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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 7.5:特設ステージ(ボス戦)

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167:殺意に目覚めし剣士

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




気絶は、一瞬だったんだろう。

すぐに激痛で、目が覚めた。



「── あぁ……っ

 クソぉ、痛てぇ……」



歯を食いしばって、なんとか身を起こす。



「あ……っ はぁ……っ あ゛あ゛……っ ぐぎぎぃっ!」



うつ伏せ状態から、腕立てみたいに身体を持ち上げる。

しかし、両腕に力が入らず、ガクガクと震えて止まらない。


泥まみれで、濡れきった全身。

しかし、無数のすり傷と打ち身のせいか、燃えるように熱い上半身 ──



「こ、腰がぁ……ぁぁっ」



── 反対に、冷たく重い下半身。



(クソぉっ、この感じ!

 まさか、下半身をやったか?

 脊椎(せきつい)損傷(そんしょう)とか、勘弁してくれぇ……っ)



『思うように動かない』どころか、『重く痺れた感覚』に支配される下半身に、ゾッとする。

思わず腰のポーチに手を伸ばし、感触だけで<回復薬(ポーション)>か<治癒薬>(キュア・ポーション)を探る。


すると、手の爪にガツンと冷たく鈍い、金属の感触。

気力と体力を振り絞って後ろを見たら、俺の身体半分にのしかかる、鈍色の巨漢。


下半身が動かない原因が分かって、ホッとする。



「── クッソぉっ、テメーっ

 ……お、おどかしやが……ってぇ!」



すぐにイラッ☆ときて、ベチン!と肩甲(ショルダー)を叩く。

もちろん、鉄板を叩いた自分の手の平が痛いだけだが。


推定200kg以上(装備込み)の巨漢をどかそうと、オリジナル魔法で身体強化(パワーアップ)【序の二段目:()し】を自力発動(『チリン!』)と ──

 ── できない。


ケガ、激痛、精神の乱れ、思考力の低下。

そういう悪条件が重なり、魔法がまともに使えない。



「あ……っ はぁ……っ あぁ……っ クソォっ

 (おも)いんだよ、この不死身(チート)ヤローが……っ!」



根性で手足を動かし、重装甲の巨漢の下敷き状態から、なんとか()い出た。


そして、クソ不味(まず)<治癒薬>(キュア・ポーション)をゴクゴク一気飲み。

口の中の傷(ほお(・・)の内側が歯でザクザク)にしみて(・・・)、軽く悶絶(もんぜつ)

ゴロゴロ転がる。


さらに、改造(ブースト)回復薬(ポーション)>(ラピス山地の素材ミックス!)をムリヤリ飲み干す。



(今さら、<治癒薬>(キュア・ポーション)と<回復薬(ポーション)>の『飲み合わせ』だの、『副作用』だの言ってる場合じゃねえからな……)



手持ちで一番高価(たかい)だけあって、即効性があった。

すぐに呼吸と脈拍と、血流とともに全身をめぐる魔力が安定してきた。



「フゥ……っ

 とっさの苦し(まぎ)れだったけど、なんとかなったのか……?」



ようやく、周囲を見渡す気持ちの余裕が出てきた。





▲ ▽ ▲ ▽



さっきの、2回目の『降下突撃攻撃(メテオ・ストライク)』。


分身4体のみで、本体が加わってなかったせいか ──

あるいは、急ぎで罠攻撃(トラップ)を発動したせいで準備不足だったのか ──

 ── 1回目ほど、デタラメな威力ではなかったっぽい。


すり鉢状の墜落跡地(・・・・)は、初回の大穴に、2回目の小穴が重なったような、雪ダルマのような輪郭(カタチ)でえぐれている。



「お陰でなんとか、ぶっつけ本番の『()わせ技』で防ぎきれたか……?」



── 意識を失う前の、一瞬。


退避する『骸骨被り(スカルヘルム)』に抱え上げられている間に、思いつく限りの手札を切った。

その向こうから飛んでくるであろう、『墜落攻撃』(メテオ・ストライク)のダメージを軽減させるための、即興(そっきょう)で作った防御の『()わせ技』だ。



── まずは、『鋼糸(いと)使い』の鉄弦(ワイヤー)結界(シェル)


激突の衝撃で飛んでくる岩石や大木を引っかける(・・・・・)、防御用こし網(トラップ)だ。

しかし、これだけでは不十分。

いくら網目を細くしても、土砂の散弾や、衝撃の爆圧なんかは防げない。


だから鉄弦(コレ)骨格(フレーム)として、『肉付け』する。



── 剣帝(ジジイ)が作った【五行剣(ごぎょうけん)(みず)】。

風や水や熱といった周辺環境を操る、特殊効果がある身体強化魔法。


それを改造した元弟子(オレ)のオリジナル魔法【(じょ)三段目(さんだんめ)(なが)し】で、墜落跡(おおあな)の底に流れ込んでいた大量の地下水を操った。



── その姿は、まさに網目骨格(ワイヤーフレーム)

昔なつかしい初期の3D格闘ゲームを思い出させる、カクカクの半球(ドーム)


外殻(がいかく)である水の防御壁(バリア)で、細かな土砂や爆圧を受け止める。

次に支柱になる鉄弦(ワイヤー)防御網(ネット)で、押しつぶそうとする岩石や巨木を押し止める。

そういう、2重の防御。



鉄弦(ワイヤー)(かい)した遠隔操作とか、初めてヤったからなぁ……

 ほとんど、一か八かの()けだったんだが……フゥッ」



なんとか成功したらしい。



「もちろん、オメーがその超重装甲で、肉の盾になってくれた事もあるんだろうが……

 ── つーか、『骸骨被り(オマエ)』、そろそろ起きろよ?」



愛剣・ラセツ丸の平の部分で、ペシペシ叩いてみるが、ゼンゼン反応がない。

うっすら聞こえる呼吸音からして、単純に気絶してるだけ、っぽいが。


俺も、即席の相棒(コイツ)も、満身創痍(まんしんそうい)

むしろ『生き残ったのがラッキー』という、奇跡的な状況。


だから、だろう。

完全に、失念していた。



── ボヴヴゥ……ヴォ……ヴボン! ズザザァ~……ッ!



飛翔に失敗した巨影が、途中で落下。

砂利を巻き上げ、勢いよく滑ってくる。



「チクショー!

 巨体甲虫(コイツ)、まだ生きてやがったのかぁっ」



思わず、かすれた声を張り上げる。


── 『絶対絶命』。

そんな、前世ニッポンの四文字熟語が脳裏に浮かんだ。





▲ ▽ ▲ ▽



深さ30~40mの大穴の底。

最終局面の鉄火場(てっかば)『瘴竜圏(ドラゴンフォール)の門番』の前には、俺と『相棒』(スカルヘルム)とだけ。



『瘴竜圏(ドラゴンフォール)の門番』 ── 路線バスぐらいの甲虫魔物(カブトムシ)は、ズザザァ~……ッと滑ってきたものの20mほど先で()まった。



(ボロボロなのは、魔物側(ムコウ)も同じか……っ)



ヴビィ……ッ ヴビビィ……ッと、ボロボロの薄翅(うすはね)で羽ばたこうとする。

少しだけ浮かび、すぐに落下。

それを何度も繰り返す黄金色の甲虫魔物(カブトムシ)は、見るからに満身創痍(まんしんそうい)


丸太みたいな六本脚も、何本かは半分に折れていて、歩くバランスが取れないらしい。

だから、なんとか飛んで移動しようと藻掻(もが)いている。



(よかった……っ

 さすがに『道連れメテオ(さっきの)』で無事なほど無敵装甲(チート)でもないかぁ)



さすがの黄金色巨大甲虫(カブトムシ)も、1回目の墜落式突撃(メテオ・ストライク)と、2回目の自分を囮役(エサ)にした自爆攻撃(トラップ)との、大ダメージ連発では動くことさえ精一杯みたいだ。



ホッとひと息 ──

── そう安心して気持ちを緩めた瞬間、ギギギィ……ッと金属が(きし)むような異音。



ギィ……ッ、ギチチィ……ッと、まるで悲鳴みたいな音を響かせながら、黄金色の巨大甲虫(カブトムシ)が駆け出した!?



(── いや、違う!?

 穴ボコの薄翅(うすはね)で何とか巨体(カラダ)を浮かせて、半分千切れた脚でゴリ押しで歩いてるのかっ

 チッ、どんな根性してんだよぉ!)



しかし、ムリヤリすぎる突進だけに、動きはそんなに速くない。

落ち着いて、十分な対処ができる。



「とりあえず一時撤退!

 【秘剣・速翼(はやぶさ)四ノ太刀(しのたち)夜鳥(ぬえ)】か・ら・の、『鋼糸(いと)使い』っ」



オリジナルの飛翔魔法で後退しつつ『相棒(なかま)』を回収 ──

 ── しかし、伸ばした鉄弦(ワイヤー)が空を切った。



「コォー……ッ、フォォー……ッ!」



『地面が爆発した!?』と思うような勢いで、鈍色(にびいろ)の巨漢が駆け出す。

前世ニッポンの『スモーの立ち上がり』か、『陸上のクラウチング・スタート』か、という超速発進(ロケットスタート)


巨大虫型魔物(カブトムシ)の残る2本の頭角(ツノ)と、ガップリ()つで組みあい、ハッキョーイ・ノコッタ!状態。



「おいバカ!

 ムリすんな、一旦(いったん)退()くぞっ

 魔物(アイテ)もボロボロなんだ、後は後方支援(マホウ)で十分 ──」


「── コオオォーッ!、フオオォォーッ!」



即席の『相棒』は、否定のニュアンスを伝えてくる。



「さっきの墜落(アレ)で、負傷者(リタイア)でも出たのか……!?」



俺は仕方なく方針転換。

空中浮遊のまま、左手の薬指の<法輪(リング)>を自力発動(『チリン!』)

【秘剣・速翼(はやぶさ)】で、魔物のズタズタな背中を狙う。



(穴ボコの薄翅(うすはね)を完全に破壊すれば、もう身動きが ──)



── そんな打算をした瞬間、『ゴォーン!』と魔物特有の魔法起動音!?


またあの、ヒィィィィ……ン!とジェットエンジンみたいな音。


しかし、ジェット噴射孔(ふんしゃこう)がある甲殻の羽根は、もう片方だけで、しかも半分折れた状況。

まともに突進なんてできるハズもない。

逆さに落下した時と同じように、暴れゴマみたいに不規則に回転するだけ。


しかし、今みたいに人間(テキ)に囲まれた状況なら、暴走回転(ソレ)で十分なんだろう。



「やりずらい、クソやりずら過ぎるっ」



飛翔魔法をすぐに解除して、ダンッと5mの空中からの緊急着地。


即座に、【序の二段目:()ね】のジャンプ移動攻撃を利用して、後方へと回避を ──

 ── と思った瞬間、即席の『相棒』がドバッと出血!?



「バカっ、なにやってる!?」



魔法のジェット噴射で突進力(パワー)を増す魔物から逃げるどころか、抑え込もうと抱きついていた。


巨大虫型甲虫の左上の頭角が、肩甲(ショルダー)を弾け飛ばし、隆々と盛り上がる左の肩や腕の筋肉をえぐる。


右手一本で、腹を貫こうとする中央頭角(ツノ)を握って止めているが、それもどこまで保つか。



「おい、さすがに逃げるしかねーぞっ

 何の意地を張ってるか知らんが、ムチャはよせ!」


「コォー……ッ、フォォー……ッ!」



ヒィィィィ……ン!と魔物のジェット噴射音が高まっていく。

黄金色の頭角(ツノ)を抑え込もうとする巨漢の重装甲が、ギャ・ギャ・ギャ・ギャ……ッと削れる音。


そんな拮抗(きっこう)も、長くは()たない。

()つはずもない。


いかに無敵で不死身の理不尽(チート)野郎(ヤロー)だとしても、所詮(しょせん)はただの人間。

巨漢の超重装甲とは言え、たかだか(・・・・)目測推量(めかた)()0.2(・・・)(トン)程度(・・)


対して相手は、前世世界のインド象以上の巨体で、目測推量(めかた)()()(トン)軽く(・・)超え(・・)ている(・・・)


最低でも、体重差25倍(・・・)だ!

勝ち目なんて、有るワケが無い!



── 『骸骨被り(スカルヘルム)』の破滅の魔力だか何だか知らんが、あの濃い紫色でムリヤリ(・・・・)肉体を(・・・)強化できる(・・・・・)としても、中型魔物(デカブツ)突進攻撃(チャージ)をどうにかできるハズもない。



「コォー……ッ、ゴホォッ、ブフゥッ!」



ついに腹をえぐられたのだろう。

ヒツジの骸骨を被った巨漢(ヤツ)が、ボタボタと血を吐いた。



── しかし!

巨漢(ヤツ)は退くどころか、前進する!?


ズドン!と装甲をブチ破り背中から突き出る、黄金色の頭角(ツノ)

そして、そんな致命傷にも構わず、魔物の巨体に抱きつく。



「── ゴオォーッ!、ブオォォーッ!」



まるで、暴れ牛のような気迫の怒号を吐き、骨兜(カブリ)を投げ捨てた。

そして、一瞬だけ俺の方(コッチ)をチラ見した。


真紫色の顔面は、美醜(びしゅう)もクソもない。

羊頭狗(ガク)>の呪いで、腐りかけている肉から、真っ黄色の膿汁(うみじる)がにじんでいる。


そんな腐敗の中で、青い瞳だけが、強く清い光を宿している。



「フォォー……ッ!」



その紫色の、半ば腐りかけの骸骨みたいな顔は、おそらく笑ったと思う ──

 ── そして、何故か、俺に親指を立ててきた。





▲ ▽ ▲ ▽



── 最期(さいご)に、『剣帝流(オマエ)』が来てくれて、良かった。


── 俺の大切な『仲間(モノ)』を頼む……っ!



声ならぬ声が、耳元で泡のように弾けた。

幻聴と言えば、幻聴だ。


だが、それは、武の修練で磨き上げた『読心術』もどき。

相手の意識の変化をのぞく(・・・)技能。



「── ふ……っ

 ふざけんじゃ、ねぇ~~~~っ!!」



── <副都>を死守する決意

   ── 亡き人への想い

 ── 深い絶望

  ── 返せぬ恩義と後悔

── 魔物への復讐心

   ── 死に場所を探す

 ── 治らぬ呪い

── せめて笑って逝く

  ── 残す者達への心配



(そして!

 ── 『最強の敵(アイボウ)への、無上の信頼』!?)



そんな視線も、一瞬だけ。

骸骨被り(スカルヘルム)』は、その生命を燃やし尽くすように、濃い紫色の魔力を発散。



「── グォオォーッ、ゲフッ! ゴボッ、フォォォーッ!」



途中、血を吐きながらも、例の呼吸音を繰り返し続ける。


骸骨被り(あのヤロー)』が受けた、呪いの逆用(チカラ)

<錬金装備>でも何でも腐った木みたいにボロボロする、『(ほろ)びの魔力』。



(それを使って、敵もろとも死ぬ気か!!

 だから(・・・)、俺に『遺言』を残した!?)



理解すると、頭に血が上る。



「ふざけんじゃねー!

 ふざけんじゃねーぞ、このクソ野郎がぁぁ!

 俺は、『剣帝の落ちこぼれ一番弟子』だ、『落ちこぼれ魔剣士(ナマクラけんし)』だぁ!

 そして、剣帝流後継者(アゼリア=ミラー)兄弟子(ニイちゃん)で、それ以外は、何者でもねえぇ!!」



こんな俺でも(あこが)れる程に偉大な漢(・・・・)の、その身勝手さに、激情が湧き上がる。

1%の歓喜と、99%の激怒が、全身を駆け巡って灼熱させる。



「俺は、俺はなぁ!

 『純真な妹弟子(あのこ)』を守るだけで手一杯の、『矮小な男児(チビガキ)』なんだよっ!

 お前みたいな『偉大な漢(デカいヤツ)』が、そんなの(・・・・)に、勝手に、重責(おにもつ)を押しつけてんじゃねーぞぉっ!!」



体格が少女並み(クソザコ)? ──

魔力が極少(カス)? ──

 ── 俺なんかの(・・・・・)その程度(・・・・)の逆境(・・・)なんて、笑ってしまう。



── 『骸骨被り(あのヤロー)』の境遇は、俺程度(・・・)とは(・・)比べるのもおこがましい!


おそらく『常に激痛が全身を支配し、幻聴が意識をかき乱す』!

おそらく『自分の魔力が自身を傷つけ、暴れ続けて制御できない』!

おそらく『厳しい修練で手に入れた【身体強化】(マケンシのチカラ)すら使えなくなった』!

おそらく『生きながら腐り続ける、恐怖と絶望』!

おそらく『食事どころか空気も水も全て下水(ドブ)の味と臭いで、生きる楽しみなんて一つもない』!


── そんな無数の逆境(マイナス)を、全て闘志(チカラ)に変えてきた!



「そんな豪傑(ヤツ)が! こんな所で! こんな程度の魔物(あいて)に! くたばってんじゃねー!!」



不条理に怒り、激情を吐き出す。

その虚しさからの心痛(しんつう)に、少し頭が冴える。


ふと、周囲からの声が想い出された。



── 「『人類守護の剣(かつじんけん)』の本領発揮ですね、期待しています」

── 「貴方のご勇姿ぃ、楽しみだわぁ~」

── 「そろそろだ! 頼むぞ、少年!」

── 「なんかもう……アイツ1人でよくない……?」

── 「いやぁ~、トンでもないよ、アンタ」



期待の声と、目線。

そんな物が、今世の俺(ロック)に、果たして今まであっただろうか。

いや前世ですら、そんな覚えはありはしない。



(それなのに、『人食いの怪物(マ・ンイーター)』のPT員(みんな)に、

 『お前達の大事な大事な#1(リーダー)を助けられませんでした!』

 とか期待を裏切る事を言うつもりかよ!?)



この俺が!?



(さらに、こう言い訳するのか!?

 『お前達の偉大な#1(リーダー)は命がけで必死に闘ったけど、俺は部外者(ヨソモノ)卑怯者(コシヌケ)貧弱矮小(クソザコ)だから、指をくわえて見ていただけです』って!?)



活人剣の剣帝流(このオレ)』が!?



── 『気を付けて~!』『頼むぞ~~!』

── 「みんなぁ、貴方様の活躍に期待しているんですぅ~」


『みんなが期待しているのは、アンタら元AA級(ダブルエース)の腕利きだろ?』



あの時は、そう応えた。

重責と気恥ずかしさから、逃げるように。



(そう、俺は『逃げた』んだ ──)



期待から。

責任から。

信頼から。


魔物に苦しむ人々の『求援の声(タスケテ)』から!



(── 『剣帝の一番弟子(このオレ)』がぁぁっ!?)



そんな無様すぎる羞恥(しゅうち)を、あえて(・・・)想い出して、火にくべる。


激怒の炎が、さらにゴウゴウと燃え上がるように!

俺の憤怒(ふんぬ)が、天を突いて、雲すら焼く様に!



── 「勇士(ゆうし)様にご成敗(せいばい)いただく難敵(なんてき)ぃ、『瘴竜圏(ドラゴンフォール)の門番』ですわぁ~」



ああ、乗せられて、やろう。

そうだ、乗ってやるさ!


お胸がステキな美女にホメられて、おだてられて、木に登るブタのようにホイホイと!


死んで、生まれ変わって、相変わらず、バカのままな。

どうしようもない、俺らしく!



(── 笑いながら、この死線(・・・・)を越えてやる!)



覚悟しろ、魔物よ。


俺こそが、キサマらの天敵!

すなわち、『魔物退治の聖人(剣帝ルドルフ)』の一番弟子・ロック!!



── 殺意という、仄暗(ほのぐら)く青い炎を(まと)い、今ここに見参ッッ!!!





▲ ▽ ▲ ▽



『過負荷』(オーバークロック) ── 青い魔力を、複数装填(そうてん)、開始!

ィィィィイイイ……ィン!と駆動器(モーター)じみた、異音が鳴り始める。



「── 一太刀(ひとたち)、それで全て決着する!」



9ヶ月前、『魔物の大侵攻(モンスターパレード)』の経験が()きた。


ただでさえ脳に負担がかかる、青い魔力の装填だ。

うかつな装填方法を取れば、その過負荷が自分の脳が焼き切れかねない。

死神(ししん)加護(かご)』の別名は伊達(だて)ではない。



── だから、装填術式にさらなる工夫を()らした。



当初は魔力400%装填だった、2重の補助術式。

これを、<法輪(リング)+1(プラス・ワン)の3重の補助術式に改良し、魔力500%装填を実現し、なおかつ装填時間の高速化に成功。

(※ 魔導三院の研究資料を読ませてもらったおかげです、関係者各位に感謝!)



その『新式・3重術式』に、さらに全体を制御する術式を2個追加して『5重術式』へ。

魔導術式<法輪(リング)>に補助術式として追加するのではなく、前世ニッポンの工場の『流れ作業(せいぞうライン)』みたいに、順に加工作業をしていく方式へ。



「だから、その間だけ耐えろ、『相棒』ォッ!」



左手でこの5重の魔力装填術式を制御して、右手5指の待機状態(スタンバイ)の<法輪(リング)>を、順に青く染めていく。

高速に、精緻(せいち)に、連続で。



4個目(くすりゆび)の<法輪(リング)>が青に染まり、5個目に取りかかった瞬間、装填術式の制御を手放す。

代わりに、左手で『鋼糸(いと)使い』の技能(スキル)を発動!


路線バスくらいの巨大甲虫(カブトムシ)の、その黄金色の首部(くび)鉄弦(ワイヤー)を巻き付けた。



「── 準備完了! いくぜぇ~っ!!」



ィィィィイイイ……ィン!と『過負荷』(オーバークロック)5重の爆音。

その大音響に負けない大声を残して、『ギャリィン!!』と天へ(のぼ)る。



── それから1秒すらなく、ギシィィ……ンッ!と、鉄弦がきしみ、左腕を締め上げた!


左上腕の骨がひび割れただろう。

だが激痛なんて、今はどうでもいい!


指が千切れなかった。

肩が脱臼(だっきゅう)しなかった。



「それだけで、上出来だ!

 ()めてやる、修行の成果だ、よくやった俺の左腕!!」



痛みを、絶叫で誤魔化(ごまか)す。



── 上下逆転に見下ろすのは、50m下の地面!

秘剣・速翼(ひしょうマホウ)】の『過負荷』(オーバークロック)で、高さを(かせ)いだ!



「俺みたいな貧弱(ザコ)年少(ガキ)でも、まだ()れる!

 他人(みんな)の期待に応えられる!!」



── 後は、簡単。

落下するだけ。


未完成奥義【仮称(かしょう)(あらし)】の剣身加速(ジェット噴射)で、威力を極限まで上乗せして!



「だから、『相棒(オマエ)』も気張れよぉ!

 こんな所で散って仲間(みんな)を泣かせるんじゃねー、『希望の星(ロック・スター)』ァッ!」



── 魔物(テキ)の首に結んだ、鉄弦(ワイヤー)導線(ガイド)として!



『約50mの落下』に『【仮称・嵐】(ジェット噴射)のスピード上乗せ』なんて、最終的に時速200kmくらいの超高速だ。


着地する両足が、耐えられるワケがない。


だから、防御用の魔法付与(エンチャント)【序の二段目:()り】で、両足を保護。

さらに、水や熱だけでなく運動エネルギーすら制御する【五行剣:水】の派生魔法【序の三段目:(なが)し】で、落下の力を<小剣(ラセツ丸)>に収束。



── ズバァァァ~ン!と破裂の音を響かせて『青の撃剣(けん)』が、雷光のように無敵装甲を断ち切る!



しかし、浅い!

斬首(ざんしゅ)というには、浅すぎる傷跡。


所詮(しょせん)は、剣身40cm程度の<小剣(ショート)>。

横幅(よこはば)だけで2m近くある巨大甲虫からすれば、1/5も傷が入っていない。




── だが、俺は声高らかに叫ぶ。



ねらい(・・・)通り(・・)

 ── 追撃のぉっ、【秘剣・陰牢(かげろう)弐ノ太刀(にのたち)陰鋒刺(かげほうし)×3(かける・さん)ッ!」



すぐさま、右手の指に残った3個の青い<法輪(リング)>を、解放(リリース)

『ギャリィン!!』『ギャリィン!!』『ギャリィン!!』と、巨体甲虫(カブトムシ)頭部(カブト)を囲むように、蒼白の巨大三角錐が地面に突き刺さる。


例えるなら『昆虫標本を固定する虫ピン』みたいな状態。

内2本は頭角を根元で固定し、残り1本が斬撃の切断痕(せつだんこん)の真横を(おさ)える。



── これで『頭部』は動かない(・・・・)っ!



「よし、即刻(そっこく)退避(たいひ)ィッ!」



巨体甲虫(カブトムシ)頭角(ツノ)串刺(くしざ)しの巨漢(アイボウ)を、【序の二段目:圧し(パワーアップ)】で担ぎ上げる。

雑改造の【秘剣・速翼(ひしょうマホウ)】を連発して、墜落跡地(クーレーター)から脱出。



すぐに、

── ヒュゥゥン……ドォォンッ!というジェット噴射音!

── ギギギィ……バキィィィ!という破砕音!

その二つが、ほぼ同時に鳴り響く。



チラリと背後を見れば、狙い通りの状況 ──

 ── つまり、ジェット噴射の負荷が40cm程度の切断痕(せつだんこん)へ集中した結果、自分の首部(くび)ねじ(・・)切って(・・・)しまった(・・・・)巨大甲虫。



(つまり、あのジェット噴射の突進攻撃(チャージ)無敵装甲(チート)あっての超威力攻撃!

 その無敵装甲が(・・・・・)破損すれば(・・・・・)、自分のジェット噴射に耐えきれずに自滅(・・)する(・・)ってワケだ!!)



ガララララァ……!と、頭部(カブト)と泣き別れた黄金の胴体だけが、いつまでも虚しく、暴れゴマのように回転し続けている。



俺は、すぐに死骸(それ)に背を向ける。

そして、瀕死(ひんし)状態の『相棒』を(かつ)(なお)し、治療を急いだ。


!作者注釈!


うはぁ……。

今まで一番の難産のエピソードでした……、ああ疲れた。

「第2部ってデカいボス居ないから、追加すっかな?」ぐらいの気分で出した事を、心底後悔。


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