164:アイツひとりでよくない?
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
自分が立っている『土砂の道』を見ているだけで、ちょっと声が震える。
「改めて見たらぁ……、マジでエグいなぁ……」
うわー、という感想しか出ない。
── 切り拓かれたそこを『道』とは言ってみたが、『墜落跡地』と言う方が近い。
『瘴竜圏の門番』 ── あの黄金色の巨大甲虫 ── のジェット噴射体当たりでえぐられた元・原生林。
大木を50も100もベキベキ薙ぎ倒し、200mも300mもゴリゴリ圧し進んだ、痕跡だ。
そんな環境破壊みたいな大被害をまき散らし、ようやく停止するような、暴走機関車以上の何か!
「なんでそんな魔物とぉ、殺し合いさせられてんだよぉーーー!」
ちょっと無理矢理に、怒りゲージを爆発。
(※ 格闘ゲームなら [挑発]+[強攻撃]ボタンを押しっぱなしでゲージため。
怒りゲージMAX後に、ボタン4個押しで強制発動)
内心の怯えを消し去り、気力を充填!
── ロック行きま~す!!
『チリン!』『チリン!』『チリン!』と自力詠唱3回分を保留。
魔物相手には初めて使う『必殺技連撃』だ。
「まずは【秘剣・三日月】っ」
バシュン!と【序の一段目:裂き】バージョンの飛ぶ斬撃が、巨大カブトムシの背後にぶつかる。
ギャギャギャァ……ッとハデな音がするが、案の定ほとんど効いていない。
(まあ、【三日月】は牽制攻撃みたいなモンだからなっ)
本命の攻撃は、次から。
遠距離攻撃が巨大甲虫の頑強装甲に弾かれている間に ──
── つまり、側面からの囮攻撃で気を引いている内に、シュバァン!と上空へ高速飛翔。
本日3回目の出番、【秘剣・速翼:参ノ太刀・水深】だ。
急上昇&急降下で、加速と体重の乗った刺突の不意打ち!
(首の隙間は、関節だから装甲が薄いハズ!
巨大カブトムシの黄金色甲殻の弱点を狙って、破壊する!!)
しかし、ガァン!と分厚い鋼鉄の扉でもブン殴ったような、音と手応え。
急降下からの全体重乗せ刺突突撃なのに、傷が入ったかどうかも怪しいくらい。
── しかし、ここまでは最初から予想済みだ。
「まだまだぁ! 追い撃ちの【禍ツ月】だぁ!」
『必殺技連撃』仕上げの3発目!
ゼロ距離破壊に特化した【秘剣・三日月:弐ノ太刀・禍ツ月】をブチ込み、即座に飛び退き。
ギュガガガガァ……!と穿孔攻撃が火花を散らし ──
── そのまま5~6秒後、効果時間切れで、虚しく消滅する。
俺の渾身の『必殺技連撃』を食らった中型魔物は、何事もなかったような無反応。
相変わらず、鋼糸の拘束でもがいていて、ジタバタジタバタ。
「── って、おい! 【禍ツ月】でも、なんともねーのかよ!?」
(わざわざ、針の穴を通すくらいの超・精密コントロールで、黄金色甲殻の隙間を狙ったのにぃ!?)
いくらなんでも、ちょっとショックだ。
小さな穴くらい開くだろう、とタカをくくっていたんだが……。
「ウッソだろう、お前ぇ!
今の確定コンボ、ぜんぜん効いてねーのかよぉ!!
『巨人の箱庭』の巨大魔物と同類かよ、コイツ!?」
(違反行為やめてください、運営に通報しますよっ!
この常時の無敵装甲ってツール使ってますよねぇ!?)
そんな現実の理不尽っぷりに、文句を言っていると、
「── コォーーー! フォォーーー!!」
路線バスくらいの虫型魔物の向こう側から、特徴的な呼吸音。
同時に、魔力センサー魔法【序の四段目:風鈴眼】で、デタラメな魔力の集中を感知。
「── 例の切り札か!?」
俺は言葉半ばで、オリジナル魔法を自力詠唱。
最速飛翔の【秘剣・速翼:四ノ太刀・夜鳥】で、空中へ退避。
あの骸骨頭のオリジナル魔法剣『黒剣』とかいうヤツが、即座に炸裂。
── ズドォォオン!と雷が2~3本まとめて落ちたみたいな、すさまじい爆音と、黒い閃光が瞬いた。
▲ ▽ ▲ ▽
俺は、飛翔魔法の効果を緩めて、ヒュルルル……ッと着地しながらグチっぽく独り言。
「おいおい、ちょっと早すぎじゃないか……?」
『骸骨被り』の切り札・破滅の魔法剣『黒剣』は、ギリギリまで使わない ──
── 直前の打ち合わせでは、そんな手はずになっていた。
なにせあの、紫色の魔力を濃縮した魔法剣は、『人食いの怪物』#1が受けた『呪いの一部』らしい。
触れた物は錬金金属だろうが何でも破壊し、腐りかけた木材みたいに、ボロボロになるらしい。
そんな、ムチャクチャな攻撃だ。
そんなモノを考え無しにポンポン撃つと、せっかく巻き付けた『鋼糸拘束罠』が消滅してしまう。
動きを封じている内に、あの無敵装甲をなんとか削り、勝機を作るという計画が台無しになってしまう。
「……これで『成果なし』だったら、『骸骨被り』ブン殴るぞ?」
恐る恐ると、木々の間を抜けて砂煙の方に近づいていく。
── ギギイィィッ! ガシャーン! とか、なんか前世ニッポンの交通事故みたいな、異様な破壊音。
慌ててサッサッと避けると、砂煙のカーテンを突き破ってくる、何か。
鈍色の人間大のモノが、グルグル回りながら飛んでくる。
「……コォー……」
「………………」
ドガンドガン!と地面でバウンドして、森の緑の中に消えていく。
その瞬間、動物のガイコツの奥の、巨漢の青い瞳と、目があった気がした。
(……ぅ、うん!
どうやら無事みたいですねっ
── あんなブッ飛ばし方されてゼンゼン焦ってねーとか、アイツ本当に人間か、オイッ!?)
即席の『相棒』のピンチ ──
── ではなく、その不死身っぷりに、冷や汗が出ちゃう。
(だいたい、アレだ、アイツ。
なんで『触れた物は何でもボロボロにする』紫色の魔力に、全身を侵されながら、まだ死んでねーんだよ、テメー!?
── って、逸脱ったヤローだしなぁ……)
徐々に俺も、あの無敵怪人の扱いが解ってきた。
心配とか気遣いとか、時間と精神のムダだ。
今はとにかく、『瘴竜圏の門番』退治だ。
── 少し砂煙が収まってくると、巨大カブトムシが狂ったようにグルグル回る姿が見えてくる。
ベキベキ! ボキボキ! バキバキ!……と破壊音が鳴り続けている。
黄金色3本角を振り回すたびに、周囲の樹木が発泡スチロールみたいに粉砕されてた。
「こんな攻撃くらって、よく死んでねーな、アイツ……」
つくづく非常識な『相棒』に、感心半分、呆れ半分。
さらに、巨大カブトムシの黄金色が、背中の半分は欠けている。
つまり、薄翅を収納する甲殻の羽根が、左側の片方は砕けていた。
「アイツ、一応やる事やったのか……っ
クソ、俺も気合い入れねーと!」
とは言っても、『自慢の甲殻が破壊されてビックリ、発狂&激怒状態』な巨大カブトムシ。
案の定、鋼糸拘束罠が消し飛んでいるし。
その上、荒れ狂って暴れすぎで、とても近づける状況じゃない。
(ならば、遠距離攻撃!
それもタメの要る、とっておき!)
事前の作戦会議で
『動きを封じる鋼糸拘束罠が傷ついたら困る』
とか言われて、さっきまでは使えなかった開発中の必殺技を使ってみる。
「くらえ、【試作版:八重裂・劣】っ」
ィィィィイイイ……ィン!と高速モーター音みたいな異音をまき散らす、青い魔力で魔法自力発動!
拳闘術で言えばアッパーカット系の動きで、模造剣を下から上へ振り抜く。
さらに、勢いのまま背後に回して、1回転の軌道。
その満月の形に、過負荷の【序の一段目:裂き】が形成され、回転丸ノコみたいな直径1.5mの魔力刃が飛んでいく。
秒速1mくらいの、ゆっくりした速度で。
── やがて、あの『六本脚トカゲ』を斬るための、三日月の『四』。
この『満月刃』は、その遙か遠い夢想を現実にするための、試行錯誤の一つだ。
ギャリギャリギャリリリィ……!と、黄金色の甲殻にぶつかり、火花を散らせる。
巨大な虫型魔物の無敵装甲を、回転丸ノコを巨大化させたような『青い満月刃』が削り始めた。
▲ ▽ ▲ ▽
巨大魔法の縮小版、【試作版:八重裂・劣】。
青い魔力の回転コノ刃が、一番頑強そうな3本角の一つを削り始めた。
思いがけず、会心の戦果だ。
「うおっ やったか!?」
そんな幸運のあまり、うっかり縁起悪を口走っちゃう。
すると、『ゴォーン!』と魔物特有の魔法起動音。
同時に、ボォンッ!と巨大カブトムシを中心に、紅蓮の小爆発。
その爆圧で、魔力で作った刃という極めてモロい『青い満月刃』は、木っ端微塵。
「おい、自爆攻撃で防御すんのかよっ!?
ムチャクチャだろっ!」
巨大甲虫の無敵装甲に、絶対の自信がないと出来ない、デタラメな防御方法だった。
その爆圧で飛んでくる小石から頭部を守りながら、警戒の態勢。
── ボヴヴヴヴゥ……!と黄金色カブトムシが、浮き上がる。
上空の遙か彼方へと、退避しようとする。
しかし、自爆のダメージがあったのか。
あるいは、それとも俺の魔法&さっきの自爆で3本角のうち1本が完全に折れたせいで、バランスを崩したのか。
空中姿勢がフラフラしていて、上昇速度もかなり遅い。
つまり、追撃の好機だ!
「逃がすかぁ!
【秘剣・木枯:参ノ太刀・星風】っ」
台風だか、軍用ヘリの回転翼だか、という強風に逆らい、敵の下に潜り込む。
── あ、この【星風】ってアレね。
技コマンド: →↘↓↙←+ [P] の乱舞系コマンド投げ。
回転斬り2回の後にジャンプアッパー系の斬撃、空中トンボ返りで離脱する必殺技。
最初の2連撃は、脚部装甲に弾かれたが、本命の昇空斬は、巨大虫型魔物の弱点に直撃。
甲殻の薄い腹部を斬り裂き、黄色い体液を飛沫かせた。
「よかった、底薄だ!
腹には効いたぞ!
コイツ、『巨人の箱庭』の巨大魔物ほどもねーぞ!
── ハハッ、ザコお疲れ」
ようやくの、有効打。
思わずテンションが上がり、軽口が出ちゃう。
すると、ようやく駆け寄ってくる足音と共に、
『── なんかあの子……“巨人の箱庭”、“巨人の箱庭”って、さっきから言ってない?』
『そう言えば、剣帝流の修行場は、帝国有数の危険地帯<ラピス山地>でしたね……まさか、その奥地へも』
『それではぁ、勇士様が怖れ知らずな理由はぁ、現世の地獄に立ち入った経験があるからぁ~?』
『未強化の剣士が、現世の地獄“巨人の箱庭”に挑む……? もはや無謀なんて言葉すら生温いぞ?』
『あらあらぁ、まぁ~~なんて事なのぉっ やはりこの方こそがわたくしのぉ……っ』
『いやいや、姫って! そんなワケないでしょ!?』
『ホントだよ、オイラと大して変わらない年のヤツがさぁ……まさか、ハハッ、そ、そんなワケ……』
角付き鉄兜の冒険者PTさん達の、ちょっと呆れたような、ぼやき声も聞こえてきた。
すると、空中逃避している黄金色カブトムシの上昇が止まる。
ボヴヴゥ ── ビビッ……! ビビビビィ……!と薄翅の羽ばたき音が、まるで鉄弦を弾くような甲高い騒音に変わった。
上空15mくらいに張られた鋼糸網が、虫型魔物の逃亡をジャマしている。
(── そう、俺の『鋼糸使い』技能の設置罠だ!(粘着笑顔)
上空に逃げられたら手に負えないから、さっき着地地点に駆け寄りながら、目視しにくい細い鉄弦の網を設置しておいたワケ!!)
得意面が止まらない!
「くたばれぇ、軍用ヘリもどきぃ!
【秘剣・三日月】! 【秘剣・三日月】! 【秘剣・三日月】! 【秘剣・三日月】! 【秘剣・三日月】! 【秘剣・三日月】ぃ~!」
逃走飛行を封じられた巨大カブトムシに、下から遠距離攻撃の追撃!
見よ、この『超天才児方式』の両刃装填の【断ち】の回転率!
右手5指と、左手の人差し指の6発分。
待機状態の<法輪>が、即行で全消費だ。
ドシャッドシャッドシャッ……!と底薄な腹部甲殻を斬り裂く。
ボタボタと黄色い体液が降ってくるので、飛び退く。
(魔物の体液だし!
万が一、猛毒とか強酸とか、有害成分が含まれてたら怖いのでっ!)
▲ ▽ ▲ ▽
『うわぁー、マジでウチの#1並に理不尽だ……』
『なんかもう……アイツ1人でよくない……?』
遠くで誰かの、投げやりな声が聞こえた気がする。
(── おい、やめろ!
こんな凶悪な魔物の前に、『未強化』の魔剣士以外がひとり取り残されてるとか、自殺行為なんだからなっ)
そもそも、あんな不死身野郎と一緒にされたくはない。
── ギギ……ッ、ギィ……ッと魔物が歯ぎしりみたいな鳴き声。
不吉な音に、内心は冷や汗がダラダラ。
正直、いつ魔法攻撃を使われるか、気が気じゃ無い。
さっきの小爆発くらいならまだしも、コイツの『爆弾』とかトンデモない威力だろうし。
テンションの高さで恐怖を誤魔化してたのが、そろそろ表情に出そうになる。
(だいたい俺とか、高威力魔法を使われたら、一発即死なナマクラ剣士なのですよ?
過剰な期待はノーセンキュー。
── だからお願い、早く援護に来てぇ~~っ!)
そんな弱音を必死に押し隠し、
『ふん、人間に仇なす魔物め……っ(キリッ!)』
と剣術の達人なイメージ顔で、巨大カブトムシを睨み付ける。
── ギィ……ッ、ギギ……ッ ギギギ! と魔物が怒りっぽい声を連発。
俺の【秘剣・三日月】の範囲から逃れたいんだろう。
巨大甲虫は、薄翅を羽ばたかせる。
だけど、ビビビビィ……!と鉄弦の天蓋網にジャマされるだけ。
そんな無理を続けると、ついに薄翅が傷つき、欠片が木の葉のように舞い散り始めた。
「いやぁ~、トンでもないよ、アンタ」
「このままぁ、勇士様1人で倒してしまいそうな勢いでしたねぇ~」
ようやく後方支援の連中が駆けつけた。
ほっと、ひと息。
「我々も戦果をかせがなければなっ」
「ええ、『強襲討伐』を提案した責任もありますしっ」
「元AA級の『人食いの怪物』、ナメんじゃないわよ!」
<中導杖>や<長導杖>などを構える。
全員が、アウンの呼吸で、一斉に攻撃用<魔導具>のスイッチを押す。
五つの『カン!』という機巧起動音が重なる。
そして、灼熱の赤い槍が5本、ズオォンッ!と一斉に放たれた。
!作者注釈!
なんか文章スカスカだったのでチョワー!と足したら、500文字くらい増えた。
ふしぎ!




