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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 7.5:特設ステージ(ボス戦)

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166:致命のトラップ

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




青空を切り裂く、5本の飛行機雲。



── ヒュ~~……ゥン、ドオオォォ……ンッッ!!!



『それら』が地上に着弾(・・)すると、大地がめくれた(・・・・)



『ひぃ……、きゃ、ぁぁ、あ、ああ~っ』

『お、お、お、お、おぉぉっ、ああ!?』



耳が痛い程の爆音。

AA級(ダブルエース)冒険者『人食いの怪物(マンイーター)』2人の悲鳴も、かき消される程。


俺たち3人が、1本の大木にしがみつく様に密着しているからこそ、その叫び声の振動が身体に伝わるだけ。



── ズザザザザァ……!!と、嵐の木の揺れを10倍にしたような、騒々しい音。


垂直の断崖絶壁(だんがいぜっぺき)と切り立った『緑の大地』が、今度はこちらへ向かって落ち始める。

まるで、サーフィン競技選手が乗る大波のように。


高層ビルくらいの高さになった『横向きの森林』が、バラバラ……ッと土砂を落とす。

さらには、緑の枝がバサバサッと怪鳥の翼のよう羽ばたき、真っ逆さまに大木が落下してくる。



「クソがぁっ!?」



3人で一斉に逃げようとするが、大地震みたいな地面の揺れのせいで、立っているだけで精一杯。

しゃべる事さえも、ままならない。


当然、とっさに魔法を使うなんて、ほぼ不可能。



(しかぁ~し!

 地震大国のニッポン生まれ(注:前世!)をナメんじゃねぇーぞ!)



こんな緊急事態だからこそ、俺の必殺技が輝く。

戦闘中の好機(チャンス)を逃さず、オリジナル魔法での攻撃を叩き込むための工夫(くふう)が、いま役に立つ。



── 両手の10指には、指輪に偽装した魔法術式<法輪(リング)>。

それは、すでに発動寸前の待機状態(スタンバイ)なのだ。


俺が発見した魔法術式の『裏技(バグ)』 ── 誤差1mm以下で同座標に約150個の魔導文字を重ねる── で『処理落ち(ラグらせ)』ているだけ。


その状態を解除してやるだけで、魔法が解放(リリース)

既に(・・)用意して(・・・・)いる(・・)魔法を、即・始動できる。



── 右手薬指の<法輪(リング)>が腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。



「【秘剣・速翼(はやぶさ)】で空中浮遊ぅ、 か・ら・のぉ~!

 ── 『鋼糸(いと)使い』!!」



そして、魔力操作の応用で、鉄弦を操る技能(スキル)だ。

本来は楽器用の鋼糸(ワイヤー)が、角付き鉄兜(ヘルム)の2人へと伸びて、蛇のように巻き付つく。


前世からの憧れを実現するため、ここ半年かかさず練習した甲斐(かい)があったってもんよ。



(── 『中二病(チュウニズム)は異世界で身を助ける』!

 これ豆知識(マメ)な?)



「きゃっ!?」「わはぁっ!?」



激震のあまり、大木にしがみついたまま何もできない2人を、空中にかっさらう。

鉄弦(ワイヤー)で手元に引き寄せたら、今度は左手薬指の<法輪(リング)>を解放(リリース)



「【秘剣・速翼(はやぶさ)四ノ太刀(しのたち)夜鳥(ぬえ)】!

 ── スッ飛ばすけど、舌かむなよ!」



最速飛翔のオリジナル魔法で、斜め上空へ。

上昇中に魔法術式(ゆびわ)補充(ほじゅう)して、飛翔魔法の効果切れのタイミングで、また【夜鳥(ぬえ)】を再使用。


それを、あと3回繰り返して、遙か上空へ。



高度150mくらいまで上昇して、大地がめくれて落ちてくる『(りく)大津波(おおつなみ)』から退避した。





▲ ▽ ▲ ▽




上空150mとは、前世ニッポンの東京タワーの展望台くらいだ。

地上の人間がアリンコかマメ粒に見えるくらいの高度(たかさ)



「う、うわぁ~……」



その眼下の光景が、ヒドい事になっている。


まさに、巨大隕石落下地点という感じ。

ボッコリと大穴が空いていて、その向こうには今までなかった土砂の小山すら出来ている。


まさに『災害』というレベルの被害甚大さに、冷や汗ダラダラだ。



「他の4人、生きてるのかぁ……?」



さすがに心配になって、両目を閉じる。

魔力センサー魔法【序の四段目:風鈴眼(ふうりんがん)】の2重使用、広範囲(ワイド)モード発動!



「ケガしてヤバかったら、拾いに行ってやらないとぉ……

 あ、4人ひとまとめに……なんだ、石のカマクラみたいな?

 しかも、魔法で強化した石材みたいな感じ……?」



俺のそんなぼやきを聞いて、両脇に鉄弦(ワイヤー)でぶら下げた2人が、安堵のため息。



「それはぁ、多分。

 お師匠さま ── いえ、『#3』(ナンバースリー)のオリジナル防御魔法だと思いますぅ~」


「あぁ~……よかったぁ、みんな無事みたいだなぁー。

 しかし、アンタ、この距離から人間の気配探れるのかよぉ……

 どんな『魔力感知(サードアイ)』してんだ……?」


「さすがはぁ、天下の剣帝流ですぅ~」


「………………」



手荷物状態の2人に、そんな風に感心されるが、俺としては返答に困る。


さすがに100mとか150mとか、そんな離れた所を『魔力感知(サードアイ)』で把握するのは、達人魔剣士の剣帝(ジジイ)でもムリだ。



そのため(・・・・)に、感知能力に特化した【五行剣(ごぎょうけん)(かぜ)】があるワケで。

 その【五行剣・風】だって、敵迎撃(カウンター)が専門。

 動かない相手を探し出すのは、ちょっと苦手なんだけど……)



当流派(ウチ)弱点(・・)を、ワザワザ赤の他人に教えてやる理由もない。



「しかし、さっきの遠距離攻撃といい。

 この飛翔魔法といい。

 そして、この鋼糸(ワイヤー)を手足みたいに操る技といい。

 ── アンタ、なんでも有りすぎじゃないか?」



右脇から年下少年(ナンバーシックス)の、なんだかネットリした声。

ちょっと、暗い感情が込められている。



「俺は、身体能力にも魔力量にも恵まれなかったからなぁ……

 そんな欠点を補うために、色々と苦労(・・)してる(・・・)んだよ?」


「ちぇっ、いいなー……

 オイラにも、アンタみたいな技術(ウデ)があれば、もっと皆の役にたてるのにぃ……」



スゴ腕PT(パーティ)人食いの怪物(マンイーター)』の最年少は、仲間の足を引っ張っているという自覚があるのか、弱々しい独り言を漏らす。



「………………」



(俺はしょせん、才能も素質ない『落ちこぼれ(ナマクラ剣士)』なんだが、ね)



右手に年下少年(ナンバーシックス)をチラ見して、ちょっとウンザリ気味のため息。



(多分コイツ、年齢は12~13くらい……

 今の時点で骨格は15歳の俺以上にガッチリで、将来はグングン背が伸びそう。

 魔力の量だって、すでに大人の魔剣士並だしなぁ)



さらには、俺に鉄弦(ワイヤー)でグルグル巻きでブラ下げている状態で、身体に負担がかからない体勢(ポジション)を自然と取れている。

そのバランス感覚の良さは、運動神経の良さに結びついているハズ。



(才能も素質も抜群で、俺の100倍は将来有望なヤツが、何を言ってるんだか……っ)



嫉妬、焦り、不安、劣等感 ──

 ── そんな曇った顔をしている年下少年(ナンバーシックス)



見ているだけで、ちょっと殴ってやろうと思うくらいには、気分が苛立(いらだ)つ。



(フン……!

 とっくに『魔剣士になっている』お前なんぞに、『絶対に魔剣士になれない』俺の気持ちは分からんよ……っ)





▲ ▽ ▲ ▽



(もしも、俺に『#6(コイツ)』くらいの才能や素質があれば ──)



── きっと、妹弟子(アゼリア)の目標となるような兄弟子だったろう。


── きっと、一緒に士官学校の魔剣士学科に通い、学園生活を楽しんでいただろう。


── きっと、師匠(今みたいな元師匠ではなく)にとっても、自慢の後継者だっただろう。


── きっと、金髪貴公子(マァリオ)のよき競争相手(ライバル)だっただろう。


── きっと、神童ルカにあんな風に(・・・・・)失望される(・・・・・)事もなかっただろう。


── きっと……


── きっと……


── きっと……




意図せず、そんな虚しい事を考えてしまう。



── そんな感情のささくれ(・・・・)に気を取られている内に、飛翔魔法の効果でゆっくりと降下し続けて、地上に近づいていた。


ヒュルヒュル……ッと独自の音を鳴らす飛翔魔法を操作して、柔らかく地面に着地。



「あのさぁ、お前なぁ……」



なんか落ち込んでいる年下少年(ナンバーシックス)に、色々と思うことがあって口を開く。


と、その真逆。

つまり、俺の左脇からホンワカお姉さん(ナンバーファイブ)が、ちょっと困ったような小声が響く。



「あのぉ~……、勇士さまぁ?

 そ、そろそろぉ、解放していただけませんかぁ~?

 わ、わたくし……こ、これはさすがにぃ~……す、少し恥ずかしいぃ、のですがぁ……?」


「うわぁっ、リザ姉ちゃんが何かエッチな格好させられてるっ

 アンタ、なにやってんだよぉっ!?」



右の年下(チビ)からも、変なイチャモンつけられた。



(この非常時に、ゴチャゴチャ何を言ってんだか……っ

 例えば、ちょっと腰とか、お尻とかさわったとしても、事故みたいなモンだろうが……?)



内心ウンザリしながらチラッと左脇を見る。

と、予想以上にスゴい姿!?



「うわぁっ!?」



鉄弦(ワイヤー)が股間にV字に食い込んでいて、ロングスカートがギリギリまで上がっていて、白い太股がまぶしかったり。

スゲー美人さんのスゲーお胸を強調しまくるみたいに、六角形が食い込んでいたり。

そのくせギュッとした腰のくびれ(・・・)と、お尻までの美曲ラインをあらわ(・・・)にするみたいに、服を絞っていたり。



「……こ、こういう事はぁ……

 ……き、きちんと(めと)った後にしてくださぁぃ~……」



真っ赤な顔で、ボソボソ抗議の声を上げるホンワカお姉さん(ナンバーファイブ)



(う、うわぁぁぁぁぁ!!?

 完全に(アウト中の)性犯罪(アウト・オブ)の現行犯(・スーパーアウト)じゃねーか!?

 ── 誰がどう見ても完全に亀甲(きっこう)(しば)りです! 俺セクハラ(ホントウに)で異世界人生が終了(ありがとうございます)!!)



そして、内心で絶叫しながら、顔を真っ青にする俺でした。





▲ ▽ ▲ ▽



「── い、今は、そんな事を気にしている場合じゃないっ!?」



即行(ソッコー)で、両脇の『人食いの怪物(マンイーター)』の2人を地面に降ろす。

そして、鉄弦(ワイヤー)のグルグル巻きを、すぐさま解除。



── 超速の証拠隠滅、完了!



「……さて、あの魔物をどうするか……ッ(キリ!)

 クッ、なかなかいい手が思いつかないな……(キリ!)」



何事もなかったかのように、隕石落下(メテオ)の方を向き、真剣に戦っているフリ(ポーズ)


つまり『え、何? 俺、今何かしましたっけ? 気のせいじゃない?』という顔で、全てを誤魔化していく所存(しょぞん)



(── いや、もう、ビンタされても仕方ないもんなっ!?)



そんな覚悟で、身構える。



── 『いやぁぁ! チカァ~ン!』とかいう、 悲鳴と批難(ひなん)


── 『なにするんですかっ! この変態男ぉっ!』とか、烈火(れっか)の怒り。


── 『身動きとれない女性にこんな卑劣な真似、恥ずかしくないんですか?』とか、()てつく侮蔑(ぶべつ)



しかし、どれも違った。

何故か、予想外の声色。


子ネコが甘えるような、か細く間延びした声が、ボソボソと。



「── も、もおぉ~……、勇士さまったらぁ……っ

 ちゃんと手順を踏んでいただかなければぁ、わたくしも困りますぅ~……っ」



ウニャンウニャン、ウニャンウニャン、ミルクもらった子猫みたいに言ってる。


なんか前世ニッポンで、こんな言葉があった気がする。

── 『充分に発達したエロ妄想は現実と見分けがつかない』



「た、多分、これはそんなヤツなんだ……っ!」



美女を助けたら、お礼(?)にオッパイ顔面圧迫。

そんな『昭和の少年マンガかよ!?』みたいなスーパーミラクル展開が実際に起きてしまったので、H妄想(ファンタジー)現実(リアル)が混線しているだけ!



「……そうダメですぅ、いきなりぃ、あんな事はぁ~……っ

 もうぅ、さっきの事でぇ、その気にさせてしまったのですかぁ……?

 でもぉ最初はちゃんとぉ、もっとノーマルにぃ、恋人の()()いをぉ~っ、もぉ、もぉ~っ」



スゲー美人さんが、真っ赤な顔して、座り込んでモジモジしているとか!?


ダマされるな、俺!

これ絶対現実じゃないゾ!!



(いいか、勘違いすんじゃねーぞ、今世の俺(ロック)よ!

 『お、よく目があうし、なんか優しいし。この子、ひょっとして俺に気があるんじゃね?』

 みたいな、身勝手な思い込みで舞い上がって鼻息荒くして告白して、結局は勘違いヤローの大暴走という(あか)(ぱじ)かいた事が何回あったよぉ、前世ニッポンで!?)



社会人になって、同じ部署の新人さん(3年後輩)を相手にハデに自爆した時が、一番キツかった。

『先輩として尊敬してますけど、そういう気持ちじゃありません』

とスパッと一蹴(いっしゅう)

その後、仕事で毎日会うのが気まずいったらない。



「ちゃ、ちゃんと父と兄に報告してぇ……

 そ、それにぃ~……、将来のことをサベラとも相談した上でぇ、お返事させていただかないとぉ~……

 あ、ほらぁ、わたくしぃ故国(くに)のお祖父(じい)様の事もありますしぃ……」


「え、ちょ、ちょっと、リザ姉ちゃん……?

 ま、まさか、本当にコイツの事をぉ……!?」


「ち、違いますぅ!

 マルトさぁん、違いますよぉ~!

 お姉ちゃんは、縛られてドキドキなんてしてませぇ~ん!

 ── わ、わたくしはただぁ~……そ、そのぉ。

 尊敬の念を(いだ)いた勇士様にぃ、いきなり『あんな事』をされてぇ、ちょっと驚き過ぎてしまっただけでぇ~……」


「………………」



(── ほら、聞いた!?

 『尊敬』よ『ソンケー』!

 『ヒトとしてソンケーしてますけど、レンアイ・タイショーじゃありません!』という、いつものパターン!

 前世ニッポンの時と同じ、アレ!)



危ねえアブネー。

うっかりその気になっちゃうところだったぜ。



「うわぁあああ、リザ姉ちゃんが今まで見た事ない顔してるぅ~~!

 オイラ知らねーぞ! オイラ悪くねーぞ!

 絶対サベラさんがブチ切れるぞ~~!」



なんか年下(チビ)が向こうで騒いでいるが、相手をする気持ちの余裕はない。



── やはり、すべてはH妄想(ファンタジー)

── ラッキー☆スケベという奇跡(オッパイ)が生んだ『ご都合妄想(マボロシ)』!

── 前世世界のS.F.(すこしフェチな)有名作家の名言、『充分に発達したエロ妄想は現実と見分けがつかない』というまさにその通り!



(そもそも今世の俺って、かなりの女顔なんだ!

 この異世界って、人食い魔物ワラワラでデンジャー過ぎで『頼りになるゴツい男!』がモテモテなワケでっ

 コッチの女子的には『頼りなさそうな女顔男子(カマオ)とか対象外(ねーよ)』という感じだよなぁ?)



現実を正しく認識すればするほど、ラッキー☆スケベで浮ついた心が沈静化していく。



(あ、ほら!

 俺には、カワイイ妹弟子を身近で守護(マモ)るっていう、兄弟子(ニイちゃん)的なスーコーな使命があるし!?

 そのための剣術修行とか魔法訓練とか、色々マジで忙しいし!

 レンアイとかにウツツを抜かすヒマなんてないし!

 前世でも独身貴族(おひとりさま)を割とハッピーに貫き通したし!

 ── だから乙女(オンニャノコ)にモテないとかゼンゼン気にしてねーし!)



そう心の中で叫び、歯を食いしばって、森から駆け出す。


け、決して、涙なんて(こぼ)れてないからっ!

これは、目から出た汗だからっ!



(── 急募(きゅうぼ)、八つ当たり対象!)



今なら特別に『巨人の箱庭(ジャイアントガーデン)』の超巨大魔物(バケモノ)でも()!!





▲ ▽ ▲ ▽



そんな感じで、勢いよく森から駆け出る。



「うおぉ……っ」



隕石落下みたいな降下攻撃の爆心地(・・・)は、地上で見ればいよいよだ。

攻撃範囲内の壊滅的な状況に、ちょっと口が渇き、生唾をゴックン。


スリ(ばち)状の攻撃跡(・・・)は直径100m級。


そんな風に地面がえぐられ(・・・・)、その大穴の分の土砂が一方向に吹き飛ばされて、ドシャドシャっと積み上がったという感じ。



── 土砂がドシャドシャっと!(ひとり笑(ププッ!)



そんな内心の爆笑ギャグでストレス処理と、恐怖と緊張をほぐす。


大穴を覗き込むと、底の方に黄金色の巨体が半分くらい埋まっていた。



「お、巨大甲虫(アイツ)まだ、体勢を立て直してない……

 なら、攻撃のチャンスか?」



今さらあんな(・・・)凶悪攻撃(・・・・)かます巨大甲虫(バケモン)に近寄りたくないが、離れていた所でジリ(びん)だ。



バランスを取りながら、ズザザー……ッと斜面を滑り降りていく。

途中から地下水がドッパドッパ出ているのを見ると、えぐれた(・・・・)深さも、30~40mくらいありそう。

(地下水を取る井戸の深さは20mくらい。これ豆知識(マメ)な?)



「マジで、こんなの野放しにしてたら、どんな大都市でも壊滅させられるぞ……」



そんな事を言っている内に、大穴の底に辿り着く。



「さて」



改めて爆心地(・・・)の真ん中を見る。

前世ニッポンの路線バスか電車1両という巨大体格の、黄金色の虫型魔物(カブトムシ)が頭を埋めてジタバタジタバタ。



「動けない内に、せめて羽根だけでも……っ」



腰の模造剣(ナマクラ)の<小剣(ショート)>を抜いて、特殊な術式を編む。



── 狙いは、残った1枚の硬甲の羽根を破壊して、ジェット噴射を不可能にする。

── あるいは、むき出しの方の薄翅(うすはね)を斬り裂いて、飛行能力を奪う。



少しして、右手の指から『ィィィィイイイ……ィン!』という異音。

過負荷(オーバークロック)な青い魔力が、充填(じゅうてん)完了。


(すき)だらけの背中へ向けて、【試作版:八重裂(やえざき・)・劣(マイナー)】を放つ ──



── その瞬間、濃い紫の影が割り込んだ。


どこに隠れていたのか、スゲー速さでシュバって来たらしい。



「コォォー! フォォォ~~~ッ!!」「なっ!?」



慌てて、オリジナル魔法を中断!

せっかく装填した過負荷(オーバークロック)の青い魔力が、無意味に霧散する。


── テメー、何でジャマする!?


そう叫びかけた瞬間、即席の『相棒』と目が合った。



(── 『激しい(あせ)り』と『死の恐怖』だと!?

 この『人食いの怪物(マンイーター)』の#1(リーダー)が!

 この不死身(チート)人外(バケモノ)ヤローが!?)



すぐに、2m強の重装甲な巨漢(デカブツ)が、俺を(かつ)いでシュババババ……!と全力逃走。


それと同時に、上空(そら)が目に入る。



── ドォ……ンッ!と大気が爆ぜる音ぉッ!?



雲ひとつない真っ青な空から、虹色の輝きが4個!

しかも、ヒィィィ……ンッ!と、不吉な音を立てて、またも(・・・)降って(・・・)きた(・・)



「チクショー! 自分を囮役(エサ)にした罠攻撃(トラップ)かよぉッッ!?」



そう、敵は『命知らず』な虫型魔物。

農場(エサ場)を荒らす外敵(ニンゲン)を排除するためには、手段を選ばない。



── つまり、群れ(メスや子ども)を守るためなら、自身の(・・・)生命すら(・・・・)かえり(・・・)みない(・・・)!!



そんな基本的(・・・)な事(・・)を失念していた、俺の無念の叫び。

それも、隕石落下のような大爆音の中に、むなしく消えた。



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