180:空の爪、刃の嵐
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
さて、アゼリア叔母と決闘中。
まずは先手を譲って、連撃『南風の四波』を完封!
それから派生攻撃の防御破壊『追衝の秘剣』も、中断パンチ。
最初は俺をナメまくってた、本家道場の天才叔母さん(多分、剣術Lv65!?)も歯ぎしり状態。
「うそだろっ、こんな簡単にぃ……!」
動揺から、鍔迫り合いが完全に力押し。
俺より剣術Lvが5も高いし、体格差もある(身長40cmくらい高い)から、筋力で押しつぶす。
大正解の選択肢だが ──
(── 相手が、俺じゃなければ、な!)
『押し負けて、体勢が崩れた!』と思わせるように、踏ん張っていた足の力を抜く。
「フゥッ、これで! ──」「── 甘えっ」
相手が攻勢に出ようと、前傾姿勢で息巻いた瞬間、自力詠唱。
魔法の術式で、体勢を強制的に上下反転。
最近出番の多い、逆立ち体勢での蹴り上げ吹っ飛ばし ──
── 特殊技【序の三段目:払い】の変化系だ!
(※ 格闘ゲームなら →+[K]
ヒット時に ↑ 追加入力でエリアル始動に変化)
「カハッ、なにぃっ」
さすがに、魔剣士名門<帝国八流派>直系。
とっさに<霊青銅>模造剣で防ぐ。
しかし、上向きの運動エネルギーだけはどうしようもない。
重力から引き剥がされ、上空10mまで急上昇。
「【仮称:跳ね・強化】っ」
逆立ちジャンプの体勢で、自力詠唱。
またも体勢を強制的に変更して、さらに魔法効果で強制的に着地。
伏地体勢から超ジャンプ空中追跡を開始。
(※ 格闘ゲームなら →→+[P]
敵浮かし技のヒット直後は、空中コンボに変化する)
「ヒュゥッ! ──」「── なんだコイツはァッ!!?」
上空へ跳ね上げた相手に追いつく、上昇斬撃。
さすがにそれは防がれたが、これは所詮、必殺技未満の特殊攻撃。
── 本命は次からだ、と自力詠唱。
「【秘剣・木枯】!」「あぁっ、う・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あっ、このぉっ!!」
上昇しながら上向きに、秒間20発の連続突き。
(※ 格闘ゲームなら 空中で[P]連打)
── しかし、相手も然る者。
さすがは、推定・剣術Lv65!(俺よりLv5は腕利き!)
ほぼ全刺突が、弾かれる。
(おい! 空中の不安定な体勢なのに、20連撃を迎撃すんなやっ
── 曲がりなりも『本家道場の天才』かよ!?)
ちょっと悔しいので、さらに追い撃ちを自力詠唱。
「俺の防御破壊も受けてみろ! 【秘剣・三日月:弐ノ太刀・禍ツ月】っ」
「お前ェッ! 無茶苦茶だろォッ!?」
半泣き叔母さんは、<霊青銅>模造剣で抑え込むように必死に防御。
俺が上向きに放撃した魔力刃ドリルが、ガリガリガガガガガァ……ッ!と火花を散らし、相手を少しずつ上空へ押し上げる。
(※ 格闘ゲームなら 空中で ↓↙←+[P]
[弱P]/[中P]/[強P]で飛び道具の軌道が変化する)
── そんな、ゆっくり系の飛び道具で『ゆっくりしてってね!』(吹笑!)してもらっているウチに、空中離脱。
『チ・チリン!』と2連続でオリジナル魔法を自力発動させて、再度、空中を高速飛翔。
「こっ、のぉ~~!! ── ガァ……ッ」
ようやく【禍ツ月】から解放された、涙目叔母さん。
怒り心頭で、空中接近した俺の幻像をブッタ斬り、衝撃波魔法を至近距離で食らって盛大に吹っ飛ぶ。
── そう、自爆式の囮幻像、【秘剣・散華:弐ノ太刀・徒華】だ。
(※ 格闘ゲームなら → ↘↓+ [K]
いわゆる『変わり身の術』の反撃系、攻撃を受けると爆発)
「もう一丁ぉっ!」「── グハァ……!」
相手が空中吹っ飛びした先へ、高速旋回の飛翔突進系・【秘剣・速翼:弐ノ太刀・乙鳥返し】で回り込み、追撃の叩き落とし。
(※ 格闘ゲームなら ↓↙←→ + [K]
相手の背後へ回り込む系の空中移動攻撃)
庭の真ん中にある、やたら広くて深い池へと叩き込む。
ドバーン!と水しぶきが上がった所へ、ダメ押しの終撃を自力詠唱。
「【秘剣・陰牢:弐ノ太刀・影鋒刺】!」
(※ 格闘ゲームなら ←タメ後→+ [P]
[弱P]/[中P]/[強P]で落ちてくる位置が変化する)
高強度の黒い三角錐が、上空から降ってきてダウン追撃。
俺が親指をブチ下ろす背後で、ドボォ~ン!と、もう一度ハデな水しぶきが上がった。
▲ ▽ ▲ ▽
「見たか! このエリアル・コンボの密度!
ウヒョォ~~! 俺がレーワのドラゴンク■ウだぁ!!」
空中!
空中での7連コンボ!
しかも、一気にHP10割もってく、反則級の『即死コンボ』!
(いやぁ~、【木枯】まで堅調に防御されたから、途中どうなるか焦っちゃったけどぉ……
カッコつけて空中コンボやったのに、全部防がれて無傷とか目も当てられないしなぁ)
しかし、コンボ1発でちゃんとK.O.できた。
さすがに身動き取れない状態でタコ殴りだと、俺より剣術Lvが上の魔剣士でも、手も足もでないらしい。
「── う、うわぁぁ……っ
お、お師匠さん、大丈夫!
ねえ、死んでない、ねえって!?」
カイお姉さんが血相変えて駆け寄っていき、池にザブザブ入って気絶叔母さんを回収している。
── 『お、おい、クルス……?』
── 『空中で……なんか、無茶苦茶な動きをしたぞ』
── 『カ、カサンドラ様は、序列席次4位だぞっ』
── 『あんな、一瞬で……うそだろ』
── 『な、なんなんだ、アイツは……っ』
さっきまでニヤニヤ笑ってた本家道場の大人達が、そろって青ざめた顔。
── すると急に、引きつり笑いみたいな大声が響いてきた。
『── ヒィヒィッ、ヒィ~ぃぃッ!
あ、アレこそが新世代の魔剣士の先駆けぇッ!』
異様な声に、俺含めた全員がギョッとして振り向く。
<封剣流>の当主であり、アゼリアの祖父だった。
『ルドルフの奴めが探し当てた、後続のための“道標” !
コレが、そうかぁッ!?』
顔の上半分は、烈火の怒りと目を細めて、釣り上げている。
だが、顔の下半分は、ダランとアゴ関節が外れたように垂れ下がり、舌を長く出して蠢かしている。
憤怒と狂喜が複雑に入り交じって、メチャクチャになっている。
そんな異様な声と、正気を逸したような顔面の老剣士。
「よ、妖怪かよ、このジジイ……っ」
さすがに俺も、ちょっと気圧されてしまう。
さっきまでの、『ロクデなしの人情なしジジイめ、ブチのめす!』という気迫が抜けてしまう。
『もっとだぁ!
もっと、見せよぉ!
“神々から賜った子” としての異才と最新鋭の魔剣士の技ぁ!!
この<帝国八流派>最古<封剣流>当主ベニートに、しかと見せてみよぉッ!!』
妖怪ジジイが、訓練用模造剣らしき<正剣>を抜き放ち、片手に下げて前に進み出る。
本来なら止める役目だろう門弟達も、『ご当主さま』の狂乱じみた言動に気圧されて、一歩後ずさる程。
ジジイ並の達人級の立ち姿!
腕前は最低でも、腰痛の剣帝と同等以上!
── つまりは、剣術Lv70以上!?という、圧倒的な強者!!
俺は、そんな老練の達人に気圧されないように、心火を燃え上がらせる。
── ででっでっでっでっ・でぇ~ん!
── おにいちゃん あらわるっ!?
「── 上等ぉッ!
不憫なリアちゃんを、まるで省みなかったクソジジイが!
その『孫不孝』の罰を今日ここでくれてやるぅッ!!」
▲ ▽ ▲ ▽
── 『カン!』と拍子木のような音。
アゼリアの祖父・ベニートが【特級・身体強化】の<魔導具>を起動して、青っぽい<正剣>模造剣を片手で八相に構える。
「どれ。
大口を叩くだけの腕があるか、まずは見てやろうかっ」
そう言い終わる瞬間には、すでに俺の目の前まで迫っていた。
(── 速い!?
しかも動作の滑らかさが、さっきの叔母さんとは段違い!)
先制攻撃するつもりが、一瞬の隙に逆に攻め込まれてしまう。
「カァ~ッ!! ──」「── チ……ッ」
アゼリア祖父が、破裂音じみた気迫の大声量と同時に繰り出してきたのは、上段の3連撃!
俺は、すぐさま防御用オリジナル魔法【序の三段目:止め】を自力詠唱。
(<封剣流>基本連撃『方風』のひとつ、『東風の七鳴り』か……っ!)
カン・カ・カッ!と、片手で叩き潰すような1撃の後に、側面狙いの2連撃 ──
── その3発目の斬撃が、シャァ……ンッと防御した模造剣の表面をすべるように、逆手で引き抜かれる。
つまり、斬撃の右手から、刺突の左手への、瞬時の切り替え。
途端に、疾駆型を極めた特級魔剣士の、二の腕の筋力が爆発!
カカカァン!と、疾風のような左手3連刺突。
そして、ガァー……ン!と警鐘のドラでもブッ叩いたような音は、左手刺突の柄頭を右手で押し込む、変則の両手刺突。
(── このジジイ、クソやべえ!
念のために、【序の一段目:断ち】の非殺モードで剣身を魔法保護してなかったら、愛剣・ラセツ丸に穴が開いてたレベルだぞ!)
「なるほど。
その模造剣は、見た目通りの鋼鉄製ではないのかっ」
どこか楽しげに分析する、アゼリア祖父。
「くぅ……ッ」
俺は、気圧され一歩退こうとして ──
── ギリギリで、その場に踏みとどまる。
いやむしろ、一歩進み出た。
「……ほう?」
俺の内心を見抜いたのか、アゼリア祖父は面白そうに片目の目尻を上げる。
「ハハッ、善い覚悟だ、ルドルフの小僧め!
── だったらワシも、少し本気を出してやろうかァッ!!」
速剣使いらしく、真っ直ぐに背筋を伸ばし身軽そうに立っていた老剣士が、重心を落として左右に足を開き踏みしめる。
長身のジジイがズッシリと構える姿は、樹齢数百年の大樹のようだ。
それが、片手で剣を振りかぶる。
「ヒュゥー……!」
繰り出されたのは、<封剣流>の妙技『連環剣』 ──
── 無限に続くと思えるような、刃の嵐が吹き荒れた。
▲ ▽ ▲ ▽
ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ……ッ!と特級の超人が繰り出す、嵐のような速剣の連撃。
マシンガンみたいな音を響かせ、秒間3~4回は左右往復する袈裟斬撃。
(クソがぁ……!)
それを必死に防御しながら、内心悪態をつく。
すでに2回、防御用オリジナル魔法【序の三段目:止め】を起動している。
── アゼリア祖父と戦い始めて2回、ではない。
── この嵐の連撃『連環剣』を受け始めて2回、だ。
そして、そろそろ3回目の起動が必要な時間だ。
俺の特殊技は、全て効果時間10秒だ。
(つまり、すでに20秒近い高速連撃か!)
いくら魔剣士が超人だからって、いくら<封剣流>が歴史ある名門流派だって、程がある。
── 『おいおい……いつまで続くんだ、これ……?』
<封剣流>道場生の誰かが漏らしたボヤキが聞こえてくる。
本当に、いつまで続くのか受け手が聞きたいくらいだ……っ!
チラ見したアゼリア祖父のシワだらけの顔は、さすがに真っ赤に染まっているが、だがまだ余裕がありそうだ。
(下手すりゃ、無呼吸で30秒間の全力速剣!?
いくら何でも受けきれんぞ、そんなもん!!)
この嵐の連撃『連環剣』は、見た目としては単調な技だ。
左右からの撃剣を、ひたすら繰り返すだけ。
相手の防御が崩れるまで根性勝負、みたいな脳筋技だ。
だが、その術理は簡単ではない。
さっきの、変則刺突『七鳴り』と同じように、片手持ち左右の瞬間的な持ち替え。
そして、横8文字(むしろ『∞』文字か?)で延々と斬りつけながらも、決して相手に反撃を許さない、巧みな剣捌き。
そもそも、身体の基礎能力が高い事が最低条件。
さらに、【特級・身体強化】の魔法効果による超スピードを完全に制御できなければ、むしろ自分を斬ってしまう危険性もある。
── つまり、天性の才能だけでは成り立たない、努力の剣技。
(だったら、いよいよお前にゃ負けられねーんだよ!
この才能なしの弱者で、努力と工夫だけで乗り切ってきた『魔剣士失格』はなぁッ!!)
俺だって、呼吸が苦しい。
息がしたい。
なんで、陸上で酸欠にならなきゃならんのか!
しかし、息継ぎしようものなら、わずかに筋力がゆるむ。
その一瞬の弛緩が命取りになる、今はそういう勝負の最中だ!
だから、こんな理不尽状況への怒りを、熱に変え、活力に換え。
左右から絶え間なく襲い来る、この速剣の暴風を、ひたすら叩き落とし続ける。
(── 俺の護るべき者!
今こそ兄弟子に、妹弟子を護れる気力をくれぇ……ッ!!)
それは、一種のトランス状態だったのだろう。
酸欠の脳みそは、余計な事を考える余力を失っていた。
すでに、両手はシビれて感覚がなく、握力すらあやしい。
なにより、絶え間ない連撃に、行動を単調化されていた。
不意打ちに、ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガッ ── シャァ……ン!と、愛剣・ラセツ丸の剣身が『鳴いた』。
「── あ、アレ……?」
右・左・右・左 ── と繰り返し振った、防御の剣が空を切る。
慌てて正面を見れば、アゼリア祖父は一歩、大きく後退。
酸欠寸前で真っ赤を通り越し、赤黒い顔色がニヤリと笑う。
「── ヒュゥ……ッ」
不吉なまでの、吸気の音!
(やべえ! 酸素、吸え! 頭、回せ! よく、見ろ!
終撃の絶技がくるぞ、すぐ備えろ!!)
自分自身に渇を入れるのと、相手の攻撃の始動と、どっちが早かったか ──
── 特級魔剣士が、疾風の速さで飛び込んでくる!!
「── ガ……、グゥ……ッ!」
グアァン!と、防御の衝撃が、全身を揺さぶる。
老剣士と<正剣>が、一本の槍と化した。
そう錯覚するような、速力と剛撃の、飛び込み刺突!
真っ向からの攻撃とはいえ、防げた事すら奇跡的 ──
── そこで、再度、老剣士の気迫が爆発!
「カァ~ッ!! ──」「── なにぃっ」
アゼリア祖父の左足が上がり、一歩、踏み込んだ。
── ゴォンッ!!と快音。
ほとんど、大金槌の一撃。
<封剣流>が対人戦の秘中の秘、『追衝の秘剣』。
それが、飛び込み刺突からの追い撃ち、として炸裂。
「ガ……、アッ……クッ……、ハァッ」
天地が、グルグルと不規則に回る。
俺は、どうやらハデに吹っ飛ばされ、砂利の地面をバウンドしたらしい。
頭も肩も背も腰も足も、あちこちが熱くて痛い。
「── 立てよ、ルドルフの小僧!
まだ終わりでは、ないのだろうっ!?」
その声の主を睨み付けながら、なんとか身を起こす。
黒髪が8割近く白くなった、シワだらけの老剣士 ──
── それが、10歳か20歳か若返ったかのように、活力に満ちていた。
!作者注釈!
2024/06/09訂正 誤『西風の七鳴り』 → 正『東風の七鳴り』
西風は『三砂』でした。
自分で設定した事を忘れてるとか、もうね(苦笑)




