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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 8:闘技場ステージ

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178/236

178:1年振り3回目のアレ(上)

広い敷地の端にある、茂みの中。


ぶつくさ(・・・・)と、複数人の声がする。

どれも少年少女といった、若い声ばかりだ。



「冗談じゃないわよ」

「そうそう、やってらんない」

「ホント最悪ですよね!?」

「ええ、サイアク~ッ」

「なんで今頃<帝都>に帰ってきたのよ、早く居なくなってくれないかしら!」


「でもお姉ちゃん達」

「リノは黙ってなさい」


「みんなアイツと比べやがって」

「ケダモノ女が調子のってんなよっ」

「そうですよ、しょせんは薄汚れた混ざりモノ」

「ええ、あんな忌み子がなんて」

「あんな髪色の女なんて、最終的には長老達が認めませんし」

「そうそう、やっぱり道場主はベルナルド様ですよ」


「── おいっ」

「え、あ、ぼ、ボク今何か……マズい事を……?」

「そうじゃねえ、アレ、見てみろ」


「……あ~、あのオンナの連れじゃない?」

「なんで血族でもないヤツが、こんな時期に道場の敷地に……っ」

「あのオンナぁ、好き勝手しやがって……!」

「ちょっと調子のり過ぎだよね、さすがにさぁ!」


「あ、良い事思いついたっ。……だったらさぁ ──」

「── ……ぁ、ははっ! いいなぁ、それっ」

「バカ……、声デカい……っ」

「シッ、気付かれないように……っ」


「……オレ達が悪いんじゃねーぞ」

「……そうそう、あんなオンナとツルんでるからよね~、フフッ」


「あの、やっぱり、こういうの止めた方が……、お母さん達にもきっと怒られ ──」

「── リノは黙ってろっ」


「チヤホヤされて、調子乗ってるあのオンナが……っ」

「どんな顔するか、楽しみよねぇ……っ」

「……後でわたし、Eクラスの不良とか集めてこよっか?」

「フフ、名案です、後始末まかせれますし」

「そりゃさすがに、ヤり過ぎだろっ」

「……バカ、声大きいって」

「そうそう、気付かれないように、背後から……フフッ」




「── もしも、大事な大事なオトモダチがボロボロに(・・・・・)されたら(・・・・)……っ」


「── ええ、あのオンナ、どんな顔しますかねぇ~……っ」



よからぬ密談は、茂みに隠れたまま、徐々に悪い熱を帯び始めていた。





▲ ▽ ▲ ▽



春の終わりの頃、帝国の首都は一層にぎやかになる。

闘技場(コロシアム)で武闘大会の本戦トーナメントが始まるからだ。


ほど近い<副都>や<聖都>(センダード)だけでなく、遠方から貴族や商人も押し寄せる、一大イベント。


そうなると、出場者を輩出する武門の各道場も、平静ではいられない。

<帝都>南区に居を構える<封剣流>本家道場も、今日はいつも以上に活気づいていた。


もっとも位の高い第一武錬場には、序列席次(ナンバー)を持つ高弟と、次代の序列席次(ナンバーズ)として嘱望される本家道場の天才児たちが、ほとんど揃っている。

特に20代から30代後半までの、武闘大会の選手として(しゅん)にある魔剣士達は、次々に手合わせを繰り返し、本戦トーナメント出場に向けて最終調整に入っていた。



── その道場の隅で、小柄で目立つ容姿の少女が木剣を振るう。



「フゥ……ヒュッ、ハァ!」



黒い髪色ばかりの道場で唯一の銀髪 ──

 ── ()み子にして秘蔵っ子・アゼリア=ミラーだった。

剣舞の流れる美しさと、風を切り裂く鋭さが同居している。

若くして達人の領域に足を踏み入れた者の、剣技だった。


その様子を、遠巻きに見ている男が2人。



「……うむ、見事な『三砂(みすな)』だ。

 仕上がっておるようだな、アゼリアは」


「ええ、身体も気力も充実しています。

 少しムラッ気がある子なので心配していましたが、これなら学生枠トーナメントも心配ないでしょう」



アゼリアの祖父である<封剣流>現当主と、叔父・クルスだった。

そこに、女性ながら低い声が混じった。



「かぁ~……っ、ホントとんでもない腕前に育ったねぇ。

 この子、学級(クラス)下位()だから、優先枠(シード)は取れなかったらしいけど。

 この様子なら、それでも問題なく学年優勝しちまいそうだよ!」


「まあ、な。

 同じ黄金世代の『天剣マァリオ』は3年生だから、対戦する事もないしな」



男勝りな妹・カサンドラの言葉に、兄・クルスが(うなづ)く。

今度は、父親である白髪まじりの現当主が(たず)ねる。



「クルスよ、他にめぼしい生徒はいないのか?」


「ええ、当主様。

 女子生徒では2年生に1人くらい、たしか姓はメイウッドとか」


「ほほう、メイウッドか、どこかで聞いた名だな……

 辺境の武門の一族か……?」


「あ~、ソレ(・・)、ウチの真ん中と同期か。

 たしか『剣帝物語』の著者の娘だか孫だかが士官学校に入学したとか、そんな話を聞いたね。

 多分ソレ(・・)だろ、オヤジ殿」


「……おい、カサンドラ。

 道場の中で『オヤジ殿』は()せよ」



親族3人で、銀髪少女を型稽古(かたげいこ)を見ながら雑談を続ける。

その視線が気になったのか、本人が手を止めて振り返った。



「……ご当主様たち、何かアゼリアにご用ですの?」


「いや、アゼリア、なんでもないんだ。

 稽古(けいこ)の邪魔になったなら、すまない」


「そうですの……?」



叔父の言葉に、銀髪少女は不思議そうに小首を傾げる。

大人達に注目され過ぎて、居心地が悪いのかもしれない。



── ふと、白髪交じりの老人は、自身の中年の娘に(たず)ねる。



「そう言えばカサンドラ。

 お前の娘達の方は、道場に姿がないようだが?」


「え……?

 ── あぁっ!

 あの悪ガキども、また練習サボりやがったなっ」


「……あら、まあ」



叔母の声を荒げる姿を見て、アゼリアは呆れるような声。

そして、サボった従姉妹(いとこ)達の様子を思い出したのか、虚空に視線を向けて答える。



「カサンドラ叔母(おば)様のところの3人、ですか?

 ご当主様のお話が終わった後、パトリック叔父(おじ)様のところの2人と一緒に、コソコソと裏口から道場を出て行ってましたけど……」


「ええ~い!

 リック兄ぃ()のガキ共も、まとめて全員ゲンコツだっ!」



男勝りの叔母が、鼻息荒く道場を出ようとした瞬間 ──


── ビシャァ~~……ンッ!!と、倒木のような大きな音が、武錬場の屋外から響いてきた。





▲ ▽ ▲ ▽



一番に屋外へと飛び出したのは、叔母・カサンドラだった。



「── おい! 何があった、ガキ共っ!?」



我が子の姿を見付けると、血相を変えて駆け寄る。


少年少女が、大池の向こうの林で、逆さ吊りになっていた。

彼女の末の息子と、兄の息子兄弟。

そしてその取り巻き達、合わせて14~15人ほど。



「何でこんなビショ()れなんだ!

 雨なんて、朝からひとつ粒も降ってないってのにっ!」



成人男性並に屈強な体格の女性剣士が、子ども達を逆さ吊りにする細い紐に、真剣を叩き付ける。

しかし、妙に丈夫なソレ(・・)はビィ……ィン!と鳴るだけで、簡単には切断できない。



「なんだコレ!

 糸じゃない、ワイヤー(・・・・)かい!?

 クルス兄ぃ、工具箱から鉄切りハサミか何か ──」


「── おシッコ、シ~……ッと」



不意に、ジョロロロ……ッという音と、足にお湯をかけられたような生ぬるさ。

叔母・カサンドラは、あわてて()退()く。



「ギャァ!

 他人(ひと)の足に小便(ションベン)かけんな、野良イヌかァッ!?」


「ふぃ~……、ブルンブルン……と。

 ところで、水に入ったらオシッコしたくなるの、なんでだろうな?

 カラダが冷えるから?」


「知るかァ!

 ── 一体なんなんだ、このバカガキは!?」



叔母・カサンドラは、白い練習着についた黄色のシミをあわててタオルでぬぐう。



「このバカガキ、どっから入って来た!

 ここは<封剣流>本家の道場だよ!

 武門で妙なマネしやがったら、衛兵(おまわり)に突き出す前にタコ殴りだ!」



そして、自分の足に『立ち小便(ション)』をしかけた相手を(にら)み付ける。


武門の高段者が怒気混じりに魔力を放てば、一般人は顔面蒼白だろう。

しかし、小柄な侵入者は気にせずニコリと笑う。



「そりゃよかった」


「── は、ぁ、……ァアンっ!?」



その返事に、叔母・カサンドラは激怒して歯をむき出す。


息子と甥っ子の3人がそろって逆さ吊りという、拷問じみた状態。

そして、青い顔で白目を()き、ビクビクと震えているのだ。


子を傷つけられた親の怒りが爆発して、火を吹くような怒号が飛び出す。



「何が! 良かったってぇッ ──」



怒号(それ)を、小柄な子どもが発したとは思えない雷鳴じみた大絶叫が、上から()りつぶす。



「── テメーらをッ!! 今から全員ブチのめすのにッ!! 都合がいいッ!!

 そう言ったんだよぉ~~ッッッ!!!」



── その声の主は、黒髪の麗しい少女のように(・・・・)見える(・・・)、小柄な少年。



剣帝の一番弟子、『落ちこぼれ魔剣士(ナマクラ剣士)』のロックだった。





▲ ▽ ▲ ▽




「待て! 待て待て待てぇ!」



『カン!』と<魔導具>(マジックアイテム)の起動音。

同時に、2人の間に、疾風のようにすべり込んだのは、叔父・クルスだった。


腰の<正剣>(フォーマル)と背中の<短剣(ナイフ)>と、真剣2本を抜き放ち、今にも飛びかからん2人に突きつけて決闘の勃発(ぼっぱつ)を制止する。



「カサンドラ、落ち着けっ」


「落ち着いてられるか、これがぁ!」



兄の言葉に、妹は怒鳴り返す。

仕方なく、叔父・クルスは黒髪少年の方に語りかける。



「ロック君も、だ! 頼むから落ち着いてくれ」


「大丈夫ダイジョーブ。

 俺、ちゃんと非殺モード(ナマクラ)でブチのめすから。

 死人は()んよ、安心して?」


「何も安心できんぞ、その台詞には!」



叔父・クルスは、知人少年の返答に、頭を抱えそうになる。



「魔剣士を『ブチのめす』だとぉ、お前ごときが!」


「止めろカサンドラ! 止めろ、下手な事を言ってロック君を煽るな!」


「おい! クルス兄ぃは、どっちの味方だよ!」


「どちらともの味方だ!

 だから、こうやって仲裁をしている!!」



叔父・クルスは、ついに飛びかかりそうな妹・カサンドラを(おさ)えるため、左手の真剣を投げ捨て、腕を広げる。



「ロック君! 頼む、事情があるんだろう! ちゃんと説明してくれ! みんな納得できないっ」


「えぇ~、面倒ぉ。

 ── ハァ……ッ、でも、まあ、リアちゃんの叔父さんの言う事だからなぁ」



小柄な少年は、黒髪の頭をかき、肩をすくめた。

そして、簡潔に告げる。



「ついさっき、そのガキ共10人ばかりから(おさ)え込まれて、服を脱がされかけた」


「何……っ」



叔父・クルスの眉間の肉が、不機嫌に盛り上がり、目が細められた。


美少女と見紛(みまが)う少年、ロックの説明が続く。



「この後、リアちゃんと一緒に式典用装備を受け取りに行く予定だから、待ってたんだが。

 まさか、<封剣流>の敷地内で、背後から不意打ちされるとか……ハァッ。

 で、コイツら俺が女性(オンナ)だと思ってたのか、チンコ見てビックリ。

 そのスキに反撃、全員鉄弦(ワイヤー)でグルグル巻きにして、俺と一緒にそこの池にドボン!

 俺だけ空中に逃げて【放電(スパーク)】でビリビリっと」



少年・ロックは、柔らかな微笑。

どこかの令嬢が社交辞令を述べるような面貌(おもて)で、しかし自身の暴力を誇る。



「まあ、そのまま放置してたら溺れ死ぬだろうし。

 一応、引っ張り上げて、反省させようと逆さ吊りにしたら、そのカサンドラ?叔母(おば)さん?とやらが突っ込んできた。

 以上、経緯の説明、オワリ」



カサンドラは、とても事実とは思えなかったのだろう。

逆さ()りにされた子どもの母としても。

名門<封剣流>の女性魔剣士としても。


わななき(つば)を飛ばすように、否定する。



「そんなの、でっち上げだ!

 そんなデタラメな、いいかがかりが、通じるわ ……ァッ、ガァ……!」


「── 少し、黙れ!

 カサンドラぁッ」



火の点いたように叫び始めた成人の妹を、兄・クルスは、最速で最短の方法で『黙らせた』。

右手の真剣も投げ捨てて、【特級・身体強化】という超人の握力で首をつかみ、(のど)を絞めたのだ。



「ロック君! すまないっ!!」



アゼリアの叔父は、謝罪を叫びながら勢いよく頭を下げる。



「キミの怒りは、ごもっともだ!

 武門の人間としてあるまじき、卑劣な行為!

 客人に対して強盗か強姦魔のごとき、悪辣な行為!

 二重三重の失態だ、だから決して許してくれとは言わぬ!

 だが一度、この場はわたしクルスに預けてくれないか!?

 必ず、無法を為した愚か者どもには、適切な罰を与えて、罪を償わせる!

 子どもだけではない、親も、教育者である師も、全員そろって君に詫びさせる!

 <封剣流>総本山ミラー家直系の血と名誉にかけて、必ず実行させると誓う!」



たまたま未遂(みすい)ですんだ身内の不祥事(ふしょうじ)を、真摯(しんし)に詫びる。



「── だから、頼む!!」



そして叔父・クルスは再度、深々と頭を下げた。

しかし、被害者の少年は、意外なほどに微妙な声色で語り始める。



「あ~……うん、なんて言うか……。

 どうせ、その内、<封剣流>本家道場には殴り込みにくるつもりだったし」



謝罪に不満がある者の表情ではない。


むしろ逆で、まるで、自分が約束の時刻に遅れた時のような、気まずげな表情。

そんな顔で、淡々ととんでもない言葉を吐く。



「せっかく、道場破りの口実まで(・・・・)お膳立て(・・・・)してもらったのに。

 口実(それ)をフイにしちゃうのはどうかなぁ~……、って?」


「……は?」



クルスは、一族を代表して謝罪したつもりだった。

年下ながら敬意を抱くほどの人物から、怒りの罵倒(ばとう)をぶつけられる覚悟すらあった。


だから、知人少年のその反応が、あまりに予想外すぎて困惑する。

訳が分からない、と力なく首を振る。



「いや、ロック君……?

 キミは、いったい、何を……?」


「あのぉ、叔父様?」



目を白黒させる叔父・クルスの横に、いつの間にか銀髪の(めい)・アゼリアが来ていた。

兄弟子・ロックの為人(ひととなり)を熟知している妹弟子は、呆れ混じりのため息。



「フゥ……、もう何を言ってもムリですわ。

 お兄様、完全に『戦闘モード』になってしまっていますの。

 胸中(ウチ)の荒ぶるモノを解放して、何かを叩き潰さない限り、収まらない目つきですわよ」


「………………」



叔父・クルスは、もはや言葉もない。

そんな中年魔剣士に、ロックが恐る恐ると声をかける。



「── あの、クルスさん。

 そろそろカサンドラ叔母さん?を離してあげんと、窒息で顔が紫色なんだが?」


「あ……っ」



中年魔剣士は、そう言われてようやく思い出し、首を(・・)絞めていた(・・・・・)妹に目を向ける。


男勝りの妹カサンドラは、口の端から唾液を垂らして兄の手の甲に爪を立てている、まさに気絶寸前の必死の形相(ぎょうそう)だった。





▲ ▽ ▲ ▽



「── パパぁ~っ!

 ロックがカサンドラ(お師匠さん)と決闘って!? それ、ホント!?」



ひとり娘・カイが走って来て、父・クルスの姿を見付けてしがみつく。


ちょうど今、逆さ吊りにされていた子ども十数名を、大人達で手分けして武錬場の救護室に運び込んだばかり。



「ここは、怪我人(けがにん)がいる。

 外で話そう」



周囲からの(けわ)しい視線にうんざりした父・クルスは、ひとり娘をつれて救護室から出て行く。


父と娘が向かった先は、ひと()のない給湯室。

父・クルスが冷水を一杯あおるのを待って、娘・カイは再度問いかけた。



「いったい何があったの?」


「ハァ……、ひと言で言えば『正当防衛』だ。

 ロック君の華奢(きゃしゃ)な見た目から()めてかかり、タチの悪い悪戯(いたずら)をしようとした子ども達が返り討ちにあった」


「返り討ち……、ロックから?

 一体、誰が?」



父・クルスは、また一杯冷水を飲んでから答える。



「フゥ……、お前の従兄妹(いとこ)たちだよ」


「── は……、はあぁぁぁっ!

 まさか従兄(ベル)とか従妹(バネサ)とか!?」


「ああ」


「ア、アゼリアちゃんは!?」


「……何を言っている。

 ロック君が、アゼリア相手に無体(むたい)真似(まね)をする訳がない。

 そして、アゼリアが兄のように慕うロック君に非道(ひどう)な行為をする訳もない」


「そ、それは、そうよね……」



長身の娘は一度は納得し、そしてすぐに首を横に振る。



「── いやいやいやっ、ちょっと待ってパパ。

 カサンドラ(お師匠さま)末っ子(リノ)くらいならまだしも、従兄(ベル)とか従妹(バネサ)とかアレよ?

 一応アイツら、上級(・・)士官学校(・・・・)の魔剣士科で、<()かん(ゆる)し>よ!?」


そのくらい(・・・・・)の事、ロック君相手には意味ないんだよ……」



騒がしい娘に、父はどこか疲れた声で応える。



「いや、だってパパ!

 たしかに頭脳(あたま)は悪いし、不真面目で、一般学級(Cクラス)落ち(・・)するギリギリくらいだけど。

 一応は特級魔剣士(・・・・・)よ、アイツら!」


「だから、そのくらい(・・・・・)の事、ロック君を相手するなら意味はない……」


「いやだって……。

 いくらロックが剣帝様に剣術を鍛えられた、って言っても一般人じゃない。

 魔剣士じゃないのよ、『未強化(なまみ)』なのよ。

 たしかに、この前(・・・)、ロックと斬り合い(・・・・)した時は、正直舌を巻くような腕前だって感心したけど……」


「だから、そのくらい(・・・・・)の事、ロック君を相手するなら ──

 ── ……ん、ちょっと待て。

 『この前』……、『斬り合い』……?

 カイ、今お前、何かおかしな事を言わなかったか?」



父・クルスは三度目の繰り言を途中で止めて、娘の顔を(のぞ)き込む。



「いやいやいやっ!

 パ、パパの聞き間違いじゃない?」



カイは口が滑った、と慌てて誤魔化(ごまか)す。

クルスは、ひとり娘の不審な挙動が気になりはしたが、それより話を続ける事にした。



「そうか、なら良いが……。

 ともあれ、相手が『上級士官学校』だろうが、『()かん(ゆる)し』だろうが、『特級の魔剣士』だろうが、ロック君にとっては大した意味は無い。

 彼は、剣帝殿の一番弟子(・・・・)なんだ。

 そして、アゼリアの兄弟子であり、毎日練習相手(・・・・)になっていた。

 しかも、だ。

 『未強化(なまみ)』でありながら、修行場として凶悪な(・・・)魔物だらけ(・・・・・)な危険地帯に住み着いている。

 ── どうして、誰も彼も、その意味(・・・・)を理解しない……っ!?」



ついに、父・クルスは憤慨(ふんがい)する。



「当代最高峰の剣士である剣帝ルドルフ殿から、10年も手ほどきを受けた者が、弱い訳がなかろう!!

 我が<封剣流>練武千年の結晶・アゼリアと、1度の手合わせで心を折られた程度の連中が、5年かかさず切磋琢磨(せっさたくま)した人物(・・)(かな)う訳がなかろう!!

 ただの『未強化(なまみ)』の剣術巧者(こうしゃ)ごとき(・・・)が、冒険者3人がかりで倒す脅威力3(・・・・)の魔物(・・・)を斬れる訳があるまい!!」



生真面目な中年男が、必死に抑えていた物が、ついに溢れかえってしまう。



「ああ、解った!

 いや、解っていた!

 ああそうだ、ずっと前から解っていたよ!」



それは嘆きと、恨み言。



「わたしが(いのち)からがら(・・・・)<ラピス山地>に通って5年続けた、様子見も!

 あの子が生真面目にしたため(・・・・)続けていた、手紙による定期報告も!

 どいつもこいつも、まともに取り合っていなかった訳だ!!

 私のような才能なしの言う事など、眉唾(まゆつば)だと思われていた訳か!

 ああ、そうだろう!

 ── 『(あわ)れな(めい)っ子に入れ込んだ中年男が、口八丁(くちはっちょう)まこと(・・・)しやか(・・・)な報告をしている』!?

 そう見なされしていたのは解っていた!!

 だから、一生かかっても一流には届かない『才能なし』の言う事など、全てがいかにも大仰(おおぎょう)でまともに聞くに(あたい)しないと、ずっと今までせせら(・・・)笑っていた(・・・・・)訳だな、お前達はぁぁぁ!!」



周囲の無理解、無慈悲、邪推、嘲笑、傲慢、増長、身勝手な極論、保身と体裁 ──

 ── そんな無数の理不尽への我慢が、日々溶岩(マグマ)のように溜まり続け、ついにこの日この時に地響きを立てて、温厚な人物の面貌(つら)をひび割れさせた。


そして、活火山のように()()げた。



「── クソったれがぁ!

 才能と素質にあぐらを(・・・・)かいて(・・・)(おご)りたかぶったァッ!

 (けん)(おど)りが上手いだけのォッ、箱入りお坊ちゃんお嬢ちゃん共がァッッ!!」



その無様を想像したのか、ヒヒヒッ、と引きつったように笑う。



「貴様らなんぞ、あの理不尽の体現者に!

 剣帝殿が育て上げた、次世代の(・・・・)魔剣士の(・・・・)先駆け(・・・)に!

 魔導の極意と剣術の奥義を合一(ごういつ)させた、あの埒外(らちがい)の強者に!

 全員まとめて、叩きのめされてされてしまえばいいんだ!!」



父・クルスの狂態(きょうたい)



「……パ、パパが……パパが、壊れたぁ……っ」



その横で、ひとり娘が青ざめて半泣きになっていた。


!作者注釈!


お客様から、理不尽ブレーカーのオーダー入りました!

はぁ~い、よろこんで~!(復唱:よろこんで~!)

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― 新着の感想 ―
[一言] え、NOT殺傷モードなの? ロックお前・・・丸くなったな。てっきり普通に問答ナッシングでワンマンブラッドカーニバルすんのかと思ったZE
[良い点] 更新お疲れ様です。 クルス叔父さん「(自分と娘以外は)みんな纏めて叩き潰されてやる!(ドモ○ボイス」 読者「やっちゃえバーサー○ー……じゃないロック!」 ……こうですね分かります(笑) …
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