160:死ぬ死ぬ詐欺
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
気がつけば、すぐ近くで銀河鉄仮面みたいな呼吸音。
「コォー……フォー……!」
ズシン!ズシン!ズシン!と歩いて来て、グッ!と親指立てるバカが1匹。
その超重装甲の籠手を、ガァン!と思いっ切り模造剣でブッ叩く。
「だ~・か~・ら~!
『親指立て』じゃねーんだよ、ボケがぁ!!」
── ただいま苦情の真っ最中。
お聞き苦しいでしょうが、しばらくお待ちください。
「コォー……、フォー……ッ」
なんか『ふぅ~、ヤレヤレ』みたいな雰囲気出してくる。
(どう考えても、オメーが悪いよな、今のはァッ!?)
「よぉ~し解った、この前の続きが闘りてーんだな!?
上等ぉ、ブッ殺してやる!」
(こっちが『人殺しNG』の『剣帝流』だからって、ナメやがって!!
両手両足斬り落として、二度と冒険者ができない『9割殺し』でガマンしてやらぁ!)
そんな殺意マシマシ全部乗せで腕まくりしてたら、急に邪魔が入る。
しかも、さっき命助けてやったはずの、重装甲騎士だ。
「── ちょ、ちょ、ちょっと待て!
魔法使いの少女っ」
後ろから羽交い締めしてくるんで、ジタバタジタバタ。
久しぶりにプッチ~ン☆してたせいで、背後なんて完全に見落としてた。
(テメーこの、恩知らずがぁ!!
そう言えばコイツも、このガイコツ頭にしか礼を言ってなかったな!?)
さらにイラッ☆とポイントが加算!
『今日は五十日、ポイント5倍デー!』かよコラぁ!
「待て待て、ケンカを売るには相手が悪いっ、悪すぎるっ
相手はあの、元AA級の『人食いの怪物』だぞ!」
「知るかボケぇ!!
この前は、命狙われて激怒を、何とかガマンして見逃してやったのによぉ!
テメーぇ、顔会わせた瞬間に何してくれやがる、このクソ魔物モドキがぁぁ!」
よ~しオッサン、もう【八重裂】使っちゃうぞ~?
この『拠点:主戦場』とかいう田舎町ごと消えろ、化物め!
「い、命を狙われた?
見逃して、やった?
な、何を言っている……、彼はあの『人食いの怪物』だぞ?」
羽交い締めしてくる無礼な騎士ヤローの『何を言ってんだこのバカは?』という声色に、いよいよ怒りが増幅。
「お前も、コ・ロ・スぞ?」
「な……っ!?」
振り返り、睨み付ける。
無礼騎士ヤローも、さすがに絶句。
俺も普通なら『騎士とかプライド高くてエリートな司法権力を相手に、ケンカ売る』なんてバカな事はしない。
だが今は、最近のストレス『塵も積もれば~』なせいで、頭が煮えたぎって、激情が止まらない。
「だいたい、この世界の連中どいつもこいつも礼儀もかけらもねークズばっか ──」
そんな頭を冷やすように。
急に、ドシャー!と水が滝みたいに降ってきた。
雨なんかじゃ、絶対ない。
まるで滝の水が直撃したような、溺れるくらいの大水流の落下に、口から泡がゴボゴボォ……ッ。
「── 止めよ。
フゥ……今さら、人間同士で争う状況か?」
やたら細長い人影が、<長導杖>を構えていた。
▲ ▽ ▲ ▽
人に出会い頭で、冷水ぶっかけてきた最低ヤローが近寄ってくる。
だから、俺はちょっと水飲んでムセながらも、声を張り上げてタンカを切る。
「ゲフッ……ゲホォ……ッ
なんだ、テメーもぉ! ──」
「── すまぬ!」
怒鳴りつけてやろうとした瞬間、相手は90度のお辞儀。
いわゆる『最敬礼』状態だ。
「同輩は喋れぬが故に、誤解される事も多い。
だが、今回は明らかに行動に非があるっ」
『人食いの怪物』PTの目印らしい、角付きの鉄兜。
コイツの場合は、シカの角みたいにスゴい長い。
見てて『シカ角って邪魔にならない?』と思うくらい。
「だから自分が代わりに詫びる、誠にすまぬ!
どうか剣を収めて欲しいっ」
「── チィッ、わかったよ……っ」
こうも素直に頭を下げられると、さすがに怒りを継続するのが難しい。
それに、今さらながらに元師匠の教えが頭に浮かぶ。
── 感情は、道具だ。
── 主体は、人間にこそある。
── 主体である人間が、従属である感情に使われて、なんとする。
自分の未熟が、少し恥ずかしくなった。
仲間のために低頭平身する様な、大人な対応の相手を見れば、余計に。
「フゥ……、ああ、クソ……っ」
自分の感情任せの言動に、今さらながらに気が滅入る。
そんな風に俺が落ち着いたのを見て、羽交い締めの騎士が離れいった。
「いやいやっ
『人食いの怪物』の『#3』殿!
貴方が謝る必要はないのではっ?」
騎士はそんな事を言いながら、長身細身の<長導杖>持ちに駆け寄った。
「正直、傍から見ていて、こちらの少女の態度に問題があるとおもいますよっ
── かの『骸骨被り』殿に助けてもらっておきながら、あの態度!」
「……騎士殿。
あの<跳岳大狗>の死骸の山。
誰が仕手だったか、貴君は見てはいなかったのか?」
「ええ、ちょうど防具を直していた所なので。
しかし、『骸骨被り』殿が剛力無双の活躍で、魔物を集めていたご様子。
あそこに元々、何か攻撃魔法の罠でも仕掛けていたのでしょう!」
騎士ヤローが、あさってな勘違いを胸を張って断言!
すると、長身細身の『#3』は完全に呆れ顔。
「……ハァ、理解した。
状況が解らぬなら、口出しは無用だ」
重装甲騎士に『もう喋るな』とばかり、片手を向ける。
そして、俺の方へと近づいてくる。
「『#2』から聞いた時、あまりに酷い冗談だと。
しかし、こう現実に見せられれば、な。
フフッ……」
「………………」
うんうん、ひとりで納得している『#3』。
そして、ソイツはさらに意味不明な言動を始めた。
城壁の上に立っている連中への、演説会だ。
『── 皆、今たしかに見たであろう!
これぞ “斬魔竜殺” !
これぞ “魔物の大侵攻” を退けた勇士!
ついに、反撃の時が来たっ』
話し始める前に『カン!』とか鳴ったから、何か『拡声器』的な魔法でも使ったんだろう。
『我らには “羊頭狗殺し” と “竜殺の剣士” が付いている!!
“爆弾持ち” !? “瘴竜圏の門番” !? 何も怖れる事はないっ
まずは昼食をとり、英気を養え!
正午すぐに出発して、午後の内に全ての片を付ける!!』
「…………は……?」
演説の意味が解ってないのは、俺だけなのか。
── 『うおおおおおお~~!!』と城壁の方から大歓声が響き渡る。
え、何?
どういう事?
▲ ▽ ▲ ▽
場所は移って、ギルド支部の中の食堂。
その一番奥の、十数人掛けの大テーブル。
「つまり、魔物の被害で徐々に冒険者が減り、ジリビンだった?」
「そうですね」
俺が確認すると、メガネ青年がメシ食いながら肯く。
この大テーブル、なんか『ギルド内で上位なPT用の特等席』らしい。
そんなVIP席だからか知らないが、出てくる料理もなかなか豪華。
『香草詰めニワトリの丸焼き』なんて夕食会みたいな物まで。
俺が気に入ってパクついていると、テーブル専属の女給士さんが、いくらでも切り分けて出してくれる。
「で、魔物退治専門の『剣帝流』が来たから、この機会だ、ってなった?」
「概ね、その通り」
今度は長身細身が、シカ角付きの鉄兜ごと、コクンと首を振る。
「おいおいおい……っ」
なんだか変に期待されてて、頭抱えちゃう。
「その辺は、『神童コンビ』とかがガンバる所じゃない?
あ、そう言えば、アイツら『帝国西方の若き英雄』とかじゃなかった?」
取りあえず、知り合いを身代わりにしてみる。
すると、切れ目のセクシーお姉様が苦笑いして、片手を振る、
「『神童コンビ』って、聖教の?
それは無理でしょぉ~」
「<副都>と聖教はいつもイガミあって、かなり仲悪いからなぁー」
ひょっとしたら俺より年下かもしれない、最年少男子も肩をすくめる。
メガネ青年が話を引き継ぐ。
「たとえば約3年前の、<黒炉領>の『魔物の大侵攻』。
当然、最寄りの<副都>に対しても救援要請があったようですが、結局は色々と理由をつけて断ってますからね」
「おいぃ~……」
思いも寄らない裏事情に、思わず呆れちゃう。
(こんな人食い魔物がワラワラで、危険がデンジャーな世界なのに。
何で、人間同士の助け合いをしませんかね、君たちは?)
すると、シカ角兜とメガネ青年が、2人で交互に説明を続ける。
「帝国が王制時代の旧・王都、古い歴史と伝統がある分、色々なしがらみも多い。
ここ数代の皇帝陛下が聖教寄りなので、いよいよ敵視している」
「まあ、<副都>というのはそういう都市なんですよ。
だから、我々は<聖都>の裏組織と縁を切るために、影響力の及ばない、ここ<副都>へ移ったのです」
聞けば聞くほど、本当に同じ国なのか、という感想。
(そう言えば、『聖都を中心とする旧・連合国』と『帝国の元になった旧・王国領』は昔から仲が悪いみたいな話、どこかで聞いたなぁ……)
ため息をつく俺に、メガネ青年が説明を続ける。
「帝国第二位の大都市で、莫大な人口、経済力、軍事力を持つため、帝都のご機嫌伺いをしなくてもいい。
それどころか、帝室の傍流である公爵閣下が領主である事から、生半可な権力者では口出しも出来ない」
さらに、ほんわか美人さんや、切れ目のセクシーお姉様の女性陣も毒を吐く。
「しかもぉ~、<帝都>の代替、皇帝陛下の傍流である事を理由に、あからさまに保身に走りますからねぇ~」
「帝都のような国家の中枢ではないから、他の領地の面倒をみるいわれもない!
とか、完全に開き直るもんね、アイツら」
『人食いの怪物』のメンバーは、よほど不満が溜まっていたらしい。
<副都>上層部へのグチが止まらない。
▲ ▽ ▲ ▽
だから、俺がちょっと割り込み。
「── まあ、それは良いんだが。
さっき言ってた『瘴竜圏の門番』って何だよ?」
「本来なら、半年もあれば朽ちるはずの<瘴竜圏>が現存してる理由です。
アレをどうにかしない事には、この災禍はいつまでも終わりません」
「魔物の種類は?」
「……あなどって欲しくはないのですが、 ──」
「── ああ、虫型魔物の超巨大版ね。なるほど」
「よく、わかりましたね……
── もしや、交戦経験が?」
「ないよ、変に買いかぶるなって。
ただ、似たようなヤツを知ってるだけ」
『巨人の箱庭』以外でも居るのか、あの手のバケモン。
「……そう言えば。
<翡翠領>の『魔物の大侵攻』の『首魁』は、たしか『超巨大な虫型魔物』でしたっけ?」
いや、そっちじゃないんだが。
(まあ、いいか。
あの『3脚ヤドカリ』とか存在自体がバカバカし過ぎて、話しても信じてもらえないだろうし……)
あとは『3本腕の超々々巨大サル』とか。
<ヴィオーラ巨大樹林>、マジ地獄。
そんな心的外傷じみた当流派の『雪中訓練』(月1で実施!)を思い出して、微妙な心地になる。
── つまり、ここ数日イライラしたり浮ついたりプッチ~ン☆してた、俺の未熟な精神が、完全に平常を取り戻した。
(まあ、あんな『巨人の箱庭』の超巨大魔物みたいに『【裂き】を使っても斬れない』って事もないだろうし……)
そう考えると、さらに心に余裕が出てくる。
(さて、久しぶりの本格的な魔物退治、楽しみますか!)
── とか思っていると、急に隣の女子生徒が、ブワワ……ッ!と泣き始める。
「わ! わわわぁ~!
『人食いの怪物』全員と食事! 全員そろっての昼食におよばれ!
── わたし、もう死んでもいいぃ~~っ」
「………………」
死ぬなよ、ミーハー女子生徒め。
▲ ▽ ▲ ▽
── 『ガウゥ!』と魔物が襲ってくる。
── 『ぎゃぁ!』と生徒さんが振り回された。
「おいおい……。
早く盾を外さないと、肩外れるぞ?」
『そ、そんな事言われてもぉっ』
泣き言を言っているのは、男子生徒。
左腕に装備した盾を、魔物に咥えられたままの状態。
魔物がブンブン首を振るたびに身体が引きずられ、(それが【身体強化:剛力】の発動した屈強肉体であっても)持っていかれそうになっている。
(だから『そんな小さな盾とか魔物退治の邪魔になる』っていつも言ってるんだがなぁ……)
コイツ、『流派の技だから……』とか色々言って、なかなか細かい指導を聞かないし。
俺も他流派の人間な上に、一時的な指導役でしかないワケで。
『流派の事情』とか言い出されると、それ以上は口をはさめなくなるワケで。
── そう、今ちょっと魔物を使った実戦訓練の最中。
食後休憩として、例の<跳岳大狗>と、ウチの生徒さん3人が戯れているのを、ノホホンと眺めている。
そんな平和な昼下がり。
『恩師、恩師ぃぃ!』
『絶対ムリです! ムリィ~~~!』
『こ、こんなの3人でどうにかなるワケ、ないじゃないっ!!』
早くも弱音が出ちゃってる、生徒さん3人。
せっかく邪魔が入らないように、関所(あ、城壁の風除室みたいな中庭構造のアレ!)の中に、小ぶりな魔物を放り込んでやったのに。
(お前らなぁ……、ソイツって、アレだぞ?
たしかに今、ナゾ強化されて『爆弾持ち』とか、変種しているらしいけど。
元々は脅威力3の魔物!
<ラピス山地>の陸鮫ちゃん並だぞ?)
つまりは、『魔剣士失格』のこの俺が、『ボク10しゃい』でブチ殺せた魔物と同程度!
そんなのに手こずるなよ、と呆れのため息がでちゃう。
── ああ、もう、しゃーねーなー。
「お前たち3人なら、出来る出来る!
絶対に、やれるやれる!
もっと自分自身を信じろよ!
すべては3人の気持ちの問題だって!
ひとりひとりが、もっと熱くなれよ!?」
ちょっと『熱』を送ってみる。
しかし、何故か周囲の反応は、イマイチ。
というか、ドン引きされてる……ような、気がする。
『しょ、正気か……』『おい、誰か止めろよっ』『小さいとはいえ<跳岳大狗>よっ』『大型魔物をたった3人で!?』『俺たちA級でもキツいだろっ』『鞭打教育なんてレベルじゃねぇ……っ』『おいおいおい、ガキども死ぬぞ?』『たしかに脅威力3の幼獣だけどさぁ』『いったい何を考えてるんだっ』
なんか『極悪非道っ』、『人のココロが無い!』、『アクマかコイツ!?』みたいな批難の視線とか、ヒソヒソ声をとかに、ちょっと変な汗がでちゃう。
『── イヤァァァ! 死んじゃう! わたし、もうここで死んじゃうんだぁぁ~~っ』
「………………」
また、ミーハー女子生徒が、『死ぬ死ぬ』言って大騒ぎしている。
なので、きっとそのせいだろう。
(アハハ、みんなオーバーリアクションを、真に受けすぎ~っ
あ、皆さん知らないと思うッスけど、この子いつもこんな感じなんスよぉ~?
つまりは平常運転、みたいなぁ~~?)
そんな、ねえ?
ジブン一応は、清く正しく貧しい、いつも弱い者の味方な『剣帝流』ッスよ?
そんな、いわれのない批難や中傷を受けるなんて、ねえ?
── 心の平和のため、そう思い込もうとする。
そんな兄弟子なのでした。(きょうのワ■コ風ナレーション)




