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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 8:闘技場ステージ

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185/236

185:レッツ・ゴー!

<帝都>の目玉施設(ランドマーク)闘技場(コロシアム)



軍事要塞(ようさい)か、巨大な(とりで)か。

そう思わせる偉容が、今日はお祭り騒ぎで人混みにごった返していた。


メインステージの喧噪(けんそう)が、ここ地下の選手控え室まで届いてくるほど。

選手が奮闘する度に、観客達の熱狂の声の音圧が、部屋のドアをビリビリと震わせた。



「ねえ、いけるでしょ? 『相棒(オズ)』」



緊迫の満ちた室内で、選手の男女が抱き合っていた。



「ああ、為さねば。

 俺たちは、為さねばならない……っ」



とはいっても、普通の男女関係とは様子が違う。

恋人達の、わずかな時間の逢瀬(おうせ)といった、色恋の甘い空気などわずかもない。


胸部装甲をぶつけあうように寄り添い。

そして、お互いの背中を叩き合う。


そんな2人の表情は、ひどく張り詰めていた。



「……フハッ、今となっては笑ってしまうな。

 あんなに『弟』に勝つ事にこだわっていた、かつての日々が懐かしい」


「ええ私も。

 ただ『姉』より優秀になって道場を継ぐ事に、必死だった。

 でも今は、そのくらい(・・・・・)の事(・・)に夢中だった自分が、遠い過去みたい」


「重荷、を背負ってしまったからな……」


「決して表に出ることがない、帝国最強の剣士。

 そんな、あの方(・・・)の秘技を伝授(でんじゅ)された、たった2人の継承者」


「ああ、俺たちは、その価値を示さなければならない」



凛としたお互いへの信頼の表情は、『戦友』という呼び名が相応しい。

その大事な『戦友』を、送り出すための儀式だった。



「帝国存亡の危機を闇から闇に(ほおむ)ってきた、帝室直属の精鋭中の精鋭。

 すすんで泥をかぶり、人知れず闇に(ぼっ)する事も(いと)わない」


そんな(・・・)恩師(コーチ)であっても。

 自ら編み出した秘技が、自分ひとりの代で途絶(とだ)える事を『()しい』と(なげ)かれた」


「罪なき人々の笑顔を守るため。

 金銭(きんせん)栄達(えいたつ)名誉(めいよ)も、全てを投げ捨てた高潔な(・・・)恩師(コーチ)の、唯一の望み」


「そして、才能と素質を備えながらも、愚かにもそれを腐らせ、自暴自棄になった学生2人と出会った」



ここ数ヶ月、ロックの元で指導を受けていた魔剣士科の2年生の男女。

オズワルドとマチルダは、2人して(うた)うように続ける。



「我々は、あの方の期待に、応えなければならない……っ」


「そして後世に伝えていかねば、ならない……っ!」



お互いに抱き合った体勢のまま、胸中に秘める激情に声を震わせる。



「この帝国の平穏を守るため ──」


「人知れず巨魔・巨悪と戦い続けた ──」



男女の生徒は、交互に告げ、最後には声をあわせて言う。



『── 最強の剣士が、(たし)かに居た事を!!』



── 軽装甲ごしの抱擁(ほうよう)を止めて、お互いに離れる。


そして、刈りあげ髪型の男子学生が、少しずれた装備の位置を正しながら口を開いた。



「武闘大会の勝敗も、学園での評価も、B学級(クラス)入りも、もはやどうでも良い。

 その様なちっぽけなプライドなど、全て些末(さまつ)にすぎん。

 我が運命に刻まれた、人生の命題は他にあったのだ」


「偉大なる恩師(コーチ)に、みっともない姿だけは見せられない。

 『秘技を受け継いだ者』として、相応しい(たたか)いをしなければならない。

 そうよね、『相棒(オズ)』?」



灰髪ボブカットの女子生徒は、腕組み告げた。


明るい金色短髪の男子生徒は、腰の競技用<正剣>(フォーマル)をギュッと握りしめて、部屋を出る。



「無論だ。

 ()ってくる」


()ってらっしゃい」



女子生徒は、静かに『戦友』にして『相棒』を見送った。





▲ ▽ ▲ ▽



大男のオズワルドが、闘技場メイン会場の石畳のステージに向かう。

すでに、石造りの舞台(ステージ)の階段の前で、対戦相手が待ちわびていた。



「よくぞ、逃げ出さずに俺の前に立ったな?

 なあ、デクの(ぼう)のオズワルドよぉっ」



明るい金髪を肩くらいまで伸ばした、長身細身。

それが、オズワルドの異母弟(おとうと)・マイケル=イシニーだった。



『キャァ~、マイケル(ミッキー)!』

『マイケル~、がんばれ~~!』

『イシニー先輩!』

『いいとこ見せろよ!』



会場からは、そんな歓声が飛んでくる。

イシニー家の子弟(むすこ)といえば、次期領主のマイケル=イシニーだ。


同学年の異母兄・オズワルドを応援する声など、全くない。



『大穴のマグレ勝ち上がりなんて、瞬殺だ!』

『せめて、強化魔法1回分の5分は保てよ!』

『降参だけはするなよぉ、ワッハッハッ!』



飛んでくる声は、揶揄(やゆ)からかい(・・・・)ばかり。

同じ士官学校の生徒からもそう(・・)なのだから、為人(ひととなり)を知らない一般客の声なんて下卑たるものだ。



『C学級(クラス)の落ちこぼれ!』『引っ込めぇ』『大穴かけてんだ、負けたブッ殺す!』『死ぬ気で闘えっ』『さっさと負けろザコ!』『無能兄貴!』『弟にケガさせんなよ!』



「まったく……。

 ここに立つ ── 闘技場(コロシアム)のメイン会場に立つ ── その重圧を知らない連中が、好き勝手に吠えやがる」



意外な事に、異母弟マイケルは観客のブーイングじみた声に、顔をしかめる。



「まあ正直、オズワルド、お前よくやったよ」



思いがけない言葉が、競争相手(おとうと)からかけられた。



「何……?」


「師匠の副団長たちも ──

 ── いや、お前の母親だって、ここまで期待してなかったろ?」



異母弟マイケルは、肩をすくめて微苦笑。

彼は、歌手であり女優だった第2夫人(ゆず)りの、男ながらの美貌で語りかけてくる。



「帝国西部の、中央が目もくれない田舎貴族・イシニー家の子弟(してい)2人が、そろって武闘大会の学生枠トーナメント戦に出場。

 お前に見向きもしなかった、親父や祖父さんだって、今頃は(はな)高々(たかだか)だ。

 ここで(オレ)に負けても、『当家(ウチ)子息(セガレ)は2人そろって武闘大会出場』って社交界でベラベラ自慢するだろう。

 そうなれば、半兄(オマエ)だって、騎士団でそれなりの役職(ポスト)がもらえるさ」


「……マイケル、何が言いたい?」


異母兄弟(きょうだい)(つぶ)しあうなんてバカらしい ──

 ── つまり、そう言ってるんだよ」


「勝ちを、譲れと?」


「いやいや。

 バカ言うな、オズワルド」



異母弟マイケルは、軽く笑って片手を振る。



「俺とお前の勝敗なんて、最初から(・・・・)決まって(・・・・)いる(・・)

 それとも、まさか多少鍛えた程度で、お前なんかが俺に勝てるとでも?

 年末の軍事演習会の、繰り返しになるだけだ」


「…………」


「俺だって、次は決勝戦でA学級(クラス)と対戦。

 しかも、<御三家>直系が相手だ。

 この俺を、『我が家の次期当主サマ』を、スタミナを温存させて万全の体調で、決勝にいかせてやれよ。

 それが麗し『兄弟愛』ってヤツだろ、なあ異母兄(アニキ)?」



黙って話を聞いていたオズワルドは、ひと言で否定。



()(ごと)だな」


「オォイ! 解ってんのか、落ちこぼれ!

 俺に! 次期領主に! 逆らうって事の意味を!」



異母弟マイケルの好青年の顔がはがれ落ち、下卑(げび)たる素顔があらわになる。



「お前、閑職(かんしょく)にやられるなんて程度じゃすまねーぞ!

 要職なんて一生()けない、穀潰しの飼い殺しだ!

 それが嫌なら、ちっとは将来の事を考えて利口に動けよ、猪突猛進の突撃バカ野郎が!」


「利口に、ねぇ……」



オズワルドは苦笑い。

それは、数ヶ月前の『地下組織のアジトにたった2人で殴り込み』というバカな行動を思い出した、自省(じせい)のものだった。


しかし、異母弟は自分が笑われたと勘違いしたのか、いよいよ口調が激しくなる。



愚兄(ザコ)がいくらクソ粘りしようが、結果は同じなんだよ!

 時間のムダだ、労力のムダ!

 誰にも期待されてねえ!」


「……ようやく、お前らしくなったな」



昔から、こうだった。

顔をあわせるたびに、にらみ合い、怒鳴り合い。

敵対心むき出しの半弟(おとうと)との、いつものやり取り。



「見たか、お前の倍率(オッズ)

 単純勝敗すら、さっきの試合が19倍! 今度は27倍!

 準決勝まで勝ち上がってるのに、賭けの倍率が上がってる意味、解ってんのか!

 さっきの準々決勝の1.5倍以上、お前(オズワルド)がこの試合で負けるって観客全員が確信して ──」



── 『両選手、時間です』

── 『闘技台(ステージ)に上がって』



司会の拡声器(マイク)の指示が、異母弟マイケルの言葉をさえぎり、試合開始の準備を(うなが)す。



『おお~っと、前哨戦として、激しい言葉が飛び交っていました。

 まさに骨肉の争いだ!

 前評判通り、“B学級(クラス)” 弟マイケル選手が堅実に勝ち進めるのか!

 それとも、初戦と準々決勝の2連続で大どんでん返しを続けてきた、“C学級(クラス)” 兄オズワルド選手に軍配が上がるのか!』



イシニー家の異母兄弟が、それぞれ装備の最終確認をする間に、解説が観客を盛り上げる。



── 『まさに注目の準決勝の第2試合!』

── 『異母兄弟2人の家督(かとく)争いの結果はいかに!』

── 『今、試合開始です!!』





▲ ▽ ▲ ▽



強面で屈強な半兄・オズワルド。

美貌で長身の半弟・マイケル。


イシニー家の子弟2人の試合は、おおかたの予想通りという様相(ようそう)だった。



── 『攻める、攻める、攻める!』

── 『マイケル選手、まさに疾風の身のこなしっ』

── 『弟の猛攻に、兄はカメのように守りを固めるだけ!』



拡声器(マイク)から熱い実況音声が響く。



【中級・身体強化】の防戦一方で、今はまだかろうじて(・・・・・)耐えているオズワルド。

【上級・身体強化】で素早く駆け回り、()()なく斬りつける異母弟マイケル。



今度は、解説の落ち着いた音声が拡声器(マイク)から流れてきた。



── 『オズワルド選手は、初戦と準々決勝の2戦連続で大番狂わせ』

── 『2年男子トーナメントの“台風の目(ダークホース)”と噂されました』

── 『しかし、やはり、“巴環許し(中級魔剣士)” と “五環許し(特級魔剣士)” とでは、差がありすぎますね』



「なるほど、手強い……っ」


「何を! 上から目線で!!」



落ち着いて堅牢な防御をする異母兄。

対して、攻めあぐねているマイケルは、焦っているようでもある。



── 『しかし、マイケル選手は杖剣型(テクニック)のはず』

── 『なのに、魔法攻撃を使用しませんね』


── 『2人は幼い頃から競い続けてきた、異母兄弟』

── 『それだけ相手の出方を解っていて、自信があるという事でしょう』


── 『なるほど、攻撃魔法は温存ですか』

── 『次の決勝のため切り札は伏せておく、と?』


── 『あるいは、剣術だけでも上回る、そういう事を見せつけたい』

── 『相手(アニ)より2等級は上回る、特級魔剣士としての矜持(プライド)かもしれませんね』



実況と解説の2人は、試合展開をそう解釈する。



── 魔剣士の『三竦(さんすく)み』では、杖剣型(テクニック)剛力型(パワー)に優る。

その理由は、『魔法攻撃の有無』と一般的に言われている。


例えば、高機動力を活かして遠距離から一方的に魔法攻撃を行う。

あるいは、速剣の弱点とされる低威力(かるさ)を魔法剣で補う。


杖剣型(テクニック)が得意とする、魔法の多重使用による戦闘だ。

魔剣士の基礎である【身体強化】魔法と、細心の注意が必要な攻撃魔法を併用する。


攻撃魔法(ソレ)こそが同格同士で、7対3の勝敗差が生まれる要因。



だから(・・・)こそ(・・)攻撃魔法(ソレ)を使わずに完勝する。

剣術の腕だけでも上回る事を、衆人環視の中で見せつけたい。



「フッ、異母弟(オマエ)らしい……」



オズワルドは、小さく笑う。

そして、この試合で初めて攻勢に出た。



「そちらが来ないなら、こちらから行くぞ!」


「ハッ! 中級・剛力型(パワー)(どん)ガメが、今さら何を!」



屈強な兄が、試合用<正剣>(フォーマル)を横に振りかぶったまま、距離を詰める。



「くらえぇぇぇ! これぞ、我が奥義! ──」


「── な、何ぃ!?」



突進してくるのは、【中級・身体強化:剛力型(パワー)】の格下魔剣士。

速力(スピード)で上回る【上級・身体強化:杖剣型(テクニック)】であれば、ギリギリで回避して反撃が間に合う。


そう軽く考えたからこそ、異母弟マイケルは意表を突かれた。



「ふぅぅぅん!」



気迫を込めて突き出される片手に、オレンジの魔力の光が集まる!

手の平の中に魔法の術式<法輪(リング)>が形成される。



「── じ、自力詠唱!?

 半兄(オマエ)のような力任(ちからまか)せの不出来(ふでき)が、戦闘中に魔法を自力詠唱(キャスト)だとぉ!!」



異母弟マイケルは、半ば悲鳴のような声を上げて、全力で飛び退(しりぞ)く。

着地に失敗して転びかけ、試合用<正剣>(フォーマル)を杖代わりに、立ち上がる。



「クゥ……ッ、 ──」


「── ハァァ!」



異母弟マイケルは、とっさに目を細めて、剣の腹を顔の前に上げて防御態勢。

オズワルドの片手で<法輪(リング)>が回転を終えて、『チリン!』と鈴のような起動音。


ポワン……ッと白い光が(とも)り、数秒も()たずに消え去った。



「ハ……?」



長身の異母弟が肩すかしに固まっている間に、屈強な兄は間合いを詰めて斬りかかる。

防御はされたが、ガギン!と剛力型(パワー)の魔剣士だかこその、重い音が響く。



「ハ・ハ・ハァ~!

 驚いたか、この我が奥義に!!」


「ふ、ふざけるなよ、テメーぇぇ!!」



カ・カ・カン!と競技用<正剣>(フォーマル)が素早く打ち合い、(はじ)き合う。

異母弟マイケルの体勢が崩れていたのも、最初の数合(すうごう)だけ。



「攻撃魔法でも、何でもない!

 ただの、初級の生活魔法じゃねーか、ふざけんなこの!!」


「ふん、初級魔法と見くびるなよ、半弟(おとうと)よ。

 照明(あかり)(とも)すだけの【松明(トーチ)】でも、熟練の使い手なら必勝の支援となり()るぞ?」


「知るか、ボケが!!」



撃ち合う斬撃が15を越えた頃には、異母弟マイケルは完全に調子を取り戻す。

長身の美男子は、刺突(ツキ)の連続で距離を離し、石造りの競技舞台(ステージ)の一番端まで逃げ去った。


そこから下に落ちれば敗北となる、ステージの舞台際(ぶたいぎわ)だ。

そこで、右手の一番上の<魔導具(うでわ)>に()れる。



「もういい!

 これ以上、『落ちこぼれ(オズワルド)』なんかに付き合ってられるか!

 お前みたいな愚兄(クズ)、この特級で瞬殺にしてやる!!」



叫び終わる頃に、『カン!』と拍子木のような起動音。

免許皆伝となった魔剣士だけが持つ『切り札』、【特級・身体強化】の魔法が発動した。





▲ ▽ ▲ ▽



キン!キン!キン!キン!……


石造りの闘技台(ステージ)の上で、金属の悲鳴が絶え間なく響き続ける。



── 『さすがはB学級の生徒、若くして特級の魔剣士!』

── 『マイケル選手、疾風のスピードを、超・疾風へとさらに加速っ』


── 『杖剣型(テクニック)は、疾駆型(スピード)剛力型(パワー)の中間性能だと良く言われます』

── 『しかしながら、特級となれば上級の疾駆型(スピード)にも匹敵する速度ですね』


── 『ええ、すさまじい機動力! まさに斬り裂く風魔法のようだ!』

── 『これは決着も、もはや時間の問題か!?』



駆け抜けながら斬りつける、いわば『走行剣』。

それは、一撃必殺を狙うと言うより、徐々に相手の体力を削る種の技。


つまり、一瞬の隙を狙う、虚構(フェイント)混じりの連続攻撃だ。



── 『オズワルド選手も、よく防いでいますが……』



解説は、何かを危惧する口調。

その心配は、数秒もなく的中した。



「ク……ッ、グハッ」



異母弟マイケルの『走行剣』で、オズワルドが大きく崩れる。



── 『あ! なるほど、身体強化魔法の時間切れ!』

── 『これはピンチだ、オズワルド選手!』



オズワルドの屈強な背から、魔法陣が消え去っていた。



『レッツゴー! マイケ~~ル!』『やっちまえ!』『クソが! 死ね大穴!』『きゃ~~、わたしのマイケル(ミッキー)』『マイケル(ミッキー)かっこいい!』『やっぱ、本命!』『単純勝利(タンショウ)に金貨()けたんだぞ』『頼む、C学級(クラス)の誇り!』『ムダに期待させやがって、この野郎!』『イシニー先輩っ!』



そんな歓声や罵声と共に響いてくる、口笛や拍手。

異母弟マイケルは、余裕を見せつけるように、振り返って観客に手を振り、ブラブラと歩み寄る。



「終わりだ、愚兄(クズ)

 身の程知らずが次期領主サマに逆らったんだ。

 しばらく地下牢で謹慎でもしとくか、お前?

 ついでに、テメーみたいな産廃(ゴミ)を産んだ気位ばかりのクソババアも同罪だ。

 よかったな、久しぶりに母子(おやこ)水入(みずい)らず、ママとオッパイにでも甘えて来いよ」



嗜虐(しぎゃく)の笑みで、悪態を吐き捨てる。


オズワルドは、異母弟の軽口には付き合わず、試合用<正剣>(フォーマル)を横振りに大きく構える。

そして、片手を突き出し、



「今度こそ! 我が、奥義を……っ」


「そんな! 虚仮威(こけおど)しが! 2度も ──」



法輪(リング)>が回転し『チリン!』と起動音。



「── チィ……ッ!

 しかも! 不発かよ!!」



異母弟マイケルは、万が一と攻撃魔法を警戒し、左へ回避。

しかし、何の変化もない様子に、不機嫌そうに吐き捨てた。



「一族の恥さらしがぁ、死ねぇ~~っ」



苛立ちで引きつる形相(ぎょうそう)で、側面から超速の疾駆で間合いを詰める。

そして、叩き潰すように上段の撃剣(けん)を、渾身(こんしん)(ちから)で ──



恩師(コーチ)より(たまわ)った秘技、【(はら)い】」



── ドオォォ……ン!と破裂音じみた横薙(よこな)ぎの一撃で、異母弟(・・・)マイケル(・・・・)()吹き飛んだ!



一瞬で十数mほど吹っ飛ばされ、ゴロゴロと砂地(・・)を転がる。



「あぁ……っ

 ガァ……ッ、ゴハァ……ゲフッ、ゲェェ~……ッ

 ── な、なん、だ……い、今の、は……」



長身の美青年は、かろうじて身を起こす。

しかし、無事とはほど遠く、真っ青な顔で嘔吐(おうと)を繰り返す。


彼は口元をおさえ、青ざめた顔をしかめて、気合いを入れる。

そして、剣を(つえ)()わりにして立とうとするが、剣身は(なか)ばで千切れている。

結局は、ガクガクと足が震えるばかりで、ろくに立ち上がる事もできない。



── 桁外(けたはずれ)れの剛の一撃、秘技【(はら)い】。


それは、盾代わりに防御した試合用<正剣>(フォーマル)を破壊した上に、さらに式典用の<祈赤銅(プラヤロイ)>軽鎧をも強撃して、戦闘不能になる程の激しい衝撃を与えたらしい。



誰がどう見ても、異母弟マイケルの敗北だ。



「才能にあぐらをかいた愚弟(オマエ)ごとき、剣術だけで圧倒する事もできたが……

 それでは、恩師(コーチ)の秘技を継承した『証』(あかし)にはならないからな」



オズワルドはそうつぶやくと、競技舞台(ステージ)(がい)への落下で敗北した異母弟(マイケル)から視線を外す。

そして、勝者の礼儀として、審判と上座へそれぞれ一礼して、去って行く。


本人が立ち去って、ようやく実況と解説が、声を上げる。



── 『……よ、予想外の結末になりました』


── 『な、なんなんでしょう、さっきの技は? いや魔法、なのか?』



観客など、いまだに静まりかえっていて、ざわめきさえ聞こえてこない。


それほどの、衝撃の幕引きだった。




▲ ▽ ▲ ▽



控え室の前で、男女は再会する。



「さっきの虚の言動(フェイント)

 なんか恩師(コーチ)っぽくて、良かったわよ?」


「止めろ、『相棒』(マチルダ)

 俺では、あの方の足元にも及ばん事は、重々承知している」


「だから、よ。

 私達は、秘技の継承者なんだから。

 あの方に、そう(・・)望んで(・・・)いただいたのだから。

 少しでも、近づく努力をしなくちゃ、ね?」


「そうだな。

 俺も、『遅延発動(ディレイ)』を練習した甲斐(かい)があった」


「── じゃ。

 次は、わたし。

 ()ってくるわ」


「ああ、()ってこい」



今度は、女子生徒の番だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] うん、熱いね。 ツッコミどころ多いけど、オズワルドとマチルダの成長を感じられてオヂサン嬉しいよ・・・
[良い点] 更新お疲れ様です。 あ、あれ?何かオズワルドとマチルダがめちゃカッコいい感じになっとる? ま、まぁ主人公たるロックが鍛えた(?)訳ですからね!こうなるのは解ってましたよ?(知ったかぶり …
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