155:副都への道は善意で舗装されている
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
そろそろ<帝都>に来て、7ヶ月目。
なんか最近、やたら様変わりした東区の倉庫街入り口で、待ちぼうけの俺。
すっかりオシャレな商業区になった海路横の街並みを眺めていると、10分か15分遅れで待ち人たちがやってきた。
「リアちゃんのお兄さ~んっ」
「遅れましたが、新年おめでとうございます……」
「ハッハッハッ、パメラ硬いよ? どうもぉ、お久しぶりです」
「やあ、みんな、久しぶり」
人見知りが玉にキズな、当流派の超天才児も、最近ようやく士官学校の寮生活に馴染んだらしい。
ちょっと『兄離れ』が出来たのだろう。
おかげで、妹弟子とそのお友達の顔を見るのも、久しぶり。
だいたい3週間ぶりだ。
「── で、ウチの妹弟子は?」
姿が見えないワケではない。
なんか、長身サバサバ少女・クローディアの背中に隠れて、コソコソしてるのが気になっただけ。
「あ~、なんか、ちょっとですねぇ、ハッハッ、ハァ……」
長身少女が、ほっぺたポリポリ掻きながら、困った表情。
「はあ……?」
なんか妹弟子がヤらかしたのかな、と推測。
隠れ方が、つまみ食いして怒られた時のソレだから。
「……リアちゃん、何やってんの?」
「── うにゅっ!」
俺が、試しにクローディアちゃんの背後をのぞき込む。
すると、なんかよく分からない声を上げて、ササッと回って隠れる銀髪少女。
「……ん~?」
「リアちゃん、もう出てきたら? お兄さん、困ってるけど」
「だ、ダメですのっ お兄様と、顔を合わせられませんのっ」
長身なお友達の陰に隠れて、銀髪振り回しイヤイヤしている。
(保護者代わりの兄弟子に、大目玉くらいそうな事でもヤらかしたんだろうか。
いったい、何をしでかしたんだ、ウチのポンコツ妹……?)
あと、微妙にニブいというか。
動きにキレがない事も、ちょっと気になる。
「え、何?
ハチミツ取ろうとして、ハチに刺されでもした?」
「いやいや、お兄さ~んっ」
「それは、さすがに……ナイ、ナイ」
「ハッハッハッ、相変わらず冗談の面白いお兄さんだね~」
「………………」
お友達ズに、苦笑いで否定されてしまう。
(まあ、過去の失敗は言わない方が良いかな……
乙女の名誉的に)
そんな事を思いながら、長身少女の後ろに隠れた妹弟子に呼びかける。
「おぉ~いアゼリア、どうした?」
「── うにゅっ!」
「おい、って」
「── うにゅにゅっ!」
のぞき込もうとすると、ササッ、ササッと逃げられる。
「………………」
どうしたもんかな~、と首を傾げる。
悪いがオッサン、年頃の乙女の微妙な気持ちとか解らんワケで。
(食べ物で釣った方が早いかな……
でも今日、お菓子とか持って来てないし……)
そんな俺の困惑っぷりに、陰キャ少女が助け船。
ヒョイッと足を引っ掛ける。
「アゼリアさんが出てこないと、お兄さん困ってる……」
「アゥ……ワワッ……」
陰キャ少女の足につまづき、バランスを崩した妹弟子が、コロンと出てきた。
▲ ▽ ▲ ▽
コロンというのは、なんか妙に着ぶくれしているからだ。
「どうしたリアちゃん、カゼでもひいた?」
「…………っ」
<帝都>の冬は、東北の果て<翡翠領>に比べれば、随分おだやか。
今日みたいに雪のない日は、防寒着なしでも問題ないくらいの気温。
ブクブクに着込む理由なんて、病気くらいしか思い当たらない。
「顔も赤いし、ちょっとプックリしてる……」
「………………っ」
風邪でむくんでるのかな?
シャープな顔立ちの、モデル系スマート美少女さんが、ちょっと丸顔になっちゃってる。
「お熱は ── って、あ……」
「……ダ、ダメですのっ」
兄弟子、心配でおでこに手を当ててみる。
だが、病人にイヤイヤして逃げられる。
おかげで、熱があるか解らない。
なんかやたら、防寒着の襟で首元を隠すあたり、寒気がしているのだろう。
(……う~ん、ちょっと『正月疲れ』した、みたいな感じかな?
実家の<封剣流>でも、年末年始の行事が多かったみたいだし。
その上、年始の授業再開すぐに、テストがあったらしいからなぁ……)
士官学校の年末に、運動能力の試験として『軍事演習会』がある。
同じように、年始すぐに、勉学の試験として『中間考査』がある。
どちらも進級や、来年の学級分けに響く、大事な試験らしい。
実技は完璧な超天才美少女魔剣士さんも、座学は苦手。
一夜漬けとかでガンバって勉強した分、あとで体調を崩したって事は、充分ありそう。
「う~ん、最近の不摂生がたたった感じ?」
「── ……!?」
俺の予想的中なのか、ガーン!と口をひらく妹弟子。
(……なるほど。
試験明けの気晴らしに、体調的にムリしてついてきた感じか……)
しかし、楽しみにしてた所を可哀想だが、体調不良のまま連れ回すワケにいかない。
お友達にも迷惑かけるし。
ムリさせて病状が悪化しても、目も当てられない。
「リアちゃんがそんな感じなら、仕方ない。
じゃあ、今日のお昼の外食は中止だな。
試験明けの御馳走は、また今度という事で……」
「── ……!!?」
さらに、ガビーン!?と大口をひらく妹弟子。
お風邪を召してしまえば、超天才美少女魔剣士さんも、ただの病人。
ムリを押してやって来たところ、大変かわいそうだが健康第一。
士官学校の女子寮に戻って、お部屋でヌクヌク静養してもらうしかないだろう。
「取りあえず、今日は、だよ?
いつもの元気なリアちゃんに戻ったら、思いっ切り美味しい物とか食べようね?」
「お……お、お兄様の……お兄様のバカーー!!」
なんか、妹弟子が真っ赤な顔で、大絶叫。
「リア、節食しないといけない程ポチャってないですわっ
ちょっ、ちょっとだけ大人の女性らしく、ボディが丸くなっただけですのっ」
このくらいの風邪なんて、全然!
みたいな感じに、手足をバタバタさせる。
しかし、やっぱり体調不良のせいか、ちょっと動きにキレがない。
まるで、急に太って身体が重い、みたいな挙動の鈍さがある。
本人が思っている以上に、体調が悪いみたいだ。
「うんうん、顔がむくんでて、今日はちょっと丸顔だね。
でもまあリアちゃんって、元々がスレンダーすぎなモデルさん体型なんで、そのくらいポッチャリしている方がモテるかもね?
でも今は、体調を元に戻す事を優先しようか?」
よほど『試験明けのお食事会』を楽しみしてたんだろうか。
妹弟子が、ベシベシ手の平で叩いてくる。
「リア、ポッチャリじゃないです!
ポッチャっ子リアちゃんじゃないですわーーー!
ペトさんも、お兄様も、ヒドいですわーー! うえぇぇぇ~~ん!」
そんなよく分からん事を言いながら、ジタバタ地面を踏みしめる。
俺は、体調不良で情緒不安な妹弟子の正面に回り込み、優しく声をかける。
「ど、どうしたの、リアちゃん?
なんか、ツライ事でもあった?
兄弟子、落ちこぼれの能無しで、大した事はできないけど。
それでも、リアちゃんのお悩みを聞いて、慰める事だけはできるよ!?」
すると妹弟子は、野良ネコのようにシャー!と目と口を吊り上げる。
「お兄様のバカー、デリカシー無しのオッパイマニア!」
「え、リアちゃん、なんでそんなに怒ってるの……?
お腹にやさしい『薬草たっぷりのお粥』とか食べながら、ゆっくり相談する?」
「ぅわ~ん、低カロリー減塩食で満腹感がありそうですの!!
さっきから、遠回しに節食の話しかしない、ヘルシー強要魔のお兄様なんて大っ嫌いですわ~~!」
何か、よほどストレスな事でもあったのか。
妹弟子は、ワーン!と泣きながら、ひとり走り去ろうとする。
すぐに走って追いかける俺。
「── いったいどうしたの、リアちゃん!
ツラかったらオッパイでもモむ?
兄弟子のなんで、『雄ッパイ』だけど!」
小走りの中、ガンバって胸筋を寄せてあげてみる!
── 雄 π 降(光) 臨 !!
「リアちゃんなら特別に『どこでもフリー雄ッパイ』! ソフト●ンクだよ!?」
「どーせ、リアは贅肉だらけですわよぉ~~~!!
ガチムチお兄様なんて、『メスガキ喫茶ヲトコノ娘』でお客投票NO1メスガキ男子になってしまえばいいんですわ~~!」
しかし、そんな必死の呼びかけも届かない。
アゼリアのドタバタと体調悪そうな全力疾走でブッちぎられる。
むしろ、走り去る背中に、明確な拒絶の意志!
「り、リアちゃん……っ?」
(なんなら、女子寮に乗り込んで、つきっきりの看病してあげるつもりだったのに!?)
── 兄弟子、大ショック!
▲ ▽ ▲ ▽
結局、その日はリアちゃんが泣きながら帰ったので、お開きになった。
何か事情を知ってそうな、お友達ズも苦笑いするだけ。
誰も、詳しくは教えてくれない。
「ハハハ……。 まあ、年頃の乙女のアレコレがあるので……」
「うんうん、事情は察してネ、お兄さん?」
あ~ね、なるほどっ
『乙女の』ね、そういう事か!
完 全 に 理 解 し た !!
「それ、どこのクソ野郎よ?
何年何組? 男子寮の何号室?」
模造剣をビュン!ビュン!素振り。
兄弟子、鬼になった。
リアちゃんの純情を踏みにじり、傷心にしたゲス野郎の部屋に討ち入り、いざ敢行!!
「── どの馬の骨か知らんがよぉ!!
剣帝流のお姫様を泣かしておいて、無傷ですむと思うなよ!?
兄弟子ケンカ上等なんで、そこんとこ夜露死苦!」
激情のままパラリラ即・出発! 終止符の向こうへ!! ──
── しようとしたら、女子3人に全力で止められた!
「それ、きっと勘違いっ 勘違いと思うのっ」
「止めてくれんなぁ! 陰キャ仲間よぉ! 男一発、咲かせてくれぇ!」
「お兄さん、やめてやめて! いくら素振り用でも死人がでちゃうヨっ」
「ダイジョブだぁ~って!
ちょっと男同士の『肉体言語』するだけだってぇ~!」
「うわぁ~、もう目つきが普通じゃないよ!
本気でストップ! ストップ!」
そんな感じで、10分ほどゴタゴタした。
「と、とりあえず、ハァッ、リアちん、お兄さんの思ってるような事、フゥッ、絶対ないからネ!」
「ハァハァ……、あとでちゃんと、リアちゃんが説明すると思いますので……うわ、汗だく」
「フゥ、ハァ、もう直接、きいて……ウェ、吐きそう……ゲロウジ虫になっちゃう……」
妹弟子のお友達3人は、疲れ切った顔で帰って行った。
▲ ▽ ▲ ▽
「── オラァ! 死・ね・ぇ~~!!」
怒気、炸裂!
俺の渾身の刺突で、『未強化』の男子生徒が吹っ飛んだ。
「カハ……ッ」
ドカカカ……!と続く二十数合の連続打ち合いの中、わずかに気勢が緩んだスキに木剣をねじ込んだワケだ。
「きょ、今日の恩師って、気迫が凄すぎじゃない……?」
「あ、あぁ……、『本当に殺される!』と背筋が凍る瞬間が、何度かあるな……」
ボロボロで転がる、魔剣士学科の男女2人。
「すぐ立たんか、ボケぇ!
魔物は待ってはくれねーんだよ! 殺スぞ!?」
腑抜けた生徒2人に、怒声で渇を入れる。
しかし、さすがにシゴキ過ぎたのか、木剣を杖にして立ち上がる姿すら、ヨロヨロ。
見かねた、メグが魔導の教科書を閉じて、声をかけてくる。
「── いや、アンタ……
さすがに、生徒相手に『死ね』とか『殺すぞ』はないでしょ?」
まったくの正論な、ツッコミ。
言い返す言葉が思い浮かばず、とりあえず舌打ち。
「チッ……」
「いや、『チッ』ってアンタ……」
赤毛少女が呆れ声。
そんなやりとりをしていると、男子魔剣士が立ち上がる。
「……と、止めてくれるな、年下先輩!
恩師は、『魔剣士の修練は、生死を賭ける気迫をもって挑め』!
そう、おっしゃっているのだっ」
「ええ!
ついに、実戦を想定した訓練までっ!
厳しい訓練だけど、恩師のご期待に応えないと!!」
魔剣士学科の女子生徒も、青アザすり傷だらけで闘志を燃やす。
「……うわ~。
ワタシって、武門のこういう空気には馴染めないかも……」
知識層な魔導師の女子学生は、俺の熱血指導(?)に冷めた声。
「もう一本、お願いしますっ」「くたばれぇっ!」ドガン!「ウワーッ」
「わたしだってっ」「おとといきやがれぇっ!」ズドン!「ギャー!」
魔剣士学科の男女学生を、何度も吹っ飛ばしてたら、またもメグが鋭い指摘をしてくる。
「……ってか、単純にロック。
なんだかイライラしているから、八つ当たりされてるだけに見えるんだけど……?」
「── ぅう……っ!?」
手合わせの最中に図星をさされて、ちょっと変な声が出た。
その心の乱れを、女子魔剣士は見逃さない。
「── 隙あり!」
手首のスナップを利かせた、連続刺突!
それにギリギリで、回避と迎撃の跳び蹴りが間に合った。
「10年早えんだよっ」
「……グフッ
こ、今度は、いけたと思ったのに……っ」
尻モチついた女子魔剣士が無念の声。
「………………」
── うわ……、本当に危うく一本取られる所だったな……。
(いかんな……、精神が乱れまくっている以上に、腕前が鈍ってる。
やっぱ、最近、魔物斬ってないからなぁー)
そんな事を考えていると、男子学生の方が木剣を杖代わりに、ブルブルな足でなんとか立ち上がる。
「う、腕前に差があると、分かっていたつもりだったが……
まさか体格が物をいう『未強化での模擬戦』でも、ここまで圧倒されるとは……」
「………………」
(剣術Lv30手前のお坊ちゃんが、何を生意気言ってるんだよ……)
確かに俺って、魔力たりな~い『魔剣士失格』だけど。
しかし一応は、剣術だけならLv60だからな?(得意面)
▲ ▽ ▲ ▽
「── そうだ、<副都>に行こうっ」
「え、急に何? なんで<副都>?」
俺の思いつきの発言に、赤毛少女が目を白黒。
こんなザコ学生に遅れを取りそうになるなんて。
真剣に、鍛え直しが必要だと痛感したワケだ。
「なんか、<副都>の近くで特殊な魔物が繁殖しているとか、なんとか……っ!」
思い出せば、ちょっとワクワクしてくる。
── つい先日の、『爆弾持ち魔物』の一件。
あの『巨大ワンちゃん(全方位自爆攻撃)』って、最近<副都>近くで大量発生している特殊な魔物だったらしい。
で、研究のため連れてこられたらしい。
その特殊な魔物の大量発生のせいで、<副都>周辺の冒険者ギルドはフル稼働状態。
『今が稼ぎ時!』とか。
『人手が足りないから出稼ぎにおいでよ?』とか。
あの時の冒険者PTに誘われていたのを、今ちょうど思い出したワケだ。
「ちょっと剣術修行がてら魔物退治してくるっ」
あと、ストレス発散に!
(── みんな、知ってる!?
マモノって、ブッ殺しても怒られないんだぜ? ニンゲンと違って!
さらに報奨までもらえるんだぜ、超サイコーじゃね!?)
「恩師が行かれるなら!」
「ええ、私たちもお供しますっ」
なんか、即・ノってくる、剣術教室の生徒さん2人。
お呼びじゃないのに。
(いやいや、足手まといになりそうな低レベルな子たちは、ノーサンキュー!)
とか思って断ろうとした瞬間、思い出した。
(そうだった、俺、コイツらの監視係だった……ハァ……。
さすがに<副都>往復の約一週間も放置してたら、仮面仙女に怒られるよな……
……ウワァ~、面倒いっ!)
「えぇ、年上後輩たち2人とも行くのっ?」
「魔物退治で実戦指導してくださるなら、当然でしょう!」
「恩師の一挙一動、目に焼き付けますっ」
「あ~……2人とも行くんだ……。
じゃあ、ワタシもちょっと着いて行って、ひさしぶりに実家に顔見せておこうかな……?」
気がついたら、メグまで参加表明。
「………………」
(なンだよぉ、コレぇ!
お荷物3人とか、ねーだろ!?
これじゃあ<副都>で思いっ切り魔物退治ねーじゃんかぁ!)
そんな不満いっぱいの『副都の魔物退治ツアー(初心者引率)』になってしまった。
トホホ!
!作者注釈!
. . . now 農ing . . .
ただいま農作業中です、しばらくお待ち下さい




