185:レッツ・ゴー!
<帝都>の目玉施設、闘技場。
軍事要塞か、巨大な砦か。
そう思わせる偉容が、今日はお祭り騒ぎで人混みにごった返していた。
メインステージの喧噪が、ここ地下の選手控え室まで届いてくるほど。
選手が奮闘する度に、観客達の熱狂の声の音圧が、部屋のドアをビリビリと震わせた。
「ねえ、いけるでしょ? 『相棒』」
緊迫の満ちた室内で、選手の男女が抱き合っていた。
「ああ、為さねば。
俺たちは、為さねばならない……っ」
とはいっても、普通の男女関係とは様子が違う。
恋人達の、わずかな時間の逢瀬といった、色恋の甘い空気などわずかもない。
胸部装甲をぶつけあうように寄り添い。
そして、お互いの背中を叩き合う。
そんな2人の表情は、ひどく張り詰めていた。
「……フハッ、今となっては笑ってしまうな。
あんなに『弟』に勝つ事にこだわっていた、かつての日々が懐かしい」
「ええ私も。
ただ『姉』より優秀になって道場を継ぐ事に、必死だった。
でも今は、そのくらいの事に夢中だった自分が、遠い過去みたい」
「重荷、を背負ってしまったからな……」
「決して表に出ることがない、帝国最強の剣士。
そんな、あの方の秘技を伝授された、たった2人の継承者」
「ああ、俺たちは、その価値を示さなければならない」
凛としたお互いへの信頼の表情は、『戦友』という呼び名が相応しい。
その大事な『戦友』を、送り出すための儀式だった。
「帝国存亡の危機を闇から闇に葬ってきた、帝室直属の精鋭中の精鋭。
すすんで泥をかぶり、人知れず闇に没する事も厭わない」
「そんな恩師であっても。
自ら編み出した秘技が、自分ひとりの代で途絶える事を『惜しい』と嘆かれた」
「罪なき人々の笑顔を守るため。
金銭も栄達も名誉も、全てを投げ捨てた高潔な恩師の、唯一の望み」
「そして、才能と素質を備えながらも、愚かにもそれを腐らせ、自暴自棄になった学生2人と出会った」
ここ数ヶ月、ロックの元で指導を受けていた魔剣士科の2年生の男女。
オズワルドとマチルダは、2人して謳うように続ける。
「我々は、あの方の期待に、応えなければならない……っ」
「そして後世に伝えていかねば、ならない……っ!」
お互いに抱き合った体勢のまま、胸中に秘める激情に声を震わせる。
「この帝国の平穏を守るため ──」
「人知れず巨魔・巨悪と戦い続けた ──」
男女の生徒は、交互に告げ、最後には声をあわせて言う。
『── 最強の剣士が、確かに居た事を!!』
── 軽装甲ごしの抱擁を止めて、お互いに離れる。
そして、刈りあげ髪型の男子学生が、少しずれた装備の位置を正しながら口を開いた。
「武闘大会の勝敗も、学園での評価も、B学級入りも、もはやどうでも良い。
その様なちっぽけなプライドなど、全て些末にすぎん。
我が運命に刻まれた、人生の命題は他にあったのだ」
「偉大なる恩師に、みっともない姿だけは見せられない。
『秘技を受け継いだ者』として、相応しい闘いをしなければならない。
そうよね、『相棒』?」
灰髪ボブカットの女子生徒は、腕組み告げた。
明るい金色短髪の男子生徒は、腰の競技用<正剣>をギュッと握りしめて、部屋を出る。
「無論だ。
征ってくる」
「征ってらっしゃい」
女子生徒は、静かに『戦友』にして『相棒』を見送った。
▲ ▽ ▲ ▽
大男のオズワルドが、闘技場メイン会場の石畳のステージに向かう。
すでに、石造りの舞台の階段の前で、対戦相手が待ちわびていた。
「よくぞ、逃げ出さずに俺の前に立ったな?
なあ、デクの棒のオズワルドよぉっ」
明るい金髪を肩くらいまで伸ばした、長身細身。
それが、オズワルドの異母弟・マイケル=イシニーだった。
『キャァ~、マイケル!』
『マイケル~、がんばれ~~!』
『イシニー先輩!』
『いいとこ見せろよ!』
会場からは、そんな歓声が飛んでくる。
イシニー家の子弟といえば、次期領主のマイケル=イシニーだ。
同学年の異母兄・オズワルドを応援する声など、全くない。
『大穴のマグレ勝ち上がりなんて、瞬殺だ!』
『せめて、強化魔法1回分の5分は保てよ!』
『降参だけはするなよぉ、ワッハッハッ!』
飛んでくる声は、揶揄やからかいばかり。
同じ士官学校の生徒からもそうなのだから、為人を知らない一般客の声なんて下卑たるものだ。
『C学級の落ちこぼれ!』『引っ込めぇ』『大穴かけてんだ、負けたブッ殺す!』『死ぬ気で闘えっ』『さっさと負けろザコ!』『無能兄貴!』『弟にケガさせんなよ!』
「まったく……。
ここに立つ ── 闘技場のメイン会場に立つ ── その重圧を知らない連中が、好き勝手に吠えやがる」
意外な事に、異母弟マイケルは観客のブーイングじみた声に、顔をしかめる。
「まあ正直、オズワルド、お前よくやったよ」
思いがけない言葉が、競争相手からかけられた。
「何……?」
「師匠の副団長たちも ──
── いや、お前の母親だって、ここまで期待してなかったろ?」
異母弟マイケルは、肩をすくめて微苦笑。
彼は、歌手であり女優だった第2夫人譲りの、男ながらの美貌で語りかけてくる。
「帝国西部の、中央が目もくれない田舎貴族・イシニー家の子弟2人が、そろって武闘大会の学生枠トーナメント戦に出場。
お前に見向きもしなかった、親父や祖父さんだって、今頃は鼻高々だ。
ここで弟に負けても、『当家の子息は2人そろって武闘大会出場』って社交界でベラベラ自慢するだろう。
そうなれば、半兄だって、騎士団でそれなりの役職がもらえるさ」
「……マイケル、何が言いたい?」
「異母兄弟で潰しあうなんてバカらしい ──
── つまり、そう言ってるんだよ」
「勝ちを、譲れと?」
「いやいや。
バカ言うな、オズワルド」
異母弟マイケルは、軽く笑って片手を振る。
「俺とお前の勝敗なんて、最初から決まっている。
それとも、まさか多少鍛えた程度で、お前なんかが俺に勝てるとでも?
年末の軍事演習会の、繰り返しになるだけだ」
「…………」
「俺だって、次は決勝戦でA学級と対戦。
しかも、<御三家>直系が相手だ。
この俺を、『我が家の次期当主サマ』を、スタミナを温存させて万全の体調で、決勝にいかせてやれよ。
それが麗し『兄弟愛』ってヤツだろ、なあ異母兄?」
黙って話を聞いていたオズワルドは、ひと言で否定。
「戯れ言だな」
「オォイ! 解ってんのか、落ちこぼれ!
俺に! 次期領主に! 逆らうって事の意味を!」
異母弟マイケルの好青年の顔がはがれ落ち、下卑たる素顔があらわになる。
「お前、閑職にやられるなんて程度じゃすまねーぞ!
要職なんて一生就けない、穀潰しの飼い殺しだ!
それが嫌なら、ちっとは将来の事を考えて利口に動けよ、猪突猛進の突撃バカ野郎が!」
「利口に、ねぇ……」
オズワルドは苦笑い。
それは、数ヶ月前の『地下組織のアジトにたった2人で殴り込み』というバカな行動を思い出した、自省のものだった。
しかし、異母弟は自分が笑われたと勘違いしたのか、いよいよ口調が激しくなる。
「愚兄がいくらクソ粘りしようが、結果は同じなんだよ!
時間のムダだ、労力のムダ!
誰にも期待されてねえ!」
「……ようやく、お前らしくなったな」
昔から、こうだった。
顔をあわせるたびに、にらみ合い、怒鳴り合い。
敵対心むき出しの半弟との、いつものやり取り。
「見たか、お前の倍率!
単純勝敗すら、さっきの試合が19倍! 今度は27倍!
準決勝まで勝ち上がってるのに、賭けの倍率が上がってる意味、解ってんのか!
さっきの準々決勝の1.5倍以上、お前がこの試合で負けるって観客全員が確信して ──」
── 『両選手、時間です』
── 『闘技台に上がって』
司会の拡声器の指示が、異母弟マイケルの言葉をさえぎり、試合開始の準備を促す。
『おお~っと、前哨戦として、激しい言葉が飛び交っていました。
まさに骨肉の争いだ!
前評判通り、“B学級” 弟マイケル選手が堅実に勝ち進めるのか!
それとも、初戦と準々決勝の2連続で大どんでん返しを続けてきた、“C学級” 兄オズワルド選手に軍配が上がるのか!』
イシニー家の異母兄弟が、それぞれ装備の最終確認をする間に、解説が観客を盛り上げる。
── 『まさに注目の準決勝の第2試合!』
── 『異母兄弟2人の家督争いの結果はいかに!』
── 『今、試合開始です!!』
▲ ▽ ▲ ▽
強面で屈強な半兄・オズワルド。
美貌で長身の半弟・マイケル。
イシニー家の子弟2人の試合は、おおかたの予想通りという様相だった。
── 『攻める、攻める、攻める!』
── 『マイケル選手、まさに疾風の身のこなしっ』
── 『弟の猛攻に、兄はカメのように守りを固めるだけ!』
拡声器から熱い実況音声が響く。
【中級・身体強化】の防戦一方で、今はまだかろうじて耐えているオズワルド。
【上級・身体強化】で素早く駆け回り、絶え間なく斬りつける異母弟マイケル。
今度は、解説の落ち着いた音声が拡声器から流れてきた。
── 『オズワルド選手は、初戦と準々決勝の2戦連続で大番狂わせ』
── 『2年男子トーナメントの“台風の目”と噂されました』
── 『しかし、やはり、“巴環許し” と “五環許し” とでは、差がありすぎますね』
「なるほど、手強い……っ」
「何を! 上から目線で!!」
落ち着いて堅牢な防御をする異母兄。
対して、攻めあぐねているマイケルは、焦っているようでもある。
── 『しかし、マイケル選手は杖剣型のはず』
── 『なのに、魔法攻撃を使用しませんね』
── 『2人は幼い頃から競い続けてきた、異母兄弟』
── 『それだけ相手の出方を解っていて、自信があるという事でしょう』
── 『なるほど、攻撃魔法は温存ですか』
── 『次の決勝のため切り札は伏せておく、と?』
── 『あるいは、剣術だけでも上回る、そういう事を見せつけたい』
── 『相手より2等級は上回る、特級魔剣士としての矜持かもしれませんね』
実況と解説の2人は、試合展開をそう解釈する。
── 魔剣士の『三竦み』では、杖剣型が剛力型に優る。
その理由は、『魔法攻撃の有無』と一般的に言われている。
例えば、高機動力を活かして遠距離から一方的に魔法攻撃を行う。
あるいは、速剣の弱点とされる低威力を魔法剣で補う。
杖剣型が得意とする、魔法の多重使用による戦闘だ。
魔剣士の基礎である【身体強化】魔法と、細心の注意が必要な攻撃魔法を併用する。
攻撃魔法こそが同格同士で、7対3の勝敗差が生まれる要因。
だからこそ、攻撃魔法を使わずに完勝する。
剣術の腕だけでも上回る事を、衆人環視の中で見せつけたい。
「フッ、異母弟らしい……」
オズワルドは、小さく笑う。
そして、この試合で初めて攻勢に出た。
「そちらが来ないなら、こちらから行くぞ!」
「ハッ! 中級・剛力型の鈍ガメが、今さら何を!」
屈強な兄が、試合用<正剣>を横に振りかぶったまま、距離を詰める。
「くらえぇぇぇ! これぞ、我が奥義! ──」
「── な、何ぃ!?」
突進してくるのは、【中級・身体強化:剛力型】の格下魔剣士。
速力で上回る【上級・身体強化:杖剣型】であれば、ギリギリで回避して反撃が間に合う。
そう軽く考えたからこそ、異母弟マイケルは意表を突かれた。
「ふぅぅぅん!」
気迫を込めて突き出される片手に、オレンジの魔力の光が集まる!
手の平の中に魔法の術式<法輪>が形成される。
「── じ、自力詠唱!?
半兄のような力任せの不出来が、戦闘中に魔法を自力詠唱だとぉ!!」
異母弟マイケルは、半ば悲鳴のような声を上げて、全力で飛び退く。
着地に失敗して転びかけ、試合用<正剣>を杖代わりに、立ち上がる。
「クゥ……ッ、 ──」
「── ハァァ!」
異母弟マイケルは、とっさに目を細めて、剣の腹を顔の前に上げて防御態勢。
オズワルドの片手で<法輪>が回転を終えて、『チリン!』と鈴のような起動音。
ポワン……ッと白い光が灯り、数秒も保たずに消え去った。
「ハ……?」
長身の異母弟が肩すかしに固まっている間に、屈強な兄は間合いを詰めて斬りかかる。
防御はされたが、ガギン!と剛力型の魔剣士だかこその、重い音が響く。
「ハ・ハ・ハァ~!
驚いたか、この我が奥義に!!」
「ふ、ふざけるなよ、テメーぇぇ!!」
カ・カ・カン!と競技用<正剣>が素早く打ち合い、弾き合う。
異母弟マイケルの体勢が崩れていたのも、最初の数合だけ。
「攻撃魔法でも、何でもない!
ただの、初級の生活魔法じゃねーか、ふざけんなこの!!」
「ふん、初級魔法と見くびるなよ、半弟よ。
照明を灯すだけの【松明】でも、熟練の使い手なら必勝の支援となり得るぞ?」
「知るか、ボケが!!」
撃ち合う斬撃が15を越えた頃には、異母弟マイケルは完全に調子を取り戻す。
長身の美男子は、刺突の連続で距離を離し、石造りの競技舞台の一番端まで逃げ去った。
そこから下に落ちれば敗北となる、ステージの舞台際だ。
そこで、右手の一番上の<魔導具>に触れる。
「もういい!
これ以上、『落ちこぼれ』なんかに付き合ってられるか!
お前みたいな愚兄、この特級で瞬殺にしてやる!!」
叫び終わる頃に、『カン!』と拍子木のような起動音。
免許皆伝となった魔剣士だけが持つ『切り札』、【特級・身体強化】の魔法が発動した。
▲ ▽ ▲ ▽
キン!キン!キン!キン!……
石造りの闘技台の上で、金属の悲鳴が絶え間なく響き続ける。
── 『さすがはB学級の生徒、若くして特級の魔剣士!』
── 『マイケル選手、疾風のスピードを、超・疾風へとさらに加速っ』
── 『杖剣型は、疾駆型と剛力型の中間性能だと良く言われます』
── 『しかしながら、特級となれば上級の疾駆型にも匹敵する速度ですね』
── 『ええ、すさまじい機動力! まさに斬り裂く風魔法のようだ!』
── 『これは決着も、もはや時間の問題か!?』
駆け抜けながら斬りつける、いわば『走行剣』。
それは、一撃必殺を狙うと言うより、徐々に相手の体力を削る種の技。
つまり、一瞬の隙を狙う、虚構混じりの連続攻撃だ。
── 『オズワルド選手も、よく防いでいますが……』
解説は、何かを危惧する口調。
その心配は、数秒もなく的中した。
「ク……ッ、グハッ」
異母弟マイケルの『走行剣』で、オズワルドが大きく崩れる。
── 『あ! なるほど、身体強化魔法の時間切れ!』
── 『これはピンチだ、オズワルド選手!』
オズワルドの屈強な背から、魔法陣が消え去っていた。
『レッツゴー! マイケ~~ル!』『やっちまえ!』『クソが! 死ね大穴!』『きゃ~~、わたしのマイケル』『マイケルかっこいい!』『やっぱ、本命!』『単純勝利に金貨賭けたんだぞ』『頼む、C学級の誇り!』『ムダに期待させやがって、この野郎!』『イシニー先輩っ!』
そんな歓声や罵声と共に響いてくる、口笛や拍手。
異母弟マイケルは、余裕を見せつけるように、振り返って観客に手を振り、ブラブラと歩み寄る。
「終わりだ、愚兄。
身の程知らずが次期領主サマに逆らったんだ。
しばらく地下牢で謹慎でもしとくか、お前?
ついでに、テメーみたいな産廃を産んだ気位ばかりのクソババアも同罪だ。
よかったな、久しぶりに母子水入らず、ママとオッパイにでも甘えて来いよ」
嗜虐の笑みで、悪態を吐き捨てる。
オズワルドは、異母弟の軽口には付き合わず、試合用<正剣>を横振りに大きく構える。
そして、片手を突き出し、
「今度こそ! 我が、奥義を……っ」
「そんな! 虚仮威しが! 2度も ──」
<法輪>が回転し『チリン!』と起動音。
「── チィ……ッ!
しかも! 不発かよ!!」
異母弟マイケルは、万が一と攻撃魔法を警戒し、左へ回避。
しかし、何の変化もない様子に、不機嫌そうに吐き捨てた。
「一族の恥さらしがぁ、死ねぇ~~っ」
苛立ちで引きつる形相で、側面から超速の疾駆で間合いを詰める。
そして、叩き潰すように上段の撃剣を、渾身の力で ──
「恩師より賜った秘技、【払い】」
── ドオォォ……ン!と破裂音じみた横薙ぎの一撃で、異母弟マイケルが吹き飛んだ!
一瞬で十数mほど吹っ飛ばされ、ゴロゴロと砂地を転がる。
「あぁ……っ
ガァ……ッ、ゴハァ……ゲフッ、ゲェェ~……ッ
── な、なん、だ……い、今の、は……」
長身の美青年は、かろうじて身を起こす。
しかし、無事とはほど遠く、真っ青な顔で嘔吐を繰り返す。
彼は口元をおさえ、青ざめた顔をしかめて、気合いを入れる。
そして、剣を杖代わりにして立とうとするが、剣身は半ばで千切れている。
結局は、ガクガクと足が震えるばかりで、ろくに立ち上がる事もできない。
── 桁外れの剛の一撃、秘技【払い】。
それは、盾代わりに防御した試合用<正剣>を破壊した上に、さらに式典用の<祈赤銅>軽鎧をも強撃して、戦闘不能になる程の激しい衝撃を与えたらしい。
誰がどう見ても、異母弟マイケルの敗北だ。
「才能にあぐらをかいた愚弟ごとき、剣術だけで圧倒する事もできたが……
それでは、恩師の秘技を継承した『証』にはならないからな」
オズワルドはそうつぶやくと、競技舞台外への落下で敗北した異母弟から視線を外す。
そして、勝者の礼儀として、審判と上座へそれぞれ一礼して、去って行く。
本人が立ち去って、ようやく実況と解説が、声を上げる。
── 『……よ、予想外の結末になりました』
── 『な、なんなんでしょう、さっきの技は? いや魔法、なのか?』
観客など、いまだに静まりかえっていて、ざわめきさえ聞こえてこない。
それほどの、衝撃の幕引きだった。
▲ ▽ ▲ ▽
控え室の前で、男女は再会する。
「さっきの虚の言動。
なんか恩師っぽくて、良かったわよ?」
「止めろ、『相棒』。
俺では、あの方の足元にも及ばん事は、重々承知している」
「だから、よ。
私達は、秘技の継承者なんだから。
あの方に、そう望んでいただいたのだから。
少しでも、近づく努力をしなくちゃ、ね?」
「そうだな。
俺も、『遅延発動』を練習した甲斐があった」
「── じゃ。
次は、わたし。
征ってくるわ」
「ああ、征ってこい」
今度は、女子生徒の番だった。




