・)はさすがに門下生で約束組手(やくそくくみて)、いわゆる演武(えんぶ)だろう?』

『なるほど。最初は共闘して魔物を倒し、その後に暗殺者を倒す、という筋書き(シナリオ)か?』

などという、半可通(はんかつう)玄人(くろうと)ぶった観客の、訳知り顔の解説さえも始まる。



―― 観客の誰もが、マァリオ=スカイソードの脂汗が本物で、毒効で唇が青ざめ始めている事にも気づかないまま。





▲ ▽ ▲ ▽



またも、ザリッ・ザリッと魔物が前脚の(ひづめ)で石畳をかく。



「―― クッ」



金髪の美男子・マァリオ=スカイソードが、魔物の突進に警戒して<正剣>(フォーマル)と<短導杖(ワンド)>を構える。



『―― ジャァッ』



と、鋭い呼気が響き、黒い人影が4条となって駆けた。



ビュン! カカッ・ガン! と風斬り音と金属音。

マァリオは、4人の走行剣(ダッシュ斬り)のうち、1撃を避け、2撃を剣で払い、1撃を杖の木柄(きづか)で防いだ。


しかし直後にやってくる、暗色獣毛の魔物の突進までは(かわ)せない。



「チィ……ッ、ァガッ! アッ……ァァッ」



回避のジャンプが遅れ、突進する頭突きにすくい(・・・)上げられる様に、弾き飛ばされる。

空中をコマのように回転して、地面の石畳に叩きつけられ、ゴロゴロと横に転がっていく。



『……さすがは、<天剣(てんけん)流>当主候補』

『飛ばされるのではなく、(みずか)ら飛び、勢いを減衰(コロス)

『さらに、回転で衝撃を転化(てんか)し、ほぼ無傷か……』

『<御三家(ごさんけ)>黄金世代、これほどの才覚か……っ』



黒装束4人は、ギリギリ相手に聞こえる声量で、賞賛の言葉。

自分たちの連係攻撃の後に襲いかかった魔物の攻撃さえもしのぐ(・・・)、魔剣士の天才児に思うところがあったのだろう。


任務のためには私情も誇りも全て捨て去る、暗殺者という闇の者であっても。

思わず、冥土の土産(はなむけ)に賞賛を贈りたくなるほどに。



「実力差が、解ったら……退いて、もらえる、かな?」



唇を真っ青にしたマァリオは、祈るような心地でつぶやくが、当然のように返事は否定。



笑止(しょうし)

『その命、もらいうける』

(ひと)りの黄泉路ではない、我らも道連れ』

『武術談義に花でもさかそう、あの世でな?』


「……それは、ゴメンし、たいなぁ……っ」



黒装束4人は、ただの暗殺者ではない。

既に死を覚悟した、笑う死兵の群れ。

実質的に、生者を恨み冥府に引きずり込もうとする亡者だ。


その気迫に押され、毒を受けた天才少年は苦笑いを浮かべる。



「……ごめん、ケーン君。

 『帰ってきたら、また』って約束、守れそうにな ――」



―― ブッ、ブルゥンッ! ブルルッ! ウゥン!!



それ(・・)に、最初に気づいたのは、巨大なロバ型魔物。


まるでハリネズミが毛針を立てて威嚇するような、強烈な敵意。

魔力自体は、決して多いとは言えない。

いや、むしろ子イヌか子ネコくらいの小動物か。

あるいは、さらには小さく、ネズミ程度かもしれない。



しかし、『窮鼠猫を噛む』。



怒り狂い、自分の身をかえりみない小動物の猛攻は、時に何倍も、あるいは何十倍もの体重の相手を退ける事もある。



巨体の魔物は、そんな致死毒とさえ思えるような激しい敵意を含む、怒れる弱者の魔力に警戒しているのだ。



「―― よ、貴公子(イケメン)

 『親切の押し売り』とか、いらねーか?」



ビリビリと空気が震える。

とても少女なみの矮躯(わいく)から出されたとは思えない、絶大な肺活量から発せられた声量は、それ自体が威嚇(いかく)となって周囲の動き全てを封じる。



―― 剣帝流一番弟子、推参(すいさん)



「ロ……、ロック、くん……ッ」



金髪の美男子・マァリオ=スカイソードの声が震え、瞳が潤んでいるのは、毒のせいだけではなかった。





▲ ▽ ▲ ▽



黒装束(われら)は、4人(そろ)って寒気を覚えた。



『なん、だ……アレは?』



何か『異常な者』が目の前に現れた。


緊迫のあまり、誰かがツバを呑み込む音が聞こえたくらいだ。



―― 裏稼業(うらかぎょう)の大半は、2級線(きゅうせん)の魔剣士だ。


武術について抜群(ばつぐん)の才能を持つ1級線(きゅうせん)の魔剣士が、裏の世界に顔をつっこむなど、それこそ『帝室親衛隊の調査班』 ――

 ―― つまり、目の前の金髪の(マァリオ=)天才少年(スカイソード)達のような『例外』くらいだ。


だから、裏稼業(うらかぎょう)の者は魔法を重点的に鍛えられる。

表世界の(マトモな)魔剣士を出し(・・)抜く(・・)のに、非常に効果的だから。

魔物相手では頼りない下級・初級の攻撃魔法も、人間相手では有効打になる。


そんな対人戦で裏をかくための魔法の技量と、見識が告げてくる。

乱入者(あらて)は魔力操作が『異常』だ、と。



―― この世界の生き物は、大なり小なり魔力を秘めている。


魔力感知に精通すれば、対・生物用の万能センサーとなる。

そのため、隠密(おんみつ)・諜報員・暗殺者などの裏稼業(うらかぎょう)の人間は、『魔力の感知』と『魔力の隠蔽』の2種の技術を叩き込まれる。


だからこそ、『標的』(ターゲット)の横に現れたその存在(・・・・)の、異様さを理解できる。

目を離したら途端(とたん)に見失いそうな微弱な気配は、卓抜の隠蔽技術。

【飛翔】という見た目の10倍は難しい魔法を片手間にする、超絶の操作技術。



あるいは、帝都の闇に君臨するあの(・・)『月下凄麗』ルナティック・ティアーが、『決して表舞台に出ない』という禁忌(タブー)(やぶ)ってまで金髪天才少年(おなかま)を助けに来たのか、とも思った程だ。


つまり、『月下凄麗』(あのバケモノ)見紛(みまが)う程の『何者か』が、目の前に現れた。


少なくとも、裏稼業(うらかぎょう)()()ませた危険察知能力は、最大級の警告を発してる。



―― これが『通常の任務』であれば、即座に撤収している頃だ。


しかし、すでに黒装束(こちら)4人は、退()く訳にはいかない身の上。



『……(くみ)しやすく見えるな、恐ろしい事に』

『まるで誘蛾灯(ゆうがとう)だ』

篝火(かがりび)に飛び込むのは、勘弁(かんべん)だが……』

『そもそも、どうやって電流の囲いを抜けてきた…・・?』



だからといって、任務を果たす前に()()にする訳にもいかない。

今となっては、身元を隠すために量産品<錬金装備>で固めた『毒塗りの中剣(ミドル)短剣(ナイフ)』が、ひどく心許(こころもと)ない。



その『異常な者』は、呑気(のんき)な口調で『標的』(ターゲット)と会話する。



「あ~……、やっぱり毒もらったのか。

 それも、魔法的な毒素」



ソレは、チラリと黒装束(こちら)の1人を見て、ニタリと笑った。



『―― クッ……、ァアッ』


『ま、まて……っ』



黒装束(なかま)が1人、弾かれたように飛び出す。

慌てて別の黒装束(なかま)が止める。


だが、別に『先走った彼』も攻撃したかった訳ではないだろう。


おそらくは、眼力(がんりき)

流派によっては『瞳術(どうじゅつ)』などとも呼ばれる、誘導術(ゆうどうじゅつ)(たぐ)い。

殺意で()めた魔力を極細の針のように打ち込み、恐慌(きょうこう)状態を誘発(ゆうはつ)する『威圧技術』。


つまり、すでに任務に(じゅん)じる事を覚悟した黒装束(なかま)も、『死神の(・・・)青い爪(・・・)』で(ゆび)さされる恐怖に、精神がもたなかったのだ。



『―― ……ッ』



絶息の一撃を背後から。

しかも【上級・身体強化:疾駆型(スピード)】の、20mの間合いを2秒で侵略する、超人のひと駆けで。



『~~~~……ッ!!!?』



しかし、先走った黒装束(なかま)は、声のない絶叫。

目を血走らせて見開き、恐怖におののく。


それはそうだろう、必殺と思って踏み込んだ先に、死の抱擁(ほうよう)が待っていたなら。

黒装束(われら)のような裏稼業の人間であっても、命乞いがしたくなる。


『チリン!』という魔法の自力発動音すら、死神が鎌の刃を()ぐ音にさえ聞こえる。



「……フッ」



と、『異常な者』は小さな吐息を一つ吐いただけ。


それだけで黒装束(なかま)が、天高く投げ飛ばされる。

体重90kgはある屈強な成人男子が、まるで遊戯球(ボール)のように軽々と。



『あ、ぁあ……ありえんっ』

『飛翔魔法を4重()けしても、ああはならんだろう……っ』

『げ、幻術? 幻像魔法か?』



残された黒装束(われら)3人は、見上げる他ない。

空高くで、(おぼ)れたようにバタバタと両腕を振る、黒装束(なかま)を見上げながら。



―― そして何故か(・・・)、『異常な者』は、空高く投げ上げられ、落下してきた黒装束(なかま)受け(・・)止めた(・・・)


ズダァ~ン!と破裂音じみた音を立てて、両肩で担ぐように。



『ゴホォ……ッ』



黒装束(なかま)は、血でも混じってそうな苦痛の吐息。

当たり前だ。

7~8mの高さから落下して、叩きつけられれば、超人である魔剣士だってそうなる(・・・・)に違いない。



―― それなのに何故(なぜ)か、その真下(ました)に居て背骨の(・・・)折れる(・・・)ような(・・・)落下衝撃(・・・・)()まともに受けた小柄な人物が、元気いっぱい雄叫(おたけ)びをあげる。



「これが! スーパー・アルゼンチン・バックブリーカーだぁぁぁ!!

 ―― フンッ!」



受け止めた後さらに、ズバァァン!と地面へ叩きつける。

―― 気絶してピクリともしない、黒装束(なかま)

―― 何事もなかったようにピンピンしている、乱入者(あいて)

ひどく不公平で、理不尽(りふじん)(きわまり)まりない光景。



『……普通死ぬよな? ……あの高さから人が落ちて下敷(したじ)き、とか』

『……特級の剛力型(パワー)でも無傷じゃすまない、と思う……』

『……なんで受け止めた? ……なんで無事なんだ? ……スーパー・アルゼンって何?』



あまりに『異常な者』を前に、黒装束(われら)3人はささやき合いながら()()くすだけ。



―― アレは『魔界から()い出た悪魔の(たぐ)いが小柄な少年に()けている』とでも言ってくれた方が、まだ納得できる気がした。





▲ ▽ ▲ ▽



そこに『異常な者』が居た。


武術に詳しい人物ほど、その『異常さ』に震え上がる心地だった。



気迫。

歩法。

体術。

呼吸法。

投げ技。

受け流し。

身体鍛錬。


そして、まだ抜かぬ状況でも周囲をギラリと威圧する、鋭い剣気(けんき)



―― まだ10代(なか)ばの子どもが、半世紀をかけた求道者(ぐどうしゃ)のように『達人の領域』に到達している!?

―― あと10年経てば、この者はどれ程の領域に到達し()るのか!?

その恐怖にすら似た感嘆(かんたん)が、『闘技場(コロシアム)』のあちこちで()かれる。


そして、メイン会場の端へと、自然と視線が向かった。


そこに建っていたのは、『石造りの巨像』。

彫られているのは、精悍な青年の姿で、<長剣(ロング)>を天へ向ける大上段(だいじょうだん)の構え。



―― 『剣神(けんしん)

武門の関係者の脳裏には、そんな言葉が浮かぶ。


<帝都>の庶民であれば、聖教の影響が色濃い分、馴染みがない者の方が多いだろう。

なにせ、異国の神だ。



―― 武神の子・『剣神(けんしん)』。

神代(かみよ)の英雄だ。

古代12神に連なる、半神半人(デミゴッド)


地上の人々の苦境を(うれ)いた父・武神(ぶしん)と、巫女(みこ)の間に生まれた、神と人の子(デミゴッド)

わずか5歳で、母親に襲いかかった小型の魔物を斬り捨てて、英雄の片鱗(へきりん)を見せた。

魔物の群れも、蛮族5千もの大軍も、他いかなる困難も、すべて剣一本で斬り抜けた。


伝説では、そう語られる。

故に、『剣を(つかさど)半神(はんしん)』。

略して、『剣神(けんしん)』。


そういった神話のエピソードから、帝国内でも武門の関係者 ――

 ―― つまり、魔剣士からの信仰が(あつ)い。



しかし、彼・『剣神』は、『神王国を(おこ)した初代国王』であるとも伝えられている。

他国の王室の開祖(かいそ)の異名であるから、それを軽々しく(もち)いる事は、国際問題にさえ発展しかねない。


そのため、武門において最大級の賛辞(さんじ)は、『剣神(けんしん)(ごと)く』という直接的な表現を避けて、『武神(ぶしん)(もう)()(ごと)く』という婉曲的(えんきょくてき)表現がされる。



―― 乱入者の腕前は、まさに『武神(ぶしん)(もう)()(ごと)く』。


しかし、その背中には魔法陣はない。

つまり、魔剣士(・・・)では(・・)決して(・・・)ない(・・)、『未強化(なまみ)弱者(・・)』。



そんな矛盾にまみれた『異常な者』が、そこにたしかに立っていた。


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>前書き ラルフもクラークもうるさいので混乱しますよね。 私も混乱しておりました。 ザッキンには投げの鬼がいるではないですか。 大門と言う化物が!! 受け身で近づき投げる。下駄を鳴らしながら近づき投…
更新お疲れ様です。 >前書き 双方の意図は伝わってましたので、最近カップヌード○とコラボした例の方の台詞を借りるなら「大丈夫だ、問題ない」ってやつですねwwww スーパーアルゼンチンは使うキャラが…
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