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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 8:闘技場ステージ

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181/236

181:道場をやぶろう(超級編)

!作者注釈!

2024/06/23 覚醒時に回想シーンを数行追加

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




── 『バ、バカな……っ』


── 『だって……直撃……』


── 『そんな……立ち上がる……なんて』



(── ハァッ! いま誰か『バカ』って言った!?

 前世ニッポンの頃から兄弟子(にいちゃん)は、パソコンに詳しい知的(インテリ)な事務員だったって、いつも言ってるでしょ~うがぁ!)



そんな怒りで、気力充填(じゅうてん)



「フハッ、不幸中の幸いって奴だな……っ」



口の中だけで、言葉を転がす。


アゼリア祖父・ベニート=ミラーは、老練の剣士だ。

さすがは、<帝国八流派>の最古参!

さすがは、<御三家>が<封剣流>本家の当主!



(だが、コイツ!

 当流派(ウチ)剣帝(ジジイ)ほどじゃ、無い(ねぇ)……っ)



思わず、安堵(あんど)の笑いがこぼれる。



── 『わ、笑ってる……っ』


── 『なんだ……あのガキ……』


── 『正気か……頭でも打ったのか……?』



おそらく、剣術Lv(レベル)80!

なるほど、帝都を守る<御三家>が<封剣流>の当主に相応(ふさわ)しい腕前!


この前の金ピカ爪の暗殺者、『ナントカ騎士(ナイト)』以上!?

知り合いの裏稼業拳士(・・)、『仮面仙人(バイトリーダー)』と同等以上!?


大抵の相手は一撃で蹴散(けちら)し、勝負にもならないだろう。



(たしかに、お前はバケモノみたいに強いジジイだ!

 だが俺は、もっとバケモノみたいな剣帝(ジジイ)を知ってるんだよぉ!!)



コイツ相手なら、まだ(・・)勝ち目が(・・・・)ある(・・)

そんな希望が、全身に力をみなぎらせる。


数秒で呼吸を整え、全身の痛みをこらえ、立ち上がる。



「さて、どう攻めるか……」



── しかし実際、アゼリア祖父(このジジイ)が相手なら手堅い方法がある。


ただ逃げ回ればいい。

つまり、スタミナ勝負に持ち込めば、簡単に勝てる。


『老い』と『若さ』とはそういう物だ。

年齢40を過ぎれば、誰だって身体能力が衰える。


前世ニッポンの、運動選手(アスリート)だってそうだ。

プロスポーツ選手なんて、30代の後半で引退。

よほどのフィジカル・エリートだって、40代が限界だ。


瞬間的に高い運動能力を発揮できても、それが長い時間となると苦しくなる。

持久力、回復力なんかが、若い頃のようにはいかなくなる。


若い10代・20代なら、徹夜なんて平気だったはずなのに。

中年の30代・40代となったら、毎日の規則正しい生活でも、疲れが抜けなくなる。



(俺はなぁ!

 前世ニッポンでオッサン経験豊富(ほうふ)だから、そういうの(くわ)しいんだ!!)



だから、アゼリア祖父(このジジイ)に勝つには、逃げ回ればいい。

遠距離攻撃と逃走を繰り返し、追いかけっこで体力を消耗させ、スタミナ勝負に持ち込めばいい。



「今度はこっちからいくぞ、ジジイ!」



── だからこそ(・・・・・)あえて(・・・)俺から仕掛ける。


真っ向から切り結ぶ。

正面から剣を撃ち合う。

絶対に(・・・)逃げない(・・・・)



上手くやられた ──

弱みを突かれた ──

剣技では負けていない ──

 ── そんな言い逃れをさせない様に、愚直なほどに真っ向から。



(お前みたいな薄情者のクソジジイをボコボコにして反省させて!

 心から孫娘(リアちゃん)に『ゴメン』って言わせるために!

 俺は、今日ここ(・・)に立ってんだよぉ!!)



兄弟子(にいちゃん)を、無礼(ナメ)るな!





▲ ▽ ▲ ▽



最初から全開MAX(マックス)


そう思って、超・必殺技を自力詠唱(『チリン!』)



「── ヒュ……ァッ、一瞬千撃!!」



地面を滑るような歩法で間合いに入り、嵐のような高速乱撃を繰り出す。


そう!

俺の対人奥義【ゼロ三日月・乱舞】だ!


ガンッ・カカカカカッ・ギャギャギャギャッ・ズバーン!と終撃(シメ)のジャンプ・アッパー系斬撃 ──

 ── その一切が、完全に防がれてしまう。



「ヒ、ヒィ~ッ、ハ・ハ・ハァ!

 こんな超速剣の連撃もあるのか!

 しかも、魔法剣か何かで、斬撃の威力を高めている!?」



アゼリア祖父、大歓喜。



()いぞ小僧、もっとだ!

 もっと見せてみよぉっ!!」


「チィ……ッ

 全撃あっさり防いで喜ぶな、クソジジイが……!」



たしかに、ウチの剣帝(ジジイ)に近い達人には効かないと、最初から解っていた。

だが実際に、初見(しょけん)で防ぎきられると、さすがにイラッ☆とする。



── 『パ、パパァ~。 なんかロック、アイツおかしいわよっ!?』


── 『まぁ……、ほらロック君だし……。 なあアゼリア?』


── 『ええ、叔父(おじ)様。 お兄様ですし……』



なんか、カイお姉さんとかクルスさんとかアゼリアとかの、親族ほのぼの(・・・・)会話が聞こえた気がする。


しかし、俺にはその内容を気にしている余裕はない。


相手が、こっちの乱舞系必殺技の技後の硬直(スキ)を狙い、鍔迫(つばぜ)()いに持ち込もうとしてくるからだ。



「させるかぁ! ──」



俺は即座に、ジャンプ攻撃【序の三段目:()ね】を逆方向に、自力詠唱(『チリン!』)

後方10m程に逃げながら、空中でさらに自力詠唱2連続(『チ・チリン!』)



「── か・ら・の! 【秘剣・三日月(みかづき)】!」



俺は、空中で斬撃を飛ばす。



「それが、例の(・・)魔法剣(・・・)っ!

 世俗(ちまた)で『斬鉄の魔法剣』、『斬撃の魔導』などと呼ばれている物か!?」



アゼリア祖父(クソジジイ)は、驚くよりも嬉々とする。

両手持ちで訓練用<正剣>(フォーマル)を肩に(かつ)ぎ、大型魔物の太首(ふとくび)を叩き斬るような、渾身(こんしん)の構え。



「── カァ~~ッ!!」



特級魔剣士の大上段で、【三日月(みかづき)】はパリン!と木っ端微塵。


そう、この必殺技『飛ぶ斬撃(みかづき)』は、魔力量が極少(クソザコ)な俺でも多用できる事が設計思想(コンセプト)

だから、魔力消費量が最小限(・・・)すぎて(・・・)、ガラスのように(もろ)いのが欠点だ。


タイミング良く側面を狙えば、魔法攻撃どころか、物理攻撃でも簡単に破壊されてしまう。



(だが、その応手(おうしゅ)は折り込み済み!

 ダテに剣帝(ジジイ)超天才児(リアちゃん)と5年10年<ラピス山地>で修行してねーんだよ、俺はァ!)



「── か・ら・の! 【秘剣・速翼(はやぶさ)】ぁっ!」



地面に着地する寸前に、遅延発動(ディレイ)した飛翔突進必殺技。

アゼリア祖父へ向かって急接近、飛ぶ斬撃(みかづき)への対応直後の硬直(スキ)をつく。



「── ぁ、……は?」



しかし、俺の飛翔攻撃(はやぶさ)空振り(・・・)

魔力刃(みかづき)を破壊するため、渾身攻撃をしたアゼリア祖父(ベニート)の姿が煙のように消えていた。


── ゾッ、と恐怖がわき上がる。

瞬間、軌道変化で上昇したのは、思考や判断というより本能の領域。



「ガッ……ぁぁっ」



途端、右太股を斜めに走った、()けるような痛み!

すぐに飛翔高度を下げて、左足で着地。



「ククッ、まこと大した小僧よ。

 まさか、『寝技(ねわざ)』まで使わされるとはなぁっ」



そんな声に振り返れば。

寝転んだ体勢で模造剣(・・・)を振り抜いた、老剣士の姿があった。





▲ ▽ ▲ ▽



太股(ふともも)に、タオルを巻いて簡易的に止血処理。


広範囲に血が出ているが、傷はそんなに深くない。

おそらく筋肉にギリギリ届いてない、表皮(かわ)()いただけのかすり傷(・・・・)



「── ()ぃっっ……てぇ~~っ」



しかし、訓練用の模造剣(ナマクラ)斬られた(・・・・)傷跡(きずあと)は、ただの切り傷と違ってジンジンと()けるように痛い。



(ふ、ふざけんなよ、このクソジジイぃ……っ)



内心の怒りと悪態。

思わず声に出そうな程、激情がわき上がる。



── なんで模造剣で(・・・・)人体が(・・・)斬れてる(・・・・)んですかねぇ!

── 刃のない(・・・・)模造剣で(・・・・)斬っ(・・)ちゃう(・・・)とかもうねっ、真剣の存在意義がなくなっちゃうから!

── こんな(・・・)理不尽(・・・)が許されて良いワケ? いや良くないよね!(反語)

── つまりコレってアレだよね、いわゆるツールだよね!

── 絶対に、チートツール使っちゃってるよね!



思わず、天をにらむ。



── おい運営、あきらかな不正行為(チート)してる奴いるぞ!

── 今すぐ証拠のスクショ送るから!

── コイツBAN(バン)しろよ、は・や・く~!

── 運営(アカ)BAN(バン)()よ!



しかし、もちろん相手に『天使に連れ去られバイバイ』的な退場エフェクトが発生する事もない。



(ええ、そうです。

 皆さんご存じの通り、このクソ異世界は今日も通常営業です!

 ── 死ねばいいのに!!)



内心の悪態連発で、ストレス発散。

そして、右足の調子を確認しながら、ゆっくり立ち上がる。


そんな俺を待つように、アゼリア祖父・ベニートが数m先に立っていた。



「なるほど、ルドルフの奴が自慢するはずだ……。

 小僧 ── いや、『剣帝の一番弟子』よ。

 貴様に(・・・)敬意を表し、(オレ)も全力をつくそう」



静かな宣告。

静かな立ち姿。


青っぽい訓練用<正剣>(フォーマル)は、左手の逆手持ちで背後に回され、切っ先を天を向けるように真っ直ぐに立てられている。


まるで敵意がないかのような、武器を収めたようにも見える、構え。



「や、やべぇ……」



感じたのは、悪寒なんてレベルじゃない。

濃密な、死の気配。


今すぐ、回れ右して逃げ出したい。

(もちろん、そんな事しても背中から斬られるだけ!)

冷や汗が、ビッショリと背中を濡らす。



(かなり昔に、一度だけ。

 <ラピス山地>の家(山小屋)の庭先で、アゼリア叔父(クルスさん)が見せてくれたけど……。

 もう、構えた風格(ふうかく)からして、段違い(ダンチ)かよ!?)



この(おび)えの内心を、果たして、俺は顔に出さず隠し通せているんだろうか。



── 雷光の速剣『絶弦(ぜつげん)』。


楽器の弦が切れた時、運が悪ければ失明する事もあるという。

つまり、まばたき(・・・・)より速く眼球を襲う、鋼糸の鞭だ。


<封剣流>のこの(・・)曲芸(・・)は、その『(げん)断絶(だんぜつ)による(またた)きの一撃』を目指して作られた、試作(・・)らしい。


つまり、実用の剣技では無い。

速さばかりを突き詰めた結果、(ねら)い精度なんて運任(うんまかせ)せの次元(レベル)で、まるで実用に耐えない。

斬るために『刃筋(はすじ)を立てる』という剣術の基本さえも、おろそか。


最速で当たる(・・・)だけで、まともに斬れ(・・)もしない。

だから剣技未満の、曲芸(・・)であり試作(・・)



(── だが、この俺は(・・・・)ロックは(・・・・)知って(・・・)いる(・・)……っ!)



非実用的な曲芸(おアソビ)を、ひたすら磨き上げた結果 ──

 ── それこそが俺の『格ゲー技再現(ひっさつわざ)』だから!


そして、曲芸(おアソビ)が実用に至った時に『必殺技(即死攻撃)』と化す事も、熟知し(・・・)ている(・・・)!!



(おそらくアゼリア祖父(このクソジジイ)も、曲芸技『絶弦(ぜつげん)』を実用(そこ)まで()()げてやがる!)



まだ剣を(・・・・)持って(・・・)いない(・・・)右腕の筋肉が、今にも破裂しそうな様子を見て、そう確信する。


そんな俺の内心を見抜いたのか、アゼリア祖父は小さく笑う。



「フッ、これも逃げぬか……っ」



── ジャリ……ッと一歩、進み出る老剣士。


静かな動作の全てが、爆発までのカウントダウンにしか見えない。



「──フゥ……、スゥ……」



相手の静かな呼吸だけが、最後の頼り。


<封剣流>で言うところの『金輪手(かなわで)』(人差指(ひとさしゆび)と親指の輪で(つか)を握る)が、わずかに緩むのを、たしかに見た!


つまり、相手が背中に隠した剣先が傾き、倒れる90度(1/4)円回転を、開始。



(── どこだどこだ狙いを見極めろ完全敗北で心を折る一撃はどこを斬る頭か首か胸か腹かどこにくる早く見極めろ抜くのを見てからじゃ遅い小足と同じ抜く瞬間を予測してジャスガを決めろ ──)



俺の内心は、焦りと恐怖で混沌(カオス)の極地。



「── フッ……!」



ついに老剣士の口から、静かながら鋭い呼気(こき)!?


同時に、いくつもの動作が重なる。


左手の『金輪手(かなわで)』は完全に柄を離していて ──

左腰の位置に浮かぶ剣は回転の勢いを秘めていて ──

右手の人差(ひとさし)(なか)・親の三指(さんし)で丸い柄頭(つかがしら)つまみ(・・・) ──

右足の踏み込みが砂利を軽く鳴らす ──

体勢は半身構えに近いほど斜め ──


── つまり、前世ニッポンの抜刀術みたいな構えであり、動きだ。


まさに『収斂(しゅうれん)』か!?

世界を越えて、瞬速の剣技の追求は、よく()た動きに辿(たど)り着いたらしい!!




── 雷光の速剣『絶弦(ぜつげん)』が放たれる!



「── ゥ~……、ガッ!!」



俺も、気合いを爆発させて、ガムシャラな防御。

(もちろん、防御用のオリジナル魔法【序の三段目:()め】を使用の上で、だ)


正直、俺自身も、どこをどう防いだか覚えがない。

だがたしかに、『金属の(むち)』と化した青い模造剣<正剣>(フォーマル)を、跳ね上げる形で受け流したのだけは、間違いない。



老剣士はシワだらけの顔で、ホウッと笑う。



「真っ向から受け、さらに防いだか……。

 鮫革(サメかわ)()りの小盾(こだて)くらい、両断できるのだがな?」



そして、中空に跳ね上がった『金属の(むち)』 ── いや、模造剣<正剣>(フォーマル)を引き戻す。



「なるほど、()い」



鷲爪のような握りから、通常の両手持ちへ。

大上段構え。



婿(むこ)だっ ──」「── クソがぁっ」



絶技の直後に間髪おかず、まさかの『()太刀(たち)』。


俺の崩れた体勢では、特級魔剣士の疾駆の一撃までは、防ぎきれない。



「ガァ……ッ」



俺の全力防御はあっさり撃ち抜かれ、愛剣・ラセツ丸ごと脳天を痛撃された。






▲ ▽ ▲ ▽



砂利を踏み固めた地面を、ゴロゴロとまた転がされる。



「クソが……っ」



激痛とめまい、さらに視界に星。

脳天に食らったダメージは、簡単に抜けない。


だから、俺が上げた悪態はむしろ、そんな痛みを麻痺(まひ)させ、(おび)えを(はら)うための『怒り』。


だが、その裏には自分の不甲斐(ふがい)なさへの、自己嫌悪もある。



── <封剣流>本家道場のクズ連中なんて一撃決着(ワンパン)

── 意地悪ジジイなんて兄弟子(にいちゃん)がボコボコにしてやるさ!

── 誰が相手になろうと、リアちゃんを(まも)ってやる!



余裕シャクシャクと勝利をおさめて、そんなセリフを吐いてやりたかった。

だが、そんな簡単なワケがないとは、最初から解りきっていた。



「クソがぁ……っ!」



同年代女子に負けそうな、小柄な男児 ──

無力な一般市民にも小馬鹿にされる、極少の魔力量 ──

今世15年毎日必死に鍛えても、武術の才能なんて芽も出ない ──


── どこを切り取っても全く見る所のない、『魔剣士失格(ナマクラ剣士)』!


ああ、何故俺には、あと30センチほども上背がないのか!?

ああ、何故俺には、並の魔剣士の半分ほども魔力量がないのか!?

ああ、何故俺には、元師匠(ジジイ)妹弟子(アゼリア)の半分、いや1割でもいい、武の才能がないのか!?



この非才の身にあるのは、異性(オンナ)と間違われる迫力が欠片もない小綺麗な顔面と、前世ニッポンから続く諦めの悪すぎる性根だけ!



「クソがぁ~っ!!」



辺りを見渡せば、黒髪の道場生ばかり。


誰もが、才能と素質と魔力に恵まれている。

誰もが、特級の魔剣士として、五つの腕輪を無造作に付けている。


見下し。

嘲笑い。

失笑し。

呆れ果て。

見限り。

哀れむ。


そんな、いつもの視線に、嫌気がさす。

吐き気すらする。



── 『コイツ相手なら、まだ(・・)勝ち目が(・・・・)ある(・・)』だと!?



何を、寝ぼけてやがる!


腰痛で弱った時の元師匠(ジジイ)にも勝てない、俺が!

弱体の剣帝(それくらい)なら、簡単に下しかねないアゼリア祖父(このジジイ)を相手に!?



── ジャリ……ッと踏み出す音が聞こえて、現実に引き戻される。



「久しぶりに、()い若者を見た。

 口先だけでは無い、真実の鍛錬(たんれん)という物を。

 ── では、そろそろ終わらせるとしよう!」



アゼリア祖父から、攻撃の気配。


思わず、不用意に手がでる。

まったくの勝算もないままに、模造剣の<小剣>(ショート)を振っていた。



「く……っ」「ヒュッ」



鋭い呼気で、相手が後退して回避。

そしてすぐに前進と、ヒュンッと風切り音が下段から跳ね上がってくる。



「……あっ」



── <封剣流>の基本技『方風(かたかぜ)』4種の最後のひとつ、『西風(にしかぜ)三砂(みすな)』。


対人・対魔物を問わない、回避からのカウンター技だ。

敵の強撃をしゃがみで、あるいは後退でかわし、前進の勢いで加速させる斬り上げからの三連撃。



そして、この基本技こそが元<封剣流>門弟ルドルフの得意技であり ──

 ── それを磨き上げて到達したのが、剣帝(ししょう)極限(おうぎ)のひとつ『望星の撃剣(スターゲイザー)』だ。



(ああ……、結局っ)



斜め下から跳ね上がり、肋骨を叩き折ろうと迫る模造剣(ナマクラ)が、視界から消え。


なぜか、ほころび洗濯ヨレした粗末な平服の、白髪を伸ばした老いた男の背中が見えた。



(結局、俺は、師匠(アンタ)みたいにはなれないのか……)



もはや、涙すら出ない、乾いた諦念(ていねん)


それでも、と手を伸ばす。

それでも、と一歩踏み出す。

それでも、と背伸びをする。


この格ゲーひとつ無い、クソったれな異世界に生まれ落ちたばかりの、あの幼い日に心の底から憧れた、偉大なる背中。



── 『魔剣士(まけんし)!?』


── 『ああ、魔法と剣を使いこなし、魔物と戦う最前線の戦士じゃよ』


── 『ボクも! ボクもなりたい! おジイちゃんみたいな、スゴい魔剣士(まけんし)!』


── 『そうか……そう、言ってくれるか。 兄さんの、孫よ……』



必死に、不器用に、一生届かないと知らぬままに、ひたすら純粋に真似た。

そんな、あの日のように。


それへ向けて、もう一度だけ手を伸ばす。



── せめて指先だけでも届け、と願い。





▲ ▽ ▲ ▽



「── なっ!?」



何故か、アゼリア祖父が驚いている。



「……?」



どうしてだろう、と自問自答。

模造剣(ナマクラ)を持つ手のしびれと共に、答えが見つかる。



(ああ、そうか。

 俺が、相手が必倒と確信した撃剣を、軽く(・・)防いだ(・・・)からか……?)



さらに、その勢いを利用して大きく後退(バックジャンプ)した、……気がする。

だからか、やたらと相手との間合いが離れてしまっている。



「……別に、このくらい ──」



フハッと苦笑いが、漏れる。



(── このくらい、剣帝(ししょう)であれば、簡単にこなす(・・・)軽業(かるわざ)だろ……?)



まるで、亡霊でも見た、という相手の顔がさらに苦笑を誘う。



「ルドルフの小僧め!

 この局面で、『()け』よった!?」



(……おいおい、ジイさん。

 俺みたいな弱小(ザコ)ガキが粘ったからって、ちょっと驚きすぎだろ?)



相手は、ちょっと驚きすぎて、見るからにスキだらけだ。



(そんな様子じゃ、アゼリア祖父(アンタ)がライバル視している、剣帝(ししょう)には勝てんよ?

 ダテに1人で、いつも独りっきりで、魔物の群れと戦ってないんだから)



そう内心つぶやいて、もう一度、目指した背中を思い浮かべる。

10年近く<ラピス山地>で一緒に()ごした、偉大(・・)なる(・・)老剣士(・・・)()動作(・・)を。


幼い子どもが、ワケも解らず親のする事をマネるように。

記憶の姿を鏡として、それに自分の姿を重ねるように、身体を動かす。



── 俺は、どれ、と構えてみる。

小剣(ラセツ丸)>を両手持ち上段に。


何度も何度も何度も何度も……。

夢に出るほど思い描いた、師匠(ししょう)の絶技。



疾駆型(スピード)と速剣を誇る<封剣流>をも凌駕(りょうが)する、疾駆(しっく)の剣の極意(おうぎ) ──




  音は、ムダな(りき)みの(あかし)


  発声(こえ)音響(おと)も、全て消え去った剣こそ究極。




── すなわち、『無声の一迅(サイレント・ゲイル)』!





▲ ▽ ▲ ▽



「── あ、有り得ん(・・・・)……ッ!

 未強化(なまみ)で『無声の一迅(サイレント・ゲイル)』、だと!?」



驚きの声が、至近距離で聞こえた。

いつの間にか、鍔迫(つばぜ)()いの状態だ。


どれだけ練習しても上手くいった事のない、いつものモノマネ型練習が、珍しく成功したらしい。



(でも、速力(スピード)が今ひとつ ──

 ── ああ、そうか、やらかしたな。

 身体強化(スピードアップ)のオリジナル魔法【序の二段目:()し】を使い忘れてたからかっ)



せっかくの機会だから、感覚を忘れない内に、もう一回練習(・・)しておきたい。


なので、再度、アゼリア祖父が繰り出す、超人の撃剣の威力を(・・・)利用(・・)

ゴゥッ!と風を破裂させるような横剣を防御しつつ、まるで野球ボールになった気分で、後方に飛ばしてもらう。


さらに自分で二・三回飛び退く(バックジャンプ)、距離を微調整。


そして、自力詠唱(『チリン!』)

序の二段目:推し(スピード・アップ)】だ。



「こう、だったな……」



今度こそ、完璧な模倣(モノマネ)を目指し、両手で上段に構える。



── もう一度、『無声の一迅(サイレント・ゲイル)』!



思考と同時に、五体が動いている。

足の指一本の動作までもが、精密極まりない。

思い描いた理想の通りに、手足が動き、筋力(ちから)のロスなんてどこにもない。



── 何百日、何千日と繰り返して訓練し、ようやく手足に染みつかせた動作すら乱雑。

そんな、もどかしい程に無才な自分の身体だとは、到底(とうてい)(しん)じられない。



まるで夢のようだ。



もしや『これ(・・)』が、前世ニッポンのスポーツ競技で『ゾーン』と呼ばれる、神がかり的な絶好調なのか。


あるいは『これ(・・)』が、天才と呼ばれる連中が見ている、凡人とは異なる世界の()(よう)なのか。



── うらやましい、という嫉妬。

── そりゃあ俺じゃ勝てないわ、という納得と感心。



キン!と斬撃が弾かれた音すら、遅れて追いかけてきた、そんな気がした。

瞬間移動じみた『抜き胴(あ、腹を斬って駆け抜ける技ね)』だが、まだまだ未熟らしく、あっさり防がれてしまった。



「── クッ、バカな!

 まさにルドルフの奴、そのものっ!?」



しかし、練習(・・)とはいえ、会心の出来で満足した。



(なので、これ以上お年寄(としよ)りに練習に(・・・)付き合って(・・・・・)もらう(・・・)のも悪いし。

 一度、終わらす(・・・・)か……)



そう考えながら、ジイさんの数m後方で、勢いを減衰(コロ)して反転。

やけに軽い身体で、間合いを詰めながら、自力詠唱(『チリン!』)



「【秘剣・木枯(こがらし)参ノ太刀(さんのたち)星風(ほしかぜ)】 ──」「── カハァ……!?」



回転斬を繰り出しながら急接近し ──

背中を見せたタメ強斬りで防御を崩し ──

下段から跳ね上がる終撃でアゴを撃ち抜く ──


── これが、俺が唯一、師匠(アンタ)のマネができた『必殺技』(オリジナル魔法)



(元・弟子として、奥義のひとつくらい、受け継がなくちゃなぁ……っ)



俺は、まるで雲の上でも歩いているような、どこか夢心地のまま。

アゼリアの実祖父、<封剣流>当主・ベニート=ミラーとの決着がついた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ただのキ○ガイ凄腕ジジイかと思いきや案の定そんな事はなく、豪○と死合って生と歓喜を実感してた元に近いヤバみを抱えた人でしたねベニート老。 ロックが全力の全力を振り絞っ…
[一言] おっそろしくファストな投稿かと思ったらなんかロック覚醒してる!?エモいですねぇ
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