174:練習モードin闘技場
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
春先の<帝都>で、魔導三院バイト中。
新しい朝習慣『魔物のエサやり』in闘技場が追加されて、そろそろ3週間かな?
「どりゃー!」
── ギャウッ ギャインギャイン!
ちょっと強めに投げたら、受け身すら出来ない<樹上爪狼>が情けない悲鳴。
こっちはすぐに次の技を練習したいのに、まだ地面でバッタバッタしとる。
そんな感じで『起き上がり動作』にさえ手間がかかっている。
(チッ、お前なぁ……っ
最近の格ゲーだとボタン一つで一瞬だぞ、『初期位置リセット』とかっ)
鈍いしザコいし、練習台としてもイマイチ。
「── チィッ
コイツ、野生味ないな……っ」
(毎日エサもらうだけの、ヌクヌク飼い犬生活していたせいだろうな……)
仕方ないので時間つぶしに、コマンド練習的に、両手をビュン!ビュン!と空回し。
高速で『デカいハンドル回す』みたいな投げ技の動きを繰り返して、より身体に染みこませる。
── なんか知らんが、平日休業中の闘技場が投げ技の技コマンド練習場になってる件について。
しばらく待っても中々起き上がってこない。
なので、思わずグチも出ちゃう。
「オラァどうした、すぐ立たんかボケぇ。
魔物は待ってはくれねーんだぞっ」
『いやいや! ソイツが魔物だろうがぁ~!?』
魔法の拡声器でキーン!と雑音まじりに、三白眼少年の叫び声。
この熱の入り方、さっきから何かに似ていると思ったら ──
(── なんか、ちょっと格闘技の熱血実況みたいっ。
そう考えると、ヤる気上がるなぁ……!)
気分は『後楽園ホール』。
アイ・アム・場外乱闘!
フンッ!、と両腕に力を込めてムキムキに筋肉強調。
そんな事をしていると、背後からビュン!と飛んでくる伸縮腕の長い爪。
「あま~い!
うおりゃぁ~~!」
右手の甲に【序の二段目:張り】つけて、ビシッ!って弾く。
左手で獣爪をつかんで、腕をグルリンしつつポイっと投げ!
丁度、前世ニッポンの格闘技カラテの『回し受け』をゆっくりやった、みたいな動作だ。
(これぞ、サ▼スタ▼ン流アイキドーの秘技『当て身投げ』!!
敵の打撃を防御して投げるという、ゲームならではの理不尽な反撃ぃぃぃ!!)
── ギャン、ギャイン!
『だぁ・かぁ・らぁっ、なに魔物投げ飛ばしてるんだよおぉ!
おかしいだろ、お前ぇぇぇ!!』
さっきまで、
『アワワ! 悪役ゴッコしてたら魔物解放しちゃった、どどどど、どうしよう!?』
みたいな感じだった三白眼も、ちょっと苦笑い混じり。
わたくしナマクラ剣士も、安心して頂いたようでなによりです。
(まあ、ねえ。
脅威力2の<樹上爪狼>とか、必殺技開発の練習台にしかならないし……っ)
超絶天才美少女魔剣士さんなら、ズパパパパ!と群れごと瞬殺だもん。
なので、ザコな兄弟子でも素手で余裕ヨユー。
── そんな感じなんで、お前もその調子で、往年のプロレス解説的な盛り上げしてくれてもいいよ?
(例えば ──
── 『おおぉっと、ここでまたロック選手の得意技・当て身投げ炸裂ぅ!!』
『魔物選手の凶器攻撃を完全に封じてしまっているぅ!!』
『もはや会場は、ロック喚声一色だ~!!』みたいな?)
── いやぁほぉおおおお!!
元師匠、俺ここまで出来るようになったよ!
おちこぼれ弟子の活躍を見守っていてくれぇ!!
とか、存命中の白髪ロングのジジイの『親指立てイイ笑顔』を虚空に幻視。
感涙と歓喜で、『リングという名の四角いジャングル』で雄々しく拳を突き上げる一番弟子なのでした!
▲ ▽ ▲ ▽
『な、なんなんだよ!
なんなんだよ、このチビ!
おかしいだろ、絶対おかしいだろ!!』
なんか、司会が盛り上げマイクパフォーマンスしてくれる。
(うんうん、繰り返しで強調していくとか、まさに熱血アナウンサー!
あとでビンタして気合い注入してあげるぜ、どうですかァーー!)
なので、俺もそれに乗っておく。
「うぃ~~!! かかってこいや~~!」
両拳バンザイ(人差し指・小指の2本立ての謎手つき)で、魔物に突撃。
魔物の飛びかかり攻撃をバク転でかわして、ひっくり返りつつ両足でドーン!と蹴り上げ。
前世ニッポンの格闘技ジュードーの『巴投げ』の変形みたいな投げ技だ。
『うそぉっ、足で!
足だけで、魔物を!!?』
── 違う。
違うよ、ガビノったら。
(解説はちゃんと『ロック選手っ』を前につけて! ねっ?)
やっぱり素人さんなので、実況中継の腕がいまいち。
(例えばぁ ──
『まさかまさかの展開っ』
『ロック選手、足だけで魔物をさばいしてしまったぁ!』
── とか、そういう感じで頼む!)
── そんな事を思っている内に、上空5mくらいに吹っ飛んだ魔物が、ヒューン……ドシャァン!と墜落。
ゴロゴロゴロぉ……と転がり壁で止まる。
ギャゥ……ッと情けない声上げて、完全に気絶。
「あっれぇ~。
調子乗って、やりすぎたか……?」
さっきから投げ技の補助に使ってる、運動エネルギー操作の【序の三段目:流し】で、勢いつけすぎたみたい。
『クソがぁっ
ふざけんなよ、あの “黒ずくめ” ども!
“特級の魔剣士だって、腕輪と剣を取り上げたらタダの人間” って言ったじゃねーか!』
ガビノがキーン……!キーン……!と魔法の拡声器を鳴らしながら、何か叫んでる。
── だが、俺はグッタリ気絶しちゃった<樹上爪狼>が心配で心配で……。
「うおぉ~い、大丈夫かワンちゃんっ
ちゃんと息してる?
足ピクピクしてるけど……、まだ死んでないよなっ? なっ!?」
変な腕した大型犬くらいの毛玉生物をユッサユッサ。
俺って一応『エサやり作業要員』として、お手当もらってるワケで……。
その養育魔物を『投げ技練習で、うっかり殺しちゃったZE☆』とかシャレにならんワケで……。
『── “事故死”はもういい、諦める!
お前らぁッ、用意したの全部出せぇ~!
実家の権力で揉み消すからっ!!』
またガビノが、血相変えてギャーギャー叫んでる。
だがやっぱり、キーン……!キーン……!と魔法の拡声器の共鳴音がひどくて、半分くらい聞こえん。
「……どうしたの、お前?」
主力研究室らしい魔導オタクな猫背主任さんに怒られて以来、何か変よ?
今なら特別に、お昼にお肉おごってくれたら、思春期のお悩み相談ぐらい乗ってあげるよ?
(ほら、オジさんって前世の分も人生経験あるから!
他の人には出来ない、 “““深い””” アドバイスとか出来ちゃうしぃ~?)
そんな感じで、脳内がお肉料理でいっぱい。
もうすぐお昼の時間。
お腹すいてきたから、仕方ないね!
すると周囲からガシャーン……ッ! ガシャーン……ッ! ガシャーン……ッ!と鉄の揺れる音が3回。
「……なんぞ?」
── ででっでっでっでっ・でぇ~ん!
── ちょうせんしゃ あらわるっ!?
グルルルゥ……ッと、<樹上爪狼>が3匹追加されてしまった。
▲ ▽ ▲ ▽
「いやいや。
さっきのは別に『次の相手、でてこいや~!』の拳上げじゃなかったんだけど……」
なんか、ガビノが『おかわり』用意してくれたらしい。
プロレスっぽいから、謎の乱入者レスラーって事なのかね。
(でもまあ、せっかく気を利かせてくれたのに、断るのもアレだしね……?)
そんな事を考えていると、『ゴォーン!』『ゴォーン!』『ゴォーン!』と魔物特有の魔法起動音。
狼型魔物3匹が大口をあけて、一斉に火炎放射。
案の定の展開、<樹上爪狼>が包囲してからの定番攻撃だ! ──
── を見越した対策を自力詠唱。
「どりゃあ! エア・サイクロ~ン!!」
オリジナル魔法【序の三段目:流れ】の特殊効果で、大気をつかんで、グルグル風を引っかき回す。
プロレスの投げ技・ジャイアント・スイングみたいな動きだ。
狙い通り、俺の周りに風の渦が出来上がる。
「── うわ!? アチャチャッ、熱ぅ~ッ」
旋風というか、小型竜巻というか、ともかく風の渦が勢いよく炎を吸い込んだ結果、高熱を至近距離で浴びてしまう。
もちろん直撃くらって真っ黒炭よりマシだが、カッコ良く防ぐつもりが、散々だ。
これなら普通に、衝撃波魔法【撃衝角】で防御してりゃ良かった。
(最近、水の操作に慣れてきて調子乗ってたけど。
風の操作って何倍も難しいな……)
水に比べると、軽すぎるし、まとめにくいし、物理的な影響力も微妙。
よほどの突風でも起こさないと、目くらましくらいの使い道しかない。
(元師匠がよくやる『空中を蹴って方向転換』とか、まるで出来る気しないし……)
当流派の剣帝が非常識な件について。
(仮面仙女の幻像モノマネ練習で体術が上達してきて、ちょっと調子に乗ってたけど……。
まだまだだなぁ~……ハァッ)
内心ちょっと凹んでいると、ガビノの挙動不審すぎて裏返った拡声器の声。
『ウヒヒィ~っ
さすがに3匹相手なら、てぇっ、てこずってるぅ……っ』
あ、いかんいかん。
考え事しすぎて、うっかり魔物の事忘れてた☆(舌だし)
新手3匹に向き直る。
『── いいぞ! やっちまえぇ~っ
女好き変態チビすけを血まみれにしてやれぇ~~!!』
魔法の拡声器の声に反応したみたいに、新手の<樹上爪狼>3匹が包囲を狭めてきた。
▲ ▽ ▲ ▽
『ヒヒッ、お前が悪いんだぞ、チビすけぇっ
他人の婚約者に手を出すからぁ~っ、アッヒャッヒャ~~ァ』
ガビノが俺に何か言ってるっぽい。
だが悪いが、今はちょっと魔法の準備に忙しく、相手してあげられない。
グゥ……グルwッ
グルルwwッ
グガァwwwッ
うなりながらも、舌なめずりしてそうな<樹上爪狼>3匹。
包囲している側なので、圧倒的有利だと油断しまくり。
── 炎にまかれてアッチッチってww
── もうこれ魔法使わんでも楽勝やろww
── 魔力くそ弱の人間やしっ、ファァーwww!
みたいな、ナメまくりの心境が手に取るように分かる。
(なお魔物が猛虎弁なのは、俺が異世界語を翻訳する都合であり現実にはウンヌンカンヌン ──……(略))
3匹とも、調子のりまくりで、無警戒ジャンプ攻撃。
ガウ! ガァ! ワウゥ!
「おりゃ! おりゃ! おりゃ~!」
スパン! スパン! スパァ~ン!と『当て身投げ』で3匹とも叩き落としてやる。
(まさに『ザンギの高飛び待ちガイル ──
── 訂正、『ケイマの高飛びフの餌食』という、迂闊すぎる攻撃パターンだな)
つまり、コマンド投げの練習に最適!
やっぱコイツら、練習モードのCPU並に低能だな。
『── はぁっ?
はぁぁぁああああ~~~!?
3匹まとめてとか、何だよそれぇぇぇええ!!』
魔法の拡声器を握りしめた三白眼も声を張り上げる。
気合いの合いの手で場を盛り上げようとしてる、っぽい。
(でも、なぁ……)
やっぱ、エンタメ大国の本場・異世界ニッポンから来た俺的には、微妙な実況中継が気になっちゃう。
しかし、発展途上な異世界(笑)の素人お坊ちゃん(呆)が、せっかくガンバってる姿にケチつけるとか、大人としてアレだ。
仕方ないので、脳内で補正 ──
(── おお~っと、ロック選手あぶない!
乱入してきた謎のレスラー3人組が凶器をもっておそいかかるぅ!
── だっしゃぁ!(謎歓声)
しかし、得意の『当て身投げ』で全て叩き落としてしまったぁ~!
まさに『柔よく剛を制する』ぅ!
見たか異世界ぃ!
これぞヤマト魂ぃ~!!)
気分は上げ上げ、なので『起き攻め』しに行くぜ!
地面でバタバタしてる魔物どもを、スルスルゥー……と地面を滑る歩法(魄剣流のアレ!)で距離詰める。
こっちに気付いて『── ゲゲッ!?』と大口あけた狼型魔物3匹が、驚き慌てながら伸縮長腕の爪攻撃。
(雑反撃を待ってましたァ~っ)
── 再度、『コマンド投げ』×3回!
(右手の【張り】で弾いて、左手の【流し】で強制円回転&投げ飛ばし!:名称未設定)
「うりゃ! おりゃ! どりゃ~!」
ズダンッ、ギャインッ!
ズパンッ、ギャインッ!──
── スカッ……ッ、ワゥッグルル!と、最後1匹の投げ失敗。
2匹は虫みたいにひっくり返ってってジタバタしてる。
残り1匹は、警戒して離れていく。
(クソっ
さすがに3連チャンだと、タイミングと間合いが難しい!)
内心、舌打ち。
『── おぃぃいっ
逃げるな魔物っ、その牙や爪は飾りかぁ!
向かって行け! ちゃんと噛みつけ! 爪でひっかけ!
その女好き変態チビすけを、ボロボロの血まみれにしろぉ~~!!』
戦意喪失しつつある乱入者に、熱血実況から注意が入る。
▲ ▽ ▲ ▽
さっきから『いま溜めています』の体勢で、迂闊ジャンプ攻撃狩り(30年変わらない伝統芸!)してんだが……。
完全に警戒されて、お見合い状態。
俺から近づくと、サッサッと逃げられ、距離が縮まらない。
── あかん、この人間“““本物”””っぽいわ!
── 勝てんから逃げるでー!
という感じな、最後の<樹上爪狼>。
逃げ腰&及び腰で、回避一択という対応をされちゃう。
(うぅ~ん……
やっぱ、魔物は魔法使うだけあって、バカじゃないなっ)
まいったね、こりゃ。
『いけぇ! やれぇぇ!
牙と爪でズタボロにしてやれぇぇ!
人食いの怪物のプライドをみせろ~~!!』
三白眼の実況司会も、声を枯らしそうな勢いで『教育的指導』。
(さて、どうしよう……)
戦意喪失気味な相手に、何度かのため息 ──
── と、そこへ聞き慣れた警備のオッサンの、呼び声。
『おぉ~い! 魔導三院のボウズっ
帰りの車両来たぞ! どこ行ったんだ、トイレかぁ?』
カツカツと足音が近づいてくる。
(── ヤベぇ!
こんな風に遊んでるのバレたら、ガチで怒られるパターンっ)
魔物のエサやり係が、『平日休業の闘技場に魔物を出してプロレスごっこ』とか。
その上、見世物のための魔物をケガさせたとか、賠償金ものだ。
「ウラー、クソ犬ッコロ!
一瞬で終わらせるぞっ」
俺が【序の二段目:推し】を自力発動して全速力。
すると、<樹上爪狼>が錐もみ回転突撃みたいな新技をかましてくる。
もちろん、ヒョイッと避けたが。
(お、吸血鬼狩人の狼男?……──
── いやむしろ、怪物がプロレスするゲームに、こんなの居たなっ)
そんな事を考えながら、着地直後の硬直を狙って間合いを詰める。
すると、魔物が大口開けて待ち構え、至近距離で魔法起動音。
(そう、組み付いて火炎吐いてくる、こんなドラゴンも居た……!)
── たしかアレは……『デス▼レイド』!?
(DEC●ゲー愛好者かよ!
うわぁ懐かし、シブい所ツいてくるなコイツ)
そう思いながら、スライディングでギリギリ回避。
火炎放射の下をすりぬけ、特殊技を自力発動。
【序の三段目:払い】の両足蹴りで、上空へと打ち上げる。
そして即座に【秘剣・速翼】で、昇空追撃の開始。
「ビィー! ビィー! ビィー!(OKゲージMAX必殺技の効果音)」
空中で狼型魔物を捕まえ、その胴体を抱え込む。
「お前はミンチだ!」
せっかくだから俺は動く石像を選ぶぜ!
名前が岩石だからな!
── ズドォ~ン……ッ、と抱え投げっぽく地面に叩き付ける。
空中3~4mからの落下攻撃。
しかも、俺の分まで体重乗せて地面に叩き付けられたら、さすがの<樹上爪狼>もグッタリだ。
『はあああぁぁ!?
魔物を空中でつかんで投げたぁ!?
魔物4匹とも地面にたたきつけて倒したぁ!
なんじゃそりゃぁぁぁぁ!!』
お、三白眼少年もそろそろ、格闘技の実況中継に慣れてきたみたい。
熱い絶叫で、俺の勝利を讃えてくれている。
「ビィー! ビィー!(勝利時の効果音)」
なので俺も、DEC●ゲー・リスペクトで応える。
インド舞踊みたいな両手広げた謎ポーズで、勝利演出してみた。
▲ ▽ ▲ ▽
「── さて。
いつまでも遊んでいる場合じゃねえっ!(今さら大慌て)」
警備のオッサンが、闘技場のメイングラウンドに来る前に片付けないと!
そんなワケで、『鋼糸使い』の技能で超速回収。
お昼寝中の雑魚寝アザラシみたいな体勢で転がっている、魔物どもを鉄弦でグルグル巻きにして引っ張っていく。
(── あ、ザコだけにザコ寝(独り笑!))
久しぶりに魔物を制圧にして、気分も爽快!
なので、『人食い生物』というクソみたいな生態の魔物に対しても、ちょっと優しく接してあげちゃう。
そんな上機嫌ルンルン♪な、今日の兄弟子。
「はぁ~い、運動の時間終わりぃ~!
ワンワンたちぃ、お家帰るよぉ~?
── ギャゥッ!じゃねんだよ、このクソ駄犬がぁ、ドリャア!(ヒザ蹴り)」
肉体言語だって、うっかり骨を折らないように、細心の注意の上だ。
最初の1匹目とか、ダメージ回復してうるさかったので、頭へ空中連続蹴りで気絶らせておいた。
そんな感じで、うっかり脱走しかけた狼型魔物1匹+3匹の計4匹を、地下の檻の中に蹴り込んでおく。
── パパッと汚れ防止のエプロンから着替えて、ボンヤリしている三白眼から愛剣・ラセツ丸を回収。
そして探してくれていた、さっきの警備のオッサンの所まで駆け足。
「お~、居た居た。
魔導三院の下男のボウズ、もう帰りの車両来てるぞ?」
「ありがとうございます。
スンマセン、ジブンちょっとウンコしてましたァ~っ(大ウソ)」
すると、ちょっと離れた所から ──
『ウソじゃねえ!
ホントだって!
今、さっき、たしかに居たんだって!
闘技場のステージに、素手で<樹上爪狼>をボコボコにしてた子どもがぁ ── いや、だぁ~かぁ~らぁ!!
俺の幻覚でも酒でも薬物でも、ねえんだって!
ホントに居たんだってぇ、信じてくれよぉ!!』
なんか事務っぽい制服の兄ちゃんが、警備の強面な人達とモメている。
(ヤッベ……っ
調子にのって遊んでたら、見てた人いたのかっ)
俺は、顔を隠しながらササッと闘技場を後にした。
▲ ▽ ▲ ▽
その翌週くらい、だったかな……──
「── あの、スミス研究室の。
あ、えっと、ロック君?」
「うん?」
魔導三院の週初め早朝の、定例処理。
研究機材の受け取り作業に行くと、いつも見る男子2人組が、何故か1人だけになっていた。
「あ、そばかす少年。
今日、三白眼少年は?」
「あー……、うん。
……ちょっとしばらくは、魔導三院にも顔出せないかも」
季節の変わり目なんで風邪でもひいたのか、と心配したが違うらしい。
何か大失敗が親にバレて、謹慎処分くらったらしい。
しばらくの間は、帝都から遠い親戚の家に預けられ、性根を叩き直されているらしい。
「あ~……っ」
そう言われて、ようやく先週の出来事を思い出した俺。
── 『闘技場の操作盤か何かイジくりながら、悪役ごっこ』
── 『うっかり魔物が解放されちゃったので、俺も手伝い証拠隠滅』
(もしかして、これ。
俺も怒られちゃうパターン……?)
いや、勘弁してよ。
ノリノリで『デス▼レイドごっこ』しちゃったのは、やむを得ずの緊急避難だったワケで。
兄弟子、『身体が鈍らないようにアレまたやろうかな』とか3ミリくらいしか考えてないから!
そんな冷や汗かいてたら、そばかす少年が妙な事を言ってくる。
「今度、ガビノの親御さんが、魔導三院まで正式に謝罪に来るって」
「え、なんで……?」
「なんで、って……」
俺の当然の疑問に、マーティンは言葉に詰まる。
少し考えて、ようやく、声を細めて答えてくる。
「ほら、ガビノがロック君に迷惑かけたでしょ?
それで、ほら、大変な思いっていうか、トンデモない事になりかけた訳だし……っ」
なんか、モゴモゴモゴモゴ、歯に物がはさまったような、微妙な言葉。
「ん……?」
大変な思い、って何?
トンデモない事、って何?
別に、『脅威力2』の<樹上爪狼>が4~5匹逃げ出したくらい、大した騒ぎにもならんだろうし。
どうせ、騎士団とか親衛隊とか、その手の特級魔剣士さん達が、瞬殺するだろうに。
さすがに超絶天才美少女や金髪貴公子には一歩劣るだろうけど、『帝都守護の剣』<表・御三家>の門下生は『段違い』らしいし。
(あ~……でも、そうか。
一応、平和な帝都市民の皆さん的には、『動物園から猛獣が逃げ出した!』的な大騒ぎになるのか?)
そんな事柄に頭を巡らせていると、なんとなくマーティンの言う事の意味が “““理解””” った。
「つまり、口止め料か……」
「え、何か言った?」
そういやガビノの家って、そこそこの貴族らしいし
勤労学生している平民とタメ口だから、すっかり忘れていたが。
(なるほど、なるほど。
子弟が一般人が大パニックな事件起こしかけた、とか貴族の立場じゃ大問題。
そんな大失態の後処理した謝礼と、口止め料って事ね!)
かぁー、つれーわー。
かぁー、ちょっと知り合いのトラブル助けただけなのに、つれーわー。
かぁー、善意100%な人助けなのに謝礼目当てと思われるとか、マジつれーわー
「── え、いくらもらえんのっ?
え、こういう時って、相場じゃいくら!?」
「あ、え、ゴメン……
ボクもそういうの、あまり知らないから……」
俺と同じで平民出身のそばかす少年は、そういう貴族のアレコレまでは詳しくないらしい。
── もちろん、謝礼も口止め料も、有り難くいただきマンモス!
軍資金が増えるのは、いくらでもウエルカム!
おいおい、このままじゃ『4月の武闘大会(士官学生の特別枠)』公式賭博の配当が大変な事になっちゃうよ!?
そんな風に内心盛り上がっていたら、マーティンが変な事を言ってくる。
「あ、あと、一緒にグラッツィア先輩の親御さんも来るって」
「………………」
え、なんで……?
性格キツくて問題児な、あのグラッツィア先輩?
あの石頭メガネ風紀委員っぽい魔法学園女子の親御さんが?
え、マジで、なんで……???




