192:コマ投げ練習(実戦編)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
武闘大会の本戦2日目。
今日までイベントの前座である『学生枠トーナメント』が続くらしい。
お昼までに、士官学校3年生のトーナメント戦が決着する予定。
そして午後から試合がない代わりに、士官学校の勝ち抜き1~3年生男女の計6人と、一般枠の勝ち抜き選手の『本戦出場メンバーの紹介』があるらしい。
(前世ニッポンの競馬で言えば、『下見所』か?)
そして、前回(4年前)の優勝者・『剣駿』の顔見せ。
さらには、学生の成績優秀者とで、『模擬試合』とかもあるらしい。
まあ、伝統ある大会の前回チャンピオンが、将来有望なエリート学生さんを相手に『出場記念の手合わせ(実技指導)』みたいな感じっぽい。
そういう流れが、今日1日の進行表だ。
―― で、一昨日まで学園や大会関係者の間では、
『今回の大・注目選手である剣帝の後継者が学生枠トーナメントを勝ち抜くだろうから、前回チャンピオンの実技指導の相手役にしておくか』
と、半ば決定事項みたいな扱いだったらしい、が……。
(……なんか知らんが、やたらと俺の『必殺技』を披露する事にこだわりまくって、大会運営の人たちとモメまくったらしいし。
最後は、大会そのものに飽きたのか、途中棄権みたいな事してるし)
まあ、手加減が致命的に苦手な、脳筋乙女だ。
模擬試合だってのに本気出しすぎて、シード枠の前回優勝者さんにケガでもさせたら、目も当てられない。
(うむ……。
例えば、リアちゃんが鼻息フンスッフンスッしながら全力100%で突撃して、
『ちょっと待て! 手合わせ、手合わせだから! これ演武だから! 真剣勝負じゃなくてデモストレーションなんだって!』
とか必死に止める<帝国4剣号>『剣駿』さんの姿(まだ見たことない)が、目に浮かぶなぁ……)
ある意味、結果オーライだったのかもしれない。
リアちゃんの、ワガママ爆発の大暴れ(途中失格)。
その代わりに、急遽『模擬試合の相手役』として声をかけられたのが、同じ魔剣士<御三家>黄金世代の天才児な、士官学校3年生。
(つまり、ほぼ本戦出場は間違いなし、と関係者から予想されているヤツ)
コイツ、どこかの金髪貴公子らしいが ――
(―― いったい、何夫ブラザーズの長男的な名前のヤツなんだ……ッ?)
兄弟子、さっぱり解んない(大ウソ)。
▲ ▽ ▲ ▽
あ、ちなみに、昨日の例のボケ魔物。
ほら、妹弟子が『ブチ』とか名付けているアイツ。
アゼリアが士官学校の女子寮に連れて帰るワケにもいかず、仕方なく兄弟子が引き取りました。
とは言っても、俺も魔導学院の男子寮の空き部屋借りてるような、下宿暮らし。
庭先につないでおくワケにもいかない。
―― で、色々考えたら、魔導三院には魔物の生態の研究室(たしか、リネン?研究室)があった事を思い出した。
勤め先に連れて行き、現在は研究員がケガ人だらけで、開店休業中の魔物研究室の、馬小屋みたいな屋外の檻にぶち込んでいる。
ブチ本人(?)も『メェ~~!』と隣接の牧草地を走らせてもらって、喜んでいる様子。
まあ、ここ闘技場の地下牢暮らしよりは、開放的で健康的だろう。
(まあそれも、ジジイからお返事くるまでの、仮の処置だけど)
昨日の時点で、<翡翠領>の剣帝宛てに、『迷子を送り返したいんだけど?』って、お手紙出しておいた。
多分、<帝都>まで返事が戻ってくるまで、往復10日間~2週間くらい。
それまで、回答待ちの間の、一時預け状態だ。
「早く戻してやらんと、『5代目ユキ』が『6代目ユキ』になっちゃうな……」
まあ、多分、ジジイが雌ヤギを家(山小屋)で放置せずに、<翡翠領>の『なんとか交流道場』とかに連れて行ってくれているとは思うが。
そもそも、あの白黒ヤギ魔物を<ラピス山地>の家(山小屋)で飼ってた理由は、ヤギのユキ(こっちは本物のヤギ!)の護衛要員代わりだ。
(家畜のヤギって、ちょっと目を離したら一瞬で野犬やオオカミに食われるんだよな……。
肉食動物に人気すぎだろ、あの偶蹄類)
なお、最短記録は3代目の2日半だ。
1週間もせずにまた買いに行ったら、『え、マジで!?』とか牧場の人にも驚かれた。
前世の中世ヨーロッパの物語で『よくオオカミ被害の話があったなー』とか思い出して、俺も遠い目になった。
そりゃあ、ヒツジ飼いの人がオオカミ毛嫌いするワケだ、と今世で納得。
―― なお、これは豆知識だが。
どうも、ヒツジとかヤギとかの仲間は、背中を見せたら襲ってくる(角で頭突きをしてくる)性質があるっぽい。
俺も家畜小屋を掃除中に、背中を不意打ちドン!で、ズベ~……ッ!と顔面着地させられた。
3~4回くらい。
このへんが、中世ヨーロッパの救世主サマが『聖なるヒツジ飼い』とか呼ばれた理由だろう。
つまり、背中を見せたら襲ってくるのが、迷える民衆ってことだ。
クソ貧弱で、守ってやらんと一瞬で野犬やオオカミに食われるクセに。
(救世主も、最終的には磔刑で死亡だからなぁ……)
南無三、である。
成仏して下さいませ。
▲ ▽ ▲ ▽
そんな益体のない事をダラダラと考えながら、闘技場の地下に下ってきた。
そう、最近の朝のお仕事、魔物の給餌だ。
「また、お前か!
今度は地下に何をしにきたっ」
「え……、朝のお仕事に?」
魔導三院の所長さんに激似な、『八の字』ヒゲ中年が通せんぼしてくる。
たしか、昨日のゴタゴタの時に、なんか『所長!』とか呼ばれてたな、このオッサン。
(あ、ほら、リアちゃんの誹謗中傷してた<精剣流>副当主とかいうクズ野郎!を制裁しようとしたら、取り押さえられた件ね)
「シッ、シッ! 失せろ、低能な平民め! 貴様など呼んでない!」
「はあ……、でも……」
いくら『八の字』ヒゲが、ここ闘技場の所長サマでも、なあ。
―― 俺って、魔導三院に雇われている人だし?
―― 外部の人間だから、おたくの言うこと聞く理由ないし?
(命令系統が違うから、下手に指示されても困るんだが……)
兄弟子、困惑のあまり、思わず耳クソとかほじっちゃう。
そんな感じで、ハゲ・デブ・あぶらギッシュの怒鳴りまくる声を、右から左に聞き流し。
―― やがて、カラカラカラ……ッと押し荷車の音が聞こえてきた。
警備員のオッちゃん達だ。
いつものように、生肉の入った金属バケツ山盛りで持ってきたワケだ。
「お、いつものボウズか。
あぁ~……すまん、今日はアレだ……」
「あ、そうそう、なんか色々あってな。
今日は、『魔物のエサやりは他の人間に任せておけ』って指示で、さ……」
何だか微妙に、2人とも歯切れが悪い。
あと、何故か知らんが、目を合わせずボソボソ言ってる。
なんだろ?
俺と顔見知りだったり、親しげだったりすると、上司である闘技場の所長に怒られるのかな?
「そういうワケだ! 魔導三院の下男のクソガキめ!
お前など用なしなんだよ、わかったら出て行け! シッ、シッ!」
「……はぁ。 じゃあ、まあ……」
『八の字』ヒゲの中年に、まるで野良犬みたいに追い出されてしまう。
かぁー、つれーなー。
かぁー、外様だと簡単な仕事も任せてもらえなくて、つれーなー。
かぁー、これはもう言われた通り、大人しく試合観戦でもして時間つぶすしかないなー。
(そんなワケで!
今日の仕事は、終・了ッ!
うっひょひょ~~、だって今たしかに闘技場の所長らしき人から直々に、『用件ナシ!』って言われたんだもんね!)
―― 決して、サボりではありません。
客先の指示を厳守しただけなんです。
兄弟子ったら、融通が利かない系のクソ生真面目キャラだから、仕方ないね!
▲ ▽ ▲ ▽
そんなワケで、兄弟子in観客席。
「なるほど。
『対人戦』ってのは、こうやるのか……っ」
ポリポリ……と、観戦のお供・ポンプコーンも一緒である。
もちろん俺は、観戦チケットは持ってないので、指定席はない。
なので通路出入り口に隠れるように、立ち見している。
一般人がそんな事していると、見回りしている警備の黒服につまみ出される。
だが俺、魔導三院の赤っぽい制服着てる関係者!(得意顔)
たまに掃除(のフリ)とか、人探し(のフリ)とかで、なんとか乗り切ってるワケだ。
「あっちの<狼剣流>女子のフェイントとか、特に参考になるなぁ……(ポリポリ)」
士官学校3年生と最上級生なので、特に腕前が良いのだろう。
さすがに剣術Lvは、『妹弟子』や『ヒョロ』には劣る。
だが、マジメにガンバってる感じが見えて、好評価。
しかも、熟練者でもなかなか難しい『2刀流』だ。
―― 『そこまで! 勝負あり!』
「おお、やっぱりあの女子選手が勝ったかぁ……」
ちょうど、ポップコーンも空になった。
イス代わりにしてたゴミ箱(大バケツ)へ紙袋をポイして、まるごと収集所へ持って行く。
見回りの警備要員に対して、
『ボク、ちゃんと働いている関係者ですよ?』
というアピールだ。
一番の見所だった、準決勝(男女別×A・Bブロック=4試合)がだいたい片付いた。
眠気覚ましも兼ねて、テクテク歩いて休憩だ。
「箱入り学生さんたち(笑)の、不慣れな『ガンバれ!魔物退治初挑戦ッ』(呆)とか見てもなぁ……」
兄弟子、こう見えても。
こんな、華奢☆でキャワワ☆な女装適正◎でも。
一応、魔物退治に特化した流派『剣帝流』の一番弟子なんでな?
(虫型魔物5匹だの。
<樹上爪狼>だの。
<電尾跳狐>だの。
そんなザコ魔物くらいなら、秒殺できちゃうし?)
なんなら最近、素手でもどうにか退治できそうな感じ。
仮面仙女の記録映像を参考に、拳術だの体術だの鍛えてたら、なんか筋肉の質が変わってきた気がする。
剣の操作が滑らかになってきた、というか。
体の動かし方に余裕がでてきた、というか。
アレッ、もしやこれって、色んな技術を学んだ方が最終的に剣術Lvが上がるパターン?
(―― そういえば。
また最近、『鋼糸使い』技能の訓練サボってたな……)
いかん、いかん!と自分を戒める。
『鋼糸の講師センセイ』からしたら、俺が唯一にして無二の生徒さんなのだ。
ちゃんと、演奏も、戦闘も、技能を磨いておかなくては。
せっかく独自開発の秘伝みたいなモノを教えてくれたのに、腕前を腐らせてたら申し訳がたたない。
(……多い……訓練が多い……っ)
異世界転生から十数年は続けている剣術訓練は、すでに日課のレベルなんで苦には成らない。
しかし、ちょっといくら何でも、プラスαな寄り道が多すぎる。
「はやく必殺技開発をすすめて、俺のオリジナル奥義を完成させないといけないのに……っ」
そんな事をボヤキながら、さっきいた通路出入り口へ。
―― 通路のドア開けた瞬間、ドッ!と歓声が沸く。
ワ・ワアアァァ! ウォ、オオオオォ! ドッ、ワァアアア! と会場全体が叫んでるような大歓声。
(あ、ドアの向こうから、大歓声がドワァァ!って、独り笑)
そんなダジャレはさておき。
(え、何?
もう3年生の決勝戦が始まっちゃった?
Aブロック勝者と、Bブロック勝者で、順番に魔物退治の試練やるんじゃなかったの?)
急いでゴミ箱を片して戻ってきたんだけどなぁ……とか思っていると、意外な光景。
メイン会場の競技台の上に、砂ぼこりが立ちこめてる。
競技台の上は、全て『石畳』なのに。
そんな違和感で、競技台に注目すると、意外すぎる光景に変な声が出た。
「うお……っ!?」
―― なんか、見たことあるような金髪貴公子が、暗殺者集団と魔物に挟み撃ちされとる!?
ビックリ仰天。
▲ ▽ ▲ ▽
「―― よ、貴公子。
『親切の押し売り』とか、いらねーか?」
闘技場のメイン会場には、万が一のため、上空に鋼糸が張り巡らされている。
魔物退治の試練で、飛行型魔物が逃げていかないように、という安全対策っぽい。
その、魔物でも黒コゲ高圧電流が流れてる鋼糸の編み目を、『鋼糸使い』技能で、接地通電しながら広げて、飛翔魔法を自力詠唱して無事くぐり抜ける。
―― そうやって俺は、競技台で青い顔している、<天剣流>天才児の横に立ったワケだ。
「ロ……、ロック、くん……ッ」
声を出すのも苦しい、という金髪貴公子。
「あ~……、やっぱり毒もらったのか。
それも、魔法的な毒素」
俺も、<ラピス山地>の毒虫・毒草で、時々ヒドイ目にあったなぁ。
<聖都>経由の移動の途中で、暗殺者の毒使いにもヤラれたし。
そんな同じ失敗しているエリート様に、思わず生ぬるい目を向けちゃう。
「ほら、<治癒薬> ――」「―― ロ、ロック君……!」
俺が、解毒効果のある水薬瓶を投げ渡すのと、貴公子が悲鳴じみた声をあげるのは同時。
── ででっでっでっでっ・でぇ~ん!
── ちょうせんしゃ あらわるっ!?
『―― ……ッ』
背後に、静かで鋭い吐息。
同時に、背中に突き立てられる、毒塗り<短剣>。
より正確に言えば、肋骨の下、脾臓あたりを狙った刺突だろう。
―― まさに狙い通りだ。
(おバカさん1名いらっしゃ~~い!)
高速スピンで振り向き、同時に密着。
まるで社交ダンスみたいに、黒づくめの右手と腰に、それぞれ手を当てる。
(はい、1・2の・3!、で離陸飛翔)
うかつ過ぎる黒づくめ(身長182cm体重92kg男性40代)には、もれなくお空の旅をプレゼント。
上空8m、3階ベランダ程度のフライトを、お楽しみください♪
―― あ、もちろん、投げ技アシスト魔法【序の三段目:流し】を使った上で、ね。
俺の未熟な体術だけじゃ、こんな達人技はまだムリなんで。
「―― き、き……規格外、すぎる……ぅっ」
「お、貴公子、今なんか言った?
―― それより早く、それ飲め、上物の<治癒薬>。
解毒はムリでも、症状がだいぶん軽くなるし、気休めにはなるから」
とか話している間に、『―― ……ぁぁ、ぁぁああ~……!?』みたいな声が、近づいてくる。
空から。
(―― 異世界よ、刮目して見ろ!!)
足を踏ん張り待ち構え、横寝体勢で落下してくる黒づくめを受け止める。
ズドォォン!と。
男らしく、90kgオーバーの敵を担ぐような体勢で。
より正確には、首を下げて、両肩と背筋の上部で受け止めた。
「これが! スーパーアルゼンチンバックブリーカーだぁぁぁ!!」
(K●F初期なら コメンド:←↙↓↘→ + [強K])
そして、ズバァァン!と地面に投げつけて止め。
「―― おぉぉ~~……ぉほぉホホぅッッ!!
ぉぉ、ぉおお、おかしいよロックくぅぅぅんっ!?!?!?!?」
やはり、貴公子も男の子。
マァリオ=スカイソード氏も、格闘ゲーム特有の超ド派手でカッコイイ投げ技に、感極まったらしい。
―― あ、あと。
ステージの端っこの方で巨大ロバっぽい四脚魔物が、なんか困ったように『ブルンブルン……ッ』って感じの鼻息してた。
!作者注釈!
2024/10/08 いつもの乱入メッセージ(妄想)が抜けてたので、追加しました