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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 1:道場ステージ

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17:道場やぶったったぁ(後始末)

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




そんな訳で、<翡翠領(グリンストン)>で『道場やぶり』したら、ジジイからこんこんと説教された訳だ。


ようやく解放されたけど、なかなか足のシビれがとれない。

さすがに、石畳の上に正座は鬼だと思うよ、ジジイ。



(しかし、今回の一件は、可愛い妹弟子(アゼリア)を守るため、止むに止まれず。

 ── いわば『必要悪(ひつようあく)』的な事だと思うんだが……)



俺は、そう割り切ってる。


だが、ジジイ的には『無し』らしい。

割と頭が固いというか、潔癖だからな、うちの『剣帝』さま。


そんな、高潔で高名な魔剣士のジジイが、改めて道場主に深々と頭を下げた。



「── ユニチェリー師範殿。

 このたびは、弟子が大変なご迷惑をかけて、申し訳ございません。

 道理も通さず他流派と決闘騒ぎ。

 しまいには、()め事に関係もない生徒(がた)にまで剣を向ける傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な行い。

 この不始末、誠に何とお()びすれば良いものか……」



すると、初老の道場主もペコペコ頭を下げる。



「いえいえ剣帝さま、こちらこそ申し訳ございません。

 子細を確認すれば、決闘を申し込んだのはこちらの弟子からとの事。

 領主様のお耳に入れば(こと)ですので、どうかご内密にいただいきたい限り。

 わたしこそ、弟子の監督(かんとく)不行(ふゆ)(とど)きと、猛省する所でございますので」



そんな、『こっちが悪かった』『いえいえ、こっちこそ』みたいな、ペコペコ謝罪合戦がしばらく続く。


ヒマになった俺は、道場脇の休憩用ベンチに腰掛け、愛剣の手入れを始める。


すると、丸太(鎧付き)への打込み練習を終えた妹弟子が、小走りに駆け寄ってきて俺の隣りに腰掛けた。

顔を紅潮させ、銀髪を汗でしっとりさせてるリアちゃんに、タオルを渡す。



「ブンブンでしたの! いい汗かきましたわっ」



うんうん、良かったね。

頭を軽くポンポンしてやると、リアちゃんは可愛らしくはにかむ。

そして、ポニーテールにしていた銀髪を解いて、俺の肩に頭を乗せてくる。


妹弟子の身体は、まだ運動の熱気が残ってて、ちょっと熱い。



「お兄様の腕、ひんやりして気持ちいいですの」



兄を冷却剤代わりにするのは、止めなさい。



俺が、さっき変な魔法の使い方をしたので、剣身と柄の接合部分がグラついてないか確認していると、近寄ってくる人影。



「ロック、色々、すまんかった……」



ニアンが、直角90度くらい深く、赤毛頭を下げていた。



「……さっきも言ったが、別にお前が謝る事じゃねーだろ」


「それでも、だ。

 ちゃんとケジメをつけておきたかったんだ」



そんな風に言われると、俺もお()なりな対応はできない。

俺は、模造剣(ラセツ丸)をサメ皮張りの木製(さや)に戻して、ニアンに向き直った。



「……それじゃあ、一応、謝罪を受け取ろう。

 ── だけど、な。

 お前が、本来ケジメをつけるべき相手は、アイツら2人だろ?」



俺は、道場の入口の方を、親指で差し示す。

ケガの応急処置されて寝かされてる、アホな先輩2人だ。


すると、赤毛は長身の恵体に似合わぬ、弱々しい表情になる。



「それは、そうか……」


「次に会うまでに、あの2人をボコボコにしておけよ?

 『不意討ち』でも『闇討ち』でもいいから……」


「……いや、ロック、それはどうなんだ?」


「魔剣士は、『人食いの怪物(マモノ)』という理不尽と戦う存在。

 ── 理不尽に泣かされて、そのままで良いと思うような腰抜けは、魔物のエサでしかない。

 ウチのジジイも、そう言ってる」


「そう、なんだな。

 そうか、剣帝さまが……。

 お前の強さの源は、そういう心の ──」



俺の言葉に、ニアンが感銘(かんめい)を受け、深々と納得をする。

その瞬間に、ジジイが大声で口を(はさ)んできた。



「── いや、待たぬか!

 そこな、ユニチェリー師範殿の生徒の少年よ!

 こやつのおかしな口車に乗ってはいかん!

 そこのバカ弟子、わしは一言もそのような事を、言った覚えはないぞ!」



なんという悪辣(あくらつ)なジジイでしょう!?

かわいい一番弟子を、弱い心につけ込み堕落させる『悪魔』か何かのように!



「ジジイったら、もう、野暮なんだから!

 お子様同士の会話に、大人が口を(はさ)むもんじゃないと思いますよ?」


「わしが一度も口に出しておらぬ事を、さも言ったかのように吹聴(ふいちょう)されて、たまるものか!

 そもそもお主の言う事、ちょくちょく極端で、過激すぎる!

 わしは、そんな教育をした覚えもない!」


「いや、だってジジイ、考えてみろよ!

 コイツが自信回復して、なおかつトラウマ解消できるんなら、闇討ちだって『ワンチャン有り』だろ?」


「『無し』に決まっとるじゃろうが!

 どこの武門とて、同門同士の闇討ちを推奨(すいしょう)するものかぁ!?」



ええー。

前世ニッポンの南国にあった『サッツーマ』という修羅の地では、ワンチャン有りだと思うけど。

だてに戦闘民族『薩人(サツジン)マシーン』とか言われてないだろうし。

戦国時代とか、明治維新前後とか、特に激ヤバだったらしいが。



そんな事を言っている内に、道場かかりつけの治療院の人達が、やってきた。



(さすがは、ファンタジーな異世界!

 道場やぶりに慣れてるなぁ……っ)



テキパキ手際良く負傷者を搬送していく姿に、関心しちゃう。



きっと、こんなの日常(にちじょう)茶飯事(さはんじ)なんだろうな、異世界人(このヒトたち)にとって。





▲ ▽ ▲ ▽



「闇討ちは、流石に推奨(すいしょう)できませんね。

 しかし、ロック殿のおっしゃる通り、事の決着は必要でしょう」



初老の道場主が、苦笑いしながら口を挟んできた。

道場かかりつけの治療院の人達との、打ち合わせというか、口止めが終わったみたいだ。



「コペール君と元凶の2人は、今度あらためて機会を設けます。

 そこで、魔剣士として正しい形で奮起(ふんき)し、禍根(かこん)を断ち切る勝負をなさい。

 それで、門下生同士のいさかいは、決着といたしましょうか?」


「はい、お師匠様……っ」



赤毛は、自分の師匠の提案を受け入れ、決意の表情。


俺は思わず不満を口にする。



「……お前、それで良いのかよ?」



すると、ジジイがまた口を(はさ)んでくる。



「なんでお主は、そう不満そうなんじゃ……?」


「だってジジイ。ボコられた分、ボコりたいだろ?」


「── お兄様、お兄様っ

 今度はわたくしも、リアも道場やぶりしたいですの!

 次に行く時は、必ず連れて行ってくださいましっ」


「……そろって、粗暴がすぎる。

 わし、弟子の育て方を間違えたかもしれん……」



ジジイが、ちょっと頭を抱えている。


そうこうして、門派それぞれで師弟の(きずな)を深めていると、道場主がこっちに向き直った。



「さて、このような状況なので、今日は道場を閉めねばなりません。

 そこで、剣帝さまにお願いが ──」


「うむ、安心されよ、ユニチェリー師範殿。

 道場の経営に差し障りがない額の賠償金(ばいしょうきん)を用意いたしますぞ」


「いえ、そうではなく ──」


「うん、設備の修繕がご必要か? そちらも、もちろん ──」


「いえ、そうでもなく、ですね剣帝さま。

 金銭の事については、あまり困っていませんので、別の事をお願いできなかと」


「別な事……ふむ。

 わしで出来る(つぐな)いであれば、いかようにもお受けいたそう」


「ええ、そう言っていただけるとありがたいです。

 先ほどもお話したと思いますが ── わたしは道場主ではありますが、あくまでユニチェリー家の()婿(むこ)でして。

 その上、魔剣士としても()えなかったので、あまり家庭で立場がないのです」


「ふむ」


「そのため、諦めていた事が一つ。

 しかし完全には諦め切れずに、ずっと思い描いていた事がございます」


「師範殿の、長年の切願(せつがん)という訳か……

 可能な限り、お応えしよう」



ジジイ、安請け合い。

道場主は、パア……ッ!と表情を輝かせる。



「ありがとうございます!

 婿入(むこい)りしても、義父にとってわたしは不肖の弟子で、力関係は変わらぬままで、恋女房(こいにょうぼ)の妻にも頭があがらず、毎日まわりの顔色を(うかが)うばかり!

 思い切れないままに、ずるずると今にいたり、すでに9年。

 今こそ、この小心者が奮起する時と、腹をくくりました!

 ── ぜひ、この機会に一手ご教授をっ!!」


「……うん……?」



ジジイ、意味不明とばかりに、首をひねる。


道場主は、居ても立ってもいられないと、ウキウキと木剣で素振りを始めた。



「── 道場は開店休業の状態!

 弟子は、みんな治療院!

 わたしが何度ここで無様をさらした所で、道場の風評には影響ない!

 しかも、弟子達を負傷させたという負い目から、断られる事もない!!

 なんと素晴らしい!

 なんという僥倖(ぎょうこう)!!

 ああ、神はたしかに天に御座(おわ)し、この小心な男のささやかな願いを、いままさに聞き届けてくださったのです!

 偉大なる天の恵みの神アーメ=ユージュに、格別の感謝を……っ!」



俺は、こっそりジジイの横に移動し、そっと囁きかける。



「……おい、ジジイ。

 この道場主(オッサン)、ヤベーぞ?」


「お主が言うな……っ」



ジジイ、また頭が痛そうなポーズ。



「その……オホンッ、ユニチェリー師範殿?

 当方としては、剣の手合わせは別に構わぬが……

 貴殿は、本当にそれが賠償(ばいしょう)の代わりでよろしいのか?」


「── もちろん!

 もちろんでございます、剣帝さま!

 帝国5番目の『剣号』を得た、かの剣帝さまに ── 歴史に名を残す偉大なる剣豪に、手ずから剣を教わる機会を得れるなんて、これを逃す剣術家が果たしているでしょうか!?

 名門貴族や大商人が伝手(つて)をつかい、千金を積んでもこんな機会はありえない!

 不詳の弟子たちのケガの一つ二つ程度で、この指南料(しなんりょう)の対価となるなら安い物です!

 いやむしろ、よくやった、名誉の負傷だと()めてやりたいくらいです!

 ついでに、今回の一切を伏せていただけるのであれば、口うるさい義父や妻の耳にも入らないでしょうし、まさに好都合の万々歳(ばんばんざい)!」



道場主、異様なテンション。

弟子のニアンすら、師匠のルンルンで()()げなテンションに、ちょっと()いてる。


俺は口元をひきつらせ、相手側に聞こえないように、ジジイにそっと耳打ちする。



「……おい、ジジイ。

 この道場主(オッサン)、関わったらいかん人だぞ?」


「お主が言うな……っ」



ひとがせっかく忠告してやったのに、ジジイはスゴい目でにらんでくる。





▲ ▽ ▲ ▽



── 結局、この後。

ジジイは道場主に、夕方まで剣術指南させられたらしい。


腰痛いのに、よく長時間ガンバったな、と宿で腰をもんでやった。

なんか、むちゃくちゃ嫌味言われまくったけど。


俺は、1日中、街中ぶらり。

リアちゃんの甘い物グルメツアーと、カロリー消費として剣の稽古に付き合わされた。



この街<翡翠領(グリンストン)>に想定外の3泊4日の後、俺たちはようやく家(山小屋)に帰ったのだった。


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