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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 7.5:特設ステージ(ボス戦)

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163/238

163:種族争い

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




他の魔物(とりまき)の退治は、生徒さん3人とA級冒険者たちに40~50人に(まか)せた。

俺たち、残り7人を乗せた荷車だけは、ひたすら進む。



── 徐々に近づいてくる、<瘴竜圏>(ドラゴンフォール)とかいう腐肉の山。


そして、その周辺には、さっき道中で見た木造見張り塔と、同じくらい高い菌糸塊(キノコ)が10本くらい立っている。



念のため、荷車の屋根上(ルーフ)で見張りしているシカ角兜(ナンバースリー)に、『目標の(ハンティング・)魔物』(ターゲット)を再確認。



「『門番』とかいう攻略の邪魔になっている魔物。

 たしか、『農耕種(ファーマー)』とかいう種類だったよな?」


「ああ、極めて大きな虫型魔物だな。

 他の虫型魔物の親玉でもある」


「親玉?」



── 不意に、ガウガウッと魔物の声。

見れば、小柄な<跳岳大狗>(ワイルド・ファング)が木々の合間を跳びはねている。


『負け犬』にしては肉付きがいいので、おそらく幼獣(コドモ)なんだろう。

(くち)うるさい成獣(オトナ)たちが居なくなったせいで、悪戯(イタズラ)(ごころ)がムクムク起き上がったのか。

人間達(コッチ)には見向きもせずに、見張り塔なみの巨大キノコへとハッハッ!と猛ダッシュ。


『ゴォ-ン!』と大鐘のような魔物の魔法起動音。

タケノコ型の土砂魔法の槍を5本くらい()やすと、それを足場代わりに大ジャンプ。



── すると、ブヴヴヴヴゥゥ……!と虫型魔物が20~30匹で、迎え撃つ。

高層キノコから飛び出し、()けた羽根を震わせ、空中で密集隊形を取る。


さらに『キィィィィイイイイ……ッ、……──』と早くも自爆攻撃の構え。

自分たちよりはるかに巨体の襲撃者(マモノ)に対して、最大級の攻撃である『集団自爆戦法』を躊躇(ちゅうちょ)なく選択したワケだ。



── だが、一蹴だった。


体格差を前世ニッポン風に例えるなら、『2階建てバスが小型2輪(原チャリ)集団に追突(ツっこむ)』という感じ。


ドガン!と一発で壊滅打撃。


虫型魔物の群れは、7割が『()かれ』て弾け飛ばされ、自爆を中断。

2割は、敵を見失ったまま無意味に空中自爆。


残り1割強 ── 3~4匹が顔の周囲を飛び回り攻撃しているが、2度3度ガウ!ガウ!と噛みつきをすると、半身(つぶ)れて体液をまき散らしながら呑み込まれる。



「うわぁ……」

「フム、幼獣とはいえ、やはり大型魔物だな」



まさに弱肉強食。

自然の摂理(せつり)



(そりゃあそうだよな。

 『小型魔物』の虫型(ムシ)とか、体重10~20kg(キロ)がせいぜい。

 『大型魔物』なんて、数(トン)は軽くあるからな。

 その体重差だけ考えても、100匹200匹集まっても、相手になるかどうか……)



なんか『ガンバっても童話魚群(スイミー)にはなれませんでしたッ!』みたいな(むな)しさMAX(マックス)な光景に、ちょっとため息。


虫型魔物(ザコども)を無双で蹴散らし、ルンルン♪な<跳岳大狗(ワンちゃん)>。

体高3~4mの巨体で、高さ20m超の巨塔(タワー)キノコを壊しにかかる。


見た目は、飼い犬がご主人によくやる『構ってぇ~』という二足(にそく)()ちの、前脚ベシベシ攻撃だ。



「さすがに全長10m(・・・・・)くらいの巨体だと、迫力と威力が桁違(けたちが)いだな……」



思わず感心の声が出ちゃう。

体高3~4mでも、二足(にそく)()ちになると、2.5倍くらいの高さに前脚()が届く。

前世ニッポンでいえば、大型重機での工事作業みたいな光景。


やがて、巨大キノコは半分折れて、上部のカサが落下。

ズドォォ……ン!と砂煙(すなけむり)を巻き上げる。


菌糸(キノコ)構造物(タワー)は、大型魔物の爪と牙の威力で、まるで軟樹皮(コルク)(かたまり)みたいにボロボロ崩壊していく。


飼い犬が、木の棒かじる(・・・)みたいに。

あるいは、飼い猫が、柱で爪とぎ(・・・)するみたいに。


夢中になって、巨塔(タワー)キノコをバリバリ崩していた、幼獣(コドモ)<跳岳大狗>(ワイルド・ファング)に ──

 ── ヒュゥゥン……ドガァァンッ!!と、ミサイル直撃みたいな超・轟音(ごうおん)


『ギャィィンッ!?』と一撃必殺!



「── ……はぁっ!?」





── ででっでっでっでっ・でぇ~ん!

── ちょう(Here )せんし(Comes )ゃ  あ(A New )らわるっ(Challenger)!?





体高3~4mの大型魔物(ワンちゃん)の胴体に、ズドン!と大穴が空く。

さらに、千切(ちぎ)れた上半身(?)と下半身(?)が別々に飛んでいく。


その向こうで、ボキボキボキィ~~!と森の樹木を()(たお)して砂煙(すなけむり)を上げている、謎の巨影があった。





▲ ▽ ▲ ▽



「── ……い、今のは?」


勇士(ゆうし)様にご成敗(せいばい)いただく難敵(なんてき)ぃ、『瘴竜圏(ドラゴンフォール)の門番』ですわぁ~」



お胸ステキ系のホンワカ美人さん(ナンバーファイブ)が、キラキラ目で言ってくる。

だが、俺から出るのは、冷や汗だけ。


呆然と見ていると、ミサイルみたいな強襲かました巨影が、ブォオオ……ンッ!と戦闘ヘリみたいな爆音を立てて飛んでくる。


さっき、俺が自爆を誘導して退治した虫型魔物とは、10倍くらい体格が違う。

中型魔物(・・・・)なみの虫型魔物。

前世ニッポンで例えるなら、路線バスくらいのデカさ。



── 黄金色のつややかボディに赤いラインが走る、3本角のカブトムシ。

さらに、胴体の側面には、水晶柱(クリスタル)みたいな突起が生えている。



(つまり、コイツも『爆弾魔(ボマー)』の虫型魔物なのかよ……っ)



そんな黄金色の巨大甲虫(カブトムシ)が3本角を動かせば、<跳岳大狗>(ワイルド・ファング)の半分になった死骸(しがい)が、ポーンッと()ねた。


そして、ゴロゴロ転がっていく。

紫色の腐肉の山へと。



「………………」



なんか前世ニッポンで読んだ、

『もしも昆虫が人間なみの大きさだったら、地上最強の生物なんじゃゾイ!』

とかいう、昆虫図鑑の豆知識コーナーを思い出す。


それが『大型トラックか路線バスか』って巨体(サイズ)なんだから ── お察しください(いわずもがな)



絶句している俺に、シカ角兜(ナンバースリー)が説明してくる。



「ああやって、近づいてくる中型・大型魔物を粉砕(ふんさい)し、その死骸を<瘴竜圏>(ドラゴンフォール)へ集めている。

 腐肉の山が尽きないように、補給している(よう)だな」


「何のために?」


「おそらく、菌糸が栄養素を吸い上げて、あの巨大キノコを生育させるため。

 それ(・・)から(したた)甘露(ミツ)が、虫型魔物たちの食糧(かで)となっている(よう)だな」


「昼飯の時に言ってた『本来は半年で()ちるハズが、長期間()っている理由』ってのは?」


「あの虫型魔物の『補給作業』が、原因のようだな」



長身細身の中年男(ナンバースリー)が、重い声で応えた。


そこに、隣で聞いていたホンワカ美人(ナンバーファイブ)が口を挟んでくる。



「ところで、勇士様ぁ~。

 お師匠様 ── いえ、『#3』(ナンバースリー)が焦っているのにはぁ、別の要因もあるのですよぉ~」


「焦ってる?」


「ええ、つい先週ぅ、見張り台の方々が『メス』の飛来を確認しましたぁ~。

 つまりは、このまま放っておくと、産卵して繁殖しますぅ~」


「ゲェッ!?」



あんなミサイル攻撃みたいな魔物(ヤツ)がワンサカ増えるとか、さすがは異世界(クソせかい)

マジ地獄すぎんだろ!



「── フゥ……、メスの産卵に、幼虫(コドモ)の育成。

 現状の成虫(オトナ)のオス1匹の時とは、比べ物にならない食糧(エネルギー)が必要になるだろうな」


「被害地域がどこまで拡大するかぁ、冒険者ギルドの専門家もぉ、見当もつかないみたいですよぉ~」



魔法使いの師弟らしい、シカ角兜(ナンバースリー)ホンワカ美人さん(ナンバーファイブ)が、交互に説明してくる。



「幸い、当初は『爆弾魔(ボマー)』の獣型魔物が、<瘴竜圏>(ドラゴンフォール)を縄張りとして、陣取っていた。

 そのせいで、『門番』の営巣と『農耕(ファーム)』が上手くいってなかった様だ」


竜種(ドラゴン)死肉(しにく)というぅ、極上の食糧(しょくりょう)を独占したい肉食の獣型魔物ぉ~。

 そして、竜種(ドラゴン)腐肉(ふにく)肥料(ひりょう)としてぇ、作物(キノコ)を育てたい草食性の虫型魔物ぉ~。

 つまりぃ~、魔物同士でぇ、『土地と資源(しげん)』の奪い合いを演じていた訳ですねぇ~」


「『門番』が単独の時は、な。

 その配下 ── ああ、さっきの見張り番をしている小型の虫型魔物だが ── それが加わった事が趨勢(すうせい)を決した。

 今では『虫型魔物が種族を越えて協力し合い、エサ場を独占』という状況だな」


「たしかに<跳岳大狗>(ワイルド・ファング)はぁ、大型魔物の中でも下位で、脅威力3ですぅ~。

 しかしぃ、中型魔物(・・・・)なのに(・・・)体格差のある大型魔物の群れを駆逐(くちく)するようなぁ、とっても危険な魔物が住み着いてしまっているぅ~。

 そういう危険性をぉ、何度も説明しているんですけどぉ~」


「騎士の連中は『たかだか、虫型魔物なんて ──』と甘く見て、まるで話を聞かない(よう)だからな。

 下手(へた)()つと、<副都>周辺が全て『門番』の『キノコ農場』に変えられてしまう危機的状況というのに……っ」



魔法使い2人の説明を聞けば聞くほど、頭痛がしてくる。



「う、うぉ……っ」



(そりゃあ、昼飯の時、みんな<副都>上層部の文句ばっかり言うはずだ……)



そう納得できる、ヤベー状況になっているっぽかった。





▲ ▽ ▲ ▽



それから戦闘開始まで、約30分。


クールタイムだ。

人間(オレたち)が、ひと息入れて落ち着くワケじゃない。

甲虫魔物(カブトムシ)が、ひと息入れて落ち着くまでの時間。



── つまりは、戦闘直後の興奮状態を避け、時間をおいての不意打ちだ。



ズダダダァ……ァァン!と、設置罠(トラップ)の炸裂音が連続する。

次に、ベキベキベキィ~……!と、爆破魔法に破壊され、砕けて傾く音。

ドオオォォ~~……ォォン!!と、菌糸巨塔(キノコ・タワー)の細い1本が倒れて粉砕。


鳥の鳴き声も、獣の呻りも、全て塗りつぶす大爆音。

巨大キノコに張り付き、甘露(ミツ)をすっていた中型の虫型魔物も、慌てて飛び出した。



「来た! 充分に引きつけてからだっ」



ボヴヴヴゥ……!と、前世世界の軍用ヘリみたいなホバリング音。

赤いラインの入った黄金色ボディの飛行魔物が、威嚇するような蛇行飛行(?)で、周囲を見回る。



── きっと、黄金色の三本角カブトムシは、大事な農作物(キノコ)を破壊され、怒り心頭だったのだろう。

注意散漫だ。


ビンッ、ビビビンッと、空中で(うす)ハネを何かに引っ掛け、飛行を鈍らせる。

まるで空中で、『クモの巣』にからまりかけた、みたいな感じ。



俺が『鋼糸(いと)使い』技能(スキル)でしかけた、鉄弦(てつげん)

飛行魔物の動きを鈍らせる『設置罠(かすみあみ)』であり、射撃距離(ゼロ・イン)(はか)るための『集中法撃開始』の目印だ。



「今だ、一斉法撃ぃ~!!」



シカ角兜(ナンバースリー)の掛け声で、横付けした大型荷車(ワゴン)屋根上(ルーフ)の連中が、<中導杖(ロッド)>や<長導杖(スタッフ)>を両手持ちで構えた。

AA級(ダブルエース)冒険者『人食いの怪物(マンイーター)』が、一斉に杖型<魔導具>(マジックアイテム)を起動。



『カン!』『カン!』『カン!』『カン!』……

 ズオォンッ! ズオォンッ! ズオォンッ! ズオォンッ!……



黄金色カブトムシの巨体に向けて、赤いミサイルみたいな攻撃魔法が集中する。



「火炎魔法……じゃなくて、複合属性?

 火と土の上級魔法かな……?」



今世ではちょっと魔法術式マニアになりつつある俺は、術式の構文を読み解いてみる。



「ちょっとぉっ、【赤熔擲槍】(ガラス・ジャベリン)がまるで効いてないわよっ」

「中型サイズの虫型魔物がここまで頑強とはっ!」

「上級攻撃魔法がまるで効かないなんてぇ、<終末の竜騎兵(ドラグーン)>みたいですわねぇ~!」

「チッキショ~~! A級の戦団(パーティ)2組(ふたつ)まとめてミンチって、こういう事かよぉ~~っ」



魔法の集中砲火をしているPT(パーティ)人食いの怪物(マンイーター)』の皆さん、涙目。



「そろそろだ! 頼むぞ、少年!」


「あいあいっ」



── ちょっと(・・・・)離れた(・・・)大型荷車(ワゴン)屋根上(ルーフ)から、そんな声が飛んできたので、片手を()げて『了解』の合図。


すると、すぐさま黄金色の巨大カブトムシが、『ゴォーン!』と魔物特有の魔法起動音。

ヒィィィィ……ン!と、ジェットエンジンみたいな爆音が、昼の青空に響き始めた。



魔力センサー【序の四段目:風鈴眼】で、始動の瞬間を見極める ──

 ── 急加速突撃(ロケットスタート)の瞬間を!



「── 今っ!」



瞬間的に、手の中の巻き軸(スプール)に仕掛けた改造魔法を、自力詠唱(『チリン!』)


鋼糸(いと)を高速で巻き取れば、『カツオの一本釣(いっぽんづ)り』みたいに人間2人が飛んできたので、腰を抱くようにキャッチ。


それとほぼ同時に、ヒュゥゥン……ドガァァンッ!!と、大型荷車(ワゴン)()()微塵(みじん)



「勇士様ぁ、わたくし怖かったですぅ~っ」


「アンタ、本当にギリギリまで粘りすぎだよっ!

 オイラの鎧、ちょっとかすり(・・・)かけたぞ!」



なんか、やたらくっついてくる女性(ヒト)と、やたら()みついてくる少年(ヤツ)



「うるせぇな……っ!

 仕事前に(・・・・)ジャマすんなっ」



俺は、後方支援の2人を放り出して、すぐに移動を開始。

既に張り巡らせていた鋼糸(ワイヤー)金具(フック)をかけて、シャァー……ッと空中移動だ。


ジップライン?っていうの、こういう鋼糸(ワイヤー)を使った移動方法。

今回みたいに移動先が(・・・・)あからじめ(・・・・・)決まって(・・・・)いる(・・)なら、最適手段(ベスト)だ。


戦闘直前に、【身体強化】の疾走(ダッシュ)で200~300mも移動してたら、ムダに魔力と体力を使うだけ。

この鋼糸移動(ジップライン)なら、落ちないようにバランスを気をつけるだけなので、接近する敵の様子をじっくり観察する余裕すらある。



(── マジで『鋼糸(いと)使い』が万能支援役な件について!)



反対側を見れば、同じく鋼糸(ワイヤー)金具(フック)をかけて、終着点(ポイント)に直行する超重装甲の怪人(ナンバーワン)


その向こうに、AA級(ダブルエース)冒険者PT(パーティ)人食いの怪物(マンイーター)』の残り3人の無事な姿。

魔剣士でもないのに怪力超人な理不尽ヤローは、こっちと同じように鋼糸(ワイヤー)を命綱にしたPT仲間(パーティメンバー)を、綱引きの要領で回収できたらしい。



(アイツ、やっぱり人間じゃねーな……っ)



── 今のところ、ほぼ作戦通りの展開。

後方支援5人の命がけの誘導で、『門番(テキ)』が罠に(・・)かかった(・・・・)


後は、(ロック)と『骸骨被り(スカルヘルム)』。

前衛2人組の仕事である。



「コォー……、フォー……!」


「おう、やるかっ」



グッと親指立ててくる即席の相棒に、親指立ての左拳を向けた。





▲ ▽ ▲ ▽



『── チィッ、早くも動き始めたかっ』



うなる風の合間に、そんな焦った声が聞こえた。



同輩(トモ)と少年の到着まで、時間をかせぐ!』



チラリと後方を確認。

【身体強化】の魔法陣を背負い、木々の合間を跳びはねる、シカみたいな細長い体格が見えた。


長身細身のシカ角兜(ナンバースリー)は、大破した大型貨物(ワゴン)の残骸に駆け寄り、<長導杖(ワンド)>を突き立てる。

もう片手には、いくつもの魔法術式の木製リング ── <刻印廻環(ループ・リング)>だ。


熟練の職人みたいな、とんでもない早業で<刻印廻環(ループ・リング)>を交換し、すぐに魔法を起動。


『カン!』という魔法の機巧起動音。

バリバリバリィ……!と、稲妻が地面を走った。

樹木を()ぎ倒して森の奥に埋まり込んだ体勢の、巨大カブトムシへと。


200~300mとか、本来は魔法攻撃が届かない距離だ。

だが、鋼糸(ワイヤー)通電する(・・・・)事で(・・)、遠くの敵にも中級魔法の電撃が炸裂する!



『お師匠さまぁ、お手伝いしますぅ~』

『よし、では交互に! 3・2・1、今!』



バリバリバリィ……! バリバリバリィ……!と、連続して雷撃が地面の鋼糸(ワイヤー)を伝う。



そう、AA級(ダブルエース)冒険者PT(パーティ)人食いの怪物(マンイーター)』が乗っていた大型貨物(ワゴン)の積み荷は、鋼糸捕縛罠(ワイヤートラップ)


あの甲虫魔物(カブトムシ)が、上級魔法でもへっちゃらな頑強な装甲にモノ言わして、大型貨物(ワゴン)を突進・破壊するならば、その荷台の中に『廃材と鋼糸(ワイヤー)を詰め込んでおいて(から)みつかよう』って作戦。


それが見事成功して、超高速突進した巨大カブトムシは、今やガンジ(がら)め。

200~300m先で、倒木の山に半分埋まった体勢のまま、巻き付いた鋼糸(ワイヤー)にのせいで羽根も脚もロクに動かせず、無意味にジタバタしているだけ。



『ギギ……ッ、ギギ、ギィ……ッ』



それは、ムシの苦痛の声だったのか。

あるいは、苦し紛れに動く事で、捕縛している鋼糸(ワイヤー)(きし)む音だったのか。


どちらにせよ、高圧電流攻撃に苦しんでいるのは間違いない。



「コォー……、フォー……!」



重量差が速度に影響したのか、『骸骨被り(スカルヘルム)』が数秒早く到着。


すぐさま背中の超大剣(推定重量15~16kg! 普通の剣の8倍!?)を肩に担ぎ、高速ダッシュで切迫(せっぱく)


その渾身の撃剣は、ブワァンッ!と空気が破裂するような音すら響かせる。



巨大カブトムシの無防備な背後を目がけ、振り下ろされる超大剣が ──

 ── 逆に、ズドォン!とはね飛ばされた!?



ヒュ~ン、ゴロゴロゴロォ……ッと、超重量装甲を着込んだ怪人が、まるで前世ニッポンの『クルマの衝突実験のダミー人形』みたいな吹っ飛び方をする。


体重120kg以上 + 装備重量100kg以上 ──

 ── 合計で0.2(トン)超 とか、前世ニッポンのスモーの横綱(チャンプ)くらい超重量(スーパーヘビー)級な怪人(バケモン)が!?



「お、おい……おいおい……おいおいおいっ」



遠目で一瞬見えたのは、青白い炎の放出。

おそらく、黄金色の巨大カブトムシが突進用に使っている、あのジェット噴射。


それを、背後から強襲する人間相手に、迎撃に使ったのだろう。



(そんなモンを食らったら、人間とか跡形もねーだろっ!?

 俺が先に突撃しなくてよかったぁ~~~!

 ── つーか、アイツ、直撃くらってたけど大丈夫か……?)



冷や汗ダラダラで、大の字にノビてる即席の相棒に駆け寄る。



「お、おい……

 その、い、生きてるか? 『骸骨被り(スカルヘルム)』……」



途方(とほう)()れる気分で、一応、声をかける。



「コォー……、フォー……!」



いつもの呼吸音で、何事もなかったように飛び起きてくる!?



「おい、ピンピンしてんのかよ!?

 さっきのアレくらって!

 お前、ムチャクチャだなぁ!!」


「コォー……、フォ~~……ッ」



首をコキコキ。

肩をグルグル。


イヤー……、ちょっと肩と首とか痛めたかな~? イテテ……ッ

みたいな身振り(ジェスチャー)してくる、無敵怪人(ヘンタイ)



「………………なんか。

 お前を盾にできるなら、俺どんな魔物相手でも平気な気がしてきた……」




── 妹弟子(リアちゃん)へ。


士官学校の女子寮で、ちゃんと風邪(かぜ)静養(せいよう)してますか?

(ねつ)が出てるからって、お布団(ふとん)蹴散らしてお(なか)冷やしてないですか?


いま兄弟子(にいちゃん)な、気晴らしくらいの軽い気持ちで、<副都>まで魔物退治に来てるんだが。


思った以上にトンデモない場所で、なんかトンデモない魔物の相手を押しつけられ、トンデモないヤツと2人組(ペア)くまされてるんだ……。


なんかもう、はやく平和で退屈な<帝都>に帰りたい気分です。


たすけて ──



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