171:義兄妹(2)
朝霧の立ちこめる、『拠点:主戦場』近くの森の中。
二人の英雄が、対峙していました。
── 我が父『骸骨被り』。
── 『竜殺の剣士』たる勇士ロック様。
わたくしリザベルに出来る事は、事の成り行きを見届けるだけ。
周囲にいる家族同然の戦団の皆も、固唾をのんで見守ります。
── 不意に勇士様は、傷だらけの父へ、世間話のような軽い声を向けました。
「まあ、一昨日死ぬのも今日死ぬのも、大差ないだろ?」
しかも、台詞の最後の『だろ?』の所で、すでに父の目の前に迫っています。
動き始めが解らない、対人技術の妙技。
「か、『風のような身のこなし』という言葉は、良く聞きますが。
実物は、こういう物ですか……っ」
隣に立つ義兄が、声を震わせています。
わたくし自身も、その剣の達人がする『離れ業』に背筋が寒くなりました。
最初は微風に揺れる草花のように、軽い足取りで小さな円を描くように移動し続け。
相手の隙をみては『動き始め』を察知されない軽妙さで、間合いを一瞬で侵略する。
「おらぁっ」
ギャン!と金属が激しくぶつかり合います。
「クッ、このぉ!」
疾風の勢いで迫る<小剣>を、父はかろうじて防ぎました。
しかしそれは、己の武器を振り回して防いだのでは、ありません。
大木の陰へ隠れるように、地面に突き立てた大剣の後ろに回り込んだのです。
半ば回避のような、防御法です。
「── ゥウ……ゥッ」
わたくしの隣の義兄は、血が出るのではと心配する程に、拳を握りしめています。
その片手を取って、わたくしの両手で包んであげます。
「義兄さん、信じましょうぅ~?
勇士様と、わたくしたちのお父様の事をぉ……」
「そう……、ですね」
そして、義兄妹2人で手をつなぎ、父を見守ります。
幼い頃のように。
▲ ▽ ▲ ▽
── ギィン! ガァン! ガァン! ギャギャァ……!と、金属の悲鳴が朝霧の森に響き続けます。
10秒ごとに『チリン!』と身体強化の自力詠唱を繰り返し、疾風の身のこなしと素振り用<小剣>で攻め続ける、勇士様。
もちろん父エンリコも、隙を見て反撃を試みます。
全身を使って振り回す鉄塊大剣『鉄柱』は、ブゥゥワァン!と大気をうならせます。
しかし、結局は何事もなく避けられてしまいます。
いえ、それどころか、振り回して体勢が崩れてしまえば、さらなる猛攻に晒されてしまうのです。
「……『未強化』ながら恐ろしい使い手。
その事実は、知っていたつもりでしたが……」
義兄のつぶやきに、低い男性の声が続きます。
いつの間にか『#3』が、斜め後ろに立っていました。
「ウム……その手練を見れば、見るほど……。
8ヶ月前の一件。
よく同輩と『#2』達が無事で済んだと、感心するな……っ」
周囲を見渡せば、心配で落ち着きのない様子の『#5』。
そして、彼女の隣りで手品に見入るような表情をしている『#6』。
「── ああ、リコさまぁ!?
また、血がぁっ」
「── ゲッ!
なんであんな風に動けるんだよぉ……。
うわぁ~、木を蹴って空中でクルッと回ったけど、重力どっかいってるのか……?」
急に、義兄がうめき、手を痛い程に握ってきました。
「── あぁ……!?」
慌てて視線を戻すと、巨漢の頭部から血が飛沫き、ポタポタと滴っていました。
父エンリコは、顔にかかる流血を片手で雑にぬぐいつつ、渋面のうめき声を漏らしました。
「クゥ……ッ
予想以上に、身体が動かん……っ」
「酒が抜けるまで手加減してやろうかと思ってたが、……ハァッ。
……すまん、面倒になってきた」
「いいや、気にするなっ
これだけ血を抜いてもらったおかげで、だいぶん頭が冷えてきたぁ……っ」
勇士様の失望混じりの声に、父は威勢良く言い返します。
ですが、やせ我慢だとは、見ている誰もが解るような状況です。
足元はおぼつかなく、地面に突き立てた大剣にしがみついているような状態なのですから。
「── フン!」
「おっせぇ!」
「グア……ッ」
父は、すでに体力を消耗したのでしょうか。
全身から湯気が上がっていて、動きが鈍く、巨大な剣を振り回す事も難しくなってきた様子です。
やがて、勇士様が一方的に攻めるばかりになってきます。
── つい先日までは軽々と振り回していた鉄塊大剣『鉄柱』が、完全に足を引っ張っている状況なのです。
「あぁ……ハァッ……クソッ……身体が、重いぃ……っ」
ついに、息を切らせて動きを止める父。
勇士様は無造作に歩み寄り、模造剣の<小剣>を大きく振りかぶります。
「── おい。
ちゃんと防げよ?」
魔法の自力詠唱音が『チリン!』と鳴り、横薙ぎ撃剣が放たれます。
ドガン!と、鋼鉄同士が衝突する轟音が響きました。
「── ガァ……ァ! て、テメェ……!?」
父が数mほど跳ね飛ばされ、ズン……!と大木に叩き付けられ、小枝すら揺らしました。
小柄な勇士様3人分は体重がありそうな、巨漢の父が、です。
ほとんど、走る荷車に跳ね飛ばされたような光景でした。
すさまじい剛撃の極み。
かろうじて鉄塊大剣で防いでいなければ即死していたのではないか、とさえ思う程です。
『#3』も、感嘆からの賛辞をつぶやきます。
「……なるほど、魔剣士最強流派。
速剣も剛剣も自由自在、か……」
「……いったい。
どれほどの修練をすれば、あのような……っ」
義兄が、信じられないと首を振ります。
剣術と魔導の、その両方を幼少から勤勉に修めてきたからこそ、勇士様の技量の高さが信じがたいのでしょう。
「あぁ~……ちょっと、この前な。
神王国の工作員だか暗殺者だか、ザコ集団を叩きのめしたんだが。
── 今のお前なら、そのザコ魔剣士3~4人くらいで、十分に殺せそうだな?」
勇士様は、さらりと恐ろしい事を言い放ちました。
「……というか。
魔剣士の工作員をザコ扱いできるのは、貴方くらいでしょうに……」
隣の義兄が、もっともな話を小声でぼやきます。
勇士様は攻撃の手を休めて、父の近くをゆっくり歩き回りながら、お説教じみた言葉を告げます。
「まあ、つまり、そういう事だ。
── 無敵のAA級冒険者PT『人食いの怪物』さんも、最強戦力の『骸骨被り』が弱体化したら、お話にならないワケだ」
フッ……、と失笑のような声。
勇士様は、話を続けます
「どうするよ、モテモテなダンディのクソ色男さんよぉ?
お前ら、『兄弟の絆』なんて裏社会な連中の下請けやってたんだろ?
あっちこっち、いくらでも恨み買ってんだろ?」
まさに、勇士様のご指摘の通りです。
── AAA級への昇格間近で冒険者を辞した事。
── さらに、裏社会の走狗になった事。
── その上で、またも冒険者として舞い戻った事。
我々、戦団『人食いの怪物』の近年の行動は、問題だらけです。
もちろん、呪いの進行が重度で、生命の危ぶまれた父のために、やむを得なかったという事情があります。
しかし、被害にあった者や、不利益をこうむった者に、そんな言い訳が何の意味を持つでしょうか。
さらには荒っぽい同業者の反感、昇格を推薦して下さったギルド役員の体面、専属契約の行商人の損益、関わりのある貴族からの不興、等々 ──
── 目に見えないものの、あちこちに不満を持たれ、また恨みを買っている自覚はあります。
それこそ、何度も侍女に口酸っぱく注意されていますので。
── 勇士様は、ツバを吐き捨て、砂を蹴り上げます。
「仲間を目の前で殺されながら、ピーピー泣きたいのか?
なら、そのままうずくまってろよ!
── ケッ、図体だけのゴミ野郎がっ」
「ハァハァ……このクソガキがぁっ。
クソッ……、好き放題言いやがってぇ……!」
父は、歯を食いしばり立ち上がりかけますが、すでに体力の限界のようです。
勇士様は、その様子をわざとらしい程に、嘲笑います
「ププぅ~ッ、弱弱おじさん!
なっさけな~い、死んじゃえバ~カぁ!」
「クゥッ……、こっちは呪いが解けたばかりの、病み上がりだぞぉ……っ」
父エンリコが、勇士様の治療で奇跡的な快癒をしたとしても、まだその体調が万全でないのは、間違いありません。
しかし、問題はそちらでありません。
「だから、どうした?
『守護る』って誓ったモノを死守れない男に、生きてる価値なんてないんだよ。
── 破滅の魔法剣『黒剣』を失った『骸骨被り』さんよ?」
父エンリコは、勇士様による特殊な治療施術により生命の危機を脱し、また異常個体の双頭の<羊頭狗>から受けた呪いまでも解いて頂きました。
ですが同時に、魔剣士以上の超人的能力を与えていた『紫の魔力』を失ってしまったのです。
▲ ▽ ▲ ▽
勇士様は、今朝わたくしたちを見ると、すぐにこう切り出しました。
── 『なんだお前、紫の魔力が無くなってるじゃねえか』
── 『これからどうするんだ?』
── 『ハァ~~ッ!? 魔剣士としてやり直すぅ~?』
── 『おいおい、無理だって。 魔剣士ナメんなよ、ザコが!』
── 『お前、紫の魔力でやってた怪力任せの邪道の剣術が染みついているのに、今さら正道の動きなんてできるワケねーだろ?』
── 『ハッ、そこまで現実が見えてないなら、俺が一丁ボコボコにしてやんよ?』
かくして、勇士様と我が父の、模擬試合が始まったのでした。
そして、その内容は、まさに一方的。
父は、若い頃から怪力自慢の偉丈夫だったと聞きます。
だから『未強化』であっても、簡単に引けを取らないと思っていました。
ですので、わたくし達は誰もが、こんな圧倒的劣勢になるとは予想外で、困惑しているのです。
そして同時に、『未強化』の身で『斬魔竜殺』を体現する勇士様の桁外れの能力に、改めて驚愕しています。
「そういえば、お前。
『副都を守るために命をかける』覚悟だったらしいな。
なら別にいいよな、<副都>は守れたし?
── もう死んでも」
その酷薄の声色に、見守っていた冒険者戦団『人食いの怪物』全員の肌が粟立ちました。
勇士様のその声は、青ざめた凶神の宣告にしか聞こえません。
さらに、『チリン!』『チリン!』『チリン!』『チリン!』『チリン!』とせわしなく鳴る自力詠唱の発動音も!
「ご、五連続の……自力詠唱だとぉ……?
まさか、世界で6人目の『五重詠唱者』がこんな所に……?」
斜め後ろの方から、『#3』の震える声が聞こえます。
わたくしも魔法の使い手として、話の内容が気になりましたが、しかし目の前の光景は予断を許さない物です。
「フン……ッ。
そう言えばあの時、なんか言ってたな、『遺言』みたいな事を。
『遺した仲間を頼む』だったか?
では、安心して ── 死ね!」
勇士様が気迫を吐くと同時に、ヒュ・ヒュ・ヒュン……!と空気を裂くような素振りが複数。
そして、朝日でわき上がる朝靄の森で、燐光のような輝きが舞いました。
── その秘術的魔法は、目を凝らしても、魔力感知の『第三眼』でも感知が難しいのです。
例えるなら、『透明なガラス片』や『薄氷』のような物でしょうか。
それが高速で宙を飛び、数秒もかからず迫る ──
── まさに『魂を刈り取る死神の鎌』!
「ハッ、クソガキがぁ!
他人の事情も知らず、言いたい放題をぉ……!」
悪態をつく父エンリコ。
流血と疲労で、立ち上がるのも精一杯。
しかし、わたくし達の英雄は、最後の力を振り絞って、超重量の大剣で薙ぎ払う!
しかし、迎撃できたのは直進してきた2枚の、薄氷の如き魔力刃のみ。
残り3枚の刃は、弧を描いて周囲に回り込み、父の身体を斬り裂きました。
「── あ……っ」
肺の空気が抜けるような小声と共に、鮮血が噴き出したのです!
▲ ▽ ▲ ▽
血まみれで倒れかける、父の姿!!
「── お、おとうさぁ~んっ!」
思わずわたくしは、幼い子供のような悲鳴を上げていました。
それに応えるような、父の野太い声が返ってきました。
「── ハッ!
たしかに冗談じゃねえっ」
── 途端に、ズン!と大地が揺れた気がしました。
鮮血に代わり吹き上がる、『紫の炎』!?
普通の魔力光とはまるで違う、暗い光とでも言うような濃色の魔力。
それが父の身を守るように吹き上がり、『死神の鎌』というべき魔力の刃を弾き飛ばしました。
「── 『これから、ずっと仲間の足引っ張って生きるのか?』
他人に守られ、足引っ張り、仲間をピンチに指をくわえて見ているっ
そんなのは俺じゃねえよっ」
さきほど勇士様から投げかけられた言葉を、いま思い出したのでしょう。
父は、『紫の炎』のように異常な魔力を放出しながら、身を震わせます。
「養子達を惨殺され、友人を見世物にされ、娘や愛した女を嬲り者にされる!
そんな光景を指をくわえて見てるだけ!
── そんな人生なら、死んだ方がマシだぁぁ!!」
ついに父エンリコが、悠々と鉄塊大剣『鉄柱』を片手で担ぎ、立ち上がります。
── そう、いつものように!!
「おおぉ……っ」「……養父さん」「『#1』復活ぅ~!」「リコ様ぁ!」
仲間達から、歓声の声があがります。
わたくしの口からも、安堵の吐息が漏れました。
「お父さん……よかった……っ」
「ええっ、本当に……ぃっ」
いつの間にか義兄は、わたくしの手を離して、声を震わせていました。
隣りを見れば、メガネを外して目元をぬぐっています。
「……フフッ」
── あら、急に泣き虫になってしまった、義兄さんですね?
そんな少し意地悪な目で見上げると、義兄は照れたように顔を背けます。
「……剣帝流には、たくさんの借りが出来てしまいましたね?」
誤魔化すように、そんな事を言ってきます。
フフ……ッと、義兄妹で顔を見合わせて微笑み合います。
「ええ、そうですねぇ~……」
まったく、もう。
勇士様には、どれだけ感謝すれば良いのでしょうか。
この胸の奥に宿った、小さな灯火が一段と燃え上がり、少し顔が火照ってしまいます。
▲ ▽ ▲ ▽
<羊頭狗>による呪いの逆用 ──
── 破滅の『紫色の魔力』を緻密に操り、【身体強化魔法】に似た効力を発揮させる。
それが父、呪われた冒険者『骸骨被り』の、魔剣士以上の超人能力の正体です。
父エンリコにとっては、忌まわしい呪いであり、同時に長年連れ添った相棒のような物でもあるのでしょう。
「せっかくだ!
このまま病み上がりの慣らしにも付き合えよ、名医センセイよぉ」
「えー、やだぁー!」
『紫色の魔力』を取り戻した父は、少年のような溌剌とした笑顔。
それをいつものように身に纏い、勇士様に向き合います。
「── 待て待て、逃がすかぁ!
これがお前が見たがっていた、俺の『黒剣』だぁ!」
「うおっ、危ね!?
バカ、何こっちに向けて撃ってんだよ!
近くで見れればそれで十分だって言ったろうが!」
森の中あちこちで、落雷のような破裂音が鳴り響き、黒い閃光が弾けます。
「……『拠点:主戦場』の中でやらなくて、良かったですね」
「本当にぃ、こんな風じゃ街が無くなっちゃいますねぇ~、ウフフ」
また義兄と顔を見合わせて、微笑み合います。
父も勇士様も、森の中を駆け回って、追いかけっこ。
少年に返ったような無邪気さですが、周囲の影響は甚大すぎて、とても余人には手を出せません。
わたくし達のような『凡人』は、お二人が満足するまで傍観するしかない状況なのです。
『誰がバカだ、このクソガキがぁ!』
『オメーだよ、オメー!
対・魔物用の最終奥義みたいなの、人間相手にブッパすんなや!
さっきちょっと、かすりそうだったぞ!』
『当たれ、そして死ね!
だいたいこのクソガキが、いつの間にウチの娘を口説いたぁ!
ふざけるなよ、アアァ~ン!!?』
『知らねーよ、ボケぇ!
いい年齢の娘相手に何を、パパ許しませんよ、みてーな事言ってんだよ!
親バカか、お前!?』
『うるせぇー! 俺のリザベルはなぁ!
死んだ女房の生き写しでぇ、いつまでもパパのカワイイ天使なんだよぉ!』
『何が天使だぁ!
お前の娘、いきなり初対面で殺しに来たぞ!
どんな教育してんだ、バグ野郎がぁ!』
『かわいいかわいい俺のリザベルを、お前みたいなヘナチョコにやれるかぁ!』
『いらねーよ、あんな不発弾テロ女なんか! ノシ付けて返す!』
『アアァ~ン! ウチの世界一カワイイ娘が嫁になるのが不満だとぉ~~!?
テメー! この! ブッ殺す!!』
『り、理不尽すぐる~~!! どうしろって言うんだよ!?』
落雷音と黒い閃光が、何度も炸裂します。
森の木々が砕け散り、徐々に荒れ地が広がっていきます。
その轟音の合間合間に、怒鳴り合う声がかろうじて聞こえますが、内容まで聞き取れません。
「フム、同輩が子どものようにはしゃぐ姿など、初めてみるな……っ」
『#3』は、苦笑の声で言いながらも、優しく見守っていました。
▲ ▽ ▲ ▽
場所は変わり、<帝都>。
魔物の被害を根絶した、帝国随一の都市。
朝霧にくもる帝国士官学校のグラウンドで、早朝から走り込みを続ける少女がいた。
── イッチ、ニッ! イッチ、ニッ! イッチ、ニッ!
── ガンバリますわ~! リア負けませんわぁ~!
荒い息づかいの合間に、活発な少女の声が響いていた。
「ふわぁ……ねむ、いぃ」
「……今日もリアちん、朝からやってるのぉ?」
「あ、おはよう、みんな」
その朝から元気な声に気付いた友人3人が、グラウンドの近くに寄ってくる。
彼女たちは、起きたばかりなのか寝間着姿で、あくびを噛み殺している。
ふと、そんな少女3人へ、厳しい声が飛んだ。
「── 情けない。
貴女たち、そんな有り様で本当に『アゼリア=ミラーの級友』なのですか?」
「ん? え?」
「あ……副都の」
「公爵家の、ご令嬢さん……?」
<副都>領主家の血を引く、同学年の少女だった。
朝早くから既に士官学校の制服を着込んで、腕を組み仁王立ち。
褐色の顔を不機嫌に歪ませていた。
「呆れを通り越して、むしろ感心します。
その程度で、よく彼女のそばに立てますわね?」
「はあ?」
「えっと……」
「それって、ウチ達の事?」
アゼリアの友人3人は、強い敵意を秘めたと皮肉の声に、困惑の表情を返す。
赤茶に輝く髪に、日焼け色の肌 ―― 藩王国の血を引く外見の令嬢は、続ける。
「……なるほど、ずいぶんと『おっとり』でいらっしゃるのね。
だから、これほど不相応でも気にならないのかしら……?」
高貴な物腰ながら、いかにも士官学生らしく勝気な彼女は、毒気まじりの小声をこぼした。
「<封剣流>は旧・王政時代から千年続く、<帝国八流派>の最古参。
まだ魔剣士が存在せず、『斬魔竜殺』なんて言葉が夢物語だった頃から練武を積み上げ継承してきた、名門中の名門です」
苛立たしげに、フン!と鼻息。
そして続ける。
「その直系に、ついに『武の究極』が花開いた。
それが彼女、アゼリア=ミラーという唯一無二」
<副都>令嬢はグラウンドに目を向け、ひとり朝練に汗を流す少女を顎で差し示す。
そして、言葉を並べる。
「『御三家が黄金世代の最優』っ!
『天賦の剣姫』っ!。
『精剣ケーンと天剣マァリオに敗星をつけた最年少少女』っ!
── 貴女がた、ご自身が一緒にいる相手の事、本当にちゃんと解っていらして?」
その褐色の美貌には、不機嫌を通り越して、冷笑すら浮かんでいたのだった。
!作者注釈!
2024/02/25 途中に「紫の魔力」の説明を追加




