177:仲良く(意味深)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
さて、状況の説明が上手くできない。
何か知らんが、クルスさんの娘さん・カイお姉さんから、変な言いがかりをかけられている最中です。
「わ、わ、私のアゼリアちゃんに、変な事ばっか教え込んでぇ……!」
「………………」
困った事に、何か勘違いがあるみたい。
妹弟子アゼリアの従姉妹さんは、顔が真っ赤すぎ。
「ハァッ、ハァ……ッ
し、死んで詫びろ、このド変態ぃぃぃ!」
興奮しすぎて鼻血とか出して倒れないか、見ていて心配になるくらい。
ちなみに彼女、どちらかというと男性より女性に人気そうな、高身長カッコイイ系女子。
見た目からしたら、もっと声が低音そうな印象なんだが、実際には結構キーキー甲高い。
そんな騒々しい叫び声のせいだろう。
「── 見付けましたわ!」
── ででっでっでっでっ・でぇ~ん!
── ちょうせんしゃ あらわるっ!?
「もうカイ様、何なんですの!
急に、わたくしの新調下着を持って、走って行って!
お店の方も困ってますの、はやく返してくださいませっ」
無駄にカッコつけてレンガ塀の上とか乗っちゃってる系の、超絶美少女ウルトラ天才魔剣士のアゼリアだった。
(妹弟子、お前なぁ……
今日は丈短いスカートなんだから、パンツ見えそうだぞ……?)
いまいち淑女な仕草とか身につかない、お転婆さん。
またそうやって、上下一式の服なのに下を抑えず、トオッ!って飛び降りたりするし。
兄弟子、スカートがひっくり返って『巾着袋状態』にならないか心配でハラハラしちゃう。
「……何で、リアの下着が地面に並べられてますの?」
「…………」
キミの従姉さんが、興奮しながら叩き付けたんです。
俺が、そういう事実を言っていいかどうか迷っていると、グズグズ……と半泣き声が聞こえてくる。
「あ、あ、あじぇりあ、ちゃぁ~ん……」
「ど、どうしましたの?
もしやお兄様に『濡れたパンツ振り回しながら歌うな!』って、リアが花嫁修業で洗濯の練習をしていた時みたいに怒られましたの!?」
「んなワケあるか……」
呆れすぎて、ツッコミの声まで脱力しちゃう。
(お前だけだよ。
年頃の娘さんなのに、そんなポンコツ言動すんの……)
兄弟子、育て方を後悔中。
しかし妹弟子本人は、親戚のお姉さんも同レベルだと疑わない。
「お兄様ったら日頃は優しくて、アゴの下とかナデナデしてくれるのですけど。
時々、メッ!って怒ると、すごく恐いですもんね。
リアも<ラピス山地>でいっぱい泣かされましたから、気持ちが解りますわ~。
── ヨシヨシっ」
アゼリアは、上背のお姉さんをギュッと抱きしめて、背中や頭をナデナデ。
すると、途端にカイさんが泣き崩れた。
「ごめんねぇ! ごめんねええ! アゼリアちゃんごめんねぇ!」
そしてカイお姉さんは、涙声でポツポツと事の経緯を話し始めた。
── い や 、 お か し い !?
え、なんで急にイベントムービーへ移行してんの?(重度のゲーム脳)
え、『乱入のアナウンス』が出たのに、バトル始まらないって初めてじゃね?(重度のゲーム脳)
▲ ▽ ▲ ▽
── カイお姉さんの、グシュグシュの鼻すすり声の独白をまとめると、こんな感じ。
カイさんが7歳の頃、三つ下のアゼリアが家に引き取られた。
あらかじめ『妹ができる』と両親に聞かされていたカイさん。
それを『赤ちゃんが生まれる』と早とちり。
しかも、ひとりっ子で、近所の兄弟姉妹をうらやましく思っていたから、『お姉さんになる』と大喜び。
しかし、家に引き取られて来たのは、薄汚れた捨て子のような少女。
落胆したものの、両親に『仲良くしてね』と言われた。
素直にガンバっていたが、これが手に負えない相手だった。
噛む、引っ掻く、暴れる、ご飯を散らかす、テーブルで食べない、あちこち食べ残しを隠す、お風呂どころかシャワーすら嫌がる、臭くて汚いのに着替えない……等々、もう散々だ。
まるで、拾われてきたばかりの野良ネコ。
いや、人間を殴り倒さないだけ、野良ネコの方がマシだった。
武術名門の本家直系の血は、アゼリアの身にも間違いなく流れていた。
それも、本家道場のエリートな子ども達と比べても、抜群の才能。
しかし、アゼリアは言動だけでなく、道場での訓練すら野生動物じみていた。
狂犬のように歯をむいて威嚇し、途中で木剣を投げつけ、最後は馬乗りになって殴り続ける。
剣術よりケンカ殺法で勝ち抜くアゼリアは、周囲から不評を買い、徐々に孤立する事になる。
そしてカイさん自身は、アゼリアからケガをさせられた友人や親戚の子ども達に、代わりに文句を言われ続ける日々。
ストレスから、自宅でアゼリアと顔を会わせるたびにケンカばかり。
注意を聞かず、すぐに噛みつき、引っ掻くアゼリアに、徐々に相手にする事すらイヤになってくる。
ついには、完全に口を利かなくなってしまった。
いやそれどころか、アゼリアと関係のこじれたカイさんは、いっしょに食卓を囲む事さえ嫌がった。
そんな冷え切った関係のまま、2年か3年か。
ついに決定的な出来事が起きる。
父親のクルスさんが長期間の出張をするから、カイさんの誕生日パーティを前倒しにする事になった。
当時13歳のカイさん。
すでに<四環許し>の秀才で、身長も大人に近づいたが、まだまだ家族に甘えたい年頃。
誕生日祝いのメインは、大好きな母親エリーさんの特製ケーキ。
帝都のお菓子屋さんどこの店よりも美味しい。
そんな大好きな母のケーキ ──
── それが、アゼリアに全て食べ尽くされていた。
結果、子ども2人の無視し合う冷戦が終了して、ご家庭で大戦争が勃発。
「アンタなんか、ウチの子じゃない!
親に捨てられた、要らない子のくせに!
パパもママも私の親よ、アンタの親なんかじゃない!
どっか行って、居なくなって、二度と顔を見せないで!」
大好きなパパとママに『仲良くしてね』と頼まれた。
だから、良い子のカイさんは必死にガマンして、ずっと心の中に不満を抑えてきた。
その日、今までの全てが大爆発してしまった。
言ってはいけない事を、たくさん言ってしまった。
夜は、泣き疲れて、いつの間にか寝付いていた。
私は悪くない、あの子が悪い。
でも言い過ぎた、傷つけてしまった。
いやいい気味だ、アイツは反省した方がいい。
でも謝った方がいいかな。
いいや私は間違っていない。
そんな言葉が頭をグルグル回りながらベッドから出ると、もう翌日の昼食前。
母親のエリーさんが、力なく微笑んで、悲しそうに謝る。
『ごめんねカイ、アゼリアちゃんの事でいっぱい悩んだのね』
『あなたが優しくてガンバリ屋さんだから、パパもママも、カイに甘えすぎちゃった』
そしてアゼリアが、いつまで経っても帰ってこない。
2日、3日、ついに母親のエリーさんに尋ねてみる。
『パパから聞いてないの?
アゼリアちゃん、剣帝様って偉い魔剣士の弟子になるのよ。
その修行が終わるまで、何年も帰ってこないわ』
そこでカイさんは、父親のクルスさんの長期間の出張の理由が『アゼリアを送り届けるため』と初めて知った。
いや、違う。
よく思い出せば、何か言われた気もする。
だけど、大っ嫌いなアゼリアに関係する事だったから、なるべく耳に入れないようにしていた。
意固地になっていた。
そして、カイさんの『妹』は居なくなってしまった。
── 「どっか行って、居なくなって、二度と顔を見せないで!」
カイさんが、そう願った通りに。
▲ ▽ ▲ ▽
グズグズに泣きながら経緯を説明する、アゼリアの従姉さん。
「ごめんね、ごめんねー!
本当はアゼリアちゃんと仲良くしたかった!
優しくてステキなお姉ちゃんになりたかった!
── アゼリアちゃんが、今までどれだけ大変な思いして生きてきたか知らないまま、ひどい事をいっぱい言っちゃった!」
「…………そう、ですか」
妹弟子は、カイお姉さんを抱きしめて背中をなでながら、コクンと大きく肯いた。
一度、目を閉じて、ゆっくりと深呼吸。
そして、緑の目を見開いて、キリッとした表情で、
「なるほど、『仲良く』ですか!
つまり、正々堂々の真っ向からガップリ!
女同士の真剣勝負!
お兄様をめぐる『恋のライバル宣言』なのですね!?」
謎すぎる気迫の声を上げる。
「…………へ?」
「…………は?」
カイお姉さん、ポカン顔。
兄弟子、思わず頭痛のポーズ。
「え、…………え? あの、……え?」
涙をぬぐいながら口半開きの、カイさん。
どうしたらいいの、という困った顔でキョロキョロ。
最後は困り果てて、俺の方を振り向く。
── 『親族同士、しかも女性同士のイザコザだからなぁ……』
と静観モードだった俺、仕方なく口を挟む。
「……おい、リアちゃん?
ちゃんとカイお姉さんのお話を聞いていましたか?」
「もちろん聞いてましたわ、お兄様っ。
だって『仲良く』ですわよ!?
わたくしアゼリアも、今や立派な士官学校の生徒なのですわ。
同期の魔導伯の子女の方、パトリシアさんにきちんと教わったのですわ!
── 士官学校の生徒にとって『仲良く』とは、すなわち『正々堂々、全力で競い合うライバルへの宣言』だと!!」
「………………」
なんか。
解釈が不思議すぎて、ツッコミも出ない。
「ん~……、でも、なんか聞いたような……。
えっと、魔導伯……子女、パトリシア……?」
兄弟子ガンバって、脳みそをフル回転。
そういえば『士官学校の入学直後の能力テスト』か何かで、そんな相手とトラブル起こしてた事を思い出した。
「わかりましたわ!
わたくしアゼリア=ミラーが受けて立ちますのっ!
従姉妹のカイ様であれど ── いえ、だからこそ、全力でお相手しましてよ!
ウウゥッ、フシャーー!」
「え、え、え……?
ア、アゼリア、ちゃん……?
な、なんで、どうして……?」
野良ネコみたいに威嚇ポーズ取る妹弟子。
混乱の極地でオロオロしまくるカイお姉さん。
そして、そばで勘違いすれ違いの2人を見ている俺も、内心オロオロオロ~。
(── アワワワ、どうしよう!
純粋な妹ちゃんだから、あの騒動のせいで『仲良く』の意味を誤解しちゃってる!)
とは言っても、この兄弟子、まさに非モテ!
前世も今世も、色恋ナシの青春という、まさに非リア充の権化!
転生者というスペシャルでファンタスティックな仏教徒の固有能力持ちだが ──
── 異 世 界 で マ ジ 役 立 っ て な い !!(木亥・火暴)
「………………」
俺そんな『非恋愛権化大明神(正一位)』なので、上手い解決法とか思いつくハズもない。
(ど、ど、どどどど、どうしよう!
『やあ子猫ちゃん、そんな噛みついてちゃせっかくの美貌が台無しだよ(小鼻つまみ)』
── みてーな、乙☆女たしなめる系の言動とか、ムリムリのムリ!!)
絶対的に、人選ミス!
俺みたいな格ゲー愛好家でPCヲタとか萌え絵見てブヒブヒ鳴くのがせいぜい。
夜職男とか、外車販員とか、鬼コミュ力な連中を配置すべき!(断言)
── 【ちょっと今から】マジで兄弟子が異世界で役立たずな件について!!【吊ってくる】
▲ ▽ ▲ ▽
そんな感じで、久しぶりに自己否定の沼(精神世界)にズブズブな俺。
アゼリアの『キィーッ!!』って感じの叫び声で、現実に引き戻される。
「だいたいカイ様、すこし卑劣ではなくて!
『この子って、昔は道場の男子に馬乗り(笑)』とか!
『食べ残しの青カビのパンかじって、腹痛(笑)』とか!
『ママの作った絶品ケーキ4人分全部食べちゃう(笑)』とか!」
「……あの……その……」
なんかちょっと目を離した間に、周囲はさらにカオスな状況になってたらしい。
「こうやって立派な淑女に育ったリアですのに。
今さら、そんなヤンチャで品のなかった小さな頃のお話しして、お兄様のイメージダウンを狙うなんてっ」
「……いや……あの……」
「だいたい、なんですの、さっきからそのしらばっくれ方っ
『私そんなつもりじゃなかったのに……、何だか従妹が噛みついてきて困るわ
~(チラッ、チラッ)』みたいな態度!
カイ様、初恋だか何だかわかりませんが、お兄様の前でネコ被りすぎですわよね!
リアと毎日おかず取り合ってた、腕白で負けず嫌いのお姉さんでしたわよね!」
「……え?……は?……あっ……うん……」
「残念でしたわね~!
お兄様は、こんなインドア系男子に見えて、ゴリゴリの脳筋な武門の殿方ですのよぉ!
闘いとなれば勇猛果敢で猛禽のような目つきになる、益荒男系男子なのですわぁ~!
リアみたいに、ちょっとジャジャ馬な女子の方が好みのタイプなのですわよぉ~、ウフフ~~!!」
「……あ、うん……はい……え?……」
「だいたい、リアが下着を選んでもらう予定だったのに、なんで横取りしますの!
こんな人気のない場所に、お兄様を連れ込んで!
しかも、下着をお兄様の前に並べて!
── ま、ま、まさか!
ましゃか、め、め、目の前で着替えるおつもりで!?
ダメでしゅ、ダメですわよ、そういうハレンチな行為は!!
リア、婚前交渉とか良くないと思いますの、すぐ赤ちゃんできちゃって困ると思いますよ!」
「……は……え?……ええ!?……ち、違うっ!」
よく分からん勘違いで、明後日な話を続けている妹弟子。
それに圧倒されながら、相づち打ってるカイお姉さん。
「うん……、どうしようかな、これ……」
兄弟子、腕組みして苦笑い。
すると、カイお姉さんがこっちに振り返る。
「おい、ロックぅ!
ねえ、ロックってば!
お前も何か言ってよっ!」
ほぼ初対面なのに、なんかエラい知り合いみたいな扱いで、頼まれる。
まあ、彼女的には、父・クルスさんや母・エリーさんとかからよく俺の話を聞いていて、すでに顔見知りの気分なのかもしれないが。
「……ええ、何か言えとか言われてもぉ……」
「だ、だって!
私、ただアゼリアちゃんに昔の事を謝って!
それで、これから仲良くしたかっただけなのにぃ~!」
カイお姉さん、また半泣き。
「カイ様、たびたび『仲良く』という割に、少し陰湿ですわよね!
さっきもリアの昔の事を蒸し返したり、目を離した隙にお兄様にパンツ選ばせたり、いつの間にか仲良さげにロックと呼んだり、そんな、まるで ──
── はっ……!?
まさか、これがエリー叔母様が言ってた『恋はルール無用の残虐デスマッチ』って事ですの!!?」
違うよ、妹弟子ちゃん!
(何を急に、有刺鉄線電流爆発みてーな事言ってんだよ。
お前アタマ新日本プ■レスかよ。
プロレスネタとか、もう数話前にやって飽きたから、しばらくは良いんだってっ)
そんな兄弟子の内心のツッコミ。
何か変な方向に出来上がっちゃった妹弟子は、フウッ、フウッと荒い息しながら、ヤバイ目つきで変な事を言い出す。
「……わかり、ました、わ。
このアゼリア、蒙を啓かれましてよ。
── これはもう、カイ様の目の前で、このアゼリアこそが恋人と見せつけるしかありませんわ!」
「どうして! どうしてそうなるの!?」
全然話を聞いてもらえないカイお姉さん、半泣きを越えて全泣き。
── まあ、そりゃそうだろう。
ずっと幼い日の過ちを後悔していて、この機会に清算しようという一種の『贖罪』の気持ちでいたのに。
その贖罪相手は、話を聞いて的外れな解釈したどころか、明後日の方向に暴走機関車みたいに突っ走り始めたのだから。
▲ ▽ ▲ ▽
(あと、多分というか、ほぼ確実に、だが。
妹弟子、カイお姉さんとケンカしたり暴言吐かれた事なんか、1mmも気にしてねーんだよなぁ……)
むしろ、仲の良いケンカ友達とか、近親の競争相手くらいにしか認識してないハズ。
少なくとも、10歳の頃からアゼリアと一緒に居る俺だが、カイお姉さんとの勝負のエピソードは聞かされても、悪口や批難なんて1回も聞いてた事ないので、この予想はほぼ間違いない。
(むしろ、約1年前の<翡翠領>出発の頃とか、
『エリー叔母様や従姉のカイ様と会うの久しぶりで、楽しみですわ~』
『お二人の事は、アゼリアがお兄様に紹介しますわね~』
とか言ってたくらいだからなぁ……)
お互いの認識が、すれ違いまくっとる。(困惑)
(だいたい、さぁ……
カイお姉さんも、すっかり忘れているみたいだけど、さぁ……
コイツかなり雑な性格してんだよなぁ、妹弟子って……)
ダテに小さい頃は半分捨て子というか、ストリートチルドレンというか、野良イヌみたいな生活してない。
おかげで闘争心も、生存本能も、打たれ強さも、幼少期に育まれ過ぎて半端ない感じだ。
そこに生まれ持った名門<封剣流>直系の、優れた才能と素質が相まって、エラい事になっちゃってる、魔剣士の超絶天才児さんなのだ。
(なあ、カイお姉さんって。
年頃の乙女になった今でも、まだ食べ物の事でケンカとかしてるんですよ、この食いしん坊……
しかも、何かイヤな事があっても、美味しいモノ食べて寝たら機嫌が直っている、お手軽女子だし……)
そんなノドまで迫り上がってきた言葉を、なんとか呑み込む。
「な、なんなの、これ……っ
ど、どういう事なの、これぇ……!!」
「………………」
10代前半の多感なお年頃に、変に罪の意識なんか感じちゃったらしい。
そして、今まで自分を追い詰めちゃってる空回りカイお姉さんが、ちょっと可哀想すぎた。
▲ ▽ ▲ ▽
なんか急に、妹弟子が抱きついてくる。
リップでも塗ってるのかツヤのある唇を、タコさんみたいにウーッて突き出してきた。
「── ですので、お兄様!
チューしたり、ラブラブして見せつけるしかないと思いますのっ!
チューですわ、チュ~~~!!」
「やめんか、ポンコツ妹弟子がっ」
アゼリアの、そんな淑女にあるまじき変顔を押さえて引き離す。
すると、なんか上から目線で言ってきた。
「もう、お兄様ったら。
完璧すぎる超天才美少女で、高嶺の花なアゼリアお嬢様に、フォローしやすい短所がある事が、本当は嬉しい、く・せ・にっ」
「………………」
なんか兄弟子、不憫な妹ちゃんを甘やかして褒めまくった結果、超ポジティブ(自己肯定力モンスター級)に育て過ぎたかもしれん。
まあ、そんな感じで、ちょっとイラッ☆とした。
「なあ、リアちゃん……
さっきから、カイお姉さんへの ── いや、『俺の愛するカイさん』に対して態度が良くないと思わないか?
もしかしたら、兄ちゃんの将来のお嫁さんになるかもしれない人に、そういう態度はどうかな?」
「な、何言ってるんだよ、お前ぇ~~~!」
カイお姉さん、顔真っ赤にして大絶叫。
「な、何でもう籠絡されてますの、お兄様ぁぁ~~!?」
アゼリアは反対に顔を真っ青にして、大絶叫。
「── は!?
もしや、下着!?
セクシーな下着のせいですわね!
それ、さっきリアが買おうとした、おニューな下着ですわ!
お兄様に、このアゼリアが選んでもらおうとしたのを、カイ様が横取りしただけですのよ!
ダマされてますのよ、目を覚まして、お兄様ぁ!!」
「違うよ、アゼリアちゃん!
ソイツの変な言葉にダマされないでぇ~~!
私こんなヤツの恋人なんかなってないからぁ~~!」
アゼリアとカイお姉さんの従姉妹2人が、大騒ぎ。
いつも何かと迷惑かけて悪びれない、妹弟子 ──
さっき変な勘違いで斬りかかってきた、アゼリア従姉──
── そんな2人の慌てっぷりが、痛快でたまらない。
そんな、俺はニヤニヤしそうな顔を必死にこらえる。
シリアス顔 (キリッ)にして、アゼリアに優しく説得 (ウソ)の言葉。
「アゼリア、よく考えてくれ。
兄弟子の家族だったら、妹ちゃんにとっても実質的に家族。
そう考えると、もっと、ちゃんと、仲良くするべきじゃない?」
「嫌ですわ!
絶対嫌ですわ!
お兄様のお嫁さんは、リアですのよ!
妹ちゃんからお嫁さんに、ランクアップのジョブチェンジ予定ですのよ!」
顔色を、真っ青から真っ赤に変えて、リアちゃん大騒ぎ。
「肉親同士の血で血を争う仁義なき戦いにも、勝ち抜きますのよおおおおお!
ウゥ~~! フシャァァァ~~~!!」
「── ロックぅううううう!
お前ええええええ、覚えてろぉおおおおお!!!」
また野良ネコみたいな威嚇ポーズする、リアちゃん。
そして、黒髪をグシャグシャしながら大絶叫する、カイお姉さん。
── カオス過ぎて、大爆笑。
このお嬢さん、結構ノリ良さげ。
俺ホント好きかもしれんwww、デュフフwwフォヌカポォwww




