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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 7/勝利演出:帰路それぞれ

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169:命を賭けるに値する

わたくしリザベルの隣りの席から、スゥー……スゥー……と穏やかな寝息が聞こえてきます。

酒場で乾杯してしばらくすると、メガネの青年はテーブルに突っ伏してしまいました。


張り詰めていた物が抜け落ちたのでしょう。

ひどく優しい寝顔と、安らかな寝息です。



養息(コイツ)にも、随分と心配をかけたみたいだな……」



ひさしぶりの美酒に酔う、赤ら顔の父は、優しい声。

自分の上着を脱いで、義兄(あに)の背にかけてあげています。



数年ぶりに、人前で『骨兜(ほねかぶと)』を外し、素顔を見せる父。

疲れてテーブルで寝入る義兄(あに)ジェン。


そんな姿に、幼い日の思い出が重なります。

あれは、中級魔法の国家資格のために猛勉強していた頃でしょうか。



「少しでもぉ、お父さんの助け(チカラ)になるってぇ、必死でしたからねぇ~」



努力家の義兄(あに)

わたくしリザベルにとって、自慢の義兄(あに)

父にとっても、わたくしにとっても、大切な家族なのです。



「皆も、済まなかった。

 今回の<瘴竜圏>(ドラゴン・フォール)攻略は、完全に俺のワガママだ。

 戦団を危険にさらしたし、大した儲けもないのに時間ばかりを浪費した」


「いいわよ、そんな事。

 みんなが無事だった訳だし、リコ様の呪いも解けたもんね」


「オイラ、さすがに今日は死ぬかと思ったけどなー」



#4(サベラ)』と『#6』(マルトさん)の言葉に、父はもう一度頭を下げます。



「すまんな。

 俺の勝手(かって)に付き合わせて、割を食わせた」



すると『#3』(お師匠さま)が口を挟みました。



同輩(トモ)よ、何度も礼はいらない。

 この戦団は皆、お前の家族も同然だ。

 困っている者がいれば、助けるのは当然だな。

 それよりも、どんな事情があったのかを聞きたい」


「そうだな、せっかくの機会だ、話しておこう。

 <副都>には恩がある、命をかけるくらいの大恩が、な。

 ── リザベル、女房の葬儀の時に遅れてきた男の事を覚えているか?」


「うっすらと記憶にありますぅ。

 あの小父様の事ですかぁ~、お母様のお墓の前で拍手をされていたぁ」


「ああ、その男だ」



父は、ビールのジョッキを脇に置き、神妙な顔になります。

両親の()()めの辺りから、父の話が始まりました。





▲ ▽ ▲ ▽



わたくしリザベルは藩王国に属する、とある小藩王の孫娘になります。

というのも、わたくしの母ハリシャが、その王の娘だからです。


生来病弱だった母は、外の世界に強い憧れを抱いていました。

ある日、高位の冒険者への依頼のため宮廷に招集された父と偶然に出会い、恋に落ちたのです。


身分違いの恋は燃え上がり、両親は手に手を取って駆け落ち。

ここ大陸の端、東の帝国までやってきたのです。



── この辺りの事情は、戦団(パーティ)人食いの怪物(マンイーター)』のメンバーであれば、それとなく聞かされている話です。

そして、あまり人の耳がある所で話せる内容ではありません。


父も、それとなく話を端折り、重要な単語を伏せながら話を続けます。



駆け落ちした後の2人の生活は、上手くはいきませんでした。


そもそもが、病弱な母。

幼少からメイドに身の回りの世話をされていた『箱入り娘』。


母を連れ戻そうする祖父の使いの者から逃れるため、あちこちを転々とする生活。


母は身重になると、すっかり寝込んだままになってしまいました。



「ただでさえ身体の弱い女が、身重で、慣れない土地で、貧乏暮らし。

 その上、旦那の方はまるで気遣いができない、ボンクラときた。

 ── 女房が大事なら子どもは諦めろ、とまで医者に言われたよ」



父は、自嘲しながら語ります。


娘として父を弁護すれば、母の面倒がみれなかったのも、やむを得ない事情があったのでしょう。

そもそもが冒険者は特殊な仕事、家を数日空ける事も多いのですから。



「そんな時に、手を差し伸べてくれたのが、<副都>の現・領主だよ」



とは言っても、父がその事を知ったのは、母ハリシャが亡くなった後。

近しい者だけの葬儀が終わった後の事だったようです。


当時の話を聞いていると、わたくしの脳裏にも色あせた幼い日の思い出が、断片的に思い出されます。




▲ ▽ ▲ ▽



「失敬。ダンヒル家の奥方様の埋葬は、こちらで?」



その人物は、立派な身なりの紳士だったと思います。

男性の割に小柄で、少しふっくらした外見と、豊かな鼻髭(はなひげ)が特徴的な方でした。



「あ、ああ……。そうだが、何か?」


「葬儀に遅れて来て申し訳ない。

 今からでも参らせていただけますか?」



墓石の前に立ち尽くしてた父は、数歩横に避けました



「ああ、構わんよ。

 いや、是非そうしてくれ。

 誰か知らないが、女房の知り合いなんだろ?

 異邦(いほう)の地で、病気がちで寝てばかり、知り合いも少なかったんだ。

 せっかく来てくれた知人に、アイツも喜んでいると思う」


「ああ……っ、貴男がご亭主殿か。

 お初にお目にかかる。

 では、そちらがご息女 ── たしかお嬢様は、リザベル嬢とお聞きしているが?」


「ああ、そうだ。

 ── ほらリザ、挨拶を」


「は、はじめまして……」



父にうながされ、わたくしは、人見知りをしながら怖々と挨拶をしました。



「はじめまして、聡明なお嬢さん。

 わたしは君のお母さんの ── そう、友達かな?」



その紳士は、子どもの目線にあわせるよう片膝をつき、握手を求められたのを覚えています。

その直後にビックリする事があったので、いよいよ印象に残ったのです。



── 紳士は、母の墓前でお祈りの後、突如として泣き始めたのです。



「── ああ、我が友ハリシャ……っ!

 君は人生に一度きりの大舞台に駆け上がり、見事にその主演を演じ切ったのだ……!

 他の誰にも理解されずとも、その輝かしい決意の果ての幕引きに、万感の拍手を送ろう!

 すばらしい!

 すばらしい舞台だった!

 まさに一度きりの夢の舞台を演じきった!

 君という100年に1人の名女優に、万雷の拍手を送ろう!」



流す涙をぬぐいもせず、ただ賞賛と拍手をされる紳士。

異様な言動に、わたくしも父も、ビックリしてしまいます。


父は、思わずこう問いかけたそうです。



「……なあアンタ、誰かと間違えてないかい?

 妻は病気がちで、とても演劇舞台に出れる身体ではなかったんだが……」


「いえ、間違えてはいませんよ、ご亭主殿。

 ── 失礼、名乗り忘れておりました。

 わたしはジェラルド=アレコー=バントゥーノ。

 次期<副都>領主などという、身に余る重責をまかされた小人物」


「な……っ」



父は思わず息を呑みます。

遅れて母の告別に来られた小柄な紳士の名乗った肩書きは、驚くべきものでした。



「お父さぁん、どうしたのぉ……?」



しかし、幼い頃のわたくしは『偉いお役人さん』としか理解できていません。



「奥方様のハリシャ嬢とは、大使として藩王国に駐在していた頃からの文通相手(ペンパル)

 父君であるナーガジャーラ藩王から『病床の娘と是非』と文通の相手を頼まれ、かれこれ14~15年になりましょうか。

 もっとも、直接お会いするのは、これが初めてですが……」



そう名乗った紳士は一歩進み出て、父の手を自身の両手で包み込むように、握りしめたのです。



「ありがとう……っ

 本当に、ありがとう……っ

 『籠の鳥』であった彼女を連れ出してくれてっ

 憧れの広い世界を見せてくれてっ」



涙を流しながら深く頭を下げ、まるで命の恩人にするように、強く握手を続けたのです。



「おかげでハリシャ嬢は、ただの不幸な娘で終わらずにすんだんだっ

 恋という人生の大舞台に駆け上がることが出来たんだっ

 すべて、すべて、君という素晴らしい男性に出会えたおかげだっ」





▲ ▽ ▲ ▽



父は、紳士から聞いた話を、かいつまんで続けます。

その話を簡単にまとめると、このような内容です。



現<副都>のご領主様である、その紳士は、自身のご容姿に引け目を感じておられ、社交界のような華やかな場を苦手とされていました。

外見で女性達に邪険にされ、身の上を明かすと媚びる人々が集まる。

手の平を返すような扱いばかりで、人間不信の心地だったのでしょう。


そういったご事情から、趣味はひとりでされる物が多く、特に好まれたのは読書と演劇鑑賞。

しかし、大使として赴任された藩王国は、音楽と踊りの国と呼ばれるような文化。


帝国であれば小さな町にもある大衆演劇場ですが、藩王国では首都や大都市でもほとんど見かけないそうです。

そして、周囲と歌や踊りで楽しめない者は『野暮』とされる異文化のため、居心地の悪い思いをされていたのです。


そんな頃に、母ハリシャの父 ── つまり、わたくしの祖父から『病床の娘の気晴らしになるよう手紙のやりとり』を頼まれたそうです。


紳士は、母をこう称したそうです。



『聡明な女性だった。

 日のほとんどをベッドの上ですごす生活だからこそ、読書が唯一の楽しみで、深い思索を繰り返したのだろう。

 そういえば、彼女はなかなか舌鋒(ぜっぽう)の鋭いところもありましてね。

 すすめられた物語の品評がいい加減だったり、見当違いな読み方をしていると、それはもう厳しい言葉で指摘されたものですよ。

 いやあ、あれには参った、ハハハッ』


『……妻に、ハリシャにそんな所があったなんて。

 俺は、彼女の事を何も知らなかったのだな……』


『ご亭主殿、それは当然というものでしょう。

 貴男は彼女にとって、運命の男性。

 わたしのような、その他大勢の男とは、態度が違う。

 そんな相手には自分の美しい所だけを見せたい。

 恋に生きるご婦人であれば、そう思われるのでしょう』


『それでも、だ。

 自分の知らなかった女房の一面を、知らない男に言われると、な』


『ハハッ、わたしのような男に嫉妬される事はない。

 例えば、わたしが彼女に手を差し伸べたとしても、鳥は籠から抜け出そうとは、しなかった。

 この男は、舞台裏でハツカネズミのように走り回っている裏方(クロコ)にすぎないのです。

 彼女は、恋という一世一代の舞台に駆け上がり、貴男というたった一人の観客の心を震わせるためだけに、幕引きまで全力で主演を務めたのです』



紳士は、道化師(ピエロ)のように明るくおどけて告げました。

そして、ひとつ咳払い。

静かな声で、真摯に尋ねてきます。



『どうでしたか、彼女は完璧な女性ではありませんでしたか?

 美しい恋人であり、賢い妻であり、優しい母でもあったはずだ。

 きっと、貴男が他の女に目をくれる気も起きないような、最高の女性が帰りを待っていたのでは?』


『そうだな、妻は病気で起き上がれない時でも、温かな食事を用意していてくれた。

 今考えれば、それは確かにおかしいな、一人で出来る事じゃない』


『おやおや……、困ったな。

 いらぬ藪をつついて、蛇を出してしまったぞ』



紳士は、苦笑いして、諸々の裏事情を白状したそうです。


異邦(いほう)の地で困窮する母ハリシャに、手紙で助けを求められ、それに応じたのだと語られました。

駆け落ちした恋人2人のために、陰から様々に援助してくださった恩人だったのです。



── 自分の目が届く<副都>の領都にかくまうべく、家を用意した事。

── 面識のある祖父と何度も手紙をやり取りし、駆け落ちを許す説得をしてくれた事。

── <副都>宮廷勤めの侍女(メイド)の内、特に信頼を置ける者を数名派遣して、家事の手伝いをさせていた事。

── もちろん、病弱な母のため、週に1度は医師を通わせていた事。



「なるほどぉ。

 幼い頃に毎日来ていた母の友達という方たちはぁ、そのような方々だったのですねぇ。

 そう言われてぇ、ひとつ思い出しましたぁ~。

 決まった曜日に年輩の衛兵さんがぁ、お茶を呑みに来られてましたがぁ……?」


「ああ、それも領主の差し金だろうな。

 亭主が出かけて、女2人だけ残された家の事を、心配してくれてたんだろう」



そう言われれば確かに、母の友人という女性達と、何か難しい話をしている事もありました。

あれは、我が家の警備のために、不審者や不逞の輩の情報を交換していたのでしょうか。


そう事の真相に思い至れば、自分の顔が赤らむのが解りました。

失礼ながら今まで『あのお茶のみ』の事を、『お爺ちゃんなので体力がなく、こっそり仕事を抜け出して休憩して(サボって)いる』と失礼な勘違いをしていたのですから。



「治らぬ病に苦しみ、最後は()(ほそ)ってガイコツのような姿で事切れる。

 思えば、それが当たり前のはずなのに、女房は最後まで、儚くも美しい姿だった。

 それどころか、家に帰って寝入ってる女房の、(あか)にまみれた姿も、それどころか髪が汚く乱れた所も見た事はない。

 常に薄化粧をして美しく、寝間着やベッドだって、いつも清潔だった。

 リザベルが小さな頃だって、家の中が散らかっているのを、ほとんど見た覚えがない。

 『誰か世話をしている人間が通っている』と考えて当然なんだがな。

 俺は領主のヤツにネタばらしをされるまで、それについておかしいとも思わない、ボンクラ亭主だったのさ」





▲ ▽ ▲ ▽



父の回想は続きます。



『ご亭主殿。

 わたしは、これだけは伝えておこうと思って来た。

 間違ってもらっては困るのだ。

 彼女は、決して不幸ではなかった。

 他人より短い人生で、愛しい夫と可愛い娘を置いて、若くして逝かねばならぬ事は、確かに悲劇だっただろう。

 だか、それでも、間違いなく幸せだったのだ。

 最高の相手と恋に落ち、燃え上がるような熱情に突き動かされて、病床を抜け出した。

 初めて目にする世界の広さに感激し、諦めていた我が子さえもうけた。

 限られた時間だったが、全力で生き抜いた。

 最も美しい姿を、最高の自分を、最後まで君に見せて、綺麗に幕引いた。

 そんな親友を誇らしく思うとともに、その手伝いが出来た事を満足してる。

 だからご亭主殿、君も、最高の女性を世界一幸せにしてやったんだ、と胸を張ってくれ。

 それだけが、ハリシャ=ナーガジャーラの親友だった、このジェラルドの願いだ』



紳士は、そう言って再び父の手を、熱く握ったそうです。



『もう一度言おう。

 彼女と出会い、恋をしてくれて、駆け落ちしてくれて、ありがとう!

 おかげで、この見る所のない肩書きばかりの小男が、親友のためにして(・・)やれる(・・・)事が出来たんだ!』



父は、その時の心境をこう語りました。



「男だと思った。

 それも、命を賭けるに値する」



そして、こう続けました。



「だから『この借りは、いつの日にか命で返さなければならない』。

 あの日からずっと、そう思っていたんだ」



それが、わたくしの父 ──

 戦団(パーティ)人食いの怪物(マン・イーター)』の#1(ナンバーワン)・『骸骨被り(スカルヘルム)』エンリコ=ダンヒルが、<瘴竜圏>(ドラゴン・フォール)攻略に固執した理由でした。


!作者注釈!


読者的には、脇役の過去とかクソどうでもいいエピソード……

……ですが、すみません、ちょっと付き合ってください。


一応この作品、宮沢賢治がネタのひとつなんで。


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