159:骸骨被り
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
『拠点:倉庫街』から『拠点:主戦場』まで、荷車で1時間少々の移動時間。
昼食前には無事到着した。
「う~わ~~~!」
「なかなかの城塞っぷりだなっ」
『拠点:主戦場』は、魔物を迎え撃つ城壁などの設備がてんこ盛り。
ギルド支部の建物以外でも、宿屋や店舗だってちゃんとした木造建築だ。
文字通りテント街だった、仮住まい丸出しの『拠点:倉庫街』とは大違い。
アッチなんて、前世ニッポンの『サーカス興業』みたいな巨大テントが店舗や公共施設がわりだったし。
荷物倉庫は、『貨物車両』の荷台部分をそのまま並べて、倉庫代わりに活用してたし。
「廃村の建物や設備を、改造しているらしいですよ」
元・AA級冒険者『人食いの怪物』の#2、知識層アピールなメガネ青年が説明してくる。
7~8ヶ月前に起きた魔物の大量発生で、周囲の農村はほぼ壊滅状態。
最後まで残っていたこの『まとめ役の本村』も、半年前には全員が<副都>に避難。
それで廃村になった場所を活用し、防衛拠点に改造したらしい。
一応、魔物被害がおさまった後、農村住民が戻ってきた事を考えての、インフラ整備でもあるっぽい。
「さすがは<副都>領主、歴代指折りの賢君で知られる公爵閣下ですね。
先を見据えた、堅実な政策です」
「でもぉ~、非常時の対応は少し後手だったみたいですがぁ~」
『人食いの怪物』の男女2人はそれぞれ、賛辞と批難の評価。
(……魔物対策の城壁やら、魔法攻撃の罠が『生活基盤』扱いかよ。
相変わらず、このクソ異世界、マジ地獄だな……)
平和ボケ世界ニッポンからの転生者な俺、超ウンザリ。
お連れの士官学生さん男女2人も似たような感想なのか、渋面している。
「それほどの、村ごと引っ越さないといけない程の被害だったのか……」
「辺境生まれの私達からしたら、他人事じゃないわね……」
そんな説明を聞きながら、冒険者ギルド派出所という、デカい建物に入っていく。
『── だ・か・らぁ~! 自殺行為だって何度言わせる!?』
冒険者ギルドのデカい建物に入った瞬間、怒声が聞こえてきた。
「<瘴竜圏>に突っ込む、だとぉ!?
この戦力で、そんな事が出来る訳ないだろっ」
「だったら、いつまで待てばいいんだよ! 領主騎士団が駆けつけるまでか!? いつになるんだよ、それは」
「そうだ、そうだっ」
「もう、半年だぞ!?」
「何パーティA級冒険者の腕利きがヤられたか、言ってみろ!」
なんか、冒険者ギルドの中で、オッサン達がモメとる。
困惑立ち尽くす。
「またですか……ハァ……」
メガネ青年が、ヤレヤレとため息。
スタスタと1人で、ギルド職員と冒険者がモメてるカウンターへ向かう。
「怒鳴り合う元気があるのなら、外で魔物を1匹でも狩ってきたらどうですか?」
そう発言しただけで、一気にシィ……ンッとなる。
「『人食いの怪物』の#2……」「ほら、戻ってきたじゃねえかっ」「お姫さまも一緒だっ」「逃げた訳じゃなかったのか……っ」「……お、俺は最初から信じてたぜ?」「ウソつけ!」「はぁ、心配して損したぜぇ~」
冒険者たちは、コソコソ話ながら散っていく。
そして冒険者ギルド職員は、メガネ青年に礼を言う。
「ハァ……、助かったぜ、参謀どの。
アンタたち『人食いの怪物』の姿が見えなくなったって、あの騒ぎだ。
難儀してたんだぜ?」
「我々が来た2ヶ月前に比べても、格段に冒険者の数が減っていますからね。
皆、先が見えなく不安なのでしょう」
「ああ……。
俺がこう言っちゃいけないんだが、正直、もう冒険者の手に余る事態だ。
『どうにかしてくれ』ってギルドの上役も口酸っぱく言ってるみたいだが、なかなか騎士団の反応が鈍いらしくて……」
「脅威力6が出現しない限り、本来の任務である領都防衛に専念すると?
……役人達の頭の堅さにも、困ったものですね」
冒険者ギルドのカウンターで、男2人がグチをこぼしあう。
「状況は、悪くなる一方なんだがなぁ。
何か、明るい話のひとつでもあれば、まだちょっと」
「代わりと言ってはなんですが。
ちょっと頼もしい戦力を見付けたので、連れて ──」
すると、ドアを蹴破るような激しさで、衛兵さんみたいな格好の男が転がり込んできた。
「── 大変だ! 魔物の襲撃だっ」
▲ ▽ ▲ ▽
『行くぞ!』『メシ食ってる場合じゃねえ』『場所はどこだっ』『西門だ』『誰か宿屋に呼び行って来いっ』
さすがは、冒険者は魔物退治の本職。
さっきまでブツブツ言ってた連中も、すぐに武器を担いで走って行く。
「恩師、我々は?」
「もちろん、手伝うんですよね?」
「魔物退治の準備はいいわよ!」
生徒さん3人とも、戦意は充分。
しかし、魔物の種類や頭数が解ってないから、まだ指示も出せない。
「とりあえず、現物を見ておこうか」
俺はそう答えて、『人食いの怪物』の男女2人についていく。
「『人類守護の剣』の本領発揮ですね、期待しています」
「うふふ、貴方のご勇姿ぃ、楽しみだわぁ~」
「やめろって!
こんな魔力も体格もザコなガキに、過分な期待するなよっ」
冒険者ギルドの建物そばに停めていた荷車に乗って、数分移動。
すぐに、戦闘状況が見えてきた。
先日のデカいワンちゃん(たしか<跳岳大狗>とかいう名前?)が20m級の城壁にしがみついて、デカい顔を横にしてガウガウ噛み付こうとしている。
── ってか、さっそく城壁の上の騎士らしき全身装甲が、パクッと咥えられ、一瞬で攫われる。
「おいっ、さっそく1人やられたぞ!?」
「クッ……、現場が混乱していて、防御隊列が組めてませんね。
誰かが指揮をとって、統率をとらないと……っ」
返ってきた言葉は、いかにも具体性にかける助言忠告。
『人食いの怪物』のメガネ参謀さん(笑)は、日頃の知識層アピール(呆)のくせに、何の対策も思いつかないらしい。
「チ……ッ、ちょっと行ってくる!
3人とも、その2人と離れるなよっ」
「ちょ、ちょっと!」「え、飛び降りた!?」「恩師、ウソでしょ!」
俺は、時速40kmくらいで走る荷車から飛び出す。
薬指の指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法環>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
慌てる同乗者には構わず、オリジナル魔法【秘剣・速翼:四ノ太刀・夜鳥】で高速飛翔して、走る荷車を置き去りに。
「う~わ~……相変わらず、非常識すぎる魔法を使うわねぇ……」
赤毛少女の呆れた声が、チラッと聞こえる。
だが、今はそんな事にいちいち構ってられない。
4秒程度で20m級の城壁の上に到着。
騎士や衛兵らしき全身装甲4~5人が、仲間を咥えた魔物に魔法の集中攻撃中。
ドオォン!ジャジャジャ!ヴゥン!ヴゥン!と火や氷や衝撃波が撃ち込まれている。
「チィ……ッ
相変わらず<跳岳大狗>、デカい割に動きが素早くて面倒だな……っ」
最初見た時は『デカいくせに外骨獣じゃないとかクソザコ!』とか思ってたんだが。
あの体高5m超の巨体で、森の中を軽快に走り回られると、その厄介さが解った。
遠距離射撃の魔法なんて、樹木が邪魔でほとんど当たってない。
そもそも動きが素早くて、狙い撃つことも難しい。
俺も、城壁の上から【三日月】で片付ける気だったのだが、そう簡単にはいかない状況。
そんな、重装甲騎士をゲットしてルンルンな巨大魔物が、魔法をスキップでかわしながら城壁から離れようとすると、後ろから同種の仲間が横取りにくる。
『ガウゥ!』『ガウガウゥ!!』
<跳岳大狗>同士の人間の奪い合い。
いくら<錬金装備>の全身装甲を着込んだ魔剣士とはいえ、上半身と下半身を引っ張られ、今にも千切れそうな状況!
「クソ、四の五の言ってられねーなっ
【秘剣・速翼:参ノ太刀・水深】!」
久しぶりに出番の、急上昇&急降下攻撃!
(あ、格闘ゲームなら ↓タメ↑ + [K] ね、コマンド)
ズダァン!との首根っこに一撃!
落下の勢いで、<小剣>が深々と突き刺さる。
『グガァ……ア!』
人間の横取りされまいと必死な、1匹目の方だ。
人間で言えば首を後ろからチョップされたみたいな感じで、カパッと騎士さんを解放。
即座に必殺技2個目を自力発動!
今度は、人差し指の指輪に偽装した魔法の術式<法環>だ。
「追い撃ちの【秘剣・三日月:弐ノ太刀・禍ツ月】っ」
ギュルル……ンッと、魔法刃が魔物の体内で穿孔回転として炸裂!
ド・ド・ドォ……!と、犬型魔物の太首から血を噴き出させる。
強襲からの内部破壊。
確定コンボで、<跳岳大狗>1匹目は討伐完了だ。
▲ ▽ ▲ ▽
グラッと倒れる魔物の背から飛び降り、死んでもジタバタしぶとく暴れる脚に巻き込まれないように、距離を取る。
そうして、もう1匹の体高5m超のワンちゃんに目を向けた。
「さて、こっちはどうするか……」
魔物に咥えられている人が居る以上、巻き添えが怖い。
となると、あまり雑に必殺技が撃てない。
しかも、巨体に似合わず素早く身軽なので、まずは足を止めたい所。
『グゥルルル……!』
その迷いの間に、魔物の前2脚に<法輪>が浮かんだ。
回転して自力詠唱と土魔法が発動する。
ドッ・ドッ・ドッ・ドッ・ドン!と、の地面から突き出る石槍攻撃。
「なるほど、石槍魔法は本来足止め用かっ」
何せ、『未強化』のままで避けれる程度に遅い。
(魔物が使う魔法にしては威力が低いハズだ。
防御用・威嚇用がメインの使い道か……っ)
「チィ……ッ」
そこまで分析できたら、舌打ちが出た。
すぐさま、魔物が背を向けて逃げ始めたから!
「さすがに逃げに徹されたら追いつけない、かっ」
追いかけるなら、最速移動【夜鳥】がある。
追い撃ちなら、遠距離攻撃【三日月】がある。
だが、そのどちらも林のように生えた石槍魔法と、森の木々が邪魔になる。
<跳岳大狗>は、後ろを振り返るのやめて、全力疾走を始める。
「た、たすけて~っ」
「クソッ」
林立する石槍という魔法の妨害柵を、俺のチェーンソー魔法付与【序の一段目:裂き】で削り斬って、飛び出そうと ──
『ギャィイン!!』
その瞬間、魔物がアッパーカットでもくらった様に、跳ね上がった。
地面に投げ出される、攫われた騎士さん。
それを庇う、ヒツジのガイコツを被った2m以上の大男。
どうもコイツが、ロケットみたいな垂直ジャンプで体当たりしたっぽい。
「た、助かった……、ありがとう『骸骨被り』ぅっ」
「コォー……、フォー……」
『グア、ガアァ!』
急にブッ飛ばされ、人間まで奪われた<跳岳大狗>激怒。
バカみたいな超重量防具をつけてる怪人に襲いかかる。
「コォー……ッ、フォォー……ッ!」
一蹴だった。
バカみたいな超重量大剣(最低でも16kg!)がブン回され、迎撃!
グオォン!と風をうならせ、炸裂!!
『斬った』というより『引き千切った』。
そんな感じで魔物の首(人間の大人サイズ!)が吹っ飛ぶ。
ついでに、片方の前脚も、弾け飛んだ。
残った胴体だけが、突進の勢いのまま転がっていく。
(なんというか……
もう、アイツって『ガ■ツ』だよな?
あの大剣も、もう『分厚い鉄塊』だよな?)
久しぶりに見たら、うんざりする異常さ。
これで『魔剣士じゃない』のだから、理不尽そのものだ。
「俺、よくこんなのと斬り合いしたよなぁ……」
過去の自分の無謀を思い出し、ちょっと背筋が寒くなった。
▲ ▽ ▲ ▽
「コォー……、フォー……」
ドスン!ドスン!と超重装甲過ぎて(多分、鎧一式で重量100kg超!)足音がオカシイ奴が、こっちに歩いてくる。
片手を上げてヒラヒラ振っているので、俺に気付いたのだろう。
「あ~……
そう言えばあのメガネ青年、コイツにまだ説明してないよな?
一応、軽く説明しておくか……」
そんな事に気がついて、軽く駆け寄ろうとすると ──
── バァン!と土砂が爆発した!?
「な、なんだぁっ」
思わず目を白黒させる俺。
慌てて、姿の消えた『骸骨被り』を探すと、<駒>並の超スピードで城壁に猛ダッシュ。
そして、やっぱり、その背中には【身体強化】の魔法陣はない!
「なんで鎧100kg着込んで、【身体強化:疾駆型】並の速度出せるんだよ!
オカシイだろ、お前ぇっ」
魔力が極少過ぎて魔剣士になれなかった俺、激怒。
そんな世の理不尽に義憤を燃やす俺の前で、さらにワケの解らん光景が繰り広げられる。
<跳岳大狗>たちがピョンピョン!ピョンピョン!と、ジャンプ繰り返して『拠点:主戦場』の20m級城壁を越えようとしている。
ドガッシャァァ!、と鉄塊男が、片っ端からジャンプ体当たり。
『ギャィ……イン!』と、吹っ飛ばされゴロンゴロン転がってくる、巨大ワンちゃん。
そんなのが、2度3度繰り返される。
「……おい」
さらに小さい個体(それでも体高3mはある)なんぞ、前世ニッポンのプロレス技『足持って大回転』!
「おい」
『ギャワワワワァ~!』とか変な声あげながら、盛大に投げ飛ばされて、ゴロゴロ転がってくる。
── 全部、俺の所に!!
「おいぃ!?」
気がついたら、デカいワンちゃん達から絶賛包囲中!
『グルゥゥ……!』『グァ』『グガァッ』『ブルル!』『ガァ!』
すぐに襲われないのは、<跳岳大狗>同士が牽制し合っているから。
つまり、エサの取り合いである。
魔物達からすれば、俺なんてチビでザコ、すでに確保済みなワケだ。
「おい、これはどういうつもりだガイコツ頭ぁ!?」
悪意しかない状況に、怒鳴り声で問いかける。
しかし、返ってきたのはシンプルな身振り。
「コォー……、フォー……」
いつもの呼吸音と共に、グッと親指立て。
「なにが、『親指立て』だコラぁ~~!
意味わかんね~事しやがって、嫌がらせかテメェェ!?」
色んな理不尽に、怒り爆発!
両手で中指おっ立てしていると、周囲の魔物が殺到してくる。
『ガァ!』『グゥ!』『ルルゥ』『ガァ!』『グ、フシャ!』
怒りに燃えながらも用意していた術式を、自力発動。
ロック、迎撃いきます!!
「ヌゥウウウンン!
瞬で、獄に、殺られるがいい! クソ犬ッコロどもぉ~~!!」
食欲満点の魔物5匹が、焦って頭をぶつかり合う間に、巨体の脚の間をすり抜ける。
「【ゼロ三日月・乱舞】ぅぅ~~!!」
ズシャシャシャドシャシャシャァザシューン!とゼロ距離発射の【三日月】で乱れ斬り。
5体まとめてドシャッと崩れ落ちる。
── <跳岳大狗>の解体終了!!
!作者注釈!
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