186:ティーメ家の姉妹
<帝都>の目玉施設、闘技場。
春に行われる武闘大会の本戦は、帝都でも1、2を争う大イベント。
観客席は、ほぼ満席。
移動するだけでも一苦労の様子だ。
「―― 早く早くっ」
赤髪の少女が、急いで人混みをかきわける。
「もうっ、叔母さまったら!
サリー姉以上にノンビリなんだからっ」
「だってぇ……
あんなに沢山お店があるんだもの、迷っちゃう」
<四彩の姓>直系の娘・メグ=ルベルから手を引かれている、その叔母は悪気のない笑顔で謝る。
「休憩タイムに飲み物を買いに行っただけなんだから、すぐに選んでよっ
なんか、知り合い捕まえて雑談とかしてるし!」
「ええ、さっきのご夫婦、工房のお得意さんなのよ~。
―― あ、そうそう。
そのご主人も、メグちゃんの実技を誉めてたの。
ほら、開会式の成績優秀者お披露目、ビックリしたって言ってたわ~。
『下級でも、あれだけ連続で成功させるのはスゴイ!』って。
それにね、『最後の中級魔法も、あんなに自力詠唱が速いのは初めて見 ――」
「―― そういうの、今はいいから!
もうちょっと急いでよっ」
温厚な気質の代わりに、極めてマイペースな叔母に、少女は困り果てる。
しかし、誉められて悪い気はしないのか、隠すようにうつむく顔は紅潮していた。
「……はいはい。
メグちゃんは、いつもせっかちねー」
物腰の柔らかい中年女性は、微苦笑。
思春期の気まぐれやワガママを許容するような、大人の表情だった。
そんなメグたち2人の後ろを、慌ててついて行く3人目は、10代後半の従姉・サリー。
「もう、そんなに急がなくても……。
まだアゼリアさんの出番は ―― 士官学校1年生のトーナメントは、今日の午後でしょ?」
「ちょっと、サリー姉ったら!
なんでワタシが、あの『尻アタック女』を応援しないといけないのよっ」
魔導学院の制服の赤髪少女は、八重歯をむき出しにして振り返る。
「メグちゃんったら、アゼリアさんの事、まだ苦手なの?」
「あらまあ、1年前に一緒に冒険者したお友達でしょ。
まだ仲良くなれてないの?
そういう気難しくて怒りん坊なところも、姉さん ―― ママ似ねぇ~」
連れ2人の女性は、赤髪少女の剣幕にあきれ顔。
『仲良くすればいいのにねー』、と顔を見合わせる、おっとり母娘。
「ちょ、ちょっと、やめてよ、サリー姉も叔母さまも!
ワタシもう立派な魔導師で、腕利きの冒険者なんだから!
子供あつかいしないで!」
「フフッ……」「……あらあら」
魔導学院の制服姿のメグが、言えば言うほど、年上女性2人は生暖かい目線になる。
そんな騒がしさで移動する事、しばし。
ようやく3人は、自分たちの半券に書かれた指定席にたどり着いた。
「あ~~っ!
もう、女子Bブロックの準々決勝が始まっちゃってるぅ~!」
横で騒ぐ姪っ子に、同じく赤オレンジ色髪の叔母が飲み物を一口して尋ねる。
「……でも、午前中はまだ、士官学校2年生の番でしょ?」
「ええ、応援するって約束してたしっ」
姪っ子は、目線をあげて左右を見渡す。
その真剣な様子に、親しい相手とは予想がついた。
「あら、メグちゃんのお友達? それとも誰かのご身内?」
「ようやく、お友達ができたの?
でも、士官学校に?」
叔母と従姉サリーの疑問の声。
メグの視線の先には、巨大な灯籠か鳥籠のような<魔導具>。
幻像魔法の投影装置だ。
後方すぎて競技台が見づらいの観客席のために、幻像魔法で中継が映し出されている。
赤髪の少女は、その一つを指さし『幻像が映す女子の試合風景』に注目する。
「いいえ、『後輩』よ!
―― あ、いた! よかったっ
『年上後輩』の試合、まだ始まったばかりじゃないっ」
―― 『はあっ!?』
そんな、魔導学院の少女の不思議な言葉に。
おっとり母娘は、驚きの声をあげて目を丸くした。
▲ ▽ ▲ ▽
既に、試合開始からしばらく経っていた。
キ・キ・キ・キ・キン!と、激しい5連撃で、火花が散る
疾風の身軽さで石積みの競技舞台を駆け回っていた、士官学校の女子生徒2名は、反発するように距離を取る。
「―― 随分と、この短期間で上達したのね。
防御だけは」
『疾駆型』の魔剣士同士がする、絶え間ない連続攻撃が一息をついた。
どちらも【身体強化】魔法の時間切れが近くなったのだ。
お互いに離れて<魔導具>を操作。
数秒して、『カン!』と機巧詠唱の音。
しかし、お互いとも、すぐには攻めない。
じっくり様子をうかがう。
あるいは、呼吸を整える。
「あら、そう。
でも単に、『姉』が下手になっただけじゃない?」
「……相変わらず、口ばかりは減らない『妹』っ」
にらみ合い、舌戦を交わす。
お互いに、相手の出方をうかがっている、同学年の姉妹。
ようやく口を挟む余裕ができた試合展開に、実況と解説の拡声器の声が聞こえてくる。
―― 『さて、まるで先ほどの男子Bブロックの再現のような光景』
―― 『異母姉妹が、跡継ぎの座を奪い合い、激しくせめぎ合う』
―― 『しかしこちらは……』
―― 『“B学級”のレイラ=ティーメ選手は、あくまで<四環許し>』
―― 『さきほどの男子準決勝、“同じB学級のイシニー選手” とは違います』
―― 『やはり疾駆型だから、でしょうか』
―― 『もっとも習得の難しい【身体強化】魔法とされますから』
―― 『……これは、少し厳しい言い方になりますが』
―― 『やはり、マイナー流派』
―― 『ほう、つまり?』
―― 『<帝国八流派>の子弟子女であれば、当然のように免許皆伝』
―― 『むしろ、<五環許し>でない者が士官学校の門をくぐるなど、決して許さないでしょう』
―― 『なるほど、“B学級のティーメ選手” の方が<四環>と、1段落ちるからこそ』
―― 『まだ、“C学級のティーメ選手” が技量だけでもついて行けている、という事ですか』
解説担当と実況は、歯に衣を着せない評価を下す。
「………」「フッ……」
それにムッツリと、怒りで押し黙ったのは『姉』の方。
自嘲気味に吐息を漏らしたのは、『妹』 ―― マチルダの方だ。
「―― 『マイナー道場のお嬢様は努力が足りない』って。
言われているわよ、<四環許し>?」
「<巴環許し>のぉ! 『妹』が言うなぁ!!」
『姉』・レイラ=ティーメは、1等級格下の魔剣士からの挑発に激昂。
ガァン!と斬撃を叩きつけると、すぐに側面に退避。
「本当に、防御だけは上達したわね!」
『姉』レイラは、感心というよりも、忌々しそうに言う。
「我武者羅に攻めても勝てない、からね?」
「あら、少しはお利口になったんじゃない。
それとも、例の『愛しの彼氏クン』に注意されたのかしら?」
「―― ハハ……ッ
いや、『姉』の事を言ってるのよ、私?」
「―― このぉっ!!」
ギャリン……!と金属のきしむ音。
度重なる挑発に怒り、力任せに斬りつけた『姉』。
1段格上の【上級・身体強化:疾駆型】の速力を、真っ向から受け止めた『妹』。
風のような止まらぬ攻めと、速剣の手数を誇るのが『疾駆型』。
そんな速さを活かす魔剣士同士の闘いとしては珍しく、ギリギリ……ッと鍔迫り合いが始まる。
「『妹』を八つ裂きにしてぇっ!
『姉』こそが正統だと! 父の子だと! 証明する!!」
「それは無理な相談ね!
勝つのは『妹』だからァッ!!」
まるで『自分の鏡写し』に向き合うように。
南方のマイナー流派、ティーメ家の姉妹は怒号を飛ばし合った。
▲ ▽ ▲ ▽
『姉』・レイラ=ティーメ。
『妹』・マチルダ=ティーメ。
ティーメ家の同年齢の姉妹。
しかし本当は、異母姉妹でも異父姉妹でもない。
双子の姉妹なのだ。
しかし、双子のはずなのに、容姿も体格もまるで似ていない。
―― もしも、これが異世界ニッポンの人間であれば、
『ああ、二卵性か』
とすぐに納得しただろう。
双子で、容姿が似てなくても。
あるいは、性別が異なっても。
確率が低いだけで、『あり得ない』事ではない。
―― だが、この世界では、そんな医療関係の知識が一般市民まで広まっていない。
魔法薬の効能が極めて高い事の、いわば『副作用』だった。
大半のケガや病気は、魔法薬ひとつ飲めば、インスタントに治ってしまう。
そのせいで、人体の構造や生態の研究が後回しにされてしまっている。
解剖学などの研究ジャンルがない訳ではないが、大衆に浸透するほどの知名度はない。
そのため、『似てない双子は、母の不貞の証』という俗信が根深かった。
つまり、母が夫とそれ以外の男の子種を同時に受け入れたせいでそうなったという、誤解である。
人間に身近な生物の猫が『そういう性質(多排卵)』である事が、人々の誤解を増長させた一因でもある。
武門や貴族であれば体面が悪いとして、通常どちらかが、あるいは両方が『生まれなかった』と処置される事も多い。
しかし彼女らは、なぜか死産とはならなかった。
どういう事情か、『正妻の娘』と『側室の娘』として、周囲を誤魔化して育てられた。
そして、その事実を知らされれば、当然、双方ともこう考えた。
『―― 自分こそが父の子で、相手は不義の子だ』、と。
だから、彼女たちの双子姉妹の競争意識は、殺気立つほどに強い。
『自分の血の正当性』という、存在の証を立てるため、必死に武を磨いてきた。
それはつまり、
『魔剣士である父の血を引いているなら、当然のように魔剣士として優れているはずだ』
という強迫観念に突き動かされた行動。
そんな風に、呼吸するように、お互いの存在を否定し合う。
殺意しか紡ぎ合わない、ティーメ家の『二卵性の双子姉妹』だった。
▲ ▽ ▲ ▽
疾駆型の魔剣士2人が、不向きな力比べ。
ほとんど我慢比べのような『鍔迫り合い』だったが、先に根を上げたのは『姉』の方。
「―― このっ、しつこい!」
体制が崩れかけて大きく後退。
「甘い! ――」「―― ク……ッ」
その着地のタイミングを狙うように、『妹』が片手刺突で飛び込んでくる。
『姉』は、右手の剣ではなく、左手の小盾で弾く。
そして、側面に回り込みながら、緩いらせんを描くよう走行で距離を取る。
「……また今回も、小盾を捨てて、<正剣>1本での勝負」
『姉』は余裕を見せるように、小盾を籠手につけた左手で、長い髪をかきあげる。
「前回と同じく、【中級・身体強化】で【上級・身体強化】に追いつくために身軽になる『苦肉の策』って訳ね?」
「まあ、【特級・身体強化】ならまだしも。
『姉』の雑な【上級・身体強化】の速力くらい、盾無しで充分よ」
『妹』は、カンカンッと競技用<正剣>で競技舞台の石畳を叩く
吐息の乱れひとつにしても、まだまだ余裕が見える。
―― 下級貴族の上位成績者のみが集められた『B学級』
―― 地方領主の騎士団にも就ける『上級魔剣士』
―― そんな、能力で圧倒しているはずの『姉』が、落ちこぼれの『C学級』で『中級魔剣士』なんかに、攻めあぐねている?
―― 苦戦している!?
―― そんな姿を故郷の人間が、あるいは父親が見たら、どう思うか!!
有利な側は、追いかけられる背後からの圧力にさらされるもの。
競争相手が追いついてくる事を感じれば、焦燥するほどに。
レイラ=ティーメは、そんなストレスから冷静さを失っていく。
「だいたい! 【特級・身体強化】なんて過剰出力なのよ!」
不満を叫びながら駆け出し、斬りつける。
通り過ぎた瞬間に、氷上を滑るように身体を回転。
方向転換を高速化させる事で、間髪いれずの2連撃を可能とする。
いわば、『V字』軌道の走行剣。
それが、ティーメ家の流派の得意技。
「実戦を想定すれば、【上級・身体強化】で十二分!」
―― 『たしかに、レイラ選手の言説にも一理ありますね』
―― 『ええ、疾駆型の魔剣士にとって、速力は最大の武器』
―― 『しかし、上等級の【身体強化】魔法を使い、速力が上昇すればするほど、攻め手は単調になりやすい』
―― 『3種の【身体強化】で、最も習得が難しいのが疾駆型と言われる由縁ですね』
―― 『その難易度の分、対人戦では破格の効果を発揮する訳ですが……』
実況と解説が、そんな魔剣士談義を始める。
というのも、試合の決着にはほど遠いという見識からだろう。
なにせティーメ家姉妹の攻防は、試合の前半で、何度も繰り返されたものだ。
お互いの技量が近いためか、なかなか決定打がでない。
武闘大会の観客としては、すでに見飽きた光景 ――
「―― ハァッ……!」
それを待っていたように、変化が起きる。
『妹』が、身を投げ回転し、大きく側面へと逃げた。
そして、立膝の体勢で、試合用<正剣>の刃部に指を当てて、精神集中。
魔力のオレンジ色の薄光が、術式の輪・<法輪>を形作る。
「奥義、魔法剣…… ――」「―― させるかァ!!」
慌てた『姉』が長髪をたなびかせて駆け込み、蹴りで妨害した。
▲ ▽ ▲ ▽
―― 『おおっと、レイラ選手の跳び蹴りが炸裂!』
―― 『なんとか魔法の阻止に間に合ったか!?』
―― 『さっき一瞬、チリンという音も聞こえた気もしましたが……』
―― 『しかし、どうやら発動失敗ですね』
―― 『ええ、残念ながらマチルダ選手、魔法剣が発動できていません』
解説の拡声器の声に、『姉』レイラはホッとした表情。
「毎朝コソコソ魔導学院に通っていたのは、魔法剣の習得かぁ!」
「あら、さっきも『逢い引き』とか言ってたじゃない。
落ちこぼれ同士が色恋、C学級男女の傷のなめ合い、とか思ってたんじゃないの?」
「ハンッ、あんなサル芝居でだませたつもり!?
この『学生トーナメントで挽回しよう』なんて、無謀な事を考えてたのはお見通し!」
「……『挽回』、ねえ。
今となっては、懐かしい感情ね」
「だいたい、【身体強化】魔法じゃ勝てないから【魔法剣】なんて、考え方が安直なのよ『妹』ッ!」
言葉の合間に飛んでくる、連続刺突。
『妹』は、カ・カ・カン!と、なんとか防ぎきる。
しかし、『妹』は、魔法剣の発動に失敗し、崩れたままの体勢がまだ立て直せていない。
「この1年!
『妹』と『姉』で、どれだけ腕に差がついたか思い知りなさいっ」
それを好機とみた『姉』は『切り札』を披露する。
「これが、ティーメ流の奥義『星影・六連』!
『妹』ごとき<巴環許し>では一生手の届かない、我が家の絶技だァ~~ッ」
先ほどの『V字軌道の走行剣』を、何回も連続させる技だ。
敵を斬りつけながら、高速移動。
片手で剣を振る勢いを活かし、氷上を滑るように身体を回転。
すぐさま反転し、間髪いれずに再攻撃する。
それが、6回連続する。
超人的な速力を発揮する【上級・身体強化:疾駆型】の使い手が、その最高速度を維持した状態で。
まさに四方八方 ―― いや、6方向から刃が襲い来る、死の包囲陣。
▲ ▽ ▲ ▽
―― 一瞬でギャン!ガ・ガ・ガ・ギャ・カァ~ン!と速剣の連撃のような音が響く。
しかし、それは恐ろしい事に、6人に分身したと思うような、走行剣の重ね技なのだ。
しかし、手応えが、今ひとつ。
『姉』レイラ=ティーメは舌打ち。
「チッ……、まさか、今の感触。
最後の一撃まで、防ぎきられた!?」
魔剣士という超人能力の全身全霊全速力を以って、初めて成立する絶技『星影・六連』。
そのため『姉』は、技後には大きく体勢を崩した。
秒速10m以上という高速移動の勢いを減衰させるためには、石畳の競技舞台を10mどころか15m近く滑り続けてしまう。
「それでも、さすがに、これ以上は体力が持つはずが ――」
そして、滑るままスピン反転し、試合相手の様子を確認しようとした瞬間 ――
「―― え……?」
『姉』の顔に、影が差す。
―― パアァ~~~ン……ッ!と、まるで雷鳴のような音と、衝撃。
『姉』が、『跳躍斬りで脳天を打ち抜かれた!?』と気づいたのは、既に石畳に叩きつけられた後。
「な……あ……なん、だ……今のは……っ」
レイラ=ティーメが絞り出した声は、ささやく程に小さな声だったはずだ。
しかし、会場は無音。
あまりに予想外の結末に、まるで時が凍り付いたように、すべてが静止している。
そのため、ティーメ姉妹2人のやりとりは、会場内に静かに響き渡った。
「双子姉、アンタごときじゃ一生手の届かない【特級・身体強化】の疾駆型。
ソレすら凌駕する、瞬きの跳躍斬り。
―― 最強の剣士が編み出した秘技、【跳ね】よ」
何故か、背後から【身体強化】の魔法陣が消え去った『妹』は、そう答えた。
▲ ▽ ▲ ▽
あまりに予想外な、試合展開。
敗退を予想された選手の、大逆転の、大金星。
観客、審判、実況、解説 ――
―― 闘技場のすべてを絶句させる。
「キャー!! 女後輩、カッコイイ~~!!」
そんな静寂を破るように、赤髪の少女が声を上げた。
『え?』『誰?』『あ、例の?』『四彩の?』『開会式の?』『魔導学院1年の?』『噂の天才少女?』『自力詠唱の達人?』
周囲の観客からは、動揺のささやき声が聞こえてくる。
「ホント、約束どおりね!
ほとんど1撃で決着じゃない!!」
周囲に注目され、すこし顔を赤らめる少女が、大声を上げながら両手で大きく手を振る。
「今夜は男後輩と3人で!! お祝いよ~~っ!!」
すると、石造りの競技舞台に立つ、灰色髪の士官学校女子生徒も手を振り返す。
「―― よし!
ここは頼れる先輩として、ワタシがお店の予約とかしてあげなくちゃ!!」
<四彩の姓>直系特有の特殊な髪色の少女は、興奮で鼻息あらくしながらも、ポスンッと席に座る。
―― 『ま……まさか、マチルダ=ティーメ選手は防戦一方では、なく……?』
―― 『1撃決着を決めるため、最初から攻撃しなかった、……だけ!?』
―― 『いや、しかし……、そう言われれば、攻撃の機会を見逃した事が何度も』
―― 『ええ、ほとんど自分から、積極的に攻撃する事なく……』
拡声器から聞こえる実況と解説の音声は、ひきつり動揺に震えている。
『おい、マジか』『1撃で』『最初から』『格の違い』『そのため』『そんなに実力差が』『相手になってない』『落ちこぼれじゃなかったのか』『だってCクラスだぞ』『単純勝利とか何倍だよ!』『賭けてたヤツは大もうけ』
周囲の観客から、好奇の視線と、噂する声が聞こえてくる。
「まあ、本当にお友達だったのねぇ~。
帝都でいっぱい成長してますよ、って姉さんに ―― メグちゃんママにお手紙で報告しなくちゃ!」
「……メ、メグちゃんに、あの人見知りのメグちゃんに……!
別の学校の、年上のお友達がぁ……っ
しかも、いっしょにお祝いで宴会する仲なんて!
―― お姉ちゃん、うれしいっ」
赤髪少女メグ=ルベルの隣ののんびり母娘の様子だけは、いつも通りマイペースだった。




