175:頭ニッポン人かよ!?
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
春がルンルンルン♪な<帝都>。
陽気のいい休日に、ちょっと妹弟子とお出かけ。
なお、隣を歩くリアちゃんの今日の服装は新調衣服。
丈が短く涼しげなワンピースと、肩掛けみたいなヒラヒラの組合せだ。
「ウフフ、お友達と買いに行った春物ですのよっ
似合いまして?」
「うんうん、可愛いカワイイっ」
兄弟子、残念ながら<帝都>の流行とかサッパリだ。
しかし、当流派の超天才美少女魔剣士さんが、今日はより一層に輝いている事くらいは分かる。
今日のアゼリア=ミラーさんは、最強無敵の可憐少女!
すれ違う健全な青少年みんなが見惚れて恋に落ちて混雑群衆まとめてウインク☆ビームで焼き払われちゃうくらいっ
まさに、異世界アイドル無双!!
(俺とか前世からモテない男子だったんで、ファッションセンスとか皆無だし。
こういう時、同性のお友達ってのは頼りになるなぁ)
内心で女子3人に、ありがたやー、と釈尊並に拝んでおく。
<帝都>の士官学校に、コミュ症なリアちゃんが馴染めるかどうか心配していた事を思い出すと、感慨深い。
そんな事を考えていると、豪華ながらもシックな外観の店についた。
日頃なら絶対お近づきにならないような、見るからに高級店だ。
(兄弟子、最近色々あって小金持ちなんで!
今ならリアちゃんに、お高くて見栄えのする装備でも買ってあげられるよっ!?)
── そんなワケで、帝都の中でも数少ない武器防具店でお買い物だ。
そもそもが帝国の誇る圧倒的武力で魔物根絶しちゃって、冒険者が仕事皆無な首都<帝都>だ。
他の都市ならいくらでもある、お手頃リーズナブルな武器防具店なんて有るワケない。
魔剣士名門やエリート騎士サマ達の御用達なんだろう。
見るからに『高級ブティックかよ』というような店構え。
── つまり、粗雑に金属製品が積み上げていたり、店舗裏の工房から鍛冶のハンマー音が聞こえてきたりとか、そういう武器・防具の店の風情とか全然ない。
前世ニッポン風に言えば、ドイツ車とかイタリア車の販売店。
入るのも気後れするような店構だ。
この高そうな絨毯とか、『土足で上がっても怒られない?』と心配になる感じ。
「ここか……。
すいませ~ん」
店の奥のカウンターにいる店員さんを呼び出し、紹介状を差し出す。
またも、ここでも、魔剣士名門<御三家>が<封剣流>のブランド力が会心効果。
── 『あら、子ども2人だけ? 冷やかしかな?』
とか半疑問形で、やや困り顔だったお姉さんの顔が、一瞬でビジネス用ニコニコ笑顔に。
「── まぁ、封剣流本家のお嬢様ですかぁ……っ!
いつも当商店をご愛顧いただき、誠にありがとうございますぅ~。
ご用件は奥でお受けします、どうぞソファへ!
今日は汗ばむ陽気ですものねぇっ
お嬢様方は、まずは冷たいお茶でもお召し上がりくださいぃ」
と、頼んでもないのに、氷の入ったアイスティーとお茶請けのクッキーとかまで出てくるくらいだ。
(── やっぱ、権力は最高だぜ!!)
と、虎の威を借る狐が、得意顔ッ!
▲ ▽ ▲ ▽
「来週に闘技場、ですか?」
「ええ、わたくし武闘大会の学生枠に出場しますのよっ」
妹弟子が、元気に手を挙げて答える。
高級装備店のお姉さん達が、3人そろってパチパチ拍手。
「あらあらあら、おめでとうございます!
流石は、魔剣士<御三家>のお嬢様。
それでは晴れ舞台に相応しい装備が必要ですね」
当流派の小動物的少女が高級そうなクッキーをパクパク夢中でいただいている内に、カラカラと展示木像が並べられる。
白・黒・赤・鈍色・革張りなど、色とりどりの軽装備だ。
女性物だからなのか、あるいは式典用だからなのか、飾り紐やマントなどの着いている物が多い。
「式典のようなフォーマルな場でもお使いいただく、という事でしたら、こちらの濃い赤色の物はいかがでしょう。
昨年の流行の形に少し手を加えた新作防具です。
女性らしい華やかさと重厚な威厳の両方を演出する、名家のお嬢様にピッタリな意匠になっています」
「ですって。
どうです、お兄様?」
「は、はぁ……でもなぁ……」
兄弟子、なんとも言えない相づちを打っちゃう。
というのも、多分この防具、魔力の反応的に<祈赤銅>がメイン素材。
魔物だらけの辺境<翡翠領>だと、こんなクソ素材の防具を選ぶとか、貧乏なペーペー新人冒険者だけ。
(こんなの使った事ないから予想だけど……
多分『脅威力2とかクソザコな<樹上爪狼>の一撃』で、バックリ穴が開いちゃうレベルの防具だよなぁ……)
そんな紙装甲に、並の防具の数倍という高額な値札。
いくら式典用の特別製とはいえ、何だか納得いかない。
── 詳しく説明すると、錬金装備の主要3種では硬度が<魔導鋼>、<霊青銅>、<祈赤銅>の順で一番下。
(なお錬金技術の最高傑作<錬星金>は、財産と人脈がある富豪か、王侯貴族の専用装備みたいな物なので、ここでは無視する)
<祈赤銅>ってのは、金属の割に軽く、竹材みたいに柔軟性もあるから、木材の補強や代用で使われる。
前世ニッポンで言えば『強化プラスチック』みたいな、手軽で安価な材料って感じか?
そんな<祈赤銅>製の防具なんて、衛兵の制服組が、犯罪者取り締まりの時に急所を守るため服の下に着けるくらい。
つまり、対人用の簡易プロテクター。
── あるいは前世ニッポンのRPGゲームで例えたら、ラスボス戦の直前で装備品の能力値が300とか500とかになった頃に、
『なんとこの古代王家の鎧! 防御力45!? しかも素早さが+2されちゃうんです!』
みたいなゲーム初期のレア装備が出てきた、みたいな感じだ。
(そんなゴミ性能を、命がけで魔物と戦う魔剣士にすすめるとか、ナメてんの?)
正直、そう思う。
しかし、店員のお姉さんはビジネス笑顔ながら、声の調子も誠実そう。
とても、俺みたいな世間知らずをダマしてるという、悪意や腹黒さは感じない。
(まあ、アゼリア叔父の紹介状で天下の<封剣流>の名前出しているんだから。
子ども相手でも、詐欺みたいな事をするワケもないだろうし……)
そんな無謀な事を<帝都>でやろうものなら、<御三家>の後ろ盾である帝室や貴族も敵に回すようなモンだ。
「んん~……商品のほとんどが<祈赤銅>製っぽいな……」
念のため、魔力センサー魔法【序の四段目:風鈴眼】で、店内の他の商品もチラ見。
冒険者の半鎧で多い<霊青銅>製の防具が、かろうじて2~3点。
領主騎士とか盾役の冒険者が着込む<魔導鋼>の重装甲なんて、1点もない。
── となると、そもそも、この店は『そういう店』なんだろう。
性能なんて二の次。
見栄えが第一。
確かに商品棚に並ぶ、インナーの手袋や下履きの類いさえ、高額でオシャレでファッショナブル。
(つまり、見た目通りの、高級服飾店。
そのついでに、魔剣士の式典用装備品を扱っている、って感じなのか……?)
▲ ▽ ▲ ▽
「……木材に鮫革張りの小盾とか、<魔導鋼>の板金被せた軽装甲とか。
あんなの、どこの防具屋にでも売っていると思ったのに……」
馴染みのある<翡翠領>の装備用品店とは違いすぎて、カルチャーショックが凄い。
試しに、店員さんの1人にちょっと訊いてみたら、案の定な反応が返ってくる。
「あ、はい?
<魔導鋼>の防具、ですか……。
その、武器ではなく……?」
困惑の声で『誰がそんな物を買うんだ』という店員さんの表情。
「んん~……、でも儀礼用でも<祈赤銅>製の防具とか。
いくら女性用で身軽さというか軽量重視としても、防御というか強度というか、心もとなくないですか?」
「そうおっしゃられても、お客様。
今回のお買い求めは、武闘大会にご出場の際に身につけられる防具 ──
── いわゆる式典用ですよね?
そんな<魔導鋼>製の防具とか、そんな無粋な装備なんて華やかな舞台には不釣り合いでは?」
売り場の責任者っぽい細目の女性が、ちょっと呆れ口調。
軽くたしなめる感じで言ってくる。
「たしかに帝国中から腕利きの魔剣士が集まる武闘大会は、『身体生命の保証なし』と注意書きがあります。
しかし、剣も槍も、すべて運営が用意した模造武器ですよ?
出場者がほとんどが簡易な防具で、重傷なんて滅多にありませんよ?」
「…………」
「そんな、辺境で使う重装甲を着て出るなんて。
国境沿いに戦争に行く訳じゃないんですからっ」
上客の手前ギリギリ抑えているけど、半笑いでオイオイ……ッ、って感じだ。
そして、声を小さくして、耳打ちしてくる。
「アゼリアお嬢様の、大変な美貌が傷つくのを心配されているのですよね?
しかし、ご参加されるのは武闘大会の、しかも学生枠トーナメントですよ。
将来を期待される士官学校の成績優秀者ばかり、帝室や地方領主も観覧されます。
そんな場で、勇敢さを示すべき魔剣士が、『わずかなケガも負いたくない』とばかりに重装甲を着込むなんて。
逆に、名門<封剣流>の名誉にかかわりますよ?」
「……………………」
── 【悲報】戦いの専門家ぶった俺【赤っ恥】一般女子に完全論破される【死にたい】。
気まずくてお目々パチパチ、視線をそらしちゃう。
すると、他2人の女性店員さんに採寸してもらっている、妹弟子の姿が目に入る。
「── わたくしの場合、式典用でも首回りを標準より低めに」
「はい、承知いたしました」
「あと肩幅も、いつも縮めてもらっていますの」
「はい。デザインで多少の差違がありますので、実物を合わせながら ──」
慣れきった感じで、テキパキ指示だしてる。
そんな本人の感じからして、<祈赤銅>製の防具とかクソ貧弱装備でも、全く不満はないらしい。
というか、式典用とか儀礼用とか、そういう物だとあらかじめ解ってたっぽい。
だって妹弟子って、生まれは色々あったけど、育ちは<帝都>で、名門のお嬢様なんで。
(いや、そういう事はあらかじめ教えてくれませんかね、封剣流のお嬢様ったら……っ
お前の兄弟子って、帝国の端っこ育ちで、色んな常識が抜け落ちてる田舎者なんだからな~!)
── アゼリアお前ぇっ、ホントそういう所だぞ!?(八つ当たり)
▲ ▽ ▲ ▽
── なお、ちょっと話題に出た、国境について補足説明。
前にも説明したかもしれないが、この異世界って『人が住めないヤベェ土地』=『国境の外』というワケだ。
なので、この異世界の国境警備って任務は、 言葉からイメージされる他国との騒動とか ── つまり、スパイ対策や不法入国者の取り締まり、あるいは他国が攻めてくるみたいな ── それ以前の問題。
つまり、僻地の渓谷とかに城塞とか造って24時間365日監視しつつ、魔物生息域から人里まで近寄づかないように毎日魔物を追い払っている(いわゆる『人間の縄張り』を主張している)のが、帝国騎士団の第二『国境守備隊』。
つまり、
『人外魔境の魔物退治は大変なんです!』
『毎日が戦争なんですよ!』
が、誇張なしのリアル話。
(それを考えるとマジで平和ボケしてんな、ここ<帝都>って……)
例えるなら、飼い猫が暖房の効いた部屋で『あお向け寝』している、野生味ない姿を見た気分だ。
誠に残念この上ない。
── まるで前世ニッポンだなっ(失笑)
── 帝都民ども、オメーら頭ニッポン人かよぉ?(呆息)
(※ 温厚な聖職者も激怒な暴言!)
▲ ▽ ▲ ▽
── え、何?
『それなら<翡翠領>にも帝国騎士団の第二『国境守備隊』が居たのか』って?
(バカだなぁ~、そんなワケないじゃんっ
アッハッハァ~~、キミ面白い事言うね!)
<翡翠領>ってさぁ、東の帝国どころか北大陸最凶の危険地帯『巨人の箱庭』が裏山に有るンだよ?
そして駅近アパート徒歩25分のノリで、テクテク歩いて『巨人の箱庭』まで行けちゃうのが<翡翠領>最北端<ラピス山地>なんスよ?
(いわゆる『触らぬ神に祟りなし』。
あるいは『それで今まで問題なかったんだから、余計な手出しすんな』とか?
多分、そんな感じなんだろうな。
危険地帯の<ラピス山地>と超危険地帯の<ヴィオーラ巨大樹林>の扱いって)
── 結局は、政治の世界の話だ。
それ以外にも、俺が知らない経緯や事情があるんだろう。
だいたい世の中って、そんなモン。
外部からは見えない複雑な歯車が裏で噛み合ってるし、うっかり手を出せば思いがけない所に影響が出たりもする。
少なくとも、俺みたいな異世界転生者って半分ヨソ者みたいなヤツが、勝手な決めつけでアレコレ批難する話でもない。
「ハァ……ッ」
そんな益体もない事を考えていると、ちょっとため息が出た。
店内の姿見の大鏡の方を見ると、赤い胴当てと白い胴当てを、交互につけて脇や背中を気にしている美少女さんと、その周りを囲みサイズ計測や調整をしている女性店員さん3人の姿。
デザイン的に肩飾りが有った方が良い、とか ──
動かしたらここが邪魔になりそう、とか ──
腰当ての板の大きさ・枚数、とか ──
籠手装甲の着脱方式、とか ──
女性の髪が美しく見える最新デザインの兜、とか ──
── 女性のお召し物、それも晴れ舞台用なので、一部位選ぶのにだって時間がかかり、さらに色合わせや小物とのトータルデザインで、また色々と調整が入る。
つまり、メチャクチャ時間がかかっている。
「こんな時……ネット端末でも有ったらなぁ……」
俺は、口の中でそんな事をボヤき、特に興味もない帝都の最新ファッション雑誌なんかを、流し読み。
帝都のグルメ&スイーツコーナーを見付けて、『本当に、前世ニッポン並に平和だな』と苦笑い。
── するとまた、剣帝流の修行場・帝国東北部の事ばかりが頭に浮かぶ。
(でも実際に、ジジイの話や、領都の衛兵さんの話とか聞いていると、
『翡翠領って旧連合国時代から、なんか単独でガンバってきたらしいじゃん?』
『スゲーね! 気合い入ってるね!! これからもガンバって!!!』
『あ、たまに物資送ってあげるから、それで勘弁してネ!?』
って、腫れ物扱いされているらしいしなぁ……)
そんな見放された土地、<翡翠領>だからこそ。
当流派の剣帝サマが住み込み、魔物退治しながら弟子育成してたりするワケなんですよ。
── でもガチで命がキケンだから、良い子のみんなはマネしないでね!
(※注意:剣帝流は特殊な訓練を受けています)
▲ ▽ ▲ ▽
「さて、30分くらい、どうやって時間を潰そう……」
そう高級装備店から脱出してきた俺。
── いや、違うよ?
女性の買い物が長引きそうで、ウンザリして逃げて来たワケじゃない。
お茶請けのクッキーとかボリボリ食いながらダラダラ雑誌読んでたら、店内の試着室の方から気になる会話が。
『お嬢様、下着はどうなさいます?』
『やはりこういった物は、トータルコーディネイトですのでぇ』
『ええ、見えない所からこだわるのが、オシャレという物ですから~』
『そうですわね……。
こっちのグレーとあっちのピンク、どちらが良いかお兄様に訊いてみますわっ』
『あら~、まあ、まあ!?』
『そういうご関係なんですかぁっ』
『──……ええ私よ、聞こえる? 大至急よ、今すぐ本店までひと箱持って来させて。……そう、“特別なお客様向け”の女性用』
── なんか話がヤベエ方向に向かいつつある!?
そんな不穏な空気(?)を感じ取り、兄弟子シュバった。
まるで<ラピス山地>原生のウサギさん(ビッグサイズのくせに足速い!)並の脱兎逃走で、シュバババ~……ッと即・店外へ。
まったく困った妹弟子だ。
兄弟子を何だと思ってやがる。
(解んない事、なんでも兄ちゃんに聞かないのっ(約1年振り2回目))
後で、しっかり注意しておかないと。
── そんな感じで、高級商店の区画から一時避難してきた。
庶民向きな商店が並ぶ繁華街の区画で、ブラブラ目的も無くひとり歩いているワケである。
「さて、どうするかな……
ゲーセンでヒマつぶし……とか当然のように無いしなぁ……この異世界」
買い物が終わってお昼の予定なので、間食とか食べ歩きとかは論外だ。
「芝居小屋か……そんな物見てもなぁ……」
俺なんて、前世ニッポンの頃から、パニックホラーか爆発アクションしか見ないタイプだ。
この異世界のお芝居とか、小説原作の歴史大河、古典の恋愛悲劇、大衆向け喜劇くらい。
どれも今ひとつ趣味に合わない。
それに前世ニッポンのショーワの映画館みたいに、途中入場では、話の筋も主人公も分からないまま終わりそう。
── ポロン、ポロ~ン♪
── ポロロロ~ン、ポロン♪
と聞こえてきたのは、どこか調子外れの旋律。
音の方に振り向くと、楽器店の店主らしき人が調音作業みたいな事をしている。
「演奏、か……」
ポケットをゴソゴソすると、鉄弦の巻き軸。
<聖都>行きの乗合貨物で出会った、鋼糸の講師センセイの顔が思い出される。
(そういえば、『鋼糸使い』な戦闘術の訓練ばっかりで、演奏はしてなかったな。
ひと気のない公園でも探して、久しぶりに練習でもするか……?)
藩王国のリュート(仮名)さんも『生徒が出来た!』とか喜んでたみたい。
せっかく伝授してもらった独自開発の演奏技術なんだ、腕を鈍らせるのも何だか不義理な気がする。
そんな事を考えながら、準備運動的に軽く魔力操作を始める ──
── そして今さらながらに、背後の異常に気付いた。
「……チッ、俺も平和ボケしてんなっ」
商店街の魚屋が拡声器の<魔導具>を起動させる『カン!』という音に紛れさせるように、オリジナル魔法を自力詠唱。
魔力センサー【序の四段目:風鈴眼】を、今さらに起動して後方の十数mを警戒。
訓練された身のこなしと、体内に秘めた多大な魔力。
ただの荒くれ者ではなさそうだ。
(── なら魔剣士、か……)
そうなると、裏社会の暗殺者か。
あるいは、また神王国関係か。
「もしかして、先週の事件の残党か……?」
ロクでもない騒動が脳裏に浮かんで、ウンザリする。
(思い出すのも気分の悪い事件なので概要だけひと言:生徒さん2人連れて赤毛少女の学校で工作員ボコった)
(帝国の首都なのに、どれだけ他国の工作員が入り込んでるんだよ……っ)
イライラを発散するように、大きくため息。
夜にでも隠れ家に行って仮面仙女に文句言おう、と心に決める。
表通りから、裏通りへ。
繁華街から、住宅地へ。
通りから、小路へ。
鎖で封鎖された門の、側面のレンガ塀を飛び越える。
「ここ、火事の後かな……?」
あらかじめ魔力センサー【序の四段目:風鈴眼】で調べた通りの、広い空きスペース。
敷地の端っこに黒焦げた木材が山積みになっているので、火事になった建物の解体でもしているんだろう。
── ザ……ッ!と背後に、着地する音。
振り返れば、フードを被って顔を隠す、長身で引き締まった人物 ──
「── 俺って、さ。
若い女性にストーカーされるほど、モテる顔じゃないけど?」
「黙れ、害虫め……っ」
押し殺した暗い情念の声。
荒ぶる吐息。
すぐさま殺意が爆発し、<正剣>が腰から抜き放たれる。
鈍色の斬光が、四つの弧を描いた。
「── はぁ……ッ、『四波』だって!」
(まさか、コイツ<封剣流>……っ!?)
予想外の相手に驚く。
俺は一瞬だけ、固まってしまった。




