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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 7.5:特設ステージ(ボス戦)

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158:ホンワカ殺意満点

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




せっかく初<副都>なのに、ろくに観光もせずに魔物の森へGO!しちゃった翌日の朝。



「── お嬢ちゃん、あんまり冒険者をナメるなよぉ!?」



ギルド職員(事務職)とは思えない、強面スキンヘッドに(すご)まれた。



「いや別に、ナメてないがな。

 ちょっと、前線の拠点(キャンプ)に行きたいだけだし。

 なんか『爆弾持ち(ボマー)』とかいう、珍しい魔物がいるんだろ?」


「それが、ナメてるって言ってるんだよぉ!!」



ズダン!と、強面ギルド職員がカウンターを叩く。



「いくら護衛3人(・・・・)がスゴ腕だって、いつでもお嬢様(アンタ)(まも)れる訳じゃねーんだぜ!?」


「………………」



なんで俺が、生徒さん達に守護(マモ)られなきゃいかんのか。

むしろ逆だろうに。


アイツら、脅威力1~2の魔物(ザコ)なんかに(・・・・)手こずってた(当流派(ウチ)全世界級(ユニバーサル)美少女(キュート)妹弟子(リアちゃん)なら、群れごと秒殺!)、初心者(ドしろうと)さん達だぞ?



(フゥ……ッ

 なんか知らんが『世間知らずお嬢様と、その護衛』みたいな変な勘違いされてるっぽいな……)



── <副都>の近くで起きた、大異変<瘴竜圏>(ドラゴンフォール)


特殊な魔物が大量発生して、周囲の農村が壊滅的な被害を受けたらしい。

その対策として、2カ所の拠点(キャンプ)が設営されている。


一つが、物資倉庫街と冒険者の休憩場所になっている、中継地の『拠点:倉庫街(バックヤード)』。

もう一つが、大量発生した魔物の群れを食い止めている、最前線の防衛拠点『拠点:主戦場(ホームターフ)』。


そして、今居る『拠点:倉庫街(バックヤード)』から『拠点:主戦場(ホームターフ)』まで行く方法を聞いていたら、こんな風にガチめな説教をされているという状況。



(俺、この前、『爆弾持ち』(デカいワンちゃん)くらい1人でブッ殺したから、そんなに心配される事ないんだけどなぁ……)



だからと言って、冒険者ギルドを無視して勝手に動けないワケがある。


なにせ、『移動手段(アシ)』がない。

ここにある荷車や<(こま)>(あ、アレ、魔法で動く機巧(メカ)的な牽引(ウマ))は全て、冒険者ギルドが買い上げた物、


今居る『拠点:倉庫街(バックヤード)』から『拠点:主戦場(ホームターフ)』まで片道1~2時間の距離らしいが、<(こま)>でそれだけかかる距離を、走っていくワケにもいかない。

みんなバテバテで魔物退治どころじゃなくなってしまう。



『……なあ、オズの大将(たいしょう)

 アンタならお嬢さまの暴走(アレ)、止められないのか?』


『そうそう。

 昨日みたいに俺たちと一緒に、『大型貨物(ワゴン)』輸送してようぜ?』


『“拠点:倉庫街(バックヤード)”と<副都>の間だって、最近は随分と魔物が増えたんだ。

 剣術修行とか魔法修行とかなら、こっちでも充分だろ?」



ザクとかグフとか『戦場●絆(ガ■ダム)』か!?という名前の若手冒険者3人が、男子生徒(オズワルド)に何か言ってる。



「………………」



俺もちょっと、『それでも良いかな?』と思いかけた。



(下手に強い魔物と戦わせて、ケガされても面倒だし。

 メグ含めて3人とも、魔物退治の経験が少ないから、脅威力1~2のザコ魔物相手に場数(ばかず)を踏ませた方が修行になるかも……?)



それに、昨日みたいに鉱石食い(ボーナス・ゲーム)の<土鬼(ウルク)>ちゃんと、また出くわすかも!?



(うへへ……っ

 昨日のドロップ品のレア金属塊と、報奨金をあわせて、金貨7枚だろ。

 かぁー、たまんねーな!

 4月の『武闘大会(士官学生の特別枠)』までに、賭け金(ぐんしきん)がジャブジャブたまっちまうぜぇ~?)



そんな『タヌキの(かわ)算用(ざんよう)』してたら、周囲の冒険者がこちらを注目し始めた。



『あんなお嬢ちゃんが、 “拠点:主戦場(ホームターフ)” へ行くんだと?』

『ヤメとけヤメとけ、魔物のエサになるのがオチだ!』

『オンナ子どもがウロウロしたら足手まといだ!』

『せめて<樹上爪狼(ロングクロー)>を自分で倒せるようになってからなっ』

『パパママに付けてもらった、その “お()り” が外れてからだよ!』

『いくら権力があっても、魔物相手じ意味ねーぜ?』

『あんなお嬢ちゃんに退治できる魔物なら、俺は群れごと皆殺しだ!』

『まあ<無環(むかん)>のお嬢ちゃんで、魔力だってアレだ』

『貴族の娘か豪商の娘か知らねーが、魔物退治の役に立つかよっ!』



ヒャヒャヒャ~ッ! ゲハハ! イッヒヒ~!……とか、酔っ払いみたいな下品な笑い声も聞こえてくる。



(まあ俺、そもそも『魔剣士失格(ナマクラ剣士)』なんで、バカにされるのなれてるし。

 こんな事でいちいち怒らんけどな……?)



むしろ『女性(おんな)(あつか)い』されている方が、イラッ☆とくるくらい。

ちょっとストレス発散のダジャレを考えていると、何か聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「何か面白い話が、聞こえてきましたね。

 冗談が過ぎれば、こんなに笑えない物なのですね?」



瞬間、ピリッとした空気に変わった。

汗臭い冒険者たちのバカ笑いが引っ込み、代わりにザワザワし始める。



『角付きの鉄兜(ヘルム)……?』

『おい、アレって』

『まさか、本物の “人食いの怪物(マン・イーター)” ?』

『それって、元・AA(ダブルエース)冒険者の?』

『間違いねえ、あのお姫さん(・・・・)も居る!』

『そういえば、 “拠点:主戦場(ホームターフ)” で見かけたって話が……』



いつか見た覚えのある、知識層(インテリ)アピールなメガネ青年。

そう、あの真っ黒の魔法剣という卑劣野郎(チートやろう)の、部下だか参謀だか。



「ハハ……ッ!

 『足手まとい』?

 『魔物のエサになる』?

 『魔物退治の役に立たない』?

 我ら『人食いの怪物(マン・イーター)』の#1(リーダー)、『骸骨被り(スカルヘルム)』を単身で(・・・)退けた(・・・) ──

 ── この唯一の人物が?」


『…………は?』



── シィ……ンッと、一瞬で空気が凍った。





▲ ▽ ▲ ▽



沈黙の空気の中。

メガネ青年についてきていたお姉さんが、両手をポン!と合わせた。



「── まあ、『#2』(ナンバーツー)

 では、この小柄な人がそう(・・)なんですぅ~?」



ホンワカとした声が、凍った空気を(なご)ませる。



「ええ、『#5』(ナンバーファイブ)

 『#1』(ナンバーワン)の ── 貴方の父上(・・)仇敵(かたき)ですよ」


「あらあら、そうなんですねぇ~。

 ── エイッ」



そんなホンワカ声の最中に、不意打ちで『カン!』と音が鳴った。



(ゲッ……、【身体強化】の魔法陣!?

 ── いつの間にっ)



さらに、魔法陣を(・・・・)背負った(・・・・)ホンワカお姉さんは、(こっち)に向けて躊躇(ちゅうちょ)なく<魔導具>(マジック・アイテム)を起動。


中導杖(ロッド)>の<刻印廻環(ループ・リング)>が回転して、冒険者ギルドの室内で中級攻撃魔法(対・魔物用魔法)をブッパす ──



「── ってぇ、させるかぁ!」



俺は、焦って<中導杖(ロッド)>に飛びついた。

刻印廻環(ループ・リング)>を握ってムリヤリ回転を止める。


例えるなら『急に花火の(・・・)三尺玉(・・・)が落ちてきた』、くらいの緊急事態。

そして、俺の挙動は『火の()いた導火線を素手で(・・・)握り(・・)つぶす(・・・)』くらいの、ムチャな対応だった。



「ハイッ」



その瞬間、ホンワカお姉さんが<中導杖(ロッド)>をねじり(・・・)ながら、クルリと後方に回転。

一挙動だけで簡単に、俺の腕を()めにくる。



(チィ……ッ

 棒を利用した、関節技!

 護身術の一種で、制圧術か!?)



昔、似たような物を見た覚えがある。


前世ニッポンで『格闘技の解説動画』を見ただけ。

だが、そんなうろ覚え(・・・・)の知識がなんとか役に立った。



── タン!と、空中一回転して、相手の背後に着地。

棒を利用した間接技からの投げ技、という相手の動きに逆らわず、むしろ加速させるように動いて、拘束(こうそく)から逃げ出したのだ。


しかし、相手も練達 ──



「── おまけですぅ~!」



いつの間にか、右の逆手に<短導杖(ワンド)>!

刻印廻環(ループ・リング)>をパッと見た感じ、起動の速い初級魔法(最下級)(しかも衝撃波か電撃!)。



「テメー、いい加減にしろよ!?」



短導杖(ワンド)>の<刻印廻環(ループ・リング)>を、また握力でムリヤリ止める。

同時に、小さく間合いを詰め(ステップイン)、<短導杖(ワンド)>を引っ張りながら反撃!


ダァン!と冒険者ギルドの床の木板が(きし)むような、踏み込み。

上半身を猫背してひねり(・・・)を加え、肩甲骨(けんこうこつ)あたりでの体当たり(タックル)


── 中国拳法・八極拳の体当たりでの身体づくり(・・・・・)靠山壁(こうざんへき)』、その練武(クンフー)の果てに必倒の技となる『鉄山靠(てつざんこう)』だ!



「── ハァ!」



割と手加減なく叩き込んだ、ほぼゼロ距離の体当たり(タックル)

自重(ウェイト)を全部マルっと衝撃に変える『鉄山靠(このワザ)』は、上背の相手だって吹っ飛ばす威力。


『人間多数の室内で攻撃魔法』とか、ほぼテロ行為。

そんなマネをする女(スゲー美人でお胸もスゴイ!)に、いまさら手加減(・・・)して(・・)られない(・・・・)



── ギシィ……ィッ!と、硬い(・・)木材が(・・・)鳴る(・・)



ギリギリ間一髪で<中導杖(ロッド)>の防御が割り込まれた。


胃液くらい()かせるつもりの靠法(ソレ)も、吹っ飛ばすだけに終わる。



「く、くぅ~……ぅっ」


「チィ……ッ」



女仙人(バイトリーダー)の幻像記録と体術訓練のついでに(・・・・)練習したけど。

 防御破壊(・・・・)を目的とする『鉄山靠(てつざんこう)』を、完全に(・・・)防御される(・・・・・)とは!

 まだまだ実戦で使える練度(レベル)じゃなかったか……)



内心、()めが甘いと反省。



── ズザザァー!と滑って倒れかける、体重の軽いホンワカお姉さん。

だが、その背中を、メガネ青年が紳士的(ジェントル)に受け止めた。



「少しは納得しましたか、『#5』(ナンバーファイブ)?」


「まあ、まあっ!

 【身体強化:剛力型(パワー)】状態の棒術(ワザ)を返されるどころか、吹っ飛ばされちゃいましたぁ~。

 この子、すごいですねぇ~」



いきなり殺しにくるホンワカお姉さん(むっちゃ凶悪!)は、子どものようにキラキラ目を輝かせていた。





▲ ▽ ▲ ▽



いきなりの鉄火場(バトル)に、再びザワザワする室内。



『おい、あのガキ、お姫さま(・・・・)棒術(アレ)しのいだ(・・・・)ぞ?』

『いや、しのぐ(・・・)どころか、反撃まで……』

『空中をクルンって、ネコみたいに回転したぞ?』

『なんで “未強化(なまみ)” で魔剣士と殴り合えるんだよ……、おかしいだろ!』

『本当に人間か、アレ……』

『なんかさっきも、誰か変な事を言ってなかったか?』

あの(・・)骸骨被り(スカルヘルム)” を単身で(・・・)退けた(・・・)……?』

『いやいや、そんなヤツ、絶対いないって!』

『ああ、あの(・・)人食いの怪物(マン・イーター)” だぞ?』

『元・AA(ダブルエース)冒険者のっ』

『<羊頭狗(ガク)>殺しのっ』

『破滅の魔法剣・ “黒剣” 使いのっ』



「………………」



── いきなり冒険者ギルドの室内で、魔法を使って大立ち回り!


そんな、今すぐ逮捕されてもおかしくない大騒動だけに、周囲の視線が痛い。



(俺、悪くねーよな、今の立ち回りについては?

 …………うん、やっぱり、どう考えても自己防衛だしっ

 先に手を出したの、向こうだし!)



心の中で、そんな自己弁論。



「久しぶりですね少年(・・)

 何か、以前とは顔ぶれが違うみたいですが……?」


「いや、お前!

 何事もなかったように、世間話を始めるなよっ!

 いったい何を考えてるんだ、お前の彼女さんは!?」



少しも止める気配もなかったクソ野郎(ヤロー)へ、怒りの苦情(クレーム)



「恋人ではありませんよ、どちらかというと『妹』みたいな者です。

 いや、貴方と彼女(・・)の関係に近いですかね?」


「いや、恋人でも妹弟子でも何でもいいけど、冒険者ギルドの中で暴れさせるなよ!

 俺まで出入り禁止になったら、どうしてくれるっ」


「アハハ、すみませんね~。

 この子、お転婆で、自己中心的で、負けん気が強くて。

 父親が ── ウチの『#1』(ナンバーワン)が誰かに負けたと聞いてから、ずっと鼻息が荒くて……ハァッ」



メガネ青年は、苦労のため息。



「まあ、それは仕方ないな。

 マケン(・・・)()が強くないと、冒険者とかつとまらないし……」



冒険者とか、ほぼマケン(・・・)()なだけに!(ひとり笑(ププッ!)



「それで貴方は、いったい何をしているんです?

 まさか、我々『人食いの怪物(マン・イーター)』に会いに来た訳でもないのでしょう?」


「あ~……、うん。

 なんか、<副都(ここ)>って『爆弾持ち(ボマー)』とかいう、変わった魔物がいるらしいじゃん?

 最近、<帝都>生活が平和すぎて、ちょっと腕が鈍ってきたから、魔物でも斬るかな、って」


「── …………………………ンゥッ……」



メガネ青年、急に天井をながめて、フラッと崩れかける。


思わず手を出しかけたけど、なんとか本人が踏みとどまった。



「お、おい?」


「……り、理解したくないけど、理解しました。

 まさか、ウチの『#1』(ナンバーワン)以外で、そんな無謀を言い出すような人間が……

 ……ああ、なるほど、そう、そういう事か、つまり同類……

 ……なるほど、あの『黒剣(こっけん)』と真っ向から斬り合うような、絶望的無謀に軽々と(いど)むはずです……」



なんか、ブツブツ言ってる。

目つきもアヤシいし、寝不足か何かかコイツ。



「おい?」


「……どうしよう、こんな現実、理解したく、なかった……

 こんな、無謀が服を着て歩いているような人間が、まさか世界に2人と居るなんて……」


「あ、もしかして、未知の魔物退治に来るとか、無謀と思われてる?

 大丈夫ダイジョーブ、俺、この前1匹、アレ斬ったから!

 なんだっけ、デカいワンちゃん ── あっと、たしか<跳岳大狗>(ワイルド・ファング)だったけ……?」


「お願いです……ぅっ

 もうこれ以上、混乱する事をしゃべらないでくださいっ」



何故か、半泣きの声で『黙っとけ』的な事を言われた。



「……()せぬ」





▲ ▽ ▲ ▽



さて、そんな思いがけない再会のお陰で、問題解決。


具体的には、装備の手入れとか雑用に来ていた冒険者PT『人食いの怪物(マン・イーター)』さんが戻る際に、荷車に相乗(あいの)りさせてもらったワケだ。


そんなワケで、パッカッパッカと『拠点:主戦場(ホームターフ)』へ移動中。



『丁度いい、彼ら(・・)、借りていきますね?

 A級冒険者の戦団(パーティ)がケガをして、人手が足りなくなったところなので』



メガネ青年の、そんな一方的な宣言だけで話が通ってしまった。



「あれだけうるさかった冒険者ギルドの職員が、ひと言で黙るなんて。

 え、お前の所って、意外と有名PTなの?

 『兄弟の絆』(ブラザーシップ)とか、バカな連中の下請けやってたクセに?」


「……そもそも貴方が『剣て ──

 ── いや、今は(・・)やめておきましょう」



メガネ青年、何か言いかけて黙る。



「相変わらず、ミステリアス参謀みたいな言動(ムーブ)してくる野郎だな?

 チッ……、モテ男は死ね!」



()ね』じゃなくて『()ね』。

そう呪いの念波を飛ばしていたら、女子生徒(マチルダ)が凄い勢いで手招きしてくる。



「え、何?」


「……コ、恩師(コーチ)って、AA級(ダブルエース)の『人食いの怪物(マン・イーター)』と面識あったんですか……!?」



なんかやたらコソコソ声で、訊いてくる。



「ああ、ちょっと前に殺されかけたな、ハッハッハッ

 ── もう半年前くらい?」


「もう8ヶ月近いですよ……

 あの暗殺依頼の失敗から」



俺が嫌味まじりに答えると、話を盗み聞きしていたメガネ野郎が訂正してくる。



「── あ、暗殺ぅ~~!?

 AA級(ダブルエース)の『人食いの怪物(マン・イーター)』から!?

 な、な、なんで生きてるんですか、恩師(コーチ)ぃ~~!?」


「何で、『生きてたら悪い』みたいな言われ方してるんだ、俺?」


「いやいや! そういう意味じゃないですけど! ないですけど、ねぇ!!」



士官学校の女子生徒、やたらテンションが高い。

まるで推し(アイドル)にドッキリしかけられた、信者(ファン)みたいな情緒不安定さ。



「だって、恩師(コーチ)だって聞いたことありますよねぇ!

 あの『黒剣』ですよ!

 あの<羊頭狗(ガク)>殺しですよぉ!?

 AAA級(トリプルエース)間近って言われてた、あの伝説のぉ!!」


「………………」



前世ニッポンで言えば『名前も知らない海外バンド』の事で盛り上がってるのを、横で聞かされている気分。



(……いや、100%(ヒャクパー)知らんがな。

 そもそも何なんだよ、その『人食いの怪物(マン・イーター)』ってガラの悪いPT(パーティ)(めい)

 まるで、うがい声(デス・ボイス)で歌う海外バンドじゃねーか。

 俺、そんな連中に興味ないがな……)



そんな白けた気分。

それに対して、剣術訓練の女子生徒さんは、大盛り上がり!



「だって、アレですよ!

 たった(・・・)6人(・・)戦団(パーティ)で何体も脅威力5を倒したっていう、あの生きた伝説のぉ ──」


「── すみません、そちらの士官学生服の女性の方」


「は、はいぃ~~!?」



士官学生女子(マチルダ)、急に憧れの人(大スター)に話しかけられ、声がひっくり返っとる。



「あまり、その、そういう話はやめて欲しいのですが。

 その人物の前で『伝説』とか、ウチの戦団(パーティ)の戦績とか話すのは。

 その、恥ずかしいので……」


「え……?」


「ハァ……、まさに『小者(トカゲ)()(くら)べ、竜の鼻息』。

 今となっては、『竜殺の剣士』の逆鱗(げきりん)に触れなかった幸運(・・)に感謝ですね……」


「は、はいぃ……?」



額に手を当てるメガネ青年と、目を白黒させている士官学生女子。


そんな海外バンド(大スター)女子信者(ファン)の交流から、視線を他に向ける。



「あらあら。

 お2人さん、お暇なら少しお話しませんか?

 あちらの小柄な方の、武勇伝なんて聞かせていただければ嬉しいんですけどぉ~」


恩師(コーチ)の武勇伝か……

 そうなると少々、特殊な状況で、なかなか話しづらい ──」


「── バカね、年上後輩!

 こんなヤツに言わなくなっていいわよっ」



士官学生男子(オズワルド)の雑談を、魔導女学生(メグちゃん)が止める。


すると、ホンワカ殺意の美人さんが、ちょっと困り顔。



「あらあら、可愛らしいお嬢さんったら、ひどいわ~。

 もしかして、冒険者ギルドの室内での『腕試し』の事、まだ怒っているのかしらぁ~?」


「なにが『かしら~?』よ!

 なにが『あらあら』よ!

 だいたいアンタ、何かウサンくさいのよ!

 ネコ被ってる女の匂いが、プンプンする!」


「……まあ、ひどいわ~」


「ほら、図星でしょ!

 ウチの従姉(いとこ)とか『本物の天然』だからね!

 アンタみたいな『エセ天然』を見ると、ワタシすぐに解るのよ!!」



なんか、相変わらず赤毛少女(メグちゃん)が、キャンキャン、キャンキャン!初対面の人に()()いてる。



(いや、今からコイツらPT(パーティ)と協力する流れなのに、いちいちモメるなよ……)



引率者(リーダー)の俺、不安いっぱい。


マジでちょっと気が重い件について。




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