161:チュートリアルは大事
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
今日の午後から、『爆弾持ち』とかいう特殊な魔物退治の予定。
なので、生徒さんに念入りに指導をしているワケだが ──
「── ……あ、あの~、少年?
さすがに、ちょっと無理があるのでは……?」
引きつった顔で、メガネ青年が何か言ってくる。
「いやいや、この程度の慣らしくらい、やっておかないと。
逆に、危なっかしくて連れて行けないだろう?」
「………………いや。
しかし、これでは実戦の前に大怪我しませんか?」
メガネが指す方を見ると、半泣きで魔法連射している赤毛少女。
『うわぁ! ああぁぁ! ロックのバッカヤロォォォ~~~!』
『ちょっと年下先輩! まだ盾が! 俺がまだ、魔物につかまってるんですがっ!?』
ちょっとドガン!ドガン!連射しすぎで、火炎魔法の爆発に士官学生男子が巻き込まれかけている。
呆れてため息。
『うわぁ、熱い! 熱い熱いぃ~~!』
『あんな非常識なヤツにノコノコついてきた、ワタシがバカだったぁぁ!』
ほぼほぼ『上司の悪口叫びながら、バッティングセンターやってる人』な状況。
あ、前世ニッポン風に言うと、って事だが。
ストレス発散の雑撃ちのせいで、命中率は半々くらいだが。
「おお、元気元気!
── 『元気があればァ、何でも出来るゥ!』ってヤツだな!」
指導役としては、その『気持ち』の入り方に、感心カンシン。
つまり『いつ何時、誰の挑戦でも受けるッ!』って気合い十分の構えかな?
どうですかァー!?(ボンバヘッ)
「ええぇ……っ、感想それだけかよ?」
「うわ~、この子、ヤバイ子だわ……」
「……なるほど。 我が同胞に平然と斬りかかる訳か」
角付き鉄兜の他の連中にも、なんか白目でみられちゃう。
多分、ウチの生徒さん3人がワーワーギャーギャー、いつまでも魔物と遊んでいるせいなんだが。
「これだけデカい魔物は初めてで、ビックリしてんのか……?
昨日の<土鬼>ちゃんとは、普通にやりあってたのに……?」
── 昨日の<土鬼>、身長3m弱。
── この小柄な<跳岳大狗>、体高3m強。
ほら、な。
だいたい同じ。
(なら問題ないな。
── ヨシッ!)
危険作業の指さし確認、完了。
今日もご安全に!!
すると、いつの間にか横に来たメガネ青年に、ため息をつかれる。
「<巴環許し>になったばかりの若手魔剣士を、<土鬼>と戦わせる?
さらに、3人がかりで<跳岳大狗>……?
鬼ですか、貴方は……っ」
「………………」
(お前ら『人食いの怪物』とか、ガラの悪いPT名してるくせに。
やけに良識的というか、心配性というか……)
「まあ、大丈夫ダイジョーブ。
ジブン、(生徒さん達を充分に)鍛えてますからァッ!(キリッ)」
「……いや、貴方自身を基準にするのは、止めた方がいいですよ?」
いや、俺も生徒さん3人の話をしてるんだが、一応な。
── そんな話をしていると、ホンワカお姉さんも横に来る。
プルンプルンに豊かなお胸の前で両手を組んで、おねだりみたいなポーズ。
「配下の方の訓練も、そろそろ良いのではありませんかぁ~?
わたくし、貴方の勇姿をぉ、間近で拝見したいわぁ~」
「………………」
普通なら、おだてに乗ってホイホイ言う事を聞いちゃう俺だが(なにせ、相手はお胸がスゴい系女子!)。
しかし、今朝の『拠点:倉庫街』でやられた『テロ未遂な一件』がひっかかって、薄ら寒い気分。
(── このスゲー美人さんって、アレだよな。
出会い頭にブッ殺しにくるあたり、まさに『あの鉄塊男の娘!』って感じ……)
血は争えんなー、と微妙に納得。
▲ ▽ ▲ ▽
そんな感じで、10分ほど、ジタバタジタバタしている生徒さん3人をながめている。
『ぐわぁ! クソォっ、盾がまるで役にたたんっ』
『ウソウソウソぉ! コッチきたっ ── 年上後輩、パス!』
『ええぇっ、ちょ、ちょっと年下先輩~、背中押さないでよぉっ』
『うるさい、アンタも魔剣士なんでしょ! 立ち向かってよぉっ、役目でしょ!?』
『相棒! 相棒! 早くっ! わたしひとりじゃム~リ~!』
だが、ちょっとラチが明かない感じ。
(せっかく昼食後の運動として、コォーフォ-ッ銀河戦争もどき ──
── ミス、『骸骨被り』と一緒に、さっきの群れからハグレて生き残ってた『負け犬』を捕まえてきたのに……)
── あ、ちなみに『負け犬』というのは、魔物の群れによく居る最弱個体。
働きが悪い『戦力外』、群れの一員に認めてもらえない『残飯あさり』。
しかし、緊急時(強い魔物に襲われた時とか)には『生け贄』になるので、追い払われないで済んでるヤツ。
(── つまり、文字通りの『負け犬』なワケだ。
実際にデカいワンちゃんの群れだけに!(ひとり笑))
この『負け犬』ちゃん、体高5mほどが標準体型の<跳岳大狗>なのに、体高3mチョイしかないので、ほぼお子さま扱いなんだろう。
(肋骨浮いてて攻撃が軽いし、狩りもヘタだし。
そんなクソ雑魚魔物と、弱腰で闘わなくてもイイんじゃね?)
魔物退治に必須な『何が何でもブッ殺す』という気迫が足りなさすぎて、ちょっと頭抱えちゃう。
3人の尻を蹴っ飛ばしたくなるのを、必死にガマン。
「本当の本当に、手を出さなくて大丈夫なんですか……?」
「いや、大丈夫だろう?
うん、多分……」
メガネ青年に、くどいぐらい確認されて、ちょっと不安になりもするが。
すると、城壁の下から、赤毛少女がブンブン両手を振って自己主張。
『ロックぅ! ロックってばぁ! 絶対ムリじゃない、これぇ!』
「いやいや、メグって。
大丈夫だって、考えてみろって。
1年前に俺たち5人で始末した、あの<六脚轢亀>に比べたら全然ヨユー。
アイツとか、たいぶん脅威力5だぞ。
コイツとか脅威力3、1段どころか2段下だろ?」
『ロックのバッカヤローぉ! 全然なぐさめにもならないんだけどぉ~~!』
赤毛少女、涙目。
しかし、キャーキャー逃げながらも、なんとか『カン!』『カン!』魔法で支援。
そろそろ慣れてきたのか、狙いが安定してきた。
火炎魔法が8割程度はちゃんと命中している。
チョコマカ動き続けて、安全な位置まで逃げられている。
さらに、隙を見て魔法攻撃でズドン!ズドン!と魔物の巨体を揺らしているあたり、約1年前からは格段の進歩だ。
── おかげで、ついに魔物のスタミナが切れ始める!
魔物がジャンプ回避をしくじり、足を滑らせるダウン。
するとメグは、すぐに側面に回り込み、充分に距離をとって構える。
『この犬っコロぉ~~!
何回もガウガウ、ガウガウかじろうとしてくれたわねぇ~~!』
ドォン、ドォン、ドォン、ドォン……!
赤毛少女が、両手持ち<短導杖>で、下級の火炎魔法を連射。
前に本人が言ってた通りだ。
魔力操作の能力上昇は、どうやら<魔導具>を使用する時にも影響するっぽい。
命中率は95%くらい。
しかも一点集中ができている。
そのダウン時の連射攻撃が効いたのか、魔法をくらいながら起き上がる魔物の足取りは、フラつき気味。
── だから、とっさの噛みつき攻撃さえも、中途半端な勢い。
駆け寄る士官男子学生は、その隙を見逃さない。
『いつまでも! 貴様の好きにさせるかぁっ』
さっきから何度も<跳岳大狗>にかみつかれ、攻防の邪魔になってきた馬上盾くらいの小盾。
それを、魔物の大口に突っ込んで『つっかえ棒』代わりにする。
『このぉっ! 痩せ犬なんかに、力負けするもんかっ』
さらに、すぐに盾から左腕を抜き、背負い用の革帯を両手で持ち、体重をかける。
まるで、乗馬の手綱のようにグイグイ引っ張り、魔物の動きを制御。
『よ~し、相棒! そのまま、口をふさいでてっ』
女子生徒が、魔物の後脚をザシュ!と斬りつけた。
『ギャィィン!』
不意打ちの後脚への痛撃に、魔物が悲鳴をあげる。
▲ ▽ ▲ ▽
『いけるわ、相棒っ』
『ああ、このチャンスに追撃だ!』
魔物の巨体に圧倒されてた、士官学生コンビの動きが、ようやくマシになる。
回避を主とした動きで、隙を見て反撃。
盾の防御は、万が一の保険。
それが、俺がここ数ヶ月で叩き込んだ『対・大型魔物の立ち回り』。
士官学生2人とも流派の都合なのか、盾で受けてその隙に斬るという、小型魔物相手の戦法が染みついていた。
それでも上位の魔剣士になると、中型魔物を相手にしても力負けしないので、悪い戦法ではない。
ただ、大型魔物を相手にすると、10人以上で重装甲じゃないと、効果の無い戦法になってくる。
── ちなみに、この異世界の魔物の大別はこんな感じ。
人間より小さな体格は『小型魔物』で、脅威力1~2。
人間並から荷車大くらいまでが『中型魔物』で、脅威力2~3。
小屋とか納屋とか以上にデカいヤツが『大型魔物』で、脅威力3~4。
これより上に『超大型』とか『巨大型』とかあるらしいが、俺も基準がよく分からんので説明をはぶく。
それで『毒持ち』とか『飛行型』とか厄介な特性を持っていると、脅威力が『+1』される感じ。
あ、あと、金髪貴公子と一緒に討伐した『異常個体』みたいなヤツとかも。
── そんな事を考えている内に、アレよアレよと、魔物の四本の脚から出血が増えてくる。
動きの素早い魔物は、まずは脚をツブすという、常套手段。
敵が出血と痛みで、どんどん弱体化するので、どんどん有利になる。
2人とも、<跳岳大狗>の得意技『大ジャンプして前脚で踏み潰し』を、ヒラリとかわす。
さらに追撃の噛みつき攻撃まで、しっかり回避できている。
『いける! いけるぞ!』
『まさか、本当に指輪を使わないで、ヤれるなんてっ』
だから、その後の反撃が間に合う。
そして、俺が散々やらせた『足場の悪い状況』、『片足しか接地してない状況』での素振り訓練。
その『姿勢維持筋肉』強化で、どんな姿勢でも斬撃軌道が安定する。
(おかげで、【序の一段目:断ち】の<魔導具>を使ってないのに、魔物の丈夫な毛皮と筋肉に刃が通る、ってワケだ)
『年上後輩たち、やるじゃない!
これ、本当に勝っちゃいそうよ、わたしたちっ』
魔物がガムシャラに暴れて手が付けられない時は、魔剣士2人は素早く退避。
そして、入れ替わりに魔導師が<短導杖>両手持ちの火炎魔法を連打。
ズドドドドドン!と、爆炎が無数に弾ける。
(で、魔法が使えて頭の良い魔物は、当然、防御態勢を取る。
つまり、身動きを取らなくなり、意識を魔法使用に集中する状況 ──
── 接近戦の大チャンス到来だ!)
『ハアァァ!』『セヤァァァ!』
すぐに魔物の死角に回り込んだ、男子生徒と女子生徒。
魔剣士2人が、爆炎の煙を引き裂くような、渾身の斬撃!
片方はザシュン!と、胴体から血を飛沫かせ。
もう片方はズガン!と、前脚を深く斬り裂き、骨までも削った。
▲ ▽ ▲ ▽
── 『ガゥガゥガゥッ!』と、怒った<跳岳大狗>大暴れ。
── 『キャッ』『グワァッ』と、接近戦してた魔剣士の男女コンビが避けきれずに、吹っ飛ばされる。
『だったら魔法で!』
支援役のメグが、すぐさま両手持ち<短導杖>を構える。
しかし一瞬早く、『ゴォーン!』と魔物特有の魔法起動音。
ザンザンザンザン……!と無数の土砂魔法の槍が生えてきて、魔物を取り囲む。
即席の防壁だ。
『ああ、このぉっ』
メグが連射した下級火炎魔法は、ズ・ド・ドン!との土砂魔法の槍に当たって破裂。
おしくも、魔物本体には爆炎が届いてない。
『キィィィィイイイイ……ッ、……──』
<跳岳大狗>が遠吠えの体勢で、女性の金切り声みたいな絶叫。
それに合わせて、背中に生えた角みたいな結晶体が、七色に輝き始める。
(おぉ~……
横から見てたらこんな感じなのか、あの自爆攻撃……)
そんな事を考えながらも、右手薬指の指輪に偽装した<法輪>を解放。
『やべえ!』『自爆だっ』『おい、学生たち逃げろっ』
周囲の冒険者たちもザワザワし始める。
『トンデモない魔法がくるぞ!』『早くコッチに上がれ!』『死ぬぞ、お前らっ』
騎士らしき重装甲のオッサン達が、慌てて縄ばしごを投げ下ろして、生徒さん3人にブンブン手招き。
しかし残念、もう間に合わない!
『ィギャァッ……── ギャィィン!?』
なので、指導者が緊急出動して、ズダァァン!
本日2回目の出番のオリジナル魔法【秘剣・速翼:参ノ太刀・水深】。
猛禽類みたいな急降下攻撃で、遠吠え体勢の魔物の長鼻をブン殴ったワケだ。
「はい、お前ら『1死』な?」
模造剣で負け犬魔物を殴り倒して、地面に着地。
愛剣を肩にポンポンしながら、講義を続ける。
「こんな感じで、ピンチになると広範囲の自爆攻撃してくるのが、『爆弾持ち』って魔物」
話ながら、生徒さん3人に取り上げていた<魔導具>を投げ渡す。
「なので、こうやって自爆の発動を邪魔するか。
あるいは、使う間もなく斬り殺すか。
じゃあ、次は『斬り殺す』方でいってみよう?」
「あ、はい……」「うぅ……」「え、ええ……」
まだ防御の構えのまま、おっかなビックリしている、生徒さん3人。
しかし、<跳岳大狗>が『何すんじゃゴラァー!?』と立ち上がると、3人ともすぐに気合いが入る。
「おー、良い反応!
ガンバレがんばれー」
城壁の壁際まで移動して、見守り態勢の俺。
後は、昨日と同じパターン。
士官学生2人が食い止めてる間に、赤毛少女が三重詠唱を準備。
強化版<松明>の目くらましで魔物がひるめば、魔法付与【序の一段目:断ち】で切れ味アップした魔剣士の2人が、骨すら切り刻む。
見学していたA級冒険者たちも、『おぉ~』『3人で倒した』『なんて学生だ』とか手放しで褒めてた。
(これで『素人さん3人』を同行させても、誰も文句言わないだろっ?)
だいたい、指導者の狙い通り。
つまり、完璧な結末だった。
▲ ▽ ▲ ▽
そんなワケで、問題なく同行が認められた、俺たち4人。
6人PTという、極少人数の『人食いの怪物』とセット扱いになったらしい。
足したら丁度10人になるからね。
「少年、見えてきたぞっ」
荷車の屋根の覗き穴から、シカ角鉄兜の長身オッサンが手招き。
俺は、木箱を組み合わせた簡易階段を上って、屋根上に出る。
「どれどれ」
時速40~50kmの走行中の風圧に身をかがめ、昼の日のまぶしさに目を細める。
「あれが、特殊な魔物『爆弾持ち』を生み出す魔の領域。
<瘴竜圏>だ」
シカ角鉄兜が指差す先には、森をくりぬいたような大規模伐採の跡。
直径1~2kmありそうな円形の伐採跡、その中心にそびえる高さ20~30mの小山。
それが、今回の騒動の発端である100m級の魔物の死骸。
つまり、トンデモない魔力を残した腐肉の小山だ。
「そして、その周辺にそびえるアレが、『門番』の住処 ──
── つまり、『農耕種』とも呼ばれる巨大な虫型魔物の営巣だ」
巨大死骸の周辺に林立する、森の樹木とは明らかに違う、植物らしき物。
前世ニッポンの4~5階建ての雑居ビル(つまり15~20m)くらいはある、巨大なキノコらしき物が無数に生えてた。




