表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 8:闘技場ステージ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

175/236

175:頭ニッポン人かよ!?

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




春がルンルンルン♪な<帝都>。

陽気のいい休日に、ちょっと妹弟子(アゼリア)とお出かけ。



なお、隣を歩くリアちゃんの今日の服装(コーデ)新調衣服(おろしたて)

丈が短く涼しげなワンピースと、肩掛け(ショール)みたいなヒラヒラの組合せだ。



「ウフフ、お友達と買いに行った春物ですのよっ

 似合いまして?」


「うんうん、可愛いカワイイっ」



兄弟子(にいちゃん)、残念ながら<帝都(マチ)>の流行とかサッパリだ。

しかし、当流派(ウチ)の超天才美少女魔剣士さんが、今日はより一層に輝いている事くらいは分かる。


今日のアゼリア=ミラーさんは、最強無敵の可憐少女!

すれ違う健全な青少年みんなが見惚(みほ)れて恋に落ちて混雑群衆(ひとやま)まとめてウインク☆ビームで()()われちゃうくらいっ


まさに、異世界アイドル無双!!



(俺とか前世からモテない男子だったんで、ファッションセンスとか皆無だし。

 こういう時、同性のお友達ってのは頼りになるなぁ)



内心で女子3人に、ありがたやー、と釈尊(ブッダ)並に拝んでおく。


<帝都>の士官学校に、コミュ症なリアちゃんが馴染めるかどうか心配していた事を思い出すと、感慨深い。


そんな事を考えていると、豪華ながらもシックな外観の店についた。

日頃なら絶対お近づきにならないような、見るからに高級店だ。



兄弟子(にいちゃん)、最近色々あって小金持ちなんで!

 今ならリアちゃんに、お高くて見栄えのする装備でも買ってあげられるよっ!?)



── そんなワケで、帝都の中でも数少ない武器防具店でお買い物だ。


そもそもが帝国の誇る圧倒的武力で魔物根絶しちゃって、冒険者が仕事皆無(あがったり)な首都<帝都>だ。

他の都市ならいくらでもある、お手頃リーズナブルな武器防具店なんて有るワケない。


魔剣士名門やエリート騎士サマ達の御用達(ごようたし)なんだろう。

見るからに『高級ブティックかよ』というような店構え。



── つまり、粗雑に金属製品が積み上げていたり、店舗裏の工房から鍛冶のハンマー音が聞こえてきたりとか、そういう武器・防具の店の風情(ふぜい)とか全然ない。


前世ニッポン風に言えば、ドイツ車(メルセデス)とかイタリア車(フェラーリ)販売店(ショールーム)

入るのも気後れするような店構だ。


この高そうな絨毯(カーペット)とか、『土足で上がっても怒られない?』と心配になる感じ。



「ここか……。

 すいませ~ん」



店の奥のカウンターにいる店員さんを呼び出し、紹介状を差し出す。

またも、ここでも、魔剣士名門<御三家>が<封剣流>のブランド(りょく)会心効果(クリティカル)



── 『あら、子ども2人だけ? 冷やかしかな?』

とか半疑問形で、やや困り顔だったお姉さんの顔が、一瞬でビジネス用ニコニコ笑顔に。



「── まぁ、封剣流本家のお嬢様ですかぁ……っ!

 いつも当商店をご愛顧(あいこ)いただき、誠にありがとうございますぅ~。

 ご用件は奥でお受けします、どうぞソファへ!

 今日は汗ばむ陽気ですものねぇっ

 お嬢様方は、まずは冷たいお茶でもお召し上がりくださいぃ」



と、頼んでもないのに、氷の入ったアイスティーとお茶請けのクッキーとかまで出てくるくらいだ。



(── やっぱ、権力は最高だぜ!!)



と、(リア)の威を借る(オレ)が、得意顔(ドヤァ)ッ!





▲ ▽ ▲ ▽



「来週に闘技場(コロシアム)、ですか?」


「ええ、わたくし武闘大会の学生枠に出場しますのよっ」



妹弟子が、元気に手を挙げて答える。

高級装備店のお姉さん達が、3人そろってパチパチ拍手。



「あらあらあら、おめでとうございます!

 流石は、魔剣士<御三家>のお嬢様。

 それでは晴れ舞台に相応しい装備(よそおい)が必要ですね」



当流派(ウチ)小動物的少女(リアちゃん)が高級そうなクッキーをパクパク夢中でいただいている内に、カラカラと展示木像(マネキン)が並べられる。


白・黒・赤・鈍色・革張りなど、色とりどりの軽装備だ。

女性物だからなのか、あるいは式典用だからなのか、飾り紐やマントなどの着いている物が多い。



「式典のようなフォーマルな場でもお使いいただく、という事でしたら、こちらの濃い赤色の物はいかがでしょう。

 昨年の流行の形に少し手を加えた新作防具です。

 女性らしい華やかさと重厚な威厳の両方を演出する、名家(めいか)のお嬢様にピッタリな意匠(デザイン)になっています」


「ですって。

 どうです、お兄様?」


「は、はぁ……でもなぁ……」



兄弟子(にいちゃん)、なんとも言えない相づちを打っちゃう。


というのも、多分この防具、魔力の反応的に<祈赤銅(プライヤロイ)>がメイン素材。

魔物だらけの辺境<翡翠領(グリンストン)>だと、こんなクソ素材(・・・・)の防具を選ぶとか、貧乏なペーペー新人冒険者だけ。



こんなの(・・・・)使った事ないから予想だけど……

 多分『脅威力2とかクソザコな<樹上爪狼(ロングクロー)>の一撃』で、バックリ穴が開いちゃうレベルの防具だよなぁ……)



そんな(カミ)装甲(そうこう)に、並の防具(・・・・)の数倍(・・・)という高額な値札。

いくら式典用の特別製とはいえ、何だか納得いかない。



── 詳しく説明すると、錬金装備の主要3種では硬度が<魔導鋼(マグサロイ)>、<霊青銅(アニマロイ)>、<祈赤銅(プライヤロイ)>の順で一番下。

(なお錬金技術の最高傑作<錬星金(オリハルコン)>は、財産(カネ)人脈(コネ)がある富豪か、王侯貴族の専用装備みたいな物なので、ここでは無視する)


祈赤銅(プライヤロイ)>ってのは、金属の割に軽く、竹材(タケ)みたいに柔軟性もあるから、木材の補強や代用で使われる。

前世ニッポンで言えば『強化プラスチック』みたいな、手軽で安価な材料って感じか?


そんな<祈赤銅(プライヤロイ)>製の防具なんて、衛兵の制服組が、犯罪者取り締まりの時に急所を守るため服の下に着けるくらい。

つまり、対人用(・・・)の簡易プロテクター。



── あるいは前世ニッポンのRPGゲームで例えたら、ラスボス戦の直前で装備品の能力値(ステータス)が300とか500とかになった頃に、

『なんとこの古代王家の鎧! 防御力45!? しかも素早さが+2されちゃうんです!』

みたいなゲーム初期のレア装備が出てきた、みたいな感じだ。



(そんなゴミ性能(・・・・)を、命がけで魔物と戦う魔剣士にすすめるとか、ナメてんの?)



正直、そう思う。


しかし、店員のお姉さんはビジネス笑顔ながら、声の調子も誠実そう。

とても、俺みたいな世間知らずをダマしてるという、悪意や腹黒さは感じない。



(まあ、アゼリア叔父(クルスさん)の紹介状で天下の<封剣流>の名前出しているんだから。

 子ども相手でも、詐欺みたいな事をするワケもないだろうし……)



そんな無謀な事を<帝都>でやろうものなら、<御三家>の後ろ盾である帝室や貴族も敵に回すようなモンだ。



「んん~……商品のほとんどが<祈赤銅(プライヤロイ)>製っぽいな……」



念のため、魔力センサー魔法【序の四段目:風鈴眼(ふうりんがん)】で、店内の他の商品もチラ見。


冒険者の半鎧で多い<霊青銅(アニマロイ)>製の防具が、かろうじて2~3点。

領主騎士とか盾役の冒険者が着込む<魔導鋼(マグサロイ)>の重装甲なんて、1点(ひとつ)もない。



── となると、そもそも、この店は『そういう店』なんだろう。


性能なんて()(つぎ)

見栄(みば)えが第一。


確かに商品棚に並ぶ、インナーの手袋や下履き(ズボン)(たぐ)いさえ、高額でオシャレでファッショナブル。



(つまり、見た目通りの、高級服飾店(ブティック)

 そのついで(・・・)に、魔剣士の式典用装備品を扱っている、って感じなのか……?)





▲ ▽ ▲ ▽



「……木材に鮫革(サメがわ)()りの小盾とか、<魔導鋼(マグサロイ)>の板金(ばんきん)(かぶ)せた軽装甲とか。

 あんなの(・・・・)、どこの防具屋にでも売っていると思ったのに……」



馴染(なじ)みのある<翡翠領(グリンストン)>の装備用品店とは違いすぎて、カルチャーショックが凄い。


試しに、店員さんの1人にちょっと訊いてみたら、案の定な反応が返ってくる。



「あ、はい?

 <魔導鋼(マグサロイ)>の防具、ですか……。

 その、武器ではなく……?」



困惑の声で『誰がそんな物を買うんだ』という店員さんの表情。



「んん~……、でも儀礼用でも<祈赤銅(プライヤロイ)>製の防具とか。

 いくら女性用で身軽さというか軽量重視としても、防御というか強度というか、(こころ)もとなく(・・・・)ないですか?」


「そうおっしゃられても、お客様。

 今回のお買い求めは、武闘大会にご出場の際に身につけられる防具 ──

  ── いわゆる式典用(・・・)ですよね?

 そんな<魔導鋼(マグサロイ)>製の防具とか、そんな無粋な装備(・・・・・)なんて華やかな(・・・・)舞台(・・)には不釣(ふつ)()いでは?」



売り場の責任者っぽい細目の女性が、ちょっと呆れ口調。

軽くたしなめる(・・・・・)感じで言ってくる。



「たしかに帝国中から腕利(うでき)きの魔剣士が集まる武闘大会は、『身体生命の保証なし』と注意書きがあります。

 しかし、剣も槍も、すべて運営が用意した模造武器(ナマクラ)ですよ?

 出場者がほとんどが簡易な防具で、重傷なんて滅多にありませんよ?」


「…………」


「そんな、辺境(いなか)で使う重装甲を着て出るなんて。

 国境沿いに(・・・・・)戦争に行く(・・・・・)訳じゃないんですからっ」



上客の手前ギリギリ抑えているけど、半笑いでオイオイ……ッ、って感じだ。

そして、声を小さくして、耳打ちしてくる。



「アゼリアお嬢様の、大変な美貌が傷つくのを心配されているのですよね?

 しかし、ご参加されるのは武闘大会の、しかも学生枠トーナメントですよ。

 将来を期待される士官学校の成績優秀者ばかり、帝室や地方領主も観覧されます。

 そんな場で、勇敢さを示すべき魔剣士が、『わずかなケガも負いたくない』とばかりに重装甲を着込むなんて。

 逆に、名門<封剣流>の名誉にかかわりますよ?」


「……………………」



── 【悲報】戦いの専門家ぶった俺【赤っ恥】一般女子に完全論破される【死にたい】。



気まずくてお目々パチパチ、視線をそらしちゃう。


すると、他2人の女性店員さんに採寸してもらっている、妹弟子(リアちゃん)の姿が目に入る。



「── わたくしの場合、式典用でも首回り(カラー)を標準より低めに」


「はい、承知いたしました」


「あと肩幅も、いつも縮めてもらっていますの」


「はい。デザインで多少の差違がありますので、実物を合わせながら ──」



慣れきった感じで、テキパキ指示だしてる。

そんな本人の感じからして、<祈赤銅(プライヤロイ)>製の防具とかクソ貧弱(ザコ)装備でも、全く不満はないらしい。


というか、式典用とか儀礼用とか、そういう物だとあらかじめ解ってたっぽい。

だって妹弟子って、生まれは色々あったけど、育ちは<帝都>で、名門(いいとこ)のお嬢様なんで。



(いや、そういう事はあらかじめ教えてくれませんかね、封剣流のお嬢様(アゼリア=ミラーさん)ったら……っ

 お前の兄弟子(にいちゃん)って、帝国の端っこ育ちで、色んな常識が抜け落ちてる田舎者(おのぼりさん)なんだからな~!)



── アゼリアお前ぇっ、ホントそういう所だぞ!?(八つ当たり)





▲ ▽ ▲ ▽



── なお、ちょっと話題に出た、国境について補足説明。



前にも説明したかもしれないが、この異世界って『人が住めないヤベェ土地』=『国境の外』というワケだ。


なので、この異世界の国境警備って任務(おシゴト)は、 言葉からイメージされる他国との騒動(トラブル)とか ── つまり、スパイ対策や不法入国者の取り締まり、あるいは他国が攻めてくるみたいな ── それ以前(・・・・)の問題。


つまり、僻地(へきち)の渓谷とかに城塞とか造って24時間365日監視しつつ、魔物生息域(国境の外)から人里まで近寄づかないように毎日魔物を追い払っている(いわゆる『人間の縄張り』を主張している)のが、帝国騎士団の第二『国境守備隊』。



つまり、

人外魔境(こっきょう)の魔物退治は大変なんです!』

『毎日が戦争(・・)なんですよ!』

が、誇張なしのリアル話。



(それを考えるとマジで平和ボケしてんな、ここ<帝都>って……)



例えるなら、飼い猫が暖房の効いた部屋で『あお向け寝(ヘソてん)』している、野生味ない姿を見た気分だ。

誠に残念この上ない。



── まるで前世ニッポン(ぬるまゆ)だなっ(失笑)

── 帝都民ども、オメーら(アタマ)ニッポン人かよぉ?(呆息)

(※ 温厚な聖職者も激怒(ゲキオコ)暴言(ディスり)!)





▲ ▽ ▲ ▽



── え、何?


『それなら<翡翠領(グリンストン)>にも帝国騎士団の第二『国境守備隊』が居たのか』って?



(バカだなぁ~、そんなワケないじゃんっ

 アッハッハァ~~、キミ面白い事言うね!)



翡翠領(グリンストン)>ってさぁ、東の帝国どころか北大陸最凶の(・・・)危険地帯(・・・・)『巨人の箱庭』ジャイアント・ガーデン裏山(北西)に有るンだよ?


そして駅近(エキチカ)アパート徒歩25分のノリで、テクテク歩いて『巨人の箱庭』ジャイアント・ガーデンまで行けちゃうのが<翡翠領(グリンストン)>最北端<ラピス山地>なんスよ?



(いわゆる『触らぬ神に祟りなし』。

 あるいは『それで今まで問題なかったんだから、余計な手出しすんな』とか?

 多分、そんな感じなんだろうな。

 危険地帯の<ラピス山地>と超危険地帯の<ヴィオーラ巨大樹林ジャイアント・ガーデン>の扱いって)



── 結局は、政治(オトナ)の世界の話だ。

それ以外にも、俺が知らない経緯や事情があるんだろう。


だいたい世の中って、そんなモン。

外部からは見えない複雑な歯車が裏で噛み合ってるし、うっかり手を出せば思いがけない所に影響が出たりもする。


少なくとも、俺みたいな異世界転生者って半分ヨソ者みたいなヤツが、勝手な決めつけでアレコレ批難する話でもない。



「ハァ……ッ」



そんな益体もない事を考えていると、ちょっとため息が出た。



店内の姿見の大鏡の方を見ると、赤い胴当てと白い胴当てを、交互につけて脇や背中を気にしている美少女さん(リアちゃん)と、その周りを囲みサイズ計測や調整をしている女性店員さん3人の姿。


デザイン的に肩飾りが有った方が良い、とか ──

動かしたらここが邪魔になりそう、とか ──

腰当て(スカート)の板の大きさ・枚数、とか ──

籠手装甲(ガントレッド)の着脱方式、とか ──

女性の髪が美しく見える最新デザインの兜、とか ──


── 女性のお召し物(ファッション)、それも晴れ舞台用(しょうぶふく)なので、一部位選ぶのにだって時間がかかり、さらに色合わせや小物とのトータルデザインで、また色々と調整が入る。


つまり、メチャクチャ時間がかかっている。



「こんな時……ネット端末(スマホ)でも有ったらなぁ……」



俺は、口の中でそんな事をボヤき、特に興味もない帝都の最新ファッション雑誌なんかを、流し読み。


帝都のグルメ&スイーツコーナーを見付けて、『本当に、前世ニッポン並に平和だな』と苦笑い。



── するとまた、剣帝流の修行場・帝国東北部(グリンストン)の事ばかりが頭に浮かぶ。



(でも実際に、ジジイの話や、領都(グリンストン)衛兵さん(おやくにん)の話とか聞いていると、

 『翡翠領(おまえンち)って旧連合国時代から、なんか単独(ひとり)でガンバってきたらしいじゃん?』

 『スゲーね! 気合い入ってるね!! これからもガンバって!!!』

 『あ、たまに物資送ってあげるから、それで勘弁してネ!?』

 って、()(もの)(あつか)いされているらしいしなぁ……)



そんな見放された土地、<翡翠領(グリンストン)だからこそ(・・・・・)

当流派(ウチ)剣帝サマ(おひとよし)が住み込み、魔物退治しながら弟子育成してたりするワケなんですよ。



── でもガチで命がキケンだから、良い子のみんなはマネしないでね!

(※注意:剣帝流(スタッフ)は特殊な訓練を受けています)





▲ ▽ ▲ ▽



「さて、30分くらい、どうやって時間を潰そう……」



そう高級装備店から脱出してきた俺。


── いや、違うよ?

女性の買い物(ショッピング)が長引きそうで、ウンザリして逃げて来たワケじゃない。


お茶請けのクッキーとかボリボリ食いながらダラダラ雑誌読んでたら、店内の試着室の方から気になる会話が。



『お嬢様、下着はどうなさいます?』

『やはりこういった物は、トータルコーディネイトですのでぇ』

『ええ、見えない所からこだわるのが、オシャレという物ですから~』


『そうですわね……。

 こっちのグレーとあっちのピンク、どちらが良いかお兄様に訊いてみますわっ』


『あら~、まあ、まあ!?』

『そういうご関係なんですかぁっ』

『──……ええ私よ、聞こえる? 大至急よ、今すぐ本店までひと箱持って来させて。……そう、“特別なお客様向け”の女性用』



── なんか話がヤベエ方向に向かいつつある!?



そんな不穏な空気(?)を感じ取り、兄弟子(にいちゃん)シュバった。

まるで<ラピス山地>原生(げんせい)のウサギさん(ビッグサイズのくせに足速い!)並の脱兎逃走(ダッシュ)で、シュバババ~……ッと即・店外へ。



まったく困った妹弟子だ。

兄弟子を何だと思ってやがる。



(わか)んない事、なんでも兄ちゃんに聞かないのっ(約1年振り2回目))



後で、しっかり注意(おはなし)しておかないと。



── そんな感じで、高級商店の区画から一時避難してきた。

庶民向きな商店が並ぶ繁華街の区画で、ブラブラ目的も無くひとり歩いているワケである。



「さて、どうするかな……

 ゲーセンでヒマつぶし……とか当然のように無いしなぁ……この異世界」



買い物が終わってお昼の予定なので、間食とか食べ歩きとかは論外だ。



「芝居小屋か……そんな物見てもなぁ……」



俺なんて、前世ニッポンの頃から、パニックホラーか爆発アクションしか見ないタイプだ。

この異世界のお芝居とか、小説原作の歴史大河、古典の恋愛悲劇、大衆向け喜劇くらい。

どれも今ひとつ趣味に合わない。


それに前世ニッポンのショーワの映画館みたいに、途中入場では、話の筋も主人公も分からないまま終わりそう。



── ポロン、ポロ~ン♪

── ポロロロ~ン、ポロン♪


と聞こえてきたのは、どこか調子外れの旋律(メロディ)

音の方に振り向くと、楽器店の店主らしき人が調音作業みたいな事をしている。



「演奏、か……」



ポケットをゴソゴソすると、鉄弦の巻き軸(スプール)

<聖都>(センダード)行きの乗合貨物(ワゴン)で出会った、鋼糸の講師センセイの顔が思い出される。



(そういえば、『鋼糸(いと)使い』な戦闘術の訓練ばっかりで、演奏はしてなかったな。

 ひと()のない公園でも探して、久しぶりに練習でもするか……?)



藩王国のリュート(仮名)さんも『生徒が出来た!』とか喜んでたみたい。

せっかく伝授してもらった独自開発の演奏技術なんだ、腕を鈍らせるのも何だか不義理(ふぎり)な気がする。


そんな事を考えながら、準備運動的に軽く魔力操作を始める ──

 ── そして今さらながらに、背後の異常に気付いた。



「……チッ、俺も平和ボケしてんなっ」



商店街の魚屋が拡声器(マイク)<魔導具>(マジック・アイテム)を起動させる『カン!』という音に(まぎ)れさせるように、オリジナル魔法を自力詠唱(『チリン』)

魔力センサー【序の四段目:風鈴眼(ふうりんがん)】を、今さらに起動して後方の十数mを警戒。


訓練された身のこなしと、体内(ウチ)に秘めた多大な魔力。

ただの荒くれ者(チンピラ)ではなさそうだ。



(── なら魔剣士、か……)



そうなると、裏社会の暗殺者か。

あるいは、また(・・)神王国関係か。



「もしかして、先週の事件(アレ)の残党か……?」



ロクでもない(・・・・・・)騒動(トラブル)が脳裏に浮かんで、ウンザリする。

(思い出すのも気分の悪い事件なので概要だけひと言:生徒さん2人連れて赤毛少女(メグちゃん)の学校で工作員(スパイ)ボコった)



(帝国の首都なのに、どれだけ他国の工作員(スパイ)が入り込んでるんだよ……っ)



イライラを発散するように、大きくため息。

夜にでも隠れ家に行って仮面仙女(バイトリーダー)に文句言おう、と心に決める。



表通りから、裏通りへ。

繁華街から、住宅地へ。

通りから、小路へ。


鎖で封鎖された門の、側面のレンガ(へい)を飛び越える。



「ここ、火事の後かな……?」



あらかじめ魔力センサー【序の四段目:風鈴眼(ふうりんがん)】で調べた通りの、広い空きスペース。

敷地の端っこに黒焦げた木材が山積みになっているので、火事になった建物の解体でもしているんだろう。



── ザ……ッ!と背後に、着地する音。


振り返れば、フードを被って顔を隠す、長身で引き締まった人物 ──



「── 俺って、さ。

 若い女性にストーカーされるほど、モテる(ツラ)じゃないけど?」


「黙れ、害虫め……っ」



押し殺した暗い情念の声。

荒ぶる吐息。


すぐさま殺意が爆発し、<正剣>(フォーマル)が腰から抜き放たれる。

鈍色(にびいろ)の斬光が、四つの()(えが)いた。



「── はぁ……ッ、『四波(しなみ)』だって!」


(まさか、コイツ<封剣流(・・・)>……っ!?)



予想外の相手に驚く。

俺は一瞬だけ、固まってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 謎の女性からの襲撃…なるほどこれはアゼリアちゃんが「自分をほったからして別の女とデート(?)してる」とジェラシってしまうフラグですね解ります(笑) それでは今日はこ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ